仏核実験とル・モンド(2) 41
仏核実験とル・モンド(2)
引田稔
も く じ
I まえがき
Ⅱ ル・モンドの記事および解説を中心として。
(1)A≪核降下物≫。 B≪2国の孤独≫
(2)≪実験水域からの外国船の排除≫
(3)≪教会対軍部の核武装論争≫
(4)核実験実施後に−A社説≪心理的失敗≫。B記事。C≪平和と原爆≫。
D≪原爆と国防≫。E≪大統領の決意≫。F≪実験場ムルロア附近≫。
(5)A≪ジョベール外相の訪ソ≫。B≪ボラルデイエール将軍の懲戒≫
(6)≪政治休戦なしのヴァカンス≫
(7)≪核兵器を持つべきか否か≫
(8)つづき
Ⅲ あとがき
I ま え が き−
1974年1月2日,ボンビドー仏大統領は今年も南太平洋地域で核実験を引 き続き実施するつもりであると語ったことが新聞報遺されたが1),1月5日 付のフランス政府の水路通孝則こよって正式に核実験の予告がなされた2)。こ れを受けて,日本政府はフランス政府に対し,核実験の中止を強く申入れ
た3)。
1974年2月25日の新聞4)が伝えるところによると,第2次大戦後,米国 がミクロネシアのビキニ環礁で実施した核実験のため故郷を追われた住民が 帰郷運動の一つとして,48億ドルの損害賠償を米政府当局に提出したとい う。たまたま日本を親善訪問中のフランス海軍のヘリ空母と駆逐艦の2生が
4 2
経 営 と 経 済長崎へも寄港したいという申入れがあったが,被爆地長崎の市長引はこの 申入れがすでに拒否されていたことを明かにした旬。その理由は被爆県,市 民感情によるものといわれているo
以上の出来事はすべて,
1 9 7 3
年にみられたフランスのムJレロア環礁におけ る核実験をめぐっての世論の勤きの延長線上に位置させる乙とで,その意味 を捉えなければならない。核実験の可否をめぐる論争はまず最も深刻な反省をフランス自身にもたら した。戦略的に,外交的に,経済的に,政治的に,一体,核兵器は, (核兵 器を持つことは, )フランスにとってプラスなのか,マイナスなのか。左派 的,反政府的色彩の濃い週刊誌レクスプレス
L'Expressの1 9 7 3
年6
月3
日 付の記事〈フランス人と原爆) > L e sF r a n c a i s e t l a bombe
はフランスに対 する全世界的な非難の高まりをとり上げ,真正面から核実験の問題と取組み 始めた。その論説によると,戦略的にも技術的にも,フランスが核武装する ことは無意味で,核を持つ持たぬはフランスの外交上の利点にはつながらな い。反対に核に関する国際協定に加わらないこと,あるいはハーグの国際司 法裁判所をボイコットするようなやり方は世界におけるフランスのイメージ を落とすことになるD 現実問題としても,最大のマーケットとなろうとして いるオーストラリアが仏製品のボイコットを始めたように,自ら土台を崩す ことになるo フランスが核実験は無害だと主張するのはおかしい。それなら コノレシカ島でやれという現地の声を退けるわけにはいかないだろうo一体,核兵器はどれくらいの賀用がかかるものかをほんとうに知っている者はフラ ンスには
5
,6
人しかいないだろう。そのうちのl
人であるメスメール首相 7) は,~核兵力は安くつく。おしろいその他の化粧品の費用の辛うじて
2
倍程度である。ところで,まさか婦人に対して口紅やおしろいをつけるな という人はいないだろう〉などと,書いているが,こうなると,核抑止力を 正当化する議論は戦略上でもなければ,外交上の問題でも経済上の理由でも なく,お化粧上の問題であるということなのだろうか。だが,実際は,政治 的な理由がその最大のものなのだυしかもそれは対外的な政治ではなく,対内 的なものである。核弾頭をつけた米ソの戦車に対して,それをもたない仏の仏核実験と
Jレ・モンド
(2)4 3
戦車は裸も同然であると感じる兵隊は士気が上らない。たとえ,ぼう大な隠 りによって無力に等しくても,<(心理的〉に,鼓舞するため必要であるとし ている。結論として,フランスの核抑止力はマジノ線の 1 9 7 3 年版である
oそ の主要な役割は仏国民を防衛するためではなく,国民の眼に国家が威信ある ものの如くみせかけるためのものである
D以上のような手きびしい反政府的な論調に対する答は,当然ノレ・モンドの 論評の中に反応を見出すだろう
Dともあれ, レクスプレス誌は政権交代によ るオーストラリアの労働党党主の首班内閣による政策の変化に注目し,オー ストラリアが今日,豪大陸への汚染の持込みに過敏であり,過去の英米の核 実験は自国の安全に必要であったが,今日オーストラリアはフランスの原爆 を必要としないし,灰を支りたくない。中国は少くとも自国領土の中で行っ ている
oまた,仏豪聞の貿易は,最近の統計で,仏からの輸出 4 億 4 , 800 万 フラン(約 8 , 7 0 0 万ドル)
0輸 入 8
億3, 000 万 フ ラ ン ( 約 1
億4, 1 7 0 万ドノレ) である
o注1) 1 9 7 4
年1 月 5
日 付 朝 日 新 聞2 )
が1 月2 6
日付 1/3 )
1/2 月 4
日付 /14 )
長崎新聞5 )
諸谷義武氏6 ) 1 9 7 4
年2 月 1 8
日 付 朝 日 新 聞7 ) M. P i e r r e Messmer
1 9 7 3 年 6月1 7 日付のレクスプレス誌は南太平洋での核実験に反対するフラ ンス国内, ヨーロッパ各地でのデモを伝えている
o1 0 2 の団体代表がエリゼ、
宮に押しかけ,また前の原子力委員の l人は大気圏内の核実験を禁止したモ スクワ条約にフランスが加盟することをすすめた
Dしかしフランスは,いか なる乙とがあっても実験を続けることを明かにした。
同じく 7
月1 日(1 9 7 3 年 ) 付 の レ ク ス プ レ ス 誌 は そ の 社 説 (L' e d i t o r i a l )
および記事を通じて〈実験に反対)> C o n t r e l a bombe を宣明した
D原 爆 の
恐怖を説き,ストロンチゥムには許容基準などというものはない。こうした
4 4
経 営 と 経 済放射能はすべて有害であるo絶対に蓄積を避けなければならない。仏の実 験が大西洋または自国のど真中で行われるものならばまだしも,その名も
〈太平〉の一一平和な一一島で行われるのを誰が正当化できるのか。誰が 恥なく,フランスの名が呪われるのをきいていられるだろうか。一一反対運 動に起ち上れ。その方法はある。即刻電話,電報,手紙等によって新聞社 に,
ORTF
(国営放送)に,代議士に訴えよ。という激しい調子のキャンペ ーンを始めたD野党,カトリック,プロテスタントの革新派の人々がさまざまな形で動い た。抗議する声明の中には,核戦力は米ソに対抗するときは無力に等しい。
それは兵器産業に奉仕するのみであるo現代文明の危機の中で,新しい人間 関係をつくり上げなければならないのに,兇器をもって対抗する国をつくろ うとしているO 核実験はフランス人に対し,最大の問題を提起した。これは われわれの文明と各人の生命の問題である,などということばが並べられて いるo
反対運動の人々は現地の南太平洋の島々をも訪れた。島々の人々は〈核 反対の十字軍〉という表現で迎えた。核武装へのエスカレートという恐る べき悪循環から人間を解放しなければならないO 核は文明の基礎そのものを 危くする,と説くもの。仏の核は抑止力にならない。原爆を作らずに平和利 用にその費用を注ぎ込んでいたら,アメリカに次ぐ原子力工業国になってい ただろうo司教の一人は,原爆の実験には
4
つの誤りがあるという意見を公 けにした。核をもつものは真先にそれを使いたくなるo核の使い方には2通
りしかない。1
つは核を持たない国に対しての使用で,それは無防備の国民 を全滅させるo他の1
つは核を持つ国に対してであり,その場合は明かに2 4
時間以内に報復を受け,フランスは消滅してしまうだろうD 実験は太平洋諸 国民の心を踏みにじることになる(Noussomme en t r a i n de n o u s a 1 i e n e r l e c o e u r d e s p e u p l e s du P a c i f i q u e ) .
それはフランスのイメージを傷つけ,世界平和の望みを害う。実験は巨大な失費である。飢えている国民が世界に はたくさんあるのだからD
更に,別の記事の中では,ハーグの国際法廷の問題に触れて,オーストラ
仏核実験とjレ・モンド (2) 45
リア,ニュージランドは国連へ訴えるより外にないが,フランスは安保理 事国として,拒否権をもっている。しかし,国際司法裁判所の大理石の 舗石には次のように記されていると書き添えている。
SOL]UCTITIAE I L L USTRA NOS
(正義の太陽よ,われわれを照らしてくれるように。)1 9 7 3
年6
月2 8
日,フランス政府は「フランス核実験白書J LIVRE BLANC s u r l e s
exp~riences nucl~aires を発表した。核実験に対する世界的な(国 の内外を問わぬ)関心の高まりに洗黙を守ることができなかったとみる乙と ら沈黙を守る乙とがフランス政府にとって得策ではないと判断されたから とみることもできょうo レクスプレス誌は7
月5
日手交された乙の白書に ついて,いち早く7
月8
日付の同誌で〈政府の白書〉について解説と論評 を加えた。「白書」は,反駁でも,論争でもないとの前置きの下にフランスの記者団 に配布されたが,内容はオーストラリア,ニュージランド両国の論点を一つ 一つ反駁している。またハーグ法廷の権限に異議を唱えているo前文のほか に,技術的,科学的データに触れた第
1
部と,法律問題を扱った第2
部とか らなっているが,第1
部では,<(きれいな原爆〉である乙とを説き,第2
部では,米英が実験を行った当時と国際法には変化なく,フランスは国家的 安全と独立とに干渉されたくない乙とを述べている。レクスプレス誌の記事は乙れとは別に,一層高まる世界各国の抗議行動を 伝えているが(例えば抗議船の派遣や,ボイコット等) ,仏政府あるいは大 統領の考え方として,米ソの接近はフランスの国防に影響を与えるものでは ない。世界平和のため,フランスは自らにふさわしい通常,ならびに核兵器 の所有を決意していると報じているo
注 乙の「白書」は1973年8月18日在日フランス大使館情報部から,被災都市とし て核実験に対する抗議をつづけている長崎市長あてに, Jきり届けられ,一!日激しい市 民感情の抗議を陪き起こした。
4 f 3
経 営 と 経 済I I )レ・モンドの記事および解説を中心として
O( 1 ) A 1 9 7 3
年7
月4日付の
Jレ・モンドは〈核降下物}>Les retomb e e s nu c 1 e a i r e sと題して問題の本質をより科学的に,冷静に受けとめようとする
姿勢をみせているO この時点ですでに前述の核実験白書が明かにされていた か否かは殊更に問う必要はないと思う。白書は「きれいな原爆」であること を証明しようとするものであったが,同じ角度からの検討を資料として乙の 記事は次のように読者に提供しているD「以前から,そして奇妙な乙とだがフランスが太平洋で新たな一連の核実 験を準備しているその折に,大気中の実験が論争を呼んでいるD 一方はこの 爆発によって生ずる降下物はきわめて僅かで〈意味するほどの〉危険はな い,フランスは心静かにその実験を続けることができるといい,他方は,明 かに危険である,フランスはその実験によって太平洋沿岸諸国の健康に許し がたい脅威を与えているというo
今のと乙ろ,知識の現段階では,論争はまちがっていると思われるo どち ら側も相手方の主張を考察しようとはしないようにみえる。それにどちら側 の見解も真に相手を納得させるようなものではない。対決してはいないが,
その対立は大ざっぱな議論にすぎないD
従来の爆発実験(ポリネシアでの最初の実験の年
1 9 6 6
年から1 9 7 1
年までの 間)の放射能灰の分量は正確にいかなるのであったのか。フランスとオース トラリアの2
つの科学者グループがこの問題を最近検討した。フランスのグ ループは国家機関に属する代表者であり,オーストラリアのそれは権威ある 科学者であるD 両者とも正確な統計的評価とそれに基づく総括的な結論で合 意に達した。それによると,結論として,次のようにいうことができる。フランスの実験による降下物はきわめて微量であるが,微量だから無害であると することはできない。しかし有害であるとする乙とも現段階ではできない。
つまり一定量以下は安全という考え方と,微量であっても堆積するのである から,いつかは一定量以上に達するという見方とが現在ある。しかし大部分 の国の科学者が認める最大限の分量〔昔は〈許容量〉といった〕と照らす
仏核実験とノレ・モンド (2)
4 7
と,今回のものは取るに足らぬ分量であるoJB
同じ7
月4
日付のjレ・モンドの紙上に<(2
国の孤独)>S o l i t u d e a deux
と題して次の記事が掲げられているoたまたま中国が自国領土上で,核実験を行ったのであるo
「オーストラリアをはじめ太平洋地域で,近く行われるとみられている
Mururoa
での実験に対しての抗議が高まっている時,突如として行われた 中国の新軍省上空での新たな熱核爆弾の爆発はわ,単にフランスのために〈戦術的〉な軽減をもたらしただけではない。それは
1 0
年前,米ソ英が他 の諸国とともにモスクワで調印した原爆実験停止条約に,仏中の2
国が跨路 なく反対した当時の〈孤立の中の連帯〉を確認した乙とになるo独自の抑 止力f o r c ed e d i s s u a s i o n
を保持するという願望は仏と中国の聞の唯一つの 連結符t r a it d ' u n i o n
ではない。他国と同様,そしてむしろそれ以上に,仏 中は多少の因惑を感じながらも,最近の米ソ〈頂上〉と,乙の2
つの超大 国の増大する協調関係を固めた一連の協定を注目してきた。仏中の反応はた しかに同じものではなかったoNixon
大統領と会談後のB r e j n e v
氏からそ の内容についての具体的な説明をPompidou
大統領は受け,平静に受けと めている。プレジネフ氏が米国へ出発した際別に仏大統領は〈不安を感じ た〉わけではなかったので,会談後〈安堵する〉必要もなかったわけであ る。というわけで,仏大統領は〈緊張緩和への一歩前進〉として,米ソの 接近を,特に核戦争の防止に関する協定を歓迎した。ポンピドー大統領が特 にことわっておきたいとしたことは,この協定がフランスにはかかわりな く,またフランスが必要と判断する独自の抑止力をもつことを妨げるもので はないという乙とであるoJ注1) 1 9 7 3
年6 月 2 7
日.5
回目の熱核爆発(2)
1 9 7 3
年7
月11日付のJレ・モンドば〈実験水域からの外国船の排除〉を伝えている。フランス政府は
7
月8
日付の官報でムjレロア地域での海上交 通を一時的に閉鎖する布告を公けにしたが,違反して禁止区域に立入る船舶 に対しては必要なあらゆる処置をとる乙とにした。とのような措置は1 9 6 6
48
経 営 と 経 済年,大気圏の実験が行われてから初めてのことで,従来の船舶に対する通告
(AVURNAV)
や航空機に対するNOTAM
とは別なものであるO 国防省 は乙の措置は領海(12
海里〉の範囲を72
海里 (13 0k m )
に拡げるものではな く,領海では外国艦艇の航行および停泊が相手の承諾なしに禁止される。但 し〈無害通航権)>1 e d r o i t d e p a s s a g e i n n o c e n t
と一般によばれている船舶 の場合には例外で,必要ならば乙の範囲を越える乙とができるO 通告による と,制限区域は環礁を中心とした2 0 0
海里(約3 7 0 k m )四方と同環礁から 6 0 0
海里(約925'~m,)束に寄った扇型区域で,仏政府当局は新たな発表があるま ですべての国の商業用航空機と船舶とに対して以上の区域から遠ざかるよう 忠告
c o n s e i 1 1 e r
しているO核 実 験 場 付 近 (レクスプレス誌より〉
注 フランスが核実験予定区域に航空機,船舶の航行制限区域を設けたと とに対しては〈フランスの法律無視)>
La F r a n c e h o r s 1 a 1 0 i
の標題の下で レクスプレス誌が早速攻撃のペンを向けている(7月 22
日付)0 それによる とr
国際法上,禁止区域は合法的には設けられない口米英はこの点不法行 為を行った。フランスは今回,国際的不法行為者の列に加わる乙とになる。公海では,航行,漁業,海底電線,パイプラインの敷設,上空の飛行が公認 されているO フランスはこの
4
つの自由を犯すものであるoJ
としているO仏核実験とlレ・モンド
( 2 ) 4 9
同じく,レクスプレス誌の 7 月 15 日号には,<(爆弾は終った~
La bombe e s t f i n i e
の見出しで核爆弾に対する基本的な疑念を投げつけているのは,見落とすべきでないと思うo
r
爆弾は終った」ーーとは,原子爆弾をふくめ ての意であることは勿論であるが,武器としての爆弾であるならば,爆弾の みが武器ではあり得ないという発想の転換につながるのであろう。それによ るとr
熱核兵器に反対する芦が世界的にやかましい。そこで別種の,すな わち,現在の核兵器に代る非核兵器で,威力は等しく,費用の格段に安い武 器が研究されつつある。核兵器は利用不可能であるo 核を使用すれば,相手も使用すると警告する役割を果すにすぎない。つまりこれが <(dissuasion~
ー抑止ーとし1うことの真意であるD そこで必要なものは同じくらい強力で,
相手方の小さな侵略をも思い止どまらせるものであるo
F u e l ‑ A i r ‑ E x p l o ‑ s i v e s
というものは,強大な爆風を起こし,あたり一帯を吹き飛ばすものであるが乙れもその一例であろうoかくて,核兵器は必要がなくなったという ことができるo あるいは,必要でない時期がくる。」というものであるo
同じレクスプレス誌の
7
月22
日号の他のページには,これまでの報道とは 全く逆に,実験を支持する側の声をも伝えているO それはフランスの「太平 洋実験センター」所属の職員組合によるもので,もし実験が中止されるよう なことがあれば,それは「失業」を意味するからである。組合は,もし実験 が地下に移されるとしてもそれは南太平洋地域でやってほしいし,経済発展 が妨げられぬよう計画を推進してもらいたいという意向を表明しているo同号の別の記事は,<(タヒチからみたフランス〉の題名の下で,楽園タ ヒチを実験場が荒廃させている乙とを嘆き,特にノレ・モンドの
M i c h e lTatu
氏(国際問題の侵れた記者)が次のように結論しているのには賛成しがたいと述べている。すなわち,<(少くも個人の自由は国の独立によって始まると いう乙とが真実であるかぎり,フランスが戦略兵器工廠を所有するというこ とは損失よりは利点が多いということになろう。〉というものであるが,
しかし,それによってフランスはタヒチを破壊することになる。島民は不自 然にされ,不幸にされている。実験基地への依存経済では去の繁栄はない。
( 3 ) 1 9 7 3 年 7
月1 8
日付jレ・モンドに〈教会対軍部の核武装論争)>Une
5 0
経 営 と 経 済c o n t r e v e r s e o p p o s e Mgr R i o b e e t l ' a m i r a l ] o y b e r t a p r o p o s d e l ' a r ‑ mement n u c l e a i r e d e l a F r a n c e
の表題の下に,はからずも捲き起った教 会と軍部の間の大論戦の模様が伝えられた口発端はオノレレアンの一司教の意 見の公表であったが,海軍参謀総長ともいうべき提督や教会側の枢機卿の登 場となったのであるから,大論戦と呼んでも差支えないであろう。これらの論 争の結論が何んであれ,核論争がフランス国民の一人一人の心に大きな問題 を投げかけ,一人一人が自分の胸の中で,問題を噛みしめなければならなくな ってきたことに何よりもこの問題の本質的な重要性が横たわっているとみな ければならないo)レ・モンドの記事によると,オノレレアンの司教1)がフラ ンスは核武装を止めるべきだと公表した2) 乙とに対して,海軍参謀総長引 が教会の軍事問題に対する介入の態度を批判した針。これに対して,同司教 は,国営 TV 放送を通じて反論し,~この問題は今日の世界における教会の 存在と意義にかかわる全体的な,深刻な問題であるo 自分が乙の問題を取り 上げたのはオJレレアンという一地方にもかかわりがあり,自分はこの地の人 々の考えと共通の心を追わせているからだし,また太平洋に今いる一人は私 と個人的にも結ぼれているからであるo最近,フランスの司教団は軍備問題 についてきわめて徹底した研究を行い発表した。それを提督にも見てもらい たいものである〉と述べた。かくて,事態は,世俗と精神界との関係にお いて教会が干与すべきか,すべからざるかのより一般的な問題にまで発展す ることになった。注1) Mgr R i o b e 2 ) 7
月1
日付紙上3 ) l ' a m i r a l ] o y b e r t
4)
F i g a r o
紙上A 同じこの記事は〈教会は政治に干与すべきか,すべきでないか〉
Engagement e t d
勾e n g a g e m e n td e l ' E g l i s e ?
と い う 見 出 し 語 の 下 に 記 者1)の署名入りで問題の所在を採っている口内容の要約は次の通り。「ヨーロツノマ
1
号J
2)のネット約2 0
局に乗せて, ジョワベーノレ提督は仏核実験と
Jレ・モンド (2)5 1
〈フランスの司教への公開状〉を放送した。海軍参謀総長が確信に満ちたカ トリック教徒だからといって,誤りを犯す乙となしとする訳にはいかないだ ろう。教会と国家の関係という問題は,更に一般的にいうならば,現世と霊界 の関係はやがて
2
千年にも及ぼうとする永い間の問題で神学者が決定しかね ている乙とがらを素人が手品みたいに一気に解決するわけにはいかないだろ う。福音書にある〈シーザーのものはシーザーに,神のものは神へ返せ〉Rendez a C e s a r c e q u i e s t a C e s a r e t a D i e u c e q u i e s t a D i e u
とカh〈 わ が 王 国 は こ の 世 の も の に は 非 ず : >
Mon royaume n / e s t p a s d e c e monde
などのことばを,問題の解決の方便に軽々しく一方的に引用すべきものではないだろうo時代の現実に密着するためには,神学思想は常に新た な発展をするものである。核兵器は抑止のためであるが,必要のときには使 用すると思われない限り,その力はない。こうした脅し
menace
を正当化す る倫理は何んであるのか。教会の歴史は,現世的権力との関連における精神 界の権力の干与と不干与の弁証法から成り立っている。国際紛争のジャング ノレの中で,元首が,近代兵器を放棄しないことは当然と考えることもできょ う。しかし教会の役割は,そうした窓味での良心を力づけることではなく,元首に対してその正しい権利について慎重に反省するよう促す乙とであろ う。平和の防衛はただ軍人や役人のみに任せるには,あまりにも重大なこと がらになってきているo今日の世界ほど,政治的な野望に奉仕しようとする 試みの上に立ち塞がる倫理的,精神的良心を必要とすることはなかった。
B
1. (前文のつづき)文中の見出し〈ジョワベール提督の怠見一一「司 祭殿,何とぞ御自分の御仕事をなさるべしJ : > M e s s i e u r s d e l a p r e t r i s e
,m e l e z ‑ v o u s d e v o s o i g n o n s .
3)「ジョワベーノレ提留は
7
月14
日TV2チャンネノレで質問を受け,次のよう に答えた。一一他国を考えずに自国だけの守り,などというそんなものは存 在しない。防衛とは外部からの仮定の脅威に対応するものであるD 従って,私は残念でならない。人の魂を導くという一ーまことにぷ高な一一ことがら だけを本職としている人々が,軍事に,また,こと国防に関する事柄l乙口ば しを容れるというのは馬鹿げたことである。しかもそれが司教ともあろう方
52
経 営 と 経 済
々であるとは。しかしフランス人が次のように考えるとしても無理からぬこ とである
o<{だけど司教がそういわれるのだから,その通りかもしれない。
つまり民間の力は衰えきっているのだ〉と
oさに非ず。 この私は国家に奉 仕する軍人であり,従って政治の力に奉仕するものであるが,私はこう云い たい。〈ちっとお待ち下さい。司教御一同様,恐れ入りますがあなた方はあ なた方の御自身の御仕事をどうぞなさって頂きたい〉。一一」
注1) Henri Fesquet
2 )
国際商業放送<:Europe 1 P
3 ) o i g n o n f 玉葱」で,乙乙で用いられている用法は辞典 p e t i tRobert にも「俗語
的J .つまり,くだけた用法として O c c u p e ‑ t o ide t e s oignons は o c c u p e ‑ t o i de t e s a f f a i r e s , mele
・t o i de c e q u i t e regardeの意であり,別に. Apr
らs t o u t , c ' e t a i e n t s e s o i g n o n sなどの用例が解説されている。スタンダード仏和辞 典は C 'e s t mes o i g n o n sの用例をあげ. f いらぬお世話だ」と訳出しているが,
s e m e l e r de (…に掛り合う)の用法の方に強く露骨に〈よけいな〉という意 味合いが乙められて用いられていることが前述の p e t i tRobert にも. f p e j o r a t i f
(軽茂語) J として Melez
・vousde vos a f f a i r e s , de c e q u i vous r e g a r d e ! s e meler d e s a f f a i r e s d ' a u t r u iなどの用例が示されているととで,はっきりす る。従ってノレ・モンドの本文の場合は,もし敢て大胆に訳すならば.<:坊さん方よ,
あなた方はお経でもあげていたらどうですか〉ぐらいの感じとなるのかもしれない。
2 . (前文のつづき)文中の見出し〈ダニエノレー枢機卿の意見一一それ は キ リ ス ト 教 的 良 心 を た だ そ れ 故 に 束 縛 す る も の で は な い
o)> C'est un probleme q u i n' engage pas l a c o n s c i e n c e chr 己 t i e n n een t a n t que t e l l e .
r7
月16 日付フィガロ紙に公けにされた〈国防問題について司教が攻撃
する乙とはそれだけで許しがたいものである〉という解釈をダニエルー枢
機卿
1)は更に別の雑誌、
2)の誌上で説明した。その要旨一一キリスト教徒は
一人のキリスト教徒としてはこうした分野の問題についてどの道を選択しよ
うと,それはキリスト教徒として当然にもつ選択の自由に基づくのであるか
ら,完全に自由である。私の云いたいと思うことは,そうしたことは,これ
はあくまでも個人の見解についてであって,自分の考えでは,それはキリス
仏核実験とjレ・モンド (2)
5 3
ト教的良心をただそれ故に束縛するものではないと思うo その良心の上に立 って,人それぞれが異る意見や立場をとる乙とができる。私が因ったと思う のは,今回の実験に反対のキリスト教徒がいるということではなく,反対し ているのが司教であるという乙とであるO というのは,この時点から,教会 当局が政治問題に干与しているようにみられるからであるD 従って,立派な カトリック信者であり,国防の責任者である提督に対して,自らの良心が認 めさせようとしている実験をもし行えば,それは良きカトリック教徒ではな いとある司教が云うようにみえるとすれば,ジョワベール提督がJ凶慨するの は当然であろうoJ
注 1 ) Le c a r d i n a l D a n i l e o u 2 ) I n t e r ‑ A c t u a l i t e s
(核実験の是非をめぐる問題がはしなくも惹き起こした教会対軍部の論争 は軍人に対してよりも僧職者一同に対して投げかけた波紋の方がより深刻で あったことは想像に難くないo しかし,この対立や論争は一時的なものであ ろうと,あるいは今後も永く尾を引く世俗対宗教界の問題であるにせよ,そ れはこの場合の核実験の是非という本題からは遠ざかる。しかしながら,問題 がさまざまな受け取り方を呼び,その各々の場合や対応の仕方,あるいは考 え方の相違などを通じて結局はそれらの社会的,人間的な諸問題の根底に横 たわる一つの歴史的な概念一一人間性一ーに到達せざるを得ないと乙ろに,
こうした論争の真実の意味が隠されている乙とを見逃してはならない。)
( 4 ) 1973
年7月 2 5
日付のノレ・モンドは,Mururoa において実施されたこ
の年最初のフランスの核実験について,当然論評の形で触れなければならな かった。前にも記したように,週刊ノレ・モンドにはいわゆるe d i t o r i a l(
社 説)と銘を打ったコラムはない。しかしそれに相当する第l
面のカコミは7
月2 4
日の(執筆)日付が付されているo1)乙の日付の論評を加えて7
月2 5
日号は「実験」に関するいくつかの解説や記事を載せているので,まず乙の 第
l
面のトップ記事を便宜上「社説」の名の下に区分して,次々に!唄を追っ て掲げてみたいo54 経 営 と 経 済
A
社説'一一〈心理的失敗)>un己 c h e cp s y c h o l o g i q u e .
「今までに
1 0 0 0
個に近い原爆が実験されたが,1 9 7 3
年7
月21
日のフランス の爆弾ほど論議と激怒を捲き起こしたものはなかった。これは喜ぶべきこと か,悲しむべきことか。だが,フランス政府は次のことを無視することはで きない。つまり,心理的にはフランスの核政策は失敗であるということを。それは国外では怒りを捲き起こし,国内では国民の興味を引いていない。乙 の程の「核実験白書」はフランスの爆弾をより良く〈売らん〉がためにと られた最初の努力である。だが1
3
年もの実験を重ねてきたのちにあって,こ の努力は遅きにすぎ,あまりにも限定されている口なぜなら,白書は本筋と して,それに不充分なやり方であるが,オーストラリアおよびニュージラン ドに向けられている。この資料は一一反対運動に対する反駁であるが一一純粋に防禦的な観点か ら書かれている。そこにはフランスの核兵器の目標も経済性についても述べ られていない。云ってみれば,このようなドキュメントは専門家にしか通用 しなし」もしこれが,一般大衆にも判り易い言葉でフランスの核政策のすべ ての面に亘つての系統的な論証であったら,その反響は全く別なものとなっ たであろうと思われるD
核兵器は防衛のための単なる一つの手段にすぎない。フランスはいかなる 目標をその防衛の課題としているのか。その政治的な枠は何か。フランスは 超大国と張り合うつもりはない。フランスが意図するものは,世界の中の50 個ほどの主要な目標を全滅させるに足る能力を所有することによって,すべ ての侵略者に侵略を思い止どまらせようとするものである。だがそのことを 知っているものは誰だろう?それも
1 9 7 1
年,1 9 7 2
年に公表された国防白書 を読んだものだけという限られた範囲の人々にすぎない。大気中の実験のみ が,たしかに,きびしい非難をまき起乙すのであるが,これはいずれ最終的 には地下実験によって代られるものであるo何故に,このことを責任ある立 場の者が言明しないのか。たしかに陸軍大臣は1 0
月の議会で国防に関して論 議することを明かにしているo しかし,予算論議の外では,この問題につい ての討論は久しく行われていない。仏核実験と
lレ・モンド
(2)5 5
最後に,国防政策は国家の安全についての政策の中で論じられなければ無 意味である。ところで,フランスの軍備はたしかにその名の如く存在するか もしれないが,他面,フランスの軍縮政策というものはほとんど存在しない にも等しい。政府は意表をつく一つの原則を提出した
Dそれは,フランス政 府は全般的,完全かつ査察されると乙ろの軍備焔少に賛成する,そのうちで 核の廃止を最優先とするというものである
Oだがその軍縮を実行に移すため に何をしたらよいのか。ジュネーヴ会誌の自国の席を空けたままにしておい
たのでは,国連の軍縮委員会を〈無意味な顔触れ~!こ終らせる以外の何ものにも寄与しないだろう
Oもし,他のいかなる国をも核クラブ入りすること を助けようとする意図がないならば,何故フランスは核拡散防止条約に調印 することを拒否するのか。不備だからといって,海底非核条約に反対する ことは果して賢明であろうか。自国の法律の中にその規定を導入しておきな がら,何故に生物細菌兵器禁止協定を拒否するのであろうか。そして,ヨー ロッパの兵力についてのわが国の怠見を主張する最良の方策がウィーン会議 をボイコットすることであるのだろうか。数週間の間をおいてであるが,フ
ランス政府は軍縮の世界会議を開くというソ述の計画に賛成し,そして次に ラテン・アメリカの非核武装条約に調印した。これらは軍縮への一回建設的 な一つの態度姿勢の現れとみてよいのであろうか。フランスはそれによって 得るものはあっても,その軍事政策上失うものは何一つないであろう
o軍備 と軍縮は矛盾するものではない。それは互いに補い合う国家の安全の両面で ある
oJ
注1) 日本の新聞は次のように伝えている一一「ウェリントン 2 2 日ロイター, U P 1
=共同」フランスは22 日午前 3 時(日本時間〉市太平洋のムルロア毘日 E で,同際的 な反対を押し切って核実験を強行した。フランスの南太平洋核実験は
30回目。実験 規模は比較的小規股だったが,抗議のため危険海域にいたニュージランドのフリゲ ート艦オタゴから,せん光とキノコ雲がはっきり目撃された。 ( 1 9 7 3
年7 月2 3 日什 長崎新聞)
B (記事)<{::小規模の核爆発。内外の抗議にも拘らず 9 月末までムノレロ
ア実験は継続されるだろう。〉一一 11973 年 7 月21 日ムルロアで行われた実
5 6
経 営 と 経 済験は
9月まで続く予定であるが,実験に立会った陸軍次官は次のように説明
しているD 即ち,これらの実験はフランスの独立を確保するための政策の遂 行上必要であるO 誰でも自分の考えを持つことは差支えない。しかし,抗議 するものが危険を胃すのはもちろんのこと認めがたいし,またこうした抗議 があるからといって,進行中の実験を中断することは不可能であるとo太平洋地域の多数の国が直ちに抗議した。ペノレーは外交関係の中断を決定 した。しかし通商と領事関係は続く。周知の如く,ペノレーはミラージュ
8 機
を買う予定であるD 他の国々は抗議しているが同じ行動に出る模様はいまの ととろない。国内では政治団体,組合が強く実験の再開を非難した。〈平和 運動〉の会その他左派の20あまりの団体が7
月23
日,大統領に〈核実験の 放棄〉を手紙で訴えた。陸軍大臣はセノレヴアン・シュレベーノレ氏(急進社会 党首)とともに核実験の反対派に加わっているパリ・ド・ボラノレディエーノレ 将軍を退役に編入した。」c
(論評) <::平和と原爆)>La p a i x e t l a b o m b e .
1)一一「フランスの 核実験は2
つの具った問題を提起しているo大部分の反対する国々,反対す る人々はこの2つを結びつけている
o1
つは汚染であり,他の1
つはフラン スが核を保有するととである。フランスの内外を問わず,ムノレロアでの実験 に反対するということは,フランスが原爆を所有することを〈認めない〉ということになる。
大気汚染は見逃し得ない論争点であるo しかし,かつて米英の強力かっ有 害な降下灰を伴った実験を平気で認めたオーストラリアとニュージランドの 両国が,皆無といわないまでも,そしてかりに有害だとしても極めて軽微 な危険であるものを激しく反対するのは解せない。たしかに,米英の核はこ れら
2
国の国防に役立つが,フランスのそれは役に立たない。しかし,重要 なことは,その後汚染の危険について世界の考え方が頗る敏感になったとい うことであるD 汚染は爆発時だけのものではなく,永く深く侵す。地下実験 についてはアメリカのものについても,ソ連のものについても誰も何も云わ ない。報道もされない。それに,例えば中国の場合がそれに当るのである仏核実験と
Jレ・モンド (2) 57が,ある国が行った核実験は容認し,別な国が行ったものに対しては非難す るというのは,多くの国がそうなのだが,おかしいといえるのではないか。
だがそれにしても,人類を脅やかす危険があるとする非難を全世界の人々が しているとすれば,その抗議を無視するのは得策ではないであろう。何故得 策ではないか。なぜならば, それは〈フランスという国に対する一つの考 え方〉を崩すことになるからであるoその考え方というのは,やがて
200
年 になろうとする間,たとえその行動が時に反感を買うことがあったにせよ,幾多の失敗を重ねつつも,人間そのものについてのある理想像を擁護しつづ けてきたフランスという国についてのイメージであるo
このように考えるとき,たとえ遅延と費用の増大という代償が必要でも,
フランスの実験は地下に移すことが不可欠であろうD フランスの国防とは,
同時にフランスのイメージを守るということであるo
La d e f e n s e n a t i o n a l e e s t a u s s i l a d e f e n s e de l ' image d e l a F r a n c e .
だが,フランスの核工場を廃止するというところまで行くべきであろう か。原爆によって支配されている現在の世界において,フランスは無力な小 国でもなければ,小国に甘んずべきものでもない。フランスの地理的事情か らも,国益から考てみても,一切の国防手段を放棄することは許されない (中立ヨーロッパの中に共同体的自衛がいつ実現するかはわからないが)。
たしかに,核兵器は現在の世界では必要だと思う者もあろo しかし,フラン スの絶対主義的性格は核兵器を度を越した国家的エコ。イズムの象徴としてい るo この乙とは
1 9 5 8
年以来のフランスの基本的な政治路線であることはあま りにも明白であるo弾圧政策をとっている国であろうと,人程主義的政策を とっていようとお構いなしに武器を売る。そして独裁主義国家には不干渉主 義の名にかくれて口をつぐみ,国際的機関が行い得る乙と,あるいは国際機 構の改草に対しては明かな無関心さを示し,フランスは今や徐々に,政治的 現実主義の国家というよりは一一厚顔無恥とまでは云わないまでも一一ひと りよがりな国家に喧しつつあるo世界の相対的な平和は,その大部分が恐怖 の平均の上に維持されている。こうした状況に自分から加わり,同時にその恩 恵を受けるということがたしかに有効ではあろうが,しかし,それは同時に58 経 営 と 経 済
恐怖なき平和を打ち立てようとする弛みない努力がなされるのでなかったな らばそれを受け容れるわけにはいかない。」
注1 ) J e a n P l a n c h a i s
記者の署名がある。D
<(原爆と国防一一核保有国フランス)>L ' a r r n e a t o r n i q u e e t l a defense‑
ーLaF r a n c e , p u i s s a n c e nu c 1 e a i r e .
前国防相ミシェノレ・ドブ レ氏1)の核武装必要論である。)ーー米ソ中英仏の5
か国が国連安全保障理 事会の常任理事国であるが,これらの5
か国が現在核兵器を保有しているoといっても核を持つ国が常任理事国となるというわけではない。しかし,も しフランスが核への努力を過去においてしなかったら,あるいは核保有国で なくなったら,この席は具論が出たかもしれないし,取り上げられるかもし れない。その結果,国際問題での行動力は低下するであろうD 何故そうなる のか。それは核の力が,軍事的価値,科学的,工業的な価値の外に,政治的 な価値をもつからである。
原爆兵器の軍事的価値は論ずるまでもない。核へのフランスの努力を冷笑 したものは,また現在もその成功を冷笑しているものは,笑うべきであるo
現在わが国がもち,また引続き持とうとしているものは,国防上必要であ るo植民地帝国を解消して以来,フランスは大軍団ももたず,大量の軍備ス トックもなく,強大な通常兵器もない。国防の効用を頭から否定する乙とも できょうが,かりに肯定するとすれば,その本質的な要素として核兵器を所 有しなければならなし可。それによって開発能力を証明し,それに奉仕する潜 水艦や砲術と相まって,フランスの基本的な戦略を信頼し得るものとする乙
とができるのである。それは戦争の抑止に外ならない。
核兵器への努力に伴って示された科学的,技術的,工業的価値は著しく,
素晴らしいものがある。その研究者,技術者によってフランスは未知の事 柄を発見し,技術を完成し,さまざまな工業を発達させ,これらがフランス を知識の面で,すなわち文化の面で,また製造能力の面で最高の水準を行く 国家にさせ,フランスは多くの目覚ましい開発を達成したが,もし核への努 力が無かったならば,乙のような分野はフランスには閉ざされたものとなっ
仏核実験と
jレ・モンド (2) 59ていただろう。われわれが過去において果し,また現在も果しつつある先駆 的な役割は著しい。多くの羨望者さえ生んでいる。乙れはむしろ大いに誇っ てよいことではなかろうか。わが国の科学技術の乙の可能性は飛躍的な前進 を意味するもので,満足に価するといわなければならい。
政治的価値についても,それは全く乙れらに劣るものではない。乙のこと をフランスについて語るのを本職とする者がしばしば認識できないでいるの は攻かわしい。フランスがヘゲモニーを意図しているとか,あるいは単に支配 しようとしているとか,何んらかの考えを押しつけるために核兵器を利用し ようとするものであるなどと想像するものが世界中にあるだろうか。われ われの軍備は抑止のため,すなわち防禦のためであるo国際的なモラノレとし て,各国が自らの運命を決定するという原則が打ち出されているとするなら ば,各国の賢明な考え方は,各国が自らの独立を明確に示す能力を証明するよ うもとめられているとしなけばならない。フランスはこのような能力を持た ない国の側に立とうとすることはない。何故ならわれわれはそうした能力を 証明するととができるのであるから。それによって財政が困難になるわけで もなく,むしろ経済には利益をもたらすものであるo 乙うする乙とによって はじめて,われわれは他からの命令は受けないという立場を明示する乙とが できるO そしてまた超大国のヘゲモニーによって不安を感じている多くの国 々がわれわれに対して感謝をこめた言葉を語るととが可能となるのであるo
実は,こうした政治的な価値があるために,反対する人々は不安なのである。
それ故にとそわれわれは沼々たる非難にも耳を貸さず,また既定の方針を継 続することがなおさら,そして決定的に必要であると信ずる理由なのである。
フランスを築いたのは外国ではなく,フランス人であるD フランスに責任 をもつものは外国ではなく,フランス人である。一世紀足らずの問に
3
回も 侵略を受け,危うく寸断されかかった国が他人の忠告に従うととはない。自 らの志志に従うべきである。それにオーストラリアやニュージランドなどのH t
りと称するものの背後には,単にデマゴーグをみるだけではない。虚偽を 見るのみではない。つまり,これらの国は米英の実験には黙っていたのである が,太平洋全域に亘るヘゲモニーを露骨に表わしているとみることができ6 0
経 営 と 経 済るoみせかけの道義に揃されはしない。一方,国内の反対派は一部の反対者 で,乙れはいつの歴史にもあった。今回の反対は
1 5
年前からあった。しかし 総選挙の結果を見れば明かであるo仏大統領は国家安全上必要な限りこの実 験を続けると決定しているo敢ていう。核武装はド・ゴーノレ大統領の偉大な 遺産の一つであるO フランスは一貫して核の道を辿っている。すなわち,独 軍占領からの解放の後,原子力委員会の創設,第4
,第5
共和国を通じての 原爆製造の研究の決定,製造,実験,抑止戦略兵力の実施計画法(律) ,そ して戦術核兵器へと進んでいる。乙の一貫した流れは何も驚くには当らな い。フランスの核保有,それは即ちフランスの自由であるoJ
注1) M. M i c h e l D e b r e
E
<{大統領の決意)>La d e t e r m i n a t i o n du c h e f d e
l'E t a t .
一一「技 術的な必要だけが太平洋における核実験の再開を大統領に決定させたもので はない。たしかに,核爆発の兵器化,その小型化,安定化が戦術的にも戦略 的にも必要である。そうした完成化,近代化は,旧式の兵器にも新しい核兵 器の場合にも必要である。かつまた核爆発の実験は兵器の引金としてのみで はなく,将来は大土木工事や新しいエネルギーの探究に必要であるo米ソが その好例で,乙れらの国は自国や他国からの注文で国土整備や運河の掘さく に核エネルギーを利用することを準備しているD フランスもそうしたことが できるようにならなければならない。だが,<{核抑止力の根本的な要素〉は,すなわち,国際世論の反対にも 拘らず,たとえそれが正しい感情によるものであるにせよ,あるいは善意の 程度に差があるかもしれないが外国が操作して作り上げているものがあるに せよ,そうした反対にも拘らず大統領にこの実験を止めないととを決意させ たものは,もしここで退けば,フランスの核についての約束を傷つけ,不信を 招くことになると怖れたからであるO フランス共和国大統領の決意は一一核 保有国家となった他の
4
か国の元首の決意と同様に一一ー核抑止力の根本的な 要素である。必要が起った場合には,核兵器を使用する機能を持つ人間が践賠 なくその使用を命ずるであろうという実感が世界の至るところで次第に現実仏核実験とJレ・モンド (2)
6 1
なものとなってきているD この乙とが,外部からの侵略には核をもって必ず 反撃するという脅威を大国の指導者の頭の中に植えつけているのである。も し,フランスが太平洋における実験を中止すれば,大統領は優柔不断のそし りを免れ得なかったであろうoその核の脅しは一一重大な危機に際しては外 交的な,かつまた軍事的な武器であるが一一フランスに挑み,その反応を試 そうとする下心のある仮想敵国に対して,フランスが果して振りかざす意志 があるのか否かについて疑わせたかもしれなし) 0 かつて1969
年, ド・ゴーノレ 将軍が死l乙,アラン・ポシェー氏1)が代理となると,連合国側の国々はフ ランスの核反撃部隊の空白状態を取沙汰し,大統領の権限がいかなる条件で その後継者,あるいは首相に,または陸軍大臣に移譲されるのかに関心を集 中していた。その当時,大統領〈候補者〉のジョノレジュ・ポンピドー氏2)はそのような責任の分散を歎いていたといわれているo
J
筆者ージャック・イスナーJレ氏3)
注1) M.
A l a i n P o c h e r 2 ) M. G e o r g e s P o m p i d o u
3 ) M. ] a c q u e s I s n a r d
(国防大臣をしたことがある)F
(記事)1
~実験場 Mururoa 附近〉一一半径 200加は無人。半径l
,OOOkmは人口約 4
,2 0 0
人口実験場よりl
,200km
には人口8 0
,0 0 0
のタヒチが 在るo 乙れに対して,他の国々の実験と比較してみると,オーストラリア のマラリンガ(Mara 1 i n g a )
の場合は半径l
,OOOkm
内に7 0 0
,0 0 0
人,ソ速のカ ザクスタン( K a z a k h s t a n )
の場合は4
,0 0 0
,0 0 0
人 , ア メ リ カ の ネ ヴ ァ ダ( N e v a d a )
では7
,0 0 0
,0 0 0
人である。2
~地下実験のむずかしさ〉一一 2 年前からポリネシアで 続けている堀さくは地質研究の結果成功していない。地磐が弱い。地下l
,200mから ,l
,500m堀り下げなければならない。さんど礁は石灰質で,
強大な爆発に耐えず,地底のき裂から有害放射能が洩れる怖れがある。円錐 形火山の島であるから,場所も狭く,実験室にコンクリートを流し込まなけ ればならず,石油堀さく技術を応用しているが,未だ成功せず,来年完成す るか否か危ぶまれている。技術的にも,費用の点からも,もし実施されると