カーボンナノチューブ薄膜の 熱伝導体応用の検討
平成
26年度
三重大学大学院 工学研究科 博士前期課程 電気電子工学専攻
量子エレクトロニクス研究室
前 田 健 太
目次
第1章 序論
... 31-1
カーボンナノチューブ
(CNT) ... 31-2 CNT
を用いた熱伝導材料
... 41-2-1
熱伝導材料
... 41-2-2
従来の熱伝導材料
... 51-2-3 CNT
熱伝導材料
... 61-3
本研究の目的
... 7第
2章 理論
... 82-1 CVD
法による
CNTの成長メカニズム
... 82-1-1 CVD
法
... 82-1-2 CVD
法の原理
... 92-1-3 CVD
法による
CNT成長メカニズム
... 102-2 CNT
の熱伝導
... 122-2-1
熱的性質
... 122-2-2
熱伝導率
... 132-2-3 SWCNT
の熱伝導
... 152-2-4 MWCNT
の熱伝導
... 162-3
熱伝導特性評価方法
... 172-3-1
サーモリフレクタンス法
... 172-3-2 3ω
法
... 182-3-3
定常法
... 19第
3章 方法
... 213-1
実験概要
... 213-2 MWCNT
成長方法
... 213-2-1
基板の準備
... 213-2-2
真空蒸着法による触媒金属薄膜形成
... 213-2-3
熱
CVD法による
MWCNT成長
... 233-3 SWCNT
成長方法 ... 25
3-3-1 基板の準備 ... 25
3-3-2 ディップコート法による触媒金属薄膜形成 ... 25
3-3-3 熱CVD
法による
SWCNT成長 ... 26
3-4 走査型電子顕微鏡(SEM)による評価 ... 29
3-5 透過型電子顕微鏡(TEM)による評価 ... 30
3-6 ラマン分光法 ... 31
3-6-1
ラマン分光法の基本原理
... 313-6-2 CNT
のラマン分光
... 323-6-3
ラマン分光装置による
CNTの品質評価
... 333-7
熱伝導特性評価
... 343-7-1 CNT
薄膜の熱伝導特性評価の原理
... 343-7-2 CNT
薄膜の熱伝導特性評価のための装置の構成
... 353-7-3 CNT
薄膜の熱伝導特性評価手順
... 36第
4章 結果と考察
... 374-1
成長した
CNT薄膜の評価
... 374-1-1 MWCNT
の
SEM観察による評価
... 374-1-2 SWCNT
の
SEM観察による評価
... 404-1-3 CNT
の
TEM観察による評価
... 414-2 CNT
薄膜の熱伝導特性評価
... 424-2-1
熱伝導の
CNT薄膜による影響
... 424-2-2 CNT
薄膜構造による熱伝導特性の比較
... 444-2-3 MWCNT
薄膜の熱伝導における
CNT膜厚依存性
... 454-3 CNT
薄膜の熱伝導特性改善
... 474-3-1 MWCNT
薄膜上に堆積した金属薄膜による熱伝導への影響
... 474-3-2 CNT
薄膜のバッファ層による熱伝導への影響
... 494-3-3 CNT
薄膜の金属触媒膜厚による熱伝導への影響
... 504-4
考察
... 524-4-1 CNT
構造が熱伝導へ与える影響
... 524-4-2 MWCNT
膜厚依存性
... 544-4-3 CNT
薄膜上に堆積した金属薄膜の影響
... 554-4-4
金属触媒の影響
... 564-5
まとめ
... 57第
5章 総括
... 58参考文献
... 60謝辞
... 62第1章 序論
1-1
カーボンナノチューブ
(CNT)カーボンナノチューブ
(Carbon Nanotube ; CNT)は,グラフェンシートを継ぎ目 無く丸めた筒状の構造をしており,ナノサイズの直径をもつ物質である。
1991年 に発見されて以来ナノテクノロジーの材料として脚光を浴び,様々な分野への 応用に向けた研究が行われている。
CNTの直径はおおよそ数
nmから数十
nmの 範囲で,長さは数
µmから数
cmに及び,非常に高いアスペクト比
(縦横比
)の形 状を持つ。また,その筒状構造を構成するグラフェンシートが同軸円筒状に何重 にも重なった多層
CNT(Multi-walled Carbon Nanotube ; MWCNT)と,
1層のみから なる単層
CNT(Single-walled Carbon Nanotube ; SWCNT)の
2つに分類される
[1-3]。
CNTはグラフェンが基本構造であることから,物理的・化学的に安定している。
さらに機械的強度に関しては,引っ張り強度は鋼鉄の
10倍以上と強靭でありな
がら,曲げの力については極めて柔軟であるという特徴を持つ。他にも,銅の
1000倍以上の高電流密度耐性や優れた電子放出特性,熱伝導率が非常に高いと
いった特徴も合わせ持っている。このような優れた機械的性質,電気的性質など
の特徴から,電子放出源,電界放出ディスプレイ,ナノスケール配線材料,高強
度複合材料など多くの応用が提案されている
[4]。
1-2 CNT
を用いた熱伝導材料
1-2-1
熱伝導材料
熱伝導材料とは,電子機器等で発生する熱を効率的に外へ伝導し放散させる ための材料である。
CPUといった電子機器では性能の向上と共に,消費電量が 増加し,それに伴い発熱量も増加している。電子機器からの発熱は性能の低下を 引き起こすだけでなく,機器の破損を引き起こすこともあり,効率的な放熱対策 が重要となっている。通常は発熱体にヒートシンクと呼ばれる金属でできた放 熱用のフィンを取り付けている。しかしヒートシンクと発熱体の接触界面は,固 体であるが故にミクロンオーダーの凹凸が存在しており,両者は完全に密着し ておらず,界面には微少な空間が存在する。これが発熱体からヒートシンクへの 熱伝導を制約する要因となる(図
1-2-1) 。界面における熱伝導性を向上させるた めには,より平滑な表面とすれば良いが,技術的な制約により,完全な平坦面を 得ることは難しい。そのため,界面にシリコングリスといった熱伝導材料を充填 することで密着性を高め,放熱性能の向上を実現している。
図
1-2-1熱伝導材料
1-2-2
従来の熱伝導材料
熱伝導材料として現在最も用いられているものは放熱グリスである。一般的 な放熱グリスは,熱伝導率の高い粒子を混ぜ込んだシリコングリスである。ベー スとなるシリコングリスは安定性が高く腐食されにくく,高温化でもあまり粘 度が変化しない。シリコングリスに混ぜ込む粒子としては主に銅,銀,アルミ,
酸化亜鉛といった金属が用いられる。一般的なシリコングリスの熱伝導率は
0.5W/m-K
程度であり,金属を混ぜ込んだグリスでは
10 W/m-K程度である。また
金属粒子の代わりにダイヤモンドの粒子を混ぜ込んだナノダイヤモンドグリス
(
Ainex製
, JP-DX1)では
16 W/m-Kである。
放熱グリスの他には放熱シートも用いられることが多い。一般的なものはゴ ムシートの他に,シリコーン,アクリルといった材料をベースとしたシートであ る。放熱シートは放熱グリスに比べ,高い熱伝導率をもつものが多い。また最近 では,さらに熱伝導率を高めたグラファイトシートというものもある。その名の とおり炭素でできた放熱シートで,面方向への熱伝導率は
1500 W/m-Kと非常に 高い。放熱シートの特徴としては,扱いやすい点が挙げられる。放熱グリスは塗 布量や圧着力を制御しなければ性能を発揮することができず,また再使用は難 しい。対して放熱シートは界面に挟むだけであり,再使用も可能である。しかし,
放熱シートは熱伝導率が高いが厚みがあるため,圧着することで限りなく薄く
することが可能な放熱グリスに,放熱性能では敵わない。ただし放熱グリス自体
の熱伝導率は低いため,熱伝導率の高い放熱グリス,またはそれに代わるような
高性能熱伝導体の開発が進められている。
1-2-3 CNT
熱伝導材料
従来の熱伝導体に代わる高性能熱伝導材料として,近年
CNTが注目されて いる。
CNTを熱伝導材料として用いる利点としては,熱伝導率が非常に高いと いうことの他に,柔軟性が優れているという点がある。熱伝導材料の用途として は,
2つの固体表面の間でより多くの熱を伝達させるために,固体表面の微小な 凹凸に密着する必要がある。熱伝導率が高い材料とはいえ金属といった硬い材 料では密着性に欠けてしまい,さらに微小な隙間を作ってしまうことも考えら れる。従って,高性能熱伝導材料として用いることができる材料の条件としては,
従来の熱伝導材料よりも高い熱伝導率を持ち,固体表面の微細な凹凸を埋める ことができるような形態を有しかつ柔軟性が高いことが挙げられる。
CNTは以 上の条件を満たす材料であることから,
CNTの高性能熱伝導材料としての応用 が期待されている。
CNTを熱伝導体応用に供するためには,多数の
CNTが膜状 に成型した
CNT薄膜を作製する必要がある。
CNT
の熱伝導についてはいくつかの報告例があり,表
1-2-1に示す。単一の
CNT
では
3000 W/m-Kを超える値も報告されているのに対して,
CNT薄膜では
1
桁から
2桁の低い値の報告例が多い。CNT を熱伝導体に応用するうえで,こ の
CNT薄膜の低い熱伝導率が問題となっている。
表
1-2-1 CNTの熱伝導率測定の報告例
著者 サンプル 熱伝導率
(W/m-K)測定方法
Yu et al. [5]
単一の
SWCNT 3000 <架橋法
Shi et al. [6] SWCNT
の束
150架橋法
Panzer et al. [7] SWCNT
薄膜
8サーモリフレクタンス
法
Hone et al. [8] SWCNT
薄膜
~217自己発熱法
Kim et al. [9] SWCNT
薄膜
63.5 ± 9.7ラマン分光法
Kim et al. [10]
単一の
MWCNT 3000 <架橋法
Choi et al. [11]
単一の
MWCNT 300 ± 20 3ω法
Jakubinek et al. [12] MWCNT
薄膜
0.5~1.2定常法
Kim et al. [9] MWCNT
薄膜
18.2 ± 7.9ラマン分光法
Aliev et al. [13] MWCNT
薄膜
50 ± 5 3ω法
Hu et al. [14] MWCNT
薄膜
74~83 3ω法
1-3
本研究の目的
前述のように,これまでに報告されている
CNTの熱伝導特性は,結果が極め て大きくばらついている。熱伝導材料としての応用の実現を行うためには,安定 して高い熱伝導率を示す
CNT薄膜の合成が必要不可欠である。
CNTは横軸方向 に対して長軸方向に高い熱伝導特性を示すと報告されていることから,
CNTを 用いた高性能熱伝導材料として,基板上に垂直配向成長した
CNTが効果的であ ると考えられる。本研究では,垂直配向
CNTの合成から,熱伝導特性の評価を 行い,
CNTの熱伝導材料への応用可能性の検討を目的とする。
測定試料としては,
MWCNT,
SWCNT,および強磁性金属内包
CNT(Fe@CNT)の垂直配向
CNT膜を用いた。
Fe@CNTは,本研究室で合成に成功している,
MWCNT
の内部に鉄ナノワイヤーが充填された
CNTである。内部が空洞である
一般的な
CNTと比較して熱流路の断面積が増えるため,良好な熱伝導特性を示 すことが期待される。これらの垂直配向
CNT薄膜は,熱
CVD法により基板上 に成長させた。
CNT
膜の熱伝導特性は,セラミックヒーターと金属棒を用いた定常熱流法に より評価した。この方法は,発熱体からの熱流が
CNT膜を介して放熱体へ流れ る際に発生する温度差を測定することで熱伝導特性を評価するものである。こ の方法では,
CNT薄膜の熱伝導率を得ることはできないが,実際の熱伝導材料 の使用用途に近い状況下で,
CNT膜の熱伝導特性を定性的に測定することがで き,
CNT薄膜の熱伝導材料としての実用可能性の検討を行うことが可能である。
本研究で用いる
CNT薄膜試料は,あらかじめラマン分光法により分析を行い
CNTの結晶性評価を行った。これを熱伝導特性と比較することにより
CNTの結
晶性の熱伝導特性への影響を検討した。
第 2 章 理論
2-1 CVD
法による
CNTの成長メカニズム
2-1-1 CVD
法
ここでは
CNTの成長方法の
1つである,化学気相成長
(Chemical VaporDeposition
;
CVD)法について記述する。
CVD法とは,気相や基板表面における
化学反応により物質の堆積を行う成膜方法のことである
[15,16]。大気圧から中真 空の状態において,成膜したい元素を含む原料ガスを送り込み,化学反応に必要 なエネルギーを与えて反応を促進,薄膜を基板表面に堆積させる。
CVD法によ る
CNT成長においては,原料ガスとして炭素を構成元素として含むガスを用い る。このとき,原料ガスの化学反応を促進させる触媒が必要とされることから,
触媒化学気相成長
(Catalytic CVD;
CCVD)法とも呼ばれる。
CVD
法において原料ガスを分解する際に与えるエネルギーとして,熱,プラ
ズマ,光などがある。
CNTの成長の際には主に熱エネルギーを用いた熱
CVD法
が用いられることが多い。原料ガスとしてアセチレン,メタン,エタノールなど
が用いられ,これらはガスの種類にもよるがおおよそ
600°C~900°Cの温度で分
解される。リアクタ内に金属触媒を堆積させた基板を設置し,所定の温度まで加
熱すると金属が微粒子化される。ここに原料ガスを導入すると,金属微粒子を核
として
CNTが成長する。熱
CVD法では触媒の種類,原料ガスの種類,反応温
度,リアクタ内の圧力といった条件の選択によって,
CNTの層数,直径,長さ
といった成長形態を制御することができる。
CVD法による
CNT成長の特徴と
しては,装置が単純なため大面積化が容易,大量合成が可能,金属触媒の堆積に
よって選択成長が可能,などがあげられる。また最大の利点は,基板上に直接成
長することができるという点である。
2-1-2 CVD
法の原理
薄膜作成方法の
1つである
CVD法は,供給される原料ガスの蒸気圧と,原料 ガスの分解により生成された物質の蒸気圧との違いを利用している
[17]。原料と して供給されるガスは高い蒸気圧をもっており,原料ガスのまま基板上に到達 しても薄膜として堆積することはない。しかし,この原料ガスが分解されて生成 された物質の蒸気圧が低ければ,これが基板上に堆積して薄膜が形成されるこ とになる。
CVD
法は原料ガスを分解するために供給するエネルギー形態の違いによって 分類される。最も基本的なものが熱エネルギーであり,これは熱
CVD法とよば れる。原料ガスを分解し金属薄膜を堆積する温度は
500~
700 °C,炭化物薄膜を 堆積する温度は
700~
1000 °Cとかなり高温であるため,耐熱性のない材料は基 板として用いることは不可である。熱
CVD法は装置構成の違いから,反応室全 体を均一に加熱するホットウォール法と,基板のみを加熱するコールドウォー ル法に分類される。
熱エネルギー以外ではプラズマによるエネルギーを利用する方法もあり,プ ラズマ
CVD法とよばれる。プラズマ
CVD法は比較的低い基板温度で薄膜形成 が可能という特徴をもつ。しかし,プラズマ
CVDでは放電を発生させるための 電源や必要,リアクタに電極やアンテナを設置する必要があるなど,装置が複雑 になりまたコストがかかってしまう,気相中の反応により粒子が形成され薄膜 中に異物として取り込まれてしまう,といった問題点がある。さらに
CNT成長 においては,イオン衝撃による
CNTのダメージの発生などの問題もある。
CVD
法における膜形成過程は,以下に列挙する
5つの素過程の一連として捉 えることができる。
(1)
反応ガスの基板表面への輸送
(2)基板表面への吸着・表面拡散
(3)表面反応・核形成
(4)
反応性生物の脱離
(5)
脱離反応生成物の外方拡散
上記の反応素過程のうちで,最も遅い過程が
CVDプロセスを律速する。表面 反応温度が十分に高く,
(1)が律速過程ならば,輸送律速または反応律速という。
原料供給が速やかかつ十分に行われている場合には,
(3)が律速となり表面反応 律速とよぶ。
(2)および(3)において基板表面は,原料ガス分子の吸着サイトを与え,そこでの触媒作用により反応速度を気相中に比べて格段に高める役割をし ている。したがって,基板表面の吸着サイト密度は,膜堆積速度や堆積形態に大 きく影響する。また,均一,均質な膜を成膜するためには(1)や(5)の拡散過程で,
気相反応による粒子発生がないように,形成条件を制御する必要がある。
図
2-1-1 CVDプロセスにおける薄膜形成過程
2-1-3 CVD
法による
CNT成長メカニズム
CVD
法は薄膜形成法であるが,
CNTの成長方法としても用いられる。
CVD法 による通常の薄膜形成プロセスでは,原料ガス分子が基板に吸着されることに より薄膜を形成するのに対し,
CVDによる
CNT成長では,原料ガスの分解から
CNTの成長までの一連の過程において,基板上に予め形成した触媒が重要な役 割を果たす点が特徴的である。
CVD
法を用いた
CNTの成長メカニズムは多くのモデルが議論されている。
現在までに存在する成長モデルの多くは
Bakerらにより提案されたモデルを基 にしている。
(1)
高温化で基板表面の触媒金属が微粒子化
(2)
触媒金属表面で原料となる炭化水素が分解され炭素原子が生成
(3)炭素原子が金属ナノ粒子中に溶解し,過飽和になる
(4)
触媒金属微粒子表面に炭素が析出し
CNTが成長
これらの
CNT成長の流れを図
2-1-2に示す。
(4)の
CNTの成長機構としては,
先端成長と根元成長とよばれる
2種類の成長機構が存在する。先端成長では,
触媒微粒子が
CNT先端に保持されており,これを成長点として
CNTが成長す る。 対して根元成長では, 触媒微粒子は
CNTの根元となる基板表面に保持され,
そこを成長サイトとして
CNTは成長する。どちらの成長機構によって
CNTが 成長するかは,触媒微粒子と下地となる基板表面の結合力によって左右される。
触媒微粒子と下地との結合が強ければ,触媒微粒子は基板表面上に固定され,根
元成長により
CNTが成長する。反対に,結合力が弱ければ触媒微粒子は下地か
ら持ち上げられ先端成長となる[3]。
図
2-1-2 Bakerらの提案した成長モデル
図
2-1-3 CNT成長機構の違い
2-2 CNT
の熱伝導
2-2-1
熱的性質
一般的な固体材料の熱的性質においては,自由電子とフォノン(量子化され た格子振動)の寄与によって熱伝導が行われる。しかしグラフェンあるいはグラ ファイトでは,熱伝導への自由電子の寄与は小さく,フォノンによるものが支配
的である
[3,18]。従って,グラフェンを基本構造とする
SWCNTにおいても,熱
伝導はフォノンによる寄与が支配的であるが,
SWCNTの電子状態により異なる。
CNT
はカイラリティによって金属と半導体に分類され, 半導体
SWCNTの場合,
室温での電子は運動しないため,熱伝導への寄与はフォノンのみである。金属
SWCNT
の場合,フェルミ準位近傍での電子の状態密度が低いため電子の寄与は
小さく,フォノンによる熱伝導が支配的である。
2次元グラフェンの振動モード には,
(1)
縦
(LA)モード
(2)
面内横
(in-plane TA)モード
(3)面外横
(out-of-plane TA)モード
の
3つのフォノン音響モードが存在する。
2次元グラフェンでは,面内振動モー ドと面外振動モードは互いに独立であるが,円筒構造をもつ
SWCNTではこれ らは互いに結合するため,独特の振動モードをもつ。
(1)
チューブ軸に平行な原子運動に対応する縦音響
(LA)モード
(2)
チューブ軸に垂直な変位に対応する二重縮退の横音響
(TA)モード
(3)チューブ軸の回りのねじれに対応するツイスト
(TW)モード
LA
モードは
2次元グラフェンの
LAモードに等しいが,
SWCNTの
TAモー ドはグラフェンの面内
TAモードと面外
TAモードの組み合わせである。
TWモ ードは面内
TAモードと同じである。
SWCNTのこれらのフォノン振動モードは 大きなフォノン速度を持っている。カイラルベクトル
(10,10)の
SWCNTの場合,
vLA=20 km/s
,
vTA=9 km/s,
vTW=15 km/sである。
2-2-2
熱伝導率
[3]ダイヤモンドやグラファイトといった炭素ベースの材料は,室温付近では非 常に高い熱伝導率を示す。グラファイトの熱伝導はフォノンによる寄与が支配 的なため,試料中の結晶粒のサイズによって熱伝導率の大きさが決定される。従 って,
CNTでは結晶性の高さによっては,長さ方向の熱伝導率がグラファイト の面内熱伝導率を超える可能性があると考えられる。まず,グラファイトにおけ るフォノンと電子の熱伝導への寄与について考える。
フォノンによる熱伝導率
λは,単位堆積あたりの熱容量
C,フォノンの速度
vおよびフォノンの平均自由行程
kに比例する。
𝜆 ∝ 𝐶𝑣𝑘 (1)
k
は結晶の欠陥や結晶粒界などの不完全性によるフォノン散乱とフォノンどう しの衝突により制限される。これらの事象はたがいに独立なので,
kの合成は以 下で表される。
𝑘−1 = 𝑘𝑆𝑡 −1+ 𝑘𝑢𝑚 −1 (2)
ここで,
kStは格子欠陥や不純物など静的な結晶の乱れによる散乱の平均自由行 程,
kumは反転過程と呼ばれるフォノンどうしの衝突による散乱の平均自由行程 である。
一方,電子による熱伝導率
λeは,ウィーデマン・フランツの法則により電気 伝導率
σと以下の式で関連している。
𝜆𝑒
𝜎𝑇≈ 𝐿0 (3)
ここで,
L0はローレンツ数と呼ばれる定数で,
L0=
2.45×10-8 V/K2である。従 って,試料の
λe/(σT)の値を測定し,
L0と比較すればフォノンと電子の熱伝導率
λ(T)への寄与の割合を得ることができる。グラファイトでは,
T≧
20 Kにおいて はフォノンが熱伝導の主要な部分を占めるが,
CNTにおいては
T=0までのすべ ての温度でフォノンが支配的である
[3]。
フォノンによる熱伝導において重要な物理量の
1つはフォノン平均自由行程
である。
SWCNTは円筒構造を有するためフォノン散乱が抑制され,フォノン平
均自由行程は低温では数百
µm,室温でも数
µmに及ぶ長い距離を示す
[18]。
SWCNT
の典型的な長さは数
µm程度であるため,低温ではフォノン平均自由行
程が
SWCNT長さを超え,
SWCNT中でフォノンが互いに散乱されることのない
バリスティックなフォノン熱伝導を示す。一方室温では
SWCNT長さとフォノ
ン平均自由行程が同程度となるため,準バリスティックなフォノン熱伝導を示
す。バリスティック・フォノン熱伝導では,
SWCNTの熱伝導率は長さに比例す
るのに対し,準バリスティック・フォノン熱伝導では,フォノン散乱の影響によ
り,熱伝導率は
SWCNT長さに対して非線形に増大する[19]。これはナノ材料一
般に見られる現象であるが,SWCNT のフォノン平均自由行程が特に長いため,
室温で数
µmに及ぶ広い範囲での長さ依存性が予測されている。比平衡分子動力 学法によって計算した,
CNT長さに対する熱伝導率を図
2-2-1に示す。チューブ 長
Lの小さい領域では,熱伝導率は
Lに比例して増加していることから,この 領域はバリスティックなフォノン熱伝導であることがわかる。
Lの増加に伴いフ ォノンの拡散性が増すため,
Lの大きな領域では,熱伝導率の
Lに対する勾配が 減少し非線形に増加する。
SWCNTの熱伝導率における直径依存性については,
バリスティック・フォノン熱伝導領域では,チューブ直径依存性は小さい。一方,
散乱によるフォノン拡散が起こる準バリスティック・フォノン熱伝導領域では,
熱伝導率は
SWCNTの直径に依存する。直径が増加するほどフォノン平均自由 行程は短くなり,
SWCNTの熱伝導率は減少する
[5]。
図
2-2-1比平衡分子動力学法によって計算された異なる直径の
SWCNTの
熱伝導率の長さ依存性
[19]2-2-3 SWCNT
の熱伝導
[3]図
2-2-2に
Honeらによって測定された塊状の
SWCNTの熱伝導率の温度依存
性を示す
[20]。この測定試料は高磁場中で方向が揃えられた
SWCNTで,熱伝導 の測定はチューブに平行な方向で行われた。配向した方向では,熱伝導率は室温
で
200 W/m-Kを超える値を示す。この値は金属と同程度ではあるものの,ダイ
ヤモンド
(2000 W/m-K)の値に比べて
1桁小さい。しかしながら,チューブ間,あ
るいは束の間の多数の接合部を経て熱伝導が起こるということを考慮すると,
単一の
SWCNTあるいは束のもつ真の熱伝導率は極めて高い
(1750~
5800 W/m-K)
と推定される。
40 K
以下では温度に対して線形の熱伝導率を示す。これは,
SWCNTが
1次 元性を持ち,熱伝導を担うフォノン振動モードが線形の分散関係を持つことに 起因する。しかし高温域では,フォノンサブバンドの寄与が影響するため,熱伝 導率は線形よりも大きい値をもつ。サブバンド端のエネルギーは
SWCNTの直 径に反比例するので,細い直径であるほど線形領域が高温側まで伸びると予想 される。実際に
Honeらの測定では,異なる直径の
SWCNTの低温での熱伝導率 について調査し,傾きが一定となる温度領域が,直径
1.2 nmでは約
40 Kまで,
1.4 nm
では約
35 Kまでであることを示した。
図
2-2-2方向をそろえた塊状の
SWCNTの熱伝導率
[20]2-2-4 MWCNT
の熱伝導
[3]図
2-2-2に
Kimらにより測定された
MWCNTの熱伝導率の温度依存性を示す
[10]
。実線は孤立した単一の
MWCNT(直径
14 nm) ,破線は
MWCNTの束(直
径
200 nm)の熱伝導率測定結果である。架橋された単一の
MWCNTの熱伝導率
は,室温下で
3000 W/m-K以上の高い値を示す。対して
MWCNTの束では,熱 伝導率が大幅に低下する。
MWCNT束の熱伝導率は,束が太いほど小さな値を 示す。束のような塊状の
CNTでは,チューブ間の接合部を経て熱伝達が起こる が,この接合部の熱抵抗が非常に大きいということを示している。このようなチ ューブ間の接合部をもたない,単一の
MWCNTでは,理論で予測された値
(3000~
6000 W/m-K)に近い熱伝導率を示す
[21]。
単一の
MWCNTに対して測定された熱伝導率の温度依存性は,固体材料の熱
伝導率と類似した温度変化を示している。すなわち,低温領域ではフォノンの平 均自由行程
kは格子欠陥との衝突による平均自由行程
kStで支配されるので,熱 伝導率は比熱の温度変化に従う。一方,高温領域では
kはフォノンどうしの衝突 による平均自由行程
kumで支配されるので,温度の上昇とともに熱伝導率は減少 する。従って熱伝導率は,
𝑘𝑆𝑡 ≈ 𝑘𝑢𝑚となる温度で極大値をもつ。
MWCNTの場 合は,その極大となる温度は
T=320 Kであると観測されている。また,温度に 依存しない
kStは
500 nm程度と見積もられている。
図
2-2-3 MWCNTの熱伝導率
[10]2-3
熱伝導特性評価方法
CNT
の熱伝導特性評価方法について,ここでは代表的な例として,サーモリ フレクタンス法,
3ω法,定常状態法についての概要を示す。
2-3-1
サーモリフレクタンス法
サーモリフレクタンス法とは,レーザで測定試料を加熱し,表面から裏面へ の熱拡散を測定する方法である
[22]。一定温度に保たれた薄膜の測定試料の表面 パルスレーザで瞬間的に過熱すると,表面の熱は試料の裏面に
1次元的に拡散 してゆく。この熱拡散の過程を温度変化と比較することで,試料の厚さ方向の熱 拡散率を得ることができる。測定装置としては,試料加熱用のパルスレーザ発生 装置と,温度測定装置が必要となるが,薄膜の表面から裏面への熱拡散時間は非 常に短いため,熱電対や赤外線センサなどを用いた一般的なの温度測定方法で は正確に測定することができない。そこで,金属の反射率が温度の変化に伴って ごく僅かに変化するサーモリフレクタンスと呼ばれる現象を利用する。薄膜試 料表面に温度測定用のパルスレーザを照射し,反射後のレーザ光強度を測定す ることで,温度の大きさを得ることができる。サーモリフレクタンス法を用いる ためには,試料が断熱的に一定の温度に保たれており,周囲と熱交換がないこと が必要である。また試料は均一性が高く緻密であり,照射レーザに対して不透明 でなくてはならない。この方法での測定では熱拡散率に試料の厚さが大きく影 響するため,
CNTの測定の際には,
CNT薄膜の厚さを均一に揃えることが重要 となる。
図
2-3-1 サーモリフレクタンス法による熱伝導測定原理2-3-2 3ω
法
3ω
法とは,金属の抵抗が温度に対して変動する現象を利用した熱伝導率測定 方法である
[23,24]。測定試料の表面上に金属等の細線を堆積させ,これを線熱源 として利用する。角周波数
ωの交流定電流を金属細線に流すと,
2ωの角周波数 で線熱源は発熱する。測定試料が過熱され,線熱源を中心として測定試料の熱伝 導率に応じた温度場が形成される。金属の電気抵抗は温度変化に依存すること から,線熱源の電気抵抗値は測定試料の表面温度の影響を受ける。そのため抵抗 値の変化を測定することで,熱伝導率を得ることが可能となる。
2ωの角周波数 で変動する抵抗と,印加される交流定電流の角周波数
ωがかけあわさった角周 波数
3ω成分を,線熱源両端の電圧から抽出し,熱伝導率を計算する。厚さのあ る膜状試料の測定では厚さ方向に対して熱伝導を測定することができるが,薄 膜状の試料の測定においては,水平方向の熱伝導を無視できると仮定し,薄膜を 熱抵抗とみなして測定を行う。
測定装置としては,周囲の熱の影響を受けないための真空チャンバと,交流 定電流源,
3ω成分を抽出するためのロックインアンプが必要である。線熱源の 形成にはリソグラフィー技術や,マスクを用いて金属を堆積するといった方法 が用いられる。測定試料が導電体である場合は,線熱源との間に絶縁薄膜を挿入 する必要がある。
3ω
法を用いた
CNT薄膜の熱伝導率測定においては,線熱源の形成方法が重 要となる。
CNTがランダムに分散された網目状の薄膜や,基板上に垂直配向成 長した
CNTの薄膜などは,試料表面の凹凸が激しいため,均一な太さ,厚さの 線熱源を形成することが難しいとされる。
図
2-3-2 3ω法による熱伝導測定原理
2-3-3
定常法
ある物質中に温度勾配を生じさせたとき,単位時間に単位面積を流れる熱流 束密度
qは,温度勾配
gradTに比例する。
𝐪 = −𝜆𝑔𝑟𝑎𝑑𝑇 (4)
これはフーリエの法則
[18]と呼ばれ,比例係数
λは物質の熱伝導率という。この とき熱流束密度
qはベクトル量である。一方,物質中のエネルギー密度をρと したとき,ρと熱流束密度
qの間には連続の方程式,
𝜕𝜌𝜕𝑡+ 𝑑𝑖𝑣𝐪 = 0 (5)
が成立する。一方,エネルギー密度の変化率ρと物質の単位体積あたりの熱容量
CVの間には,
𝜕𝜌𝜕𝑡 = C𝑉𝜕𝑇𝜕t (6)
以上の
(2-1),
(2-2),
(2-3)式より,以下の熱伝導方程式が導出される。
C𝑉𝜕𝑇𝜕𝑡 = 𝜆𝑑𝑖𝑣 ∙ 𝑔𝑟𝑎𝑑𝑇 = 𝜆 (𝜕𝜕𝑥2𝑇2+𝜕𝜕𝑦2𝑇2+𝜕𝜕𝑧2𝑇2) (7)
簡単のため,熱流束は
x軸方向を向いているとする。十分長い時間が経過し,物 質中の温度勾配がゼロとなった定常状態では,熱流束密度はゼロとなる。この定 常状態における熱伝導方程式
(2-4)は,以下のようになる。
𝜕𝜕𝑥2𝑇2 = 0 (8)
この式から,定常状態での物質内での温度勾配は,位置
xによらず一定とな る。この原理を利用した熱伝導率の測定方法が定常法である
[25]。定常法に は定常熱流法と温度傾斜法の
2つの測定方法が存在する。
まず定常熱流法について説明する。周囲の熱の影響を受けないような状況下 で,測定試料の一方から熱エネルギーを与え,一方を低温に保ち温度差を生じさ せると,試料内部には温度勾配が発生する。この温度勾配を,位置を関数として 測定することで試料の熱伝導率を求めることができる。電気ヒーターといった 熱を発生させる装置と,温度測定器だけで測定することができる容易な方法で ある。また,直接熱伝導率を求めることができるといった利点もある。しかし,
温度測定を正確に行うことができないため小さな試料には不向きで,定常状態 になるまで待つ必要があるため測定に時間がかかるといった欠点がある。
温度測定が難しい小さな試料や薄膜試料等においては,温度測定が可能な標
準試料で測定試料を挟み込む方法で熱伝導率を測定する。この測定方法を温度
傾斜法という。標準試料は金属等,熱伝導率の高い材料からできていて,予め熱
伝導率がわかっている必要がある。標準試料の温度勾配を測定すれば,間に挟ん
だ測定試料の温度勾配を求めることが可能で,熱伝導率を得ることができる。し
かしこの方法での測定値には,測定試料と標準試料の界面の接触熱抵抗も含ま れてしまうため,厳密に試料の熱伝導率を測定することはできないという欠点 がある。
図
2-3-3定常法による熱伝導測定原理
(a)定常熱流法,
(b)温度傾斜法
第 3 章 方法
3-1
実験概要
本研究では,熱伝導特性評価の試料として,
MWCNT薄膜,
SWCNT薄膜お よび鉄ナノワイヤー内包
MWCNT(
Fe@CNT)薄膜試料を用意した。
MWCNT薄
膜,
SWCNT薄膜については,本研究遂行のため筆者が熱
CVD法により成長さ
せたものである。一方
Fe@CNTについては,本研究室の別グループで既に合成 された試料の提供を受けたものを用いた。いずれの試料も,
CNTの成長形態は 走査型電子顕微鏡,透過型電子顕微鏡を用いて観察し,
CNTの結晶性の評価は ラマン分光法を用いて行った。
CNTの熱伝導特性は定常法に基づく方法により 測定した。以下にその詳細を述べる。
3-2 MWCNT
成長方法
3-2-1
基板の準備
本研究では,
MWCNT成長の際の基板として
n型
Siウェハと, 酸化膜層
(SiO2,
300 nm)
付き
p型
SiO2/Siウェハを,
10 mm×10 mmに割断したものを使用した。
厚さは
0.5 mmである。この
Siおよび
SiO2/Si基板をアセトン(純度
99.5%)中
に浸し,
10分間超音波洗浄を行ったのち,再びアセトンを使用して
10分間の超 音波洗浄を行った。その後,メタノール(純度
99.8%)中で
5分間の超音波洗浄 を行った。超音波洗浄後,ホットプレート上で基板を加熱し,乾燥させた。
3-2-2
真空蒸着法による触媒金属薄膜形成
真空蒸着法とは,薄膜形成法の一種で,金属等に熱エネルギーを加えて気化さ せ,薄膜を堆積する物理気相成長法である
[17]。蒸着源の材料の蒸発,基板への 分子および原子の輸送,基板表面への付着,基板表面上で膜形成の一連の過程を 経て薄膜形成が行われる。物理気相成長法には他にスパッタリング法もあるが,
こちらは基板に入射する粒子のエネルギーが大きいのに対し,真空蒸着法では
0.1~1.0eV
と非常に小さいエネルギーをもつ。そのため,薄膜中への粒子打ち込
みによる欠陥の発生が少なく,比較的結晶性の高い薄膜を成膜することが可能 となる。
真空蒸着法には加熱方法によって,抵抗加熱法や電子ビーム加熱法,高周波加
熱法などに分類される。その中でも,比較的簡易な装置構成で薄膜形成が行える
抵抗加熱法を本研究で用いた。抵抗加熱法は,タングステン等の融点の高い金属 でできたフィラメントに通電し,その時発生するジュール熱により目的の材料 を蒸発させ成膜する手法であり,融点が概ね
2000°C以下の材料であればほぼ蒸 着を行うことができる。
真空蒸着装置は
ULVAC製の
EBH-6を用いた。図
3-2-1にその構成図を示す。
加熱用のフィラメントには直径
1.0 mmのタングステンワイヤー(純度
99.95%) を用いた。成膜条件は,成膜時の圧力を
10-4~10-5 Paとし,フィラメント-基板間
距離は
100 mm,成膜時の基板温度は室温下(基板加熱無し)で行った。対象と
なる材料が蒸発する温度までの加熱は,フィラメントに流す電流値を制御して 行った。金属薄膜の堆積量は真空チャンバ内に設置している水晶式膜厚計によ って測定し,成膜制御はフィラメントと基板間に設置されたシャッターにより 行った。
図
3-2-1真空蒸着装置の概略図
3-2-3
熱
CVD法による
MWCNT成長
MWCNT
成長において,本研究で使用した熱
CVD装置の概略図を図
3-2-2に
示す。この装置はホットウォール型
CVD装置であり,
C2H2,
Ar,
H2の
3種類 が導入可能なガス導入系,石英管リアクタ
(Φ40×L700),電気炉,そしてロータリ ーポンプによる排気系で構成されている。この熱
CVD装置の主な仕様を表
3-2-1
に示す。
この装置を用いた
MWCNTの成長方法を以下に示す。まず触媒金属薄膜を堆 積させた基板を石英ガラスボートに乗せ,石英管リアクタ内へ試料交換ゲート より導入する。次に,ロータリーポンプを用いて石英管内を
10 Pa以下の圧力ま で排気し,その後,
Arを大気圧まで導入する。この工程を
3回繰り返し,リア クタ内の残留ガスを除去し,管内を
Ar雰囲気に置換する。置換後,
EXHAUSTバルブを開け,
Arを
120 sccmの流量で導入する。続いて電気炉を用いて石英管 内を昇温し,熱電対で温度を測定する。管内が所望の
CVD温度に到達した時点 で炭素源となる
C2H2,および還元作用を目的として
H2を導入し,
CVDを行う。
所望の時間が経過した後,
C2H2と
H2の導入を止める。その後,
Arを
250 sccmの流量で導入し管内の冷却を行い,管内の温度が
100 °C以下になってから石英 ボートを回収し,作製した基板を取り出した。図
3-2-3に
MWCNT成長のため の
CVDプロセスを示す。
図
3-2-2 MWCNT成長のための熱
CVD装置の概略図
表
3-2-1 MWCNT成長のための熱
CVD装置の主な仕様
石英管 φ
40×L700管状電気炉
ISUZU製,KPO-13K,室温~1150°C,φ50 mm 温度調節器
SHIMADEN製,SR91
熱電対 アルメル
-クロメル
ロータリーポンプ 日立製作所製,最高到達真空度
3 Paピラニ真空計
ULVEC製,GP-1S,0.4~2.7 kPa ブルドン真空計
KOFLOC製,-0.1~0.25 MPa フローメーター
KOFLOC製
導入ガス純度
Ar(99.9995%
),
C2H2(99.9995%
),
H2(99.9995%
)石英ボート
W20×L70×H11図
3-2-3 MWCNT成長の際の
CVDプロセスタイムチャート
3-3 SWCNT
成長方法
3-3-1
基板の準備
本研究では,
SWCNT成長の際の基板として,
MWCNTで用いた基板と同様の
SiO2/Siウェハ(
p型,
SiO2;
300 nm,
10 mm×10 mm×0.5 mm)を用いた。基板の 洗浄方法は
3-2-1節で説明した手順と同様に行った。
3-3-2
ディップコート法による触媒金属薄膜形成
熱
CVD法による
SWCNT成長の際の触媒金属形成方法として,ディップコ
ート法
[26]を用いた。ディップコート法は金属微粒子を分散した溶液中に基板を 浸し,基板表面に担持させる手法である。真空蒸着などのドライプロセスとは異 なり加熱されないので熱凝集せず、ナノ微粒子の状態を保つことが出来る。また、
触媒が基板表面に化学結合するため堅固な微粒子を形成でき,装置自体が簡易 といった利点がある。
本研究で行ったディップコート法による触媒形成手順を以下に示す。
(1)
酢酸モリブデン
(Ⅱ
)89 mgと酢酸コバルト
(Ⅱ
)四水和物
169mgをそれぞれ
40 gのエタノール
(純度
99.5%)に混ぜ,約
2時間超音波分散を行う。
(2) SiO2
基板を
500°Cで
5分間,大気中で焼結し,基板表面をクリーニングす
る。
(3) (2)
の基板を
(1)で作成した酢酸モリブデン溶液中に
10分間浸し,
4 cm/minで 引き上げる。
(4)
引き上げた基板を数分間室温下で乾かし,
400°Cで
5分間,大気中で加熱し 酸化焼結させる。
(5) (4)
の基板を
(1)で作成した酢酸コバルト溶液中に
10分間浸し,
4 cm/minで引 き上げる。
(6)
引き上げた基板を数分間室温下で乾かし,
400°Cで
5分間,大気中で加熱し 酸化焼結させる。
(7) CVD
チャンバ内で
CVD温度まで上昇させる際,チャンバ内を
Ar/H2雰囲気 にし,基板を還元させる。
以上のプロセスにより、酢酸モリブデンと酢酸コバルトは
CoMoO,MoO,Coに分解され,基板表面上に堆積する。(7)のプロセスで析出した
Co微粒子は
CoMoO
と相互作用が強いため,表面の定位置に固定され凝集から守られる。し
たがって,基板表面上によく分散された
Coの微粒子が形成することができ,
SWCNT
成長の際の触媒微粒子となる。
図
3-3-1ディップコート法の触媒形成プロセス
図
3-3-2触媒微粒子形成の様子
3-3-3
熱
CVD法による
SWCNT成長
SWCNT
成長の際に用いた熱
CVD装置の概略図を図
3-3-3に示す。この装置
はホットウォール型の
CVD装置であり,エタノール
(C2H5OH),
Ar,
H2の
3種 類が導入可能なガス導入系,石英管リアクタ
(Φ40×L700),電気炉,そしてロータ リーポンプによる排気系で構成されている。この熱
CVD装置の主な仕様を,表
3-3-1
に示す。
この装置を用いた
SWCNTの成長方法を以下に示す。まず
CNT成長の炭素源
となるエタノールを気化させてリアクタ内に導入するために,エタノールの入
ったリザーバをリボンヒーターで巻き,通電加熱する。リボンヒーターに
80 V程度印加すると,リザーバ温度は約
80 °Cに加熱される。次に,触媒金属微粒子
を形成した基板を石英ガラスボートに乗せ,石英管リアクタ内へ試料交換ゲー
トより導入する。ロータリーポンプを用いて石英管内を
10 Pa以下の圧力まで排
気し,真空排気を行ったまま
Arを
300 sccmの流量で
5分間導入し,不純物ガス
を除去する。その後,Ar を
290 sccm,H2を
10 sccmの流量で導入し,ロータリ
ーポンプのバルブでリアクタ内の圧力を
6.7×103 Paに保ちながら,電気炉を用
いて石英管内を昇温し,熱電対で温度を測定する。管内を所望の
CVD温度に昇
温後,
Ar,
H2の導入を止め,ロータリーポンプを用いて
10 Pa以下まで真空排気 を行う。その後,エタノールガスを
300 sccmの流量で導入し,ロータリーポン プバルブで管内を所望の圧力に保ち,
CVDを行う。所望の時間が経過した後,
アルコールガスの導入を止め,管内の排気を行いエタノールガスを除去する。管
内を
10 Pa以下まで真空排気を行った後,
Arを
250 sccmで大気圧まで導入し管
内の冷却を行う。管内の温度が
100°C以下になってから石英ボートを回収し,
CNT
成長した基板を取り出した。図
3-3-4に
SWCNT成長の
CVDプロセスを示 す。
図
3-3-3 SWCNT成長のための熱
CVD装置の概略図
表
3-3-1 SWCNT成長のための熱
CVD装置の主な仕様
石英管 φ
40×L700管状電気炉
ISUZU製,KPO-13K,φ50 mm 温度調節器
SR91,SHIMADEN製
スライダック 東京理工舎製,
RSA-10熱電対 アルメル
-クロメル
ロータリーポンプ
ALCATEL製,PASCAL 2010 ピラニ真空計
ULVAC製,GP-1DA
キャパシタンスマノメーター
ULVAC製,
CCMT-100Aフローメーター
(Ar,
C2H5OH) KOFLOC製
フローメーター(H
2) KOFLOC製,8300MC-0-1-1 導入ガス純度
Ar(99.9995%),H2(99.9995%),C2H5OH(99.5%)
石英ボート
W20×L70×H11図
3-3-4 SWCNT成長の際の
CVDプロセスタイムチャート
3-4
走査型電子顕微鏡
(SEM)による評価
図
3-4-1に
SEM装置の概略図を示す。電子銃から放出された電子ビームは,
電子レンズによって集束され試料に照射される。この集束電子ビームを試料表 面上で走査させ,発生した二次電子の放出量を走査位置と同期させて検出記録 し二次電子像を形成する。二次電子の放出量は,表面の凹凸に依存するため,二 次電子像のコントラストは,観察試料表面の凹凸を反映したものになる。電子の 加速電圧や試料の状態によって条件は変わるが,表面から
10 nm程度の深さま で電子が入射し,その際に試料表面から放出される二次電子を
SEM内部の検出 器で検出する。二次電子は,試料表面の
10 nm以内の領域から放出されるため,
試料の表面近傍の情報も含んでいる。
SEM
観察には,電界放出型電子顕微鏡
S-4000(日立製作所製)を用いた。観 察時の加速電圧は
25kVである。試料台にカーボンテープを用いて測定試料を固 定した。この試料台を
SEM内に導入し,観察を行った。
図
3-4-1 SEM装置の概略図
3-5
透過型電子顕微鏡
(TEM)による評価
TEM
の基本原理は光学顕微鏡と同じである。光学顕微鏡における光と光学レ ンズの代わりに電子と磁場レンズを用いている。
TEMの特徴は,薄膜試料に電 子線を透過させ,その際に試料中で原子により散乱・回折された電子を透過電顕 像として得ることにより,主に物質の内部構造を観察できることである。
TEMの概略図を図
3-5-1に示す。電子銃で発生させた電子線は集束レンズと集束しぼ りを通る。その後電子線が試料に当たり,対物しぼり,対物レンズ,中間レンズ,
投影レンズを経て蛍光板に到達し,電子顕微鏡像が映し出される。蛍光板の下に はカメラ室があり,写真フィルムが置かれている。シャッターを兼ねた蛍光板を 上げ,フィルムに直接電子線を当てて投影する。また,対物しぼりを抜いて制限 視野しぼりをしようすることで,制限された領域から電子回折パターンを得る ことができるため,結晶構造の解析を行う上で非常に有効である。
本研究では
CNTの形状や直径などの構造の評価に加速電圧
80 kVの
JEM-1011M
(日本電子製)を使用した。
TEMは通常,像の撮影に感光性の写真フィ
ルムを用いるのに対し,この装置では像の撮影に
CCDカメラを用いることが特 徴である。
TEM観察用の試料は以下のような手順で作製した。
まず
CNTを成長させた基板をエタノールに浸し,
10分間超音波分散を行い,
CNT