2 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020 はじめに 日本国内での糖尿病患者数は、2016 年(平成 28 年)には1000 万人を超え、年々増加し続けている1)。 一方で、2009 年に dipeptidyl peptidase-4(DPP4) 阻害薬、2010 年に glucagon-like peptide-1(GLP-1) 受 容 体 作 動 薬、2014 年 に sodium/glucose cotransporter 2(SGLT2)阻害薬といった新しい 作用機序による糖尿病治療薬が次々と上市され、糖 尿病療養指導士制度の創設2)、糖尿病透析予防指導 管理料が2012 年から診療報酬として認められるよ うになり3)、医師のみならず、薬剤師、管理栄養士、 看護師、臨床検査技師、理学療法士といった医療の プロたちが、それぞれの専門性を生かし、一人の患 者の医療をあらゆる方面から支えていく「糖尿病 チーム医療」が不可欠となりつつある4)。以前は、 仙台医療センターでは旧・総合診療科が糖尿病治療 を行っていたが、2013 年 4 月に内分泌代謝内科が 旧・総合診療科から発展する形で新設され、2013 年4 月以降、専門医による質の高い糖尿病医療が 提供できるようになった。今回は、旧・総合診療科 から内分泌代謝内科へと診療科の名称変更ととも に、当院の糖尿病治療の質が改善しているかどうか を検討するため、調査を行ったのでここで報告する。 対象と方法 2013 年 1 月 1 日~ 2019 年 3 月 31 日までに内分 泌代謝内科(2013 年 3 月 31 日までは旧・総合診 療科)を受診した糖尿病治療薬の使用歴のある患者 でHbA1c を測定した患者、および糖尿病治療薬の 投与歴がないがHbA1c ≧ 6.5% の患者を「当科の 糖尿病患者」と定義し、対象とした。糖尿病治療の 質の指標として、全糖尿病患者の平均HbA1c、お よび全患者の中でのHbA1c 7% 未満達成割合を主 要評価項目とし、後ろ向きに調査した。 HbA1c は、 各 年 の 1 月 1 日 ~ 3 月 31 日 の HbA1c を 採 用( 同 一 患 者 で 同 期 間 内 に 複 数 回 当院糖尿病治療6年間の進歩
総説
内分泌代謝内科での糖尿病の治療:6年間の進歩
在原善英 国立病院機構仙台医療センター 内分泌代謝内科 抄録 日本国内での糖尿病患者は年々増加し続けている。一方で、近年、国内では新しい作用機序による糖尿病 治療薬が次々と上市され、さらに外来での糖尿病透析予防指導管理料が算定できるようになるなどチーム医 療による診療が推進され、糖尿病治療は著しく進歩している。以前は、仙台医療センターでは総合診療科が 糖尿病治療を行っていたが、2013 年 4 月に内分泌代謝内科が旧・総合診療科から発展する形で新設され治療 を担当している。2 型糖尿病ではほぼ全例でメトホルミンを使用し、新しい治療薬の開始、積極的なインスリ ン治療の導入等により薬物療法の方針を大幅に変更した。さらに2014 年 11 月に糖尿病ケアチームを立ち上 げ、患者の療養指導を充実させた。その結果、2013 年 1-3 月の旧・総合診療科の平均 HbA1c 7.702%(n=964) であったが、2019 年 1-3 月の内分泌代謝内科の平均 HbA1c 6.951%(n=1027)へと大きく改善した。専門医 による質の高い糖尿病医療が提供されるようになった。 キーワード:糖尿病、HbA1c、透析予防指導、糖尿病ケアチーム3 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020 HbA1c を測定している場合は、最新の HbA1c を採 用)し、各年度の平均HbA1c および HbA1c 7% 未 満達成率を調査した。 結果 2013 年 か ら 2019 年 の、HbA1c の 分 布 と 平 均 HbA1cを図1に示す。2013年は平均HbA1c 7.702% で あ っ た が、 毎 年 改 善 を 認 め、2016 年 は 平 均 HbA1c 6.928% まで低下し、その後はほぼ横ばいで 推移し、2019 年は平均 HbA1c 6.951% であった。 糖尿病合併症予防の目標値であるHbA1c 7% 未満 の達成率を見てみると、2013 年は 33.7% であった が、以降順調に改善し、2016 年には 64.2% まで上 昇し、その後ほぼ横ばいで推移しており、2019 年 は60.1% であった。 当院糖尿病治療6年間の進歩
年
年
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
患者数
964
1035
1056
1084
1089
1014
1027
平均
HbA1c(%)
7.702
7.270 6.968
6.928
6.997
6.832
6.951
達成率
(%)
33.7
48.6
60.9
64.2
58.1
65.3
60.1
表
表
1
表1 各年の糖尿病患者数、平均HbA1c(%)、HbA1c 7% 未満達成率の推移。(各年1月1日から3月31日までの最終測定の HbA1c で集計した) n=964人人、、平平均均HbA1c 7.702% n=1056人人、、平平均均HbA1c 6.968% n=1084人人、、平平均均HbA1c 6.928% n=1089人人、、平平均均HbA1c 6.997% n=1014人人、、平平均均HbA1c 6.832% n=1027人人、、平平均均HbA1c 6.951% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2019 2018 2017 2016 2015 2014 2013 <5.9 6.0-6.4 6.5-6.9 7.0-7.4 7.5-7.9 8.0-8.4 8.5-8.9 9.0-9.4 9.5-9.9 >10 n=1035人人、、平平均均HbA1c 7.270%図
図
1
図1 各年の当科でのHbA1c 別患者数の分布。(各年1月1日から3月31日までの最終測定の HbA1c で集計した)4 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020 考察 日 本 糖 尿 病 学 会 は、2013 年 5 月に「熊本宣言 2013」を発表し、糖尿病の合併症予防のための目 標HbA1c を 7% 未満にすること、低血糖などの副 作用、その他の理由で治療強化が困難な際には、 HbA1c 8% 未満を目標とすることが示された5)。当 科で糖尿病治療している患者は、長期間通院継続し ている糖尿病患者ばかりではなく、癌化学療法等に よるステロイド治療にて血糖コントロールが悪化し た例や、健診での高血糖指摘例やかかりつけ医での コントロール悪化例で糖尿病教育入院後に近医への 逆紹介し当科での管理期間が短い症例が全糖尿病患 者のおよそ2-3 割程度を占めている。すなわち、同 一症例のみを長期間フォローアップした結果ではな く、一部患者が入れ替わっているので、この結果が そのまま同一患者の血糖コントロールの改善を意味 するものではない。しかし、入れ替わっている2-3 割程度の患者の内容は例年ほぼ同様であるという点 と、残り7-8 割は当科で長期管理している患者とい う点を合わせて考えると、全体の血糖コントロール の改善は間違いない事実である。糖尿病データマネ ジメント研究会での参加施設の2018 年度の全国の 平均HbA1c は 7.07% であり6)、一見、当科での数 値とあまり変わらないように思える。しかし、当院 は入院施設のある病院であり、さらに仙台市内の基 幹病院でもあり、クリニックでは治療困難例を多数 診療している点、また、担癌患者や、自己管理行動 の難しい精神科通院中の患者も多数含まれており、 種々の理由により治療強化が困難な症例を多数含ん でいることを考慮すると、きわめてよい結果と考え られる。 今回示した、平均HbA1c の改善、HbA1c 7%未 満達成率の増加は、メトホルミンの積極的投与と個 別化医療によるところが大きい。前者に関しては、 2型糖尿病においては、禁忌症例を除きメトホルミ ンを少量から開始し、可能な限り高用量にし、他の 経口血糖降下剤の減量およびインスリン使用量の減 量を行った。日本糖尿病学会では、患者の病態に合 わせた糖尿病治療薬の選択を原則としており、2型 糖尿病治療薬の第1選択薬に関しては明示されてい ないが7)、欧米での糖尿病治療ガイドラインでは、 メトホルミンは、第1 選択薬として明示されてい る薬剤である8,9)。メトホルミンは、1960 年から使 われている薬剤であるが、かつては乳酸アシドーシ スをひきおこす恐れのある薬剤としてほとんど処方 されなかった時期もあるが、1998 年に発表された 大規模臨床試験のUKPDS10)で大血管合併症が有 意に抑制されたことや、発癌抑制を示唆するデー タ11)など、血糖降下作用だけでない多面的な有用 性も判明し、見直された薬剤である。後者に関して は、血糖コントロールが悪い症例に対しては、イン スリン分泌能の評価をおこない、インスリン分泌能 低下がある場合は、積極的にインスリン導入をおこ なった。インスリン分泌能低下がなく、食事摂取調 査で食事摂取推定カロリーが過剰と判断された症例 に関しては、栄養指導とともに、食欲抑制効果を有 するGLP-1 受容体作動薬を積極的に導入した。ま た、多数の症例でスルホニルウレア(SU)剤が使 用されていたが、SU 剤は腎機能低下例では、遷延 性低血糖の恐れが大きく、低血糖は心血管死のリス クにもなり、また長期使用で膵β細胞の疲弊も引き 起こし、インスリン分泌能の低下をきたす恐れがあ るため可能な限り使用しないようにした。どうして も必要な場合にはごく低用量にとどめるようにし た。経口血糖降下薬に持効型インスリン1日1回注 射 を 併 用 す る い わ ゆ るBOT(Basal Supported Oral Therapy)での血糖コントロール不良例も多 く、強化インスリン療法に切り替え、血糖コントロー ル改善に導いていった。 血糖コントロールを良好にするためには、医師の 診療の際の生活指導のみでは限界がある。栄養管理、 薬剤内服管理、運動療法指導、日々の生活習慣の是 正のための療養指導などが必要であることから、糖 尿病ケアチームの立ち上げが急務であった。糖尿病 ケアチームは、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、 理学療法士、臨床検査技師等から成り立つチームで、 各職種の得意な分野を活かし、患者の療養を支援し ている。糖尿病ケアチームの立ち上げと並行して、 糖尿病療養指導士2)の育成にも力を入れ、2014 年 以降20 名以上が糖尿病療養指導士の資格を取得し た。資格取得者は、糖尿病ケアチームにおいて、中 心的な役割を果たしており、患者の糖尿病療養指導 当院糖尿病治療6年間の進歩
5 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020 当院糖尿病治療6年間の進歩 に力を発揮してくれるようになった。その一例とし て、2014 年 12 月から外来での糖尿病透析予防指 導を開始し、現在は月25-45 例程度の管理料加算 を算定している3)。 当院は、合併症のある患者や難易度の高い外科手 術が多数施行されている病院である。また、地域が ん拠点病院でもあり、化学療法施行中の患者も数多 く抱えている施設でもある。加えて、ステロイド使 用の患者、重症感染症患者、妊娠糖尿病症例も多数 抱えており、いずれの症例においても、原疾患の治 療を合併症の併発なく、安全に施行するためには、 良好な血糖コントロールが不可欠である。そういっ た観点から鑑みると、当科の糖尿病治療は、当院の 良質で安全な医療を提供することに大いに貢献して いる。 文献 1. 厚生労働省、平成 28 年国民健康・栄養調査結 果 の 概 要、 https://www.mhlw.go.jp/file/04- Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-G a n t a i s a k u k e n k o u z o u s h i n k a / kekkagaiyou_7.pdf : 2019 年 12 月 18 日 ア ク セス 2. 日本糖尿病療養指導士認定機構、https://www. cdej.gr.jp: 2019 年 12 月 18 日アクセス 3. 厚生労働省、平成 24 年度診療報酬改定の概要、 https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/ iryouhoken15/dl/gaiyou.pdf : 2019 年 12 月 18 日アクセス 4. 日本糖尿病学会編・著、糖尿病治療ガイド 2018-2019、文光堂 2018;37-39 5. 日本糖尿病学会ホームページ、熊本宣言 2013 ―あなたとあなたの大切な人のためにKeep your A1c below 7%―、 http://www.jds.or.jp/ m o d u l e s / i m p o r t a n t / i n d e x . php?page=article&storyid=42 : 2019 年 12 月 18 日アクセス 6. 一般社団法人 糖尿病データマネジメント研 究会、http://jddm.jp: 2019 年 12 月 18 日アク セス 7. 日本糖尿病学会編・著、糖尿病治療ガイド 2018-2019、文光堂 2018;31-36 8 . A m e r i c a n D i a b e t e s A s s o c i a t i o n . Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment : Standards of Medical Care in Daibetes – 2018. Dabetes Care 2018;41:73-85 9. Davies MJ, D’Alessio DA, Fradkin J, et al.
Management of Hyperglycemia in Type 2 Diabetes, 2018. A Consensus Report by the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD). Diabetes Care 2018;41 (12):2669-2701
10. UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. Effect of intensive blood-glucose control with metformin in complications in overweight patients with type 2 diabetes (UKPDS 34). Lancet 1998;352:854-865 11. Libby G, Donnelly LA, Donnan PT, et al. New
Users of metformin are at low risk of incident cancer: a cohort study among people with type 2 diabetes. Diabetes Care 2009;32:1620-1625