52 (762) 症 例
肋 骨原発骨 肉腫 の1切 除例
門 田 嘉 久, 奥 村 明 之 進, 尹 亨 彦, 南 正 人 武 田 伸 一, 三 好 新 一 郎, 藤 井 義 敬, 松 田 暉 要 旨 骨 肉腫 は長 管 骨 に 好 発 す る こ とが 知 られ て い るが,胸 壁 に 発 生 す る こ とは極 め て 希 で あ る.右 第4肋 骨 に原 発 した 骨 肉 腫 の1治 験 例 を報 告 す る.症 例 は28歳 男性.1996年5月 右 前 胸 部 の腫 脹 及 び 痛 み を 自 覚 し,7月 当 科 を 受 診 した.右 前胸 部 に第3,4,5肋 骨 に及 ぶ7×8cm大 の弾 性 硬 な腫 瘤 を認 め た. 胸 部CTで は,腫 瘍 は 骨破 壊 像 を有 し周 囲 組 織 へ の浸 潤 を認 め た.他 の 部 位 に病 巣 は 認 られ ず,肋 骨 原 発 悪 性 腫 瘍 と診 断 した.1996年7月26日,周 囲 組織 を 含 め た 腫 瘍 広 範 切 除 術 を行 っ た.腫 瘍 の 胸 腔 内へ の 浸 潤 は認 め ず,完 全 切 除 し えた.組 織 学 的 に は類 骨 形 成 を伴 う腫 瘍 細 胞 を 認 め 骨 肉腫 と診 断 され た. 術 後,CDDP+ADMお よ びIFM,HD-MTXに よ る化 学 療 法 を 行 った.術 後3年 が経 過 した 現 在,無 再 発 に て生 存 中 で あ る. 索 引 用 語:骨 肉 腫,肋 骨,胸 壁 腫 瘍,術 後 化 学 療 法osteosarcoma, rib, chest wall tumor, adjuvant chemotherapy
緒 言 骨 肉腫 は主 に長 管 骨 に好 発 す る腫 瘍 で あ り, 胸 郭 に発 症 す る こ とは極 め て 希 で あ る.今 回我 々は肋 骨 に原 発 す る骨 肉腫 の1切 除 例 を経 験 し た の で報 告 す る. 症 例 患 者:28歳 男性. 主 訴:右 前胸 部 痛. 既 往 歴:特 に な し. 家族 歴:特 に な し. 現病 歴:生 来健 康.1996年5月 頃 よ り,右 前 胸部 の腫 脹 に気 づ いた.6月 右 前 胸 部 か ら背部 に 至 る痛 み を 自覚 し,腫 瘍 の増 大 傾 向を 認 め た た め近 医 を受 診 し,7月 当 科 に紹 介 とな った. 入 院 時 現 症:身 長175cm,体 重70kg,血 圧 128/60mmHg,脈 拍84回/分,整 で あ った.胸 部 の 理学 所 見 で は右前 胸 部 第4肋 骨 を 中心 に胸 壁 に固 定 す る,7×8cm大 の 弾 性 硬 な腫 瘤 を触 知 した.皮 膚 の 発赤 は な く,背 部 へ 放 散 す る軽 度 の圧 痛 を伴 って い た. 入 院 時 検 査 所 見:血 液 検 査 で は 血 清Ca, ALP及 び,腫 瘍 マ ーカ ー の異 常 は認 め られ な か った. 胸 部X線 側 面 写真(Fig.1)で 心 陰 影 に重 な る 8×9cm大 の 腫 瘍 陰 影 を 認 め た.胸 部CT (Fig.2)で は肋 軟 骨 移 行 部 近 傍 の 右 第4肋 骨 を 中 心 と して,骨 破 壊 像 を伴 う分葉 状 の 径8× 9cm大 の腫 瘍 陰 影 を認 め た.腫 瘍 は胸 腔 内外 へ 突 出 して お り,大 胸筋 及 び,第3,5肋 骨 へ の 浸 潤 が疑 わ れ た.ま た胸 壁 以 外 に病 変 を認 め ず 胸 壁 原発 腫 瘍 と考 え られた. 経 皮腫 瘍針 生 検 で は多 数 の 多核 巨細 胞 を 認 め 巨細胞 腫 様 の所 見 を呈 した(Fig.3). 大 阪 大学 大 学 院 医学 系 研 究 科 機 能制 御 外 科 学 *名古 屋市 立 大 学 第2外 科 原 稿 受 付 1998年12月24日 原 稿 採択 1999年5月19日
治 療 経過:病 理 組 織所 見 か ら は良 性 の骨 巨細 胞 腫 が 考 え られ た が,画 像 上,骨 破 壊像,周 囲 組 織 へ の 浸潤 傾 向が 認 め られ た た め 悪性 腫 瘍 と 診 断 し,1996年7月24日 腫 瘍 切 除 術 を 施 行 し た. 腫 瘍 は9×5×8cm大 で あ り,第4肋 骨 を 中 心 に 胸 腔 内 に 突 出 す る よ う に存 在 し て い た.第 3,5肋 骨 と の境 界 は 不 明 瞭 で あ っ た が,肺 へ の 浸 潤 は 認 め な か っ た.第3,4,5肋 骨,大 胸 筋,小 胸 筋 を 含 め 腫 瘍 辺 縁 よ り3cmの safetymarginを と り,12×11cmの 範 囲 を 切 除 し た.胸 壁 欠 損 部 は マ ー レ ッ ク ス メ ッ シ ュ で 再 建 し,そ の 上 に広 背 筋 弁 を 充 填 し た.摘 出 標 本 をFig.4に 示 し た. 病 理 組 織 所 見 で は(Fig.5),多 核 巨 細 胞 と 紡 錘 形 の 細 胞 を 認 め る 巨 細 胞 腫 様 の 所 見 を 呈 す る 部 分 の 中 に,骨 肉 腫 の 特 徴 で あ る 腫 瘍 細 胞 及 び 不 規 則 な 類 骨 形 成 像 を 呈 す る 部 分 が 散 在 し て お り,骨 肉 腫 と診 断 さ れ た.生 検(Fig.3)で は 前 者 の 部 分 の み が 採 取 さ れ た も の と 考 え られ た. 術 後 は 胸 壁 欠 損 に 伴 う呼 吸 不 全 等 の 合 併 症 も な く経 過 し,術 後3週 目 よ り長 管 骨 骨 肉 腫 に 準 じ た 化 学 療 法 を 行 っ た.3週 間 間 隔 でCDDP て100mg/m2)+ADM(100mg/m2),HD-Fig. 1 Lateral view of chest X-ray film showing a
tumor shadow in the right anterior chest wall.
Fig. 2 Chest CT showing the tumor with the rib destruction in the right anterior chest wall.
Fig. 3 Microphotograph of biopsy specimen (H-E stain).
Fig. 4 Resected tumor specimen.
Fig. 5 Microphotograph of resected tumor (H-E stain).
54 (764) 日呼外 会 誌 13巻6号 (1999年9月) MTX (600mg/kg), IFM (10mg/m2)を 各2 コ ー ス行 い,1997年2月 退 院 し た.術 後3年 が 経 過 し た 現 在,無 再 発 に て 生 存 中 で あ る. 考 案 胸 壁 腫 瘍 は 比 較 的 希 な 疾 患 で あ る が,肋 骨 原 発 の 骨 肉 腫 は き わ め て 希 で あ り,骨 肉 腫 全 体 の 1%前 後1,2)と 言 わ れ て い る.今 回 検 索 し え た 限 りで は 自験 例 を 含 め て40例 の 本 邦 報 告 例 が あ っ た3,4,24-27). 詳 細 の 明 ら か な も の よ りそ の 特 徴 を み る と, 一 般 的 な 骨 肉 腫 が,10歳 代 男 性 に 好 発 す る の に た い し て,肋 骨 原 発 骨 肉 腫 は,平 均36.7歳(4 歳 ∼74歳)と 比 較 的 高 年 齢 で 発 症 し て お り,ま た 男 女 比 は16:21と 女 性 に 多 か っ た(Table 1).Burtら は2)胸 壁 原 発 の 骨 肉 腫 の 内30%に, 悪 性 リ ン パ 腫 に 対 す る 胸 部 へ の 放 射 線 治 療 の 既 往 を 認 め た と し て い る が,本 邦 報 告 例 で は 放 射 線 治 療 の 既 往 の あ る も の は1例 の み26)で あ り, そ の 他 に 特 定 の 疾 患 と の 関 連 を 示 唆 す る も の も な か っ た. 発 見 時 の 主 訴 と し て は 自験 例 と 同 様 に 柊 痛, 腫 瘤 触 知 が 多 い が,無 症 状 に 経 過 し,胸 部X線 に よ っ て 偶 然 に 発 見 さ れ る症 例 も あ る蜀. 診 断 と し て は,長 管 骨 発 生 例 で は 単 純X線 に よ り診 断 さ れ る も の が 多 い が,肋 骨 発 生 の 報 告 例 で は単 純X線 に よ り発見 され る こ とは あ るが, 自験 例 と 同様 に 質 的 な診 断 は 困 難 な こ とが 多 い6).胸部CTに よ り内部 不 均 一 な腫 瘤 形 成,腫 瘤 内 の硬化 像,骨 破 壊 像,周 囲組 織 へ の浸 潤 像 な どが 認 め られ て い る6).その他,骨 シ ンチ グ ラ ムで の 病 巣部 へ の異 常 集積,血 管 造影 に お け る 血 管 増 生像 な どが 特 徴 とな る乳8). 病 理 組織 学 的 所 見 と して は,骨 肉腫 は多 彩 な 組 織 像 を呈 す るが,腫 瘍 細 胞 が 直接 に骨 また は 類 骨 を形 成 して い る こ とが診 断 の決 め手 とな る. 自験 例 で は大 部 分 で 巨細 胞 腫 様 の所 見 が 認 め ら れ,そ の 中 に骨 肉 腫 の所 見 を呈 す る部 分 が 散 在 して お り,術 前 に行 った生 検 で は前 者 の部 分 の み が採 取 され た た め,術 前 診 断 が 困難 で あ った と考 え られた. 治療 は症 例 自体 が希 で あ るた め一 定 の もの は ない が,基 本 的 に は長 管 骨 原 発 の骨 肉腫 に対 す る治療 に準 じて 行 わ れ て い る.長 管 骨 で は腫 瘍 の広 範 切 除 と化 学療 法 の併 用 が原 則 とな って い る9,10). 外 科 的 切 除 に 関 して は,日 本整 形 外 科学 会 の 骨 ・軟 部 肉腫 切 除 縁 評価 法10)が基 準 とな る.腫 瘍 の反 応 層 以遠 で切 除 され た もの を広範 切 除 と し,胸 膜 等 の薄 いbarrierは2cmのmarginに 該 当す る と して い る.反 応 層 との間 に正常 組 織 を含 む もの を 治癒 的 切 除 と定 め て い る.腫 瘍 の
Table 1 Charactaristics of primary osteosarcoma of the ribs. 40 cases from Japanese literature (1956-98).
胸 膜 へ の 進展 が疑 わ れ た場 合 は,治 癒 的 切 除 を 得 るた め に は,隣 接 臓 器 の合 併 切 除 も考 慮 す る 必要 が あ る と考 え られ る.自 験 例 で は腫 瘍 の臓 側 胸 膜 へ の進 展 を考 え,近 接 す る中葉 の術 中 迅 速 病 理 診 断 を行 った が,腫 瘍 の浸 潤 は認 め られ な か った.ま た,切 除 部胸 壁 の欠 損部 は直 接 閉 鎖 が 困難 な症 例 で は人 工補 填 材 料 や筋 弁 を用 い た補 填 が 行 わ れ て い る11-14).自験 例 で は胸 壁 の 欠損 部 を マ ー レ ック ス メ ッシ ュ及 び筋 弁 に よ り 修 復 を行 い,術 後 胸 壁 の動 揺 等 の合 併症 な く経 過 した. 1970年 代 は5生 存 率 で20%程 度 と不 良 で あ っ た 骨 肉腫 の予後 が,CDDP,大 量MTX等 の化 学療 法 の導 入 以後,5生 存 率 で60%程 度 と著 明 に改善 され た こ とか ら,長 管 骨 骨 肉腫 に お い て は化 学 療 法 の 併用 が必 修 と考 え られ る よ うに な った15-18,22).術後化 学 療 法 の み で な く,動 注療 法 な どの局 所 療 法19,20)など も含 め た術 前 化学 療 法 が 行 わ れ て い る.術 前 化 学療 法 は切 除 標 本 に よ る効果 判 定 を行 うこ とが 可 能 で あ り,術 後 化 学 療 法 の薬 剤 選 択 の一 助 に も な る こ とか ら も,有 用 性 が認 め られ て い る16,17,21,22,29,30). 肋 骨原 発 骨 肉腫 に お いて も,本 邦 報 告例 で は 1980年 以前 は,比 較 的 早 期 に 転移,局 所 再発 し て い る ものが 多 く不 良 で あ った が,近 年 の報 告 例 で は化 学 療 法 の併 用 に よ り比較 的良 好 な予後 が 得 られ て い る も の も あ る瓜24-27).積極 的 な化 学 療 法 が行 わ れ て い るも の もみ られ るが28),術 前 後 に化学 療 法 の 行 われ て い る もの は 少 な い23). 自験 例 で は術 前 に骨 肉腫 の確 定 診 断 が得 られ ず, 術 前 化 学療 法 は施 行 し得 なか った.術 前 に確 定 診 断 を得 られ れ ば,肋 骨 原 発 骨 肉 腫 に お い て も, 長 管 骨 骨 肉腫 に な ら って,術 前 化 学療 法 も含 め た積 極 的 な化 学 療 法29,30)を併 用 す る こ とが 治 療 効 果 の向上 につ なが るの で は ない か と考 え られ た. ま と め 腫 瘍 広 範切 除及 び術 後化 学 療 法 を 施 行 した 肋 骨 原 発 骨 肉腫 の1例 を経験 した ので,本 邦 報 告 例 につ い ての考 察 を加 えて報 告 した. 文 献
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A case of primary osteosarcoma of the rib
Yoshihisa Kadota, Meinoshin Okumura, Hyung Eng Yoon, Masato Minami Shinichi Takeda, Shinichiro Miyoshi, Yoshitaka Fujii* , Hikaru Matsuda
Division of general thoratic surgery, department of surgery, Osaka university graduate school of medicine
*
Second depertoment of surgery Nagoya city university medical school
Osteosarcomas commonly originate in the extremities. We report a rare case of primary osteosarcoma of the rib. A 28-year-old male patient with a right anterior chest wall mass and pain was referred to our hospital. The tumor was hard, 7 •~ 8 cm in size and fixed on the 3rd to 5th rib. Radiological examination revealed the inhomogenous tumor in the chest wall, which infiltrated the surrounding tissues and destroyed the ribs. The tumor was completely resected with a sufficient surgical margin. The tumor was histologically diagnosed as osteosarcoma. Adjuvant chemotherapy (CDDP + ADM, IFM, HD-MTX) was performed. The patient is alive without recurrence 3 years after the operation.