ク レ ジ ッ ト ・カ ー ドの 不 正 使 用 と 詐 欺 罪
丸 山 雅 夫
目 次
は,じ め に
1ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド取 引 の概 要 (1)取引 の仕 組
② 取 引 の 特 殊 性 と詐 欺 罪 との 関 わ り H判 例 と学 説 に お け る取 り扱 い
11)判例 の対 応
② 学 説 の 状 況 皿 詐 欺 罪 の 成 否
(1)欺圏 行 為 と錯 誤
② 処 分 行 為 と損 害
㈲ 若 干 の 関 連 問 題
む す び
は じ め に
近 年,社 会 情 勢 が 高 度 に複 雑 化 して い くな か で,現 行 刑 法 典 制 定 当 時(明 治 40年)に は全 く予 想 もで きな か っ た態 様 の トラ ブル が 数 多 く生 じて きて お り, それ らに対 す る社会 生 活 の 実 態 に 即 した 対 応 が 迫 られ る よ うに な って きて い る。
この こ とは,経 済取 引 の分 野 に お いて も全 く同様 で あ る。 特 に,「 キ ャ ッ シ ュ レス時 代」 と言 わ れ る現代 にお いて は,キ ャ ッ シ ュ ・カー ドや ク レジ ッ ト ・カ ー ドが 急 速 に 普 及 して い くにつ れ て,そ れ らをめ ぐる トラ ブル も急 増 して きて い るη 。
原 稿 受 領 日1985年11月15日
1)た とえ ば,カ ー ド犯 罪 の 主 流 を 占 め る ク レジ ッ ト ・カ ー ドを 利 用 した 犯 罪 だ け を 見
〔191〕
問 題 を ク レジ ッ ト ・カ ー ドだ け に 限 って み て も,カ ー ドそ れ 自体 を取 得 す る 段 階 と カー ドを 利 用 して 取 引 を す る段 階 の そ れ ぞ れ に お い て,さ ま ざ ま な態 様 の トラブルが 発生 して い る。前 者 にお け る例 と して は,カ ー ドそ れ 自体 の 偽造 ・ 変 造,窃 取,騙 取 等 が あ り,後 者 に お け る例 と して は,偽 造 ・変 造 カ ー ドの不 正 使 用,窃 取 な い しは横 領 した カ ー ドの 不 正 使 用,名 義人 自身 に よ るカ ー ドの 不 正 使 用 等 が あ る。 この う ちで も特 に,カ ー ドの 取 引 段 階 で な され る不 正行 為 は,後 に述 べ るよ うに,ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド取 引 の シ ス テ ム との 関 係 で 困 難 な 問題 を生 じ させ て い る ので あ る。 こ の よ うな 状 況 の な か で,昭 和59年 度 に は, 有 効 な 自 己 名 義 カ ー ドを不 正 に使 用 して利 得 した事 案 に対 し,名 古 屋 高 等 裁 判
所 と東 京 高 等 裁 判 所 の そ れ ぞ れで 詐欺 罪(刑 法246条1項)の 成 立 を認 め る判 決 が 出 され て い る。
有 効 な 自 己名 義 カ ー ドの 不 正 使 用 につ い て,判 例 は,昭 和49年 の 和 歌 山 地 裁 判 決以 来一 貫 して1項 詐 欺 罪 の 成立 を 肯 定 して きて お り,実 務 上 の争 い は存 在 しな い と言 って よ い。 しか し,学 説 の な か に は,こ の種 の事 案 を 犯罪 と して処 罰 す る こ と は不 可 能 だ とす る見解 も若 干 な が ら主 張 され て い る し,詐 欺 罪 の成 立 を肯 定 す る と い う結 論 で一 致 す る大 方 の学 説 にお い て も,そ の 理 由づ け につ いて は異 な っ た論 理 が 見 られ,1項 詐 欺 罪 と2項 詐 欺 罪 の いず れ の成 立 を 認 め るか とい う点 で 相違 が 見 られ る。 しか も,こ の種 の事 案 は,後 に述 べ る よ う に, 行 為 者 の内 心 を別 にす れ ば,客 観 的 に は ク レジ ッ ト・カ ー ド取 引 が 本 来予 定 し て い るの と全 く同一 の態 様 にお いて な され う る もの で あ る点 に 大 きな 特 徴 を 持 っ て い る。 したが っ て,こ の意 味 に お い て は,ク レジ ッ ト・カー ド取 引 をめ ぐる トラブ ル の 多 くの問 題 点 が この種 の事 案 に集 約 され て い る と言 って も よい の で あ る。
て も,昭 和59年 度 に は,各 都 道 府 県警 察 に お け る検 挙 件 数 ユ2,269件,検 挙 人 員876 人,被 害 額12億1,295万 円 が 報 告 され て お り,そ の いず れ もが こ こ 数 年 間 に 増 加 し て い る こ とが うか が わ れ る。 百 田春 夫 「カ ー ド犯 罪 の 実 態 と対 策 」 警 察 公 論40巻5 号(昭 和60年)29頁 表3参 照 。 さ らに,大 島 猛 「ク レ ジ ッ ト犯 罪 の 現 状 と 問 題点
(上)」 警 察 公 論38巻2号(昭 和58年)54頁 以 下,三 枝 守 「ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド犯 罪 の 実態 と対 策 」法 律 の ひ ろ ば37巻3号(昭 和59年)19頁 以 下,参 照 。
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そ とで,以 下 で は,ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド取 引 の 特 殊 性 に 着 目 しな が ら,有 効 な 自 己名 義 カ ー ドを不 正 に 使 用 した場 合 に詐 欺 罪 が 成立 す るか ど うか とい う点 に対 象 を 限定 して2}',考 察 して い くこ と にす る。 具 体 的 な 状 況 と して は,代 金 支 払 の意 思 も能 力 もな い者 が ク レ ジ ッ ト契 約 を締 結 した うえ で,そ の 有 効 な 自 己名 義 カ ー ドを使 用 して 預 金 残 高 を は るか に 超 え る物 品 を 加 盟 店 か ら購入 し, それ らを入 質 な い しは 売 却 して しま った,と い う事 案 を 想 定 して お け ば足 り る で あ ろ う 。
1 ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド取 引 の 概 要
この 問 題 を 検 討 す るに あ たっ て は,そ の 前提 と して,ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド取 引 の 実 態 を把 握 した うえ で,そ れ が 詐 欺 罪 の構 成要 件 との 関係 で ど の よ うな問 題 点 を もた ら して い るの か を 明 らか に して お か な け れ ば な らな い 。
(1)取 引 の 仕 組
我 が 国 に ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド ・ シ ス テ ム が は じ め て 本 格 的 に 導 入 さ れ た の は, 昭 和35年12月 の 日 本 ダ イ ナ ー ス ク ラ ブ(ア メ リカ の ダ イ ナ ー ス ク ラ ブ 本 社 と 日 本 交 通 公 社 お よ び 富 士 銀 行 と の 合 弁)の 設 立 に よ っ て で あ る3)。 そ の 後,商 業
2)な お,本 文 で 述 べ た よ う に,ク レジ ッ ト・カ ー ドを め ぐ る問 題 は,有 効 な 自己名 義 ・ カ ー ドの不 正 使 用 に限 られ る もの で は な い 。 そ れ らに つ い て は 別 の 機会1こ言及 す る こ と に した い が,さ しあ た り,石 井 芳 光 「ク レジ ッ ト・カ ー ドの 不 正 利 用 と法 律 問 題 く そ の2>」 手 形 研究 エ60号(昭 和45年)53頁 以 下,同 「<そ の3>」 手 形 研 究 161号(昭 和45年)58頁 以 下,・兼元 俊 徳 「ク レジ ッ ト ・カ ー ドを め ぐ る法 律 問 題 」 警 察 研 究46巻3号(昭 和50年)61頁 以 下,土 本 武 司 ・民 事 と交 錯 す る刑 事 事件(昭 和54年)244頁 以 下,矢 野光 邦 「ク レ ジ ッ トカ ー ドを め ぐ る犯 罪 」 研 修403号(昭 和57年)104頁 以 下,原 田 國男 「コ ン ピュ ー タ,ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド等 を 利 用 した 犯 罪 」 石 原 一 彦 塁佐 々木 史 朗=西 原春 夫=松 尾 浩也 編 ・現 代 刑 罰 法 大 系2経 済 活 動 と刑 罰(昭 和58年)235頁 以 下,香 川 達夫 「ク レ ジッ ト ・カ ー ドの 法 律 上 の 性 格 」 法 律 の ひ ろば37巻3号4頁 以下,小 谷 文 夫 「ク レジ ッ ト ・カ ー ドをめ ぐ る犯 罪 」 法 律 の ひ ろ ば37巻3号11頁 以 下,下 村 康正rカ ー ド犯 罪 の刑 法上 の 問 題点 」 法律 の ひ
ろば37巻3号25頁 以 下,等 参 照 。
3)我 が 国 の シ ステ ムの 範 とな った ア メ リカ に お い て は,1920年 代 に右 油販 売会 社 が 自 社 の 顧 客 の 固定 化 と販 売 促 進 の 目的 で 発 行 した ガ ソ リン購 入 用 の カ ー ドが 起源 で あ る,と され て い る。 そ の 後 の 発 展 等 に つ い て は,黒 川 昌 洋 「ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド」
手 形 研 究150号(昭 和44年)29頁 以 下,吉 原 省 三 「ク レ ジ ッ トカ ー ド取 引 の 現 状 と
銀 行 系 の カ ー ド会 社(日 本 ク レ ジ ッ トビ ュ ー ロ ー,ダ イ ヤ モ ン ドク レ ジ ッ ト, 住 友 ク レ ジ ッ トサ ー ビ ス,ミ リオ ン カ ー ドサ ー ビ ス,等)が 相 次 い で 設 立 さ れ, 今 日で は,非 銀 行 系 カ ー ド(い わ ゆ る サ ラ金,信 販 会 社,メ ー カ ー 系 の カ ー ド)
を 含 め て,日 本 人 の 平 均1.5人 に1枚 の 割 合 で 何 ら か の ク レ ジ ッ ト ・ カ ー ドを 所 有 す る に 至 って い る 。
多 種 多 様 の ク レ ジ ッ ト ・カ ー ドが 存 在 して い る な か で,そ の 取 引 の 仕 組 は, そ れ ぞ れ の カ ー ドに よ っ て 若 干 の 相 違 は あ る も の の,基 本 的 な 部 分 に お い て は 共 通 し て い る と 言 っ て よ い 。 そ の 概 略 は,次 の 通 りで あ る4)。
取 引 は,ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド会 社(お よ び そ の 提 携 銀 行),会 員(お よ び そ の 取 引 銀 行),加 盟 店(お よ び そ の 取 引 銀 行)の3者 を 当 事 者 と し て 行 な わ れ る5)。 そ れ ぞ れ の 当 事 者 の 関 係 は,次 の よ う に な っ て い る 。
ク レ ジ ッ ト ・ カ ー ド の 利 用 を 希 望 す る 者 は,カ ー ド会 社 の 提 携 銀 行 本 支 店 に 用 意 さ れ て い る 入 会 申 込 書 に 必 要 事 項 を 記 入 し,カ ー ド会 社 に 提 出 す る(実 際 は,銀 行 の 窓 口 が 取 り 次 い で くれ る)。 カ ー ド会 社 が 申 込 者 の 適 格 性 を 認 定 し た 場 合 に は6)カ ー ドが 送 付 さ れ て く る の で,そ の 署 名 欄 に 自 署 し,以 後 そ の カ ー ドを 利 用 して 買 物 等 を 行 な う こ と が で き る。 会 員(カ ー ド ・ホ ル ダ ー)と な っ た 者 は そ の 取 引 銀 行 に 当 該 カ ー ド使 用 代 金 決 済 の た め の 預 金 口 座 を 開 設 し,口 座 振 替 の 依 頼 を す る こ と に な るが,実 際 に は,申 込 書 提 出 の 時 点 で こ れ ら の 手 続 も 同 時 に 行 な わ れ て い る こ と が 多 い と言 っ て よ い 。
法律 関 係 」 ジ ュ リス ト428号(昭 和44年)111頁 以 下,木 村 晋 介 「ク レ ジ ッ ト ・ ト ラ ブル,現 状 と課 題一 ク レ ジ ッ ト ・カ ー ドを中 心 と して 一 」 法 律 の ひ ろば37巻 3号32頁 以 下,参 照 。
4)取 引 の仕 組 の 詳細 にっ いて は,吉 原省 三 ・前 掲 論 文113頁 以 下,鴻 常 夫 他(座 談 会)
「C・C,G・'C取 引 を め ぐる 法 律上 の 諸 問題 」 手 形 研 究153号(昭 和45年)72頁 以 下,土 本 武 司 ・前 掲書223頁 以 下,等 参 照 。
5)な お,銀 行 を も当 事 者 と して 独立 させ,4面 構 造 とす る考 え 方 もあ る。
6)適 格 性 の 認 定 に あ た って は,収 入,資 産 とい った 点 にっ い て 書 面 で 審 査 を す る 場 合 が 通 常で あ る。 しか し,カ ー ド会 社 に よ って は,会 員 獲 得 の た め の 便 宜 か らか ほ と ん ど 無 条件 で 適格 性 を認 定 して い る と こ ろ もあ るよ うで あ る。 そ して,こ の点 が, カ ー ド犯 罪増 加の ひ とつの要 因 と して 指摘 され て い る。 た とえ ば,大 島 猛 「ク レ ジ ッ
ト犯 罪 の 現 状 と問題 点(下)」 警 察公 論38巻3号(昭 和58年)75頁,百 田 春 夫 ・前 掲 論 文34頁 。
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加 盟 店 は,カ ー ド会 社 と加 盟 店 契 約 を 結 び,当 該加 盟 店 で 利 用 可 能 な カー ド の 名 称 を 店 頭 に表 示 して,会 員 に よ る利 用 を促 す 。 カ ー ドの利 用 に際 して,加 盟 店 は,代 金 支 払 の 際 に カ ー ドを 提 示 した客 に対 して,事 故 カ ー ドの利 用 な ど の 例 外 的 な 場 合 を 除 い て は,カ ー ドの 利 用 を拒 否 す る ことが で き な いば か りで な く,現 金 払 いを 要 求 す る こ とが で きな い し,現 金 買 い の 客 と差別 して 不 利 に 扱 って は な らな い と され て い る。 な お,会 員 に よ る買物 等 の代 金 は,一 定 の 手 数 料 を差 し引 いた うえ で カ ー ド会 社 が そ の 提 携 銀 行 を 通 じて 加 盟 店 に 支 払 い (口 座 振 替 に よ る決 済),後 に そ れ は カ ー ド会 社 と会 員 の 間 で 決 済 さ れ る(決 済 は,各 銀 行 間 の 口座 振 替 に よ る)7)。'
カ ー ド会 社 は,加 盟 店 か ら利 用代 金 の 請求 が あ っ た場 合 に,加 盟 店 ご と に請 求 金 額 を ま とめ て 支 払 い,後 日 それ を会 員 か ら回 収 す る(決 済 は,い ず れ も口 座 振 替 に よ る)。 この場 合 に重 要 な こ とは,一 定 の 例 外 的 場 合(加 盟 店 か ら の 代 金 請 求 が 所 定 期 間 内 に カー ド会 社 にな され な か った た め に 免 責 され た場 合 や カ ー ド会 社 自体 が 倒 産 して し ま った よ うな 場 合)を 除 い て は,カ ー ド会 社 か ら 加 盟 店 へ の支 払 は確 実 に な され る と い う こ とで あ る。
以 上 の 関係 を実 際 の カー ド利 用 の 場 面 で も う少 し具 体 的 に 見 る と,次 の よ う に な る(図 を 参照)。
7)代 金 決 済 の 法 的 性 格 に つ いて は,カ ー ド会 社 が加 盟 店 か ら代 金 債 権 の譲 渡 を 受 け る とい う考 え 方(債 権 譲 渡 説)と カ ー ド会 社 が会 員 の代 金 債 務 を立 替払 す る と い う考 え 方(代 位 弁 済 説)が あ り,実 際 の 取 引で も この い ず れか の方 法 が と られて い る。
た だ,詐 欺 罪 との 関 係 で 言 え ば,カ ー ド会 社 と加 盟 店 の 間で 第1次 的 に決 済 が な さ れ る とい う事 実 こそ が 重 要 で あ り,い ず れ の 考 え方 を と る か は本 質 的 な もので は な い と言 え よ う。 なお,決 済方 法の 法的 構 成 の 詳 細 にっ い て は,吉 原 省 三 他(座 談 会)
「ク レ ジ ッ トカ ー ドシス テ ムの 実 情 と法 律 問 題 」 自由 と正 義24巻4号(昭 和48年) 32頁 以 下,清 水 厳 「ク レジ ッ ト ・カ ー ド取 引 の 法 構 造 ・1」 法 律 時 報45巻14号(昭 和48年)177頁 以 下,土 本 武 司 ・前 掲 書228頁 以 下,伊 藤 進 「カ ー ド会 社 の 今 後 の 法 的 課 題 」 法律 の ひ ろ ば37巻3号41頁 以 下,参 照 。
④
嘩]、 ①
銀 行 ⑥
銀 行
加盟 店
③ 銀 行
・一・鰍 ト
②
① 会 員 は,マ 供 を 受 けた 場合,カ ー
ドを提 示 し,C,加 盟 店 か ら カー ド
、会 社 へ の 請求 用,ん.に 署 名 し,確 認 す る。 加 盟
店 は,カ ー ド自体 が 有 効 で あ る こ と と事 故 カ ー ド(紛 失,窃 取 等 の ため 利 用 を 拒 絶 す るよ うに通 知 さ れて い る カ ー ド)で な い こ とを 確 認 し,カ ー ドの 署 名 欄 の 筆跡 と売 上 票 の 署名 を対 照 して 会 員 の 同一 性 を確 認 す る。 これ らの点 で 問 題 が な い 限 り,加 盟 店 は,取 引 を拒 絶 す る こ とが で きな い。
② 加 盟 店 は,請 求 用売 上 票 を毎 月 とり ま と めて,カ ー ド会 社 に送 付 す る。
③ カ ー ド会社 は,毎 月 一 定EIに 請 求 用 売 上 票 を各 加 盟 店 ご と に集 計 し,総 売 上 額 か ら一 定 の手 数 料(通 常,売 上 額 の4%な い し10%)を 差 し引 い た金 額 を,自 己の預金 口座 か ら加盟 店 の 預金 口座 に 振 替 え て支 払 う。 この方 法 に よ り, 通常,加 盟 店 は,1カ 月以 内 に代 金 を回 収 す る ことが で き る。 また,す で に 述 べ た よ うに,カ ー ド会 社 は ,ご く例外的 な場合 を除 いて加盟店への支払 を拒絶 で き な い 。1
④ カ ー ド会 社 は,毎 月1回 会 員 ご と に その 利 用 代 金 を集 計 し,会 員 に 請 求 書 を 送 付す る。
⑤ 請求 書 を受 け取 っ た会 員 は,預 金 残 高 を確 認 し,振 替 日 まで に請 求 額 に 見合 う金 額 を 口座 に入 金 して お く。
⑥ 毎 月1回 会 員 の預 金 口座 か らカ ー ド会 社 の預 金 口座 に 振 替 決 済 され,取 引 が 終了 す る。 な お,会 員 の預 金 残 高 が 不 足 して いて 口 座 振 替 が で きな い場合 に は,銀 行 か らカ ー ド会 社 に振 替 票 が 返 却 され,延 滞 債 権 と して カー ド会 社が 会
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員 か ら直 接 取 り立 て る こ とに な る。
この よ うな 手 続 の な か で,8)会 員 は,カ ー ドを 利 用 す る こ と に よ って,通 常 20日 な い しは60日 程度 利 用代 金 の 支払 猶予 を受 け る ことが で き るの で あ る。
ク レジ ッ ト・カ ー ド取 引 の 概 要 は以 上 の よ うな もので あ るが,こ の よ う な取 引 の 仕 組 は詐 欺 罪 の 成 立 との 関 係 で ど の よ うな 困 難 を もた ら して い る ので あ ろ
うか 。
(2)取 引 の特 殊 性 と詐 欺 罪 と の 関 わ り
詐 欺 罪 が 成 立 す る ため に は,行 為 者 が 相 手 方 を 欺 圏 して 錯 誤 に 陥 らせ,錯 誤 に もとつ いて 財 産 的 処 分 行 為 を行 な わ せ る とい う関 係 が 必 要で あ り,し か も, 欺 岡 ・錯 誤 ・処 分 行 為 の 間 に は 因 果 関係 が存 在 しな け れ ば な らな い と され て い
る。 ま た,錯 誤 に 陥 った 者(被 欺 圏 者)と 処 分行 為 者 は 同一 で な け れ ば な らな い と もされ て い る。 詐 欺 罪 が こめ よ うな 前 提 に も とつ い て 認 定 され る とき,有 効 な 自 己名 義 カー ドの 不 正 使 用 の 事 案 は,取 引 の 特殊 性 との 関 わ りで ぶ たつ の 困 難 を 生 じさせ る こ とに な る。
ひとっ の困難 は,欺 岡 ・錯 誤 とそ れ に も とつ く処 分 行 為 に関 して 生 じて くる。
有 効 な 自己名 義 カ ー ドを不 正 に使 用 す る者 は,加 盟 店 で の利 用 に 際 して,支 払 意 思 と能 力 が な い に もか か わ らず そ の点 を秘 して い る以 外 に は,他 に積 極 的 な 欺 圏行 為 をす る必 要 は全 くな い。 したが って,問 題 は,こ の よ うな 場 合 に,通 常 の カ ー ド利 用 者 と同 じ態度 で 買物 等 す る こと を欺 岡行 為 と見,そ れ に も とつ
く錯誤 を認 定 す る こ とが で き るか ど うか とい う点 に あ る。 も っ と も,こ の 点 に っ い て は,判 例 が この種 の事 案 に類 似 した 「無 銭 飲 食」 に対 して,通 常 の 客 と 同 じ態 度 で 飲 食 物 を 注文 等 した行 為 を欺 岡行 為 と して い る ことか ら9),ほ とん
8)な お,カ ー ドに よ って は 商 品 の 購 入 等 だ けで は な く,キ ャ ッシ ング ・サ ー ヴ ィスや 割 賦 販 売 等 の用 途 に利 用 で き る もの も数 多 くあ るが,本 稿 との 関 係で は,商 品 の購 入 等 と い っ た通 常 の 敢 引 形 態 を 考 え て お け ば 充 分 で あ る 。,
9)た と えば,大 判 大 正9年5月8目 刑 録26輯348頁 は,無 銭 飲 食 ・無 銭 宿 泊 の 事 案 に 対 して,「 凡 ソ料 理 店 二 至 リテ 飲 食 ヲ為 シ又 ハ 旅 人宿 二 投宿 ス ル トキ ハ 特 二 反 対 ノ 事情 ノ存 セ サ ル限 リハ 飲 食 代 金 又 ハ 宿 泊 料 ヲ支 払 フ ヲ以 テ 取 引上 ノー 般 慣 例 トス ノk モ ノ ナ レハ 飲 食 店 又 ハ 旅 人 宿 二在 リテハ 飲 食 ノ注 文 又 ハ 宿 泊 ノ申 込 ミニ ハ 自 ラ代 金 又 ハ 宿 料 支払 ノ暗 黙 ノ意 思 表 示 ヲ包 含 スル モ ノ ト了 解 ス ル ヲ通 例 ナ リ トス従 テ 注文
ど問 題が な い よ うに も思 わ れ る。 しか し,ク レジ ッ ト取 引 の 場 合 に は,無 銭 飲 食 の 事 案 と異 な り,加 盟 店 は カ ー ド自体 の有 効 性 と事 故 カ ー ドで な い こ とお よ び会 員 と利 用 者 との 同一 性 が 確 認 で き る限 り取 引 を拒 絶 して は な らな い と い う 特 殊 性 が あ る。 す な わ ち,会 員 は,そ の 内心 の 目的 如 何 にか か わ らず,本 入 自 身で 有効 な カー ドを使 用 す る限 り取 引 を拒 絶 され る こ とは な い4)が 通 常 で あ る。
したが って,こ の 点 を 強 調 す るな らば,欺 岡 行 為が あ っ た た め に加 盟 店 が 錯 誤 に陥 り,そ の ため に 取 引 に 応 じた(処 分 行 為)と い う関 係 を認 め るの は 必 ず し も容 易 で な い と言 わ な け れ ば な らな い。 ま た,欺 圏の 相 手 方 を カ ー ド会 社 と考 え る場 合 に も,カ ー ド会 社 は加 盟 店 が カ ー ドの有 効性 等 を確 認 して 取 引 に応 じ て い る以 上 加 盟 店へ の 支払 を拒 否 で きな い仕 組 に な って い る ので あ るか ら,加 盟 店 へ の 支 払 は いわ ば 自動 的 に な され る性 質 の もの で あ り,欺 圏 ・錯誤 に も と つ いて な され た処 分 行 為 と見 る こ とは 困 難 な の で あ る 。
もう ひ とっ の 困 難 は,処 分行 為 者 と被 害者 の 同一 性 の関 係 で 生 じて くる。 ク レジ ッ ト取 引 の 場 合,す で に述 べ た よ うに,加 盟 店 が カ ー ドの有 効 性 等 を確 認 して 取 引 に応 じて い る以 上 カー ド会 社 は加 盟 店 に 対す る支払 を 拒否 で き な い こ と に な って い るた め,現 実 に 財産 上 の被 害 を被 るの は,加 盟 店 で は な くて カー
ド会 社 だ と い う こ と に な る。 そ こで,カ ー ド会 社 を被 害者 と し加 盟 店 を処 分 行 為 者 と見 る と,被 害 者 と処 分行 為 者 とが一 致 しな い とい う事 態 が もた らされ る ので あ る。 もっ と も,詐 欺 罪 に お い て 被 害 者 と処 分行 為者 とが 一 致 しな い と い う事 態 は,「 訴 訟詐 欺 」 の事 案 に代 表 され る いわ ゆ る三 角 詐 欺 に お い て は通 常 の事態で あ り,判 例 も認 め る ところで あ る10)。た だ,そ うな る と,加 盟 店 が カ ー ド会 社 の 財 産 を処 分 す る とい う こ とに な るはず で あ るが,両 者 の間 に こ の よ う
者 又 ハ 宿 泊 者 力支 払 ノ意 思 ナ キ ニ 拘 ラス 其 事情 ヲ告 ケ ス人 ヲ欺 ク意 思 ヲ以 テ単 純 二 注 文 又 ハ 宿 泊 ヲ為 ス トキ ハ 其 注 文 又 ハ 宿 泊 ノ 行 為 自体 ヲ以 テ 欺 岡行 為 ナ リ ト認 ム ル ヲ当 然 ナ リ トス」 と判 示 して い る。 さ らに,最 決 昭 和43年6月6日 刑 集22巻6号434 頁 。
10)た とえ ば,大 判 大 正1年11月28日 刑 録18輯1431頁,大 判大 正6年11月5日 刑 録23輯 1136頁,最 判 昭和24年2月22日 刑 集3巻2号232頁,最 判 昭 和45年3月26日 刑 集24 巻3号55頁,等 。
ク レ ジ ッ ト 。カ ー ドの 不正 使 用 と詐 欺 罪 199
な関 係 を認 め る こ とが で き るか が 次 に 問 題 とな っ て くる。 他 方,処 分 行 為 者 と 被 害 者 と を一 致 させ る構 成 を と る場合 に も問題 が あ る。 処 分 行 為 者 と被 害 者 と を一 致 させ る構成 はカ ー ド会社 と加 盟店 の そ れ ぞ れ に つ い て考 え られ るが,カ ー ド会 社 を 処 分 行 為 者 で あ る と同 時 に被 害 者 で あ る とす る構 成 は,欺 圏 ・錯 誤 と の関 係 で す で に述 べ た 困 難(加 盟 店へ の 支 払 を 欺 岡 ・錯 誤 に もとつ く処 分 行 為 と見 る こ とが で き るの か)に 再 び 直 面 す る こ とに な る。 ま た,加 盟 店 を処 分 行 為 者 で あ る と 同時 に被 害 者 で あ る とす るな らば,何 らか の か た ちで 加 盟 店 に対 す る被 害 を考 え る こ と にな るが(「 観 念 的 な被 害 」 とで も言 え よ う か),'そ れ とカ ー,ド会社 に現実に発生す る被害 との関係をどのよ うに考 えた らよいのかと い う問 題 が 生 じて くるの で あ る。
以 上 の よ うな問 題 点 が あ るな か で,有 効 な 自己 名 義 カ ー ドの不 正 使 用 の事 案 は,判 例 によ って,詐 欺罪 と して の一 致 した評 価 を受 けて きた 。 ま た,学 説 も, 若干 の無 罪説 を別 にす れ ば,こ の種 の事 案 に 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 め る点 に お いて は一 致 して い る と言 って よ い。 ただ,そ の 理 由 づ け に は い くつ か の異 な っ た も のが あ るので,次 に,従 来 の 判 例 と学 説 の 状 況 を 簡 単 に 見 て お く こ とにす る 。
H判 例 と 学 説 に お け る 取 り 扱 い
(1)判 例 の 対 応
こ の 種 の 事 案 に 対 す る判 例 は,現 在 ま で の と こ ろ 下 級 審 の も の の み が 存 在 し て い る が,そ れ ら は い ず れ も加 盟 店 に 対 す る1項 詐 欺 罪 を 認 め る 点 で 一 致 して
い る(和 歌 山 地 判 昭 和49年9月27日(確 定)判 例 時 報775号178頁,福 岡 高 判 昭 和56年9月21日(確 定)刑 事 裁 判 月 報13巻8・9号527頁,名 古 屋 高 判 昭 和 59年7月3日(確 定)判 例 時 報1129号155頁,東 京 高 判 昭 和59年11月19日 判 例 タ イ ム ズ544号251頁)u)12}。 し か し,個 別 的 な 点 で は そ れ ぞ れ の 判 示 に お い 11)も っ と も,原 審 段 階 に お いて は,無 罪 説 を 採 る 判例 もあ る。 た と えば,福 岡地 判 昭 和56年3月26日(前 掲 福 岡 高 判 の 原 審)お よ び 名 古屋 地 判 昭 和59年2月7日(前 掲 名 古 屋 高 判 の 原 審)は,高 裁 の判 決 文 に 引 用 さ れ てい る と こ ろか らす る限 りで は, い ず れ も,ク レジ ッ ト取 引 の 特 殊 性 と の 関係 で 加 盟店 に対 す る 欺 岡行 為 が 存 在 しな.
い等 と して 無 罪 を 言 い 渡 して い るよ うで あ る。
12)そ れ ぞ れ の判 決 文 は相 当 長 い もの で あ るか ら,参 考 の た め に,高 裁段 階で は じめて
て 若 干 の相 違 が あ る こ と は否 定 で きな い。 そ こで 欺 岡,錯 誤,処 分 行 為 の それ そ れ に つ い て各 判 例 の判 示 を見 て み る と,次 の よ うに な って い る。
欺 岡行 為 につ い て は,和 歌 山地 判 が 「代 金 支 払 の 意 思 お よ び 能 力が な く正 常 な取 引意 思 が な い の に これ あ るよ うに仮 装 して 各 加 盟 店 に カー ドを提 示 し」 た 点 に そ れ を 見,福 岡 高判 は 「カ ー ドの使 用(呈 示)自 体 が これ 〔信 販 会 社 に対 して立 替 払金 等 を支払 う意 思 と能 力=筆 者 注 〕 を あ るよ うに仮 装 した欺 簡行 為 」 で あ る と し,名 古 屋 高判 と東 京高 判 は,商 品代 金 を支 払 う意 思 も能 力 もな い の に これ あ るよ うに 装 った 点 を欺 岡 と見 て い る。
錯 誤 につ いて は,福 岡 高 判 だ け は そ の点 に つ い て の 明示 的 な言 及 を欠 いて い るが,他 の判 例 はす べ て,加 盟 店 な い しは そ の 従業 員が カ ー ド利 用者 に代 金 支 払 の意 思 や 能 力 が あ る と信 じ込 ん だ 点 に それ を 見 て い る。 ま た,錯 誤 との関 係 で 加 盟 店 の取 引拒 絶 禁 止 を どの よ う に評 価 す るか とい う点 に つ いて は,名 古 屋
詐欺罪 の成 立を 認め た福 岡 高 裁 の 判 決 文 だ けを 引 用 して お く。 「先 ず ク レ ジ ッ トカ ー ドを 利 用す る場 合 で も,そ れ が 売 買で あれ,飲 食 あ るい は 宿 泊 で あ れ,す べ て そ の 代 金 は利 用 客 が 負 担す る こ と にな る こ と は言 う まで もな く,右 代 金 は中 間 で 信 販会 社 に よ り加 盟店 へ 立 替払 され るが 、最 後 に利 用 客 か ら信 販 会 祇 へ 返 済 され るこ とが 前提 とな っ て,こ の制 度 が 組 立 て られ て い る こ とは 明 白で あ る。 した が って,会 員 が カ ー ドを 呈示 し売 上 票 に サ イ ンす る こ と は,と り も 直 さず 右 利 用 代 金 を 信 販 会 社 に立 替 払 して も らい,後 日 これ を 同会 社 に返 済 す る と の 旨 の 意 思 を 表 明 した もの に ほか な らず,カ ー ドの 呈示 を 受 け た加 盟店 に お いて も,そ の趣 旨で 利 用 客 か ら代 金 が 信 販会 社 に 返 済 され る こと を 当然 視 して利 用客 の求 め に応 じた もの と解 す るの が相 当で あ る。若 し利 用 客 に代 金 を 支 払 う意 思 や 能 力 の な い こ と を加 盟 店 が 知 れ ば, ク レ ジ ッ トカ ー ドに よ る取 引 を 拒 絶 しな け れば な らな い こ と信 義 則 上 当然 の こ とで あ り,こ の よ うな 場 合 に ま で右 拒 絶 が信 販会 社 に よ っ て禁 止 され て い る と は到 底 考 え られ な い 。一 見 確 か に,加 盟 店 は カ ー ド利 用 に よ る代 金 を信 販 会 社 か ら確 実 に支 払「って も らえ るか ら,利 用 客 の信 販会 社 に対 す る代 金 支 払 の 有 無 な ど にか か ず ら う 必 要 が な い か の よ うに考 え られ が ちで あ り,こ の点 原 判 決 の無 罪 理 由 に も一 理 な い とは 言 え な い が,前 叙 の よ うな ク レ ジ ッ トカ ー ド制 度 の根 本 に さか のぼ って 考 え る と,一 面 的 な 見方 と言 う ほか は な い。 結 局被 告 人 が,'本 件 にお い て,信 販会 社 に対 して そ の立 替払 金 等 を支 払 う意 思 も能 力 も全 くな か った の に,ク レ ジ ッ トカ ー ドを 使 用 した以 上,加 盟 店 に対 す る関 係 で,右 カ ー ドの 使 用(呈 示)自 体が これ を あ る よ うに 仮装 した 欺 岡行 為 と認 め る のが 相 当で あ り,そ の 情 を 知 らな い加 盟 店か らの 財物 の 交付 を受 け,若 し くは財 産 上 の 利 益 を 得 た 本 件 各行 為 は,詐 欺罪 に 当 た る と 言 わ な け れ ば な らな い 。」
ク レ ジ ッ ト ・カ ー ドの 不 正 使 用 と詐 欺 罪 201
高 判 が,こ の よ うな 場 合 は加 盟 店 規 約 の 趣 旨(「 正 当 な 商行 為 に の っ とって 信 用 販 売 す る もの と し公 序 良俗 に 反 す る こ とは行 な わ な い」 旨の 規 定)に 沿 って 拒 絶 す る こ とが 許 され る と して 比 較 的 和 らげ た 表 現 を 用 いて い るの に対 して, 他 の 判 例 は いず れ も,一 定 の 場 合(会 員 に 代 金 支 払意 思 も能 力 もな い ことが 明
らか な た め に,カ ー ド会 社 に不 良 債 権 が 発 生 す るお そ れ の あ る場 合)に は加 盟 店 は取 引 を拒 絶 す る信 義 則 上 の 義 務 を 負 う と して い る。
処 分行 為 に っ いて は,い ず れ の判 例 も,加 盟 店 な い しは そ の 従 業 員が 物 品 を 交付 した点 に そ れ を見 て い る。 ただ,処 分 行 為 との 関 係 で 問 題 とな り うる損 害 に つ い て は,名 古 屋 高判 が 「各 商 品 を 被 告 人 に 交 付 した こ と 自体」 を 「各 加 盟 店 の 損 害」 で あ る と して,処 分 行 為 と損 害 と を表 裏一 体 の もの と理 解 して い る の に対 して,他 の判 例 は いず れ も,処 分 行 為 の 言 及 に と ど ま って 損 害 に まで は
触 れ て い な い13♪。
以 上 の よ うな 状況 の な かで 判 例 は全 体 と して 加 盟 店 との 関 係 で1項 詐 欺 罪 の 成立 を 肯定 して い るので あ るが 鞠,ひ とつ ひ とつ の 判 決 そ れ 自体 は,多 かれ 少 な か れ 根 拠 と して 充 分 で な い部 分 を有 して い る ので はな いか と い う印 象 が 残 る の も事 実 で あ る。 したが って,そ の意 味 で は,従 来 の4件 の 判 例 理 論 のす べ て を ひ とっ に ま とめ る こと に よ っ て,は じめ て この 種 の 事 案 に 対 す る対 応 の仕 方
13)な お,他 人 名 義 の カ ー ドを不 正 に使 用 した事 案 に対 して 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 め た判 例 の なか に は,損 害 の 点 につ い て 比 較 的 詳 し く判示 して い る ものが あ る。 た とえ ば, 東 京 高 判 昭 和56年2月5日(確 定)東 高 刑 時 報32巻2号9頁 は,「 犯 人 の 欺 岡 行 為
に よ り錯 誤 に陥 り,そ の 結 果 犯 人 に 物 品 等 財 物 を交 付 し,あ る い は犯 人 を 宿 泊 飲 食 させ る等 して その 代 金 相 当 額 の 財 産 上 の 利 益 を 提供 した場 合 に は,そ れ だ げで 詐 欺 罪 は成 立 し,そ の結 果被 害 者 の 全 体 と して の 財 産 的 価値 が 減少 す る こ と は必 要 で は な いか ら被 欺 岡者 と第 三 者 との 関 係 にお い て 私法 上 あ る い は 当 事者 間 の約 定 等 に も とづ き そ の損 害 が補 填 され る こ とが あ って も詐 欺罪 の 成立 は 妨 げ られ ず,ま た も と も と財物 の交 付,財 産 上 の 利 益 の提 供 に よ るそ れ らの 占有 の 喪 失 自体 を 損害 と解 し う るか ら… …損 害 の 補 墳が あ って も財 産 上 の 損 害 が 発生 しな か った とい い得 な い こ とは 明 自 で あ 」 ると して い る 。
14)な お,東 京 高 判 の み は,2項 詐 欺罪 の成 否 の 可 能 性 に っ い て も言 及 し,カ ー ドの不 正 使 用 が 刑 法246条1項 の 詐欺 罪 の構 成 要件 に 該 当す る 乙 とが 明 らか で あ る以 上,
「加 盟 店 を 介 して の ク レ ジ ッ ト会 社 に対 す る同 条2項 の 詐 欺 罪 の 成 否 を 論 ず る要 は な い」 と して い る。
と して 説 得 力 の あ る もの に な って い る,と 言 って もよ いよ うに 思 わ れ る。
(2)学 説 の 状 況
判 例 が 加 盟 店 に 対す る1項 詐 欺 罪 の成 立 を一 致 して 認 め るの に対 して,学 説 に お いて は,無 罪 説,1項 詐 欺 説,2項 詐欺 説 の それ ぞ れ が 主 張 され て い る。
それ らの 考 え 方 の 概要 は,次 の通 りで あ る。
無 罪 説 は15),ク レ ジ ッ ト取 引 の特 殊性 と の 関係 で 詐 欺 罪 の構 成 要 件 が 充 足 さ れ な い とす る もの で あ る。 ま ず 加 盟 店 との 関 係 で は,名 義 人 自 身が 有 効 な カー ドを使 用 して い る以 上 加 盟 店 は 取 引 を 拒 絶 で きな い はず で あ る か ら,行 為 者 が ど の よ う な 内心 に したが って 使 用 して い るか は 問 題 に な らず,し たが って 加 盟 店 に は錯 誤 が な く,欺 圏行 為 も否 定 され る とす る。 次 に カ ー ド会社 との 関係 で は,名 義 人 に よ る不 正 使 用 が か りに 判 明 し た と して もカ ー ド会 社 は そ の こ と を 理 由 として加盟 店 に対 す る支 払 を 拒否 で き な い仕 組 にな って い る ので あ るか ら, 加 盟店 へ の 支払 は い わ ば 自動 的 に な され る もの で あ り,そ れ と不 正 使 用 との 間 に は 因果 関係 が 存 在 しな い とす る。 こ の2点 を 主 な 根 拠 と して,無 罪説 は,1 項 詐 欺 罪 と2項 詐 欺 罪 の いず れ の成 立 を も否 定 す る ので あ る16)17〕。
1項 詐 欺 説 は,さ らに ふ たつ の立 場 に わ かれ る。 ひ とっ は,判 例 と ほぼ 同 様 の 論 拠 に よ って もっ ぱ ら加 盟 店 と の関 係 で1項 詐 欺 罪 の 成 立 を認 め る もの で あ り,検 察 官 を中 心 に 主 と して 実務 家 の人 々 に よ って 支 持 され て い る(1項 詐 欺 説 ①)18)。もうひ とつ の 立場 は,欺 岡 と錯 誤 の認 定 につ いて は判 例 な い し1項 詐 15)石 井 芳 光 ・手 形 研 究161号59頁 以 下 。 な お,香 川教 授 も,1項 詐 欺 罪 と2項 詐 欺 罪 吃 の いず れ にっ いて も その 成 立 に消 極 的 な 態 度 を示 して お られ る こ とか ら
,無 罪 説 に 立 たれ る もの と思 わ れ る。 香 川 達 夫 「小切 手 カ ー ドの呈 示 支 払 い と詐 欺 罪 の 成 否 」 同 ・刑 法 解 釈 学 の現 代 的 課 題(昭 和54年)497頁,同 ・刑 法 講 義 〔各 論 〕(昭 和57 年)452頁 注 §,同 「法 解 釈 の 限 界 」 同 ・〔ゼ ミナ ー ル 〕 刑 法 の 解 釈(昭 和60年) 179頁 以 下,参 照 。
16)な お,石 井 芳 光 ・手 形 研 究161号60頁 蓮 は 背 任 罪(刑 法247条)の 成 立 可 能 性 に つ い て も言 及 し,「 他 人 ノ 為 メ其 事 務 ヲ処 理 スル 者 」 と い う要 件 が 欠 け る と して い る。
17)し た が って,無 罪 説 に よれ ば,有 効 な 自 己名 義 カ ー ドの 不 正 使 用 は ク レ ジ ッ ト取 引 に 内在 す る必 要 悪 だ とい う こ とに な り,そ れへ の対 応 と して は信 用 調 査 の 強 化 や コ ンピ ュ ー ター ・シス テ ム の 導 入 に よ る取 引状 況 の 把 握 等 の 自衛 策 を 講 じる以 外 に は な い こ と にな る。 石 井 芳 光 「ク レ ジ ッ ト ・カ ー ドの不 正 利 用 と法 律 問 題 く そ の5・
完 〉 」 手 形 研 究166号(昭 和45年)68頁 以 下 参 照 。
ク レジ ッ ト ・カ ー ドの 不 正 使 用 と詐 欺 罪 203
欺 説 ① と ほ ぼ 同様 の 立 場 を 採 りな が ら,処 分行 為 と損害 との 関係 につ いて,現 実 に 財 産 上 の 被 害 を 受 け て い るカ ー ド会 社 の存 在 を 強調 す る もので あ る(1項 詐 欺説 ②)19)。す なわ ち,判 例 お よ び1項 詐 欺説 ①が 加 盟 店 の処 分行 為 それ 自体 を損 害 と した り,処 分 行 為 者 と財 産上 の 被 害 者 とは 同一 で な くて もよ い と の認 識 の もと にカ ー ド会 社 の 存在 に ほ とん ど 言 及 しな い で,も っ ぱ ら加 盟 店 と の関 係 で1項 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 め るの に 対 して,1項 詐 欺説 ② は,処 分 行 為 者 と被 害 者 と は同一 で な くて よい と しなが らも,現 実 に 財産 上 の 被 害 を受 け て い る カー ド会 社 の存 在 を無 視 す る こ とは で きな い ど して,カ ー ド会 社 を含 め た加 盟 店 と の関 係 で1項 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 め る もの で あ る。
2項 詐 欺 説 もふ たつ の 立 場 に わ け る こ とが で き る。 ひ とっ は,事 態 を も っぱ らカ ー ド会 社 と の関 係 で と らえ,将 来 会 員 か ら約 款 に従 って代 金 決 済が な され る と誤 信 した点 に欺 圏 と錯 誤 を 見,そ の よ うな 誤信 に も とつ い て加 盟 店 に支 払 牽な した こ と を処 分 行 為 と して,カ ー ド会 社 に 対 す る2項 詐 欺罪 の成 立 を認 め る もの であ る(2項 詐 欺説①)20㌔ もうひ とつ の立 場 は,加 盟 店 との 関 係 で 欺 圏,
18)佐 藤 勲 平 「自 己名 義 の ク レ ジ ッ トカ ー ドの不 正 使 用 と詐 欺 罪 」 研 修326号(昭 和50 年)52頁 以 下,村 山 弘 義 「ク レ ジ ッ ト ・カ ー ド会 員 に よ る不 正 使 用 と詐 欺 の 成 否 」 捜 査研究24巻10号(昭 和50年)71頁 以 下,土 本 武 司 ・前 掲 書237頁 以 下,原 田 國 男 ・ 前 掲 論 文239頁,北 村道 夫 「ク レ ジ ッ トカ ー ドと詐 欺 罪 」 捜 査 研 究32巻11号(昭 和 58年)101頁 以 下,大 塚 仁 。刑 法 各 論 上 巻 〔改 訂 版 〕(昭 和59年)508頁 以 下,小 谷 文 夫 ・前 掲 論 文14頁 以下,米 澤 慶 治 「会 員 の ク レジ ッ トカ ー ド不 正 利 用 と詐 欺 」 研 修436号(昭 和59年)45頁 以 下,古 田佑 紀 「ク レ ジ ッ ト ・カ ー ドの 不 正 利 用 と 詐 欺 罪 の成 否 」 警 察 学 論 集38巻3号(昭 和60年)150頁 以 下,同 「ク レ ジ ッ トカ ー ド
の不 正 使 用 」 旬 刊 商 事 法 務1034号(昭 和60年)35頁 以 下 。 な お,吉 田 敏雄 「自 己名 義 の ク レ ジ ッ トカ ー ドの 不 正 使 用 と詐 欺 罪 」 法 学 セ ミナ ー337号(昭 和58年)67頁 も同 旨 で あ ろ うか 。
19)芝 原 邦 爾 「ク レ ジ ッ トカ ー ドの 不 正 使 用 と詐 欺 罪 」 法 学 セ ミナ ー334号(昭 和57年) 117頁,吉 川 経 夫 ・刑 法各 論(昭 和57年)167頁,大 谷 実 ・刑 法 講 義 各 論(昭 和58 年)267頁,同 ・刑 法各 論 の重 要 問 題(中)(昭 和58年)58頁 以 下,中 山 研 一,刑 法 各 論(昭 和59年)272頁 注Lな お,加 盟 店 と カ ー ド会 社 の 双 方 を 被 害 者 とす る 内 田 教 授 も,こ の立 場 に数 えて よ いで あ ろ う。 内田 文 昭 「詐 欺 罪(2)一 ク レジ
「 ッ トカ ー ドの 不 正 使 用 と 詐 欺 罪 の 成 否 一 」 警 察 公 論38巻4号(昭 和58年) 111頁 以 下,同 ・刑 法各 論 〔第 二 版 〕(昭 和59年)314頁 以 下,同 「ク レ ジ ッ トカ ー
ドの 不 正 使 用 と詐 欺 罪 の 成否 」判 例 タ イ ム ズ548号(昭 和60年)32頁 以 下,参 照 。 20)藤 木 英 雄 ・刑 法 各 論(昭 和47年)369頁 以 下,兼 元 俊 徳 ・前 掲 論 文63頁 以 下 。
錯 誤,処 分 行 為 を 認 め,カ ー ド会 社 を被 害 者 と見 る点 で1項 詐 欺 説 ② と同 様 の 論拠 に立 ち なが ら,加 盟 店 へ の 代 金 支 払 が 口座 振 替 に よ って 行 な わ れ る こ とに 着 目 して,2項 詐 欺罪 の 成 立 を 認 め る もの で あ る(2項 詐 欺説 ②)2D。 したが っ て,1項 詐 欺説 ② と2項 詐 欺説 ② は,詐 欺 罪 そ の もの を認 め る論 拠 にお いて は 本質 的 な相違が な く,加 盟 店 に 対 す るカ ー ド会 社 の 支 払 を代 金 そ の もの(財 物)
と見 る か 利益 と見 るか の点 で のみ 相 違 して い る と言 え よ う。
この よ うな 判例,学 説 の状 況 の な かで,我 々 は,こ の種 の事 案 を どの よ う に 考 え て い け ば よ い の で あ ろ うか。 問 題 は,こ の種 の事 案 に詐 欺 罪 が 成 立 す る の か 否 か,ま た 詐 欺 罪 が 成 立 す る と した らそ れ は1項 詐 欺 罪 な のか2項 詐 欺 罪 な の か,と い う点 に あ る。
皿 詐 欺 罪 の成 否
検 討 に あた って は,ク レ ジ ッ ト ・カー ド取 引 の 特殊 性 と詐欺 罪 の構 成 要 件 と の関 わ りが 問 題 と され な けれ ば な らな い。 そ こで,以 下,欺 岡行 為 ・錯 誤,処 分 行 為 ・損 害 の それ ぞ れ に つ い て 個 別 的 に考 察 して い く こと に す る 。
(1)欺 貿 行 為 と 錯 誤
は じめ に,1項 詐 欺 説 ①,② お よ び2項 詐 欺 説 ②が 主 張 す るよ うな,加 盟 店 と の関 係 で 欺 圏行 為 と錯 誤 が 存 在 す る と い う考 え 方 に つ い て検 討 してみ よ う。
有 効 な 自 己名 義 カー ドの 不 正 使 用 と い う事 案 に お い て は,行 為 者が 加 盟店 か ら物 品 を騙 し取 っ た り,サ ー ヴ ィ ス代 金 を 踏 み 倒 そ う と して い る点 は問 題が な い と言 って よ い。 その 意 味 で は,行 為 者 の 側 にお いて は,詐 欺 罪 の 故意 に欠 け ると こ ろ は全 くな い。 また,そ の 方 法 は,自 己に 支払 意 思 も能 力 もな い の に か かわ らず,そ の双 方 を兼 ね 備 え て い る通 常 の 利 用 者 と同 じよ うに 有 効 な カ ー ド を利 用 して 購 入 等 を行 な う と い う も ので あ る。 したが って,そ の 限 りで は,い わゆ る無 銭 飲 食 の 事 案 と も何 ら異 な る と こ ろが な い。 しか し,無 銭 飲 食 の事 案
21)山 口厚 「ク レジ ッ トカ ー ドの 不 正 使 用 」 平 野 龍一 二松 尾 浩也 編 ・刑 法判 例 百 選 皿各 論(第 二 版)(昭 和59年)96頁 以 下,中 森 喜 彦 「ク レ ジ ッ トカ ー ドの 不 正 使 用 と詐 欺罪 の成 立 」 判 例 タ イ ム ズ526号(昭 和59年)79頁 以 下 。
ク レジッ ト・カ ー ドの不正使用 と詐欺罪205
と決 定 的 に異 な るの は,加 盟 店 は カ ー ド会 社 との 契 約 上(取 引 拒 絶 禁 止特 約 に よ り)ご く例 外 的 な場 合 を 除 い て カ ー ド取 引 を拒 絶 で きな い立 場 に 置 か れ て い る とい う点 で あ る。 そ こで,加 盟店 の この よ う な立 場 を強 調 して,カ ー ド自体 の 有 効 性 と事 故 カ ー ドで な い こ とお よ び名 義 人 と利 用 者 の 同一 性 を確 認 した以 上 取 引 に応 じな けれ ば な らな い とす るの で あ れ ば,自 己名 義 の有 効 な カ ー ドを 利 用 して い る限 り不 正 使 用者 もい わ ば 自動 的 に物 品 購 入等 が 可 能 だ と い う こ と に な る。したが って,こ のよ うな考 え 方 を採 る限 り,加 盟 店 は 行 為 者 の 主 観 等 と一 切 無 関 係 に取 引 に 応 じざ るを え な い こ とに な り,錯 誤(そ して そ の前 提 と して の 欺 岡)の 要 件 は充 足 され な い こ とに な る。 無 罪説 の主 張 は,ま さ に この よ う な考 え 方 に立 った もの だ と言 って よ い。
加 盟 店 に対 して 原 則 的 に 取 引 拒 絶 を 禁 止 す る条 項 は,た しか に,ク レジ ッ ト 取 引 の 円滑 な運 用 と い う観 点 か らは必 要 不 可 欠 な もの で あ る と言 って よ い。 そ
の意 味 で は,無 罪 説 の 論 拠 が か な り説 得 的 な もの で あ る こ とは 認 め ざ る を得 な い。 しか し,加 盟 店 の この よ うな 義 務 を 例 外 な く強 調 し,一 貫 す る こ とは は た して妥 当 な の で あ ろ うか 。 た とえ ば,何 らか の 事 情 で 加 盟 店 が 利 用 者 に 支払 意 思 と能 力 が な い こ とを察 知 した よ うな 事 案 にお いて,そ の よ うな 場 合 に まで 加 盟 店 が 取 引 に応 じな けれ ば な らな い とす る こ とは,か え って 実 態 に そ ぐわ な い こ とに な りは しな い だ ろ うか 。 そ の よ うな場 合 に は,取 引制 度 の 効 率 的 な 運 用 の た め の 条 項 を 徹底 す るので は な く,通 常 の売 買 等 に お け る一 般 原 則 によ って 取 引 を 拒 絶 しう る と考 え るべ きで あ ろ う22}。したが って,こ の よ うな 事 案 を想
22)こ の 点 にっ き,牟 とえ ば,古 田 佑 紀 ・警 察 学 論 集38巻3号153頁 は,「 カ」 ド使 用 者 の 代 金 決 済 の 意 思 の 有 無 が一 般 的,類 型 的 に加 盟店 と カ ー ド使 用者 と の 間 の取 引 に おけ る判 断 の 基 礎 か ら民 事 法 的 に は 排 除 さ れ て い て も,使 用者 の行 為 が 人 を 欺 圏 した と い う評 価 が 可 能 な らば,詐 欺 罪 の 成立 を 認 め るの に 困 難 は な い」 とさ れ,同 151頁 は,「 カー ド使 用 者 に お い て,ク レ ジ ッ ト会 社 に 対 して 代 金 決 済 の 意 思 がな
い こ とが 判 明 して い る と きに カー ドに よ る取 引 を す る こ とが 拒 絶 で き るこ と又 は拒 絶 す べ きで あ ・る こ とは,法 律 以 前 の 条 理 の 問 題 と して余 りに も当 然 で あ っ て,右 の よ うな約 款 〔取 引拒 絶 禁 止 約 款 冨筆 者 注 〕 の 存 在 を も って この よ うな 場 合 に ま で, 加 盟店 が 取 引義 務 を 負 うとす るの は,い か に も非 常 識 な 理 解 とい わ ざ る を え な い 」
と され て い る。 これ に対 して 、 無 罪 説 に立 つ 石 井 芳 光 ・手 形 研 究161号59頁 以 下, 香 川 達 夫 ・〔ゼ ミナ ール 〕刑 法 の 解 釈179頁 以 下 は,取 引 拒 絶 禁 止 条 項 を ク レ ジ ッ
定 す る限 りに お い て,加 盟店 は,支 払 意思 の有 無 とい っ た行 為 者 の 内 心 に 対 し て も重 大 な 関心 を持 つ わ けで あ り,欺 岡 され る こ と もあ る と言 うべ きで あ る。
もっ と も,加 盟 店 は利 用 者 が カ ー ドを不 正1ご使 用 して い るの で はな い か とい う こ とを か りに 疑 っ て 取 引 に応 じた と して も,カ ー ドの有 効 性 等 の確 認 に手 落 ち が な い 限 りカ ー ド会 社 か ら確 実 に代 金 を 回収 し う るので あ る か ら,加 盟 店 の側 だ けか らす れ ば,行 為 者 の 内 心 を 問 題 に す る必 要 は 全 くな い と も言 い う る。 し か し,ご く例 外 的 に で は あ れ,カ ー ド会 社 が倒 産 して しま っ た り,加 盟 店 の手 続 違 背 を 理 由 に カー ド会 社 か ら支 払 を 拒 絶 され る こ とに よ っ て,加 盟 店 が 直 接 利 用者 に対 して代 金 を 請求 しな けれ ば な らな い事 態 も絶 無 と い うわ けで はな い 。
したが って,こ の意 味 にお いて も,加 盟 店 は 利 用 者 の 支 払 意 思 お よ び 能 力 に対 して 重 大 な関 心 を有 して い る と考 え る こ とが で き るの で あ る。 ま た,よ り根 本 的 に は,ク レ ジッ ト取 引が 当事 者 相 互 の 高 度 の 信 用 関 係 を 基 礎 に 成 り立 って い る もので あ る こと との 関 係 で,加 盟 店 も,そ の 制 度 の 円 滑 な 運 用 と発 展 の一 翼 を担 う存 在 と して,不 良 債 権 の 発 生 防 止 に努 め な けれ ば な らな い こ とは 明 らか で あ ろ う。 そ して,こ の点 か らす れ ば,加 盟 店 が 何 らか の 事 情 で 利 用 者 に 支 払 意思 も能 力 もな い こ とを知 って い た とい うよ うな稀 有 で 偶 然 的 な事 態 を 引 き合 い に出す まで もな く23},ク レジ ッ ト取 引全 体 と の関 わ りの な か で,加 盟 店 は カー
ド利 用 者 の 内 心 につ いて 重大 な 関 心 を有 して い る と言 い う るの で あ る24)。
以上 の と こ ろか ら明 らか な よ うに,加 盟店 は,行 為 者 の 内心 と の関 係 で 欺 岡 され る こ とが あ り,し た が って 錯誤 に 陥 る こ と もあ る とい う こ とに な る。 す な わ ち,行 為 者 が 代 金 の 支 払 意思 と能 力 を 欠 い て い るに もか か わ らず,そ れ らを 兼 ね 備 え た 通 常 の カ ー ド利 用者 と同 じよ うな態 度 で カ ー ドを加 盟 店 で 利 用 す る
ト取 引 の 本 質 的 部分 と して 強 調 して い る 。
23)中 森 喜 彦 ・前 掲 論文79頁 は,「 加 盟 店 が会 員 の支 払 い能 力 ・意 思 に っ い て 知 る こ と は ま っ た く の偶 然 に属 す る。 この よ うな 偶 然 を 根 拠 と して 加 盟 店 に 対 す る欺 圏 ・詐 欺 を認 め る こ と は,正 当 とは 思 わ れ な い」 と され な が ら,「 加 盟 店 が 販 売 に 応 じ な か った で あ ろ う とい う事 情 を,カ ー ド会 社 に 対 す る 関 係 で 評価 す る こと は不 可 能 で
は な い」 と され て い る。
24)ク レ ジ ッ ト取 引 全体 と の 関わ りを 強 調す る立 場 と して,村 山 弘 義 ・前 掲 論 文72頁 以
ク レ ジッ ト 。カ ー ドの 不 正 使 用 と詐 欺 罪 207
(換 言 す れ ば,鍛 疵 あ る信 用 内 容 を 秘 匿 しτ取 引行 為 をす る)点 に欺 圏 行 為 が 存 在 し25}26},加盟 店 側 が その よ うな 行 為 者 を 通 常 の カ ー ド利 用 者 とみ な した点 に錯 誤が 存 在 す る とい うこ と に な る ので あ る。
次 に,カ ー ド会 社 と の関 係 で 欺 岡 ・錯 誤 を 認 め よ う とす る見 解(2項 詐 欺説
① の 立 場)に つ い て考 えて み よ う。
2項 詐 欺説 ① は,加 盟 店 が カ ー ド会 社 か ら確 実 に 代 金 を 回 収 し う る立場 に あ る こ とを 重 視 して,も っぱ ら現 実 的 な財 産 上 の被 害 が 発 生 す るカ ー ド会 社 を 詐 欺 の 相 手方 と して 把 握 す る もの で あ る。 したが って,こ の見 解 に よ れ ば,カ ー ド会 社が 加 盟 店 に対 して支 払 を なす に あ た って 後 日そ れ が 会 員 か ら回 収 で き る と考 え た 点 に 錯 誤 が存 在す る とい う こ とに な る。 と こ ろで,錯 誤 の 前 提 とな る 欺 岡 行 為 につ いて,こ の 立 場 は,「 加 盟 店 が 買 上 票 を 受 領 した 時 点 」2ηな い し は行 為 者 が 「売 上 票 に サ イ ン七 て加 盟 店 に 交付 した時 点 」28}を欺 圏 の 着 手 と 考 え て い る。 したが って,こ の 立 場 に よ れ ば,加 盟 店 が 売 上 票 を受 預 して そ の1 部 を カー ド会 社 に 送 付 した点 に 欺 岡行 為が 存 在 す る こ と に な る。 しか し,そ う
コ
だ とす る と,こ の よ うな 事 実(加 盟 店 に よ る請 求 用売 上 票 の送 付)を 行 為 者 に
の の サ
よ る欺 岡行 為 と解 す る の は困 難 にな るの で は な い だ ろ うか29)。ま た,か り に間 接 正 犯 の形 態 に よ る欺 岡 を 肯 定 す る と して も30),カ ー ド会 社 は行 為 者 の 不 正 使 用 を 察知 して い た 場合 に も加 盟 店 が 必 要 事 項 を落 度 な く確 認 して取 引 した以 上 代 金 支 払 を 拒 杏 で きな い の で あ るか ら,カ ー ド会 社 に は錯 誤 が 存 在 しな い こ と
下,古 田佑 紀 ・警 察 学 論 集38巻3号 工53頁以 下,同 ・旬刊 商 事 法 務 エ034号37頁 。 25)こ の よ うな 欺 圏行 為 を作 為 と見 るか不 作 為 と見 るか は ひ とつ の問 題 で あ るが ,無 銭
飲食 の 事案 と同様 に作 為 と見 る こと が で き よ う。 大 谷 実 ・刑 法 各 論 の 重 要 問 題(中) 62頁 。 な お,従 来 の 判 例 の うち,和 歌 山 地判 と 福 岡高 判 は 明 確 に作 為 的 構 成 を と っ て い るが,名 古 屋 高 判 と東 京 高判 は こ の点 必 ず し も明 らか で はな い 。
26)も っ と も,こ の よ う に考 え る と,欺 岡 ・錯 誤 の 内容 が 具 体 的 事 情 か ら遊 離 して,相 当程 度 観 念 化 され て しま う こ とは 否 定 で き な いで あ ろ う。
27)藤 木 英 雄 ・前 掲 書370頁 。 28)兼 元 俊 徳 ・前 掲 論 文64頁 。
29)内 田 文 昭 ・警 察公 論38巻4号114頁 注 亘 。
30)こ の場 合,行 為 者 が ク レ ジ ッ ト取 引 の仕 組 を 利 用 して,加 盟 店 を道 具 と して カ ー ド 会 社 を欺 圏 した とい う構 成 を とれ ば,間 接正 犯 に よ る 欺 岡 を 認め る こ と も一 応 可 能 で あ ろ う。 な お,内 田文 昭 ・警 察 公 論38巻4号113頁 。
に な る。 この よ うな 場 合 に錯 誤 の存 在 を肯 定 しよ う とす るの で あ れ ば,加 盟 店 に お いて 生 じた 錯 誤 が カ ー ド会 社 に 引 き継 が れ た と い うよ う な構 成 を と る以 外 に は な い で あ ろ う。 しか し,加 盟 店 に 錯誤 が 生 じて い る こ と を認 め るの で あれ ば,な に もわ ざわ ざカ ー ド会 社 を 登 場 させ て く るま で もな く,加 盟 店 に対 す る 欺 圏 ・錯 誤 を 肯 定 して お け ば 充 分 で あ る。 しか も,行 為 者 自身 は加 盟 店 か ら物 品 等 を騙 し取 ろ う とい う認 識 を も って 行 為 して い るのが 通 常 で あ る と考 え られ る こ とか らも3n,加 盟 店 との 関 係 で 欺 岡 ・錯 誤 を 肯 定す る こ との方 が 素 直で あ ろ う 。
この よ うに考 え た場 合,カ ー ド会 社 との 関 係 で 欺 岡 ・錯 誤 を 肯 定す る考 え方 は,相 当困 難 が あ る と言 わ ざ るを え な いの で あ る。
(2)処 分 行 為 と 損 害
便 宜 上,2項 詐 欺 説 ① の 立 場 か ら検 討 す る こ とに す る。
2項 詐 欺説① は,後 日会員 か ら支払 って も らえ るで あ ろ う こ とを 信 頼 して カ ー ド会 社が 加 盟 店 に対 して 支 払 を なす こと を処 分 行 為 と見 て い る。 これ は,カ ー ド会 社 に現実 の財産 的 被 害 が 生 じて い る こ とを 重 視す る もので あ る。 す な わ ち, 詐 欺 罪 に お け る損 害 を 現実 的被 害 と 同視 し,し か も処 分 行 為 者 と被 害 者 とを一 致 させ る と い う構 成 を と って い るの で あ る。 したが って,そ の 意 味 で,こ の 考 え方 は常 識 的 な 見 方 と一 致 して い る と言 って よ い。 しか し,他 方,こ の 考 え 方 は,ク レ ジ ッ ト取 引 に お け るカ ー ド会 社 と加 盟店 との関 係 を看 過 して い る と言 わ ざ るを え な いで あ ろ う。 す な わ ち,カ ー ド会 社 は,加 盟 店 が 必 要 事 項 の確 認 の うえ取 引 に応 じて 売 上 票 を 送付 して きた以 上,加 盟 店 に対 す る支 払 を拒 む こ とはで き な い ので あ る。 つ ま り,カ ー ド会社 は,カ ー ド利 用 者 の支 払 意 思 や 能 力 に重 大 な関 心 を た と え持 って いた と して も,そ の こ とを 理 由 と して加 盟 店 へ の代 金 支 払 を左 右 す る立 場 に は な く,言 わ ば 自動 的 に加 盟 店へ の支 払 を余 儀 な く され て い る ので あ る。 したが って,後 日会 員 か ら支払 っ て も ら う こ とが で き る と考 え た点 に カ ー ド会 社 の 錯 誤 を 認 め うる と して も,加 盟 店 との 関 係 が この よ うな もの で あ る限 り,加 盟店 へ の代 金 支払 は錯 誤 に も とつ い た もの で はな い
31)中 森喜彦 ・前掲論文79頁,米 澤慶治 ・前掲論文48頁。