博士(農学) Ingrid Yuan‑Chi Diana Lambein 学 位論 文題名
Study of Major RegulatoryASpeCtS
ofMethionineBiosyntheslsln4 〆口 ろ Zd9 加 お励ロZ 励刀口 ( シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ に お け る メ チ オ ニ ン 生 合 成 の 主 要な 調節様 式につ いての 研究)
学位論文内容の要旨
メチオニンはタンパク質の構成成分となるのみならず,S―アデノシルメチオニン(SAM) に代謝されて細胞内の主要なメチル基転移反応やポリアミン合成,また,植物では植物ホル モンであるェチレン合成の前駆体となる重要なアミノ酸である。本論文はメチオニンを過剰 に蓄積するシ口イヌナズナ変異株(mtol,mt02)を用いてメチオニン生合成の主要な制御段 階 に お け る 制 御 機 構 を 解 析 し た も の で あ る 。 本 論 文 は 以 下 の 内 容 か ら な る 。
(1) 遊 離 メ チ オ ニ ン を 過 剰 に 蓄 積 す る シ 口 イ ヌ ナ ズ ナmt02変 異 株 の 研 究 高等植物においてメチオニンはりジン,スレオニン,イソ口イシンとその生合成経路を一 部共有している。〇ホスフエホモセルン(OPH)はメチオニンとスレオニンの生合成経路の 分岐点に位置し,メチオニン生合成の鍵段階を触媒する酵素であるシスタチオニンァーシン ターゼ(CGS)とスレオニン生合成の鍵段階を触媒する酵素であるスレオニンシンターゼ (TS)は,共通の基質であるOPHを奪い合う関係にある。シ口イヌナズナのmt02‑1変異株 はスレオニンシンターゼの構造遺伝子に変異を持ち,SAMによるアロステリックな活性化 に欠損を持つ。
播種後15日目のmt02‑1変異株ではメチオニンの蓄積が野生型株の約20倍に増加してい るが,その後,植物の生長に伴って野生型株との違いは小さくなった。一方,スレオニンの 蓄積は播種後15日目のmt02‑1変異株では野生型株の6%に過ぎないが,その後,野生型株 と同 程度 の蓄 積量 にな った。CGS mRNAならびにCGS夕ンバク質の蓄積は播種後15日目 のmt02‑1変異株では抑えられていたが,その後,野生型株と同程度になった。また,TSに ついてはmRNA,夕ンパク質共にその蓄積量は植物の生長に伴って変化するものの野生型株 と平行関係にあった。播種後15‑20日目までの若い時期と,その後の開花・結実期では,CGS とTSに対する発現制御が異なることが明らかになった。
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(2) CGS mRNAの安定性の制御に関する研究
CGS遺伝子の発現はmRNAの安定性の段階で負のフイードバック制御を受けており,し かもその制御にはCGS自身のアミノ酸配列がシスに作用する。アミノ酸配列がシスに作用 することから,新生ベプチドとmRNAがりポソームを介してっながっている翻訳中にこの 制御が起こると考えられる。このモデルが正しければ,翻訳阻害剤の存在下ではCGS mRNA の分解が抑えられると期待される。これを検証するため,シ口イヌナズナのカルス培養系を 用いてCCS mRNA分解のキネティクスを解析した。
カルスに転写阻害剤を与えて新たな転写を止め,残存CGS mRNAの量を測ることにより CGS mRNAの半減期を調べた結果,メチオニンで前処理していない野生型株のカルスでは 154土11分であったが,1 mMのメチオニンで前処理することにより半減期は81土5分にな った。一方,CGS mRNA安定性の制御が欠損したmtol変異株のカルスでは,メチオニン前 処理の有無にかかわらず半減期は10時間以上であった。mRNAの分解には一般的な分解経 路と遺伝子特異的な分解経路があると考えられる。メチオニンで前処理しない野生型株のカ ルスでは一般的な分解経路のみが働き,メチオニンで前処理した条件ではこれに加えてCGS 特異的な分解経路が働くと考えると,CGS特異的な分解経路に対する部分半減期は169土26 分となり,CCS mRNAの48%がCGS特異的な分解経路で分解されると考えられる。この系 にさらに翻訳阻害剤と与えるとCGS mRNAの半減期はメチオニン前処理の有無にかかわら ず4時間以上に延びた。
野生型株のカルスにメチオニンを与えると,CGS mRNAの蓄積が減少するのに伴って分 解中間体と考えられる5 領域を欠いたCGS RNAが出現する。5・領域を欠いたCGS RNAの半 減期は約30分であり,分解中間体に期待されるように非常に早い分解を受ける。また,こ の5,領域を欠いたCGS RNAがCGS特異的な分解経路での分解中間体であるならば,翻訳阻 害剤存在下ではメチオニンを与えても5.領域を欠いたCGS RNAは出現しないと期待される。
実際,野生型株のカルスに翻訳阻害剤とメチオニンを同時に与えると,5.領域を欠いたCGS RNAは出現しなかった。これらの結果は,いずれもCGS特異的な分解経路が働くためには 翻訳が必要であることを示しており,CGS特異的な分解が翻訳段階で働くとするモデルを強 く支持するものである。
mRNAの分解と3 ̄末端のポリAの除去の関係については酵母などで多くの研究がなされ ているものの,植物での知見は少ない。mRNAにオリゴdTをハイプリダイズさせてRNaseH でポリAを分解することにより,ポリAの長さを測定した。その結果,全長の野生型CGS mRNAでは 約130塩 基の ポリAが付 いて いる のに 対し ,5. 領域を欠いたCGS RNAでは10 塩基程度に減少していることが明らかになった。
本論文は,メチオニンの生合成制御を分子生物学的手法を用いて研究したものであり,特 にCGS mRNAの 安 定 性 の 制 御 機 構 に つ い て 多 く の 新 知 見 を も た ら し た 。 ‑ 153一
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学位論文題名
Study.of RtIajor Regulatory Aspects of Methionine Biosynthesisln4 〆ロろZd ゆS お協口Z 励刀ロ ( シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ に お け る メ チ オ ニ ン 生 合成 の 主要な調節様式についての研究)
メチオニンはタンパク質の構成成分となるのみならず,Sアデノシルメチオニン(SAM) に代謝されて細胞内の主要なメチル基転移反応やポリアミン合成,また,植物では植物ホル モンであるエチレン合成の前駆体となる重要なアミノ酸である。本論文はメチオニンを過剰 に蓄積するシ口イヌナズナ変異株(mtol, mt02)を用いてメチオニン生合成の主要な制御段 階 に お け る 制 御 機 構 を 解 析 し た も の で あ る 。 本 論 文 は 以 下 の 内 容 か ら なる 。
(1) 遊 離 メ チ オ ニ ン を 過 剰 に 蓄 積 す る シ 口 イ ヌ ナ ズ ナmt02変 異 株 の 研 究 高等植物においてメチオニンはりジン,スレオニン,イソ口イシンとその生合成経路を一 部共有している。Dホスフォホモセリン(OPH)はメチオニンとスレオニンの生合成経路の 分岐点に位置し,メチオニン生合成の鍵段階を触媒する酵素であるシスタチオニンァ‐シン ターゼ(CGS)とスレオニン生合成の鍵段階を触媒する酵素であるスレオニンシンターゼ (TS)は,共通の基質であるOPHを奪い合う関係にある。シロイヌナズナのmt02‑1変異株 はスレオニンシンターゼ活性に欠損を持つ。
野生型株とmt02‑1変異株で遊離アミノ酸の蓄積量の変化を調べた結果,若い時期のmt02‑
J変異株ではメチオニンの蓄積が野生型株の約20倍に増加しているが,その後,植物の生 長に伴って野生型株との違いは小さくなる一方,スレオニンの蓄積は播種後15日目のmt02ー J変異株では野生型株の6%に過ぎないが,その後,野生型株と同程度の蓄積量になること を見いだした。CGSとrrsのmRNAおよびタンパク質の蓄積を同様に調べることにより,
播種後15―20日目までの若い時期と,その後の開花・結実期では,CGSとTSに対する発現 制御が異なることを明らかにした。
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哲 篤
之
雅
藤 田
川
内 横
石
授 授
授
教
教 教
助
査 査
査
主 副
副
(2) CGS mRNAの安定性の制御に関する研究
CCS遺伝子の発現はmRNAの安定性の段階で負のフイードバック制御を受けており,し かもその制御にはCGS自身のアミノ酸配列がシスに作用する。シロイヌナズナのmtol変異 株ではこのフイードバック制御が欠損している。アミノ酸配列がシスに作用することから,
新生ベプチドとmRNAがりボソームを介してっながっている翻訳中ヰここの制御が起こると 考えられる。このモデルが正しければ,翻訳阻害剤の存在下ではCGS mRNAの分解が抑え られると期待される。これを検証するため,シロイヌナズナのカルス培養系を用いてCGS mRNA分解のキネティクスを解析した。
まず,カルスに転写阻害剤を与えてCGS mRNAの半減期を調べることにより,メチオニ ンで前処理していない野生型株のカルスでは半減期が154土11分であるのに対し,lmMの メチオニンで前処理すると半減期が81土5分と短くなることを示した。一方,mtol変異株 のカルスではメチオニン前処理の有無にかかわらず半減期は10時間以上であった。mRNA の分解には一般的な分解経路と遺伝子特異的な分解経路があると考えられる。CGS遺伝子で はメチオニンで前処理しない野生型株のカルスでは一般的な分解経路のみが働き,メチオニ ンで前処理すると,これに加えてCGS特異的な分解経路が働くと考えることができる。CGS 特異的な分解経路に対する部分半減期は169土26分であり,メチオニンを与えた条件では CGS mRNAの 48% が CGS特 異 的 な 分 解 経 路 で 分 解 さ れ る と 見 積 も っ た 。 この系にさらに翻訳阻害剤と与えるとCGS mRNAの半減期はメチオニン前処理の有無に かかわらず4時間以上に延びた。野生型株のカルスにメチオニンを与えると,CGS mRNA の蓄積が減少するとともに分解中間体と考えられる5,領域を欠いたCGS RNAが出現する。
5.領域を欠いたCGS RNAの半減期は約30分であり,早い分解を受けることを明らかにした。
また,翻訳阻害剤存在下ではメチオニンを与えても5.領域を欠いたCGS RNAが出現しない ことを示し,このRNAがCGS特異的な分解経路での分解中間体であることの強い証拠を得 た。これらの結果は,CGS特異的な分解経路が働くためには翻訳が必要であることを示して おり ,CGS特 異的 な分 解が 翻訳段階で働くとするモデルを強く支持するものである。
mRNAの分解と3‐末端のポリAの除去の関係については酵母などで多くの研究がなされ ているものの,植物での知見は少ない。ポリAの長さを測定した結果,全長の野生型CGS mRNAでは 約130塩 基の ポリAが付 いて いる のに 対し ,5 領域を欠いたCGS RNAでは10 塩基程度に減少していることを明らかにした。
メチオニンはヒトをはじめとしてほとんどのほ乳類にとって必須アミノ酸であるにもかか わらず,植物におけるメチオニン生合成制御の分子レベルでの研究は進んでいない。本研究 はメチオニンの生合成制御の分子レベルでの研究として関連学会で高く評価されており,作 物 の メ チ オ ニ ン 含 量 を 高 め る た め の 基 礎 研 究 と し て も 重 要 で あ る 。 よって,審査員一同はIngrid Yuan−Chi Diana Lambein氏が博士(農学)の学位を受ける のに十分な資格を有するものと認めた。
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