大 上 渉
*他人の自動車や自転車などのタイヤを意図的にパンクさせる事案は,多くの 場合,器物損壊事件として捜査される。イタズラ程度の犯行といった印象を抱 くが,これまでに発生したタイヤパンク事件を概観すると,逮捕されるまで執 拗に犯行が繰り返され,その度に被害が拡大するという,印象とは異なる悪質 な実態が浮かび上がる。
タイヤパンク事件を伝える新聞記事を調べる限りにおいて,長期に渡って犯 行が繰り返され,かつ大きな被害をもたらしたケースに,2004 年 7 月に M 県 警により検挙された事件がある。
この事件では, 2002 年 1 月末から 2004 年 7 月に検挙されるまでの間,無職 の男(当時 50 代)が,M 県内の病院やスーパーの駐車場などにおいて,ほぼ 毎日,他人の車をパンクさせていたものである。犯人の男は,憂さ晴らしのた めに犯行を繰り返しており,パンクさせた車は計 7,600 台にも上った。犯人の 男は,器物損壊罪で起訴され,2004 年 12 月に,M 地方裁判所において懲役 2 年の実刑判決を言い渡されている(読売新聞,2004
a
,2004b
)。この M 県の事件では,犯人の男は他人の車を無差別にパンクさせていたが,
これとは対照的に,特定の被害者のみを狙い,執拗に犯行を繰り返す者もいる。
* 福岡大学人文学部准教授
意図的なタイヤパンク事件の犯行特徴及び
犯人特徴に基づいた類型化
このタイプのケースとしては,2004 年 12 月に T 県警により検挙された事件が 挙げられる。
この事件では,2003 年 8 月から 2004 年 10 月までの間,女性(県職員)の 車を 6 回に渡りパンクさせていた男(当時 40 代)が逮捕された。犯人の男は 被害女性に関心を抱いていた同僚であり,被害女性の車をパンクさせることに より,相談を受けようとしていたという。犯人の男は,2005 年 5 月に U 地方 裁判所において懲役 2 年(執行猶予 4 年)の判決を言い渡されている(朝日新 聞,2004; 読売新聞,2004
C
,2004d
)。これら 2 つの事件では,どちらも 1 年以上という,比較的長い期間に渡って 犯行が繰り返されている。長期に渡るという事実から,意図的なタイヤパンク 事件は難しい捜査を強いる犯罪であることがうかがえる。おそらく,その背景 には,犯人の特定や犯行立証につながる物的証拠や目撃証言などが得られにく いといった事情があるのだろう。
昨今の犯罪心理学の領域では,過去の類似事件を大量に集積し,統計学的 分析を加えることで,事件の全体像や犯人の行動を推論し,捜査の意思決定 を支援する捜査心理学研究が盛んに行われている(渡邉 ・ 鈴木 ・ 宮寺 ・ 横田,
2005)。研究対象となる犯罪は,殺人や放火,強姦などのいわゆる強行犯罪が 多いが,自動車に対する器物損壊事件も研究対象として取り上げられている。
桐生(2015)は,損害保険会社より提供された車両に対する傷つけ事案 129 例を分析し,傷の箇所,傷の個数,傷の形態などにより犯行動機が異なってお り(例えば,怨恨やストレス発散,児童のいたずら,保険金詐欺目的など),
類型化可能であることを報告している。桐生による知見は,車両に対する傷の 状況から,犯人の犯行動機が予測可能であることを示しており,捜査に大きな 手がかりをもたらす貴重な報告である。
しかしながら,桐生(2015)は,自動車のボディに対する傷つけ事案を取り 上げており,窓ガラスやミラー,バンパーなどへの損壊については触れている
ものの,タイヤに対する意図的なパンクに関する分析はなされていない。
そこで,本研究では,意図的に行われたタイヤパンク事件についての基礎的 知見を提供することを目的に,事件の類型化が可能であるか,その検証を試み る。もし,この検証によって,意図的なタイヤパンク事件の類型を明らかにで きれば,体系的な理解や説明を可能にし,捜査支援にも寄与することが期待さ れる。
なお,検証にあたっては,タイヤパンク事件について,多重対応分析を行っ た。その過程において得られるオブジェクト ・ スコアを用いて,階層的クラス ター分析を行い,デンドログラムから類型化を行った。次にクロス集計を行い,
類型ごとの犯行特徴及び犯人特徴の関連性を検討した。
分 析
分析対象事件とデータ
1987 年 1 月から 2016 年 12 月までの間に,日本国内において発生し,犯人 が検挙された意図的なタイヤパンク事件 274 件を分析対象にした。
いずれの事件も「タイヤ」「パンク」「逮捕」「補導」などを検索ワードとし,
オンライン新聞記事データベース(朝日新聞「聞蔵Ⅱ」及び読売新聞「ヨミダ ス」)から詳細情報を得た。
事件の詳細情報は,欠損値の発生を回避するため,各新聞記事から得られや すい以下の項目,すなわち,犯行場所,被害車種,犯行道具,犯人の性別,年 齢層,職業,犯行動機,犯人と被害者の関係について事件ごとに入力し,最終 的にコーディングを行った。
コーディングに際し,一度の犯行で複数の車両をパンクさせたケースや,同 一犯が複数回犯行を繰り返しているケースが散見された。これらのケースで は,被害車両や犯行場所に相違がみられることもあった。しかしながら,デー
タの参照元である新聞記事には,全て列挙されず,概略だけが記されているこ とが多く,全ての犯行場所や被害車両などを正確に把握することには限界が あった。したがって,複数のコーディング候補がある場合には,274 件の全集 計結果を参照し,出現頻度がより高い項目に代表させてコーディングを行った。
分析方法
まず,本研究で用いた事件データの基礎集計を行い,意図的なタイヤパンク 事件の全体的傾向を把握した。
次に,多重対応分析を行い,変数間の関係性を集約して可視化した。具体的 には,分析対象変数の下位カテゴリ項目を 2 次元平面上にプロットし,次元の 解釈を行った。その過程において得られた,分析対象事件 274 件ごとのオブ ジェクト ・ スコアを用いて Ward 法による階層的クラスター分析を行った。そ れにより得られたデンドログラムに基づき,事件を複数の類型に分類した。
また,各類型の犯行特徴及び犯人特徴を明らかにするため,クロス集計分析 を行い,犯行特徴及び犯人特徴と,各類型の関連性をフィッシャーの直接確率 検定により確認した。もし有意差が認められた場合には,残差分析により,出 現頻度が有意に高い項目を特定した。残差分析とは , χ
2
検定やフィッシャー の直接確率検定によってクロス集計表全体の有意性が確認された後,個々のセ ルにおける有意性を判定する手法である(田中,2006)。以上の分析には,IBM 社の統計処理ソフト「SPSS Stastics23」を用いた。
なお,本研究のように,犯罪 ・ 事件を類型化する手法として,多重対応分析 とクラスター分析を併用する方法は,文書を用いた恐喝事件(大塚 ・ 横田 ・ 小 野 ・ 和智 ・ 渡邉,2016)や暴走族集団(小菅 ・ 藤田 ・ 岡村,2011)の類型化研 究において用いられている。
結 果
意図的なタイヤパンク事件の全体的傾向
意図的なタイヤパンク事件の犯行特徴及び犯人特徴に関する 8 変数の記述統 計量を Table 1 に示す。
犯行特徴のうち,犯行場所については,「駐車場・駐輪場」が最も多く 24.9%,次いで「個人宅」の 16.5%,その次に「路上」の 15.0%が続いた。
被害車種については,「乗用車」が全体の 8 割以上の 83.5%を占めており,
次いで多くみられた車種は「自転車・バイク」の 6.2%,その次に「公用車・
パトカー」の 5.1%が続いた。
タイヤのパンクに用いられた道具は,「キリ・千枚通し」が全体の半数近い 44.3%を占め,次いで多かった道具が「刃物・ナイフ」の 24.9%であった。
犯人特徴のうち,性別は,「男性」が全体の 90%以上を占めている。
犯人の年齢層は,16 歳から 81 歳まで幅広く分布していた。年齢層ごとにみ ると,「50-64 歳」が 33%,「65 歳以上」が 15.4% であり,中高齢層が全体の 半数近くを占めていた。
犯人の職業については,「無職」の者が全体の約半数近く(46.2%)を占め ていた。次いで多くみられた職業は「会社員・店員等」の 14.3%であり,その 次に「公務員」の 8.8%が続いた。
犯行動機については,動機が報道されない「報道なし」が 41.4%を占めてい た。それを除くと,最も多い動機は,「不満・鬱憤の解消」の 18.3%,次に「恋 愛感情・交際巡るトラブル」が 9.9%,そして「駐車・車の騒音等への腹いせ」
の 8.4%が続いた。
犯人と被害者の関係については,関係性が報道されない「報道なし」が 67.4%を占めていた。それを除くと,最も多い関係性は,「隣人 ・ 知人」の 12.1%,次いで「面識なし」の 8.4%,そして「元交際相手 ・ 元妻」と「恋愛
Table 1 意図的なタイヤパンク事件の記述統計量( = 273)
変数名 下位カテゴリー 度 数 %
犯行場所 駐車場・駐輪場 68 24.9
個人宅 45 16.5
路上 41 15.0
アパート・団地 23 8.4
会社・店舗の駐車場 23 8.4
スーパー・ショッピングモール 21 7.7
マンション 18 6.6
公園・レジャー施設 12 4.4
役所・警察の駐車場 9 3.3
図書館・病院・銀行 7 2.6
報道なし 6 2.2
被害車種 乗用車 228 83.5
自転車・バイク 17 6.2
公用車・パトカー等 14 5.1
トラック・ショベルカー 5 1.8
展示車・レンタカー 2 0.7
報道なし 7 2.6
犯行道具 キリ・千枚通し 121 44.3
刃物・ナイフ 68 24.9
アイスピック 17 6.2
その他工具等 17 6.2
ドライバー 13 4.8
釘 10 3.7
画鋲 9 3.3
報道なし 18 6.6
犯人の性別 男性 255 93.4
女性 18 6.6
犯人の年齢層 20 歳未満 1 0.4
20-29 歳 31 11.4
30-39 歳 50 18.3
40-49 歳 59 21.6
50-64 歳 90 33.0
65 歳以上 42 15.4
犯人の職業 会社員・店員等 39 14.3
公務員 38 13.9
技能労務者 24 8.8
運輸・運送業 11 4.0
アルバイト・派遣社員 10 3.7
自営業・経営者 9 3.3
作業・技術者 6 2.2
漁業・農業 6 2.2
学生・生徒 4 1.5
無職 126 46.2
犯行動機 不満・鬱憤の解消 50 18.3
恋愛感情・交際巡るトラブル 27 9.9
駐車・車の騒音等への腹いせ 23 8.4
被害者に対する個人的恨み 13 4.8
役所・会社等に対する不満 13 4.8
金銭目的 13 4.8
近隣住民とのトラブル 7 2.6
否認 14 5.1
報道なし 113 41.4
犯人と被害者の関係 隣人・知人 33 12.1
面識なし 23 8.4
元交際相手・元妻 13 4.8
恋愛対象者 13 4.8
同僚・勤務先 7 2.6
報道なし 184 67.4
対象者」が各々 4.8%であった。
クロス集計分析による変数間の関連性分析
意図的なタイヤパンク事件における変数の関連性を探索的に調べるため,分 析対象の 8 変数について,総当たりでクロス集計表を作成し,フィッシャーの 直接確率検定を行い,2 変数間の関連性を調べた。
分析の結果,被害車種と犯人の年齢層,及び犯行場所と犯行動機との間に統 計的に有意な偏りが認められた(どちらも p<.05)。そこで,残差分析を行い,
出現頻度が有意に高い項目を特定した。
まず,被害車種と犯人の年齢層について示す(Table 2 参照)。残差分析の 結果,出現頻度が有意に高いものは,被害車種が自転車・バイクにおける「20 歳未満」,トラック・ショベルカーにおける「40-49 歳」であった。反対に,
出現頻度が有意に低い年齢層は乗用車における「20 歳未満」,自転車・バイク における「30-39 歳」であった。
次に,犯行場所と犯行動機について示す(Table 3 参照)。出現頻度が有意 に高いものは,路上における「駐車・車の騒音等への腹いせ」,アパート ・ 団 地における「近隣住民とのトラブル」,会社・店舗の駐車場における「役所・
Table 2 被害車種と犯人の年齢層( = 273)
変数名 下位
カテゴリ
被害車種 乗用車 自転車・ 合 計
バイク 公用車・
パトカー等 トラック・
ショベルカー 展示車・
レンタカー 報道なし 犯人の
年齢層 20 歳未満 0 1** 0 0 0 0 1
20-29 歳 26 3 1 0 1 0 31
30-39 歳 44 0 2 1 1 2 50
40-49 歳 49 2 3 3* 0 2 59
50-64 歳 77 7 6 0 0 0 90
65 歳以上 32 4 2 1 0 3* 42
合 計 228 17 14 5 2 7 273
注)肩付文字は,残差分析の結果,有意に出現頻度が高いもの(**p<.01,*p<.05)
会社等に対する不満」,スーパー・ショッピングモールにおける「金銭目的」,
役所・警察の駐車場における「役所・会社等に対する不満」,図書館・病院・
銀行における「金銭目的」であった。なお,有意に出現頻度が低いものはみら れなかった。
多重対応分析による集約・可視化
クロス集計分析の結果,被害車種と犯人の年齢層との間,また犯行場所と犯 行動機との間に,それぞれ有意な関連性が認められた。そこで,これら 4 変数,
すなわち犯行場所,被害車種,犯人の年齢層,犯行動機を用いて多重対応分析 を行い,変数間の関連性を集約するとともに,可視化を試みた。
その結果を Figure 1 に示す。寄与率は,第 1 次元が 46.5%,第 2 次元は 41.9%であった。
横軸の第 1 次元をみると,右側には「警察 ・ 役所 ・ 企業等に対する不満」「警 Table 3 犯行場所別にみた犯行目的・動機( = 273 )
変数名 下位カテゴリ
犯行動機
不満・鬱憤
合計の解消 恋愛感情・交際
巡るトラブル 駐車・車の騒音 等への腹いせ 被害者に対す
る個人的恨み 役所・会社等 に対する不満 金銭
目的 近隣住民と のトラブル 否認 報道
なし
犯行場所 駐車場・駐輪場 11 8 5 4 3 1 3 4 29 68
個人宅 7 6 1 3 1 0 1 3 23 45
路上 7 1 9** 0 1 1 1 4 17 41
アパート・団地 6 3 0 1 0 0 2† 1 10 23
会社・店舗の駐車場 5 2 2 1 3† 2 0 1 7 23
スーパー・
ショッピングモール 3 3 1 0 0 5** 0 0 9 21
マンション 6 2 3 2 0 0 0 1 4 18
公園・レジャー施設 2 1 1 1 0 1 0 0 6 12
役所 ・ 警察の駐車場 1 0 0 1 5** 0 0 0 2 9
図書館・病院・銀行 1 0 0 0 0 3** 0 0 3 7
報道なし 1 1 1 0 0 0 0 0 3 6
合 計 50 27 23 13 13 13 7 14 113 273
注)肩付文字は,残差分析の結果,有意に出現頻度が高いもの(**p<.01,*p<.05,†p<.1)
察・役所の駐車場」「会社 ・ 店舗の駐車場」「公用車 ・ パトカー」「展示車 ・ レ ンタカー」「トラック ・ ショベルカー」などの項目が布置されている。それに 対し,左側には「被害者に対する個人的恨み」「個人宅」「マンション」「乗用 車」「自転車・バイク」などの項目が布置されている。右側の項目に注目する と,役所や会社などに対しての嫌がらせに関する項目であると読み取れる。一 方,左側の項目の多くは,特定の個人に対する犯行,もしくは不特定の一般人 に対する犯行に関する項目であると読み取れる。したがって,第 1 次元は犯行
Figure 1 犯行特徴・犯人特徴などに基づいた多重対応分析の結果
対象が組織かもしくは個人かを示す次元であると解釈した。
縦軸の第 2 次元をみると,上方には「近隣住民とのトラブル」「恋愛感情・
交際巡るトラブル」「被害者に対する個人的恨み」「個人宅」などの項目が布置 されている。一方,下方には「スーパー ・ ショッピングモール」「警察 ・ 役所 の駐車場」「警察 ・ 役所・企業等に対する不満」「図書館 ・ 銀行 ・ 病院」「金銭 目的」などの項目が布置されている。上方の項目をみると,交際相手や近隣住 民など特定の人物を狙った事件に関する項目であると読み取れ,また,下方の 項目は,不満の発散や金銭を目的とし,面識のない不特定多数の人々を狙った 事件に関する項目であると読み取れる。したがって,第 2 次元は,犯人と被害 者の関係性の有無やその程度を示す次元であると解釈した。
クラスター分析による類型化
前記の多重対応分析によって得られたオブジェクトスコアを用いて Ward 法 による階層的クラスター分析を行った。それにより得られたデンドログラムか ら,3 つのクラスターを抽出することが妥当であると判断した。Figure 2 にク ラスター別にみた各事件の布置図を示す。各類型における事件数は,第 1 群が 227 件,第 2 群が 24 件,第 3 群が 22 件であった。多重対応分析によって解釈 した次元との対応から,第 1 群は「犯行対象の組織性低-面識あり」群,第 2 群は「犯行対象の組織性低-面識なし」群,第 3 群は「犯行対象の組織性高」
群と命名した。
類型間の犯行特徴及び犯人特徴の差異
類型ごとに犯行特徴及び犯人特徴に差異がみられるか否かを検証するため に,再びクロス集計分析を行った。その結果,Table 4 に示すとおり,3 つの 類型間で,以下の変数,すなわち犯行場所,被害車種,犯行道具,犯人の年齢 層,及び犯行動機に有意な差異がみられたことから残差分析を行った。残差分
析の結果を以下に示す。
まず,犯行場所については,「個人対象-面識あり」群の場合,「駐車場 ・ 駐 輪場」「個人宅」「アパート団地」及び「マンション」において,「個人対象-
面識なし」群の場合,「スーパー ・ ショッピングモール」「公園 ・ レジャー施設」
及び「図書館・銀行・病院」において,「組織対象」群の場合,「警察・役所の 駐車場」「会社 ・ 店舗の駐車場」において,有意に多くの犯行が行われていた。
「被害車種」については,「個人対象-面識あり」群の場合は,「乗用車」が,
「個人対象-面識なし」群の場合は,「自転車 ・ バイク」が,また「組織対象」
Figure 2 類型別にみた各サンプルの配置
Table 4 類型別にみた犯行特徴及び犯人特徴( = 273)
クラスタによる類型 フィッシャーの
直接確率検定 個人対象-面識あり 個人対象-面識なし 組織対象
犯行場所 駐車場・駐輪場 63* 2 3
p<.01
個人宅 45** 0 0
路上 35 2 4
アパート・団地 23* 0 0
会社・店舗の駐車場 14 3 6**
スーパー・ショッピングモール 12 9** 0
マンション 18* 0 0
公園・レジャー施設 9 3* 0
警察・役所の駐車場 0 0 9**
図書館・病院・銀行 2 5** 0
報道なし 6 0 0
被害車種 乗用車 210** 11 7
p<.01
自転車・バイク 5 12** 0
公用車・パトカー等 1 0 13**
トラック・ショベルカー 3 1 1
展示車・レンタカー 2 0 0
報道なし 6 0 1
犯行道具 キリ・千枚通し 105 6 10
p<.01
刃物・ナイフ 54 5 9†
アイスピック 16 1 0
その他工具等 14 2 1
ドライバー 10 3 0
釘 8 0 2
画鋲 3 6** 0
報道なし 17 1 0
犯人の年齢層 20 歳未満 0 1** 0
p<.05
20-29 歳 27 2 2
30-39 歳 46 0 4
40-49 歳 53 2 4
50-64 歳 69 12† 9
65 歳以上 32 7* 3
犯行動機 不満・鬱憤の解消 44 1 5
p<.01
恋愛感情・交際巡るトラブル 27** 0 0
駐車・車の騒音等への腹いせ 20 3 0
被害者に対する個人的恨み 12 0 1
警察・役所・企業等に対する不満 2 0 11**
金銭目的 0 13** 0
近隣住民とのトラブル 7 0 0
否認 13 0 1
報道なし 102** 7 4
注)肩付文字は,残差分析の結果,有意に出現頻度が高いもの(**p<.01,*p<.05,†p<.1)
群の場合は,「公用車 ・ パトカー等」が被害に遭うことが有意に多かった。
「犯行道具」については,「個人対象-面識なし」群の場合は,「画鋲」が,「組 織対象」群の場合は,「刃物 ・ ナイフ」が用いられることが有意に多かった。
「犯人の年齢層」については,「個人対象-面識なし」群の場合,「50-64 歳 未満」及び「65 歳以上」の,いわゆる中・高齢層による犯行が有意に多く行 われていた。
最後に,「犯行動機」については,「個人対象-面識あり」群の場合は,「恋 愛感情・交際巡るトラブル」が,また「個人対象-面識なし」群の場合は,「金 銭目的」が,「組織対象」群の場合は,「警察・役所・企業等に対する不満」が 有意に多く挙げられていた。
考 察
本研究では,意図的なタイヤパンク事件について,犯人が検挙された 274 件 のデータを用いて,クロス集計分析,多重対応分析,そして階層的クラスター 分析を行い,類型化を試みた。その結果,意図的なタイヤパンク事件は,「個 人対象-面識あり」群(227 件),「個人対象-面識なし」群(24 件),及び「組 織対象」群(22 件)の 3 群に分類可能であることが示された。各類型の犯行 特徴及び犯人特徴は以下のとおりとなる。
まず,「個人対象-面識あり」群は,調査対象全事件のうち約 8 割を占める 最も多い類型である。このことから,この群は,意図的なタイヤパンク事件で 最も典型的な類型であるといえるだろう。この群の特徴は,被害対象が個人で あり,しかも被害者と犯人との間に一定の面識があることである。この群の犯 人は,被害者の元交際相手 ・ 妻であるか,あるいは一方的に好意や恋愛感情な どを抱いていた人物であることが多い。また,この群の犯行特徴は,被害者の 自宅 ・ マンション,あるいは被害者が利用している駐車場などにおいて,被害
者が所有する乗用車のタイヤをパンクさせることである。
次に,「個人対象-面識なし」群は,被害対象が個人ではあるものの,前述 した「個人対象-面識あり」群とは異なり,被害者と犯人との間には面識がな いことが特徴である。また,犯人の約 8 割が 50 代以上の中高齢層である(年 齢層の内訳は,「50-64 歳」が 12 人,「65 歳以上」が 7 人)。この群の犯行特 徴は,スーパーやショッピングモールなどの小売店,あるいは病院や銀行,図 書館などの公共施設の駐車場において,自転車・バイク(24 件中 12 件)を狙う。
その犯行動機は,金銭目的であることが多い。駐車場利用者の車両をパンクさ せておき,被害者が戻ったところでパンク修理やタイヤ交換を持ちかけ,謝礼 金や工賃と称し,現金を騙し取ることを目的としている。この群の犯行特徴と して,画鋲を用いてパンクさせることが挙げられるが,これには犯行動機や被 害車種などが関連しているものと考えられる。画鋲のサイズは,非常に微小で あり,それは直ちに携帯性や秘匿性に優れることも意味する。したがって,「キ リ ・ 千枚通し」や「刃物 ・ ナイフ」などを用いる場合と比べると,犯行が露見 しにくいといえる。特に,この群のように,多くの人々が利用する小売店や公 共施設などの駐車場において,犯行を実行するには適している。また,たとえ,
画鋲であっても,自転車 ・ バイクが対象であれば,そのタイヤをパンクさせる ことは比較的容易であると考えられる。
最後は「組織対象」群である。この群の多くは,「公用車・パトカー等」を狙い,
「警察 ・ 役所」「会社 ・ 店舗」の駐車場において犯行を行う。つまり,この群は,
役所や会社などの組織 ・ 機関が犯行対象であることが特徴である。この群の犯 行動機は,「警察 ・ 役所 ・ 企業等に対する不満」である。新聞記事に基づき,
その具体的内容を調べると,犯人は逮捕後に,例えば「(警察官の)上司に暴 力を振るわれた」「友人が(警察に)取調べを受けているので腹が立った」「(役 所に)生活保護の申請が認められず,頭にきてやった」「会社を首になって腹 が立った」などと述べており, 警察や役所,あるいは会社 ・ 企業などに強い恨
みや不満を抱いており,それがタイヤをパンクさせた動機となっていたことが 裏付けられた。また,この群の多くのケースにおいて,犯行にあたり「刃物・
ナイフ」が用いられていることも,強い恨みや不満などの犯行動機と関連して いる可能性が高いと考えられる。
以上に説明したとおり,意図的なタイヤパンク事件は,一見,どれも似たよ うな事件であったとしても,犯行場所や被害車種などを手がかりにすることで,
3 類型に類型化可能であることが示された。また各類型において犯行特徴や犯 人特徴が相違することも明らかになった。
既に説明したとおり,意図的なタイヤパンク事件を取り上げた心理学的研究 は皆無であることから,その類型を示した本研究には,一定以上の意義はある ものと考えられる。また,本研究の結果を援用すれば,意図的なタイヤパンク 事件が発生した際に,大まかではあるものの,犯人と被害者の関係性や犯行動 機の把握や推測が行える。したがって,捜査支援にも少なからず寄与するもの と考えられる。
しかしながら,本研究にはいくつかの問題が残されていることも指摘してお かねばならない。まずひとつは,各変数における「報道なし」コードの多さで ある。本研究では 247 件の事件について,新聞記事から情報を得ているが,全 ての事件において,詳細な情報を十分には得られなかった。おそらく,タイヤ パンク事件の報道価値は,殺人や強盗,放火などの強行犯事件と比べると必ず しも高いものではなく,必要最低限の報道に留まっているのだろう。また,「報 道なし」コードは,「犯行動機」と「犯人と被害者の関係」において,特に多 くみられ(各々 113 件と 184 件),これらの分析結果の妥当性や信頼性には留 意する必要があるだろう。
もうひとつは,3 類型のうち,分析対象事件の 8 割以上が「個人対象-面識 あり」群に集中していることである。意図的なタイヤパンク事件のほとんどが,
このタイプに分類されるという知見は,たとえ事実であったとしても,捜査支
援において有用な手がかりに成り得るとは必ずしも限らない。なぜなら,大半 のケースが「個人対象-面識あり」群に該当するのであれば,捜査支援に要求 される犯人像や被疑者の「絞り込み」を果たせないからである。したがって,
今後はこの類型に該当する事件データのみを用いて,「個人対象―面識あり」
群を対象にしたさらなる類型化を行う必要があるだろう。
引用文献
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小菅 律 ・ 藤田 悟郎 ・ 岡村 和子(2011). 暴走族集団の特徴による類型化 犯罪心理学研究 , 48, 13-27.
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読売新聞(2004d). 車パンクさせた疑い,県職員を逮捕同僚女性が被害 県警と宇都宮 中央署 12 月 12 日 読売新聞 東京朝刊栃木北,36.
付 記
本研究結果は,福岡大学研究推進部の領域別研究チーム「社会問題と心理学」(課題番号:
164001,研究代表者:大上 渉)による研究成果の一部である。