博 士 ( 工 学 ) 八 鍬 学 位 論 文 題 名
石油精製プラント用動力回収夕ービンにおける 高温硫化腐食の防止に関する研究
学位論文内容の要旨
浩
ガ ス エ キ ス パ ン ダ ー タ ー ビ ン は ガ ソ リ ン 製 造 に 使 用 さ れ て い る 流 動 接 触分 解装 置 の触 媒再 生 塔 か ら の 排 ガ ス を 動 力 源 ど し て 電 気 エ ネ ル ギ ― を 回収 す る装 置で ある が、Ni基超 合金(AISI685) 製 の 動 翼 が 破 断 す る 事 故例 が 報告 され た。 この ガ スエ キス パン ダ の運 転温 度は 比較 的 低く (動 翼 植 え 込み 部: 823〜 893K)、 当 時、 その 破断 原 因に つい ては 不明 で あっ たが 、雰 囲気 に 含ま れる 硫 黄 化 合 物(H2S,S02)と 遠 心 カ に よ る 応 カ の 複 合 作 用 に よ っ て 発 生 し た こ と が 推 定 さ れ た 。 本 論 文 は 、AISI 685合金 の 硫化 挙動 に及 ばす 環 境因 子( 応力 , 温度 ,時 間お よび ガ ス環 境) お よ び 合 金 元 素 の 影 響 を 明ら か にし 、そ の成 果を 基 礎に して 耐硫 化 性に 優れ た超 合金 を 新し く開 発 し 、 実 機 の ガ ス エ キ ス パン ダ の動 翼に 応用 した 結 果を まと めた も ので 、全 七章 から 構 成さ れて い る 。
第 一 章 は 緒 論 で あ り 、 ガ ス タ ー ビ ン や ボ イ ラ な ど に 見 ら れ るNi基 超 合 金の 高温 硫 化腐 食と ガ ス エ キ ス パ ン ダ タ ー ビ ンの 高 温硫 化腐 食と の差 異 、お よび 高温 硫 化腐 食の 問題 点を 指 摘し 、本 論 文 の目的と内容について述ぺ た。
第 二 章 で は 、673〜 873Kに お け るAISI 685の 硫 化 挙 動 を 把 握 す る た め 、実 機の 雰 囲気 に含 ま れ る硫黄分圧を基準とし、硫黄分圧を10・71 2〜10‑0. Paに、酸素分圧を10・12.^Pa以下に制御した Nz−H2―H2S/S02−(02)混 合ガ ス 中で 、AISI 685の硫化 挙動に及ぼす温度,時間,応 カおよび雰囲気 の 影 響 に つ い て 調 査 し た。 そ の結 果、AISI 685は 、Ni/Ni3S2の 解 離圧 以下 では 、通 常 の内 部硫 化 を 生 じる のに 対し て 、それ以 上の硫黄分圧では、(Ni,Co)硫化物の外層/(Co,Cr)硫 化物の中間層/Cr 硫 化物の内層/(Cr,Mo,Ti,Al)硫化物の最内層からなる 硫化物スケールを生成するこ とが分かった。
さ ら に 、 応 力 負 荷 条 件 下で は 、特 に、 硫黄 分圧 が 高く 、酸 素分 圧 の低 い環 境で は、 粒 界の 選択 的 な 侵 食が 顕著 にな る こと を明 らか にし た 。そ の粒 界侵 食は 、 ほば 放物 線則にしたが って成長した。
第 三 章 で は 、Cr,Mo,Tiお よ びAl硫 化 物 が 合 金 / ス ケ ー ル 界 面 に 濃 縮 して いる こ とか ら、 硫 化 腐 食 に こ れ ら 元 素 が 大 き な 影 響 を 与 え る と 予 想 し 、AISI 685の 硫 化 挙 動に 及ば す 合金 元素 の 影 響 、 特 に 、TiとAl添 加 の 影 響 に つ い て 詳 細 に 検 討 し た 。 そ の 結 果 、AISI 685の 基 本組 成で あ るNi−20Cr−13. 5Co―4Mo合 金は、873K;硫黄分圧10・515〜10―4PaのH2―H2S混合ガ ス雰囲気下で、
Ti添 加 に よ り 硫 化 量 が 増 加 し 、Al添 加 に よ っ て 硫 化量 が 減少 する こと 、さ ら に、10−7Paで生 成 す る 内 部 硫 化 層 の 厚 さ は 、Al添 加 量 の 多 い 合 金 ほ ど 薄 く な る こ と が 明 ら かと なっ た 。Al添加 合
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金は、合金表面にAl一一richで緻密な硫化物スケールを生成して、10‑s.s Pa以上では金属イオンの 外 方 拡 散 を 抑 制 し 、 10‑7 Paで は 硫 黄 の 内 方 拡 散 を 抑 制 す る と 結 論 づ け た 。 第四章では、前章まで に得られた知見を基に、ガスェキスパンダタービンロータへの適用を 念頭において、耐硫化性Ni基超合金の開発を行った。実用合金では、耐硫化性に加えて強度特 性および加工性が重要となることから、AISI 685の基本組成に対してTiを1.5〜2.Omass%、Al を2.0〜3.0mass%に変 えた6種類の合金を試作鍛造し、それぞれの耐硫化性,高温強度特性お よび熱聞加工性を調査し た。その結果、Al添加量の多い合金ほど硫化が抑制され、Ti添加量が 2%以下でAl添加量が3% 以上の合金では、硫化量およびスケール各層の厚さがAISI 685の約半 分以下となった。しかし、Al添加量の多い2Ti―3A1合金および1.5Ti―3.5A1合金は、同時にv 析出量が多いため、熱問加工性がやや劣る。強度と加工性、耐硫化腐食性から判断して、1. 5Ti― 3. OA1合金が、ガスエキスパンダタービンロータ材として最適であると判断した。硫化腐食量の 時間依存性が放物線則に 従うと仮定すると、本合金は、AISI 685よりも、腐食寿 命が約4倍延 伸されることになる。
前章で開発したガスエ キスパンダタービンロータ用耐硫化性Ni基超合金(以下、開発合金)
を、873K;硫黄分圧10一3.6Pa,588 Paの応力負荷条件下で345.6 ks硫化させたところ、100H m以上の深い粒界侵食を発生してしまった。これは、C量および溶体化温度がそれぞれ高めであ ることに起因することを見いだした。
第五章では、C量と溶体化温度の差異による合金粒 界のミクロ組織に注目し、耐硫化性Ni基 超合金およびAISI 685合 金の耐粒界硫化腐食性について比較検討した。すなわち 、C量のほぼ 等しい開発合金とAISI 685を用い、溶体化材と溶体化後に時効処理を施したもの、および溶体 化温度を1283〜1353Kに変えたものを供試材として、 粒界硫化挙動に及ばす炭化物析出の影響 を調べた。その結果、開発合金およびAISI 685ともに、溶体化材の合金は、時効材と比較して、
粒界侵食を発生しにくいが、時効材は溶体化温度が高いほど粒界侵食が顕著となった。これら粒 界硫化挙動は、合金結晶粒界におけるCr―richなM23C6型炭化物の固溶/析出挙動に依存し、開発 合金は、AISI 685と比較 して、M23C6型炭化物がより高温まで固溶しにくいため、時効時に合金 結晶粒界にM23C6炭化物が連続して析出しにくい。従って、C添加量が同程度であれぱ、炭化物の 優 先 的 な 硫 化 が 起 こ り に く く 、AISI 685より も耐 粒界 硫化 性 が優 れる こと が分 かっ た。
第六章では、開発合金 を実機ガスエキスパンダタービンヘ適用するため、まず、実機サイズ のロータディスクを製作し、その強度特性を検討した。その結果、ガスエキスパンダタービンロ ータとして十分な強度特性を有することが確認できた。そこで、実際に、実機のロータディスク および動翼を製作し、いずれも、ガスエキスパンダタービンとして十分な強度特性を有すること を 確 認 し た 後 、 現 在 、 そ の 性 能 試 験 を 行 っ て お り 、 良 好 な 結 果 が 得 ら れ て い る 。 第7章は、本論文の総括である。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
石油精製プラント用動力回収夕ービンにおける 高温硫化腐食の防止に関する研究
近 年 、 ガ ソ リ ン 製 造 過 程 で 流 動 接触 分 解装 置の 触媒 再生 塔 から 発生 する 排 ガス を動 力源 とし て 電 気 エ ネ ル ギ ー を 回 収 す る ガ ス エ キ ス パ ン ダ ー 装 置 が 稼 働し てい る が、Ni基 超合 金(AISI685)製 の 動 翼 が 硫 化 腐 食 に よ っ て 破 断 す る事 故 例が 報告 され た。 本 論文 は、AISI 685合 金の 硫化 挙動 に 及ば す環 境因 子( 応 力, 温度 ,時 間お よ びガ ス環 境) お よび 合金 元素 の影 響 を明 らかにし、その成 果 を 基 礎 に し て 耐 硫 化 性 に 優 れ た 超合 金 を新 しく 開発 し、 実 機の ガス エキ ス パン ダの 動翼 に応 用 した結果をまとめたもので、 全七章から構成されている 。
第 一 章 は 緒 論 で あ り 、 ガ ス タ ー ビ ン や ボ イ ラ な ど に 見 ら れ るNi基 超 合 金 の 高 温 硫 化腐 食と ガ ス エ キ ス パ ン ダ タ ー ビ ン の 高 温 硫 化腐 食 との 差異 、お よび 高 温硫 化腐 食の 問 題点 を指 摘し 、論 文 の目的と内容について述べた 。
第 二 章 で は 、673‑‑‑873Kに お け るAISI 685の 硫 化 挙 動 を 把 握 す る た め 、 実 機 の 雰 囲気 に含 ま れる硫黄分圧を基準とし、硫黄分圧を10・7・.2〜 10−0.5Paに、酸素分圧を10112.4Pa以下に制御した N2―H2―H2S/S02−(02)混合ガス中で、AISI 685の硫 化挙動に及ばす温度,時間 ,応カおよび雰囲気の 影 響 に つ い て 調 査 し た 。 そ の 結 果 、AISI 685は、Ni/Ni3S2の 解離 圧以 下で は 、通 常の 内部 硫化 を 生じ るの に対 して 、 それ 以上 の硫 黄分 圧 では 、(Ni,Co)硫化 物の 外層/(Co,Cr)硫 化物の中間層/Cr 硫化 物の 内層/(Cr,Mo,Ti,Al)硫化物の最内層から なる硫化物スケールを生成 することが分かった。
さ ら に 、 応 力 負 荷 条 件 下 で は 、 特 に、 硫 黄分 圧が 高く 、酸 素 分圧 の低 い環 境 では 、粒 界の 選択 的 な侵 食が 顕著 にな る こと を明 らか にし た 。そ の粒 界侵 食 は、 ほば 放物 線則 に した がって成長した。
第 三 章 で は 、Cr,Mo,Tiお よ びAl硫 化 物 が 合 金 / ス ケ ー ル 界 面 に 濃 縮 し て い る こ とか ら、 硫 化 腐 食 に こ れ ら 元 素 が 大 き な 影 響 を与 え ると 予想 し、AISI 685の 硫化 挙動 に 及ぼ す合 金元 素の 影 響 、 特 に 、TiとAl添 加 の 影 響 に つ い て 詳 細 に 検 討 し た 。 そ の 結 果 、AISI 685の 基 本 組成 であ る Niー20Crー13. 5Co−4Mo合金 は、873K;硫黄分圧10・515‑10―4PaのH2ーH2S混 合ガス雰囲気下で、Ti
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夫 浩
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副
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添加により硫化量が増加し、Al添加によって硫化量が減少すること、さらに、10一7Paで生成する 内部硫化層の厚さは、Al添加量の多い合金ほど薄くなることが明らかにした。Al添加合金は、合 金表面にAlーrichで緻密な硫化物スケールを生成して、10一515Pa以上では金属イオンの外方拡散 を 抑 制 し 、 10‑7 Paで は 硫 黄 の 内 方 拡 散 を 抑 制 す る と 結 論 づ け て い る 。 第四章では、前章までに得られた知見を基に、ガスェキスパンダタービンロータヘの適用を念 頭において、耐硫化性Ni基超合金の開発を行っている。実用合金では、耐硫化性に加えて強度特 性および加工性が重要となることから、AISI 685の基本組成に対してTiを1.5〜2.0mass%、Al を2.0〜3.0 mass%に変えた6種類の合金を試作鍛造し、それぞれの耐硫化性,高温強度特性お よ び熱問 加工性を 調査した 。その 結果、Al添 加量の多い合金ほど硫化が抑制され、Ti添加量が 2%以下 でAl添加 量が3%以上 の合金で は、硫 化量およびスケール各層の厚さがAISI 685の約半 分以下となった。しかし、Al添加量の多い2Ti―3A1合金および1.5Ti―3.5A1合金は、同時にv 析出量が多いため、熱間加工性がやや劣る。従って、強度と加工性、耐硫化腐食性から判断して、
1. 5Ti−3.OA1合金が、ガスエキスパンダタービンロータ材として最適であると結論している。硫 化腐食量の時間依存性が放物線則に従うと仮定すると、本合金は、AISI 685よりも、腐食寿命が 約4倍延伸されることになる。
第 五章で は、C量と溶体化温度の差異による合金粒界のミクロ組織に注目し、耐硫化性Ni基超 合 金およ びAISI 685合金の耐粒界硫化腐食性について比較検討した。すなわち、C量のほば等し い開発合金とAISI 685を用い、溶体化材と溶体化後に時効処理を施したもの、および溶体化温度 を1283 ‑1353Kに変えたものを供試材として、粒界硫化挙動に及ばす炭化物析出の影響を調べた。
その結果、開発合金およびAISI 685ともに、溶体化材の合金は、時効材と比較して、粒界侵食を 発生しにくいが、時効材は溶体化温度が高いほど粒界侵食が顕著になることを明らかにしている。
こ れら粒 界硫化挙 動は、合金結晶粒界におけるCr‑richなM23C6型炭化物の固溶/析出挙動に依存 し、開発合金は、AISI 685と比較して、M23C6型炭化物がより高温まで固溶しにくいため、時効時 に合金結晶粒界にM23C6炭化物が連続して析出しにくいと結論している。従って、C添加量が同程 度であれぱ、炭化物の優先的な硫化が起こりにくく、AISI 685よりも耐粒界硫化性が優れること が分かった。
第六章では、開発合金を実機ガスエキスパンダタービンヘ適用するため、まず、実機サイズの ロータディスクを製作し、その強度特性を検討した。その結果、ガスェキスパンダタービンロー タとして十分な強度特性を有することが確認できた。そこで、実際に、実機のロータディスクお よび動翼を製作し、いずれも、ガスエキスパンダタービンとして十分な強度特性を有することを 確 認 し た 後 、 現 在 、 そ の 性 能 試 験 を 行 っ て お り 、 良 好 な 結 果 が 得 ら れ て い る 。
これを要するに、著者は耐硫化腐食性に優れたタービン動翼に関する新知見を得たものであり、
材料工学と界面制御工学に対して寄与するところ大なるものがある。よって著者は、北海道大学 博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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