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幼児期の自由遊び中にみられる基本的な動きに関わる事例と考察-領域「健康」にかかわる教育学知見に照らし合わせて-

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1 研究の背景と目的 子どもの体力について,低下傾向には歯止めがかかっ ているものの,体力水準が高かった昭和 60 年頃と比較 すると,依然として低い状況がみられる(文部科学省, 2018)。この背景として,運動実施状況の二極化が指摘 されており(豊島,2006;平川・高野,2008)さらに, 運動や活動的な遊びに対して積極的に取り組む子どもと そうでない子ども,つまり動きの経験が豊かな子どもと そうでない子ども,結果的に体力・運動能力の高い子ど もと低い子どもの分水嶺は幼児期にあるかもしれない (春日,2018)といわれている。幼児の運動能力低下の 現状に対して,保育者の健康・体力づくりに対する意識 は高く,運動指導の実施を行っている幼稚園が増えてき ている(吉田ほか,2007)。それらは,外部講師に依頼 して,器械運動やサッカーといった特定のスポーツ活動 の取組であり,ある限られた運動経験にとどまることが 課題である。また,体力向上をねらいとした幼児期にお ける運動遊びについての取組(梶川,2015)について の報告も散見される。それらの取組は,幼児期における 体力・運動能力テストの量的向上だけでなく,質的な発 達に大きく寄与することが明らかになってきている。 一方で,保育の一環として運動を多く取り入れている よりも,まったく行っていない園の運動能力が高かった という報告(吉田ほか,2007)がなされており,子ど も自身の興味や関心に基づいた自発的な遊びでの運動経 験が大事との考え方( 金ほか,2011)もある。これは, 幼児期には運動指導というよりも,自発的な活動として の遊びの時間を十分に確保することが求められていると 考えられる。そのためには,自然に体を動かしたくなり, 遊びの世界に夢中になれる環境設定も重要である。加え て,一人では興味や関心をもたなかった対象に対しても, 他の幼児に接することや教師の援助などによって,自ら もやってみようとしたりする人との関わりも重要である と考えられる。 幼稚園教育要領解説(2018)(以下,教育要領解説と 示す)には領域「健康」の「内容」において「(2)い ろいろな遊びの中で十分に体を動かす。(3)進んで戸 外で遊ぶ。」ことが示されており「多様な動きを経験す る中で,体の動きを調整すること」が「内容の取扱い」 に新たに示された。特に幼少年期は運動発達が顕著にみ られる時期であり,人間の生涯にわたる運動全般の基本 となる動きが急激に,また多彩に習得されるといわれて いる(Meinel, 1981)。同様に,幼児期運動指針でも, 幼児が多様な運動経験ができるような機会を保障してい く必要性を述べている(文部科学省,2012)。そこでは 幼児期において獲得しておきたい基本的な動きには,立 つ,座る,寝転ぶ,起きる,回る,転がる,渡る,ぶら 下がるなどの「体のバランスをとる動き」,歩く,走る, はねる,跳ぶ,登る,下りる,這う,よける,すべるな どの「体を移動する動き」,持つ,運ぶ,投げる,捕る, 転がす,蹴る,積む,こぐ,掘る,押す,引くなどの「用 具などを操作する動き」が挙げられている。通常これら は,体を動かす遊びや生活経験などを通して多様な動き として獲得していくと考えられる。そのため,幼児が自 発的に様々な遊びを経験し,夢中になって遊んでいるう ちに基本的な動きを総合的に経験し,その結果,多様な 動きを獲得すると考えられる。 幼児の基本的な動きの獲得に関わる研究として,自由 遊び中の基本動作を分類し幼児の体力・運動能力テスト を実施して基本動作出現との関連を検討する研究が報告 されている(白金,2017)。そこでは定量的な評価はな されているが,遊びの質について現行の教育要領解説・ 健康「領域」の視点からの考察はなされていない。また, 永田・玉江(2020)は,領域「健康」に関わる保育実 践事例から身体諸機能の調和的な発達を促すための支援 について事例より考察しているが,幼児期運動指針に示 されている基本的な動きの視点からは述べられていな い。そこで本研究では,調査対象とする幼稚園の幼児の 自由遊びの姿に着目した。自由遊びの事例をもとに領域 「健康」の視点からの考察と,その事例の中にどのよう な「基本的な動き」が出現しているかを明らかにする。 また,それらの諸動作が出現するための幼児の遊びの支

−領域「健康」にかかわる教育学知見に照らし合わせて−

A Case Study on Basic Movements During Free in Early Childhood

: A Review of Educational Content and Knowledge Pertaining to the Health Domain

山田 淳子

Junko YAMADA

滋賀大学教育学部

髙井  謙

Ken TAKAI

滋賀大学教育学部附属幼稚園 < キーワード> 幼児期 自由遊び 領域「健康」 基本的な動き

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援についての資料を得ることを目的とした。 2 方法 2.1 調査対象および調査機関 調査対象は,国立大学の附属幼稚園に通う年長児(5 歳児)48 名,年中児(4 歳児)48 名,年少児(3 歳児) 31 名であった 。 年長児と年中児は,ともに 2 クラスで ある。 倫理的配慮として,事前に附属幼稚園の園長および副 園長,教諭に研究の趣旨説明を行った。その後,保護者 に文書を通じて趣旨説明を行い,同意が得られた幼児の みを対象とした。また,本研究は滋賀大学研究倫理委員 会の承認を得ている(承認番号:A200305)。 2.2 研究期間と事例収集の方法 上記の園において,自由遊びをする保育場面での幼児 の行動を観察,記録した。幼稚園の観察期間は 2020 年 6 月中旬から下旬と 7 月中旬に著者が幼稚園に行き,合 計 6 回の観察を行った。観察時間はおおむね 9:00 ~ 10:30 であった。 本研究では,それらの観察記録を事例として取り上げ 考察した。 2.3 「基本的な動き」の種類 表 1 は「基本的な動き(46 種類)と分類」(吉田, 2015)の一覧である。これは,人間の基本的な動きを, 操作系・移動系・バランス系に整理・分類されている。 本研究では,吉田(2015)の整理・分類している基本 的な動き(46 種類)を参考に,幼児の動きを観察する ことにした。なお,以下事例の中に明記されている番号 は表 1 に表されている 46 の動作である。また,46 の 動作に分類することができない動作がみられた時には, 表 1 基本的な動き(46 種類)と分類  ͛͞ʤϔϧϱα͵ʹʥ  ิ͚ ৺఺΁ʀ৺Ζً͘৏͗Ζʀً͘Ζ  ͛͞ʤ৒Ε෼Νಊ͖ͤʥ  ͺ͑  ఺͗Ζʤ༵ΗΖʥ  ͗͢Ί͚ͯ  ৒Ζʀ௕;৒Ζ  յΖ  ͖ͯ͛ʀ࣍ͯʀ࣍ͬ৏͝Ζ߳Θͤ  ౌΖʀΓͣౌΖ  ోΖ  ࢩ͓Ζ  ߳ΕΖ  ΁ΔԾ͗Ζ  ӣ΁ʀಊ͖ͤ  ௕΁  ࢯΉΖ  ԣͤ  Ήͪ͛  ཱིͬ৏͗Ζ࠴Ζʀ͢Ύ͗΋  ͕΁͕͑΁͠Ζ  ׊Ζ  ཱིͯʤฤଏ͵ʹʥ  ౦͝Ζ  ಁ΋ʀಁΊͯ͜Ζ  ٱཱིͬΝͤΖ  ण͜ΖʀำΖ ௕͸ΖʀηΫρϕʀάϡϫρϕʀϙρϕ  ଩ͯʀ͚ͪͪʤϚʖϩ͵ʹʥ  ૺΖ  ৾ΖʤೆΏ๰͵ʹʥ  ͖ΚͤʀΓ͜Ζ  յͤ  ͚͛Ζ  ੷΋ʀࡎͦΖ  ೘Εࠒ΋ʤ࿰ΏസͶʥ  ఺͗ͤ  ΍͛Ζ  ۹Ζ  ͚ͯʤϚʖϩ͵ʹʥ  िΖ  Ӏ͚ʀӀͮ௃Ζ  ͖ͯ΋  ͚͖ͤ͑͜Ζ  ͢ͻΖʀ΋ͤ΁ ૤ࡠܧ Ңಊܧ ώϧϱηܧ その他の動作として分類(文中では※印で明記)した。 事例から幼児の動きを観察する際には,筆者と共同研 究者とがビデオ映像をもとに幼児の動きを観察しながら 合意により判定した。 3 結果および考察 3.1 【事例 1】「ブロックやミニカーで遊ぶ」(3 歳児) 6 月 19 日 室内で,色とりどりのブロックを積み上げ⑭ていって いる 3 人の幼児たち。積み上げる数が増えるにつれブ ロックがくずれそうになってくるのを交代で支え合い⑤ ながらブロックを積み上げ⑭ていた。背伸びをしても積 み上げられなくなった時に「あっ,わたしより高い」と 背比べをしていた。隣の部屋では,ミニカーで遊んでい る数人の幼児たち。マットに描かれた道や木の板の上で ミニカーを走らせていた。片手にミニカーを持ち,もう 一方の掌は床において四つんばいの状態になり体を移 動※ 1したり,かかとをあげてしゃがんだ状態で体を移 動※ 2したりしていた。 事例 1 は,3 歳児の自由遊びの時間に室内でブロック やミニカーで遊んでいる場面である。6 月に幼稚園での 生活がスタートしたばかり注 1)であるため,まだ集団で の生活を経験することによる緊張や不安が高いと考えら れる。友達といっしょにブロックを一つずつ積み上げて いく遊びに夢中になり,気づいたら自分達の身長より高 くなってしまっていたことに驚いていた。また,ミニカー での遊びでは,幼児一人ひとりがお気に入りのミニカー を手に持ち自分が運転手になった気分でミニカーを走ら せていた。前から友達のミニカーが走ってくると止まっ たり,よけたりしてぶつからないように意識しながら遊 んでいる様子が見受けられた。ここでは,「⑤支える」,「⑭ 積む・載せる」という基本的な動きがみられた。また,

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「※ 1:体を腕で支持する」および「※ 2:かかとをあ げて移動」 する動きがみられた。これはミニカーを持っ ていない方の腕で体重を支持し,反対側の手は,ミニカー を走らせるために微妙な力加減をしている。これは教育 要領解説・領域「健康」の「内容の取り扱い」に示され ている「多様な動きを経験する中で,体の動きを調整す るようにすること」に対応すると考えられる。この遊び で注目するべき点は,ブロックを友達と協力して支えた り,友達のミニカーとぶつかったりしないための方法を 自分なりに考え行動しているところである。友達と触れ 合い,安定感をもった雰囲気の中で「人間関係」を学ん でいることがうかがえた。 3.2 【事例 2】「虫捕り」(4 歳児)6 月 29 日 虫かごと虫捕り網を両手に園庭を走り回る㉝幼児た ち。チョウをみつけた一人の幼児の声に,みんなが連なっ て走り出して㉝いる。園庭の草が生えているところを走 り回り㉝,築山を登り,そして下り㉝,一匹のチョウを 追いかける㉝。「つかまえるぞ」,「こりゃはやいわ」と言っ てあきらめるが,「あっ!」の声にまた追いかける㉝。 その追いかけている最中に,虫捕り網を何度も振り下ろ す⑫という動作をしている。途中で転んだ幼児が一人い たが自ら起き上がって㊳,再びチョウを追いかける㉝。 別の場所では,バッタを捕まえていた。そろっと歩き㉓, バッタが止まっている隙をめがけて手を出す。また少し 膝を曲げた状態でバッタの動きを見ながら歩き㉓,止ま る㊸。そして見つけたらしゃがんで㊹捕まえる。失敗し たらまた追いかける㉝という動きをくりかえしていた。 事例 2 は,4 歳児の自由遊びの時間に園庭で虫捕りを して遊んでいる場面である。雨が降り続いていた中での 久しぶりの晴天の日であった。登園後,身支度を終えた 幼児から,虫かごと虫捕り網を持って園庭へ走り出した。 友達と誘い合ったわけでもなくたまたま集まってきた数 人の幼児たちが,一匹のチョウをねらって群れのように 走り回っている。まさに教育要領解説・領域「健康」に 示されている「幼児なりに伸び伸びと自分のやりたいこ とに向かって取り組む」という瞬間であると考えられる。 これは幼稚園生活の中で解放感を感じつつ,能動的に環 境(自然)と関わっている場面である。また,バッタを 追いかける場面では,はやく歩いたり,ゆっくりと歩い たり,腰を低くしながら歩いたりする「歩く」という基 本的な動きに変化を加えた「多様な動き」がみられた。 ここでは,「⑫振る(縄や棒など)」,「 歩く」,「 走 る」,「 寝転ぶ・寝る・起き上がる・起きる」,「 止ま る」,「 立ち上がる・しゃがむ」という基本的な動きが みられた。 3.3 【事例 3】「固定遊具を使って」(4 歳児・5 歳児) 6 月 29 日 雲梯で何人かの幼児が遊んでいた。その幼児は両腕を 交互に動かし体をうまく移動⑳㊶㊷させていた。それを見 ていた 2 人(5 歳児A児,B児)の所へ担任がやって くる。A児もB児も片腕を動かそうとすると落ちてしま う。それを見ていた担任が「こんなことできるかな」と 体を揺らして手で移動する動き⑳㊶㊷を見せた。「おしり ふりふりふり」と言って両腕で雲梯を握りながら体を移 動させていった。この動きをみていたA児は,担任と同 じ動きをやってみる。教師は「そうそうそう,いい感じ」, 「ふりふりふり」の言葉をかける。A 児は,うまく移動 することができた。次にB児が挑戦する。B 児もうまく できた。そして再びA児が担任と一緒にやってみる。そ のとき一瞬であるが右腕で体を保持し,もう一方の左腕 を前の方に動かす⑳㊶㊷姿がみられた。 ジャングラミングで遊ぶ⑳㉖㉗㉘㉟㊶㊷4 歳児(写真 1)。 登り棒をしたりジャングラミングの周りを一周したりす るなどの姿がみられた。また,ジャングラミングの一番 高いところまで登ったり㉖,滑り台を逆向けに登った り㉖した後に「やった!」「いぇーい!」という声が聞 こえた。さらに「これ,こうもり」「これ,おさるさん だよ」「だんごむし」と言いながらジャングラミングに ぶら下がっていた。 ブランコで遊ぶ①5 歳児(C児)。手足や身体を伸縮 させてより高くブランコをこぎたいと一生懸命である。 D児は,C 児の様子をブランコのそばで見ながら順番待 ちをしている。C児は「はいどうぞ」と D 児に声をか けぴょんとブランコから飛び降りる。D 児はすぐにブ ランコに乗りブランコをこぎはじめた。 事例 3 は,4 歳児と 5 歳児が自由遊びの時間に園庭に ある固定遊具で遊んでいる様子である。固定遊具は,多 くの子どもが集まるので,順番やマナー,コミュニケー ションを学ぶ場として有効であり社会性の発達が期待で きる(宮口,2012)。5 歳児の雲梯の場面では,友達の 姿にあこがれを持ちやろうとするがうまくいかないと 困っている場面に,担任が関わり支援をしている。教育 要領解説・領域「健康」の「内容の取扱い」に示されて いる「しなやかな心と体に困難な状態において,その幼 児なりにやってみようとする気持ちをもつこと」を支援 した担任の「こんなことできるかな」の一言である。ま た「ふりふりふり」という言葉を使って動き方のコツを 幼児に伝えている。できるようになったときのA児の笑 顔から,充実感や満足感を味わっていることがうかがえ 写真 1 ジャングラミングで遊ぶ幼児たち

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る。 ジャングラミングでの遊びは,幼児は自分のやりたい 動きを自由に取り組むことができる。幼児の「やった!」, 「いぇーい!」という声は,目標をもってできたときの 充実感や満足感の表れだと考えられる。また,高さにつ いては,ある時期までに経験しておかないと,全身的な 遊びが消極的になる(宮口,2012)といわれている。 幼児が,自分の能力に応じて高さを選び,跳び下りたり 登ったりしている様子から,この遊具での遊びを通して 高さに慣れることができてきていると考えられる。 ブランコでの遊びは,安定感のないブランコに座り, 身体のバランスをとる必要と手足の伸縮により高くこぐ ことができる。どこまで高くこげるかというスリルを味 わうことができるところに魅力がある。ブランコの数が 限られているためC児は次の人のことを考えて交代し, D児は順番待ちをするといった姿も大事にしていきた い。 ここでは,「1 こぐ(ブランコなど)」「20 つかむ」,「26 登る・よじ登る」,「27 降りる」,「28 跳ぶ」,「35 くぐる」, 「41 渡る」,「42 ぶら下がる」という基本的な動きがみ られた。 3.4 【事例 4】「ぞうきんできれいに」(4 歳児・5 歳児) 6 月 30 日 雨が降っていたので,テラスにブルーシートを敷きそ の上で泥団子づくりをしていた幼児(5 歳児)。遊びの 終了の時間が近づいてきたので,汚れたブルーシートを きれいにすることになった。まず,雑巾を水道水で濡ら し,しぼって※ 3からブルーシートのところへ戻ってく る。そしてブルーシート上では,四つんばいの姿勢※ 3 になり足の親指に力を入れながら雑巾がけをする幼児や かえる跳びのような動き㊻で雑巾がけをする幼児の姿が みられた(写真 2)。そして,再び汚れた雑巾を洗いに 水道まで小走り㉝に行き,雑巾を洗って小走りに戻って くるという動作を繰り返す姿がみられた。 また別の場所では,幼児(4 歳児)が色水遊びをして いた。その片づけの際に,水でぬれた机の上を雑巾で拭 くという姿がみられた。水を拭きとってたらいの中で雑 巾をしぼる※ 4。そしてまた拭くという動作をくりかえ していた。 事例 4 は,4 歳児と 5 歳児が自由遊びの時間の終末の 写真 2 ブルーシートの雑巾がけをする幼児たち 写真 3 大きなスコップの柄をにぎりスコップを 回転させている幼児 片付けの場面である。教育要領解説・領域「健康」が示 す事項「(8)幼稚園における生活の仕方を知り,自分 たちで生活の場を整えながら見通しをもって行動する。」 がこの事例にあてまる。特に片付けは十分に遊んだ後の 満足感が次の活動への期待を生み出し,片付けの必要性 が幼児に無理なく受け止められ,遊びのつながりのなか で楽しく行われている様子がうかがえる。 ここでは「33 走る」,「46 逆立ち」の基本的な動きが みられた。またその他として「※ 3 体を腕で支持する」, 「※ 4 しぼる」基本動作がみられた。なお,かえる跳び のような動きは,逆立ちにつながる下位の動きとして捉 えたため「46 逆立ち」の動きとして示した。 3.5 【事例 5】「ただいま化石発掘中」(5 歳児) 7 月 13 日 小雨の降る中,カッパを着た 2 人(E児,F児)の 幼児が砂場で,大きなスコップを持って穴を掘って⑯い た。「化石をほっているの(E児)」と言いながら,スコッ プの柄の部分を持ってスコップを回している⑬。スコッ プを両手で握り回転させたり,片手で回転させたりして いた(写真 3)。繰り返しているうちに穴が深くなると ともに,周りの砂が削られて穴の底にたまってくる。そ の砂をすくい㉑,穴の外に出すといった一連の流れをく りかえしていた。「ロボットみたい(E児)」と言いなが ら 2 人でいっしょに回りだし㊵,バランスを崩して時々 穴 に 落 ち た り し て い た。「40 m,50 m( E 児 )」, 「150 m(F児)」,「ウォーツ!(E児)」,「よいっしょっ! (E児)」などの言葉を発しながら掘り続けていた。しば らくすると,自分達が掘った穴に水を入れていた。小型 のバケツを持って,砂場近くに置いてあるたらいの場所 に小走り㉝に行き,水をくんで戻り穴に入れるという往 復の動作をくり返していた(E児:6 往復,F児:7 往 復)。たらいの水が減ってきてバケツに水が入れにくく なると片手でたらいの縁を持ち上げて④たらいを傾けバ ケツに水をくむということをしていた(写真 4)。 事例 5 は,5 歳児の 2 人が砂場で遊んでいた場面であ る。小雨の中,カッパを着た幼児 2 人は,大きなスコッ プを持ってそれぞれに穴を掘っていた。はじめは,砂を すくって穴の外に出すという方法で穴を掘っていたが, 大きなスコップの柄を持って回すと,穴の外側の砂と底 の砂が削れていくことを発見した。この動きは,スコッ

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写真 5 ラダーの上を歩く幼児たち 写真 4 たらいを傾け,中に入っている水を バケツに入れている幼児 プの柄を上から押さえながら回すという幼児にとっては とても力のいる動きである。また「ウォーツ!(E児)」, 「よいっしょっ!(E児)」という幼児の発している声か らも必死になっている様子がうかがえる。また,水をく みにたらいとの往復を繰り返す幼児の姿から,その活動 に興味や関心をもち,自ら心を弾ませて取り組んでいる 姿であると考えられる。このような遊びの中で,モノの 使い方を知り,さらにはそのモノをうまく操作するため の基本の動きを身に付けることができると考えられる。 その後,砂場から教室にもどってきたE児は,濡れたカッ パを脱ぎ,汚れた手を洗い,水筒の中のお茶を飲んでか ら次の活動を行う準備をしていた。教育要領解説・領域 「健康」の「内容」に示されている「(7)自分の健康に 関心を持ち,病気の予防など必要な活動を進んで行う。」 に対応するものである。 ここでは「4 かつぐ・持つ・持ち上げる - 降ろす」,「13 回す」,「16 掘る」,「21 すくう・かける」,「33 走る」,「40 回る」という基本的な動きがみられた。 3.6 【事例 6】「かいぞくごっこ」(5 歳児)7 月 13 日 絵本「わんぱくだんのたからじま」を読んでいた幼児 に担任が「海賊って?」と質問をした。「帽子がいる」「が いこつマークだ」と口々に幼児たちは言った。そして 「じゃ,作ろうよ」という担任の声かけにより,食品ト レイを使って骨のマークや剣などを作りはじた。G児は, 登降園時にかぶる麦わらの通園帽子をかぶり,縄を腰に 巻き付けた㉒。担任からの「縄,ちゃんと結んで」の声 で縄を結び直す㉒。同じ遊びをしている幼児たち同士で 海賊になりきり戦いを始める。G児は,友達を追いかけ たり㉝倒れるポーズ㊳㊴をしたり,床を這って㉔敵をから みつからないようにしたりするなどの動きをしていた。 再び起き上がって㊳また追いかけたり追いかけられた り㉝していた。 事例 6 は,5 歳児が「かいぞくごっこ」をして遊んで いる場面である。教師からの「海賊って?」の問いかけ より,幼児は海賊への興味・関心を喚起し幼児たちは物 語の主人公になりきって遊んでいる様子がうかがえる。 教育要領解説・領域「健康」の「内容」に示されている 「幼児が取り組んでみたいと思えるような意欲を喚起す る環境を構成したり,取り組んで楽しかったという充実 感や満足感が味わえるようにしたりすることが大切であ る」に対応するものである。また,「海賊になりきって 遊ぶ」ことが,幼児から多様な動きが出現したと考えら れる。 ここでは,「22 しばる・むすぶ」,「24 はう」,「33 走 る」,「38 寝転ぶ・寝る・起き上がる・起きる」,「39 転 がる(揺れる)」という基本的な動きがみられた。 3.7【事例 7】 「○○の島,つくろう」(5 歳児) 7 月 14 日 梅雨の真只中,今日もまた雨である。昨日からの遊び の続きで「今日も一本橋の島をつくろう(H児)」とい う声に,担任が「いいね,楽しみ」と返答した。それを 聞いていたH児がテラスに一本橋に見立てたラダーをな らべはじめると,「なに?」「やってみたい」と他の子ど もたちが集まって来た。しかし,横雨がひどくテラスが 濡れて危ないため,担任がホールに場所を移すことを提 案する。H児とI児はラダーを運び⑥,ホールにラダー を再び並べた。すると,ホールにやってきた幼児たちが ラダーの上を歩き㉓だすが,すぐに落ちてしまう。しか し,落ちたところからまたラダーに乗って歩く㉓ことを くりかえす(写真 5)。しばらくして新たにホールにやっ てきた幼児が「今日は跳び島だ!」と言って,ラダーと ラダーの間にゴム製のミニフープを置きだした。巧技台 (ふた)とラダーを交互に置いたり,ミニフープが並べ られたりした場ができあがる。ホールの入り口から繋が るミニフープに興味を持ち,ミニフープの中を跳び㉘な がらホールに集まってきた幼児たちも遊びの仲間に加わ る。ミニフープでは片足ジャンプ㉘㊺をし,ラダーの上 を歩き㉓,巧技台(ふた)で休憩するといった一連の動 きをくりかえし行っていた。 事例 7 は,5 歳児の前日の海賊ごっこ(事例 6)の続 きの遊びである。H児とI児は,一本橋の島を自分達で つくっていく楽しさとそこで自分達が遊ぶ楽しさ,さら に友達がその島で遊んで楽しんでくれることが嬉しい様 子がうかがえる。前日の遊びの片付けを促すときに担任 が「大嵐が来るぞ。急いで船に戻らないと。」という声 をかけている。教育要領解説・領域「健康」の「内容(8) 幼稚園における生活の仕方を知り,自分たちで生活の場

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を整えながら見通しをもって行動する。」ことが示され ているとともに,「幼稚園生活全体が幼児にとって,楽 しく脈略のあるものでなければならい。」と明記されて いる。つまり前述の担任の声かけは「この遊びは今日で 終わりではないよ」「まだ続くよ」という幼児が引き続 き取り組んでみたいと思えるような意欲を喚起する意図 的な声かけであり,幼児に無理なく受け止められている と考えられる。一本橋に見立てたラダーの上を歩く場面 では,まっすぐ歩いたり,横向けに歩いたりする姿がみ られた。これらの動きは「歩く」という基本動作である が,落ちないように歩くために工夫することで動きに変 化をつけていることがうかがえる。 ここでは,「6 運ぶ・動かす」,「23 歩く」,「28 跳ぶ」, 「45 立つ(片足など)」という基本的な動きがみられた。 3.8【事例 8】「ぼくらのつくったコース」(5 歳児) 7 月 16 日 園庭で 5 人の幼児たちが後述のような会話をしなが ら巧技台を使っての平均台を組み立てようとしている (写真 6)。巧技台(ふた)と巧技台(ふた)との間にビー ム(平均台になる棒上のもの)をはめることができない ので,「もうちょっとはなさなあかんわ」,「ちょっと持っ てくれる」という会話から 3 人でビーム持ち上げる④。 そして,ビームの長さに合うように別の 2 人が巧技台(ふ た)を押して動かす⑥⑦。「もうつくぞ」「もうちょっと, もうちょっと」という声にそばでみていた幼児が加わり 巧技台(ふた)を押す⑥⑦。「ついてる」,「もうちょっとこっ ちに動かそう」,「よっしゃできたぞ」,「やった,やった, やったー」という声とともにできあがった。そこで幼児 たちは一列に並んで平均台の上を歩きだした(写真 7)。 しかし 1 名の幼児が「まだコースができていないよ(J 児)」と言いながらミニフープを並べにいった。しばら くして「よし,いってくださーい(J児)」と大きな声 でみんなに呼びかける。このコースで遊んでいたK児は, 平均台㉓㉕㉗→ミニフープでジャンプ㉜→ラダーを使った 二本橋㉓→ラダーを使った一本橋㉓→フープでジャンプ㉜ →平均台㉓㉕㉗→鉄棒(支持の状態で横に移動)→一本橋 の順に進んでいった。ゴールのミニフープに入った瞬間 「やったー 3 回目」と嬉しそうな笑顔をみせた。そして, スキップ㉜をしながらまたスタート地点へ戻っていっ た。 事例 8 は 5 歳児が園庭で巧技台等,様々な用具をな らべてコースを作り遊んでいる場面である。コースづく りの巧技台(ふた)にビームを取り付ける場面では,一 人ではつくることができず,友達との協力が必要となる。 仲間と力を合わせてできた時の「よっしゃできたぞ」, 「やった,やった,やったー」の声とともにジャンプし て喜ぶ姿から充実感や満足感がうかがえた。さらにJ児 は,自分なりのコースのイメージがあり平均台が完成し てからもコースづくりをし,自分が満足いくコースがで きると友達に「よし,いってくださーい」と声をかけて いる。教育要領解説・領域「健康」の内容「(4)様々 な活動に親しみ,楽しんで取り組む」なかの「試したり, 工夫したりしながら作って遊ぶこと」に対応する。また K児の「やったー 3 回目」という声とスキップして再 びスタート地点に戻る姿は,「幼児の気に入った活動に 出会い生き生きと繰り返し取り組もうとする姿」である。 ここでは,「4 かつぐ・持つ・持ち上げる - 降ろす」,「6 運ぶ・動かす」,「7 押す」,「23 歩く」,「25 乗る・跳び 乗る」,「27 降りる」,「32 跳ねる・スキップ・ギャロッ プ・ホップ」という基本的な動きがみられた。 この遊びで注目すべき点として,平均台が出来上がっ た時に巧技台(ふた)にしっかりとビームがはまってい るかを左右確認しにいっている幼児がいた。教育要領解 説・領域「健康」における「(10)危険な場所,危険な 遊び方,災害時などの行動の仕方がわかり,安全に気を つけて行動する。」に対応する姿であると考えられる。 4 結論 前述の 8 つの事例を通して,自由遊びの中で基本的 な動きが 30 種類出現していることが確認できた。しか し,投げる,受ける,捕るなどボール等の用具を介して の動きは,自由遊びの中には出現しなかった。事例数が 少ない中での分析であることや時期的なことも影響はあ ると考えられるが,この理由を担任に質問すると,「自 由遊びの中で幼児がボールを必要としなかったからだ」 と回答された。このことから,自由遊びの時間には,幼 児のやりたい遊びを尊重しながらも,教師は小出しに用 具を整え「基本的な動き」が身に付けられるようにして いくことも必要であると考えられる。また,自由遊びの 写真 6 平均台を組み立てている幼児たち 写真 7 平均台を歩き出す幼児たち

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中では,遊びに偏りがある幼児もいることが考えられる。 そこで,遊びたくなる雰囲気づくりをしたり,幼児の興 味や能力にあわせて選択できる活動の場を準備したりし て,戸外での運動遊びの面白さに気づかせていけるよう な働きかけを教師が幼児にすることも必要である。 さらに,基本的な動きのほかに,基本的な動きに「変 化」を加えた多様さ(吉田,2015)が出現しているこ とが明らかになった。例えば「歩く」でもゆっくり歩く, はやく歩く,後ろ向きに歩く,横向きに歩く,静かに歩 くなどである。加えて,遊びだけでなく生活の中でも幼 児が多様な動きを経験する場がある。例えば,靴の脱ぎ 履きを立ったままバランスをとりながら行ったり,何か の荷物を運んだりすることも基本的な動きに含まれる。 つまり,遊びだけでなく,生活の中での動きに教師が意 識することで,幼児の経験を広げ基本的な動きの経験が できることになると考えられる。 また,幼児の動きを観察する中で遊びの分類は発達段 階により異なるが,友達の動きを見てまねたり,同じ遊 びをしたり,遊びを発展させたりするなど,教師から教 えられたことではなく,友達の行っていることに興味を 持ち遊びだす姿がみられた。そこでは,自分のやりたい ことだけに取り組むだけでなく,友達の心を読み取り相 手に譲ったり新しい動きを生み出したりすることにつな がっていった。よって,幼稚園生活の中で幼児は体を動 かし様々な動きを身に付けるとともに,教師は幼児から 自発的に生まれない新たな動きを支援していく声かけや 環境を準備していくことが必要であると考えられる。そ して幼児は,教師や友達と過ごす楽しさや喜びを味わう ことをとおして,心と体の調和をとりながら健康な生活 が営われていくと考えられる。 注 1)2020 年度は,新型コロナウィルス感染症の感染 拡大防止策として 4 月 9 日から 5 月 31 日までが臨時 休園となった。その後 6 月 1 日から 6 月 14 日までは 隔日登園となり,6 月 15 日より全員登園が始まった。 よって園児の遊び等も制限される部分もあった。 付記 本研究は,滋賀大学教育学部学部プロジェクト研究の 助成を得て行われた。 文献 春日晃章(2018)体力・運動能力の二極化傾向の出現 とその後の影響,子どもと発育発達,16(1) ,11-16. 梶川由美子(2015)将来の運動習慣の確立と体力向上 をねらいとした幼児期における遊び活動-小学校の 体育へつながる多様な動きを身に付けるための遊び の工夫-,滋賀県総合教育センター,1-12. 吉田伊津美,杉原隆,森司朗(2007)幼児における健康・ 体力づくりの意識と運動指導の実態,東京学芸大学 紀要総合教育科学系,58:75-80. 吉田伊津美(2015)楽しく遊んで体力づくり 幼児の運 動遊び「幼児期運動指針」に沿って,チャイルド本 社,pp.16-17. 宮口和義(2012)元気に育てちびっ子たち!幼児のか らだとこころを育てる運動遊び,出村愼一監修,宮 口和義,春日晃章,村瀬智彦編著,杏林書院. 豊島広之(2006)子どものスポーツ運動実施動態,体 育の科学,56:334-349. 平川和文,高野圭(2008)体力の二極化傾向において 両極にある児童生徒の特徴,発育発達研究,37: 57-67. 金美珍,小林正子,中村泉(2011)幼児期の運動や運 動遊びの経験」が学童期の子どもの生活・健康・体 力 に 及 ぼ す 影 響, 小 児 保 健 研 究,70(5) :658-668. 白金俊二(2017)S幼稚園年長児の自由遊び中の基本 動作と体力・運動能力の関係,松本短期大学研究紀 要,26:3-11. Meinel.K(金子朋友訳)(1981)マイネル・スポーツ運 動学,大修館書店,pp.297-315. 文部科学省(2012)幼児期運動指針 h t t p s : / / w w w . m e x t . g o . j p / a _ m e n u / s p o r t s / undousisin/1319771.htm,(参照日2020 年 11 月 16 日) 文部科学省(2018)幼稚園教育要領解説,フレーベル館. 永田誠,玉江和義(2020)幼児の健康な心と体 育て る領域「健康」に関する保育内容の検討,大分大学 教育学部研究紀要,41(2):207-218.

参照

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