はじめに
2009年8月1日,筆者を含む社会福祉士2名によっ て沖縄県においてはじめてとなる独立型社会福祉士事 務所が誕生した.名称を「社会福祉士事務所いっぽいっ ぽ」とし,地域における生活困窮者支援を主たる事業 とした.
全国的にもいわゆる「独立型社会福祉士事務所」は まだまだそれほど多くはない.また,生活困窮者支援 を活動の中心としている独立型社会福祉士事務所はさ らに少なくなるといえるだろう.なぜならば,生活困 窮者支援の場合,その対象となる者の所得は著しく低 いといわざるを得ず,そうした人々から,サービス料 や支援料として代金を受領することは事実上,困難で ある.このような実態から,生活困窮者支援を事業の 中心的な柱とする独立型社会福祉士事務所が自前の事 務所を構え,採算を維持していくためには多くの課題 が残っている.なかでも,生活困窮者支援の場におけ る有償サービスは,それがいかなる形態であっても「貧 困ビジネス」の批判が生じてしまうということがある.
本稿は,生活困窮者支援を中心とする独立型社会福 祉士事務所の地域福祉における意義と今後の課題につ いて,沖縄県ではじめての独立型社会福祉士事務所で ある社会福祉士事務所いっぽいっぽの実践から考察し,
その展望と可能性を提示することを目的としている.
1 「独立型社会福祉士(事務所)」の定義
まず,一般的には,まだそれほど浸透しているわけ ではなく,また,本稿のキーワードといえる「独立型 社福祉士」あるいは,「独立型社会福祉士事務所」につ
いて定義しておかなければならない.
社会福祉士の職能団体である日本社会福祉士会の独 立型社会福祉士の活動基盤と連携の強化を目的とした 全国ネットワーク委員会が「独立型社会福祉士の活動 領域と事業モデルについて」という文書を示してい る1).この中で,独立型社会福祉士の活動領域は,① 個人との契約による領域,②公的サービスや行政等の 委託事業等の領域,③福祉サービス提供事業者等との 契約による領域,④ボランタリーな領域,の4つに分 類されている.さらに,事業形態としては,個人・共 同事務所を設立し,あるいは NPO 法人や有限会社と いった法人格の取得の可能性も想定している.
このように,従来,社会福祉士は社会福祉施設や福 祉事務所,社会福祉協議会等の専門職員として勤務し ていたことが多かったが,こうした「組織」から独立 し,開業したり,先述の活動領域においてソーシャル ワークを展開する社会福祉士を独立型社会福祉士と呼 び,その事務所を独立型社会福祉士事務所と呼ぶこと にする.また,本稿では,基本的には「独立型社会福 祉士」を用い,「事務所」という「場所」が意味を持つ と考えられる場合,つまり,ソーシャルワーク活動の 拠点的機能を担うことが期待されている「場所」とい う意味で用いる場合は,「独立型社会福祉士事務所」と いう呼称を用いることとする.
実は,日本社会福祉士会は「独立型社会福祉士事務 所」について,当該団体の研修を受講したものに限り,
名乗ることができるという「名称制限」の提言を検討 していたが,法的には根拠がなく,「独立型社会福祉士 事務所」という呼称については,独立形態を取る社会 福祉士が事業を行う際に一般的に用いられていること
*長野大学社会福祉学部
キーワード:独立型社会福祉士事務所,地域福祉,生活困窮者支援,貧困ビジネス
地域福祉における独立型社会福祉士事務所の意義と課題
―生活困窮者支援のとりくみを中心として―
髙 木 博 史*
も付記しておきたい.
2 地域福祉と独立型社会福祉士事務所
次に,地域福祉における独立型社会福祉士事務所の 位置づけについて言及しておきたい.
これまで,地域福祉の担い手といえば,市町村社会 福祉協議会が挙げられることが多かった.それは,市 町村社会福祉協議会の多くには,ある意味でその地域 の拠点となりうる事業,たとえば老人デイサービス事 業所の運営などを担ってきた歴史があり,それが地域 住民のニーズと一定程度,合致してきたという歴史が あるからである.一方で,株式会社や NPO 法人,生 活協同組合,小規模社会福祉法人などサービス供給主 体も多様化してきており,格差社会の拡大,介護保険 や障害者自立支援法の導入などにより地域住民の広範 囲にわたるニーズに対し社会福祉協議会のみでは対応 が難しくなってきている部分もある.こうした状況を 踏まえ,日本社会福祉士会は,独立型社会福祉士の活 動基盤の構築に関する調査研究及び研修プログラムの 開発・試行事業」という事業計画書を出している2). この事業計画書によると,独立型社会福祉士は「社 会福祉士を基礎資格とし,サービス提供機関から独立 することによって,地域を基盤とした相談から具体的 援助提供までを一体的行うソーシャルワーカーである.
独立型社会福祉士『専門性』と『独立性』を具現化し ており,地域福祉の新しい担い手に一番ふさわしい専 門職である3)」と述べている.
このように,独立型社会福祉士(事務所)が地域福 祉の担い手として,従来の枠にとらわれない形での活 躍を期待されているといえる.また,独立型社福祉士 が地域に事務所を構えることでソーシャルワーク活動 拠点としての機能を担っていくことも期待されている.
つまり,独立型社会福祉士事務所の機能と役割が,今 後,ますます拡大していき地域福祉を考えていく上で 欠かせない存在となる可能性を秘めているということ が示唆されている.
次章では,こうした独立型社会福祉士事務所の現状 について考察する.
3 独立型社会福祉士事務所の現状
地域福祉において今後,その機能と役割がますます 拡大していくであろうということについてはすでに述 べたが,独立型社会福祉士事務所には,それが,なぜ
「独立」である必要があるのかというところが大きな意 味を持っている.それは,「施設や組織から独立し,自 らの判断においてソーシャルワーク活動が展開できる」
ということであり,「組織の論理」によって実現し得な かった(と考えられる)活動を可能にするという意味 でひじょうに魅力的なものだからである.
にもかかわらず,一方で独立型社会福祉士事務所の 設立はまだまだ少ないといえる.これは,やはり採算 面での課題が大きいであろう.現在の独立型社会福祉 士事務所の運営は家庭裁判所等から成年後見人を受託 し,それが事業の柱となっている場合も少なくない.
また,大学や専門学校等の非常勤教員や他業種との兼 業の場合もある.つまり,社会福祉士として独立して 事業を行い,それ自体で採算を得ていくという状況に は,程遠い現実があることから一部の志の強い者が細々 と地域におけるソーシャルワーク活動を展開している のが実態であるといわざるを得ない.また,貧困問題 の改善・解決を至上命題とし,生活困窮者を対象とし ている独立型社会福祉士事務所は,さらに少なくなる といえる.これには,後に考察するが「貧困ビジネス」
問題が関わっていることは否定できないであろう.
また,社会福祉士が最も得意とする分野である「生 活相談」を事業化するためには,たとえば,相談料を どのくらいに設定するのか,あるいは支払えない場合 には相談を受けないのかといった課題も出てくるであ ろう.「参考報酬規程」のようなものでもあればそれな りのモデルを示すことも可能であり,事業化に挑戦し ようという者も現れるであろうが,こうしたことさえ も,良い意味でも悪い意味でも全て社会福祉士個人の
「裁量」に任されている現実は,とても「独立」が想定 された環境であるとはいえないであろう.
さらに,独立型社会福祉士事務所は「社会福祉事業」
なのであるのかということにも課題が残っている.独 立型社会福祉士事務所は,個人事業主もしくは会社組 織,NPO 法人など多様な事業形態があるが,社会福祉 事業として事業の開始を届け出る義務もない.その結 果,従来のようにいわゆる社会福祉事業を展開してい る社会福祉施設と比較した場合,相対的には社会的信 頼が低くなることや制度的な裏付けがないというとこ ろが,採算面への影響を避けられない要因の一つとなっ ていることもあるであろう.ただし,この問題につい ては,「社会福祉法第二条第三項一二号の『福祉サービ ス利用援助事業』を事業内容とする第二種の社会福祉
事業開始届けを同法第六九条の規定に基づ4)」き行う ことで明確に社会福祉事業とし位置づけられるので,
これ活用しようとすると動きが出始めているようであ る.確かに,制度的に裏付けがあることでその事業の 社会的信頼は上がり,将来的には,財政的に厳しい運 営状況に対し,助成金等の創設などにつながる可能性 も持ち合わせてくることになるであろう.そのような 意味では,今後,独立型社福祉士事務所の方向性の一 つとひて有力な柱となってくる可能性もあるが,やは り,現時点では,独立型社会福祉士事務所の明確なモ デルとはなりきれていないのが現状である.
4 沖縄県における独立型社会福祉士事 務所の誕生と社会的背景
すでに述べてきたように独立型社会福祉士事務所を めぐる現状は必ずしも道が開けているわけではなく,
むしろ厳しいといわざるを得ない状況であったことは 認識していたが,筆者は,筆者を含む社会福祉士2名 で沖縄県においてを県内で初めての独立型社福祉士事 務所として「社会福祉士事務所いっぽいっぽ」を開設 した.とくに,財政面での懸念は現実問題として避け られない状況であった.こうした困難は,事務所開設 当初より当然のこととして認識していたが,それ以上 に沖縄県における社会福祉士の状況が憂慮すべき,や や特徴的な社会的背景が存在しているという認識に至っ たことが開設に踏み切った主な理由である.
沖縄県といえば青い海や立ち並ぶリゾートホテルと いった観光立県としての地位を確立しているといえる が,一方で米軍基地の問題は深刻である.県民所得,
失業率,離婚率は全国ワーストであり,また,多重債 務者の比率も極めて高いなど県民の生活の厳しさを示 す指標はそのほとんどが,全国的にワーストかそれに 近い数値を示している.基地があることで雇用が守ら れているといった論調もあるが,キャパシティが限ら れる基地依存の産業構造を変革させない限りこうした 実態は変化しないことは容易に予想できる.また,と くに多重債務者問題は深刻である.その生活の厳しさ ゆえに,生活費として消費者金融や闇金融から小口の 借金を繰り返しているパターンも少なくなく,気が付 けば多額の借金に膨れ上がっていたというケースも多 い.沖縄県でこうした人々を支援してきたのは,司法 書士を中心とした司法関係者の活動であった.そして,
多重債務者問題という切り口から生活困窮者支援にも
熱心に取り組んできていたのである.一方で,「社会福 祉の専門家」であるはずの社会福祉士は,生活保護や 社会保障に関する基礎的な知識を持ち合わせ,かつ,
社会的に不利な立場に置かれている者をいかに社会資 源とつなげ,より質の高いサービスを提供する使命を 持っているにもかかわらず,県の社会福祉士会などで 一部とりくみはみられるが,全体としては,この問題 にはあまりコミットしていない状況であった.そうし た意味で,社会福祉士こそが生活困窮者支援を中心と する取り組みを始めなければならないと強く感じたこ とがきっかけである.
5 社会福祉士事務所いっぽいっぽによ る生活困窮者支援
社会福祉士事務所いっぽいっぽの開設に至った源流 は,埼玉県の NPO 法人ほっとポットのソーシャルワー ク活動である.筆者は当法人の理事でもあり,独立型 社会福祉士事務所としての当法人の活動を見守ってき た立場である.元々はホームレス支援団体から出発し,
最近では,高齢になり,生活苦ゆえに窃盗等を犯し,
刑務所から出所した者の生活支援なども含め「貧困問 題」の解決を目標とし,日々ソーシャルワーク活動を 展開している.しかし,すでに述べたような沖縄県の やや特徴的な社会状況の中,ほっとポットの実践を参 考にしながらも試行錯誤の中で相談支援・生活支援活 動を開始した.
相談に訪れる者の事例の中で,生活困窮者支援の中 心的になるのは,やはり生活保護申請である.安易に 生活保護につなぐことは,怠惰を招き自立を妨げるこ とにつながるのではないかという議論もあるが,生活 保護法の目的には「この法律は日本国憲法第二五条の 規定する理念に基づき,国が生活に困窮するすべての 国民に対し,必要な保護を行い,その最低限度の生活 を保障するとともに,その自立を助長することを目的 とする5).」という目的が書かれている.この文言を踏 まえれば,生活困窮者支援の「自立助長」のために生 活保護を活用するということが必要である.また,生 活保護を活用しながら様々な生活設計を考えることに より,状況が好転すれば生活保護から脱却できる可能 性も見据えての支援こそが必要である.一方で,社会 福祉士事務所いっぽいっぽが活動の拠点としているA 市の生活保護行政は必ずしもこうした姿勢とはいえな い部分もある.むしろ,いかに生活保護を縮小してい
くのかということ至上命題としているかの様な対応も 散見される.また,基本的には「申請主義」であるた めに,自らの状況について正確に伝えることができな い者は窓口で申請を拒否される事態も発生している.
こうした状況における支援としては,同行支援が有効 である.
また,生活保護申請から生活保護支給が決定される までの間は通常2週間程度であるが,事情に応じては 約1カ月まで延長が可能なため,申請者のこの期間の 居住の確保及び食料の確保が困難になることがある.
それでも,保護が決定すれば申請日まで遡り支給が開 始されるが申請そのものが却下された場合にはかなり の生活上の困難を背負ってしまう.
我々は,こうした「宙に浮いている」期間の居住確 保や食料確保などの生活支援も行っている.
その中で,独立型社会福祉士事務所としての実績と して特筆すべきものがある.開設間もなく,70歳を超 える高齢女性=Bさんが相談に訪れ,この事例への対 応が現在の生活困窮者支援を中心とする社会福祉士事 務所いっぽいっぽの支援スタイルの原流であるといっ てもよい.
この事例はBさんの生活保護の申請却下に対して8 月上旬に相談があったものである.実は,生活苦のゆ えの2回目の年金担保貸付の利用を理由に前年の12月 に生活保護を廃止され,その後,数回にわたり保護申 請を行うものの全て却下されていた事例である.生活 保護の停廃止はそれが「最後のセーフティネット」と 呼ばれるだけに慎重を期して行われるべきである.し かし,このBさんに複数回の面談を行い情報を集めて いく上で,Bさん自身に生活を見通す力や金銭管理能 力が弱いことなどが分かってきた.このように,専門 職の立場からA市福祉事務所の「見立て」とは異なる 見解を持ち,それを不服審査請求に「社会福祉士の意 見書」という形で添付した.結果は「棄却」であった がその内容は,こちらの主張についてほとんど反映さ ていないものであった.生活状況が窮迫し,家賃滞納 のため強制退去寸前の状況であったので,弁護士と連 携して仮の義務付けを申し立てた.その結果,生活保 護関連分野では全国で初めてとなる生活保護開始仮の 義務付け決定を勝ち取ることができた.社会福祉士は 法廷には立てないが,当事者の生活状況を詳細にアセ スメントを行い,弁護士と連携することにより生活保 護裁判で成果を上げることができた事例といえるだろ
う.しかし,本来ならば,裁判や争訟に至らない当事 者の視点に立った生活保護行政が求められているのは いうまでもない.
社会福祉士事務所の所員は兼業であるが,この事例 を中心に,兼業の合間に1年間で約40件ほどの相談を 受け,生活支援を行ってきた.そして,現在も法テラ ス(日本司法支援センター)などと連携を取りながら 生活困窮者支援に当たっている.
実際には,収益とはならないこうした支援は,確か に事業としては成立しにくい.これだけで独立型社会 福祉士事務所として成立させていくことができないの は明らかである.しかし,沖縄県は,観光産業の飽和 状態,そして衰退により失業,低所得が蔓延している 状況であり,生活困窮者支援のニーズはひじょうに高 いといえる.
また,「明日,食べるものがない」あるいは,「暴力 を受けて逃げてきた」といった緊急事案にどれだけ対 応できるかということも生活困窮者支援を中心業務と する独立型社会福祉士事務所に問われている.たとえ ば,ゴールデンウィークや連休など官庁が長期の休暇 に入る前にいかに対応できるかということは,独立型 社会福祉士事務所の機動性にかかっている.連休だか らといっても窮迫している者の生活は待ってくれない.
にもかかわらず,必ずしも十分な対応であるとはいえ ない官庁の姿勢にも働きかけていく必要性もある.
もちろん,それだけではないが,実践を積み上げる ことで課題を明らかにし,ソーシャル・アクションを 展開していくことが求められているといえるであろう.
6 「貧困ビジネス」論の克服に向けての 課題
これまで,独立型社会福祉士事務所による生活困窮 者支援について述べてきたが,ここで必ず課題となっ てくることがある.それは「貧困ビジネス」問題であ る.
沖縄県内初の独立型社会福祉士事務所としてある意 味では話題性もあったが,開設はしたものの,この「貧 困ビジネス」問題は大きな課題となっていた.
すでに述べてきたように,独立型社会福祉士事務所 が単独で事業収入を得て採算を取っていくこと現状で は困難であるが,相談料は初回を含め何度でも「無料」
とした.一方で,具体的な支援に入る場合には,実費 プラスアルファの人件費というところで6カ月で24000
円という設定を行い,これに関しても双方が合意して 契約を行うことを前提とし,支払い能力がない,もし くは低いと考えられる場合は分割,もしくは,支払え るようになるまで猶予し,こちらから積極的な請求を しないということを基本的なスタンスとしてきた.筆 者は,そもそも,相談は「無料」とし,かつ具体的な 支援に対し6カ月で24000円(1月当たり4000円)とい う設定は,専門職として妥当であるとは考えていない.
それは,社会福祉士事務所いっぽいっぽに相談に来る ケースの場合は,福祉事務所等につながれていないこ とからの相談である場合が多く,総じて困難ケースで ある場合が多い.にもかかわらず,社会福祉施設等で 勤務する社会福祉士とのバランスを考慮して月給20万 円程度の給与を得ようとすれば,経費等も考慮すると 50ケースほどを常に抱えている状況でないと安定的な 収入としては難しいからである.また,50ケースといっ ても独立型社会福祉士事務所は,相談の内容を選択で きるわけではない.そして,社会福祉士事務所いっぽ いっぽに相談に来るケースのほとんどが生活困窮が原 因となっている場合が多く,支払い能力という点では ほとんど期待できない状況である.このような状況を 鑑みれば,相談支援あるいは生活支援で社会福祉士と して収入を得ていくことは現実的でないことが明らか になってくるが,一方で,やはり,相談支援,生活支 援の専門家としてここから収入の道を閉ざすことは,
逆に専門家としてのアイデンティティを放棄すること になるのではないという思いもあり,葛藤を続けてい るところである.実態としては,ほとんどボランティ ア活動であり,少なくとも「ビジネス」には全くなっ ていないことは明らかである.にもかかわらず,こう した「料金設定」をしていること自体に拒否反応を示 す行政や団体の対応は,「貧困ビジネス」論が,いかに ゆがんだ形で社会に認識されているのかを示すものと なった.
湯浅誠は,「貧困ビジネス」を「誰にも頼れなくなっ た存在の,その寄る辺なさにつけ込んで,利潤を上げ るビジネス6)」と定義している.
しかし,実際にはこうした定義とは無関係であるか のように「貧困ビジネス」観は存在している.その根 底には「福祉で金を取るのはけしからん」という発想 である.「福祉」といえば,すぐに介護のイメージが浮 かび上がる場合も多いが,「介護」は直接的に生活困窮 者支援との関係はないものの,ある意味で「福祉」の
立場を代表するものであるかのように認識されている.
このことは「貧困ビジネス論」にとっても大きな影響 を与えているといってもよい.拙著『介護労働者問題 はなぜ語られなかったのか』では,福祉(介護)の現 場は,「『お金ではない』ということ7)」を象徴する会 話として「『福祉(介護)関係の仕事をしています』と か『福祉関係の仕事をめざしています』というと『偉 いですね』とか『たいへんですね』とかいわれたりす る8)」ということを挙げた.そして,その会話の裏に は「『お金にならないのに』という接頭語がついてし まっている9)」ことを指摘した.この問題は,独立型 社会福祉士事務所と「貧困ビジネス」論を考えていく 上で最も関係が深いといえる例ではないだろうか.な ぜならば,こうした背景には,「福祉(介護)」は,そ の代償を求めることなく「愛」や「自己犠牲」「ボラン ティア精神」といったところにその行為の原点を求め ている,あるいは求めたい社会的認識が存在している からである.
一方で,介護保険や障害者自立支援法が導入された ことによって「介護」は「ビジネス」へと変貌した.
介護は「市場化」によって営利企業の参入も認められ,
小規模なところから全国に展開する大手企業まで,従 来の社会福祉法人などの非営利法人に対し「勝負」を 挑むような形で事業展開がなされているが,もはや,
「営利企業」の存在なしにはサービス提供が追いつかな い状況となっており,「営利企業」はこの分野における
「市民権」を獲得したといってもいい状況である.それ にともない,市民の意識も変わり,それが良いかどう かという議論はあるにせよ,介護が「ビジネス」となっ たことはそれなりに理解を得ているといえるであろう.
こうした「福祉の市場化」という意味で,社会福祉 基礎構造改革の大きな流れにのらなかった,あるいは,
のることができなかった生活困窮者支援の現場では,
生活保護受給者を「喰いもの」にする新たな「ビジネ ス」が生まれてきたのも現実である.ホームレスを対 象に声をかけ,金銭管理についてとくに目立った問題 がない者に対しても「管理」と称し,通帳等を預かり,
「管理料」として法外な金額を差し引き,劣悪な環境に 居住させるケースや生活保護申請に多額の「手数料」
を要求したりするケースもあるといわれる.現時点で は明確な「規制」がないので,「無法状態」であり,今 後,どのような規制がなされるべきかという議論が展 開されるであろう.
しかし,こうしたケースと社会福祉士が専門的な支 援を提供しているという独立型社会福祉士事務所がど こが違うのかといことになれば,質の違いについては ある程度の説明ができたとしても法的な根拠に基づく ものでないために,いわゆる違法性が高いもしくは悪 質な「貧困ビジネス」と同じカテゴリーととらえられ てしまうこともある.
生活困窮者支援を中心的業務とする社会福祉士事務 所がこの問題をクリアしていくためには徹底した情報 公開と相談者(利用者)の情報アクセス権の保障,そ して何よりも,「社会福祉士の倫理綱領」に掲げられた
「社会正義」と「人権尊重」の理念に基づいた実践の実 績を示していくことである.地道な活動ではあるが,
そのことが,社会的信頼を勝ち得ていくための唯一の 方法である.
7 生活困窮者支援における独立型社会 福祉士事務所の可能性
ニーズは高いが事業として成立しにくいということ が「生活困窮者支援型」の独立型社会福祉士事務所の 特徴であることが明らかになってきているが,居住確 保+生活設計+生活支援=自立という将来構想を描く とするならば,これらのどこかで収入を得る機会を考 えなければならないであろう.それは,助成金という 形かもしれないし,「ビジネス」という形であるかもし れない.しかし,常に付きまとう「貧困ビジネス」批 判に耐えうる理論的,あるいは実践的蓄積はまだ構築 はなされていない.一方で,ニーズを確実にくみ取っ ていくことにより,社会的な信頼と認知度は徐々に高 くなっていくであろう.独居高齢者であっても,障害 があっても,生活困窮状態であっても困った時に相談 できる「駆け込み寺」としての機能も求められている.
そうした意味で地域福祉における独立型社会福祉士事 務所の意義は大きく,何らかの形で事業化を成功させ ることができればその可能性も出てくるのではなかろ うか.現在は,その「可能性」を試行錯誤している段 階であるといえる.
おわりに
独立型社会福祉士事務所については,まだまだ実践 の蓄積が少ないのと同時に,その数も少なく,運営面 におけるモデルも示されていないため,現在,「社会福 祉士」として勤務している者がリスクを冒してまでの
転職は躊躇せざるを得ないだろう.また,日本社会福 祉士会が実施している「独立型社会福祉士」の研修制 度にしても都心部でしか行われていないなど地域間格 差の問題や受講条件など多くの課題が残っており,シ ステムとして構築されていくためには,かなり不安定 な要素を内包している.国家資格でありながら,独立 型社会福祉士のみならず全体的に専門職としてふさわ しいとはいいがたい待遇の問題なども含め,独立型社 会福祉士事務所の設立・運営は,ある意味で社会的認 識への挑戦でもある.格差社会の拡大や地域における 生活支援の重要性が高まっている今日において,その 存在意義は確実に高まっている.社会的認識に変革を 起こす着実な歩みのためには,一つ一つの実践を大切 にする姿勢を持ち続けていかなければならない.
引用文献・資料
1)全国ネットワーク委員会「独立型社会福祉士の活動領域と 事業モデルについて」『賃金と社会保障 No.1366(2004年 3月下旬号)』2004年,7-10頁
2)日本社会福祉士会(事業計画書)「独立型社会福祉士の活動 基盤の構築に関する調査研究及び研修プログラムの開発・
試行事業」「資料特集/独立型社会福祉士とは何か ―福祉 人材開発の新局面 その1」『賃金と社会保障 No.1366
(2004年3月下旬号)』2004年 3)同,11頁
4)「独立型社会福祉士が担う地域ソーシャルワーク研究委員会 報告(概要)」「資料特集/独立型社会福祉士とは何か ― 福祉人材開発の新局面 その1」『賃金と社会保障 No.1366
(2004年3月下旬号)』2004年,21頁
5)「生活保護法」『福祉小六法 2011年版』みらい,2011年,
733頁
6)湯浅誠『貧困襲来』山吹書店,2007年,136頁
7)髙木博史『介護労働者問題はなぜ語られなかったのか』本 の泉社,2008年,23頁
8)同,24頁 9)同,24頁
参考文献・資料
・「資料特集/独立型社会福祉士とは何か ―福祉人材開発の新 局面 その1」『賃金と社会保障 No.1366(2004年3月下旬 号)』2004年
・日本社会福祉士会ホームページ「独立型社会福祉士ネットワー ク」(2011年7月閲覧)http://www.jacsw.or.jp/08_iinkai/
dokuritsu/dokuritsu_net.html
・宮澤進「高齢者の犯罪 ―入口・出口双方からの司法福祉」
『ゆたかなくらし 2009年10月号』本の泉社,2009年
・髙木博史「生活保護開始仮の義務付け決定に社会福祉士が果 たした役割と今後の展望―沖縄・社会福祉士事務所いっぽいっ ぽの取り組みから」『賃金と社会保障 No.1519-20(2010年8 月合併号)』旬報社,2010年
・山口道宏編著『申請主義の壁!年金・介護生活保護をめぐっ
て』現代書館,2010年
・湯浅誠『貧困襲来』山吹書店,2007年
・髙木博史『介護労働者問題はなぜ語られなかったのか』本の 泉社,2008年
・『福祉小六法 2011年版』みらい,2011年
・繁澤多美「地域生活支援における社会福祉士と弁護士の連携
―生活保護開始仮の義務付け認容決定と今後の展望―」『福祉 のひろば 2010年3月号かもがわ出版,2010年
(2011年8月1日受理)