防災科研ニュース 2017 No.199
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ネパール・ゴルカ地震
2015年4月25日に、ネパール中央部を震源 とする大地震(ネパール・ゴルカ地震)が発生し、
各地で大きな被害が生じました。エベレストの 登山ベースキャンプが雪崩に襲われた様子など が大きく報道されましたが、そのほかにもヒマ ラヤのトレッキングルートとして知られるラン タン村では、地震により背後の山から雪や土砂 を含むなだれが誘発され集落が埋没し、住民や 外国人トレッカーなど数百名の犠牲が出る雪氷 災害が発生しました(図1)。ここでは、ランタ ン村の復興に向けて、当研究所を含む日本の雪 氷研究者が行った対応を紹介します(本文中で は雪が主に崩れたものを “雪崩”、雪と土砂が混 じったものを “なだれ”と記述して区別しています)。
地震後の現地調査
ランタン村で発生したなだれの実態を把握す るために、2015 年 10 ~ 11 月にかけて名古屋
大学・新潟大学などの研究者と一緒に①なだれ 堆積物の調査、②住民に対する地震・なだれ発 生時の状況の聞き取り調査、③ヘリコプタを使 用して上空からなだれ発生箇所の調査、などを 実施しました。
なだれ堆積物の断面を観察した結果、大量の 雪が固まってできた氷の上に土砂が積もって いる2層構造になっていることが判明しました
(図2)。このことから、最初に雪が主成分の大 規模雪崩が発生し、その後に雪や土砂が混ざっ たなだれが発生したものと推定されました。ま た、地震・なだれ発生時の状況の聞き取り調査 結果によると、地震から1分ほど経過した後に 湿った雪が崩れてきた、その後も余震などで複 数回の雪や土砂が混ざったなだれがあった、な どの証言が得られ、これは堆積物調査によるな 特集:雪氷特集
ネパール・ゴルカ地震となだれ
雪氷防災研究部門 特別研究員 伊藤 陽一 主任研究員 山口 悟
図1 地震後のランタン村の様子(白丸内の灰色に見える部 分がなだれに埋没した集落)
ネパール・ゴルカ地震
2015 年 4 月 25 日に、ネパール中央部を震源 とする大地震(ネパール・ゴルカ地震)が発生 し、各地で大きな被害が生じました。エベレス トの登山ベースキャンプが雪崩に襲われた様子 などが大きく報道されましたが、そのほかにも ヒマラヤのトレッキングルートとして知られるランタ ン村では、地震により背後の山から雪や土砂を含 むなだれが誘発され集落が埋没し、住民や外国人 トレッカーなど数百名の犠牲が出る雪氷災害が発 生しました(図 1)。ここでは、ランタン村の復興 に向けて当研究所を含む日本の雪氷研究者が 行った対応を紹介します。
地震後の現地調査
ランタン村で発生したなだれの実態を把握す るために、2015 年 10~11 月にかけて名古屋大
図1 地震後のランタン村の様子(白丸内の灰色に 見える部分がなだれに埋没した集落)
氷 土砂
図2 なだれ堆積物の断面
学・新潟大学などの研究者と一緒に①なだれ堆 積物の調査、②住民に対する地震・なだれ発生 時の状況の聞き取り調査、③ヘリコプタを使用 して上空からなだれ発生箇所の調査、などを実 施しました。
なだれ堆積物の断面を観察した結果、大量の 雪が固まってできた氷の上に土砂が積もってい る 2 層構造になっていることが判明しました(図 2)。このことから、最初に雪が主成分の大規模 雪崩が発生し、その後に雪や土砂が混ざったな だれが発生したものと推定されました。また、
地震・なだれ発生時の状況の聞き取り調査結果 によると、地震から 1 分ほど経過した後に湿っ た雪が崩れてきた、その後も余震などで複数回 の雪や土砂が混ざったなだれがあった、などの 証言が得られ、堆積物調査によるなだれ発生の 推定結果ともよく一致することがわかりました。
ネパール・ゴルカ地震と雪崩
雪氷防災研究センター 研究員 伊藤陽一 ・ 主任研究員 山口悟
図2 なだれ堆積物の断面
2017 No.199 23
てなだれの範囲などを推定するための雪崩運動 シミュレーションも行いました(図5)。今後も、聞き取り調査で得た情報を整理して なだれ災害が風化しないように記録として残す 必要があるほか、外国人トレッカーなどにもな だれの危険性を説明できるような仕組みなど、
長期的な視点に立った科学的サポートを行って いく必要があると考えています。
だれ発生の推定結果ともよく一致していました。
しかし、聞き取り調査からは、約 80 年前に も大地震でなだれ災害が発生し、その被災地を 避けるようにして現在のランタン村に移住した 経緯があったにもかかわらず、過去の災害がほ とんど伝承されないまま再び集落がなだれに襲 われた事実も明らかになりました。また、ヘリ コプタによる上空からの調査を行った結果、地 震発生から時間が経過しているためになだれ発 生箇所の特定はできませんでしたが、今後もな だれ災害を引きおこす可能性が高い崩れやすい 氷河などが多数存在していることが確認できま した(図3)。
ランタン村復興に向けた取り組み
なだれによって壊滅状態になった村では新た に住む場所を探す必要が生じますが、ランタン 村は、80 年前と今回の少なくとも 2 回、なだ れ災害に遭遇しているため、慎重に移転候補地 を決定することが重要となります。そこで、住 民から提案された移転候補地について、現地 調査で得られた情報や地形データなどを用いて なだれなどの災害に対する安全性を検討したレ ポートを作成しました(図4)。レポートでは、
なだれが集中しやすい谷状地形や崩れやすい氷 河の有無などをもとに、移転候補地のなだれに 対する安全性を判断しているほか、必要に応じ
図3 移転候補地の上方にある崩れやすい氷河
図4 移転候補地の安全性検討レポートの例
図5 雪崩運動シミュレーションによる流れ厚さの計算例
(○は移転候補地)