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戦後教育の変遷 一家庭科教育一

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茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980)73−84       73

戦後教育の変遷 一家庭科教育一

岩崎恭枝・徳蔵きみ・中沢きみ・堀籠平吾・吉田紘子

(1980年11月15日受理)

は  じ め  に

家庭科教育は戦後新しく誕生した教科である。しかし,歴史的にみると,戦前には良妻賢母をめ ざす女子教育の中心として家事・裁縫科があった。それは,「家」を尊重し,「家」を守るという 家族制度の中で「女子の特性と任務」に応じた教育として続いてきたのである。

戦後,個人の尊重,法の下の平等家族生活における個人の尊厳と両性の平等などを宣言した新 しい憲法の精神を実現するために,「技能教科でない」「女子教科でない」「家事・裁縫の合科で ない」の3否定に立って家庭科は生まれた。このように「家」制度の否定や家庭の民主化などを目 ざす教育理念のもとに出発したわけであるが,時代の流れとともに幾多の変遷をみながら今日に到 っている。

本研究は,戦後誕生した家庭科教育の歩みを探りながら,今後あるべき家庭科教育の姿を求めて 行なわれたものである。今回は,指導要領の改訂にあわせて時代区分を行い,改訂前後の状況やそ

の改訂の方向について検討するにとどめた。

1.第 1 期  (昭和20〜25年)

1)戦後の教育改革と家庭科の誕生       ・

昭和2・年9月,文部省は「新躰鰍の教育方鍋で文化国家道義国家建設のための文教政策 を実行することを発表,この方針に従って教科書をはじめ教育上の諸問題を具体的に措置すること を示した.昭和21年1月には米国教育使節団が知洞年5月1・は,その報告書をもとに文部省は

「新教育指針」を発表した。これは,新日本建設の根本問題を明らかにし,今後の政育の重点を示 したもので,戦後の根本的,徹底的な教育改革のもとになったものである。昭和21年11月には,「職 業教育及び職業指導委員会」が設置され,家庭科を含む職業教育に関する事項が審議され,「学習 指導要領一般編(試案)昭和22年度」の中に示された。昭和22年3月には「教育基本法」「学校教 育法」が公布され,教育関係全般にわたって,その理念と基本原則が確立され,昭和22年4月から 画期的な新学制が実施されたのである。

家庭科教育は,日本再建のためには,「教養ある頭脳をもとに熟練した手を必要とする」(第1 次米国教育使節団報告)そのための教科として職業科と家庭科が取上げられ,昭和22年,新しく家 庭科が誕生した。この教科のねらいは,家庭において自己を成長させ,また家庭及び社会の活動に対 し自分の受持つ責任のあることを理解させ,家庭生活を幸福にし,その充実向上をはかって行く常 識と技能を身につけ,家庭人としての生活上の能率と教養を高めて,いっそう広い活動や奉仕の機

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会を得させることにあ碧.その指導は,これまでの教材を中心に体系的.原理的な学問内容を教授 するやり方を排し,生活中心の学習方式にかわり,小・中・高校ともこの基本線に従って展開され

ることになった。

2)教科の特徴

(1}小学校

学習指導要領家庭科編(試案)昭和22年に示された小学校家庭は,5・6学年において男女とも に学ぶべき教科で,戦前の家事・裁縫のような技能中心の教科でなく,民主的家庭生活を建設し守 るための人間を,家族関係を中心に学ばせる教科であるとした。そして,小学校教育の目標を達成 するためには激科に対する批判も出て羅そのおもなものは,①CIE指鮪1・よる批判,こ

れは,全国各地の家庭科教育の実際を視察した指導官が,裁縫科時代に変わらぬ内容をみて,小学校 児童に針をもたせる仕事をさせるのは不適当と指摘したもので,小学校家庭科廃止論の一つの根拠 となった。②社会科からの批判 社会科の目標の中に家族関係も含まれているので,家族関係の研 究を中核とする家庭科は,独立した教科としての存在意義がない。③基礎学力をつけるためには国 語,算数の時間を多くしなければならないので,家庭科を廃止し,その時間をあてる。④世界の主 要国の殆どが小学校に家庭科がない。家庭科は中学校からが適当である等である。このような中で 文部省は,昭和25年「初等教育課程審議会」に,昭和22年の学習指導要領の改正とともに,小学校 に家庭科を特設することの適否をあわせて諮問することになった。

(21中学校

中学校家庭科は,はじめ戦前の国民学校高等科の実業科,芸能科の家事・裁縫,中学校の実業科,

作業科,職業指導を総合した職業科の中におかれていた。昭和22年3月,中学校に職業科が設けら れたとき,農・工・商,水産の職業科とともに家庭科を含めた5科目がおかれ,それぞれの学習指 導要領及び職業指導の学習指導要領がつくられ,この5科目の中から1科または数科を学ばせるこ

とにした。家庭科については,女子のみが修めるべきだと考える必要はないと記されていたが,実 際には女子は家庭科,男子は職業科が選ばれた。またその指導は,従来の裁縫科と余り変らず,本 来の使命が達せられなかったので,昭和24年,文部省は職業科から家庭科を分離し, 「職業及び家 庭科」と改めた。そして, 「家庭生活のあり方の理解,理想追求への望ましい態度」 「家庭生活に おける実技」及び「近代社会における家庭生活の理解」を目標とし,男女同権や,日常生活からの 封建性の一掃を,家庭科の果す役割の1つにした。

{3)高等学校

高等学校では,課程が普通,職業の二つの課程に分かれ,職業課程の中は,農業,工業,商業,

水産,家庭技芸等のコースに分けられた。そして,一つの学校の中で多くのコースを設け,生徒が 自由な選択のできるようにすることが原則とされ,多くの総合制学校が誕生した。また普通課程の みの学校でも,選択として職業や家庭に関する科目を多く取り入れることを原則とした。文部省の 発表した新制高等学校における「家庭科の新しいあり方」では,「幸福な家庭生活を招来するよう な経験を与えなければならない」とされており,内容は家庭生活に重点をおいた「家庭」と職業生 活の面に重点をおいた「家庭技芸」でそのうち普通課程の学校では「家庭」がとられた。しかし家 庭科は他の職業科と同様選択制であったため,実際には履習する者は極めて少数だったようである。

職業課程の家庭科は「家庭技芸に関する課程」といわれ,「家庭技芸」に関する教科を30単位以上

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岩崎ら:戦後教育の変遷一家庭科教育一      75

必修し,実習は,家庭技芸に関する教科の総時数の4割以上をあてることとされていた。食物課程,

哺育課程,被服課程,家庭課程がおかれた。学習の方法は,従来の家事科,裁縫科,手芸科時代の 仕事に熟練するよう仕込むことを目的としたやり方から,小・中学校と同様生活経験を重視し,家 庭の一員として,家庭経営の計画をたて,実行し,改善をはかる能力を養うことが中心になり,そ の一つの方法として,ホームプロジェクトによる学習等が導入された。

2.第 2 期  (昭和26〜30年)

1)時代的背景

昭和26年サンフランシスコ対日平和条約締結後は「日米安全保障条約」 「日米行政協定」 「日米 友好通商条約」「MSA協定」など一連の国際的取りきめが行われ,いわゆるサンフランシスコ体 制にはいった。マッカーサー指令による規制下にあった日本の施政権は返還され,教育については 我国の国情に適合するよう修正することが認められた。

一方昭和25年6月に朝鮮動乱が起り,これを契起に生産教育論が台頭し,財界,政界の実力者層 の強い意見として,産業教育の振興が叫ばれるようになり,産業教育振興法が昭和26年6月成立す る。当時産業教育に対する意見の多くは,学校の教育は理論に傾き易いから社会に出てすぐ役に立 つ実際的なものを教えてほしいという実務的技能教育を頭に描くものであった。産振法制定に尽力

昭和26年12月,経済同友会は,専門学校の復活,技術者の段階的養成,学校行政などの整備を要 求し,さらに中学校,高等学校において,一般教育より産業実務の基礎教育の重点実施を要望した。

翌年10月,日経連は「新教育制度再検討に関する要望書」を出し,その中で,新教育制度の基本的 欠陥として,職業ないし産業教育の軽視をあげ,すみやかに教育制度全般について再検討を加え,

産業界の要請に答えるように要望した。

文部省の中央産業教育審議会は,この問題をとりあげ,職業・家庭科教育の改善にのりだし,昭 和28年3月に第1次,29年10月に第2次と2回にわたる建議がなされた。これらの建議をうけた文 部省は同年11月,「この建議の趣示を尊重し,今後その実施に関し慎重審議の上,学習指導要領の 改定を行いたいと考えている」との意向を公表した。

2)改訂の特徴

川小学校

昭和26年7月「学習指鞭領搬編(試案1㍉醗行畝家庭科は廃止論をふりきって高学年段

階の特設を獲得した。その周辺の事情や認識については学習指導要領一般編の中間発表において「家 庭生活についての授業は入学当初より必要である」と記され,教科としての内容は,学習経験は男 女共通で技能経験は初歩的なものに限るべきであるとし,従来の内容は大いに改善される必要があ ることとしている。これによって家庭科は学習も技能も男女共通の経験を与えることに変更された。

この年に,他の教科については学習指導要領の改訂が行われたが,家庭科は特設化と性格づけのみ を示し見送られ代りに「小学校に捌る家庭生活鱒の手弓13(昭和26年11月)が出さ礼これを 参照するようにされた。この「手引」の刊行は,当時のCIEの家庭科廃止論を緩和するための苦

(4)

      8)

Sであったものともいわれている。

このように家庭生活に関する教育は,小学校全教科の中で学校生活のあらゆる機会をとらえてな される「家庭生活指導」と従来どおり5・6年に特設された「家庭科」で行なわれた。ただし事情 によっては固定した時間を特設しなくてもよいとされ,家庭科は「主として創造表現活動を発達さ せる教科」の領域に組み入れられ,時間配当は週2時間程度であった。 「家庭生活指導」の内容は

「家族の一員」 「身なり」 「食事」「すまい」「時間・労働・金銭・物の使い方」「植物や動物の 世話」「不時の出来事に対する予防と処置」「レクリェーション」の8領域である。しかしこれは 特設家庭科の内容と重複する部分もあり,混乱の一因ともなった。

(2}中学校

啓発的経験重視の職業・家庭科は農・工・商・水産・家庭の体系にとらわれすぎて不必要な重複 が多く,その上地域社会の要求と学校や生徒の事情に適用する能率的な学習指導計画を立てにくい という大きな難点があったので,文部省は再度改訂に着手し職業・家庭科は実生活に役立つ仕事を 中心とし,家庭生活・職業生活に対する理解を深め実生活に役立つ知識・技能を養うものであると した。その内容は4分類・12項目として啓発的経験を与える仕事を技能の種類によって分類したも のである。地域社会の要請と学校や生徒の実態を考慮してその内容が学校によって多少異っていた

ことは,今までに見られない大きな特色である。教育計画として,農村女子向き,都市男子向きな どが示されたことによってもその経緯を知ることが出来る。昭和26年12月,「中学校学習指導要領       9)

E業・家庭科編(試案)」が発行され本教科の詳細が明示された。職業科と家庭科が1つの教科とし てまとまったことは大きな進歩であるとみられたが,生活経験単元式の思想が新たに加えられたこ       ■ ニなどから教育内容の仕事の種類が521例もあり,1つの仕事に徹することができないうらみもあ り,実施上の困難が予想されたのも当然なことである。

(3}高等学校

昭和26年7月に新しい「学習指導要領一般編(試案)」が発行され,家庭に関する教科は「家庭」

と「家庭技芸」に分けられた。「家庭」は家庭生活に重点をおき,一般家庭・家族・保育・家庭経 理・食物・被服の科目からなり,「家庭技芸」は職業生活に重点がおかれた。またホームプロジェ クトや家庭クラブなどの活動によって有効な学習を進めることが望ましいとしてこれらの活動を家 庭科の教科の中で行うことを示唆している。文部省はホームプロジェクト及びクラブ活動実施の資 料を集め,「家庭科ホームプ。ジェクトの手浮1」を27年5月に,「家庭クラブの手弩/」を28年5月 に発行し,これらに関する具体的な指導を行った。28年には全国高等学校家庭クラブ連盟を結成し,

       12)

。日までその活動は続けられている。

以上のように家庭生活に関する教科は,一般教育としての「家庭」と専門教育としての「家庭技 芸」の2系列に分けて教育された。

3,第 3 期  (昭和30〜42年)

1)時代的背景

昭和30年代以降は,未曽有の高度経済成長へと突入し,この頃から産業界は科学技術教育を唱え

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岩崎ら:戦後教育の変遷一家庭科教育一      77

た。日経連は,昭和31年11月「新時代の要請に対応する技術教育に関する意見書」を文部省に提出 した。文部省は,日経連の意見書を受けて昭和32年4月中教審に「技術革新に対処する科学技術教 育の振興方策」を諮問し,同年11月にその答申がなされると文部省は教課審に対して科学技術教育 の向上と進路・特性に応ずる教育の強化を強張してこれに即した職業・家庭科の再編成を要請した。

教課審はすでにこれより先の昭和31年3月「小学校・中学校の教育課程の改善について」審議を始 めており,職業的陶冶については了解事項になっていたものをすてて新たに審議することとなった。

また日経連は昭禾[β3年12月にさらに「科学技術教育振興に関する意見書」を出し,能力別の進路・特性 に応ずる教育を提唱し,高学力者は基礎教育を充実させて高等教育へ進学し,そうでないものはす ぐ役立つ職業教育を行って職場に向うことを要望した。

以上のような経済界の要望にみられるように,戦後10年を経過した今日,我が国は自分自身で歩 く自主的な技術開発にせまられ,またつくれば売れた時代から脱して国際競争に遅れをとらないた めにも生産技術の革新は急がなければならないことであった。さらに国際的には人工衛星打ち上に よる科学技術の競争が科学技術教育をいやが上にも高揚することとなった。

日常生活における一般消費財の生産は,昭和25年から昭和35年にかけて急上昇すると共に,テレ レビ,電気洗濯機電気冷蔵庫,扇風機,カメラ,小型自動車などが次々1ど家庭にとり入れられて ここに生活の一大革新がもたらされることになった。そのための主婦の養成も必要であった。

2)改訂の特徴

昭和33年3月教育課程審議会答申「小・中学校教育課程の改善について」は,基本方針として,

国民生活の向上と国民の教育水準を一段と高めるために特に道徳教育の徹底,基礎学力の充実およ び科学技術教育の向上をはかることを主眼とし,中学校においては,さらに,必要あるものに対し ては,職業または家庭に関する教育を強化するとしている。この答申によると,小学校では,道徳 の特設と国語,算数,理科の時間増と,社会科,家庭科などの時間減がみられ,中学校では,技術 科の新設である。家庭科の語は答申の中にはなく技術科の中に含めて考えられたようであるが,そ の後技術・家庭科となった。また家庭科については,男女別の方向でしかも技術中心の傾向がしあ

されている。

(1}小学校家庭科

      13)

コ和31年改訂の学習指導要領により家庭科の目標をみると,小学校教育の目標と家庭科の目標と は密接な関係をもっているとしている。またその目標からみて家庭の民主化が中心で衣・食・住に 優先する目標としてかかげられており,家庭生活に必要な技術は,家庭生活を理解し,よりよき家 庭をつくるための能力と解することができる。

       14)

コ和33年改訂の学習指導要領家庭科の目標からみると,家庭科は,被服,食物,すまいなどの知 識・技能の習得を中心とした実用教科として,また家庭を合理化する教科として位置づけされ前回 示された家庭の民主化あるいは総合教材としての性格はうすれてしまった。

(2)中学校職業・家庭科と技術・家庭科

職業・家庭科について昭和31年改訂の学習指鞭蘇よると,その性格は実践的醐樋して学 習する教科であり,また進路指導的性格をもっものであった。

技術・家庭科について昭和33轍訂された学習指鞭謙よりそ媚標をみると,基礎的蹄 こ ついて主として実践活動によって学習がなされ,近代技術に関する理解と自信とを与えることにあ

(6)

り,この点昭和31年改訂の学習指導要領にみられた一般教養的な面や進路指導的な性格はうすれる ことになった。

技術・家庭科の内容について,ア)男は職業,女は家庭という役割分担の上から将来を考えて生 活に役立つ内容から編成されており,しかも男女差による単なる技術中心の家事処理技術の習得が 中心となった。イ)女子向きの内容は,生活革新の中で登場したので農業領域は全く排除され,新 たに工的内容が加えられた。すなわち家庭用電気機器,調理用器具,加工食品などを使いこなし,

無駄な時間や労力を省いて余暇を生み快的な文化生活をめざして編成されている。

以上のようなことから,男女の役割分業意識を助長し,また家電資本や食品加工資本の国内市場 の拡大と余暇利用の安上りな労力を提供することになり,また家庭生活の近代化と画一化を大きく

17)

促すこととなったが,家庭科教育の中心課題から大きくそれることとなった。

③高等学校

昭和31年改訂の高等学校学習指導要領により家庭の目標をみると,女子の特性に根ざした家庭管 理者としての立場から家庭に関する内容を履習させることになり女子の教科としての性格を強める

こととなった。

昭和35年改訂の高等学校学習指導要領に示されている家庭科の目標からみると,教科の全領域を 家庭経営の立場から習得させるとあり,このことは一般教科としての性格から主婦養成教科としての性 格へ転身し,女子特有の教科としての位置づけの固定化を助長することとなった。

4.第4期の特徴(昭和43年〜昭和51年)

昭和40年代は,30年代に始まった高度経済成長政策が,飛躍的に発展し,GNPが世界第2位に なった。しかし,その反面,公害や都市化による過密などの都市問題,あるいは,過疎などの農村 問題など,生活環境の悪化や自然環境の破壊が顕在化し始めた。さらに,高度経済成長のもとでの Cンフレーシ。ンの翫高物価註宅不足などが「新しい姻」として生活をおびやかし購縞 消費水準は上昇し,中流意識をもつ階層は増えたが,生活不安や家庭破壊など家庭がかかえる問題 は深刻化した。

これに対して, 「家庭の役割」や「家庭対策」,「教育」に関わる施策が次々と出されている。

家庭科教育に関連が深いものとしては,「経済審灘答串1,「轍審答勒「家庭醤踊審謙答 申」,「婦人少年間麗謙答鋤がある.これらは,いずれも曖の場」や,「し・こいの場」「教 育の場」としての家庭の機能を強調することにより,また,「能力・適性」に応じた教育を強調す

ることにより,母親や家庭の役割に家庭生活問題の原因をすりかえ,問題の解決を図ろうとしてい る。母親や家庭の役割の強調は,中高年婦人をパートタイマーとして利用する労働力政策にもつな がっている。

このなかで,家庭科に課せられた役割は大きく,37年に中央産業教育審議会建議として高校家庭 科振興方策が出されている。これは,以後の女子教育の基調とされたもので,女子労働力政策や家 庭政策と結びつきながら, 「女子特性」を根拠にして,家庭科教育を女子教科へと傾斜させたもの

25)

である。

2)教育課程の特徴

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岩崎ら:戦後教育の変遷一家庭科教育一      7g 前回の改訂以降の科学技術の革新にはめざましいものがあるとして,国民の生活や文化の向上,

社会情勢の進展,さらには,国際化に対応するために改訂が行われ,改訂の方針は,「学習内容の 現代化や,個性,能力,進路特性に応じた教育,調和のとれた人間形成があげられている。家庭科 においても,前回の改訂の方向はおおむね受けつがれたものの,目標の明確化,技術変化に対応す るための教材の現代化など若干の変化がみられる。

小,中,高を通して, 「家庭生活を明るく合理的に営む実践的態度の育成」が総括目標としてお かれ,家庭科が単に技能教科ではないことが,目標としては明確にされた。また,小,中,高の一 貫性が,目標のうえでは図られたものの,履修形態は前回と変らず問題を残した。

発足当初の家庭科の「三否定」に表わされた理念は,学習指導要領の改訂の度に薄らいでゆき,

今回の改訂で,技術教科としての位置けは,やや,弱くなったものの,女子教科としての位置付けは 強化された。

① 小学校家庭科

基本的には前回の改訂を踏習しているが,総括目標がおかれ,目標がより明確にされた。すなわ

、   、   、   、   、   、

ち,「日常生活に必要な衣食住などに関する知識,技能を習得させ,それを通して,家庭生活の意 義を理解させ,家族の一員として家庭生活をよりよくしようとする実践的態度を養う。」と家庭科 が単なる技能習得の教科ではなく,実践教科であることをはっきりさせた。 (傍点筆者)しかし,

子ども自身が「家庭生活の意義」を理解することは難しく,現実には,家事処理が合理的にできる という程度の基礎的な知識や技能の習得に終ったようである。また,教科書にみる標準家庭は,都 市給与生活者の中流家庭であり,この年から,家族に老人の加わっている写真が掲げられるように なったなど,家庭政策を反映したものとなっている。

② 中学校技術・家庭科

前回どおり,学習内容を「男子向き」と「女子向き」の二系列にわけ,前者においては生産技術 を,後者においては家庭生活技術を主としており,性別役割分業観に基づいた教科となっている。

しかし,前回の改訂で,現場からの批判の強かった,技術革新に即応できるように,「近代技術の 理解や習得」する目標は改められた。「生活を明るく豊かにするためのくふう創造の能力,およα 実践的態度を養う」ための手段として「生活に必要な技術」を習得させると変った。内容において も,調理,被服製作,設計製図,家庭工作はそれぞれ,「食物」,「被服」,「住居」と改められるな ど「技術」教科としての表現は弱くなった。しかし,家庭や家庭生活に関わる領域は,相変らず社 会科に機能分担されており,家庭に関する技術的側面のみが家庭科に残された。

③ 高等学校家庭科

今回の改訂で,「すべての女子に 家庭一般 を履修させるものとし,その単位数は4単位を下 らないようにする。」と女子必修化が強化された。また,家庭科が,男子の体育増単位分と組み合 わされており,男女の特性のとらえ方が問題とされるところである。

「家庭一般」の目標では,基本的には前改訂が踏習されたが,「家庭生活」が「家族生活や地域       ・

フ家庭生活」に,「科学的,能率的,経済的」は「合理的」に改められた。また,前回批判の強か った「家庭を経営するものとしての立場から………」は削除された。教科の対象がやっと広げら礼 主婦養成教科的な表現は改められたが,しかし,新に「子どもの健全な成長に果す親の役割につい ト理解を深める」が加えられたり漱科書に,家胴期のモデ,揚澄場するなど政府の家庭政策 労働力政策を反映したものとなっている。

(8)

3)教育現場の状況

高校家庭科の女子必修化の背景には,発足以来,くすぶり続けている廃止論や,進学率の増加に

伴って家庭科選択者の減少といった家庭科衰微の状況を憂慮した家庭科関係者の動きがあったとい    27)       28)われている。これが家庭クラブの発展や,技術検訂制度の確立に結びついた。女子教科,家事処理

技術教科として家庭科の独自性を保つことができるという現場の動きも根強いものであった。

いっぽう,家庭科が初期の理念に反して,技術教科や女子教科に変質してしまったことや,政府

の家づくり政策に応えるものであることや,国民生活の実態をとらえていないことなど問題とした       29)自主的な教育研究や運動もみられる。

5.第 5 期(昭和52年〜 ) 1)改訂の背景

家庭・地域生活の急激な変貌と能力主義の教育政策の進行,入試競争の激化のもとで,教育のひ ずみはますます子どもの中に顕在化している。非行,登校拒否,家庭内暴力,校内暴力,自殺等が めずらしくなくなり,遊びを忘れた無気力な子どもが指適されるようになって久しい。こうした子 どもの発達にかかわる多くの問題が指適されているが,その原因の一つに,直接にものの世界,人 の世界に働きかける繊が量的にも質的1,砂なくなっていることがあげられてし、潔

1976年12月に発表された教育課程審議会答申は,教育課程改善の1つとして「勤労にかかわる体 験的学習」の重視をあげ,「物をつくることや働くことの喜び」を得させ,「正しい勤労観を育成 する」ことをねらいとしている。このねらいが家庭科においても改善の基本方針となり,「実践的・

体験的な学習を行なう教科としての性格が一層明確になるように留意して内容の精選を行ない,そ の構成を改善する」ことになった。しかし,指導要領の目標では,実践的という言葉が組み入れら れたにすぎず,より衣食住に関する技能が強化されている。「できる」ということが「なんのため に」「どうやって」という理解なくしてめざされているようであり,この意味では今回の改訂にお ける精選の意味が問われるであろう。

2)改訂の特徴

(1)小学校

対象学年,.時間数,男女共修には変化がなかったが,その目標が,「家庭生活に必要な衣食住の 実践的活動を通して」その知識や技能,実践的態度を養うことに変わった。また,今回の改訂では,

教育課程審議会答申で削る予定であった「家庭」領域は,新指導要領では, 「住居と家族」というふ うにこれまで2つの領域であったものがまとめられている。新指導要領の記述で変わった点は,子 どもたちにつけていく力は何かというとき,「できるようにする」と「理解させる」という言葉の 多いことである。我が国の場合,手の技能が圧倒的に多く,しかも,「できる」ようになるために

「どういう知識の理解があってできるようになるのか」の論理がみられない33)

(2)中学校

時間数が1・2年次において÷に削減され,また領域区分がこれまでの男女・学年別から,技術 系列および家庭系列からなる内容別となった。男子は技術系列から,女子は家庭系列から5領域以

(9)

岩崎ら:戦後教育の変遷一家庭科教育一      81 上(教育課程織会答申では4領域以上であったが),そして「男女の相互理解と協力を図る繍 から,男子は家庭系列から,女子は技術系列から1領域以上,合計7領域以上を選択して履習させ ることになった.各領域は2。−35時間,履習学年,相互乗入れの領域および学習形欝1烙学校の 選択にまかされた.ここから,技術.家庭科の男女共修の可能性が大きくひろがったとい霧.し かし,生活観や人間関係の配慮がみられた項目がほとんど根こそぎ削除された内容で相互理解とは 何なのか。家庭科で何を学ぶ必要があるのか,低次元の理解に終らせないためにも家庭科教育の本 質が問われてくるであろう。

(3)高等学校

今回の改訂でも女子にのみ4単位必修は変わらず,ただ, 「指導計画の作成と内容の取り扱い」

      37)の中に「男子が履習する場合には,…内容選択にっいて特に配慮し,適切な指導をするものとする」

記述がはいった。しかし,男子がはいれば特に配慮しなければならないところに家庭一般の問題を みることができよう。また,その目標において「家庭生活」そのものに対する言及がなくなり,内 容においても従来のような単元説明がなく,単元名のみが羅列されている。高校段階においても体 験的・実践的学習に主眼が置かれている。前回の実族と家庭経営,家族の隼活時間と労働,家庭の 経済生活の3っが現行ではまとめられて①家庭生活の設計・家族になり,あと,②衣生活の設計・

被服製作,③食生活の設計・調理,④住生活の設計・住居の管理,⑤母性の健康・乳幼児の保育,

⑥ホームプロジェクト・学校家庭クラブとなった。○○生活の経営が今回すべて○○生活の設計と 実技実習となり,運用においても「家庭に関する科目に充てる総授業時数の10分の5以上を実験・

      38)

タ習に充てる」ものとされた。

3)現場の教育状況

以上述べてきたような行政側の改訂は,地域,国民経済,消費者問題福祉問題等社会の中の家 庭という視点が欠落し,視野がますます狭くなっている。これに対し,子どもたちに生きる力とな

る家庭科教育を求める自主編成の活動もさらに活発になりつつある。この場合特記すべきことは,

家庭科の基本的な問い直しを含めて,そこから小・中・高校を通した家庭科の男女共修がめざさ礼 実践されていることである。1960年代の後半より家庭科の男女共修運動は,京都・長野をはじめと して組織的な実践段階にはいり, 「家庭科の男女共修をすすめる婁/など一般市民の運動も展開さ れ,共学の理論的根拠の研究も多様になってきている。それらを大別すると,女性解放の立場から のもの,子どもの生活的自立の立場からのもの,生活優先の社会実現の立場からのもの,全面発達 保障の立場からのものなどであり,そのいくつかを複合的にとりあげているのが一般的である。し かし,いまだ男女共学必修の理論としては不十分であり,家庭科のみに独自に位置つく教育的価値 の検討が求められている。

お  わ  り  に

戦後,三否定の上に民主主義の理念をもって新しく誕生した家庭科であったが,その時々の時代 の波をもろに受けて大きく変遷してきた。民主的な家庭という理念は後退し,実用的・技術的な面 が強調されてきた。

しかし,1975年国際婦人会議で採択された世界行動計画においては,伝統的な役割の再検討,家

(10)

庭建設における男女の共同責任が強調され,教育を通じてこれまでの社会通念をかえること,親と しての責任,家庭生活,栄養,保健などについて男女ともに教育すべきことがうたわれている。こ うした世界的な動きとともに,子どもたちの生きる力にかかわって教育が問われている今日,身近 な生活事象を題材として生活の科学的認識を深め,生活を切り開く力を育てようとする家庭科教育 は課題も多い反面,期待される面も多いのではないだろうか。

最後に,第一期徳蔵,第二期中沢,第三期堀籠,第四期吉田,第五期岩崎が分担執筆した。

1)近代日本教育制度史料編纂会編『近代日本教育制度史料』第18巻,大日本雄弁会講談社刊,昭和28年,

P,488

2)前書,P.513。

3)常見育男著『家庭科教育史 増補版』光生館 昭和47年,P.285。

4)前書,P.342−343。

5)清原道寿,「第二次世界大戦後における中学校技術教育の歴史的特徴」『家庭科教育』51巻13号,家政 教育社,昭和52年,P.18−22。

6)文部省 『学習指導要領一般編(試案)』昭和26年。

7)文部省,『小学校における家庭生活指導の手引」昭和26年。

8)常見育男著,前掲書,P.343−344。

9)文部省『中学校学習指導要領 職業・家庭科編』昭和26年。

10)文部省『家庭科ホームプロジェクトの手引』昭和27年。

11)文部省『家庭クラブの手引』昭和28年。

12)大和マサノ「ホームプロジェクト・高校家庭クラブの初心を顧みる」『家庭科教育』52巻9号,家政教 育社,昭和53年,P.241−250。

13)文部省『小学校学習指導要領』昭和31年。

14)文部省『小学校学習指導要領』昭和33年。

15)文部省『中学校学習指導要領』昭和31年。

16)文部省『中学校学習指導要領』昭和33年。

17)常見育男著,前掲書,P.374−376。和田典子「技術革新時代と家庭科」『家庭科教育』52巻9号,

家政教育社,昭和53年,P.38−51。

18)文部省『高等学校学習指導要領家庭科編』昭和31年。

19)文部省『高等学校学習指導要領』昭和35年。

20)三井須美子「新しい貧困と家庭科教育」『年報家庭科教育研究』第2集,昭和49年,P.55−61。

田結庄順子「家庭科教育における生活研究の視点」『年報家庭科教育研究』第2集,昭和49年,R62−70。

21)経済審議会答申 38年に出された「経済発展における人間能力開発の課題と対策」は労働の質の変化に 対応するために職場外での余暇の利用や家庭での団らんで労働力を再生産すること,婦人の労働力活用に ついて述べている。

22)中教審答申 41年「期待される人間像」は家庭を「愛の場とすること」「いこいの場とすること」「教 育の場とすること」とし,「家庭は社会と国家の重要な基盤である」とみなしている。

23)家庭生活問題審議会答申 43年 家庭教育の重要性,婚前教育母性教育などの社会教育の必要性,さ らに,家庭内の秩序の確立,社会における家庭生活の役割や課題の認識を強調している。社会福祉を説き

(11)

岩碕ら:戦後教育の変遷一家庭科教育一       83

ながらも家族の相互扶助の重要性を述べている。

24)婦人少年問題審議会答申 41年 「中高年婦人の労働力有効活用に関する建謝のなかで,①婦人が家 庭責任と労働を調和的に果すための配慮,②適職の研究と就業分野の拡大,③家庭責任を円滑に果たすご とを援助するために乳児施設の増設,学童保育,育児休職制,ホームヘルパー制度の充実,家事サービス 施設の拡充などを提言している

25)和田典子「高度経済成長時代と家庭科」 『家庭科教育』52巻9号,家政教育社,昭和52年,P.55−57。

26)43年文部省社会教育局刊「家庭生活設計」を反映したものである。

27)大山サカエ「全国家庭教育協会の歴史に思う」,大和マサノ「高校家庭クラブの初心を顧みる」,川合 喜美子「全国高等学校家庭科技術検定はなぜ始められたか」『家庭科教育』52巻9号,家政教育社,昭和 52年,P,233−251。

28)鯨井あや「家庭科教育研究者連盟における研究実践」『家庭科教育』52巻9号,家政教育社,昭和52年,

P.115−123。

29)保科達子「家庭教育研究の成果と課題」 『年報家庭科教育研究』昭和49年,P.79−−86。

30)産業教育研究連盟編『子どもの発達と労働の役割』民衆社,昭和50年,P.14−22。

川合章「子どもの発達と家庭科」『家庭科教育』51巻6号,家政教育社,昭和52年,P30−31。

31) 「名学校段階別の改善の重点事項」の中で,小学校については「直接手を使って製作する活動や体験的 な学習を通して,仕事の楽しさや完成の喜びを得させるようにする」,中学校については「勤労にかかわ る体験的な学習を重視し,正しい勤労観を育成する」,高校については「勤労にかかわる体験的な学習を 通して,仕事の楽しさや完成の喜びを体得させるとともに勤労に対書る正しい態度や職業観を養う」と記 述されている。

32)文部省『小学校学習指導要領』昭和52年。

33)木村温美,田辺幸子「家庭科教育目標の明確化について」 (第2報) 『家政学雑誌』29巻,家政学会」

昭和53年,P.34。

34)文部省『中学校学習指導要領』昭和52年,R94。

35)学習形態としては男女共学共修と男女別学共修がある。共学共修は男女一緒に同じものを学ぶのであり,

別学共修は男女別々に同じものを学ぶのである。

36)例えば,学校の設備等を一切考慮しなければ,完全に男女共学の形態とすることができる。

37)文部省『高等学校学習指導要領』昭和53年,P.78。

38)前書,P.77。

39)会の活動は,家庭科の男女共修をすすめる会編『家庭科なぜ女だけ!」ドメス出版 昭和52年に詳し

い。

参照

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