日本小児循環器学会雑誌 9巻5号 656〜661頁(1994年)
肺動脈バルーン拡大術における内頚静脈アプローチの経験
国立小児病院循環器科,
先崎秀明*
菱 俊雄*
(平成5年10月7日受付)
(平成5年12月21日受理)
現 東京大学医学部小児科*,同
磯田 貴義 小池 一行 石沢 賀藤 均* 熊谷 忠志*
key words:内頚静脈,バルーン拡大術
小児科システム生理学研究室*
瞭
要 旨
1991年から93年までの3年間で,国立小児病院循環器科および東京大学小児科において,内頚静脈か らの肺動脈バルーン拡大術を計15例に施行した.内頚静脈アブP一チの有用性と問題点について考察し 報告する.
拡大術は,血管の損傷をできるだけ最小限にするため,基本的にシースを使用して行ったが,最大9Fr,
2本の挿入が可能であった.バルーン径が大きくシース挿入が困難なものに対しては,セルジンガー法 で行ったが,いずれの場合も合併症はみとめられなかった.また,1例においては,時期を異にして同 側内頚静脈から2回の手技が可能であった.
内頚静脈からの肺動脈バルーン拡大術は,比較的安全に行える手技であり,肺動脈へのバルーン挿入 に関しては,むしろ大腿静脈からより容易である.内頚静脈アプローチは,小児インターベンシ・ンカ テーテルのアプローチ部位の一つとして有用であると思われる.
はじめに
小児における心臓カテーテル検査では,大腿静脈か らのアプローチが一般的であるが,中には大腿静脈あ るいは,下大静脈の閉塞等の理由によって,他の部位 からのアプローチが必要になることがある.我々は,
このような場合,通常のカテーテル検査においては,
肘静脈からのアP一チを第1選択しているが,肺動脈 のバルーン拡大術の様なインターベンションカテーテ ルにおいては,肘静脈は,カテーテルの挿入や操作が 困難なため,内頚静脈からのアプローチを試みている.
内頚静脈からのカテーテル挿入は,成人における心 臓カテーテル検査や1),小児においても中心静脈圧の モ=タリソグや輸液ルートとして,比較的広く行われ ている2)一一4).しかしながら,小児における心臓カテーテ ル検査での内頚静脈アプローチの経験は限られてい る5)7).特に,インターベンションカテーテルにおける 内頚静脈アプローチは,海外ではルーチンの一つとし
別刷請求先:(〒113)東京都文京区本郷7−3−1 東京大学医学部小児科 先崎 秀明
て行われているところもあるが,本邦での報告はまだ ない.そこで今回我々は,小児のインターベンショソ カテーテル,特に肺動脈のバルーン拡大術における内 頚静脈アプローチの経験をもとに,その有用性と問題 点について考察した,
対象と方法
1991年から1993年の3年間で,計14名,15回,内頚 静脈からの肺動脈バルーン拡大術を施行した.患者の 年齢は,4ヵ月から13歳(平均7歳)であった.うち 大腿静脈閉塞の為に施行したのが8例,解音1」学的理由 から施行したのが7例であった.解剖学的理由として は,Glenn shunt術後が3例と,大腿静脈からでは,肺 動脈にカテーテルが挿入ができなかった4例である.
患者の内訳は,表1に示してある,
手 技
患者は全例,塩酸ペチジン,硫酸アトロピンによる 前投薬のち,人工呼吸による全身麻酔下に行った.ま ず,頭を穿刺側と反応方向に向け,肩を少し持ち上げ た.最初の穿刺側は,基本的にカテーテルがストレー トに心臓に進むように,すなわちsitus inversusの1
日小循誌 9(5),1994 657−(43)
Table l Patients Characteristics
Patients Age, BW Diagnosis Site of Stenosis
1 7yUmo,22Kg TOF, P/O RASTELLI Rt PA, C−PA JUNC 2 7y!lmo,18 Kg TOF, P/O RASTELLI Lt PA, C−PA JUNC
3 7y,21 Kg TOF, P/O RASTELLI C−PA JUNC
4 8y6mo,17 Kg UVR, PAR, P/O BID Lt PA GLENN, Lt BTS
5 4mo,3.5Kg HEMI−TRUNCUS Rt PA
5 11mo,7Kg Rt PA
6 7y,22 Kg UVL, PS, P/O BID Lt PA
GLENN
7 9ylmo,25Kg PA, VSD, P/0 C−PA JUNC RASTELLI
8 6y4mo,17 Kg IAA, P/O PAB Rt PA 9 8y7mo,17Kg PA, VSD, P/O Rt PA
RASTELLI
10 13y,34 Kg cTGA, PA, VSD, P/0 Rt&Lt PA
Lt BTS, RASTELLI
11 7y,26 Kg TOF, P/O RASTELLI Rt&Lt PA
12 9y,24 Kg TOF, P/O RASTELLI Lt PA
13 3y,12 Kg UVR, PS, P/O BID Lt PA
GLENN, Lt BTS
14 12y,24 Kg TOF, P/O RASTEELLI Rt&Lt PA
TOF=tetralogy of Fallot;P/0=postoperative;C=conduit;PA=pulmonary artery;
JUNC=junction;UVR=univentricular connection of right ventricular type;PAR=
pulmonary atresia;BID=bidirectional;BTS=Blalock Taussig shunt;UVL=univentricular connection of left ventricular type;PS=pulmonary stenosis;VSD=ventricular septal defect;IAA=interrupted aortic arch;PAB=pulmonary artery banding;cTGA=corrected
t「ansPosition of the great arteries.
例を除いて右側を選んだ.また,挿入時の空気塞栓を 避けるため呼気終末圧を5cm〜10cmH20かけた.穿 刺針の刺入部位は,おおよそ鎖骨上窩と乳様突起の中 点に当たる部位,すなわち胸鎖乳突筋の二体と鎖骨が 作る三角形の頂点とし,動脈を触診しそれを側方にず らしながら,穿刺部位と同側の乳頭の方向に約30度の 角度で針を進めた(図1).内頚静脈に穿刺が成功した 後,ガイドワイヤーを透視下に上大静脈まで進め,適 当なサイズのシースを挿入した.ダブルバルーソ法で 行う場合には,一本目のシース挿入後,その末梢側か ら,一本目のシースの方向を透視で確認しながら,そ れに沿って穿刺を行った.
シース挿入後,狭窄部位の計測をするために肺動脈 造影を行った.使用バルーン径は,狭窄部径の3〜4 倍とし8)一一1°),シースは,それに見合ったサイズのシー
mastoid process
sternocleidmastoid muscle
puncture slte
clavicle
suprasternal notch
図1 内頚静脈穿刺部位
658−(44) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第5号 Table 2 Summary of internal jugular vein approach
Patient Approach Sheath Size Type of Balloon Balloon Size Method
1 Rt 7Fr
UT
8,8mm D2 Rt 7Fr
UT
8,8rnm D3 Lt 7Fr
UT
7,7mm D4 Rt 7Fr
BMX 9mm
S5 Rt 7Fr
UT 8mm S
5 Rt 7Fr
UT
8mrn S6 Rt Seldinger
MANF 25mm S
7 Rt 9Fr
BMX
10,12mm D8 Rt 9Fr
BMX
10,12mm D9 Rt 9Fr
UT
10,10mm D10 Lt 9Fr UT, BMX 12mm D
11 Rt 7Fr
UT 8mm S
12 Rt 7Fr
UT 8mm S
13 Rt 7Fr
UT 8mm S
14 Rt 9Fr
UT 10mm
SUT=Ultra ThinR catheter;BMX=Blue Max catheterR;MAFN=Mansfield catheterR;
D=double;S=single.
スに交換した.バルーン径が大きくシース挿入が困難 なものに対しては,セルジンガー法で行った.手技完 了後は,圧迫止血によって止血を行い,止血は全例,
5分以内に完了した.術後は,全例胸部レントゲン写 真をとり,気胸の合併がないか確認した.他の合併症 の有無に関しても,術後1ヵ月後の外来にてフォロー
した.
結 果
全ての手技は合併症なく行うことができた.1例で 穿刺針が動脈にあたったが,十分な圧迫止血にて血腫 等の合併はなかった.術後の胸部レントゲソ写真にお いても気胸を認めたものはなく,外来フォローにおい ても特に異常を認めたものはなかった
表2は,穿刺部位,シースのサイズ,使用バルーン のタイプとサイズを示したものである.1例で最初右 からの穿刺が成功せずに,対側内頚静脈を使用した.
最も年齢の若い4ヵ月(体重3.5kg)の患者に対して,
7Frのシース挿入下にバルーソ拡大術が可能であっ た.さらにこの患者は,再狭窄に対して7ヵ月後に施 行したバルーソ拡大術においても同側内頚静脈からの アプローチが可能であった.他の症例は7〜13歳で あったが,9Frのシース挿入下にバルーン拡大が可能 であった.さらに,症例1,2,3,7,8,9,10
においては,ダブルバルーン法で行い7Fr 2本,および 9Fr 2本の挿入が同側より可能であった(図2).また,
25mmのバルーンを使用した症例6においては,シー ス使用下での拡大術が不可能であったので,セルジン
藩
㌦
ぎ
冊コ
図2 内頚静脈アブ・一チによるダプルバルーン法
ガー法で行ったが,円滑に手技を行うことができ,合 併症もなかった.
考 察
内頚静脈は,中心静脈ラインとしては,今までも広 く用いられてきたが,いくつかの合併症が,比較的稀 ではあるが,報告されている.その中には血気胸11) 13),
迷走神経,横隔神経等の神経損傷14ト16),胸管損傷6),上 矢状洞血栓17),喉頭浮腫 8),椎骨動脈瘤19)の様な重篤な
ものもあり,これらは,大腿静脈の穿刺時には見られ ないものであり,大腿静脈の穿刺に比べると,より一 層の注意が必要となる.しかしながら,今回我々の経 験では,穿刺時も,バルーン拡大の手技中も特に合併
平成6年4月1日 659−(45)
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図3 Rastelli術後肺動脈狭窄に対する内頚静脈アブP一チによるバルーン拡大術,
左図は,大腿静脈経由の右室造影,右図は,内頚静脈アプローチによるバルーン拡 大術を示す.
症は認められなかった.また,今回我々は,体動によ る合併症発生の可能性と,合併症発生時の気道確保と いうことを考慮して,全例気管内挿管下の全身麻酔で 行ったが,年長児においても気管内挿管下の全身麻酔 が必須かどうかは,今後検討を要すると思われる.
シースのサイズについてであるが,今回用いたシー スの最大サイズは9Frであったが,11Fr使用可能2°)と いう報告もあり,内頚静脈からのアブPt 一チにおいて も十分なサイズのシースを用いることができると思わ
れた.
バルーン拡大の手技においては,大腿静脈からのア プローチと比較して遜色なく円滑かつ確実に行うこと ができた.それどころか,肺動脈へのカテーテルの挿 入は,大腿静脈からのアプローチに比べてはるかに容 易であり,特に,一般のカテーテルに比べて操作性の 悪い拡張用バルーソカテーテルにおいてはその差は,
なお一層顕著となる.症例10,11,12,14は,大腿静 脈からのアプローチでは肺動脈へのカテーテルの挿入 が困難であったため,内頚静脈からアプローチした症 例である.症例10は,肺動脈へのconduitが,心尖部か らでているため,バルーソ拡大術に先だって,大腿静 脈から行われた通常のカテーテル検査の時にバーマン のバルーンカテーテルですら肺動脈への挿入が困難で あった,Rastelli術後の狭窄例である.この症例は,内 頚静脈アプローチによるバルーン拡大術において,2 本の拡張用バルーンカテーテルの挿入が可能であった
(図3).さらに症例11は,大腿静脈からのアブP一チ では,バルーンカテーテルが,右房から右室へ入ると
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図4 内頚静脈アブP一チによる左肺動脈狭窄に対す るバルーン拡大術
ころで屈曲してしまい左肺動脈へのバルーンの挿入が 困難であったため,後日内頚静脈からアブP一チして 成功した例である(図4).
内頚静脈の開存性に関しては,繰り返しの利用に絶 える得るとの報告があり7),今回我々の経験でも,4カ 月の乳児において良好な開存性を示したことから,繰
り返しの手技が可能であると考えられる.
報告されている合併症のことを考えれぽ,内頚静脈 アプローチは,小児のカテーテル検査におけるアクセ ス部位の第一選択としてすべての症例に勧められるわ けではないが,我々のデータが示すように,このアプー チは比較的安全かつ確実なものであり,小児の通常の カテーテルのみならず,インターベンションカテーテ ルにおいてもアプローチ部位の一つとして有用である
660 (46)
と思われた.
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平成6年4月1日 661−(47)
Internal Jugular Vein ApProach in Balloon Dilatation Angioplasty for Pulmonary Artery Stenosis in Children
Hideaki Senzaki*, Kazuyuki Koike, Takayoshi Isoda, Akira lshizawa, Toshio Hishi*,
Hitoshi Kato*and Tadashi Kumagai*
Department of Pediatric Cardiology, National Children s Hospital *Laboratory of System Physiology, Department of Pediatrics, University of Tokyo
From 1991 through 1993,15 instances of balloon dilatation angioplasty of the pulmonary artery,
using the internal jugular vein approach, has been performed for 14 pediatric patients, ranging in age from 4 months to 14 years old. Based on our experience of using the internal jugular vein approach in pediatric patients, we evaluated this method from several view points including the technique and possible complications.
All the procedures were performed without any complications in all patients, and inserting a 7 French sheath, it was even possible to perform balloon dilatation in a 4−month・old infant. As large as 9 French sheath could be inserted in other patients and double balloon method was used in 7 patients.
Seldinger method was also available when the balloon catheter used was too large to use a sheath.
For pediatric interventional cardiac catheterization, the internal jugular vein approach is safe and reliable. Furthermore, catheterization of the pulmonary artery was easier with the internal jugular vein approach than with the femoral vein approach.