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優秀論文賞を受賞して 制御焦点がパフォーマンスに及ぼす影響―学習性無力感パラダイムを用いた実験的検討―

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Academic year: 2021

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(1)The Annual Report of Educational Psychology in Japan 優秀論文賞を受賞して(外山・湯・長峯・黒住・三和・相川) 2020, Vol. 59, 375-378. 優秀論文賞を受賞して 制御焦点がパフォーマンスに及ぼす影響 ――学習性無力感パラダイムを用いた実験的検討―― 『教育心理学研究』第 66 巻 4 号. 外 山 美 樹. 湯 立. 長 峯 聖 人. (筑波大学). (筑波大学). (筑波大学). 黒 住 嶺. 三 和 秀 平. 相 川 充. (筑波大学). (関西外国語大学). (筑波大学). この度は,優秀論文賞という栄誉ある賞を賜り,大. 本研究の概要. 変光栄に存じております。実験にご協力いただきまし たすべての方々に,厚く御礼申し上げます。そして,. 目的. 丁寧かつ的確なご助言をくださいました査読者の先生. Higgins(1997)の制御焦点理論では,人の目標志向性 を 促 進 焦 点 (promotion focus) と 防 止 焦 点 (prevention. 方に感謝申し上げます。. focus) の. 本研究の背景. 2 つに区別しています。促進焦点は希望や理. 想を実現することを目標とし,進歩や獲得の在・不在. 能力は同じであったとしても,パフォーマンスに差. に焦点を当てる目標志向性です。一方,防止焦点は義. が出るのはなぜでしょうか。このリサーチクエスチョ. 務や責任を果たすことを目標とし,安全や損失の在・. ンに対して,教育心理学の分野では,これまで数多く. 不在に焦点を当てる目標志向性です。. の研究が積み重ねられてきました。私たちの研究グ. 制御焦点とパフォーマンスの関連を検討した研究は,. ループでも,この問題に取り組んできました。能力そ. それほど多くありません (Rosenzweig & Miele, 2016)。数. のものを直ちに向上させることは不可能であるにして. 少ない研究では,課題のタイプによって異なった結果. が得られています。一般的な認知能力を要する課題 ができるならば,素晴らしいことだと考えたからです。 (e.g., 計算課題,アナグラム課題)のパフォーマンスは,促 も,ちょっとしたことでパフォーマンスを変えること 本研究では,パフォーマンスの重要な決定要因である. 進焦点と防止焦点で差は見られませんが (e.g., Shah,. と考えられている動機づけに焦点を当てました。具体. Higgins, & Friedman, 1998) ,課題のタイプによっては,促. 的には,制御焦点を取りあげ,制御焦点がパフォーマ. 進焦点あるいは防止焦点のどちらのパフォーマンスが. ンスに及ぼす影響について検討することにしました。. 優位となるのかが異なることが報告されています。 本研究は,課題のタイプによってではなく,どのよ うな文脈において促進焦点あるいは防止焦点のパ. ―  ― 375.

(2) 教 育 心 理 学 年 報 第 59 集. フォーマンスが優位となるのかを特定しようとしまし. 制御焦点の操作を行った後に,第 1 課題 (解決可能な課. た。この立場の研究は,いまだ進展していません。そ. 題 10 問,7 分間),第. こで,促進焦点と防止焦点のどちらかに有利となるよ. 能な課題 10 問,14 分間) ,第. うな課題は用いず,実験参加者にストレスを課す文脈. 分間)を実施しました。各課題を実施する前には,問題. で,促進焦点と防止焦点のパフォーマンスを比較検討. 数と制限時間を教示しました。また,答えがわからな. することにしました。これまで,防止焦点と不安感情. かった場合は問題を飛ばせますが,いったん次の問題. との間には正の関連が見られる一方で,促進焦点と不. に進むと前の問題には戻れないことを説明しました。. 安感情には関連が見られないことが報告されています. 本研究では,質問項目として,パフォーマンスの予. (Idson, Liberman, & Higgins, 2000) 。ネガティブ感情(e.g., 不. 期,感 情 (「混乱-当 惑」,「抑 うつ-落 込 み」,「疲労-無 気 力」,. 安感情)が生じると,課題以外のことに処理資源が奪わ. 2 課題(解決可能な課題 10 問と解決不可 3 課題(解決可能な課題 10 問,7. 「緊張-不安」 , 「活気-活力」 ) ,動機づけ(「課題への興味」,「課. れ,向かうべき課題に集中できなくなるためパフォー. 題従事」) を用いましたが,その手続きならびに結果は. マンスが低下することは数多くの研究で示されていま. ここでは割愛します。詳しくは,本文をご参照くださ. す(e.g., MacLeod & Mathews, 1988)。. い。. そこで,本研究では,学習性無力感パラダイムを導. 主な結果. 入し,実験参加者にストレスフルな失敗経験を与え,. 仮説を検証した結果,第 1 課題においては促進焦点. その後の,制御焦点と課題パフォーマンスの関連を検. 条件と防止焦点条件でパフォーマンスに差は見られま. 討することにしました。学習性無力感パラダイム課題. せんでした。第 2 課題においては有意傾向にとどまり. (荒木, 2012)は,解決可能な問題のみから成る第. 1 課題. ましたが,防止焦点条件のほうが促進焦点条件よりも. と第 3 課題,解決可能な問題と解決不可能な問題とが. パフォーマンスが高い傾向にありました。そして,第. 混在している第 2 課題から構成されます。解決不可能. 3 課題においては,促進焦点条件のほうが防止焦点条. な第 2 課題に取り組ませることで実験参加者に失敗を. 件よりもパフォーマンスが高いという結果になりまし. 経験させ,学習性無力感を生じさせる課題です。解決. た。よって,仮説が支持されました。促進焦点条件は,. 不可能な第 2 課題を経験した後の第 3 課題において,. 第 1 課題ならびに第 3 課題が第 2 課題よりもパフォー. 防止焦点条件のほうが促進焦点条件よりも課題パ. マンスが高く,防止焦点条件では,第 1 課題が第 2 課. フォーマンスが低いという仮説を立て,その仮説を検. 題ならびに第 3 課題よりもパフォーマンスが高いとい. 証することにしました。. う結果が得られました。以上の結果を Figure 1 に示し. 方法. ます。. 実験参加者 大学生 60 名(男子 27 名,女子 33 名)が実. 8. 験に参加しました。実験のデータに不備のあった者な パフォーマンス(正答数). らびに実験の目的に疑いをもった者の計 3 名を分析か ら除外した結果,分析対象者は 57 名 (男子 25 名,女子 32 名,平均年齢=19.39 歳(SD=1.08))となりました。. 実験計画 本実験は,制御焦点(促進焦点,防止焦点) を実験参加者間要因,課題試行 (Time 0, Time 1, Time 2, Time 3) または課題 (第 1 課題,第 2 課題,第 3 課題) を実. 験参加者内要因とする 2 要因混合計画でした。 制御焦点の操作 促進焦点条件 (n=28) では,実験. 促進焦点 防止焦点. 7 6 5 4 3. 参加者の課題の成績が,これまでに収集したデータの. 2. 上位 30%以内だったら報酬を渡すと教示し,防止焦点 条件(n=29)では,下位 70%以内だったら渡した報酬. 第 1 課題. 第 2 課題. 第 3 課題. Figure 1 制御焦点とパフォーマンスの関連. を没収すると教示しました。. 注) エラーバーは標準誤差を示す。. 実験課題と実験手続き 実験は 1 人ずつ実験室で行 い,実験課題は 1 問ずつ PC 上で提示しました。実験. 第 2 課題においては,解決不可能な課題と解決可能. 課題は,佐藤(2003)の計算課題を用い,手続きは荒木. な課題が混在していますので,解決不可能な課題にど. (2012) の学習性無力感パラダイムを参考にしました。. れくらい従事していたのかを検討しました。まず,実. ―  ― 376.

(3) 優秀論文賞を受賞して(外山・湯・長峯・黒住・三和・相川). 験参加者ごとに第 2 課題における解決不可能な問題に. いう限界が挙げられます。制御焦点には,特性として. 従事した時間の割合を算出しました。次に,促進焦点. 捉える場合と,状況要因として捉える場合があります. 条件と防止焦点条件において,解決不可能な問題に従. (e.g., Förster, Higgins, & Bianco, 2003) 。先行研究では,特性. 事した時間の割合に差が見られるのかどうかを検討し. と状況の両者において同様の結果が得られることに. た結果,促進焦点条件のほうが防止焦点条件よりも,. よって結果の頑健性を示すことが多いため,今後は,. 解決不可能な問題に従事した時間の割合が高いことが. 特性的な制御焦点を扱った場合に,本研究の結果と同. 示されました。. 様の知見が得られるかどうかを検討することで,本研. 本研究の結果より,文脈によって促進焦点と防止焦. 究で得られた結果の一般化を検証していく必要があり. 点のどちらのパフォーマンスが優位となるのかが異な. ます。また,制御焦点とパフォーマンスのメカニズム. ることが示されました。促進焦点は,挫折や失敗から. について検討していくことも望まれます。. 回復する“レジリエンス”が優れていました。また,. さらに,制御焦点に関する研究は,その対象のほと. 示唆の段階にとどまりますが,防止焦点は,解決不可. んどがアメリカの大学生です (Hodis & Hodis, 2017)。制. 能な問題が混入している文脈での課題のパフォーマン. 御焦点理論が社会心理学の分野で発展した学問である. スが優れていました。本研究の結果は,計算課題と. こともあって,発達的観点による検討はまだ進んでい. いった基本的な認知能力を測定する課題のタイプにお. ません。たとえば,特性としての制御焦点は,発達的. いては,促進焦点と防止焦点でパフォーマンスに差は. にいつ頃から発現するのか,そして,それはどのよう. 見られないものの,文脈によってどちらの制御焦点の. に発達するのかといった問題があります。Higgins &. パフォーマンスが優位となるのかが異なることを示し. Silberman(1998)は,社会化の過程で獲得された特性と. た点において,意義深いと考えられます。. しての制御焦点は,長期的には変化のない根強いパー. 教育的な意義. ソナリティ特性として捉えられることを指摘していま. 本研究では,促進焦点条件では上位 30%以内に入る. すが,そのことを実証したデータは見当たりません。. こと,防止焦点条件は下位 70%以内に入るのを避ける. 今後は,特性としての制御焦点の発達についての検討. ことを目標とするフレーミングを行いましたが,両者. が必要になってきます。. の教示内容は意味的には等価です。目指す活動の結果. 引用文献. は同じであっても, “促進焦点”なのか“防止焦点”な のかといった焦点の当て方を変えることによって,目. . 学習性無力感パラダイムを用いた 荒木友希子(2012). 標遂行過程において異なる特徴を有するという制御焦. 防衛的悲観主義に関する実験的検討 健康心理学研 究, 25, 104-113. doi:10.11560/jahp.25.1_104. 点理論の知見は非常に興味深く,様々な場面にて応用 可能であると考えられます。特に,本研究で扱った状. Förster, J., Higgins, E. T., & Bianco, A. T.(2003) .. 況による制御焦点は,教育的な介入に結びつきやすい. Speed/accuracy decisions in task performance: Built-. ものです。たとえば,本研究で明らかになったように,. in trade-off or separate strategic concerns? Organi-. 失敗や挫折といったストレス状況下に置かれる可能性. zational Behavior and Human Decision Processes, 90, 148-164. doi:10.1016/S0749-5978(02)00509-5. がある場合には,あらかじめ促進焦点の状況を活性化 させておくことによって,ストレスからの影響を受け. Higgins, E. T. (1997) . Beyond pleasure and pain. . にくくさせることができるかもしれません。課題遂行. American Psychologist, 52, 1280-1300. doi:10.1037// 0003-066X.52.12.1280. に必要な能力そのものを直ちに向上させたり,個人の 特性を変容させたりすることはなかなか困難なことで. Higgins, E. T., & Silberman, I.(1998) . Development of. すが,状況要因としての制御焦点は操作がしやすいも. regulatory focus: Promotion and prevention as ways. のです。このように,状況による促進焦点と防止焦点. of living. In J. Heckhausen & C. S. Dweck(Eds.),. は,文脈や目標に応じて使い分けることができること. Motivation and self-regulation across the life span(pp.. が大きな利点であり,教育的な意義が大きいものと考. . New York: Cambridge University Press. 78-113). えられます。. doi:10.1017/CBO9780511527869.005 Hodis, F. A., & Hodis, G. M.(2017) . Assessing motiva-. 今後の課題と展望. tion of secondar y school students: An analysis of. 本研究では状況による制御焦点しか扱っていないと ―  ― 377. promotion and prevention orientations as measured.

(4) 教 育 心 理 学 年 報 第 59 集. by the regulator y focus questionnaire. Journal of. an opportunity or an obligation to score well? The. Psychoeducational Assessment, 35, 670-682. doi:10.. influence of regulator y focus on academic test. 1177/0734282916658385. performance. Learning and Individual Differences,. Idson, L. C., Liberman, N., & Higgins, E. T.(2000).. 45, 114-127. doi:10.1016/j.lindif.2015.12.005. Distinguishing gains from nonlosses and losses from. . 集団での学習性無力感実験における 佐藤 雄(2003). nongains: A regulatory focus perspective on hedonic. 統制不可能性の検討 日本健康心理学会第 16 回大会 発表論文集,156-157.. intensity. Journal of Experimental Social Psychology,. Shah, J. Y., Higgins, E. T., & Friedman, R.(1998) . Per-. 36, 252-274. doi:10.1006/jesp.1999.1402 MacLeod, C., & Mathews, A.(1988). Anxiety and the. formance incentives and means: How regulator y. allocation of attention to threat. Quarterly Journal of. focus influences goal attainment. Journal of Person-. Experimental Psychology: Human Experimental Psy-. ality and Social Psychology, 74, 285-293. doi:10.1037/. chology, 38, 659-670. doi:10.1080/14640748808402292. 0022-3514.74.2.285. Rosenzweig, E. Q., & Miele, D. B.(2016). Do you have. ―  ― 378.

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