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<短 報>
わが国における肝細胞癌合併アルコール性肝硬変患者の特徴
堀江 義則
1)2)*山岸 由幸
2)海老沼浩利
2)日比 紀文
2)はじめに:戦後,わが国におけるアルコールの総消 費量は著明な増加を示し,飲酒者数の増加のみならず,
成人一人当たりのアルコール消費量も増加してきた.
最近,総消費量は若干の減少傾向を示しているが,肝 疾患におけるアルコール性肝障害の比率は増加傾向に ある.近年,女性の飲酒率が著明に増加している.女 性においては,男性より少量かつ短期間で種々の程度 の肝障害をきたし,また,治療後に再燃も起こしやす いことが知られているが,疫学的研究は少ない.また,
糖尿病や肥満が肝硬変から肝細胞癌(HCC)への進展 の危険因子であることが指摘されている1)〜3).今回,全 国規模でアルコール性肝硬変患者についてのアンケー ト調査を実施し,肝硬変から HCC への進展における飲 酒量,性差に加え,糖尿病や肥満などの生活習慣病の 影響について検討した.
方法:全国の日本消化器病学会認定,関連施設 1234 施設に対して平成 19 年度(平成 19 年 4 月〜平成 20 年 3 月)に入院した肝硬変患者の成因についてのアン ケートを行った.アルコール性肝硬変患者については,
飲酒量,飲酒期間,性別,年齢,身長,体重,現病歴,
既往歴を調査した.HCC 合併例と非合併例で,性差や 肥満や糖尿病の合併率について検討した.慶應義塾大 学医学部倫理委員会の承認を得て,アンケート調査を 行った.
肝硬変の診断は,剖検,腹腔鏡,画像検査により形 態的に明らかなもの,および臨床的に食道静脈瘤,腹 水,脳症などを有するか血液,凝固,生化学検査で肝 硬変と診断できるもとした.肝炎ウイルスマーカーで,
少なくとも HBs 抗原と HCV 抗体が陰性が判明してい るものを肝炎ウイルスマーカー陰性群とし,HBc 抗体,
HBs 抗体など他の肝炎ウイルスマーカー陽性が判明し ているものも,アルコール性の群からは除外した.
解析は Stat View(SAS Institute Inc.,Cary,NC)を 用いて,Macintosh Computer にて行った.多変量解析 を行い,有意差のある因子については,さらに
χ
(カイ)二乗検定を用いて有意差を検討した.P 値が 0.05 未満 の場合を有意差ありとした.
結果:郵送対象施設数 1234 施設に対して,データの 有効な回答のあった施設は 72 施設で,回答率は 5.8%
であった.肝硬変患者 8268 例(男:5333,女:2935)
についての回答があり,アルコール単独によるものは,
1114 例(14.1%)(男 967:,女:147)で,肝炎ウイル スマーカー陽性例をあわせると 1618 例(19.6%)(男 1377:,女:181)であった.飲酒量の調査しえたアル コール性肝硬変患者 1090 例から肝炎ウイルスマーカー 陽性例を除いた 863 例(男:752,女:111)について 検討した.多変量解析にて,年齢,性別,糖尿病と肥 満の合併率が,HCC 群と非 HCC 群の間で有意差のあ る因子であった.男性の平均年齢は,HCC 群 66.5 歳,
非 HCC 群 59.0 歳,女 性 の 平 均 年 齢 は,HCC 群 60.0 歳,非 HCC 群 54.5 歳と,男女とも HCC 群で高かった.
HCC の 合 併 率 は,男 性 が 32.3%(243
!
752;HCC 群!
母数),女性が 19.8%(22!
111)と男性で高く,糖尿 病合併群での HCC 合併率は 39.7%(151!376),肥満の 合併群では 44.6%(127!285)と,非合併群の 23.6%(114!369),23.9%(138!578)より有意に高かった(Ta- ble,Fig.).特に女性においては,糖尿病合併群での HCC 合併率は 55.6%(15
!
27)に対して糖尿病非合併群 では 8.3%(7!84),肥満の合併群では 68.2%(15!22)に 対し非合併群の 7.9%(7!89)と,その傾向がさらに顕 著であった.また,65 歳以上の群では,HCC の合併率 が 48.8%(157!
322)で,65 歳未満の群の 20.0%(108!
541)より有意に高かった.考察:HCC の合併率は男性と高齢者で高く,糖尿病 合併群,肥満の合併群での HCC 合併率は,非合併群よ り高かった.このことから,アルコール性肝硬変から の HCC の発癌には,年齢,男性,肥満,糖尿病が危険 因子となる可能性が示唆された.
1)国際医療福祉大学山王病院消化器内科 2)慶應義塾大学医学部消化器内科
*
Corresponding author: [email protected]
<受付日2010年10月2日><採択日2010年11月12日>
肝臓
52 巻 1 号 70―73(2011)
肝細胞癌合併アルコール性肝硬変 71:71
Fi g. Pr eval enc e of hepat oc el l ul ar c ar c i noma i n al c ohol i c l i ver c i r r hos i s wi t h or wi t h out di abet es mel l i t us ( panel A) and obes i t y ( panel B) .
Tabl e Pr eval enc e of di abet es mel l i t us , obes i t y, and hepat oc el l ul ar c ar c i noma i n al c ohol i c l i ver c i r r hos i s HCC Femal e
HCC Mal e
HCC Tot al
Number (+ ) : (- ) (+ ) : (- ) (+ ) : (- ) : 89 22 111
: 509
#243 752
: 598 265 863
: 12
*15 27
: 217
*136 349
: 229
*151 376
DM (+ )
: 77 7 84
: 292 107 403
: 369 114 487
DM (- )
: 7
**15 22
: 151
**112 263
: 158
**127 285
Obes i t y (+ )
: 82 7 89
: 358 131 489
: 440 138 578
Obes i t y (- )
: 20
***15 35
: 309
***183 492
: 329
***198 527
Any c ompl i c at i ons
: 69 7 76
: 200 60 260
: 269 67 336
No c ompl i c at i ons
: 78 13 91
: 355 95 450
: 433 108 541
Age< 65 y/o
: 11
****9 20
: 154
****148 302
: 165
****157 322
Age≧ 65 y/o
DM: di abet es mel l i t us , Obes i t y (+ ) : BMI , 25≦ , Obes i t y (- ) : BMI , < 25
*
P< 0. 001 vs Di abet es Mel l i t us (- ) gr oup.
**
P< 0. 05 vs Obes i t y (- ) ( BMI< 25) gr oup.
***
P< 0. 001 vs No c ompl i c at i on gr oup.
****
P< 0. 001 vs Age< 65.
#
P< 0. 05 vs f emal e.
アルコール性肝硬変の進展にも,肥満,糖尿病が危 険因子となる可能性が示唆されているが4),重要なこと は肥満,糖尿病を合併したアルコール性肝硬変患者が 増加している点である.肥満,糖尿病は HCC の発症頻
度を上げることが報告されている1)〜3).また,肥満,糖 尿病は,HCC 以外でも様々な癌の発症率を高めること が報告されている.今回の検討にて,わが国における アルコール性肝硬変患者でも,同様の傾向があること
肝 臓
52 巻 1 号(2011)
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が確認された.今後,肥満,糖尿病を合併したアルコー ル性肝硬変患者の増加を背景に,大酒家の HCC 患者の 増加が予想される.肝硬変に至る前に発症する大酒家 の HCC 患者も報告されており,肥満,糖尿病を合併し た習慣飲酒者の HCC のスクリーニングは必須と考えら れる.特に男女とも糖尿病との相関が強く,糖尿病を 合併した常習飲酒者では,常に肝発癌のリスクを念頭 に置く必要があると考えられる.また,アルコール単 独による HCC では,AFP 値正常例が多く5),大量飲酒 者,特に肥満や糖尿病を合併したハイリスクグループ においては,定期的な画像での検査が重要と考えられ る.
性差については男性で HCC の発症頻度が高いことが 報告されているが,女性における肥満,糖尿病の HCC 発症への関与については検討されてこなかった.わが 国の男性のアルコール性肝硬変患者で肥満,糖尿病が 合併している例は,純エタノール換算で 60-110 g
!
日と 飲酒量が比較的少なく,長期間飲酒して肝硬変に至っ ている例が多く,線維化が始まってから長期に飲酒し ていたことが HCC を合併しやすい理由のひとつに考え られる.一方,わが国の女性のアルコール性肝硬変患 者も,純エタノール換算で 60-110 g!
日の比較的少ない 飲酒量,飲酒期間で肝硬変を発症している例が多い4). どちらも肥満,糖尿病を背景とした非アルコール性脂 肪性肝炎(NASH)に近いもしくはそれとの overlap があるものと考えられるが,女性の方が発癌について は肥満,糖尿病の影響が強いと思われる.すなわち,女性では肥満,糖尿病がなくても男性よりアルコール 性肝硬変に至りやすいが,そこからの発癌はむしろ男 性の方が危険因子となり,女性では肥満,糖尿病など の他の危険因子の合併がないと発癌しにくいと考えら れた.肥満,糖尿病に伴うインスリン抵抗性や酸化ス トレスの増大,鉄代謝異常などが関与していることが 考えられるが,その機序については,今後のさらなる 検討を要する.
今回の検討では,アルコール性肝硬変を背景とした HCC でも高齢者にその合併率が高く,年齢が発癌のリ スクとなっていることが示唆される.今回の検討では 年齢や喫煙などの因子を補正していないため,男性の 方が平均年齢や喫煙率が高く,このような因子が性差 に関与した可能性もあり,今後症例を増やしての検討 が必要と考えられた.一方,飲酒量と HCC の合併率に 有意差を認めなかった.若年者に大量飲酒が多いため,
発癌率が低かった可能性もある.
さらには,今回の検討には入らなかった BMI が 25 を少し越した程度で,飲酒量も 2 合程度で,厳密には NASH や NAFLD(non-alcoholic fatty liver disease)に も,アルコール性肝障害にも含まれない,overlap stea- tohepatitis とでも呼ぶべき sub-clinical な肝障害患者か らの発癌もどのように取り扱うかの検討が必要と思わ れる.
結論:アルコール性肝硬変からの HCC の発癌には,
年齢,男性,肥満,糖尿病が危険因子となる可能性が 示唆された.アルコール性肝硬変は増加傾向にあり,
習慣飲酒者の肝発癌にも注意が必要である.
謝辞:今回のアンケート調査にご協力いただいた施設 (施 設名は平成 20-21 年度厚生労働科学研究報告書に記載) に深 謝いたします.
本研究は,平成 20-21 年度厚生労働科学研究費補助金(循 環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業) に係る研究事業に おける「わが国における飲酒の実態ならびに飲酒に関連する 生活習慣病,公衆衛生上の諸問題とその対策に関する総合的 研究」班(主任研究者 石井裕正)として,厚生労働科学研 究費補助金を受けて行われた.また,研究期間終了後,本論 文作成中の平成 22 年 5 月 31 日に逝去された主任研究者 石 井裕正先生のご冥福をお祈りし, 本論文を石井先生に捧げま す.
索引用語:肝細胞癌,アルコール性肝硬変,
生活習慣病
文献:1)NʼKontchou G, Paries J, Htar MT, et al.
Clin Gastroenterol Hepatol 2006; 4: 1062―1068 2)Muto Y, Sato S, Watanabe A, et al. Hepatol Res 2006 ; 5 : 204 ― 214 3)Torisu Y , Ikeda K , Kobayashi M, et al. Hepatol Res 2007; 37: 517―523 4)堀江義則,石井裕正,山岸由幸,他.肝臓 2009;
11 : 507 ― 513 5)Yamagishi Y , Horie Y , Kajihara M, et al. Hepatol Res 2004; 28: 177―183
肝細胞癌合併アルコール性肝硬変 73:73
英文要旨
Characteristic of hepatocellular carcinoma in alcoholic liver cirrhosis in Japan
Yoshinori Horie1)2)*, Yoshiyuki Yamagishi2), Hirotoshi Ebinuma2), Toshifumi Hibi2)
We addressed the recent trend in alcoholic liver cir- rhosis (LC) in Japan. Nation-wide survey was carried by asking the hospitals that are qualified by the Japanese Society of Gastroenterology for the number of hospitalized-patients of LC in 2007 and etiology of LC.
Concerning hepatocellular carcinoma (HCC ) in alco- holic LC, we also obtained age, sex, the amount of daily alcohol intake, period of habitual drinking, body mass index (BMI), prevalence of diabetes mellitus (DM) and obesity (BMI ≧25). Prevalence of HCC was 32.3% in male, and 19.8% in female. It was 39.7% in patients with DM (23.6% without DM), 44.6% with obesity (23.9%
without obesity), 48.8% over 65 y
!
o (20.0% younger than 65 y!
o). Age, sex obesity and DM appeared to be involved in the progression of HCC in alcoholic LC. Im- provement of total life style is important.Key words: gender difference, diabetes mellitus,
obesityKanzo
2011; 52: 70―73 1)Department of Internal Medicine, InternationalUniversity of Health and Welfare, Sanno Hospital 2)Division of Gastroenterology & Hepatology, De-
partment of Internal Medicine, School of Medicine, Keio University
*Corresponding author: [email protected]