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論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨の公表
学位規則第 8 条に基づき、論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨を公表する。
○氏名 石橋 彩(いしばし あや)
○学位の種類 博士(スポーツ健康科学)
○授与番号 甲 第 1249 号
○授与年月日 2018 年 3 月 31 日
○学位授与の要件 本学学位規程第 18 条第 1 項 学位規則第 4 条第 1 項
○学位論文の題名 持久性スポーツ競技者における運動・栄養介入がヘプシジンの分 泌応答に及ぼす影響
○審査委員 (主査)後藤 一成 (立命館大学スポーツ健康科学部教授) 橋本 健志 (立命館大学スポーツ健康科学部教授) 海老 久美子 (立命館大学スポーツ健康科学部教授) 亀井 明子 (国立スポーツ科学センター先任研究員)
<論文の内容の要旨>
本論文は、持久性スポーツ競技者を対象に、一過性の運動やトレーニングの継続が鉄代 謝に及ぼす影響を検討したものである。特に、体内での鉄貯蔵の主要な調節因子とされる
「ヘプシジン」の分泌応答に着目している点が特徴である。論文は 5 つの研究課題から構 成されている。このうち、研究課題 1〜3 では、一過性の運動や長期間の持久性トレーニン グの継続がヘプシジンの分泌応答に及ぼす影響を検討している。次いで、研究課題 4 およ び 5 では、短期間の持久性トレーニング期間中の栄養摂取の相違がヘプシジンの分泌応答 に及ぼす影響を検討している。
研究課題 1 では、女子陸上長距離選手が同年代の一般女子と比較して、安静時の血中ヘ プシジン濃度は高値傾向を、血清鉄濃度およびトランスフェリン飽和度は有意に低値を示 すことが明らかになった。次に研究課題 2 では、女子陸上長距離選手におけるトレーニン グ量の増加に伴い、血中ヘプシジン濃度が有意に上昇することが認められた。研究課題 3 では、女子陸上長距離選手における 1 日 2 回の持久性トレーニングは、血中ヘプシジン濃 度を翌朝まで上昇させることが明らかになった。研究課題 4 では、男子持久性競技者を対 象に、3 日間連続での持久性トレーニングがヘプシジンの分泌応答に及ぼす影響を、鉄サ プリメントの摂取の有無と関連づけて検討した。その結果、持久性トレーニング期間中の 鉄サプリメントの摂取は、血中ヘプシジン濃度を有意に上昇させることが認められた。最 後に研究課題 5 では、男子陸上長距離選手を対象に、異なるエネルギー摂取状態での 3 日
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間連続での持久性トレーニングが筋グリコーゲン量および血中ヘプシジン濃度に及ぼす影 響を検討した。その結果、利用可能エネルギー量の低下した「Low energy availability」
状態での持久性トレーニングは筋グリコーゲン量を低下させ、血中ヘプシジン濃度を有意 に上昇させることが認められた。
研究課題 1〜5 の結果から、持久性スポーツ競技者におけるトレーニング量の増加は安静 時の血中ヘプシジン濃度を上昇させることが明らかになった。また、一過性の持久性トレ ーニングは運動後にヘプシジンの分泌を増大させること、短期間の持久性トレーニング時 における鉄サプリメントの摂取(鉄摂取量の増加)および利用可能エネルギー量の低下し た(相対的なエネルギー摂取量の不足)状態は、安静時の血中ヘプシジン濃度を上昇させ ることが認められた。
したがって本研究の結果は、スポーツ競技者における持久性トレーニングがヘプシジン の分泌増大を介して鉄代謝を抑制すること、トレーニング実施時の栄養摂取状態はヘプシ ジンの分泌応答に影響することを示すものである。また、鉄摂取量の増加やエネルギー摂 取量が不足した状態での持久性トレーニングが、運動誘発性の鉄欠乏の一因である可能性 を示すものと考えられる。
<論文審査の結果の要旨>
本論文は、持久性スポーツ競技者を対象に、運動の実施や栄養摂取状況の変化がヘプシ ジンの分泌応答に及ぼす影響を検討したものである。特に、体内の鉄貯蔵の主要な調節因 子とされるヘプシジンの分泌応答に着目している点が特徴である。
本論文は 5 つの研究課題から構成され、それぞれの研究課題では持久性スポーツ競技者 を対象に、一過性の運動や長期間のトレーニング、栄養摂取状態の違いがヘプシジンの分 泌応答に及ぼす影響を検証している。その中でも、鉄摂取量の増加(研究課題 4)や利用 可能エネルギー量の低下(研究課題 5)の影響を検討した点は、新規性・独自性が高いと 評価できる。また、各研究課題では実験が適切に計画され実施条件がよくコントロールさ れている点、研究結果のスポーツ現場での応用を見据え、持久性スポーツ競技者からデー タを取得している点は本研究の強みであると考えられる。さらに、本研究から得られた知 見は持久性スポーツ競技のトレーニング・コンディショニング場面に還元できることから、
学術的な意義に加えて社会的な意義も高いことは 4 名の審査員に共通した評価であった。
これらに対して、緒言や考察における一部の内容には、その裏付けとなる先行研究が十 分に提示されていなかった点、運動や栄養介入に伴う血中ヘプシジン濃度の上昇を誘発し た生理的機序には依然として不明な点も多いことなどが審査員から指摘された。その一方 で、上述の諸点は本論文の限界や今後検討すべき課題として、各研究課題の考察や総合討 論において丁寧に説明されていた。
本論文を構成する 5 つの研究課題の中で、2 つの研究課題(研究課題 2 および 4)に関し ては、その内容が 2 編の原著論文(筆頭著者)として国際誌(Nutrients)に掲載されてい
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る。また、論文全体を通して主要な先行研究が適切に引用されており、総合討論は研究課 題 1〜5 の結果を踏まえ総合的な観点からまとめられていた。特に、「運動(トレーニング)」
と「栄養」の双方からヘプシジンの分泌増大を抑止する具体的な方法を提案した点は、本 論文の独自性や新規性をよく示すものであった。また、得られた知見はトレーニング科学 領域だけでなく、スポーツ生理学、スポーツ栄養学、スポーツ医学など複数の領域におい て価値が高いと考えられた。
以上により、公聴会での口頭試問結果を踏まえ、本論文は博士学位を授与するに相応しい ものと判断した。
<試験または学力確認の結果の要旨>
本論文の公聴会は 2018 年 1 月 24 日(水)10 時 40 分からインテグレーションコア大会 議室で実施し、続いて 11 時 30 分から同場所で口頭試問を行った。公聴会において学位申 請者は出席者の質問に対して十分な回答と説明を行い、本研究の意図、成果について参加 者の理解は深まったものと評価できる。審査委員 4 名で行った口頭試問においては、予備 審査会における指摘事項に対する修正内容に関する質問があった。また、ヘプシジンの分 泌増大を惹起する機序やその生理的意義(役割)に関する質問があった。さらに、相対的 なエネルギー摂取不足がヘプシジンの分泌増大を引き起こした研究課題 5 に関わり、筋グ リコーゲン量の減少とヘプシジンの分泌増大との因果関係や炭水化物摂取の役割など、研 究結果の解釈に関わる詳細な説明が求められた。その他、持久性スポーツ競技のトレーニ ング・コンディショニング場面への応用・実践の具体的な方策についても意見が求められ た。
審査員からのこれらの質問や意見に対して、学位申請者は明瞭かつ簡潔に回答をした。
また、研究結果の社会への還元や今後の課題についても十分に満足できる説明がなされた。
以上の点から、論文内容および公聴会・口頭試問での質疑応答を通して、学位申請者が 十分な学識を有し、博士学位に相応しい学力を有していることを確認した。また、スポー ツ健康科学分野の研究者や高度専門職業人にふさわしい専門的な研究能力を十分に身につ けており、本分野の次世代のリーダーとなりうる資質も有すると判断できる。
したがって、本学学位規程第 18 条第 1 項に基づいて、博士(スポーツ健康科学 立命館 大学)の学位を授与することが適当であると判断する。