日本小児循環器学会雑誌 14巻1号 32〜34頁(1998年)
<Editorial Comment>
動脈管コイル塞栓術 動脈側から? 静脈側から?
東京女子医科大学循環器小児科 中西 敏雄 現在入手できるコイルで動脈管塞栓術を行う場合,いくつか手技上の注意点がある.1)閉鎖栓が大動脈内に 突出しないこと,2)肺動脈狭窄を作らないこと,3)短絡を残さないこと,4)コイル落下をきたさないこと,
5)大腿動脈の損傷をきたさないこと,そして6)放射線被曝を少なくすることである.以上の目標を達成する ために動脈側からのアプローチがよいのか,静脈(肺動脈)側からのアプローチがよいのか悩む小児科医もい ると考える.現在までに当科や他施設で私自身が関与した塞栓術は54例で,肺動脈側からアプローチした例は 7例のみである.一方鎌EBらは24例中,肺動脈側からアプローチした例は20例と私の経験のほぼ逆である.以 下にそれぞれのアプローチをとった場合の注意点について述べたい.
注意点
1)閉鎖栓が大動脈内に突出しないこと
大動脈側の動脈管膨大部がよほど大きい場合か小さい場合は別として,膨大部にコイルが収まるか否かはコ イルを留置してみないと分からない場合が多い.その場合にはコイルを留置した後,コイルをリリースする前 に大動脈造影を行う必要があるが,大動脈側からアプローチした場合には2本動脈ラインを確保せねばならな い.通常,脈はboundingで,動脈を1本余分に確保するのに数分以上はかからない.2本動脈ラインを確保 することが問題にならないとすると,閉鎖栓が大動脈内に突出しない為には,大動脈側から,肺動脈側から,
いずれのアプローチでも大差は無いといえる.但し,大動脈側からのアプローチでは,ガイドワイヤーとコイ ルの結合部が大動脈内に突出することがあるので,あらかじめコイル結合部を丸く成形しておく必要があ る1)2).また膨大部が小さい場合には,どちらかのアプローチにしても,短いコイルを使用するか,コイルを切 断しておく必要がある.短いコイルを使用するほど大動脈からのアプローチが有利である.
2)肺動脈狭窄を作らないこと
肺動脈狭窄を作らないために肺動脈側にどれだけの長さのコイルを置くことが許されるのかは不明である.
鎌田らは1巻を肺動脈に置くこととしている.鎌田らの結果をみると,1巻より多く置いた症例は24例中13例 ある.肺動脈内で少ないながらも圧差を生じた症例では,2.5巻ないし3巻のコイルを肺動脈内に置いている.
肺動脈内コイルが2巻以下の症例で圧差を生じた例は無い.私のシリーズでは肺動脈内コイルが1巻より多 かった症例は54例中2例である.肺動脈内圧差や乱流は2例に認められ,1例は肺動脈内に1/2巻を2本置いた 例,他の1例は5/4巻置いた例であった.鎌田らのシリーズの方が,肺動脈狭窄が起こりにくい結果になってい
るが,その理由は不明である.大動脈からアプローチした場合には,コイル先端までダクロン糸がついている ので,ダクロン糸を2〜3本取り除いているので,ダクロン糸が両者の違いの原因ではない.以上の結果より,
肺動脈内に置くコイルの長さはできるだけ短くすべきで,1巻が限界ではないかと考える.肺動脈内に置くコ イルの長さを短くする為には,大動脈からのアプローチの方が容易である.
3)残存短絡がないこと
径2.5mm以下の小さな動脈管を完全閉塞できる確率は両アプローチで差はなく,私のシリーズ,鎌田らの結 果ともに,6カ月以上経過して残存短絡を認めた例はない.
残存短絡を少なくするには,コイルをできるだけ圧縮した状態で動脈管内に留置したほうがよい.肺動脈か らアプローチした場合,大動脈内でコイルを形成させた後,動脈管内にコイルを引き戻せるので,自然な形の コイルとすることができる.大動脈側からアプローチした場合,コイルを押し出すので膨大部内でコイルがか らまり,自然な形のコイルとならないことがある.その時はカテーテル内にコイルをある程度回収して,再度 コイルを出し直す操作を行う.その際,一定の手技はなく,自然な形のコイルとなるまで試行錯誤せねばなら ない.操作中,肺動脈に置いたコイル部分が大動脈側に引き戻されることもあるが,その場合にはコイルを回
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収し,カテーテルを肺動脈に入れ直さねばならない.その様な手技の煩雑さ,困難さが肺動脈からのアプロー チでは少ない分,肺動脈からのアプローチが有利といえる.
残存短絡を少なくするには2個以ヒのコイル留置を必要とすることもある.径2.5mm以上の動脈管に5mm のコイルを/個置いた場合,コイルが肺動脈側に抜け落ちてしまうことがある.橋本ら5)は2本のカテーテルを 肺動脈側から大動脈に入れ,同時に2本のコイルを出し,コイルを膨大部でからめる手技をとっている.確か
にその手技は比較的容易で有効である.但し私は,2個のからまったコイルが(未だリリースの前に)肺動脈 内に抜け落ち,2本のカテーテルを肺動脈内で操作してもコイルがからんだまま離れなくなった経験がある.
3本目の静脈ルートを確保し,シースを肺動脈内へすすめ,絡んだコイルをスネアワイヤーにてシース内に取 り込んだ後,コイルをガイドワイヤーから離し回収した.以後は,2個のコイルを同時に留置したい場合には,
大動脈側からアプローチし,2本のカテーテルを同時に肺動脈に入れ,同時に2個のコイルを出してゆく方法 をとるようにしている.その際には大動脈造影はできないので,膨大部の深さが透視で分かるよう,よく検討 しておく必要がある.
但し,8mmのコイルを2本同時に入れる場合には,是非大動脈造影を施行し,大動脈への突出が無いことを 確認したいところである.その為には肺動脈からのアプローチの方が有利である.また8mmのコイルは絡まり 方が緩やかであるので,例え肺動脈に抜け落ちてもコイルのからみをとることは容易であろう.
1個ないし2個のコイルを留置した後,追加のコイルを置く場合には,大動脈側からのアプローチが有利と なる.動脈管にカテーテルを通すことがより容易であるし,仮にカテーテルが通過しなくても模入さえできれ ばコイル留置が可能である.また残された膨大部のスペースが少ない時には2cm程度に切断したコイルを留置 することも大動脈側からのアプローチなら可能である.
4)コイル落下がないこと
デタッチャブルコイルが主に使用される我が国では,もっぱらGianturcoコイルを使用している米国に比 べ,コイル落下の頻度が低いことは確かである4).しかしデタッチャブルコイルの使用でコイル落下が完全に防 止できるかというとそうではない.コイルがガイドワイヤーから離脱後に肺動脈へ抜け落ちることもあるから である.富田らによる我が国の集計では約5%にデタッチャブルコイルの脱落があったという(私信).
私の大動脈側からのアプローチのシリーズでは,コイルをカテーテル内に回収,再留置を繰り返しているう ち,カテーテル内ヘコイルが回収できなくなり,カテーテル先端にコイルを付けたまま大腿動脈まで引き戻し たものの,大腿動脈内のシース遠位端にコイルがとどまった例が2例あった.コイル落下の際は,すぐヘパリ ンを効果量まで追加投与し,コイルの回収を開始する.大腿動脈内のコイルはスネアワイヤーを用い簡単に回 収できたが,大腿動脈へのコイル落下は大動脈側からのアプローチでの注意すべき点といえる.
肺動脈へのコイル落下に関しては,肺動脈からのアプローチでも大動脈側からのアプローチでも起こりう る.アプローチによる有利性の差はないと考える.
5)大腿動脈の損傷をきたさないこと
私のシリーズでは大動脈からアプローチした場合,最少年齢は1歳,最少体重は7.8kgであった.動脈を2 本穿刺し,脈の触れが弱くなった症例は無い.鎌田らのシリーズでも最少年齢,体重は似かよっている.英国 のPauperioら3)は静脈ルートのみでコイル留置を行うという.肺動脈からアプローチした場合,動脈管膨大部 の大きさに余裕があれば,動脈穿刺なしでコイル留置も可能であろう.但し,かなり経験を積んで,動脈ルー
トの必要性が判断できるようになった上での手技とすべきであろう.
6)放射線被曝が少ないこと
透視時間は,鎌田らは肺動脈からのアプローチで10分から55分,平均26分であったという.私の大動脈から のアプローチでは,透視時間の記録が得られたのは,当科において施行した21例で,13分から91分,平均40+
21分で,肺動脈からのアプローチに比べ長かった.但し50分を越した5例は全て治験中の別の種類の閉鎖栓を 静脈側から入れるべく試みた後,結局動脈からデタッチャブルコイルを入れた例である.それらの例を除けば 透視時間の平均は30分で鎌田らの26分とほぼ同じ値である.放射線被曝に関してはアプローチによる差はない と考える.但し,肺動脈からのアプローチでも大動脈側からのアプローチでもコイル落下などトラブルが生じ
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た場合には長時間の透視となりうる.
結論
世界的には,動脈管コイル塞栓術が始まった当初は,動脈からのアプローチの報告が多かったが,最近静脈 からのアプローチの報告が増えてきた.ちなみに米国のHijaziiら6),英国のPauperioら3)は静脈からのアプ
ローチをとっている.Tornetzkiら7)は51例1ま静脈から,13例は静脈から,4例は両方からアプローチしたとい う.しかしRosenthalら8)は動脈からのアプローチを用いており,静脈からのアプローチに有利な点はないと いう.私も動脈からのアプローチに固執している.私はまず動脈からアプローチし,動脈管が大きくてコイル.
2本(特に径8mmの)入れることが動脈からでは不可能である時のみ,静脈からアプローチする方針を維持す るつもりである.
動脈管コイル塞栓術のために現在入手できるコイルは,未だ満足できるものではなく,多くの改良の余地が 残されている.大動脈にも肺動脈にも突出しない形のコイルで,比較的大きな動脈管でも1本のコイルで,短 時間の透視時間で閉鎖できるコイルが理想であろう.
文 献
1)Hazama K, Nakanishi T, Tsuji T, Kinugawa Y、 Matsuoka S, Mori K, Saitou A, Tomita H, Momma K:
Transcatheter occlusion of arterial duct with new detachable coils. Cardiol Young 1996;6:332−336 2)斎藤明宏,富田 斉,中西敏雄:デタッチブルコイルを使用した動脈管塞栓術における丁夫.日小循誌 1997;9:621 677
3)Pauperio IIM, Redington AN, Rigby ML:Clog. ing the patent arterial duct−plugs, umbrellas and coils. Cardiol Yourlg l996;6:252 254
4)Lloyd TR, Beeklnan RH, Moore JW, Hijazi ZM, Hellenbrand WE, Sommer RJ, Wiggills JW, Zamora R,
Vincent RN:The PDA coil registry:Report of the first 535 procedures. Circulation 1995;92(Suppl I):380 5)橋野かの子,赤木禎治,石井正浩,衛藤元寿,杉村 徹,家村素史,加藤裕久:simultaneous double or triple coil techniqueを用いた中等度以上の動脈管開存症に対するコイル塞栓術.日小循誌 1997(印刷中)
6)Hijaji ZM, Geggel RL:Transcatheter closure of Iarge patent ductus arteriosus with multiple Gianturco coils:Immediate and mid−term results. Heart/996;76:536 540
7)Tometzki AJp, Arnold R, Peart 1, Sreeram N, Abdulhamed JM, Godman MJ, Patel RG, Kichiner DJ, BuLock FA, Walsh KP:Transcatheter occlusion of the patel〕t ductus arteriosus with Cook detachable coils. Heart l996;76:531 535
8)Rosenthal E, Qureshi SA, Reidy J, Baker EJ, TyIユan M: Evolving use of embolisation coils for occlusion of the arterial duct. Heart 1996;76:525.530