鑑定理論(論文問題)
問題 1 (50 点)
不動産の価格に関する諸原則について、次の各問に答えなさい。
(1) 不動産の価格に関する諸原則をすべて挙げなさい(ただし、以下に問う「収益逓増及び 逓減の原則」を除く。)。
(2) 収益逓増及び逓減の原則に関し、次の各問に答えなさい。
① 収益逓増及び逓減の原則とは、どのようなものかを説明しなさい。また、どのような場 合に収益逓増の原則が作用していると言え、収益逓減の原則が作用していると言えるかを 説明しなさい。
② 追加投資の効率はどの局面で最大となると考えられるか。また、それはどのような状態 にあることを意味するかを説明しなさい。
③ 不動産鑑定士は、この原則を活用して何を行うべきかを説明しなさい。
(3) 不動産市場において、実際に収益逓減の原則が作用していると捉えられる具体的な例を 2つ述べなさい。
<解答例>
一 小問(1)について
不動産の価格は、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要に影響を 与える諸要因の相互作用によって形成されるが、その形成の過程を考察するとき、そこに基 本的な法則性を認めることができる。不動産の鑑定評価は、その不動産の価格の形成過程を 追究し、分析することを本質とするものであるから、不動産の経済価値に関する適切な最終 判断に到達するためには、鑑定評価に必要な指針としてこれらの法則性を認識し、かつ、こ れらを具体的に現した「需要と供給の原則」「変動の原則」「代替の原則」「最有効使用の 原則」「均衡の原則」「収益配分の原則」「寄与の原則」「適合の原則」「競争の原則」
「予測の原則」等を活用すべきである。
これらの原則は、一般の経済法則に基礎を置くものであるが、鑑定評価の立場からこれを 認識し、表現したものである。
なお、これらの原則は、孤立しているものではなく、直接的又は間接的に相互に関連して いるものであることに留意しなければならない。
二 小問(2)について 1 ①について
(1) 「収益逓増及び逓減の原則」とは、「ある単位投資額を継続的に増加させると、これ に伴って総収益は増加する。しかし、増加させる単位投資額に対応する収益は、ある点 までは増加するが、その後は減少する。この原則は、不動産に対する追加投資の場合に ついても同様である。」という原則である。なお、不動産のある部分に対する投資とそ の不動産の全体の収益との関連に関する「寄与の原則」は、「収益逓増及び逓減の原 則」を不動産のある部分に適用したものということができる。
(2) 生産は土地、資本、労働及び経営(組織)の生産要素の結合によって行われるもので あるが、ある生産の用に供されている生産要素のうち、一部の生産要素に対する投資額 を継続的に増加させ、その他の要素に対する投資額は一定とした場合に、その増加させ た単位投資額に対応する収益(限界収益)が次第に増加するときには収益逓増の原則が、
その収益が次第に減少するときには収益逓減の原則が作用していると言える。
2 ②について
(1) 「収益逓増及び逓減の原則」が作用する場合には、追加投資の効率は、追加した単位 投資額に対する収益が逓増から逓減に転換する局面で最大となると考えられる。
(2) 不動産の価格は、不動産に帰属する収益を還元したものであるので、価格は収益が最 大となる点において最高となるものである。この収益が最大となる逓増から逓減に転換 する局面は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む最有効使用の状 態にあることを意味する。このように、「収益逓増及び逓減の原則」は「最有効使用の 原則」と密接に関連しているものであり、また、「収益逓増及び逓減の原則」によって、
不動産の収益が最大となるような各部分に対する投資の割合を把握することができるの で、各部分の組合せが均衡の状態に接近することとなり、「均衡の原則」とも関連を有 しているものである。
3 ③について
不動産鑑定士は、個別分析において対象不動産の最有効使用を判定するに当たっては、
「収益逓増及び逓減の原則」を活用して、対象不動産について種々の使用方法を想定し、
それぞれの使用方法を実現するために必要な費用、その使用方法によって得られる収入、
これに伴う必要諸経費等を試算することによって、不動産に帰属する収益が最大となる使 用方法の把握を行うべきである。
三 小問(3)について
不動産市場において、実際に収益逓減の原則が作用していると捉えられる具体例としては、
「土地について追加投資をして許容される容積率限度一杯を使用した事務所ビルを建設した が、テナントが十分に埋まらず、1 階当たりの収益が逓減しているような場合」や「店舗につ いて追加投資をして駐車場を増設したが、稼働率が低下し、1 台当たりの収益が逓減している ような場合」が挙げられる。
前者においては、事務所と敷地の規模の対応関係について、後者においては、店舗と駐車 場の台数の対応関係について、不均衡の状態にあり(「均衡の原則」との関連)、いずれも 複合不動産として最有効使用の状態にないものといえる(「最有効使用の原則」との関連)。
以 上
問題 2 (50 点)
大規模住宅団地(※)内に存する不動産について鑑定評価を行う場合における、次の各問に 答えなさい。
(※)約30年前に造成・分譲が開始された住宅団地で、合計で約1,000戸の戸建住宅が区画整然 と建ち並んでいる。最寄り駅から団地の中心まで徒歩で約15分の距離にある。
(1) 対象不動産が新築後25年を経過した木造2階建ての戸建住宅(自用の建物及びその敷地)
である場合において、現状の状態を所与として鑑定評価を行う際の、複合不動産としての個 別分析について説明しなさい。
(2) 対象不動産が規模3,000㎡の土地(団地内に唯一残された空地)である場合において、価格 形成要因を分析した結果、最有効使用は、戸建住宅の敷地として分割利用することと判定し た。団地内は、戸建住宅が連たんしており、用途的地域として捉えた場合の標準的使用は画 地規模が180㎡程度の戸建住宅の敷地である。この場合に、対象不動産の存する同一需給圏の 範囲の設定方法及び取引事例選択の際の留意点について述べなさい。
(3) 鑑定評価の手順において、近隣地域の地域要因とその周辺の他の地域の地域要因との比較 検討が有用となる場面を2つ挙げ、それぞれについて説明しなさい。
<解答例>
一 小問(1)について
1 自用の建物及びその敷地とは、建物所有者とその敷地の所有者とが同一人であり、その所 有者による使用収益を制約する権利の付着していない場合における当該建物及びその敷地を いう。
2 不動産の価格は、その不動産の最有効使用を前提として把握される価格を標準として形成 されるものであるから、不動産の鑑定評価に当たっては、対象不動産の最有効使用を判定す る必要がある。
個別分析とは、対象不動産の個別的要因が対象不動産の利用形態と価格形成についてどの ような影響力を持っているかを分析してその最有効使用を判定することをいう。
3 複合不動産(建物及びその敷地)は、既に建物が存することによりその制約下にあるため、
最有効使用の判定に当たっては、現実の建物が経済的にみて合理的であるか否かに主として 着目して、取壊し等の要否を検討する必要がある。すなわち、追加投資を行って建物の取壊 しや用途変更・増改築・修繕等を行うことが物理的、法的に実現可能であり、かつ、費用対 効果の観点からみて合理的であると認められる場合があることを踏まえ、現実の建物の利用 を継続する場合の経済価値と当該建物の取壊しや用途変更・増改築・修繕等を行う場合のそ れらに要する費用等を適切に勘案した経済価値を十分に比較考量し、最も高い経済価値を実 現できる使用方法が最有効使用となる。
対象不動産は、新築後 25 年を経過した木造 2 階建ての戸建住宅であり、取引市場において は新築後 25 年経過した戸建住宅は市場価値が一律にゼロとされる傾向があるが、安易に取壊 し最有効使用と判断するのではなく、修繕・設備更新による価値の回復・向上が認められる 場合には、それを踏まえて複合不動産としての最有効使用の判定を行うべきである。
二 小問(2)について
1 地域分析とは、その対象不動産がどのような地域に存するか、その地域はどのような特性 を有するか、また、対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、及びそれらの特性 はその地域内の不動産の利用形態と価格形成について全般的にどのような影響力を持ってい るかを分析し、判定することをいう。
地域分析に当たって特に重要な地域は、用途的観点から区分される地域(用途的地域)、す なわち近隣地域及びその類似地域と、近隣地域及びこれと相関関係にある類似地域を含むよ り広域的な地域、すなわち同一需給圏である。
同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互 に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。
同一需給圏は、不動産の種類、性格及び規模に応じた需要者の選好性によってその地域的 範囲を異にするものであるから、その種類、性格及び規模に応じて需要者の選好性を的確に 把握した上で適切に判定する必要がある。
本件は、対象不動産の最有効使用(戸建住宅の敷地として分割利用すること)が標準的使 用(画地規模が 180 ㎡程度の戸建住宅の敷地)と異なる場合に該当し、近隣地域の制約の程 度が著しく小さいと認められることから、同一需給圏の範囲の設定に当たっては、近隣地域
の特性の類似性よりも、個々の不動産の用途、規模、品等等の類似性に着目した方が有用と なる場合が多い。したがって、このような場合には、近隣地域の外かつ同一需給圏内の類似 地域の外に存する不動産であっても、同一需給圏内に存し対象不動産とその用途、規模、品 等等の類似性に基づいて、対象不動産との間に代替、競争等の関係が成立する場合があるこ とに留意し、特に本件対象不動産は規模 3,000 ㎡の土地であることから、典型的な需要者と 考えられるデベロッパーの選好性を把握し、規模等の類似性に基づいて代替競争関係が成立 する不動産の存する圏域を同一需給圏の範囲と設定すべきである。
2 取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係 る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的 要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格(比 準価格)を求める手法である。
取引事例は、原則として、近隣地域の特性との類似性に基づき、近隣地域又は同一需給圏 内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとする。
しかし、本件のように対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合においては、前 述したように近隣地域の制約の程度が著しく小さいと認められることから、取引事例の選択 に当たっては、地域というものにとらわれず、同一需給圏内に存し対象不動産と代替、競争 等の関係が成立していると認められる不動産、すなわち同一需給圏内の代替競争不動産に係 る取引事例を選択すべきである。
この場合において選択する同一需給圏内の代替競争不動産に係る取引事例は、いわゆる事 例選択 4 要件のほか、特に(ア)対象不動産との間に規模や最寄り駅からの距離等からみた 類似性が明確に認められること (イ)対象不動産の価格形成に関して直接に影響を与えてい ることが明確に認められること、という要件を備えなければならない。
三 小問(3)について
1 鑑定評価の手順において、近隣地域の地域要因とその周辺の他の地域の地域要因との比較 検討が有用となる場面としては、「近隣地域の地域分析」「鑑定評価手法の適用における取引 事例等の選択」の場面を挙げることができる。
2 対象不動産の存する近隣地域の明確化及びその近隣地域の特性の把握に当たっては、地域 の構成分子である不動産について、最終的に地域要因を共通にする地域を抽出することとな るため、近隣地域となる地域及びその周辺の他の地域を併せて広域的に分析することが必要 である。また、近隣地域の相対的位置の把握に当たっては、近隣地域の地域要因とその周辺 の他の地域の地域要因との比較検討も有用である。
3 鑑定評価手法の適用に当たって必要とされる取引事例等は、近隣地域又は同一需給圏内の 類似地域に存する不動産について収集した取引事例等の大部分が特殊な事情による影響を著 しく受けていることその他の特別な事情により当該取引事例等のみによっては鑑定評価を適 切に行うことができないと認められる必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存 する不動産に係るもののうちから選択するものとする。この場合、近隣地域の地域要因とそ の周辺の他の地域の地域要因との比較検討が有用となる。
以 上
問題 3 (50 点)
収益還元法に関する次の各問に答えなさい。
(1) 貸家及びその敷地の鑑定評価における収益還元法の意義について述べるとともに、実際実 質賃料とはどのようなものか説明しなさい。
(2) 価格時点における実際実質賃料が、市場賃料に対し割安である場合の貸家及びその敷地の 鑑定評価において、直接還元法を適用するに当たり、次の①及び②の各問に答えなさい
① 純収益の査定に当たっての留意点について具体的に述べなさい。
② 還元利回りの査定に当たっての留意点について具体的に述べなさい。
<解答例>
一 小問(1)について
1 収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和 を求めることにより対象不動産の試算価格(収益価格)を求める手法である。
2 貸家及びその敷地とは、建物所有者とその敷地の所有者とが同一人であるが、建物が賃貸 借に供されている場合における当該建物及びその敷地をいい、建物が賃貸借に供されている ので、必ずしも需要者が直ちに使用収益することができるというものではない。
貸家及びその敷地の鑑定評価額は、実際実質賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求 めることにより得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するも のとする。
貸家及びその敷地は、借家人が居付きの状態にある建物及びその敷地であるため、需要者 は主に賃料収入を重視するものである。したがって、貸家及びその敷地の鑑定評価額は収益 還元法による実際実質賃料に基づく収益価格を標準として決定するものとされている。
3 一時金の授受に基づく経済的利益との関連等において、各支払時期に実際に支払われる実 際支払賃料は、単なる名目的な賃料にすぎないものであり、不動産の真の用益の対価を示し ていると認められない場合がある。したがって、貸家及びその敷地の収益価格の試算に当た っては、契約に当たって授受された一時金の運用益等をも含めて、貸主に実際に支払われて いる不動産に係るすべての経済的対価としての実際実質賃料を把握しなければならない。
貸家及びその敷地の収益価格を試算する際の実際実質賃料は、売主が既に受領した一時金 のうち売買等に当たって買主に承継されない部分がある場合には、当該部分の運用益及び償 却額を含まないものとされている。通常、買主は、売主と賃借人との間で授受された一時金 の返済債務を承継するが、賃借人への返済を要しない権利金等や特約等で返済債務を引継が ない保証金等については、売買等に当たって現預金等の授受がなされておらず、買主は当該 部分の運用益及び償却額を得られないからである。
そのため、貸家及びその敷地の鑑定評価に当たっては、「契約に当たって授受された一時金 に関する契約条件」を勘案するとともに、預り金的性格を有する一時金が授受された場合に は、売買に際しての当該一時金の返済債務の承継の有無について明確にしておく必要がある。
二 小問(2)について
1 直接還元法とは、一期間の純収益を還元利回りによって還元して収益価格を求める方法を いう。
不動産の価格は、通常、過去と将来とにわたる長期的な考慮の下に形成されるが、貸家及 びその敷地の価格は、前述したように賃料収入を中心として形成されるものであるので、将 来における賃料の変化は貸家及びその敷地の価格を左右する。
したがって、貸家及びその敷地の鑑定評価に当たっては、近隣地域及び同一需給圏内の類 似地域等に存する代替可能な他の不動産の賃料水準及びその動向や対象不動産に係る契約内 容等を分析し、本件のように価格時点における実際実質賃料が市場賃料に対し割安である場 合には、「将来における賃料の増額改定の実現性とその程度」を予測の原則を活用して考慮し なければならない。
2 ①について
(1) 対象不動産の純収益は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるも のとする。
(2) 直接還元法における純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と将来にお ける賃料増額改定を考慮した標準化された純収益を採用する場合があることに留意しな ければならない。
純収益の算定に当たっては、対象不動産からの総収益及びこれに係る総費用を直接的に 把握し、それぞれの項目の細部について、過去の推移及び将来における賃料増額改定の実 現性とその程度等の将来の動向を慎重に分析して、対象不動産の純収益を適切に求めるべ きである。この場合において将来における賃料増額改定の見通しについては、特に予測の 限界を見極めなければならない。
3 ②について
(1) 還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間 の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響 を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
(2) 還元利回りは、還元対象となる純収益の変動予測を含むものであることから、将来にお ける賃料増額改定の予測を的確に行い、例えば、割引率をもとに対象不動産の純収益の変 動率を考慮して求める等して、還元利回りを引き下げる方向に反映させる必要がある。
なお、還元対象となる一期間の純収益として、将来における賃料増額改定を考慮したあ る一定期間の標準化されたものを採用する場合には、還元利回りもそれに対応したもの
(純収益の標準化により考慮された変動予測を含まない還元利回り)を採用することが必 要である。
以 上
問題 4 (50 点)
古くからの市街地にある新築後40年を経た自社利用中のオフィスビル(類型は自用の建物及び その敷地)の鑑定評価の依頼を受け、担当の不動産鑑定士は、当該建物を取り壊して、更地化し、
賃貸用の店舗ビルを建築することが最有効使用と判断した。次の各問に答えなさい。
(1) 本件自用の建物及びその敷地の鑑定評価における、鑑定評価方式の適用と試算価格の調整に ついて述べなさい。
(2) 本件不動産について、建付地の価格を求める鑑定評価の依頼があった場合に建付地の鑑定評 価は可能か。不動産鑑定評価基準に基づき述べなさい。
<解答例>
一 小問(1)について
1 自用の建物及びその敷地とは、建物所有者とその敷地の所有者とが同一人であり、その所有 者による使用収益を制約する権利の付着していない場合における当該建物及びその敷地をいう。
2 建物を取り壊すことが最有効使用と認められる場合における自用の建物及びその敷地の鑑定 評価額は、建物の解体による発生材料の価格から取壊し、除去、運搬等に必要な経費を控除し た額を、当該敷地の最有効使用に基づく価格(更地としての価格)に加減して決定するものと する。
3 鑑定評価方式の適用に当たっては、鑑定評価方式を当該案件に即して適切に適用すべきであ る。この場合、原則として、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式を併用すべきであり、
対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により三方式の併用が困難な場合において も、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。
本件は、建物を取り壊すことが最有効使用と認められる場合における自用の建物及びその敷 地の鑑定評価であるので、更地としての価格を求める必要があるが、対象不動産は、古くから の市街地(既成市街地)に存するため土地の再調達原価が把握できず、原価法の適用は困難で ある。
したがって、更地としての価格は、原則として更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事 例に基づく取引事例比較法による比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて求め るものとする。なお、両手法の適用に当たっては、原価法の考え方をできるだけ参酌するよう に努めるべきである。
4 試算価格の調整とは、鑑定評価の複数の手法により求められた各試算価格の再吟味及び各試 算価格が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定 に導く作業をいう。
試算価格の調整に当たっては、対象不動産の価格形成を論理的かつ実証的に説明できるよう にすることが重要である。このため、鑑定評価の手順の各段階について、客観的、批判的に再 吟味し、その結果を踏まえた各試算価格が有する説得力の違いを適切に反映することによりこ れを行うものとする。
(1) 各試算価格の再吟味においては、特に① 資料の選択、検討及び活用の適否 ② 不動産の 価格に関する諸原則の当該案件に即応した活用の適否 ③ 一般的要因の分析並びに地域分 析及び個別分析の適否 ④ 各手法の適用において行った各種補正、修正等に係る判断の適否
⑤ 各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性 ⑥ 単価と総額との関連の適否に留 意すべきである。
本件更地としての価格を求めるに当たっての再吟味においては、特に、取引事例比較法に おいて対象不動産と類似する賃貸用店舗ビル用地の取引事例を選択しているか(資料の選択、
検討及び活用の適否)、土地残余法における想定建物のボリュームチェックの際に「収益逓増 及び逓減の原則」を適切に活用しているか(不動産の価格に関する諸原則の当該案件に即応 した活用の適否)、土地残余法における想定建物の間取り等の判定の際に、エンドユーザーの
賃貸市場を適切に分析しているか(一般的要因の分析並びに地域分析及び個別分析の適否)
等について検討しなければならない。
(2) 各試算価格が有する説得力に係る判断においては、特に① 対象不動産に係る地域分析及 び個別分析の結果と各手法との適合性 ② 各手法の適用において採用した資料の特性及び 限界からくる相対的信頼性に留意すべきである。
上記留意すべき事項のうち「対象不動産に係る地域分析及び個別分析の結果と各手法との 適合性」は、鑑定評価方式の適用の作業は、市場における現実の価格形成過程に対応してい なければならないことから、地域分析及び個別分析における市場分析の結果を試算価格の説 得力の判断の指針として活用すべきことを要請するものである。すなわち、試算価格の説得 力の判断は、試算価格が現実の市場の需給動向や市場参加者の行動をどの程度反映している かが決め手となるものである。
賃貸用店舗ビルを建築することが最有効使用と判断される本件更地の典型的な需要者は、
賃貸用店舗ビルの建築による賃料収入の獲得を目的とするファンド等の機関投資家が考えら れる。当該需要者は、テナントからの賃料収入を重視するものと考えられ、更地としての価 格を求めるに当たっては、店舗ビル賃貸による収益性を反映した土地残余法による収益価格 がより説得力が高いものと思料される。
二 小問(2)について
1 建付地とは、建物等の用に供されている敷地で建物等及びその敷地が同一の所有者に属し、
かつ、当該所有者により使用され、その敷地の使用収益を制約する権利の付着していない宅地 をいい、宅地地域内に存する自用の建物及びその敷地等の敷地部分であるといえる。
建付地の鑑定評価額は、原則として更地としての鑑定評価額を限度とし、配分法に基づく比 準価格及び土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする。
2 本件不動産の敷地部分は、形式的には自用の建物及びその敷地の敷地部分に該当するが、建 付地は、建物等と結合して有機的にその効用を発揮しているため、建物等と密接な関連を持つ ものであり、したがって、建付地の鑑定評価は、建物等と一体として継続使用することが合理 的(最有効使用)である場合において、その敷地について部分鑑定評価をするものである。
そのため、建物を取り壊すことが最有効使用と判断される本件不動産については、建付地の 鑑定評価は不可能であり、再度依頼者に確認の上、小問(1)のように自用の建物及びその敷地 の鑑定評価として建物等と一体として鑑定評価の対象とすべきである。
以 上