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消心身医 Vol. 23 No. 1 2016
原 著
(第83回「消化器心身医学研究会学術集会」一般演題 2より)食道上皮細胞内の IL-33 は逆流性食道炎の増悪に関与する
Epithelial-derived IL-33 aggravates inflammation in reflux esophagitis
大島 忠之
1),三輪 洋人
2)要 旨
IL-33 は血管内皮や上皮細胞に発現する新規サイトカインの一つで細胞外からは炎症性
サイトカインとして働くが,核に局在する場合には炎症の制御に関わっているとされてきた。
IL-33 の逆流性食道炎などの食道における役割は全く明らかとなっておらず,今回,健常者と逆
流性食道炎患者における
IL-33 の発現局在とその役割を検討した。食道生検組織における IL-33
mRNA レベルは逆流性食道炎で高く,IL-8 や IL-6 の mRNA レベルと有意に相関した。in vitro で
は,ヒト正常食道上皮細胞を用いて独自に開発した三次元培養モデルで検討すると,
IFNが IL-33
の発現を増加させた。
IL-33 は,食道上皮基底層の核内で増加し,上皮層からは放出されなかっ
た。
IL-33 siRNA でその発現を抑制すると,IFNによる IL-8 や IL-6 の放出増加が抑制された。逆
流性食道炎で
IL-33 の発現は核内で増加することが明らかとなり,核内 IL-33 の発現が,炎症性
サイトカイン産生を介して食道炎の増悪に関与していることが示唆され,核内
IL-33 の発現制御
による炎症制御が新たな治療法の一つになると考えられた。
Key words:
IL-33, reflux esophagitis, IL-8
IL-33,逆流性食道炎,IL-8
はじめに
上腹部症状の発現メカニズムは単純ではなく,末梢の知
覚過敏および運動異常や中枢における知覚感受プロセス
の異常が複雑に関与していると考えられている。胃食道逆
流症の病態においても近年,酸による直接傷害だけでなく
サイトカイン産生を介した微細炎症が症状発生に関わっ
ているとの考えが出てきた
1) 2)。
この微細炎症が食道運動,
線維化,および癌化に関わっていると考えられている
3)。
食道上皮は酸や胆汁酸などの刺激により
IL-8 や IL-6 など
の炎症性サイトカインを産生し,これらサイトカインが炎
症を惹起すると考えられている
4)~6)。これらデータから食
道上皮細胞が外界からのバリア機能を担うだけでなく,逆
流性食道炎の病態に積極的に関わっていると考えられる。
IL-33 は新規のサイトカインとして血管内皮および上皮
に発現し
7),典型的な細胞外から作用を示すサイトカイン
としての役割と,核内因子としての役割を担い,自然免疫
および獲得免疫に関わっている
8)~11)。IL-33 の C 末端は
IL-33 の受容体である ST2 に結合し,NF-B の活性化を介
して,
IL-6とIL-8の産生を促進する
8) 9)。
さらに核内のIL-33
は
NF-B に直接結合し,遺伝子発現の制御に関わってい
る
11)。
IL-33 は消化管にも発現がみられ,潰瘍性大腸炎な
どでその発現が増加している
12) 13)。ただし,
IL-33 の消化
管細胞内での機能は,明らかでなく,食道上皮での検討は
全くなされておらず,
IL-33 が逆流性食道炎の病態に関わ
っているかどうか,他のサイトカインとの関連など,全く
明らかでない。そこで
IL-33 の食道での発現を生検組織を
用いて検討するとともに,
in vitro で我々が開発した三次
元培養
14)を用いてIL-33 の食道上皮での機能を検討するこ
ととした。
方法
健常者と逆流性食道炎患者の食道生検組織を用いて,
IL-33,IL-6,IL-8 の mRNA レベルを real time RT-PCR で解
1)Tadayuki Oshima 兵庫医科大学 内科学 消化管科 2)Hiroto Miwa 兵庫医科大学 内科学 消化管科
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消心身医 Vol. 23 No. 1 2016
析した。
in vitro では,ヒト正常食道上皮細胞(HEECs)
を用いて,三次元食道上皮培養層モデルを構築し,種々の
サイトカイン(
IFN, TNF, IL-1)および胆汁酸(デオキ
シコール酸,DCA)の刺激後に IL-33 発現を real time
RT-PCR,western blotting,免疫蛍光染色にて検討した。IL-33
siRNA を用いて IL-33 発現を制御した後に IFNによる食
道上皮からの
IL-8 放出を ELISA で検討した。
結果
IL-33 mRNA レベルは逆流性食道炎患者の下部食道で
より高く(
図1),
IL-8 や IL-6 の mRNA 発現レベルと有意
な相関がみられた(
図2)
。また逆流性食道炎で
IL-8 と IL-6
mRNA レベルは有意に高かった。
in vitro の検討では,IFN
が IL-33 の mRNA,蛋白発現
を増加させたが,TNFα,IL-1β は変化させなかった。
IFNと胆汁酸(デオキシコール酸,DCA)の同時刺激
では
IL-33 mRNA レベルルはより高くなった(
図3)
。ま
たこの
IL-33 の発現は IL-8 や IL-6 の増加より早期にみら
れた。
この
IL-33 の発現増加は,食道上皮基底層の核内でみら
れ,食道上皮層からの放出は確認されなかった。
IL-33 の
細胞内における機能を確認するために
IL-33 siRNAでその
発現を抑制すると,
IFNによる IL-8 や IL-6 の食道上皮か
らの放出増加が抑制された。すなわち
IL-33 が核内で IL-8
や
IL-6 の産生あるいは放出に促進的に働いていると考え
られた。
考察
これまで食道上皮は,外界から生体を守るためのバリ
ア機能を担っていると考えられてきた
15)~18)。しかし,近
年の研究で上皮そのものが
IL-8 や IL-1などのサイトカ
インを産生し,炎症惹起に関わっていることが明らかとな
ってきた
1) 2)。今回の検討では,上皮由来の
IL-33 が核内
で発現し,炎症性サイトカイン産生の上流で重要な機能を
担い,上皮内の
IL-33 は,逆流性食道炎の炎症悪化に関与
していることが明らかとなった。
IL-33 は IL-1 サイトカインファミリーに属し,恒常的に
上皮細胞および血管内皮細胞に発現している。さらに種々
の感染性あるいは炎症性疾患の障害の感知にかかわる因
子といわれている
19)。
今回の検討では,
IL-33 が食道上皮細胞の核内に発現し,
逆流性食道炎で上昇していることが初めて明らかになっ
た。さらに
IL-33 の発現増加が,扁平上皮層の基底側にみ
られ,基底層が逆流性食道炎の炎症の増悪にかかわってい
ると考えられた。さらに逆流性食道炎の生検組織における
IL-6 と IL-8 の発現は増加しており,IL-33 の発現と強い相
関がみられた。
食道上皮における
IL-33 の発現にかかわる因子とその
機能を検討するために,
in vitro で三次元食道上皮細胞層
を用いて検討した
4) 5) 14) 20)。ここで重要なことは,細胞の
起源は同じでも単層上皮と扁平上皮層では遺伝子発現パ
ターンが全く異なることである
20) 21)。この独自の三次元培
図1 食道上皮における IL-33 mRNA 発現 *P < 0.05, **P < 0.01. 図2 IL-8 と Il-33 の相関 図3 食道上皮における IL-33 mRNA 発現 **P < 0.01 vs. Control, ##P < 0.01 vs. IFN8 消心身医 Vol. 23 No. 1 2016
養法は,扁平上皮層内腔側からの酸や胆汁酸の刺激および
基底側からの炎症性メディエーターの評価に大変有用な
手法であり,より生体に近い環境での検討が可能である。
本検討では,酸や胆汁酸の内腔側からの刺激では,IL-33
産生に影響を与えなかったが,基底側からの
IFNのみが
IL-33 を増加させた。IFN,TNF,IL-1は逆流性食道炎
で上昇し
22) 23),
これらサイトカインは,
種々の細胞で
IL-33
を増加させることが報告されているが,上皮に対しては
IFNの作用が最も強く
8) 24),
TNF と IL-1 は線維芽細胞
への作用が強い
25)。これまで逆流性食道炎で
IFNの発現
は増加しており,内視鏡的,組織的な逆流性食道炎の程度
と関連があると報告されている
22) 26)。したがって
IFNは
IL-33 の発現増加に関与していると考えられる。さらに胆
汁酸のみでは
IL-33 の発現増加はみられないが,IFNと胆
汁酸の同時刺激でよりIL-33の発現増加がみられることか
ら,胆汁酸を含む胃食道逆流もまた
IL-33 の発現増加に関
わっていると考えられた。IFNと胆汁酸の作用は IL-8 と
IL-6 の産生にも影響を与えた。
逆流性食道炎患者では,食道粘膜で
IL-8 と IL-6 が増加
し
27) 28),粘膜内
IL-8 は逆流性食道炎の重症度と相関がみ
られ
28),再燃にも関わっている
29)一方,IL-6 は,急性か
ら慢性炎症への転換に関わっている
30)。他の
IL-1 ファミ
リーと同様に
IL-33は二つの機能を有するサイトカインで
ある。細胞外に放出された
IL-33 は細胞膜受容体である
ST2 に結合し,NF-B や MAPK の活性化および IL-8 や
IL-6 の炎症性サイトカインの産生に関与している
9) 31)。
我々のモデルでは,IL-33 の細胞外放出はみられず,細胞
外
IL-33 刺激は IL-8 や IL-6 を誘導せず,ST2 の阻害は IFN
による
IL-8 や IL-6 の産生に影響を与えなかった。これら
のデータから食道上皮からの
IL-8 や IL-6 の産生には
IL-33/ST2 経路は関与していていないことが明らかとなっ
た。
さらにこれまで核内に移行する
IL-33 および IL-37 がサ
イトカイン産生を制御し炎症制御に関わることが報告さ
れているが
8) 10) 11) 32),今回の検討では,初めて核内の
IL-33
が催炎症性に働くことが明らかとなった。IL-33 のノック
ダウンによって
IFNと胆汁酸(デオキシコール酸)によ
る食道上皮細胞からの
IL-8 と IL-6 の産生は有意に抑制さ
れ,
IFNによる IL-33 の産生は IFNによる IL-8 と IL-6 の
産生に先行して発生することが明らかとなった。これらの
結果から免疫細胞由来の
IFNが食道上皮細胞の IL-33 を
誘導し,
IL-33 が誘導された食道上皮からはさらなる刺激
により
IL-8 や IL-6 などの炎症性サイトカインの産生がよ
り誘導されると考えられた。これらのことから上皮由来
IL-33 は逆流性食道炎の慢性炎症の増強に重要な役割を担
っていると考えられた。
おわりに
逆流性食道炎において
IL-33 の発現が食道上皮層細胞
内で増加することが明らかとなり,核内
IL-33 の発現が,
炎症性サイトカイン産生を介して胃食道逆流症の増悪に
関与していることが示唆され,核内
IL-33 の発現制御によ
る炎症制御が新たな治療の一つになり得ると考えられた。
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