教員養成教育推進室年報 第6号
カエルを通じた幼児と児童への環境教育の取り組み
Practice of environmental education for young children using frogs
共通教育推進室非常勤講師 戸金 大
1.はじめに
2018 年に改訂された環境省の絶滅のおそれのある野生生物の種(環境省、2018)のリストによると、
22 種のカエルが何らかの絶滅の危機にあることが示され、この値は日本のカエルの約3分の1である。
昭和40年代までは、子供たちがカエルを捕まえ、オタマジャクシをすくって遊ぶのは普通のことであっ た(福山・前田、2011)。田んぼはカエルの生息地として一般的に挙げられ、日本人が慣れ親しんできた 自然環境である。しかし、現在では田んぼのカエルは減少が進み、東京都では外来種や多摩地域に生息す る種を除く全てのカエルが、絶滅の恐れのある生物種として、東京都レッドデータブック(東京都、
2013)に記載されている。そのため、カエルは身近な生物であったにも関わらず、都市部で生活する子供 たちでは、野外で観察することや、手に取る機会はほとんど無い。自然体験学習を含む環境教育は生涯学 習の一面を持つため、大学は重要な実践活動の場であり(阿部他、2009)、幼児・児童期の子供へ自然に 親しむ経験を推進させることが重要である。本研究では、大学主催の夏休み科学体験教室のプログラムの 1つとして、カエルを用いた体験学習プログラムを実施し、子供たちへ環境教育とアンケートによる意識 調査を行った結果を報告する。
2.方法
(1)夏休み科学体験教室の実施
2013年と2014年、2015年に、明星大学夏休み科学体験教室のプログラムの1つとして、「かえるサイエ ンス教室~かえる博士になろう~」を行った。プログラムは幼児(未就学児)と児童(小学生)を対象と し、2つの目的を設定した。1つ目は、大学周辺に生息しているカエルを通して、種レベル(カエル)か ら生態系(水田生態系)への繋がりを考えることであり、2つ目は、実際のカエルにふれあうことで感触 を知るとともに、身体の構造を細部まで観察し、特徴を理解することである。プログラムは、①展示:ポ スター、映像+鳴き声、②さわる展示:カエル種説明、ふれあい、観察、③クイズ:かえる博士認定試験 の3つで構成した。図1にプログラム実施風景の写真を示す。なお、2015 年では人に触られることによ るカエルへのストレスの配慮から、②ふれあいは、事前の整理券配布によって、参加人数を制限して行っ た。
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(2)アンケートの実施
プログラムの効果測定のためにアンケート(図2)を実施した。アンケートは属性の選択以外は①から
④までの自由記述とし、対象者が文字の書けない際には保護者が代筆した。記述に対しては、林(2002)
および松村・三浦(2014)に基づき、形態素解析を用いて、動詞、名詞、形容詞であるキーワードの頻度 を調べた。
図1.プログラム実施風景
図2.参加者に実施したアンケート
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3.結果と考察
(1)プログラム参加者
図3に2013年から2015年までの参加者を属性別に示す。なお、保護者の人数はアンケートに書き込め ない小学生未満の子供の参加数である。夏休み科学体験教室全体の参加者は2013年は1197名、2014年は 1239名、2015年は1293名であり、かえるサイエンス教室には3年間で1114名が参加した。参加者数に年 変動は認められるが、夏休み科学体験教室参加者全体の約3割が参加したことは、カエルという親しみや すいプログラムであったためと考えられる。幼児と児童の参加割合は 2013 年と 2014 年はほぼ1:1で あった。2015 年の幼児の参加割合が児童の2分の1になってしまったことは、さわる展示を人数制限し たためと考えられる。さわる展示は、実際にカエルに触れ、感触を確認することや、じっくりと観察する ことができるため、最も人気があるプログラムであった。しかし、2013 年から続くこの展示では、カエ ルが衰弱してしまう問題点があった。ヒトの体温はカエルにとっては熱すぎるため、ヒトの手で直接触ら れることで、皮膚に強い刺激を受け、ストレスを生じるためである。こうした理由から2015年では、さ わる展示の実施時間と回数に制限を設けた。その結果、実施時間まで待ってでも体験することを望む小学 生と、すぐに体験できなければ、あきらめてしまう幼児の保護者に二極化されたことが、参加者数の割合 に大きく影響したと考えられる。
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(2)アンケート結果と分析
3年間分のアンケートデータの形態素解析を行った。アンケートの合計回答数は参加者の数であり、
1114部であった。性別と属性のみ記入のアンケートが643部あったため、実質の有効回答数は471部であ る。記述式解答項目では、回答者によって、「全て解答」、「一部回答」、「回答なし」の3つに分類された。
それぞれの回答数は①では469、②では424、③では232であった。なお、④は感想と意見のため省略する。
記述のなかで、②以外では「なし」や「ありません」など、空白回答を意味するものは除外した。形態素 解析の結果、得られたキーワードに幼児と児童での回答に差異が認められなかったため、上位20ワード を抽出した。
①では「かえる」が最多であったが、「べんきょう」や「たのしい」などのアンケート設問から連想さ れるワードとともに、「おたまじゃくし」が上位に位置づけられた(図4)。これは、おたまじゃくしに手 足が生える様子を動画で説明したり、カエルの四肢について指の数や動かし方に関する展示や説明を行 なったため、それらに対する記述だと考えられる。また、「うしがえる」が挙げられたのは、他のカエル 種に比べ、サイズも大きく展示状況が異なったウシガエルが印象に残ったことが理由といえる。「おす」
と「めす」が抽出されたのは、さわる展示の際にカエルの観察のポイントとして性判別をレクチャーした ためと考えられる。その他の記述ではカエルを実際に観察できたこと以外に、展示ポスターに載っている 種類や行動、形態に関する記述が多く認められた。
図3. 夏休み科学体験教室「かえるサイエンス教室~かえる博士になろう~」の参加者数と年代。性別不 明は、アンケートに性別の記載が無かった回答を示す。A;2013年、B;2014年、C;2015年をそ れぞれ示す。
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②では「かえる」を除くと、認定試験の種同定に関する設問への記述が多く、キーワードとして「もん だい」や「みわけかた」の頻度が高かった(図5)。「さいご」「さいしゅう」が挙げられたのは、最終問 題では並べたカエルの種類やオスメスを見分ける観察眼が必要な設問としたためである。このことは、
「しゅるい」や「おす」、「めす」がキーワードとして抽出されたことからも裏付けられる。子供たちがカ エルに興味を持ち、後半のプログラムまで意欲的に参加したこと示す結果と考えられる。
③ではアンケート設問から連想される「てんじ」や「しり」以外では、「おたまじゃくし」や「たまご」
などのキーワードの頻度が高く、卵塊や幼生の展示要望が認められた(図6)。また「しゅるい」「にほん」
「がいこく」なども抽出され、日本国内や海外での生息情報に関する質問など多岐に渡る記述があった。
図4. アンケート①「楽しかった・勉強になった・興味深かった・面白かったことはありましたか?」か ら抽出された上位20のキーワード
図5. アンケート②「難しかった・分からなかったことはありましたか?」から抽出された上位20のキー ワード
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①から③の記述の中で最も頻度が多いキーワードは「かえる」であった。カエルサイエンス教室では、
パネルや映像によるカエルの紹介から、実際に触れる体験をすること、さらに、カエルの特徴をよく理解 させるためのクイズを行うなど、多彩なプログラムで子供たちにアプローチした。キーワードに「かえる」
が突出して挙げられるのは、プログラム前半では視覚と聴覚と触覚で興味を抱かせ、後半ではクイズの回 答を探し出すことによって、カエルを通じて自然との関係について理解を深めるよう導いたためであろ う。
文部科学省は2005年より、持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)
を進めてきた。ESD の要素に含まれる環境学習や生物多様性は幼稚園や小学校の学習指導要領にも掲げ られ、環境教育の取組みにおいて必要不可欠である(国立教育政策研究所教育課程研究センター、2014)。
幼児期の学びは、最初の学校教育段階であり生涯学習の出発点であり(ランブレヒト他、2010)、本プロ グラムは子供達の興味心を引き出すのに有効であったといえる。また、子供の成長にとって自然は重要な 環境要因の1つであり(佐藤、2017)、カエルと自然との繋がりを学ぶ場とすることで、幼児教育におけ る目的の1つである自然に触れる機会を設けるための入口となった。渋江他(2016)によると、身近な自 然環境が急速に失われることにより、子供たちが身近な生き物と触れ合う場所が減少していることが報告 されている。科学体験教室参加者は大学近隣に在住しているため、本プログラムでは大学周辺に生息する カエル類を用い、実際に触れる体験を実施した。その結果、地域生態系や生物と接する場所が、身近にあ ることを子供たちとその保護者に気づきを与えるきっかけ作りができた。
謝辞
本稿を執筆するにあたり多くの有益な助言を頂いた東京家政大学の片田真一講師、明星大学の二ノ宮義 弘氏、玉造広野博士に感謝いたします。解析に協力頂いたかずさDNA研究所の林篤司博士に御礼申し上 げます。
参考文献
・阿部道生・佐藤英文・後藤仁敏・小寺春人・高水正明・島田道子・木村利夫・伊藤輝子・尾崎正善・関 根透・佐々木史江(2009)大学における環境教育の実践--総持学園の自然. 鶴見大学紀要(46):61-74.
・福山欣司・前田憲男(2011)田んぼの生きものたち カエル.農文協
図6. アンケート③「カエルについてほかに知りたい事、こんな展示があったらいいと思うものを教えて ください」から抽出された上位20のキーワード
教員養成教育推進室年報 第6号
・林 俊克(2002)Excelで学ぶテキストマイニング入門.オーム社
・環境省(2018)環境省レッドリスト 2018
・国立教育政策研究所教育課程研究センター(2014)環境教育指導資料[幼稚園・小学校偏].東洋出版社
・ランブレヒトマティアス・尾崎司・千場英弘・市川直子・小林辰至・木村吉彦・大澤力(2010)幼児・
児童期における持続可能性教育の実践的取組(1)-実践調査第1報-.東京家政大学博物館紀要
(15):25-39.・松村昌宏・三浦麻子(2014)人文・社会科学のためのテキストマイニング.誠信書房
・佐藤英文(2017)保育者に必要な自然とのかかわり:その1東京家政大学キャンパスにおける植物資源 を使った草花遊びの可能性.東京家政大学教員養成教育推進室年報(4):23-28.
・渋江桂子・中口殻博(2016)環境教育に利用される身近な生き物への児童心象と生態系体感型学習の効 果.環境教育(25):64-71.
・東京都(2013)レッドデータブック東京 2013 東京都の保護上重要な野生生物種(本土部)解説版.
東京都環境局自然環境部