[資料紹介] 自動車損害賠償責任保険の概要
その他のタイトル [Material] Outline of Automobile Liability Insurance
著者 龜井 利明
雑誌名 關西大學商學論集
巻 1
号 2
ページ 81‑94
発行年 1956‑06‑01
URL http://hdl.handle.net/10112/00021877
欧米先進国にならって︑社会保障的見地から自動車事故によ る被害者を救済しようとする思想は︑昭和十年︑社会局労働部 が発表した自動車災害保険制度要網の中に見られる︒この思想 が最近の自動車事故の激増に刺戟され︑関係方面において慎重
審議され︑遂に二十年後の今日︱つの画期的な制度に発展した︒
即ち︑昭和舟年七月二十九日に自動車損害賠償保障法が成立 し︑昭和舟一年二月一日より全面的に自動車損宮賠償保障制度 が実施されたのである︒この制度の実質的な内容をなすものが
自動車損害賠償衰任保険である︒
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶
この制度に関して︑今日まで相当数の解説害や論文などが害
序
資 料
・ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑
紹 介
しようとするものである︒
八
一
︑ 自 動 車 保 険 と 自 動 車 損 害 賠 償 責 任 保 険 海上保険•火災保険以外の雑多な損害保険を総称して、米国で
は
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と呼ばれており︑英国では
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e と呼ばれている︒これらは共に災害保険と訳され
ているが︑わが国ではその発達が比較的新しいところから新種
保険と一般にいわれている︒わが国で営業されている新種保険
は十四種目に及んでいるが︑その営業盤は海上保険・火災保険 徴責任保険を︱つの自動車保険として取扱い︑その概要を解説
自動車損害賠償責任保険の概要
かれているが︑何れも法学的見地からする解説である︒本小文
はそれらとは少々趣を変えて保険学的立場から︑自動車損害賠
亀
井
利
明
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶
に比較して問題にならない程僅少である︒即ち新種保険料は全
損害保険料の一 0 %にも満たないという状態である︒これはわ
が国独得の現象であって︑保険思想が普及していないことや保
険会社が積極的に開拓しなかったことによるものと考えられる︒
新種保険は損害保険の一部門であるから︑損害保険一般の原理
に従うことはいうまでもないが︑保険技術的には海上保険の綜
合保険性・動態保険性を中心として︑火災保険の個別保険性︑
静態保険性を加味し︑これを基礎としてその各々の特殊事梢に
応用された保険であると考えられているのである︒自動車保険
はいうまでもなく新種保険の一部門である︒英米においては︑
自動車保険が損害保険の王座をなしているに対して︑わが国で
は新種保険中の大宗たる地位に止っている︒即ち︑わが国の自
動車保険は全新種保険の八五形の営業最を有している︒自動車
保険といえば自動車の車体損害を担保する保険の如く聞えるの
であるが︑単にそれだけに止るものではない︒自動車の使用に
よって他人に与えた損害︑即ち賠償損害︵賠償責任︶をも担保
するのである︒賠償損害は︑他人の身体上に与えた損害によっ
て損害賠償責任を負う場合︑即ち︑身体偽害賠債と他人の財産
上に与えた損害によって損害賠償責任を負う場合︑即ち︑財物
損害賠償に分けられる︒これは被害を受けたものが︑人︵被害 賠償損害は更に︑被害者叉は被害物が車外にあったか車内にあ ったかによって︑車外賠償損害と車内賠償損害とに分けられる︒ この分類を中心とすれば︑車外賠償損害と車内賠償損害の各々 に身体傷害賠償及び財物損害賠償とがあるわけである︒わが国 自動車保険普通保険約款第二条第二号によって担保されるのは︑ 車体損害と車外賠償損害とである︒車内賠償損害の内︑身体傷 害賠償︵乗客に対する身体傷害賠償︶は特約によって担保され るが︑財物損害賠償は自動車保険では取扱わず遅送保険の領域 となっている︒以上の他︑更に特約によって担保されるものが ある︒即ち︑それは乗動員︵運転手及び車掌を指し助手を除く︶ の自動車遮転中の傷害及び塔務者︵自家用乗用車の塔乗者を指 し運転手及び助手を除く︶の傷害である︒以上の如く︑自動車 保険は①車体の損害︑R他人への賠償による損害︑⑧乗務員及 び塔乗者の傷害を担保するものである︒①は車体保険事故を担 保するものであり︑車輛担保︵自動車車体保険︶と呼ばれてお り︑③は責任保険事故を担保するものであり︑賠償担保︵自動 車責任保険︑正確にいえば自動車損害賠償責任保険︶と呼ばれ︑ ③は傷害保険事故を担保するものであって︑傷害担保︵自動車
傷害保険︶と呼ばれている︒かくて自動車保険は以上の三つの 者︶であるか物︵被害物︶であるかによって分類したのである︒
八
保険を包括する総合保険ということになる︒自動車車体保険は
通常︑自動車の所有者がその自動車につき有する所有者利益を
被保険利益として付保し︑保険者が衝突︑墜落︑顛覆︑火災︑
窃盗︑強盗︑及び陸上運送中の事故による担害を担保するもの
である︒自動車責任保険は通常︑自動車の所有者叉は使用者が
自動車の連行に伴って生ずることのある損害賠俄責任という責
任利益を被保険利益として付保し︑保険者は被保険者が衝突︑
墜落︑顛覆︑その他連転中の事故によって法律上の賠依責任を
負い︑それに基いて支払った損宙賠餃金の四分の三を填補する
のである︒自動車傷害保険は通常︑自動車の所有者又は使用者
家用車の場合︶を被保険者として付保する他人のためにする傷
害保険となっている︒従ってそれは乗務員叉は塔乗者が自動車
疾走中に生ずることある傷害という費用利益を被保険利益とす︱
るものであり︑衝突︑墜落︑顛覆︑その他の運転中の事故に直
接起因する傷害を担保するものである︒この種の保険は責任保
険方式をとることもできるが︑この場合は簡単な働杏保険方式
を採用しているのである︒わが国の自動車保険の内容は大体以
上の如きものである︒本保険は大正三年︑東京海上火災保険株
式会社によって営業されて以来︑各会社の営むところとなり︑
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶ が自己の使用人たる乗務員︵営業用車の場合︶又は塔乗者︵自
ノ\
その各時代の影響を受けつつも徐々に発達して来たのである︒
しかし各会社は海上保険︑火災保険に稼極的であって︑自動車
保険に関しては海上・火災係険関係の得意先へのサービス程度
で営業を続けて来たというのが実俯である︒第二次批界大戦前
のわが国自動車数は二 0
万 台
程 度
で あ
っ て
︑ そ
の 付
保 率
は 一
︱ ︱
︱
形程度に過ぎなかった︒戦争の遂行に伴って︑自動車の輸入禁
止︑乗用車の製造禁止︑軍の徴用︑戦災︑自然の消耗などの結
果︑終戦時には一四万台に減少していた︒戦後の経済の復興と
共に自動車工業も役典し︑輸入の増加につれて自動車数は逐年
急増して行った︒終戦後十年たった現在︑自動車数も十倍の一
四 0 万台に増加している︒自動車数の増加にも拘らず自動車保
険の付保率は上昇しておらず︑︱
1 0
* 程度に終っている︒自動
車は元来︑ドアからドアヘのサービスが可能な最も便利な陸上
交通機関であるが︑この文明の利器も交通地獄という現象の中
にあっては文明の破壊者たる一面を総呈する︒自動車事故は今
や大きな社会問題となって来た︒自動車事故の件数は︑二四年
一万八千︑二五年二万五千︑二六年三万一千︑二七年四万三千︑
ニ八年五万八千︑二九年七万三千︑﹃ 0 年八万七千という具合
に急増している︒自動車自故による死傷者数は大体自動車事故
数に等しい︒これらの自動車事故の事前策として︑交通取締の
支払能力を獲保する最良の方法はいうまでもなく自動車保険で ある︒欧米においては自動車保険に加入することが︑自動者所 有者の健全な常識とされているのであるが︑わが国では反対に︑
自動車所有者の八割までが保険に加入していなかったのである︒
従って︑自動車事故の犠牲者となった場合には︑満足な補償が 得られないということが常識のようになっていたのである︒
而して︑機械文明が高度に発達した近代社会においては︑あ いる結果となっている︒自動車事故に際して平素から進備し︑
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶
強化︑道路の補修︑自動車の検査などの予防手段が講じられて いるが︑その絶減は不可能に近く︑それが近代社会の必然的現 象であると見られている︒かかる自動車事故の事後策としては︑
民法に規定される損轡賠償制度と自動車保険とがある︒わが国 の損害賠慎制度は過失衰任主義をとっており︑実際問題として︑
自動車事故のような複雑な社会現象を律するには不充分であり︑
被害者が示談で満足な結果が得られないからといって裁判に訴 えて多大の費用と時間をかけて見ても︑結局骨折り損に終るこ とが多い︒叉加害者側も自動車事故による損害賠償に対して︑
平素からの備えがなく一時に多額の賠償金を支払うことは困難 であり︑支払能力がないことを理由として︑支払を渉ったり︑
値切ったり︑うやむやにしたりして︑被冑者に泣き寝入りを強
る程度の自動車事故ぱ遣憾ながら不可避的に発生するのであっ て︑かかる不幸な近代社会の犠牲者を救済するのは近代国家の 責務である︒かかる見地から欧米先進国の制度にならって︑今 回自動車損唐賠償保節制度が樹立されたのである︒この制度は 自動車事故による人身事故の場合の︑公平且つ適確な処郎を目 的とし︑これによって被害者を救済せんとするものであって︑
その実質的内容をなすのが自動車損害賠償責任保険である︒本 保険は当然のことながら強制保険となっているが︑自動車保険 の一種であることはいうまでもない︒しかし個別保険として見 るならば責任保険の一種ということになる︒自動車損害賠償責 任保険は自動車損害賠償保障法に基づく損害保険として︑従来 の自動車保険とは別個に損害保険会社によって営業されること
従来の自動車保険
︵身体傷害賠償のみ︶は若干の修正を受けるのは当然である︒
即ち︑自動車損害賠償責任保険によって担保される保険金額を 超過する額のみを担保するというような
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の 形
式に修正されねばならない︒勿論これがためには約款を修正せ ねばならないが︑当分の間︑対人賠償一部免責特約を挿入する ことになっている︒自動車損害賠償責任保険が強制化されたが︑
それはあまりにも保険金額が小さい︒従って最低線を強制保険 になった︒本保険が創設されるに至って︑
八四二︑自動車損害賠償保障制度の骨子
わが国の自動車損害賠償保障制度は︑ e 自動車損害賠償責任
の適正化︵無過失責任主義の採用︶◎賠償能力の獲保︵自動車
損害賠憤貢任保険・自動車損専
I賠依自家保障の強制︶R礫き逃
げ事故の被害者救済︵自動車損害賠償保悴事業の国営︶の三つ をその骨子としている︒以下この三点につき簡単に解説するこ にしよう︒人間は社会生活を営む動物であるが︑この社会生活 の中において︑法的に許すことができない方法で他人に損害を 与えた場合︑この損害を一定の条件の下に賠償させる制度が必 要である︒昔はこの損害賠償責任について︑私人間の民事責任 と社会的に制裁を加える刑事責任とが混同されていた︒社会の 進歩と共に︑民事責任と刑事責任とが明白に区別され︑被害者 を救済するための損宙賠餃制度と社会秩序を維持する刑罰制度 が樹立された︒法律上︑損害賠徴毀任が発生するのは不法行為 による場合と債務不股行による場合とがある︒自由主義を基盤 とする近代法律思想の下においては︑不法行為による損害賠償 責任に関して︑過失責任主義を採用するのが普通である︒過失
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶ で︑それ以上の適当な額を任意保険に付保するのが墓ましい︒
八五
費任主義の下においては︑不法行為の要件として故意叉は過失
の存在を必要とする︒民法第七 0 九条はこれを規定している︒
過失責任主義によると︑加害者に故怠又は過失がなければ︑被 害者は損害賠徴の請求ができないし︑叉加害者に故意・過失の あったことを被害者が証明しなければ損害賠償の請求ができな いのである︒即ち︑被害者は加害者の故意・過失を証明するい わゆる挙証責任を負うのである︒自動軍事故において被替者が 死亡した場合には︑加告者の故窓・過失を立証することが不可 能であり︑負偽した場合には︑その苦痛の床からこれを行わね ばならないので︑これも叉事実上困難である︒従ってその結果
は正当な賠償金を受けることができず︑僅少の見舞金で済され︑
事実上被害者の泣き寝入りに終るのである︒かくて︑あらゆる 予防手段を以てしても不可避的に発生する目動車事認は過失責 任主義の不備を次第に明白にして来たのである︒そこで︑諸外 国の立法例にならって︑自動車損害賠償保障法はこの被害者の
朋白なる不利を解消し︑責任の公平化をはかるために︑自動車・
事故に関しては挙証沢任を加祝者側に転嫁させたのである︒こ の措置は︑被害者救済という点からいえば致命的欠陥を有して
いた民法第七 0 九条の規定を排除し︑損害賠償費任の適正化を
はかって︑一種の無過失責任主義を採用したのである︒即ち︑
86
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶
自己のために自動車を述行の用に供する者は︑これによって他 人の生命叉は身体を害したときは︑その損害を賠償する責に任 ずるのである︒例外として︑自己と延転者とが自動車の連行に ついて注意を怠らなかったこと︑被害者又は第三者に故意・過 失があったこと︑その自動車に構造上の不備がなかったことの 三つを自分で証朋した場合に限って︑その責任が免除されるの
で あ
る ︒
︵自動車損害賠償保障法第三条︶このことは従来の民 法と比較して著しく展っている︒即ち︑一︑不法行為の主観的 要件としての故謡・過失を除外して︑自動車事故の発生とした こと︑二︑不法行為の客観的要件として自動車の連行による他 人の身体的担宙としたこと︑三︑加害者が責任を免れるために は三つの要件を自ら証明せねばならないとしたことの三点であ る︒以上のように損害賠償責任を適正化したとしても︑自動車 側に賠償能力がなければ役に立たない︒そこですべての自動車 に自動車損害賠憤責任保険を強制し︑例外として︑所有車輛 数︑事故発生率︑経理的基礎などより見て賠慨能力ありと認め られる大企業に対して︑迎輸大臣の許可によって自動車損害自 家保障︵自家保険︶の制度をとることができるようにしたので
ある︒尚︑国及び一
1一公社︑都道府県︑五大市︑施行令第一条の 自動車に関しては支払能力ありとして︑衰任保険・自家保障の
も礫き逃げによる事故は全自動車事故の一︱‑%にも及んでいるの 分責任保険に加入していると見て差支えない︒ のは極めて少いとのことである︒従って︑民問の自動車は大部 行われるし︑保険料負担との比較において︑自家保障を行うも は一一一万足らずであると推定され︑各地方陸巡局の厳重な監督が 動車二百輛以上を所有せねばならないが︑この甚礎的最低要件 ての自家保駆を採用するには︑バス百輛以上︑叉はその他の自 節証朋害を携行することを義務づけたのである︒例外措置とし 来の巡転免許証と車輛検壺証の外に責任保険証明書叉は自家保 ため︑自動車の登録︑車輛検査などの場合︑及び述行中には従 ができないのである︒そうして︑この制度を完全に股行させる るか︑自家保障を採用するかの何れかでなければ連行すること 適用を除外している︒かくて民間の自動車は毀任保険に加入す
さて︑損宙賠償衰任を適正化し︑賠償能力を確偲するために 責任促険を強制し︑或は自家保悴者に賠償支払準備金を積立て させても︑これによって保設される被害者は加害者が判明して いる場合に限定され︑礫き逃げなどのように加害者が誰である か判明しない場合には︑責任保険の保険金も︑自家保障の賠償
金も貰えず︑被害者保誰の恩恵にも浴しないことになる︒しか を備えている企業は全国で約八十位であり︑その所有自動車数
八六
経費はその一部を国が負担し︑残りを責任保険に加入している
自動車については損害保険会社︑並びに一子公杜︑都道府県︑五
大市︑自家保障者によって負担されるようになっている︒そう
して実際の事務取扱は損害保険会社で行われる︒以上がわが国
自動車損害賠依保障制度の概要であるが︑これを要するに︑本
制度は自動車事故による被害者の救済を第一の目的とすると同
時に︑その強制保険の効果として自動車事業の異常危険︵多額
の損害賠償を請求される可能性︶を除去することによって︑原
価計算を可能ならしめ︑財務的安定をもたらし以て自動車事業
の健全な発達に資することを目的とするものである︒
次に︑わが国の制度の先例となった外国の制度について簡単
に説明することにしよう︒欧米においては︑十九世紀末頃から︑
民法の一般原則である過失責任主義では自動車事故の損害賠償
責任問題の解決に当って適当でなく︑特別の責任法が必要であ
るとする考え方が発達して来た︒その結果一九 0 八年にオース
トラリヤで﹁自動車の運転により惹起せる損害に対する責任に
関する法律﹂が制定され︑続いて一九 0 九年にドイツの自動車
交通法に新たな責任規定が設けられ︑その後イクリヤ︵一九一
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶ られたのが政府の自動車損害賠債保障事業である︒この事業の で︑これらの被害者をも救済する必要がある︒このために設け
八 七
二年︶︑スニーデソ︵一九一六年︶︑オラソダ︵一九一一五年︶︑
フイソランド︵一九二五年︶︑ノルウニー︵一九二六年︶︑デ
ンマーク︵一九二七年︶︑スイス︵一九三二年︶︑チェコスロ
バキャ︵一九三五年︶などの欧州の主要な国が相次いで︑一種
の無過失責任主義を採用する新責任法を制定するに至った︒英
国︑米国︑フランスなどは特別法の制定はなかったが︑判例に
よってこれと同じ傾向を辿った︒賠償能力の確保のために採用
されている方式は大体四つの種類がある︒即ち︑責任保険制︑
自家保障制︑債務保証制︑担保物供託制である︒米国において
は︑これらの四つの方式が同時に採用されており︑自動車保有
者はその何れかを選ぶことが出来るようになっているが︑その
他の国においては︑その中の一部しか採用していない︒礫き逃
げなどの原因による事故で被害者が前記の方式で保護されない
場合には︑大体わが国の制度と同様な保障基金の制度を採用し
て い る よ う で あ る ︒
三
︑ 自 動 車 損 害 賠 償 賓 任 保 険 の 特 質
自動車損害賠償責任保険はその社会保障的性格からして︑種
々なる特質を有する︒これを要約すれば︑結局︑一︑強制保険
二︑責任保険という点にその特質が見られるのである︒以下こ
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶
の二点を敷術して説明しよう︒
身分から契約への大転回によって前批紀に結実した契約自由
の原則は︑今世紀に入ってから次第に後退の兆を見せて来た︒
保険の分野においても︑契約自由の原則という近代私法の原則
に例外を設け︑保険契約の締結を強制するいわゆる強制保険の
制度が次第に発達して来た︒強制保険制度は先づ社会保険の分
野に発達し︑次第に産業保険の分野に波及して来た︒自動車損
害賠償責任保険もその社会保障的性格から︑自動車保有者の契
約締結義務︑損害保険会社の契約引受義務の双方を強制し︑完
全な強制保険として登場して来た︒これはいうまでもなく︑保
険のもつ合理性を利用して︑近代社会の不幸なる儀牲者を社会
的責任において救済しようとするために採用された措置である
C自動車保有者は従来の任意保険と異って︑契約の締結が強制さ
れているため危険団体の構成が容易となり︑一人は万人のため
に︑万人は一人のためにという相互扶助の体制を築き︑自動車保
有者の賠償能力を獲保することが出来るのである︒しかもそれ
は事前の小額の負担によって︑異常な偶発的支出可能性を除去
することが出来るのである︒保険契約の引受を強制されている
のは既存の民間損害保険会社である︒民間の損害保険会社とい
うのは︑わが国において損害保険事業を営むことを許可された ものをいい︑内国会社及び外国会社を合せて四十数社に及んで いる︒強制保険たる自動車損宵賠償責任保険の保険者を民間の 損害保険会社とすることに関しては幾多の議論なされたが︑結 局︑独逸を除く欧米諸国の実例に従ったのである︒その積極的 理由は︑本保険の契約拭は年間一四 0 万件に上り︑事故件数も
八万件を超えるという店大なものなので︑その円滑な事務処理
には損害保険会社の多年の経験とその全国的組織を利用するの
が一番よいと考えられるからである︒更に︑損害保険会社は既
に大正年間から︑自動車責任保険を任意保険として営んで来た
という尊い実績を有しているからである︒
以上のように︑自動車保有者に契約締結を強制し︑損害保険
会社に契約引受を強制したことに対して︑二つの特別な措置が
講じられている︒即ち︑保険料率の営利性禁止と政府の再保険
引受とがそれである︒自動車保有者に契約締結を強制しても︑
損害保険会社が高率の保険料を課したのでは︑自動車保有者に
不当な犠牲を強いることになるので︑保険料率の特別の制限が
附せられたのである︒自動車損害賠徴責任保険の保険料率の決
定に当っては︑適正原価主義を採り︑営利目的の介入は許され
ないことになっている︒しかも︑この保険料率は大蔵大臣の認
可を要することは勿論︑自動車損害賠償責任保険審議会に諮ら
八 八
︵ 学
識 経
験 者
者 ︶
︵ 自
動 車
関 係
者 ︶
︵ 保
険 関
係 者
︶
東 京 都 民 銀 行 頭 取
東京大学経済学部教授
誕応大学経済学部教授
自動車会談所理事
全日本交通運輸労働組合 協談会議長 日本損害保険協会会長
損害保険料率 算定会理事長 さて︑保険契約の引受を強制されるため︑損害保険会社はリ
スクの選択が不可能となり︑更に適正原価主義を採用するため
保険料率に余裕がないところからして︑損害保険会社の財務的
安定性を欠く危険性がある︒かかる事態を損害保険会社に強い
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶
桧垣 柴谷 満 尾 文
市 氏
田中徳次郎氏
要 氏
君亮氏
園 乾 治 氏
なければならないし︑叉運輸大臣の同意をも必要とするのであ
る︒自動車損害賠償賀任保険審議会というのは︑大蔵大臣の諮
問に応じて強制保険に関する重要事項を調査審議し︑これ等に
関して必要と認める事項を大蔵︑法務︑連輸等関係大臣に建識
する権限を有する諮問機関である︒そうして︑調査審議の実質
的内容をなすものは料率と約款であるとされている︒審餓会の
組織は大蔵︑法務︑渾輸︑警察の各省庁の跛員︑学識経験者一︱︱
名︑自動車関係者二名及び保険関係者二名の合計十一名の委員
より成っている︒因みに最初の民間の委員は次の七氏である︒
工藤昭四郎氏 今 野 源 八 郎 氏
八九
ることはこれ叉不当な犠牲を負わすことになる︒そこで保険会 社の引受けた責任の六割を再保険として政府が引受けることに なっている︒この再保険は特約によることなく︑法律上当然に 成立するもであって︑再保険の種類からいえば包括義務再保険 であり︑比例再保険である︒
以上述べたところで朋らかな如く︑本保険は自動車事故の犠
牲者を社会的責任において救済するために︑強制保険の形式を
とり︑自動車保有者︑損害保険会社︑政府の三者が協力するこ
とによって所期の目的を達成せんとするものである︒
自動車損害賠賀責任保険の第二の特質は既に述べた如く責任
保険たる点にある︒責任保険は迪常の損害保険とは少しくその
性格を異にしている︒即ち︑通常の損害保険の目的が物自体で
あるに対し︑責任保険は被保険者の全財産がこれに当るのであ
る︒責任保険におる被保険利益は将来負担する惧のある損害賠
償責任に基き︑被保険者が第三者に対し出捐をなすことにより
生ずる財産の減少ということについて生ずる被保険利益である︒
一般にこれを責任利益と称している︒衰任保険は二つのグルー
プに大別される︒その一っは一服主衰任保険であって︑事業主が
その使用人たる労働者の業務上の災害につさ損害賠慣費任を負
った場合を保険するものであり︑労働者災害補償保険︵正確
に十人死亡したとすれば一 0
万円という僅少の額しか填補され
額の確定し得る責任保険︑例えば物の保管者の責任保険におい
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶
には労働者災害補償責任保険というべきである﹀がこれに当る︒
もう︱つは公衆責任保険であって︑被保険者が不特定の叉は従 属関係のない特定の他人に対して負う損害賠償責任の保険であ る︒自動車損害賠償費任保険がその典型的な例である︒自動車 損害賠償責任保険は衰任保険であり︑中其任保険は損轡保険の一 種であるから︑自動車担害賠償保悴法に別段の定めなき限り︑
当然に︑商法の損害保険総則の適用がある︒従って商法第六四 九条︑第六五三条等はそのまま適用されるが︑責任保険は保険 価額が確定していないから第六一︱︱一条の超過保険の規定や第六 三六条の一部保険の規定は適用の余地がない︒
盆固より保険価
てはこの限りではない︒︶従って保険金額の定め方が問題とな る︒自動車損害賠償責任保険においては一事故についての保険 金額が定められていないし︑叉保険金額削減の規定が設けられ ていない︒この点通常の責任保険︑就中任意保険としての自動 車責任保険と相進している︒今かりに一事故当りの保険金額が
定められており︑それが一
00
万円であったとする︒ある自動 車が汽車と衝突し︑乗客五人が死亡したとする︒この場合比例 的に死者一人につき二
0
万円しか填補されないことになる︒更
と被害者の数に反比例して一人当りの填補額が少くなるという 現象を呈する︒これでは被害者の保誰に欠けることになるので︑
一事故当りの保険金額の限度を撤廃し︑被害者が如何に多くな
っ て
も ︑
死 者
一 人
当 り
︱ ︱
1 0 万円︑霊傷者一人当り一 0 万円︑軽
偽者一人当り三万円まで支払うことにしたのである︒従って一
事故で十人が死亡したとすれば総額一︱
1 0
0 万円までの保険金が
支払われることになる︒同一の自動車が二度一一一度と事故を重ね た場合︑保険金額削減制を採用すれば︑事故の都度保険金額が 小さくなって行く︒これでは一定額を常に附保すべき強制保険 の意味がなくなって来るので︑保険期問中保険金額が減少しな いこと︑即ち自動回復制乃至自動復元制をとることにしたので
あ る
︒ たことを保険事故とする学説と︑被保険者に対する第三者の請 求を以て保険事故とする学説とが対立しているが︑何れにしろ 理論上は被保険者が第三者に損害賠償を支払った後︑保険金を 受取るものではない︒被保険者が第一二者に支払う直前に保険金 を受取るのが建前である︒しかし︑これでは被保険者が先に保 険金を受取って被害者たる第三者に損害賠償を支払わないこと
貢任保険における保険事故に関しては︑損害賠徴衰任の生じ
ないことになる︒このように︑一事故当りの保険金額を定むる
九 〇
があり得る︒そこでこれを防止するために︑被保険者は被害者 に対して損害賠償を支払ったときに限り︑且つ︑その金額以内 で保険金を請求出来ることに定められた︒︵法第一五条︶かか
る取扱は衰任保険の実務において早くからとられている︒
しかし被害者保設の観点からいえば︑被害者が加害者から損 宮填補を受け︑加害者が保険金を保険会社に請求するのは無用
の二重手間である︒また事故の後︑加古者が破産した場合には︑
被害者の損害賠償請求権が一般破産債権と同額に減額されるか ら︒被唐者保設に欠くところがある︒そこで︑被害者は保険会
︵法第一六条第一項︶これは商法第六六七条に類似した規
る
3保険金が被保険者に支払われるにしろ︑被害者に直接支払 われるにしろ︑一応責任関係が確定してから行われるものであ
る︒責任関係が確定しない場合においては︑被山
I者は支払を受
けないままで放設されることになる︑被害者は葬義毀用や医療 喪等の当座の必要に追られることが多く︑少しでも早い方がこ の保険を意義あらしめることとなるので︑直ちに一定金額を仮 払金として支払うことを保険会社に請求することが出来るよう
な措置が講じられている︒ ︵法第一七条︶死亡者︱二万円︑煎
自動車損害賠僚責任保険の概要︵亀井︶
定であるが︑自動車損害賠償貴任保険の一つの大きな特質であ る ︒ 社に対し直接に損害の填補を請求することが許められたのであ
九
傷者二万以下一万円以上︑軽傷者二千円が仮払金の額である︒
最後に︑自動車損害賠賀責任保険は一般の責任保険と同様に︑
被保険者の悪意によって生じた損害のみを保険者填補しないこ とにし︑それを明文を以て規定している︒これも又商法第六四 一条の例外をなすもので︑責任保険の特質の︱つである︒自動 車損害陪償責任保険の細部を規律するために︑自動車損害賠位 毀任保険晋通保険約款が作成されている︒これは十九条より成 るものであって︑相当複雑な内容を有するが︑これの解説は紙
桶の関係上省略することにする︒
四
︑ 参 考 文 献 の 紹 介 最後に結びに代えて参考文献の招介をすることにする︒元来 筆者は︑すべての保険の源泉であり且つ最も学問的な海上保険 の研究を主としているが︑近時における損害保険の綜合化・社 会保障化の領向と歩調を合わせ︑損害保険・社会保険の全般を 理解するため︑この方面の文献も出来る限り入手に努めている
の で
あ る
︒ わが国において戦前に出版された自動車保険関係の文献は絶 無の状態である︒戦後に出版された文献の中自動車保険に関連
を有する参考文献は次の如くである︒
①は五六頁から成る︒ハンフレットで︑米国の自動車保険を解 ⑫小田垣光之輔﹁自動車損害賠倣保障諭﹂昭和舟一年・一粒社 ⑪田中 ⑩田中 ⑨佐山 ①青木時雄﹁自動車保険の話﹂ ②天野一馬﹁新種保険﹂ 晶 誌 至
﹁ 損 害 保 険 の 知 識
﹂
④大島笙﹁損害保険の法律知識﹂昭和廿九年・布井書房
⑤大森忠夫﹁生命・損害保険﹂ 昭和廿八年・産業研究会 昭和廿九年・中央経済社 昭和廿九年・青林書院
昭和舟一年・有斐閣
⑦木村英世﹁自動車損害賠償保障法解説﹂
昭和舟年・東京科学教育研究会
⑧迎輸省自動車局﹁自動車損害賠償保障法の解説﹂
昭和舟年・法令普及会
筐﹁自動車損害賠倣法の知識﹂
昭和舟年・新法令研究会
敬﹁自動車損害賠償責任保険の解説﹂
昭和舟年・保険毎日新聞社
敬﹁自動車損害賠償責任保険普通保険約款逐条解説﹂
昭和舟年・保険毎日新聞社
説したものであり︑第一部車体保険︑第二部責任保険︑第一︱一部
自動車保険約款となっている︒②は損害保険講習会用のテキス ⑥東京海上﹁各種保険﹂
昭和廿九年・損害保険事業研究所
自動車損害賠債責任保険の概要︵亀井︶
は自動車損害賠償保障制度の理論と実際とを詳細に解説したも 説したものであり︑⑪は約款を解説した唯一のものである︒⑫ っている︒⑦から⑩までは︑今回の自動車損害賠償保障法を解 上社の各部門の専門家が就筆し︑理論的にも権威ある文献とな 行っている︒本書は損害保険実務講座第六巻であって︑東京海 英米の自動車保険の解説を︑外国における新種保険六において 害賠償責任保険の両者を︑日本の新種保険一において解説し︑ ⑥は本年二月に出版され︑従来の自動車保険と今回の自動車損 解説はなされていないが︑強制保険を示唆している文献もある︒ 動車損害賠恨保障制度実施以前に出版されたので︑この制度の 険約款の解説がなされている︒①から⑤までの文献は今回の自 動車保険は第四編第二章で取扱われており︑主として自動車保 家の分担執筆の形式をとり︑大森博士が編者となっている︒自 である︒⑤は実務法律講座第十五巻に相当するもので︑各実務 び④は簡単に損害保保険全般の知識を得るための絶好の参考書 なすもので︑第三章第六節で自動車保険を取扱っている︒③及 の解説に当てられている︒④はビジネス法律シリーズの一巻を 集第四一巻に相当するものであり︑第六章第三節が自動車保険 領よく簡単に自動車保険を説明している︒③は現代経済知識全 トであって︑新種保険全般の解説がなされている︒第二章で要
九
⑲ ⑱ ⑰
⑯ ⑮ ⑭ イス︶自動車賠償保障関係法令が収められている︒ して︑わが国自動車賠償保障関係法令と諸外国︵英米独及びス 第五章自家保障制︑第六章担保物供託制となっており︑附録と 二章賠償保障制度概観︑第一二章責任保険制︑第四章債務保証制︑ な文献である︒その内容は︑第一章自動車事故と損害賠償︑第 のであって︑わが国の制度と欧米の制度とを比較研究した貴重
戦前に出版された外国文献は相当数あるが︑戦後の主要なも
のは次の如くである︒
⑬
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19 47
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19 49 .
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19 54 .
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19 55 .
自動車損害賠償責任保険の概要︵亀井︶
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x .
た論文には次の如きものがある︒
B e
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.
九
⑬⑭⑮は英国の文献でって︑何れも自動車保険の理論と実際
を解説している︒判例と約款を中心として解説されており︑殊
に⑮は極めて多くの判例を引用している︒⑮⑰は米国の文献で
あって︑前者は単なる解説書であるが︑後者は自動車責任法の
第一人者あるニーレソッ.ハイク教授によって害かれた権威ある
文献である︒本文四 0 頁︑註書二 0 頁から成る小冊子に過ぎな
いが︑責任保険方式を傷害保険方式に変更すべきことを主張し
た力作である︒⑱⑲は独逸の文献であって︑共に独逸の自動車
保険約款の逐条解説書である︒何れも責任保険の解説には一︱
1 0
頁内外の頁数を用いている︒筆者が手にしていないもので重要
と思われるものが若干ある︒即ち︑
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19 54 .
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19 52 .
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19 53 .