博 士 ( 農 学 ) 津 田 昌 吾
学 位 論 文 題 名
バレイショのマイクロチューバーを種イモとする 圃場栽培における塊茎収量形質の品種間差異の解明
学位論文内容の要旨
バレイショは栄養繁殖性作物であり,種イモの増殖率が低いことや種イモを介して伝染するウイ ルス病等の防除が必要となることが問題になる,そのため,種イモの需要に円滑に対応することが 難しく,新品種普及を妨げる要因のーっになっている,そこで,近年,無菌室内での器内培養によ り大 量に増殖したウイルスフリーの小粒塊茎(マイクロチューバー,以下MT)を利用して,種イ モの増殖率を向上させることが図られている,しかし,MTは種イモとしては小さく,圃場栽培で は初期生育および収量性が劣ることが知られている.これまでの研究において,慣行の通常塊茎 (CT)を 種 イモ と す る栽 培(CT栽 培 )と 比 べ て ,MTを種 イモとす る栽培(MT栽培 )では4〜8割 程度の収量性を示すことが明らかにされている.―方,品種問差異にっいては,収穫期の収量形質 において,種イモ処理およぴ品種の間に有意な交互作用は認められていなぃ,しかし,これまでの 研究では多数の品種を比較したものは少なく,MT栽培時における収量陸の品種間差異にっいては 不明な点が多い.本研究では,MT栽培を利用した種イモの効率的増殖方法を確立する目的で,国 内主 要28品種・ 系統を 用いてMT栽 培時にみられる収量性の品種間差異の検討を行い,その後,
明 ら か に な っ た 品 種 間 差 異 に っ い て , そ の 作 用 機 作 に っ い て 検 討 を 行 っ た ,
1. MT栽培における収量形質の品種間差異
国内の 主要28品 種・系統 を供試し ,MT栽培 およびCT栽培を同 一の標準 的な耕 種管理条件下 で2ケ年行い ,生育 および収 量を比較 した.MT栽培では 生重0.5〜l.OgのMTを種イモ として用 いた. また,CT栽 培では ,生重100g程度のCTを ニつ切 りにして 種イモと して用 いた,MT栽培 では,CT栽培に比べ萌芽期は1〜2日程度早かったが,その後の地上部生育は著しく劣り,茎数が 1本 程度と少なく,主茎長も7月下旬までは小さく推移し,黄変期は1週間程度遅れた,各品種の CT栽培に 対するMT栽培の割 合(MT/CT比)は塊茎数,平均塊茎一個重(以下,一個重)および塊 茎生重では,全品種の平均値がそれぞれ約0.9,0.8および0.7であった,種イモ処理と品種の問の 交互作用は塊茎数および一個重で有意であり,品種間差異が認められた.ー方,塊茎生重では種イ モ処理 と品種の 間の交 互作用は 有意でなく,いずれの品種においてもMT栽培の塊茎生重はCT栽 培の7割程度 になる ことが明 らかにな った.この理由として,いずれの年次でも塊茎数のMT/CT 比と平 均塊茎一個重のMT/CT比の問に有意な負の相関関係があることがあげられた,すなわち,
MT栽培で はCT栽培 と比べて 一個重の 低下は小さいが塊茎数が大きく減少する品種群(個数型)
と,塊茎数の減少は小さいが一個重が大きく低下する品種群(個重型)に分かれることが明らかに なった.この特性は年次に寄らず安定して認められたことから,品種固有の特性であると考えられ た.
2. MT栽培にお ける収 量形質の 品種間 差異の作 用機作
本 研究 で 示 され たMT栽 培 特 性の 異 な る4品 種 を用 いてMT栽 培およびCT栽培を5カ年 行い,
生 育および 収量を比較した.MT栽培では生重0.5〜1.OgのMTを種イモとして用いた,また,CT 栽 培では, 生重100g程 度のCTをニ つ切りにして種イモとして用いた,調査は,塊茎肥大初期に
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当 た る7月 中 旬 お よ び す べ て の 品 種 が 黄 変 し た10月 以 降 の2回 に 分 け て 行 っ た , 各 年 次 と も ,塊 茎 数 のMT/CT比 と 一 個 重 のMT/CT比 の 間 に は 有 意 な 負 の 相 関 関 係 が 認 め ら れ ,CT栽 培 と 比 べ MT栽 培 で 個 数 型 を 示 す 品 種 ( 男 爵 薯 , 農 林1号 ) と , 個 重 型 を 示 す 品種 (キ タア カ リ, ニシ ユタ カ ) に 分 か れ た . こ の 理 由 を 解 析 し た と ころ ,CT栽 培で 各品 種と も 塊茎 肥大 初期 に 塊茎 数が 決定 し て い る の に 対 し て ,MT栽 培 で はCT栽 培 に 比 べ て 塊 茎 数 の 決 定 時 期 が 遅 れ , そ の 後 の 塊 茎 数増 加 割 合 に 有 意 な 品 種 間 差 異 が 認 め ら れ た .MT栽 培で は, 塊茎 数増 加 割合 が高 い品 種 ほど 塊茎 数の MT/CT比 が 大 き く な り , 収 穫 期 に 個 数 型 の 生 育 を 示 し た . ま た , 塊 茎数 増加 割合 と 塊茎 肥大 初期 の 塊茎 生重 お よび 塊茎 重比 (塊 茎 生重 パ茎 葉生重十塊茎生重))の間 に有意な負の相関関係が認め ら れ ,塊 茎数 決 定時 期( 塊茎 形成 の 終了 時期 )の 早晩 に 塊茎 肥大 初期 に おけ る塊 茎肥 大量 が関与す る こ とが 示唆 さ れた ,
3. MT栽 培 に お け る 種 イ モ と し て のMTの 大 き さ お よ び 栽 植 密 度 が 収 量 形 質 に 及 ば す 影 響 本 研 究 で 示 さ れ たMT栽 培 特 性 が 異 な る 品 種 を 用 い て , 塊 茎 収 量 形 質 に 及 ば すMT種 イ モ の 大 き さ お よ び 栽 植 密 度 の 影 響 をCT栽 培 と の 比 較 で 検 討 し た .MT種 イ モ の 大 き さ 試 験 で は ,MT栽 培 特 性 の 異 な る 農 林1号 お よ び ニ シ ユ タ カ の2品 種 を 供 試 し ,MTは 大 きさ 別に ,0.3〜0.5g(小 粒 MT), 0.5〜l.Og(中 粒MT),1.0〜3.Og(大 粒MT)の3水 準に 分類 した も のを 種イ モに 用いた.両品 種 と も 塊 茎 肥 大 初 期 に は 小 粒MTを 種 イ モ に 用 い た 栽 培 ほ ど 塊 茎 数 が 少 な か っ た . し か し ,MT栽 培 で 個 数 型 と な る 品 種 ( 農 林1号 ) で は , 収 穫 期 に お い て 小 粒MTを種 イモ に 用い た栽 培の 塊茎 数 がCT栽 培 と 同 程 度 ま で 増 加 し た , 塊 茎 肥 大初 期の 塊茎 生 重お よび 塊茎 重比 と それ 以降 の塊 茎数 増 加割 合と の間 に は有 意な 負の 相関 関 係が 認め られ ,こ れ らの 品種 間差 異 が収 穫期 の塊 茎数に影響を 及 ぼ し た と 推 察 さ れ た . ま た ,MT栽 培 で 個 重 型 と な る 品 種 ( ニ シ ユ タ カ ) で は , 大 粒MTを種 イ モに用いた栽培で収穫期の ―個重がCT栽培に比べ大き くなった.
栽 植密 度の 試 験で は,MT栽 培特 性 の異 なる 男爵 薯お よ びト ヨシ ロの2品 種を 供試 し ,畦間fま75cm の共通とし,株間は疎植区を40cm(3.3株んめ,標植区を30cm (4.4株/1112),密植区を24cm(5,6株んめ と し た . 塊 茎 数 お よ び 一 個 重 の い ず れ で も, 種イ モ処 理x栽植 密度x品 種の 問 の交 互作 用は 有意 で は な か っ た . す な わ ち , 而 品 種 と もCT栽 培 と 同 様 にMT栽 培 で も 密 植 と す る こ と で , 単 位 面積 当 たり の塊 茎数 が 増加 し, 一個 重が 減 少し た. 以上 の結 果 から ,塊 茎数 の 確保 を目 的と した採種栽培 で ,MTを 種 イ モ と す る 場 合 に は ; 品 種 に よ ら ず 大 粒 よ り も 小 粒 のMTを 用 い て , 密 植 で 栽 培す る ことが望ましいと推察した .
以 上 の よ う に 、 本 研 究 に よ っ てMTの 大 量 増 殖 の 際 に 数 多 く 生 産 さ れ る 小 粒MTの 有 効 性 が 確認 さ れ た , ま た , 近 年 要 望 が 高 ま っ て い る ,小 全 粒種 イモ の生 産に お いて も品 種に よっ て はMTの利 用に よ り効 率化 が図 られ る こと が確 認さ れた , これ らを 総合 的 に考 える と、 塊茎 数 の確保を目的 と し た 採 種 栽 培 で , す べ て の 品 種 に お い てMTを 種 イモ とし て利 用す る こと が可 能で ある と 結論 でき る , 今 後 , 本 研 究 で 得 ら れ た 成 果 がMTを 利用 し た採 種栽 培の 実用 化 に貢 献す るこ とを 期 待す る,
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学 位論文審査の要旨 主 査 教授
副 査 教授 副 査 講師 副 査 助教
岩 間 和 人 幸 田 泰 則 藤 野 介 延 実 山 豊
学 位 論 文 題 名
/ ヾレイショのマイクロチューノヾーを種イモとする 圃場栽 培におけ る塊茎 収量形質の品種間差異の解明
本 論文 は78頁か らな る 和文 論文 であ り、 図8と表19を含む。別に参考論文2編が添え られている。
バレイショは栄養繁殖性作物なので,種イモの増殖率が低く、また種イモを介して伝染 するウイルス病等の防除が必要である。近年ではさらに、チップスなどの加工用途での規 格歩留まりの向上と生産コストの削減をめざして、小全粒種イモ(生重30〜100gの塊茎を 切断せずに種イモとして利用する)の需要が増加している。これらに対処するために、無 菌室内での器内培養により大量に増殖したウイルスフリーのマイクロチューバー(生重0.5
〜l.Og、以下MT)を利用して、種イモの増殖率と増殖年限の短縮、およぴ生産される種イ モの大きさの 均一化が試行されている。しかし、増殖対象となる多数 の品種についてMT を種イモに用いた圃場栽培(MT栽培)での生育や塊茎収量形質を調査した研究はない。本 研究では、種イモとして利用する場合に重要となる塊茎数と一個重(平均塊茎生重)に着 目して、バレ イショの採種栽培におけるMT栽培の有用性を通常塊茎( 生重30〜 50g、以 下 CT)を 種 イ モ に 利 用 し た 栽 培 (CT栽 培 ) と の 比 較 か ら 検 討 し た 。
1.国内で採種されている 主要28品種・系統(以下、品種)を北海道農業研究センター 芽室研究拠点(芽室市)の圃場で2カ年栽培した。各年次における各品種のCT栽培に対す るMT栽培 の割 合(MT/CT比) は、 塊茎 数と 一個 重で とも に、おおむね0.5 N1.5の範囲で 変異し、いずれも有意な品種間差異を示した。また、各 年次で塊茎数のMT/CT比と一個重 のMT/CT比の 間に は有 意な 負 の相 関関 係が 認め られ た。 すな わち 、CT栽培 に比 べてMT 栽培で塊茎数が大きい品種(個数型)は一個重が小さく、逆に一個重が大きい品種(個重
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型)は塊茎数が小さぃ傾向を示し、MT栽培に対する品種固有の遺伝的特性が存在すると推 察した。
2. MT栽 培 で 特異的 に個数型 あるい は個重型 となる 各2品 種を5カ年、MT栽培およ び CT栽培 して、塊 茎収量 形質での 品種間差 異の原 因を検討した。塊茎数は、CT栽培では塊 茎肥大初期(7月中旬)にはいずれの品種でも決定し、それ以降の増加が認められなかった。
一方、MT栽培では塊茎肥大初期以降も増加する品種が認められ、塊茎肥大初期以降の塊茎 数増加割合(収穫期の塊茎数に対する塊茎肥大初期以降に増加した塊茎数の割合)には有 意な品種問差異が認められた。また、塊茎肥大初期以降の塊茎数増加割合が高い品種ほど 塊茎 数のMT/CT比が大 きくなり、個数型の特性を示した。さらに、塊茎肥大初期の塊茎重 および塊茎重比(塊茎重/(茎葉重十塊茎重))とそれ以降の塊茎数増加割合との間にはいずれ も有意な負の相関関係が認められた。以上の結果から、塊茎肥大初期における塊茎肥大量 がMT栽 培 で 特異 的 に 現れ る 塊 茎収 量 形 質の 品 種 間差 異 に 関係 し て い ると 推察した 。 3.採種栽 培をMT栽 培で行うために必要な栽培方法を明らかにする目的で、種イモとし て利 用するMTの 大きさ と栽植密 度が塊茎 収量形 質に及ばす影響を、MT栽培で特異的に個 数型あるいは個重型となる品種で検討した。種イモとして利用するMTの大きさを0.3〜0.5g
(小粒MT)、0.5〜l.Og(中粒MT)、1.0〜3.Og(大粒MT)の3水準で比較したところ、いずれ の品 種でもMTが 小さい ほど塊茎 肥大初期 の塊茎 数が少なかった。しかし、MT栽培で個数 型と なる品種 では、小 粒MTでの 塊茎肥大 初期の 塊茎重比が著しく小さく、それ以降の塊 茎数 増加割合 が大きか ったの で、収穫 期の塊 茎数がCT栽培と同程度になった。一方、MT 栽培で個重型となる品種では、大粒MTでの収穫期の一個重がCT栽培よりも大きくなった。
さらに、畦間を75cmの共通とし、株間を疎植区で40cm (3.3株/m2)、標植区で30cm (4.4株 /m2)、密 植区で24cm (5.6株/m2)とした栽植密度試験では、いずれの品種でも、MT栽培に おいてCT栽培と同様に密植区では単位面積当たりの塊茎数が増加し、一個重が減少した。
以上 の結果か ら、MTを 種イモに 利用する 採種栽 培では、いずれの品種でも、小粒MTを密 植 で 栽 培 す る こ と が 塊 茎 数 を 増 加 さ せ る た め に 有 効 で あ る と 結 論 し た 。
以上のように本研究は、MTを種イモに利用した場合に特異的に生じる生育と塊茎収量形 質の品種特性を明らかにし、種イモの生理特性が塊茎成長の品種間差異に及ぼす影響につ いて学術的な新知見を提供するとともに、MTを種イモに利用する採種栽培の実用化に貢献 する 応用的 な新知見 を提供 している 。よって 、審査員一同は津田昌吾が博士(農学)の 学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。
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