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ラマン分光法による DLC 膜中の水素濃度分析

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Academic year: 2021

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はじめに

ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜はト ライボロジー特性に優れるだけでなく、高い ガスバリア性や生体適合性を有しています。

このことから、工具や金型、機械部品などの 他、食品容器や医療用器具など幅広い分野で 実用化研究が進められています。しかし、

DLC膜は作製方法や成膜条件によって膜質が 大きく変化するため、用途に応じて「作り分 け」をしなければ優れた特性を生かせない場 合がしばしばあります。中でもDLC膜の諸特 性に大きな影響を及ぼす水素濃度の把握は

「作り分け」の際に必要不可欠となります。

しかし、現状、水素濃度を分析する手段とし ては弾性反跳散乱分析(ERDA)法のような特 殊な分析法しかありません。ここでは、非破 壊分析が可能で、DLC膜の構造解析に広く用 いられているラマン分光法による水素濃度定 性分析の有効性を、グロー放電発光分光法 (GDS)による分析結果と比較することにより 検討した結果を紹介します1)

ラマン分光法による分析

ラマン分光法は物質に照射した光の散乱光 (ラマン散乱光)を分光測定する分析法で、物 質の組成や構造を解析できます。図1にDLC 膜のラマンスペクトルの一例を示します。典 型的なDLC膜のラマンスペクトルは1500cm-1 付近のGバンドと1300cm-1付近のDバンドで 構成されます。これらの強度比からグラファ イトクラスター化度や間接的にsp3/sp2結合成 分比を求めることができますが、水素濃度が 高くなるとバックグラウンド(蛍光成分)強度 が大きくなることも知られています。

そこで、図1に示すようにGバンドのピー ク位置におけるラマン散乱光強度をS、蛍光 成分強度をNとしたとき、水素濃度定性分析

値になり得るパラメーターとしてlog(N/S)お よびN/(N+S)を定義しました。

GDSによる分析

GDSはグロー放電プラズマを利用する分析 法で、連続的に試料表面をスパッタリングし てスパッタ原子の発光を分光測定することに より、深さ方向の組成分布を迅速に測定でき ます。水素の分析も可能で、その発光強度は 濃度情報を反映しています。ただ、発光強度 から濃度に依存した定性分析値を求めるには、

まず、装置特有の発光強度の経時変化を制御 する必要があります。種々検討した結果、水 素の発光強度は分析室内の残留水素などの影 響を強く受けるため、分析の繰返し間隔や分 析室の大気開放時間などをそれぞれ一定にす る必要があることがわかりました。

図2にこのような一定条件下でSKD11基板 上に形成したCr/C中間層を含むDLC膜につい て、水素などの含有元素を分析した結果の一 例を示します。なお、Ix/ITは元素xの発光強 度の全発光強度に対する比を表します。図2 のようにGDSでは通常スパッタ時間に対する 発光強度の変化が測定されます。発光強度か ら濃度に依存した定性分析値を算出するには、

図1 DLC膜のラマンスペクトルの一例 キーワード:DLC、水素、定性分析、ラマン分光法、グロー放電発光分光法

ラマン分光法による DLC 膜中の水素濃度分析

500 1000

1500 2000

S

N

ラマンシフト, SR/cm-1

任意強度

λ=632.8nm

Gバンド Dバンド

No.08003

(2)

さらに、分析時のスパッタ率を求めて発光強 度を分析深さに対して規格化する必要があり ます。図2には同一試料におけるスパッタ時 間に対する分析痕の深さも示しました。分析 痕の深さは約110sまではほぼ直線的に増加し、

その後スパッタ率が増大しています。このス パッタ率が変化する時間はCの発光強度が最 大となる時間に対応し、その深さはDLC層の 厚さと一致しています。したがって、スパッ タ率はCの発光強度が最大となる時間とDLC 層の厚さから算出できることがわかります。

ラマン分光法およびGDSにより得られた 水素濃度定性分析値の比較

図3にUBMスパッタ法により各種成膜条件 で形成したDLC膜のラマン分光法およびGDS により得られた水素濃度定性分析値を比較し

た結果を示します。ラマン分光法による分析 値は我々が定義したパラメーターlog(N/S)お よびN/(N+S)であり、GDSによる分析値は膜 表 面 か ら 深 さ600nmま で の 水 素 の 発 光 強 度 IH/IT 600nmです。log(N/S)およびN/(N+S)ともに それぞれ約1.1以下および約0.9以下の範囲で

IH/IT 600nmとの間に明瞭な直線関係が認められ

ます。IH/IT 600nmが水素濃度を反映した値であ

ることを考慮すると、ラマン分光法により得 られるlog(N/S)またはN/(N+S)によりDLC膜中 の水素濃度を定性的に推定できることがわか ります。ただ、IH/IT 600nmが高い領域では直線 関係から外れる試料が存在します。log(N/S) およびN/(N+S)はともに蛍光成分強度に着目 した値であり、蛍光がC-H結合に由来するこ とを考慮すると、これらの試料には非結合水 素が多く存在している可能性があります。

おわりに

DLC膜のラマンスペクトルから水素濃度を 定性的に推定できるパラメーターを見出しま した。今後はERDA法による水素の定量分析 を実施して、ラマン分光法による水素濃度定 量測定のための検量線を作成する予定です。

文 献

1) 三浦健一, 中村守正: 表面技術, 59(2008) p.203.

図2 GDSによる分析結果の一例

図3 ラマン分光法およびGDSにより得られた水素濃度定性分析値の比較

0 500 1000 1500 2000 2500

-1.0 -0.5 0 0.5 1.0 1.5

IH/IT 600nm

log(N/S)

変化させた成膜条件 被覆温度 基板バイアス電圧 メタンガス混合比 全ガス圧力 被覆時間 基板回転数 Cr/C傾斜層全厚比 r=0.975

(a)

0 500 1000 1500 2000 2500

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

IH/IT 600nm

N/(N+S)

変化させた成膜条件 被覆温度基板バイアス電圧 メタンガス混合比 全ガス圧力 被覆時間 基板回転数 Cr/C傾斜層全厚比 r=0.974

(b)

0 50 100 150 200

0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

H C

Fe

Cr Ix/IT

0 50 100 150 2000

1.0 2.0 3.0 4.0

スパッタ時間, tS/s

DLC層の厚さ: 0.98µm IC/IT のピーク時間

分析痕の深さ, D/µm

分析痕の 深さ

作成者 金属表面処理系 三浦健一 Phone: 0725-51-2651 発行日 2008 年 7 月 15 日

参照

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