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非利得的要因が選択行動に及ぼす影響の研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士( 行動科 学)鈴 木修司

学 位 論 文 題 名

非利得的要因が選択行動に及ぼす影響の研究 学位論文内容の要旨

  

本論文は学習心理学の主要対象となっている選択行動における非利得的要因の効果を実験的に解 明し ようと 試みた もので あり、4 部構成で全7 章からなっている。学習心理学の枠組みにおける選 択行動研究ではこれまで、強化子は直接的に獲得される利得や損失とされてきた。現実の選択行動 では明確な利益や損失が伴わない状況下でも変化するのは当然であるカs 、従来の選択行動研究の枠 組みではこのような行動変化の説明は困難であった。本論文は、ヒト、チンバンジー、サルを用い て、このような研究方向を確立することを意図したものである。

  

本論 文で取 り上げ られた 非利得 的要因は「選択肢の数」と「認知的負荷」である。前者は選択 が行われる状況を構成する要因であり、後者は選択を行う個体自身に関与する要因である。「選択 肢の数」要因はヒトとサルを対象として行っている。その実験ではヒトを対象として主要な実験を 行っている。そして、そこで得られた現象をより厳密に検証するために、特に言語教示の影響が十 分な統制可能なサルを対象として実験を行っている。一方、「認知的負荷」要因はチンバンジーを 対象とした。実験的な操作に耐えられるほどの認知的負荷を有していることが明らかなのは、ヒト とチンバンジーだけである。そこで、本論文では、実験的操作や経験の統制が比較的容易なチンバ ンジーを対象としている。

  

本論 文の第

I

部では 、これ までの 選択行 動研究 を概観し ている 。第1 章 「選択 行動研究の目的 と意義」では、選択に関する心理学の分野である選択行動研究と意志決定研究を比較し、両者の特 徴を述べている。特に、選択行動研究は選択対象の持つ強化カに対応する行動として選択を探求し ている一方、意志決定研究は選択対象の価値評価と実際の行動としての選択を区別して探求する傾 向にあることを指摘したうえで、選択対象と文脈を独立に操作すれば、行動面からも意志決定研究 のように選択対象の価値評価と実際の選択を別個に検討することが司能になることを提案している。

第2 章 「選択行動と強化子」では、全体的な利得の大きさとは一致しない選択行動を報告した研究

(2)

を 概 観 し て い る 。 特 に 、 強 化 率が 一 定の 場合 に は、 何ら か の変 動陸 、 特に 遅延 時 間の 変動 陸 を持 つ 選 択 対 象 が 非 変 動 性 の 選 択 対 象よ り も選 好さ れ てき たこ と を示 し、 そ の現 象が 時 間低 減説 に 基づ い て 説 明 さ れ て き た こ と を 指 摘 して い る。 次い で 、そ れら の 仮説 を整 理 する こと に よっ て、 こ れま で の 仮 説 が 、 @ 選 択 対 象 の 価 値 に 対 す る 主 観 的 評 価 の 介 在 を 仮 定 し 、 ◎ 刺 激 の 条 件性 強化 カ を重 視 し 、 ◎ 獲 得 可 能 な 利 得 の 最 大 化 を 前 提 と す る が 、 そ の 最 大 化 は 限 定 さ れ た 範 囲 内で 行わ れ るこ と を仮定していることを明らかにしている。

  第II部 で は 「 選 択 肢 の 数 」 の 要 因 を 取 り 上 げ て い る。 特に 、Catania(1975) によ って 提 案さ れ た 自 由 に 対 す る 選 好 が 動 物一 般 にお いて 普 遍的 に存 在 する とい う 仮説 に基 づ ぃて 、「 選 択肢 の 数 」 要 因 の 重 要 陸 を 指 摘 し た 上 で 、 一 連 の 実 験 を 行 って いる 。 第3章 「選 択肢 の 数と 選択 行 動: 先 行 研 究 の 概 観 」 で は 、 複 数 の 選択 肢 が存 在す る 状況 に対 す る選 択行 動 を検 討し た 研究 を概 観 し、 そ の 選 択 行 動 に 関 し て は 、 こ れ まで 一 貫し た仮 説 は提 唱さ れ てこ なか っ たこ とを 指 摘し てい る 。そ こ で、 先 行研 究か ら 報告 され た 選択 行動 が 依存 した と 考え られ る 先行 研究 の 結果 を整 理す るために「選 択肢 の 数」 .「 多 様性 の次 元 」. 「非 共 通部 分の 相 対的 価値 」 という3つの要素に分類整 理している。

こ れ ら の 要 素 に よ っ て 、 先 行 研 究 を あ る 程 度 、 整 合 的に 説明 す るこ とが 可 能と した 。 第4章 「選 択 肢 の 数 と 選 択 行 動 : 実 験 的 検 討 」 で は 、 ヒ ト と サ ル を被 験対 象 とし て、 第3章 で 取り 上げ た 要因 を 操 作 し て 実 際 に 実 験 的 分 析 を 行 っ て い る 。 実 験 は ヒ トを 被験 対 象と して2つ、 カ ニク イザ ル を被 験 対 象 と し て2っ 行 わ れ て い る 。 そ の 結 果 、 利 得 カ 涛 しい に も関 わら ず 、ヒ トと サ ルは 共に 複 数の 選 択 肢 が 存 在す る状 況 を、 ただ1つの 選 択肢 しか 存 在し ない 状 況よ りも 選 好す るこ と を明 らか に した 。 そ こ で 得 られ た知 見 は、 (1) 複数 の 選択 肢が 存 在す る状 況 に対 する 選 好の 程度 は 選択 肢の 数 に比 例 す る こ と 、(2) そ の 選 好 が 生 じ る 原 因 の1っ と し て 、ヒ ト は選 択肢 数 の増 加に 伴 って 、選 択 肢が も たら す 報酬 の生 起 確率 カ耻 曽 大す ると 判 断してしまう 傾向があること、 である。しかし、 その一方で、

そ の 誤 っ た 判 断 を 減 少 さ せ る 操作 を 行っ た場 合 でも 、依 然 とし て選 択 行動 の偏 り が見 られ 、 他の 原 因 の 存 在 が 示 唆 さ れ て い る 。 第5章 「 選 択 肢 の 数 の 影 響 に 関 す る 全 体 的 考 察 」 で は 、 第3章 と 第4 章 を 受 け て 「 選 択 肢 の 数 」 の 影 響 に 関 す る 全 体 的 な 考察 を行 っ てい る。 特 に、 第4章 の実 験 結果 と 先行 研 究の 間の 最 大の 相違 点 であ る、 選 好さ れな い 選択 肢の 影 響に 関し て 詳細 な検 討を 行っている。

  第iii音讎よ第6章「認舛的負荷カ鍵謝覗cD数に及f曇劃影響|として、選択を行う個体自身に関与する要因と L′ て「認知的負荷1の要素を取り上げ、チンバンジーを彼諭対象とした実証研究を報告している。認知的負荷 とは甜1佝コストの1っと考えられ〜現実には漾々な遁尠改ヰ象に関係しているカミ逓抄蔽漣tjも郁こおいて先行研 究甜 ま とん どな し 丶そ こで 、 認m均 負荷 カ 慟 に影 響 を与 える か 、もL景 磐を与えるならば どのような変     ‑2一

(3)

数の 操作カ嘩i効かを検証するために、選択対象である弁zlq!題を操作する実験を行っている。この夷繃椴 得られた重要な知見は、弁s嚼勵sもたらす禾U鼎j:等しんヽにも関わらず、認知的負荷の影響のみによって選択

′f働 淵 匕 し た 点 で あ る 。 そ し て 、 弁 | ぬ ― 嶋 の 差 の 大 き さ と 鋼 嘱 驟 に 支ー る 濺 初 穂 助q夊 し な いことを示した。これらの点lま禾瞭鰍きさに遥尠苛捌よ一弼げると予預r‑る従井彩)鱸曹dま説明できない。

こ 嘲 搦 黼 噸 荷 と い っ 懲 噛 コ ス ト カ拌 う 駘 で は 獅 詞育 撕 嶋 だfナでI掘 糊 で きな し ヽ こ と ;あ ニ ヽ し た と 阿 蹴 こ 丶 lYJコ ス ト カf附 る 場 合 の 選 択 行 動 の 醐 究 方 法 を 確 立 し た と 言 え る 。   第IV部 は 第7章 「 全 体 的 考 察 」 と し て 、 本 論 文 の 全 体的 考 察 を 行 って い る 。 そ の中 で 、 選 択 肢 の 数 や 認知 的 負 荷 の 影響 は 第2章 で整 理 し た 従 来 の仮 説 で は 説 明で き な い こ とを 示 さ れ て いる 。 ま た 、 本論 文 で 行 っ た一 連 の 実 験 から 示 さ れ た 現象 に 基 づ き 、 選択 行 動 に 関 与す る認知 的過程 の特徴 に 関 して 考 察 し て いる 。 さ ら に 、今 後 の 課 題 とし て 、 本 論 文 で残 さ れ た 疑 問点 の解決 と、よ り多く の 非 利得 的 要 因 の 検討 の 必 要 阯 を指 摘 す る と とも に 、 今 後 の 研究 の 方 向 性 とし て、非 利得的 要因と 選 択 行 動 と の 関 係 の 検 討 に は 種 間 の 比 較 研 究 が 有 望 で あ る こ と を 指 摘 し て い る 。

3 ‑

(4)

学位論文審査の要旨 主査    教 授   瀧 川哲 夫 副査    教 授   金 子   勇 副査   助教授   鈴木延夫 副査   助教授   澤口俊之

学 位 論 文 題 名

非利得的要因が選択行動に及ぼす影響の研究

本 論文 は学 習 心理 学の 主要 対 象と なっ てい る選 択 行動 にお いて 、非 利得的要因の効果を実験 的 に解 明し よ うと 試み たも の であ る。 学習 心理 学 の枠 組み にお ける 選択行動研究ではこれま で 強化 子は 直 接的 に獲 得さ れ る利 得や 損失 とさ れ てき た。 現実 の選 択行動では明確な利益や 損 失が 伴わ な い状 況下 でも 変 化す るの は当 然で あ るが 、従 来の 選択 行動研究の枠組みではこ の よう な行 動 変化 の説 明は 困 難で あっ た。 本論 文 は、 ヒト 、チ ンバ ンジー、サルを用いて、

こ のよ うな 研 究方 向を 確立 す るこ とを 意図 した も のと 位置 づけ られ 、著者の独創的な発想に よるもの であり、高く評価できる。

  

本論 文で 取 り上 げら れた 非 利得 的要 因は 「選 択 肢の 数」 と「 認知 的負荷」である。前者は 選 択が 行わ れ る状 況を 構成 す る要 因で あり 、後 者 は選 択を 行う 個体 自身に関与する要因であ る。

  

本 論 文 の 第

I

部 で は 、 こ れま での 選 択行 動研 究を 概観 し てい る。 第1 章で は、 選択 に 関す る 心理 学の 分 野で ある 選択 行 動研 究と 意志 決定 研 究を 比較 し、 第2 章で は、 全 体的 な利 得の 大 きさ とは 一 致し ない 選択 行 動を 報告 した 研究 を 概観 して いる 。さ らに、それらの仮説を整 理 し、 それ ら が利 得の 局所 的 不均 衡に 着目 して 構 築さ れた こと を明 らかにしたことは高く評 価できる 。

  

第II 部で は 「選 択肢 の数 」 の要 因を 取り 上げ て いる 。第

3

章 では 、複 数の 選 択肢 が存 在す

る 状況 に対 す る選 択行 動を 検 討し た研 究を 概観 し 、先 行研 究の 結果 を整理するために「選択

肢の数」 .「多様性の次元」.「非 共通部分の相対的価値」という3 つの要素を取り上げている。

(5)

これらの要素によって、先行研究をある程度、整合的に説明することが可能とした点は新た な貢献をもたらしている。第

4

章では、第

3

章で取り上げた要素を操作して実際に実験的分 析を行っている。その結果、利得が等しいにも関わらず、ヒトとサルは共に複数の選択肢が 存在する状況を、ただ1 つの選択肢しか存在しない状況よりも選好することを明らかにした。

そこで得られた知見は、(1 )複数の選択肢が存在する状況に対する選好の程度は選択肢の数に 比例すること、(

2

)その選好が生じる原因の

1

っとして、ヒトは選択肢数の増加に伴って、選 択肢がもたらす報酬の生起確率が増大するという判断傾向があること、である。この結果は 本 研究の方向を明確にする点で高く評価できる。第

5

章では、第3 章と第

4

章を受けて「選 択肢の数」の影響に関する全体的な考察を行っている。特に、第4 章の実験と先行研究の間 の最大の相違点である、選好されない選択肢の影響に関して検討を行っている。この考察は 学習心理学への著者の貢献をもたらしている。

  

第III 部では「認知的負荷」の要因を取り上げている。認知的負荷とは知的コストの1 っと 考えられ、現実には様々な選択対象に関係しているが、選択行動研究において先行研究はほ とんどない。そこで、認知的負荷が選択行動に影響を与えるか、もし影響を与えるならぱど のような変数の操作が有効かを検証するために、選択対象である弁別課題を操作する実験を 行っている。その結果、チンバンジーの選択行動が認知的負荷に影響を受けることを明らか にし、また、その操作が有効であった

3

つの変数を特定した。ここで重要な知見は、弁別課 題の利得は等しいにも関わらず、認知的負荷の影響のみによって選択行動が変化することを 見いだした点、ならぴに、弁別課題の利得の大きさと弁別課題に対する選好の程度が一致し ない点である。この指摘は新たな知見として高く評価できる。

IV

部では、本論文の全体的考察を行い、選択肢の数や認知的負荷の影響は、第2 章で整理 した従来の仮説では説明できないことを示している。さらに、本論文の一連の実験で明らか になった現象に基づき、その認知的過程の特徴に関して総合的な考察を行っており、今後の

研 究 方 向 を 示 し た 点 を 高 く 評 価 で き る 。

以上の評価により、当審査委員会は本論文の著者鈴木修司氏に博士(行動科学)を授与す

ることが妥当であるとの結諭に達した。

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