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漫画「サザエさん」にみる戦後家族関係の変遷

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(1)

漫画「サザエさん」にみる戦後家族関係の変遷

一役割構造の視点からの「量的」分析一

植 村 勝 彦

      1 問  題

 平成4年、長谷川町子の死を契機に、朝日新聞社から復刻された漫画「サザエさん」は、

その刊行完結後、今後は「エプロンおばさん」や「意地悪ばあさん」など他の作品をも含め た長谷川町子全集として、平成9年改めて同じ朝日新聞社より出版されるに至っている。そ の衰えることのない人気は、1990年代も終わりに近い今日、家族の変容がしきりに喧伝され

るなかにあって(野々山・袖井・篠崎,1996)、人々の意識の中に描き続けられる理想の家族

・家庭像への郷愁の反映であろうか。

 長津(1996)は、夫婦関係に焦点をあてて戦後の家族を概観すると、家族は今、戦後第4 の転換期を迎えているという・すなわち、第1の転換期は、第2次大戦後、家制度が廃止さ れ夫婦制家族が理念型として提示されたこと。第2の転換期は、1960年代の高度経済成長期 で、都市部を中心に大量の勤労者核家族が生まれ、性別役割分業家族が合理的、状況適合的 家族として広く浸透したこと。第3の転換期は、国際婦人年(1975)とそれに続く国連婦人 の10年が始まったことで、男女差別の是正を目指して伝統的な性別役割分業意識が強く批判

されだしたこと。そして第4の転換の到来期にある今日は、第3期の課題を引きずりながら もさらに新たに、個人が家族から相対的に自由になる個人化(individuation)の傾向である、

という。

 その連載中より圧倒的な支持を得てきた漫画「サザエさん」は、昭和21(1946)年4月23 日から福岡県の地方紙「夕刊フクニチ」に連載され、その後昭和24年12月1日から朝日新聞 の夕fiJに、26年4月16日よりその朝刊に発表の場を移して、以降昭和49(1974)年2月21日 に終了するまで、通算6477回連載された新聞漫画である(朝日新聞、平成4年7月1日記事 による)。これを先の長津の設定する転換期に当てはめれば、まさに第1期から第2期の終了 までの時期に該当する。つまり、この漫画は、女性の高学歴化と就業率の高まりの中で、伝 統的な性別役割分業意識が批判され始める頃までの、日本の平均的都市家族の日常の生活を 描いているということになる。

 ところで、先に筆者(植村,1993)は、この「サザエさん」をマテリアルとして、後述す る今回の分析方法と同一の方法を用いて、第2次大戦後の日本の地域社会の変貌の様相を、

(2)

人間関係を中心とする地域コミュニケーションの観点から、量的に、時系列的に把握する試 みを行った。そしてその結果、近隣コミュニケーション、消費生活、子どもの日常生活、娯 楽、地域関心・治安、地域環境、福祉の7領域、合計35のカテゴリのほとんどすべてにわた

って、時間の推移とともに、出現率が直線的に減少または増加していく傾向が有意に認めら れた。そしてその意味するものは、いずれの領域・カテゴリについても、地域社会の機能を 衰退に導く方向への変化傾向であるというものであった。

 家族関係についてはどうであろうか、というのが本稿の主題である。

 家族関係への科学的接近は、歴史学的接近をはじめさまざまな専門分野から可能であるが、

森岡(1974)によれば、社会学的接近に限っても、制度アプローチ、構造一機能アプローチ、

相互作用アプローチ、状況アプローチ、発達アプローチ、形態アプローチ、の少なくとも6 種類があり、いずれも安定した地歩を占めているという。とりわけ、家族の内部構造、家族

内の人間関係のダイナミックスを把握するには、わが国では構造一機能アプローチによってい るといい、また布施(1974)も、家族内の人間関係のダイナミックスについては、心理学的 な分析、精神分析的な分析、さらには法制度の側面からの分析など、さまざまな研究領域か らのアプローチが試みられているが、家族社会学の領域においては構造一機能アプローチの面 から、役割構造の分析、権威・勢力構造の分析、感情構造の分析、の3点から分析する視角 が確立されているとしている。

 本稿では、先に見たように、性別役割分業観が問われだす前後の時期に終了したこの漫画 をマテリアルとして、役割構造に焦点を合わせて、その推移の様相を分析するものである。

なお、権威・勢力構造については、山根(1987)が父親(波平)に限ってではあるが、すで にわれわれと類似の方法で詳細な分析を行なっていることを補足しておく。

 ところで、家族的役割とは、森岡(1983)によれば「家族的地位に結びついた、期待され る行動様式(あらわな、目に見える行動のほか、態度など、おおわれた外面にあらわれない 行動を含む)(p88)」をいい、集団的地位に結びついた集団的役割と、関係的地位に結びつい た関係的役割の2種類があり、前者は家族という集団を維持するために欠くことのできない 活動を分担する役割、後者は関係的地位の相手側の欲求を充足させる役割をいう。そしてさ

らに、役割には役割期待、役割認知、役割遂行の3側面が区別され、これらの相互規定的関 連、すなわち役割過程のなかで相補的な、あるいは連動的な行動様式が結晶していく、とさ

れる。

 このように、役割構造は子細にみるといくつかの重要な分析単位に区分されうるのである が、ここで扱うマテリアルは漫画であり、たとえば役割期待に関しては、主として「〜して

くださいよ」とか「〜してくれ」という台詞から、イソノ家の大人たち各人の期待されてい る役割と期待している役割が判断されるわけであるが、実際にそういった台詞の出てくる場 面は、それほど多く描かれてはいない。また、役割認知や役割遂行についても、4コマの漫 画とわずかな台詞から、イソノ家の大人たちが何を自らの役割として認識しているのかを判 断したり、あるいはその役割認知どおりに役割を遂行しているのかを判断したりするのは困

一16一

(3)

難であることから、ここでは、役割遂行の結果としての役割行動に着目して分析することと する。つまり、具体的に何か役割に関わる行動が描かれている場面をチェックすることにな

る。

 以上に述べたように、本論文は、漫画「サザエさん」をマテリアルとして、戦後の家族の 人間関係をその役割構造の側面に限って、時代と同時進行の漫画のなかで、どのように変貌 していくのか、またそれが一定の傾向をもつものとして捉らえうるかどうかを検討しようと するものである。その際、その視点は前稿(植村,1993)と同一、っまり「どういう役割が」

「どれほど」という、ある事象についての時系列の「量的」な変化の様相に限定して分析・検 討するものである。なお、この漫画を選んだ理由やその特徴・利点などの詳細については前 稿に譲るものとする。

      II 方  法 1)分析対象・資料

 前稿と同一のものを用いる。すなわち、昭和24年12月1日朝日新聞夕刊に掲載され始めて から、26年4月16日に朝刊への移行を経て、昭和49年2月21日に終了するまでの「朝日新聞」

連載分を収録した単行本「サザエさん」第5巻から第68巻(姉妹社刊)所収の4コマ漫画5788 篇を分析の対象とする。その内訳を示したものが表1であるが、このうち「注」に記したよ

うに、イソノ家の誰かが旅行に出て、ストーリーもそれを連日描いている部分は、分析から 外した。その結果、最終的に対象作品数は5738篇となった。

      表1 分析対象作品別内訳(全5738作品)

昭和(西暦) 巻 一ページ 作品数 昭和(西暦) 巻 一ページ 作品数 24(1949) 5−01〜5−31

261)

37(1962) 35−72〜38−86 303 25(1950) 5−32〜8−59 2372) 38(1963) 38−87〜41−40 242 26(1951) 8−60〜ll−71 2273) 39(1964) 41−41〜44−70 303 27(1952) 11−72〜15−93 2994) 40(1965) 44−71〜47−96 314 28(1953) 15−94〜18−57 2025) 41(1966) 48−01〜51−32 314 29(1954) 18−58〜20−12 147 42(1967) 51−33〜54−23 274 30(1955) 20−13〜22−61 241 43(1968) 54−24〜57−21 286 31(1956) 22−62〜25−90 317 44(1969) 57−22〜60−21 288 32(1957) 25−91〜28−78 276 45(1970) 60−22〜62−92 263 33(1958) 28−79〜32−17 323 46(1971) 62−93〜64−72 172 34(1959) 32−18〜33−91 170 47(1972) 64−73〜65−41 65 35(1960) 33−92〜34−78 80 48(1973) 65−42〜68−12 259 36(1961) 35−Ol〜35−71 71 49(1974) 68−13〜68−51

396)

注 1)12月のみ

 2)マスオら大阪旅行13話分カソト  3)箱根家族旅行ll話分カット

 4)カツオら静岡旅行17話分カット  5)サザエら小田原旅行9話分カット  6)2月21日まで

(4)

2)分析カテゴリの設定

 先の森岡(1983)は、家族の集団的役割として、(1)家事とよばれる消費生活のための役割

(炊事・洗濯・掃除など)、②消費生活を前提としての所得を得る役割、(3)老幼弱者がいれば 彼らを支える役割、(4)家族内の心理的な緊張を緩和して情緒的統合を支える役割、(5)親族・

近隣や地域の諸団体との渉外的役割、ないしこれらに対して家族を代表する役割、⑥先祖を 祭る役割を挙げ、また、関係的役割として、たとえば父という関係的地位の内側に、保護者、

しつけ手、教師、カウンセラー、遊び相手などいくつかの役割がセットになって含まれてい ると述べ、このような諸役割が家族の主力成員によって分担され、分業の構造が現れるとす

る。

 そこで、これを一応の枠組みとして参考にしたうえで、全巻を通読し、役割を描いた内容 を書き出してカード化し、それを分類・整理するすることによって、カテゴリの枠組みを帰 納的に設定した。表2はその内訳を示したものであるが、結果的に5領域、18カテゴリに集 約された。ただ、森岡のいう(4)家族内の心理的な緊張を緩和して情緒的統合を支える役割に ついては、漫画それ自体がその傾向をもっていることもあって、役割としてのそれを見極め ることが難しく、今回は、カテゴリ化を断念した。また、ここでは、イソノ家の大人(波平

・フネ・マスオ・サザエ)を対象とする役割に限定しており、たとえば家事領域のカテゴリ や、育児領域の「子守り」を子ども(カツオ・ワカメ)がしている場合、それは子どもの「お 手伝い」として扱い、ここでは取りあげない。

表2 分析カテゴリの枠組み

内      容

1

炊事・調理

2 食事の準備・後片付け

3 食料品・日用品の買い出し

4 洗濯・干す・取り込み・収納

A家 5 アイロンかけ・衣服の手入れ(衣替えを含む)

6 裁縫・編み物

7 屋内掃除(部屋・廊下・風呂・トイレ)

8 庭掃除(玄関先の道路を含む)・植木の手入れ

9 力仕事(修繕・日曜大工・大掃除)

1

子守り(タラオに限る)

2 しつけ(叱る・諭すを含む)

B育 3 遊び相手

4 勉強支援・協力

5 学校行事への参加(運動会・授業参観・PTA)

C経済活動

1

職場での仕事(内職・アルバイトを含む)

D家族代表

1

町内会・地域行事への参加(町内運動会・祭り)

2 来客の接待 E先祖儀礼

1

墓参リ・正月準備

3)分析手続き

 各4コマ漫画1篇を1サンプルとし、そこに描かれた内容が表2のカテゴリのいずれかに 該当するものを4人の大人それぞれについてチェックする。その理由は、家族としての生活

を維持していくためには、家族内の大人がそれぞれの担っている役割を遂行する必要があり、

イソノ家において波平とマスオは父親・夫役割、フネとサザエは母親・妻役割、またマスオ

一18一

(5)

とサザエは兄・姉役割をも担っている。こうした関係のなかで、彼らの役割遂行の様子が時 代の経過とともにどのように推移するのかをみることを通して、戦後家族の役割構造の変化

を探ることが本論文の目的であることによる。       ・  チェックに際しての注意点として、(1)夢のなかの話や架空の話、たとえ話、おとぎ話など に描かれている内容の場合は除外する。②吹き出しの中の言葉だけが表現されていて、実行 場面のない場合は除外する、(3)その行為の直前まで描かれているが、実行場面の絵がない場 合は除外する。こうして、カテゴリ別、個人別に、1年ごとに集計したものをデータとする。

4)分析方法

 上述した手続きによって得られたデータから、これら数値の推移状況が、一定の傾向を示 すとみなしうるか否か、つまりあるカテゴリの出現率が年を追う毎に増加あるいは減少する 傾向が確認され得るかどうかの検討がなされなければならない。そのための傾向分析の検定 には、これも前稿と同一の岩原(1965)の紹介する 比の直線回帰の検定 を用いる。その 方法を再度示せば、次のようである。すなわち、カテゴリ(ここでは各年がそれに該当)が X,,X2,…Xkとk個あり、このカテゴリ値が間隔尺度であるとき、いま各Xjのカテゴリにnj個 が測定され(ここでは1年毎の作品総数に該当)、そのうちAなる特性を有するものがa」個(こ こではチェックされた作品の数に該当)、それ以外を(nr aj)個とすると、 aj/njがXjに属す るもののうちでA特性を有する比率であるが、それがXjと直線回帰をなすことの検定は、自由 度1のカイ2乗分布をする近似式によって計算できる(筆者注:式は省略)というものであ

る(岩原、p.381)。なお、推移傾向に有意な結果がみられたものについては、回帰式が成り立 つことになるが、結果の項に示す図中の直線は、計算に基づく回帰直線を表したものである。

      III結果と考察

 昭和24年から49年にわたる26年間の人物別の、年・カテゴリ別の集計結果を掲載するのは 膨大な表になるので割愛し、5年刻みに集約したものが表3から表6である。5年刻みの際 の基準は、前稿と同一とする。

 また、傾向検定を行った結果が各表の右半分であり、それには26年間1年毎の場合と、5 年刻みのデータの場合の両者を掲げた。4つの表のうち、「フネ:A家事・カテゴリ4」、「マ スオ:A家事・4」、「サザエlB育児・3Jの3カ所に、5%以下を基準とする両者間での有 意確率の現れ方に違いがみられるものの、それ以外はまったく同一傾向の検定結果を示して おり、5年刻みというような大づかみなまとめ方で出現率の傾向を表現しなくとも、変化の みられるカテゴリについては、前稿での地域社会関連の場合と同様に、1年毎に着実に一定 の推移傾向を示していることが確認されたことを表すものである。ただ、今回のデータは、

人物毎に別個にカウントしたために出現率がきわめて低くなっており、有意な(減少)傾向 が検定結果として得られては・いても、同時に作成した推移のグラフだけでは、視覚的に読み

(6)

とりにくいものもあった。

 これらの結果に基づいてその推移の様相を考察することになるが、前稿との比較において 留意すべき点を予め述べておくこととする。すなわち、前稿では、その分析の対象となるカ テゴリが、地域社会の諸側面を表すものであり、それが時代とともに出現率が減少していく という推移を示した場合(例えば「イソノ家を隣近所の大人が訪れている場面」)、それはそ うした行動や現象が次第に地域社会から単純に「消滅した」と見なせるものばかりであった。

 しかし、今回の役割行動の場合は、同様にあるカテゴリに出現率の減少傾向の推移がみら れたとしても、これが必ずしも「消滅」だけを意味するものではないことに留意しなければ ならない。つまり、「女性」の「炊事・調理」という役割を例にとれば、この漫画が連載され ていた時代に限っても、家庭生活の中でこの役割が「消滅した」ことはありえなく、仮にこ の役割が時代の推移とともに「減少」していく傾向を示したとすれば、その理由や原因、背 景として考えられるものは、(1)性別役割分業観の見直しによる「男性」の「炊事・調理」役 割への「参加」の結果によるものか(そうであれば、男性にこの役割の増加傾向がみられな ければならない)、(2)外食産業への依存の増加か、あるいはこの例の場合にはもっともありそ

うな理由として、(3にの役割が、家電製品の普及によって、かつてほどの大変さがなくなる とともに、生活の中で意識化されることが少なくなり、漫画としても描くほどの場面ではな くなったこと、などが挙げられよう。

 このように、ある役割カテゴリに「減少」傾向がみられたとして、その意味するものには、

時代に合わなくなったことによる単純な消滅、代替物の出現による消滅、描くに値するほど の内容ではなくなったことによる消滅、役割の家族内分散による相対的な減少、など様々な 形態のものが存在することである。このことが、地域社会の諸側面における変化(減少)の 意昧するものとの違いであることに留意しなければならない点である。

 これを踏まえて、以下に、領域毎にその様相を考察することとする。

表3 波平:5年刻みのカテゴリ別出現比率(%)と比率の直線回帰の検定

領  域 カテ S24 S30 S35 S40 S45 宕検定

(df;1)

ゴリ

〜S29 〜S34 〜S39 〜S44 〜S49 ]年刻みの場合 5年刻みの場合

1 1(0.08} 2(0.15) 1(0.10) 2(0.14)

0 0,141 0,159

2 0

1(0.08)

0

3(0.20)

0 0,317 0,813

3

1(0.08) 2(0.15)

0 0 0 2,561 2,423

4 1(0.08)

0 0 0 0 1,842 1,930

A家  事 5 0 0 0 0 0

一 一

6 0 0 0 0 0

一 一

7 1(0.08) 3(0.23} 1(0.10) 1(0.07)

0 0,449 0,999

8

6(0.53) 2(0.15) 6(0.60} 9(0.61) 1(0.13)

0,135 0,002

9

8(0.70) 7(0.53) 2(0.20) 1(0.07) 3(0.38)

3.867↓   * 4.815↓

1 3(0.26) 8(0.60) 3(0.30) 6(0.41) 5(0.63)

0,743 0,409

2

6(0.53)

25(L88)

11(1.10) 17(1.15) 6(0.75}

0,319 0,034 B育  児 3

4(0.35) 3(0.23) 1(0.10) 2(0.14) 1(0.13)

1,420 1,638

4 7(0.62) 5(0.38) 3(0.30) 2(0.14)

0 7.433↓  ** 7,274↓  **

5

2(0.18}

0

1(0.10)

0

2(0.25)

0,106 0,034

C経済活動

1 82(7.21) 8(4.36)

35(3.5D

34(2.31)

16(2.OD 42.234↓ *** 42,780 ↓  ***

D家族代表

1

0

1(0.08)

0 0 0 0,120 0,427

2

20(1.76) 9(0.68) 12(1.20} 17(1.15) 8(1.00)

1,150 0,820 E先祖儀礼

1 2(0.18) 4(0.30} 2(0.20) 8(0.54) 4(0.50)

2,762 2,661

作品数 ll38 1327 999 1476 798 注1)  *** p≦0.001 **p≦0.Ol *p≦0.05(以下同様)

注2) ↓ 減少 ↑増加(以下同様)

一 20一

(7)

表4 フネ:5年刻みのカテゴリ別出現比率(%)と比率の直線回帰の検定

領  域 カテ S24     S30     S35     S40     S45 ピ検定

(df=1)

ゴリ 〜S29   〜S34   〜S39   〜S44   〜S49 1年刻みの場合 5年刻みの場合

1 16(1.41,  10(0.75)   8(0.80)   6(0.41,   4(0.50}

7.747↓  ** 6.591旦  紳 2

9(0.79)  10(0.75)   3(0.30)  11(0.75)   2(0.25}

1,933 L279

3

3(0.26)   6(0.45)   2(0.20)   7(0.47,   1(0.13)

0,231 0,021 4

3(0.26)   0         0         1(0◆07)   0

3.971↓   * 2,805

A家  事 5

4(0.35)   7(0.53}   1(0.10)   6(0.41)   1(0.13)

0,957 0,677 6

16(1.4】)  26(1.96)   4(0◆40)   5(0.34)   2(0.25)

21.737↓ *** 19、104↓ ***

7

7(0.62)   5(0.38)   5(0.50)   2(0.14)   1(0.13)

5.870↓   * 4.418旦   * 8

5(0.44,   0         0         1(0.07)   1(0.13)

3,817 2,990

9 0     0     0     0     0

一 一

1 16(1.41)   3(0.23)   3(0.30)   3(0.20)   0

19.151↓  *紳 19.352↓  *榊 2

10(0.88)   5(1.38)   5(0.50)   5(0.34)   1(0.13)

8.124↓  林 5.135↓   * B育  児 3

0         0         1(0.10)   0         0

0,041 0,007

4

1(0.09}   1(0.08)   1(0.10)   0         0

0,870 L281

5

2(0.18)   3(0.23)    3(0.30)    1(0.07)   0

2,552 2,565

C経済活動

1

0     0     0     0     0

一  

D家族代表

1

0      0      0       1(0.07)   0 0,043 0,670

2 20(1.76}  26(1.96)  】2(1.20)  27(L83)   8(1.00)

2,682 1,940 E先祖儀礼

1 4(0,35)   1(0.08)   0         5(0.34)   5(0.63)

1,072 1,944

作品数

1138      1327      999      1476      798

表5 マスオ:5年刻みのカテゴリ別出現比率(%)と比率の直線回帰の検定

領  域 カテ S24 S30 S35 S40 S45 x2検定

(df=1)

ゴリ 〜S29 〜S34 〜S39 〜S44 〜S49 1年刻みの場合 5年刻 みの場合

1 2(0.18} 3(0、23) 2(0.20) 2(0.14) 1(0.13)

0,298 0,191

2

0

1(0.08)

0

2(0.14) 1(0.13)

1,087 1,612

3

1(0.09)

0 0 0 0 2,256 1,930

4 2(0.18)

0 0 0 0 3,685 3,860↓

A家  事 5 0 0 0 0 0

一 一

6 0 0 0 0 0

一 一

7

1(0.09) 1(0,08) 2(0.20) 1(0.07) 1(0.13)

0,075 0,041

8

3(0.26) 4(0.30) 5(0.50)

0

1(0.13)

0,935 L785

9

5(0,44) 3(0.23) 1(0.10) 5(0.34) 3(0.38)

0,198 0,000

1 12(1.05} 13(0.98) 7(0.70) 10(0.68) 1(0.13)

6.339↓   * 5,659↓

2 0

2(0.15)

0 0 0 0,515 0,901

B育  児 3

3(0.26) 7(0.53) 5(0.50) 4(0.27) 1(0.13)

0,596 0,613

4

1(0.09) 2(0.15) 1(0.10)

0 0 2,001 1,708

5

1(0.09)

0 0 0

1(0.13)

0,000 0,Ol4

C経済活動

1 64(5、62) 71(5.35) 53(5.30) 85(5.76) 32(4.Ol)

0,332 0,463 D家族代表

1 1(0.09) 2(0.15)

0 0 0 2,835 2,423

2 4(0.35) 3(0.23) 6(0.60) 7(0.47) 1(0.13)

0,136 0,096

E先祖儀礼

1 3(0.26) 1(0.08)

0

1(0.07)

0 2,739 3,355 作品数 1138 1327 999 1476 798

A 家   事

 いわゆる炊事、洗濯、掃除、雑事一般の家事の諸相を9つのカテゴリに分けて取りあげた ものである。

 Al〜A3は毎日の食事に関わる役割であるが、表3および表5に明らかなように、波平、

マスオの男性陣がこの役割を執ることはきわめて稀であるうえに、時を追って増加する傾向 がみられるわけでもなく、いわゆる性別役割分業観への批判が窺われるわけではない。これ らの役割は表4のフネ、とりわけ表6のサザエの役割として集中して描かれており、明らか に女性の役割として位置づけられていることを表しているといえよう。この漫画が、先の長

(8)

表6サザエ:5年刻みのカテゴリ別出現比率(%)と比率の直線回帰の検定

領  域 カテ S24 S30 S35 S40 S45 τ検定 (df=D

ゴリ

〜S29 〜S34 〜S39 〜S44 〜S49 1年刻みの場合 5年刻みの場合

1 29(2.55)

23(L73)

19(1.90) 24(1.63) 15(1.88)

0,702 1,075 2

15(1.32) 18(1.36) 13(1.30) 18(1.22) 6(0.75)

1,458 0,804 3

62(5.45} 70(5.28) 42(4.20) 39(2.64) 21(2.63)

19.224↓ *** 18.126↓

***

4

14(1.23) 10⑩.75) 5(0.50) 9(0.61) 1(0.13)

7.546↓  ** 7.150↓

**

A家  事 5

19(1.67) 9(0.68) 8(0.80) 4(0.27) 4(0.50)

12.285↓ *** 1L202↓

***

6

38(3.34) 35(2.64) 9(0.90) 8(0.54) 3(0.38)

44.887↓  *** 44.326↓

***

7

21(L85)

13(0.98) 12(1.20) 8(0.54) 2(0.25}

16.603↓  轄* 13,155↓

***

8 15(L32)

11(0.83) 9(0.90) 9(0.61) 10(1.25)

0,663 0,356

9

1(0.09) 1(0.08)

0

1(0.07)

0 0,721 0,499

1 52(4.57) 25(1.88) 15(1.50) 20(1.36) 12(1.50)

26.752↓  *** 24,355↓

***

2

16(1.41) 13(0.98) 8(0.80) 9(0.61) 5(0.63)

6.030↓   * 4,897↓

B育  児 3 0

3(0.23) 1(0.10) 2(0.14)

0 0,066 0,010

4

3(0,26)

0

1(0.10)

0 0 3,416 4,173↓

5

3(0.26) 2(0.15) 1(0.10) 1(0.07) 2(0.25)

0,071 0,238

C経済活動

1 1(7.09)

0 0

9(0.61)

0 1,768 3,580 D家族代表

1 7(0.62) 8(0.60)

0

4(0.27) 1(0.13)

6.188↓   * 5,138↓

2 24(2,11) 13(0.98) 22(2.20) 59(4.00) 15(1.88)

4.810↓   * 6.836↓

**

E先祖儀礼

1 11(0.97) 2(0.15) 1(0.10) 5(0.34) 2(0.25)

5.427↓   * 4,453↓

作品数 1138 1327 999 1476 798

津(1996)の分類にいう第2の転換期の終了までに対応しており、この時期、性別役割分業 家族が合理的、状況適応的家族として広く浸透したという指摘を、このデータは図らずも示

していることになる。

 こうした中で、時代の推移による減少傾向がみられたカテゴリは、フネの「A1炊事・調理」

とサザエの「A3食料品・日用品の買い出し」である。

 前者については、朝日新聞家庭欄の「台所いまむかし」という連載で「サザエさんちの25 年」を扱った記事が、端的にその間の事情を紹介している。すなわち「初期の磯野家の家事 は、手間がかかって家族総出だった。台所の火は七輪。マッチとうちわ、新聞紙と木切れで 火をおこしてから、サンマなどを焼いた。燃料のたどん作りはカッオとワカメの仕事らしく、

黒い炭の粉を丸く固めて干す場面がよく出てくる。・… 七輪は、やがて電熱器やガスコ ンロに変わり、61年にはオープン付きのガスレンジが登場する。一家の中心だった丸いちゃ ぶ台が、突然ダイニングテープルに変わったのは69(昭和44)年、大阪で万博が始まる前の 年だ」(朝日新聞、1994年9月3日朝刊)。ちなみに、イソノ家に電気釜が入ったのは昭和34 年11月25日であり、新発売されてから約4年後である(サライ、1991年11月7日号)。こうし て、炊事・調理作業は、水道・ガスの敷設、電気釜の普及(昭和34年20%、40年50%、49年 98%:一以下に示す普及率の数値はいずれも「平成2年版国民生活白書」p129のグラフから の読みとりによる一)により、かつてのように水を汲み、カマドや七輪に火をおこし、ご飯 や料理の火加減を調節するといった人力頼りの作業から解放されるとともに、人手を要する ほどのものではなくなったことが、サザエ1人の労力での作業を可能にし、その結果先輩主 婦フネのこの役割からの解放につながったものと解釈される。このことは、サザエのこの役 割に有意な変化傾向がみられないことからも、イソノ家における「炊事・調理」の役割その

ものが減少したわけではないことによって窺い知ることができる。

一22一

(9)

 一方後者は、これも家事省力耐久消費財としての電気冷蔵庫の急速の普及(昭和36年20%、

40年50%、45年90%、49年98%)と、技術改良による大型化によるものと考えられ、先の電 気釜とはスタート時点での普及率こそ違え、昭和40年頃からは両者は全く同じ普及の推移を 示している。こうして食料品の長期保存が可能となり、経済的にも豊かになってその日暮ら しからの余裕ができるようになったことも相まって、毎日の買い出しは必要なくなっていっ た結果の現れと推測される。ちなみに、イソノ家に電気冷蔵庫が入ったのは、昭和36年に1

ドアのものが、45年に2ドアがそれぞれ登場している(樋口・ゆのまえ、1993)。

 この両者の役割の減少の意味するものは、前者が描くに値するほどのものでなくなったこ とによる消滅であり、後者は便利な電化製品の出現がもたらした、生活様式の変化による単 純な消滅ということになろう。図1は、サザエのデータによってそれをみたものである。

      %      10.0

5.0

O.0

25 30 35 40 45 昭和

図1 A−3食料品・日用品の買い出し(サザエ)

 A4〜A6は洗濯・裁縫に関わるカテゴリで、これも男性陣には全くかかわりのない役割 として、漫画には描かれてこないものである。そして、一方の女性陣では、表6のサザエに 典型的に現れているように、時代の推移とともに明瞭に減少傾向のみられる役割である。

 イソノ家では、「A4洗濯」・「A5アイロンかけ」は、その出現率からみてどうやらサザ エの役割のようであるが、平成2年版国民生活白書は戦後日本の変化を特集する中で、生活 の各種場面での技術の発展がわれわれの生活に与えてきた影響を取りあげ、「洗濯板からの解 放」として「電気洗濯機が普及したことにより、洗濯という重労働は機械で行うことができ るようになり、主婦の家事負担は大きく軽減された。最初は衣類の洗濯だけを機械で行い、

しぼる作業は手で行っていたが、30年代後半の買換え時期には脱水機付きのものが登場し、

40年代後半からは金自動式のものが登場するなど省力化がいっそう進んだ(p131)」と述べる とともに、「衣服を変えた素材技術」として「素材の面では、とくに合成繊維の開発が生活に 大きな影響を与えた。合成繊維は、20年代後半から30年代にかけて新しい製法が開発され、

大量に供給されるようになった。天然繊維に比べて丈夫な合成繊維が安く供給されるように なり、30年代後半に急速に普及した。・…  また、合成繊維は、形が崩れにくく折り目保 持性が良いという特性をもっており、アイロンの必要のないワイシャツやズボンも登場した

(P124)」ことを取りあげている。こうした家電製品や新技術の普及が、サザエのこれらの役

(10)

割を時代とともに減少へと方向づけることとなったと推測される。これらの役割の減少の意 味するものは、便利なものの普及の結果がそれまでの大変さを軽減させたことにより、描く ほどのものとして値しないと判断されたことによる消滅であろう。イソノ家への電気洗濯機 の登場は昭和38年であった(普及率は、昭和34年30%、38年70%、49年97%)。

 一方、「A6裁縫・編み物」については、フネ、サザエともに減少傾向を示している。確か に戦後も30年代半ば頃までは、靴下のほつれを繕っている絵が描かれていたし、デパートに 行けば買って帰るものは必ず布地で、そこから何着分の洋服を作ることができるかに頭を悩 ませるサザエの姿があった。しかし「戦後強くなったものは靴下と女性」といわれたように、

いつの頃からか繕い物をする場面は徐々に目立たなくなり、デパートへ出かけても既にでき あがった洋服を買って帰る場面が登場するようになっていく。この「A6裁縫・編み物」の役 割の減少傾向の意味するものは、生活の経済的豊かさからくる消費文化の浸透であり、作る

(直す)より買うほうが安い(きれい、早い)という合理性に基づく、代替物の出現による消 滅といえよう。

 図2はサザエのデータによってそれをみたものである。

      %      10.0

5.0

0.0

25  30       35       40       45

図2 A−6裁縫・編み物(サザエ)

昭和

 A7とA8は、家事における掃除作業の役割である。このカテゴリではとくに「A8庭掃除

・植木の手入れ」の役割に男性陣も描かれてきてはいるが、特定の傾向を示すまでには至っ ていない。女性も含めて、おそらく家事という範曝に入れるにはいくぶん特殊な内容である ことによるものと推測される。

 一方「A7屋内掃除」は、部屋、廊下、風呂、トイレなど屋内に限定した掃除作業であり、

ここでも男性陣はほとんどその役割を執ってはいないことが明らかである。性別役割分業観 がこの側面でも生きていることを示している。その役割を実行しているフネ、サザエの両者 ともに、時代の推移とともにこの役割の減少傾向を有意に示す結果となっている。この意味 するものは、先の電気釜と同様、電気掃除機の普及がその減少に与っており(昭和37年25%、

45年65%、49年90%)、高度経済成長期を経たあたりからの団地建設ラッシュとその生活様式 に代表されるような家屋構造が、一戸建てのイソノ家にも描かれるようになり、マキ風呂か らガス風呂へ、水洗式のトイレへ、いわゆる台所から快適なキッチンへと家屋そのものが洋

一24一

(11)

式化され、掃除のし易い間取りや床になっている(いずれも昭和43年前後に描かれている)。

「この漫画を見ただけでも、終戦間もないころの暮らしぶりや家具什器と、終わり近い頃の家 の備品とでは、別の家ではないかと思うほど様変わりしている。・…  サザエさんの家は、

こうした品々の賑やかな登場によって、豊かに便利に、そして小ぎれいになっていく」と樋 口(1978)が指摘しているのがこれを物語っている。ちなみにイソノ家に電気掃除機が登場 するのは昭和37年である(樋口・ゆのまえ、1993)。

 このカテゴリの減少傾向の意味するものは、前出の各種家電製品の出現による消滅と同一 の、描くに値しないことによるものである。サザエのデータによってこれをみたものが図3

である。

     %

10.0

5.0

0.0

25 30       35       40       45

図3 A−7屋内掃除(サザエ)

昭和

 A9は、壊れ物の修繕、月曜大工、大掃除など、力仕事に属するカテゴリである。この役割 は男性陣のものであり、女性陣は例外的にしか描かれていない。減少の有意な傾向は、一家 の大黒柱である波平に現れており、全編を通じて登場する割合の相対的に少ないマスオには それがみられていない。昭和20年代から30年代前半にかけての貧しかった時代、屋根の補修 や、鶏小屋や椅子の製作、戦前からの生活習慣による不衛生の改善へ向けての大掃除の実施 など、力仕事を中心とする男性への役割期待は確かにあったが、次第に豊かになるとともに、

先の樋口の言にもあるような家屋構造の変わりようで、隣家との境の垣根はいつの頃からか 塀に代わり、屋敷まわりもすっきりし、家の中も小ぎれいになり、真新しい各種調度品が整 い、大掃除の習慣も姿を消すなかで、期待される男性役割を発揮する場がなくなっていった、

時代に合わなくなった自然消滅であることが推測される。図4は、波平のデータによってこ れをみたものである。

 以上、家事に関わる役割について考察してきたが、そのまとめを「サザエさんちの持ち物 しらべ」によって分析した寺出(1988)の考察によって代えることとする。すなわち「料理

・裁縫・洗濯などの家事労働のための道具に注目してみようということ。それも、その数量 だけではなく、登場頻度も合わせて調査すると面白い。昭和21年と48年の持ち物リストでそ の数量を比較しても、明らかに前者の時期のほうが多数の家事道具が登場している(とくに 裁縫道具に注目する必要があるだろう)。これにその登場頻度も合せれれば、両時期の差はさ

(12)

 % 10.0

5.0

0.0

25 30 35 40 45 昭和

図4 A−9力仕事(波平)

らに大きくなる。つまりそのことは、サザエさんとフネが家事労働に従事する場面が前者の ほうがはるかに多いということにもなる。これは、家事道具の電化によって家事労働の比重 が減少する推移、あるいは「家事労働の社会化」の進展を、モノの側から象徴的に表現して いるといってよいだろう(p50)」。家事に関わる役割の変化の多くが、モノの側からの説明・

解釈によってなされうることが明らかにされたといえよう。

B 育児

 育児および子どもとの関わりに関する役割を5つのカテゴリに分けたものである。

 Blは「タラオの子守りの役割」である。これには、マスオ・サザエという両親の立場から のものと、波平・フネという祖父母の立場からのものに分けることができる。

 まず、表5・6の両親の立場からの結果をみると、マスオ・サザエともに、時代の推移と ともに子守りの役割が有意に減少する傾向にあることが窺われる。登場人物(タラオ)が年 とともに成長する漫画ではないので、子守りの場面が減少したことは時代(社会)の変化に よるものである。顕著にみられる傾向は、昭和20年代から30年代にかけての早い時期には、

サザエはタラオを屋内外を問わずおんぶスタイルで子守りしているのだが(胴着でくるんだ り、後ろ手で支えたり)、連載の後半には全くこのスタイルは登場しなくなること、さらに、

以前と同じような場面を描きながら(例えば近所の店へ買い物に行く)、タラオを連れていな い絵が急速に増えていくことである。おんぶスタイルが消滅するのは、アメリカ式育児法の 紹介・導入によって、このスタイルが否定的に扱われたことが影響していると思われるが(昭 和38年に おんぶ論争 がある:家庭総合研究会,1990)、後者のタラオを同行しない絵の急 増については、確信のもてる理由を見出すには至っていない。子どもの付属物ではない、母 親であるとともに一個の女性としての自立意識が時代背景を構成するに至った結果の現れ、

と当面解釈しておくこととしたい。一方、マスオの、父親としての子守り役割についても減 少傾向がみられるが、後述するような、高度経済成長期のエコノミック・アニマルとしての 会社人間の出現が、家庭における父親の子守り役割を奪ったのかも.しれない。ともあれ、両 親がのんびりと子守りする姿が減少したのは、その時代を体験してきた者には了解可能な事

一26一

(13)

実であろう。

 これに対して、祖父母の立場からの孫の子守りの様相はどうであろうか。祖父である波平 には一定の傾向はみられない。祖父とはいえども、現役サラリーマンである波平にとっての 孫の子守りは、気まぐれのものであるということであろうか。他方、専業主婦である祖母の

フネの立場からは、時代の推移とともに減少する傾向があることが明らかにされた。ただ、

表4に明らかなように、フネが子守りの役割を執るのは昭和20年代であり、それ以降は波平 よりもむしろ少ない、というよりも無きに等しい結果が得られている。子守りがおばあちゃ んのいわば専売特許であったのは、ある時期までであり、「おばあちゃん子は三文安い」とい われ、あるいは先のおんぶスタイルの否定同様、子どもは(母)親が保育するものという育 児思想がアメリカから導入されたことが、こうした消滅を生んだものと推測される。図5は、

サザエのデータによって子守りの推移の様相をみたものである。

 %

20.0

15.0

10.0

5.0

0.0

25 30 35 40 45 昭和

図5 B−1子守り(サザエ)

 B2は、「しつけ」のカテゴリである。このカテゴリに有意な減少傾向を示したのは、女性 陣であった。マスオにこの役割がみられないのは当然として(タラオはまだ、ここでいうし つけの対象にはならない年齢)、波平は、山根(1987)の分析によれば、一家の説教役として 存在するものの、期を追うごとにその場面が減少するとされる。ただ、本分析でこれと同様 の結果が得られなかったのは、単に説教役にとどまらず、叱る、諭す、しつけるなど、広く 捉らえたことによっていると思われる。波平は、表3に示されるように、出現頻度のうえか

らはフネやサザエよりも多く、しかも一定の減少傾向がみられないということから、コンス タントにこの役割を遂行していることを物語っている。

 これに対して、専業主婦であるフネとサザエは、一日中子どもたちと生活を共にし、口や

(14)

かましくしつけているように見えるものの、その役割は時代とともに減少傾向を示している ことを結果は示している。筆者は前稿において、カッオとワカメの「お手伝い」の頻度の推 移を分析し、時代とともに次第にそれが減少していくことを明らかにしたが、このお手伝い と今回のしつけは、表裏一体の関係にあるような感触を抱くに至っている。子どもに対する 家庭教育や地域教育が次第に甘くなり、あるいは失われていく過程が、このデータから伝わ ってくるように思われる。この減少の意味するものは、時代(社会)の変化や、そこから派 生する大人世代の子どものしつけに対する自信の無さからくる単純消滅ということになろう

か。

 図6は、フネのデータによる推移の様相である。

       %       10.0

5.0

0.0

25 30       35       40       45

図6 B−2しつけ(フネ)

昭和

 B3は「子どもの遊び相手」の役割であるが、4名の大人のいずれも、出現頻度が少なく、

一定の傾向は認められない。

 B4は「子どもの教育」への役割である。波平にのみ時代の推移による減少傾向がみられる。

イソノ家においては、夏休みの終了時期に、毎年恒例のように、波平がカツオの宿題に力を 貸す場面がでてくるが(ワカメの場面には全くない)、表からも窺えるとおり、他の大人たち がこの役割を執ることはなく、夏休みの宿題に限らず、子どもの勉強の相手はもっぱら父親 波平の役割として描かれている。イソノ家は決して勉強にうるさい家庭ではない。子どもた ちが猛勉強を強いられるとか、塾通いをさせられることもなく(一時期カッオに東大生の家 庭教師がつくことはあるが、すぐにいなくなる)、理解できないところは父親の役割として補 って済んできたようである。ただ、昭和30年に高校進学率が50%程度であったものが、30年 代後半から急上昇し始めるに伴って、イソノ家の外では、次第に塾や家庭教師の世話になる 子供の姿が描きだされはじめ、今日の学歴偏重、受験戦争の激化の前兆の様相が伝わってく るものとなっている(前稿の分析でも、受験勉強・入試の場面一幼稚園から大学まで主人公 は誰でも可一は有意に増加傾向にあることを示した)。こうした背景もあって、親が宿題をみ てやる程度では済まない現実の姿が、イソノ家におけるこの風景をも時代の推移とともに減 少させていったものとおもわれる。図7は、その波平のデータである。

一28一

(15)

5.0

0.0

25 30 35 40 45 1召和

図7 B−4勉強支援・協力(波平)

 B5は、「学校行事への参加」役割のカテゴリであるが、出現頻度も少なく、全員のデータ とも一定の傾向を示すには至っていない。

 以上、育児および子どもとの関わりについてみてきたが、この領域における役割と様相は、

おおむね減少傾向を辿っているというものであった。その背景には、社会の変動と、それに 伴う大人世代の戸惑いや、自信の無さからくる消極的な対応が、結果的に役割の放棄・放任 につながり、減少・消滅への道を辿ることとなったものと推測される。

C 経済活動

 高度成長期における長時間労働のなかで、夫が雇用労働力として外に出、妻が家庭を守り 子どもを育てるという明確な性別役割分業観が確立したが、この漫画の終了間近の昭和47年 の総理府「婦人に関する世論調査」では、この考え方に対して、同感であると答えたものは、

男女とも80%を超えており、女性の被傭者でも70%を超えている。昭和59年の調査に至って、

やっと性別役割分業観を肯定する女性の意兇がちょうど50%になったわけで(男性では60%

を上回っている)、漫画連載の時期は、男女の役割分業の意識は非常に強かったといえよう(平 成2年版国民生活白書、pll2)。

 こうした中、イソノ家でも、サザエが内職をしたり、パートタイムに一時期出たことはあ っても(表6参照)、経済活動は一貫して男性の役割として描かれている。ただし、山根(1987)

が指摘するように、「仕事中の波平が描かれた作品は、全篇中わずか13篇で、マスオが78篇あ るのに比べても極めて少ない。彼は「サザエさん」の中で一貫して家庭人として描かれ続け たのである」というように、モーレッ社員、働きバチ、エコノミック・アニマルなどと椰楡 された類の人間ではない。この連載の後を継いだ、サトウサンペイの「フジ三太郎」のよう なサラリーマン漫画ではなく、家庭漫画としての制約があったのかもしれないが、積極的な 経済活動を展開しているわけではない。この点、マスオにおいても、山根の指摘にあるよう に、登場数のうえではまさっているとはいうものの類似の傾向にある。

 本稿では、山根の視点とは多少異なり、直接の仕事場面ばかりではなく、通勤の往復途上 の絵をも含めてカウントした結果、表3・5のようなデータを得た。有意な減少傾向が得ら

(16)

れたのは、波平においてである。戦後の混乱期を、一家の長として生活の資金を得るための 役割が、重く課せられたのは当然とはいえ、昭和30年過ぎまでの波平には出現数のうえでも それが強く現れている。しかし、 もはや戦後ではない と経済白書に謳われた昭和31年には、

既にレジャープームが到来しているし、岩戸景気の35年には映画館数はピークに達している。

その後の高度成長期を迎える中で、性別役割分業は定着し、生活の中心には経済活動や家事 労働があることは間違いないにしても、しかし以前のようにそれ一色ではない。経済的豊か さの中で、日本人は生活を楽しみだし、その結果、波平の経済活動の場面や、フネやサザエ の家事労働を描いた場面は次第に減少していき、そのぶん別の生活領域の内容を描いた場面 が増加していったものと考えられる。つまり、知覚心理学のいう 図と地 の関係のように、

経済活動は に後退したということである。この検証のためには、時代別の漫画内容の 構成比を算出する必要があるが、推論としては正しいように思われる。

 図8は、波平の経済活動の推移の様相をみたものである。

 % 15.0

10.0

5.0

0.0

25 30 35 40 45 昭和

図7 C−1職場での仕事(波平)

D 家族代表

 家族を代表する役割として、漫画に登場する場面から帰納的に設定したものが、「町内会や 地域行事への参加」と、「来客の接待」の2カテゴリである。渉外的役割を含めたものとして 考えられている役割構造の理論本来の姿からすれば、この2カテゴリだけでは必ずしも適切 な内容とは言い難い点があるが、やむを得ないものと考える。

 Dlは、町内会や地域行事に参加する場面である。これについては、前稿において今回同様 の分析カテゴリを設定するに当たっての説明で「地域社会を取り上げる場合、当然現れるは ずの「町内会・自治会」「婦人会」「子供会」といった組織に基づくカテゴリが存在していな いが、これは作品中に活動場面がほとんど描かれていないことによる」と断っているように、

本来家族を代表する役割の波平が、町内の集まりなどに顔を出す場面などが全く描かれてお

一30一

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