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特発性僧帽弁逸脱症の心エコー診断と心血管系Risk Factor

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平成20年 1 月 1 日

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Editorial Comment

PEDIATRIC CARDIOLOGY and CARDIAC SURGERY VOL. 24 NO. 1 (31 34)

特発性僧帽弁逸脱症の心エコー診断と心血管系Risk Factor

筑波大学大学院人間総合科学研究科・臨床医学系小児科 堀米 仁志

 収縮中期クリックと収縮後期雑音という独特の聴診所見が僧帽弁逸脱(mitral valve prolapse:MVP)という病態に由 来することが明らかにされたのは1960年代のことである1).現在でもMVPは聴診所見で発見されることが多いが,心 エコーの普及により逸脱の部位,程度,機序などを含めた客観的な診断ができるようになった.一方で,正常でも みられる僧帽弁形態がMVPと“過剰診断”されたり2),聴診所見が正常でも心エコーで軽度の逸脱が疑われる例が“silent MVP”3)として過剰に管理されている可能性がある.十分な聴診(体位変換やValsalva試験による変化を含む)をせずに 心エコーが安易に使用されていることや,厳密な診断基準が確立されていないことが一因と思われる1).典型的な逸 脱であっても小児期の経過は良好で,学校生活管理上も運動制限を要することはほとんどないことを考えると,疑 陽性例や軽症MVPに対して不要な管理をせず,本人・家族の不安をかき立てることのないように留意すべきである.

 しかし,まれではあるものの感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE),血栓・塞栓症,脳虚血症状,高度僧帽弁 閉鎖不全(mitral regurgitation:MR),突然死などの合併症があることも事実である.一般集団におけるMVPの頻度が 高いことを考えると,一定の基準で診断されたMVP例のなかから,本当に管理の対象とすべき“真のMVP”を抽出し ていくことが必要である.そのためには三宅らの論文4)のように小児期MVPの臨床像や予後について多数例のデータ を報告していくことが重要と考えられる.本稿では特発性MVPの診断とrisk factorについての知見を整理してみたい.

1.僧帽弁逸脱症の心エコー診断

 MVP診断の歴史をみると,初期に典型的な聴診所見で診断されていたものがMモード心エコーを経て断層心エ コー,カラードプラ心エコー中心へと変遷し1),さらに経食道心エコーや三次元心エコーによる僧帽弁形態の診断へ と発展している.それぞれの段階で診断基準も変遷し,未だに厳密な統一基準は確立されていない.したがって過 去に診断されたMVPの長期予後を検討する場合は,すべての症例が同じ診断法,診断基準で抽出されているとは限 らないことに注意すべきである.実際,心エコーが普及しはじめた1980年代,MVPの頻度はかなり高く報告された.

Warthら5)は弁の一部が弁輪ラインを超えることを基準とすると10〜18歳では全体の35%がMVPと診断されてしまう ため,もっと厳密な診断基準が必要であると主張した.集団の 1/3 が罹患しているとしたら,それは正常でもみら れる所見であるか,あるいは診断方法に問題があると考えるのが常識的であろう.Levineら6)は僧帽弁の形態を詳細 に検討し,僧帽弁の面はもともと平坦ではなくsaddle-shapedで,anterior-posterior方向には上方に凹,medial-lateral方 向には下方に凹であることを見出した.そのため,心尖部四腔断面像でみると正常でも逸脱しているように見えて しまうことがある2).現在は傍胸骨長軸断面で逸脱している場合にMVPと診断され,罹病率は一般人口の 2〜3%前 後と考えられている7).MVPの合併症の頻度や自然予後統計も当然のことながら抽出基準に左右される8).  基本的な心エコー所見は弁腹の左房側へのballooningと前・後尖の接合不全である.しかし,逸脱と診断してよい かどうか迷う症例に遭遇することも少なくない.一般には左室長軸断面で,一つまたは両方の弁尖が弁輪のhinge point を結んだ線から,収縮期に左房側へ 2mm以上ballooningしていたら逸脱と診断する.しかし,弁輪の厳密な同定が困 難な場合もあり,逸脱を判定する境界線の決め方も必ずしも統一されていない.

 一方,僧帽弁の肥厚は重要な所見で,MVPの基礎にある粘液水腫様変化などの組織学的異常を反映していると考 えられる.拡張中期に計測し,成人では 5mm以上を有意な肥厚としている.小児期MVPでも明らかに肥厚した僧帽 弁を見る機会は多いが,年齢による厚さの基準は確立されていない.そのほか,redundant chordaeや弁のflailingも重 要な所見である.

 逸脱している弁尖の同定については,単に前尖か,後尖かにとどまらず,プローブを少しずつずらして,可能な 限り左室長軸像を 3 つのレベルで観察することが望まれる.① 前交連側の前尖(A1)と後尖のanterolateral scallop,

② 前尖中央部(A2)と後尖のmiddle scallop,③ 後交連側の前尖(A3)と後尖のposteromedial scallopの 3 つのレベルで ある9).実際には経胸壁エコーでそこまで明確に描出できないことも多いが,詳細な検討によってMVPの見落としを 減らすことできる.

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 カラードプラによるMRの部位と程度の診断が重要であることは言うまでもない.逆流ジェットは逸脱部位と反対 方向に吹くこと(たとえば前尖逸脱では左房後壁へ,内側逸脱では外側へ)が部位判定の参考になる.程度について は多くの断面を用いて総合的に行い,過小評価しないようにする.

 また,多くのMVPは孤発性であるが,家族集積例(常染色体優性)があることが知られている.したがって,典型 的なMVPが診断された場合,少なくともその一親等まではスクリーニング心エコーが推奨されている10)

2.心血管系合併症のrisk factor

 まれではあるがMVPの心血管系合併症としてIE,血栓・塞栓症,脳血管障害,重症MR,突然死(sudden cardiac death:SCD)などが報告されている.一般に聴診所見が正常またはクリック音だけの症例,逸脱やMRが軽度の症例 は,合併症の頻度は一般集団と変わらないと言われている.三宅らの論文の結果でもMRを除けばIEが1 例のみであっ た4).Zuppiroliら11)は316例(42 앐 15歳)を前方視的に平均102カ月追跡し,死亡を含む心血管系合併症率は1.0/100 pa- tient-yearと低率で,特に若年者の予後は良好であったと述べている.

 小児期MVPは予後良好であるため,小児のみを対象としたrisk factorの検討は少ない.成人では,mortalityのhigh- risk因子と考えられているのは,初診時に中等度〜高度のMRを伴うもの,左室収縮機能が低下しているもの,心血 管系morbidityのhigh-risk因子と考えられているのは,初診時に軽度〜中等度のMRを伴うもの,心房細動,年齢45〜

50歳以上,左室・左房拡大,5mm以上の弁肥厚である9).特に弁肥厚のあるMVP(classic prolapse)は肥厚のない例

(nonclassic prolapse)に比べて有意に合併症の頻度が高いことが注目されている12).以下にそれぞれの合併症について まとめてみたい.

 1)感染性心内膜炎(IE)

 クリック音だけの例ではIEの合併率は一般集団と変わらないが,収縮期雑音を伴うときはやや高い.誘因として 抜歯が最多である.IEは生命にかかわる合併症であり,MRが増悪する可能性もあるため,予防が重要である13). 収縮期雑音,MR,左室・左房拡大,弁の肥厚,redundant chordaeがみられる例では予防投薬が望まれる.クリック 音だけの例では予防投薬は不要と考えられている.

 2)血栓塞栓症,脳虚血発作

 MVPでは若年成人を中心に一過性脳虚血発作や脳梗塞を起こすリスクがあることが報告されてきた14).僧帽弁表 面の心内膜や内皮に断裂が生じ,そこに血小板血栓ができることが一因と推定されている15).しかし,45歳以下の MVP例を対象とした大規模コントロールスタディでは脳虚血発作とMVPの間に関係はなかったとされ,因果関係に 結論はでていない.血小板活性化の原因はMVP自体ではなくMRにあるという報告もあるが16),病理学的に十分証明 されているとは言えない.脳血栓症の既往や神経学的局在徴候がある場合,心房細動の合併例,高齢者などでは血 栓予防にアスピリンが用いられることがある.

 3)重症僧帽弁閉鎖不全

 ほとんどのMVPではMRは軽度であるが,まれに高度となる.弁尖や腱索の粘液水腫様変性の進行が原因となるこ とから,特に中年期以降に進行することが多い.外科治療で対応することができるため,MR進行のrisk factorを認識 し,手術に踏み切る時期を失しないことが重要である.成人では弁の肥厚,redundant chordae,後尖逸脱,初診時に 中等度以上のMRが認められるもの,左室容積の増大などがrisk factorとして指摘されている17).最近,弁の肥厚があ る例は,ない例よりも明らかにMRの進行例が多いことがわかってきた12).弁肥厚は年齢とともに進行するため,小 児期から重要なrisk factorととらえてフォローしたほうがよい.弁のflailingは弁組織の変性が進行して腱索断裂が起 きたときにみられる重要なエコー所見である.両側よりも一側の弁尖に起きることが多い.小児期でもみられる合 併症であり,三宅らの論文4)では外科治療が行われた 4 例のうち,1 歳児と 6 歳児の 2 例が腱索断裂を伴っていた.

MRは高度となるため,心不全症状がなくても早期に外科治療に踏み切る必要がある18).  4)心臓突然死,不整脈

 極めてまれではあるがMVPはSCDの原因となり得ることが指摘され,その機序として心室性不整脈が考えられて いる.前述のZuppiroliら11)の316例の前方視的検討では約 8 年間に 6 例の心臓死があり,そのうち 3 例がSCDであっ た.Corradoら19)は163例の若年者SCDのなかで17例(10%)にisolated MVPがみられたと報告している.ヨーロッパの 統計では,多くのSCD例がredundant leafletや肥厚した弁を伴っていたのに対して,MRの重症度とSCDの相関は明ら かでなかった20).心停止・心室頻拍の既往,突然死の家族歴がある場合は要注意である.また,心電図上,下側壁の

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ST変化,QT延長,QT dispersion,心室遅延電位21),心室性期外収縮の頻発などはhigh risk例の抽出に役立つ場合があ る20).QT dispersionの値が弁の逸脱や肥厚の程度と相関したという報告もある22)

3.小児期MVPの生活管理

 三宅らの論文4)の結果にも表れているように小児期MVPの臨床症状や心エコー所見は何年にもわたって大きく変化 せず,良好な経過をたどることが多い.学校生活においてもほとんど制限は必要ないため,患者とその家族に,予 後良好で合併症も極めてまれであることを強調するのが望ましい23).一般に以下の項目が 1 つもなければ,すべて の運動競技への参加が可能とされている24)

 ① 不整脈によると思われる失神の既往,② 持続性または非持続性で繰り返す上室性・心室性頻拍症,③ 重症MR,

④ 左室収縮能低下(駆出率50%以下),⑤ 血栓塞栓症の既往,⑥ MVP関連突然死の家族歴

 ただし,MVPは年齢とともにその頻度が高くなる傾向があり25),小児期は臨床的に軽症で経過しても,成人期に なって進行する可能性がある.特にrisk factorを伴うMVPは途中でドロップアウトすることがないように確実に循環 器内科医に引き継いでいくことが望まれる.

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【参 考 文 献】

1)Weisse AB: Mitral valve prolapse: now you see it; now you don’t: Recalling the discovery, rise and decline of a diagnosis. Am J Cardiol 2007; 99: 129–133

2)Levine RA, Stathogiannis E, Newell JB, et al: Reconsideration of echocardiographic standards for mitral valve prolapse: Lack of association between leaflet displacement isolated to the apical four chamber view and independent echocardiographic evidence of abnormality. J Am Coll Cardiol 1988; 11: 1010–1019

3)Recusani F, De Servi S, Specchia G, et al: Phonomechanocardiographic diagnosis of the apparently “silent” mitral valve prolapse syndrome. G Ital Cardiol 1976; 6: 613–619

4)三宅俊治,篠原 徹,池岡 恵,ほか:小児期僧帽弁逸脱症の臨床像および中期予後.日小循誌 2007;24:26–30

5)Warth DC, King ME, Cohen JM, et al: Prevalence of mitral valve prolapse in normal children. J Am Coll Cardiol 1985; 5: 1173–1177 6)Levine RA, Triulzi MO, Harrigan P, et al: The relationship of mitral annular shape to the diagnosis of mitral valve prolapse.

Circulation 1987; 75: 756

–767

7)Freed LA, Levy D, Levine RA, et al: Prevalence and clinical outcome of mitral valve prolapse. N Engl J Med 1999; 341: 1–7 8)Zuppiroli A, Mori F, Favilli S, et al: “Natural history” of mitral-valve prolapse. Influence of patient selection on cardiovascular event

rates. Ital Heart J 2001; 2: 107–114

9)Hayek E, Gring CN, Griffin BP: Mitral valve prolapse. Lancet 2005; 365: 507–518

10)Nesta F, Leyne M, Yosefy C, et al: New locus for autosomal dominant mitral valve prolapse on chromosome 13. Clinical insights from genetic studies. Circulation 2005; 112: 2022–2030

11)Zuppiroli A, Rinaldi M, Kramer-Fox R, et al: Natural history of mitral valve prolapse. Am J Cardiol 1995; 75: 1028–1032 12)Playford D, Weyman AE: Mitral valve prolapse: Time for a fresh look. Rev Cardiovasc Med 2001; 2: 73–81

13)Danchin N, Voiriot P, Briancon S, et al: Mitral valve prolapse as a risk factor for infective endocarditis. Lancet 1989; 1: 743–745 14)Sandok BA, Giuliani ER: Cerebral ischemic events in patients with mitral valve prolapse. Stroke 1982; 13: 448–450

15)Schnee MA, Bucal AA: Fatal embolism in mitral valve prolapse. Chest 1983; 83: 285–287

16)Tse HF, Lau CP, Cheng G: Relation between mitral regurgitation and platelet activation. J Am Coll Cardiol 1997; 30: 1813–1818 17)Fukuda N, Oki T, Iuchi A, et al: Predisposing factors for severe mitral regurgitation in idiopathic mitral valve prolapse. Am J Cardiol

1995; 76: 503–507

18)Mills WR, Barber JE, Ratliff NB, et al: Biomechanical and echocardiographic characterization of flail mitral leaflet due to myxoma- tous disease: Further evidence for early surgical intervention. Am Heart J 2004; 148: 144–150

19)Corrado D, Basso C, Nava A, et al: Sudden death in young people with apparently isolated mitral valve prolapse. G Ital Cardiol 1997;

27: 1097–1105

20)Priori SG, Aliot E, Blomstrom-Lundqvist C, et al: Task force on sudden cardiac death of the European society of cardiology. Eur Heart J 2001; 22: 1374–1450

21)Bobkowski W, Siwi´nska A, Zachwieja J, et al: A prospective study to determine the significance of ventricular late potentials in children with mitral valve prolapse. Cardiol Young 2002; 12: 333–338

22)Zouridakis EG, Parthenakis FI, Kochiadakis GE, et al: QT dispersion in patients with mitral valve prolapse is related to the echocardiographic degree of the prolapse and mitral leaflet thickness. Europace 2001; 3: 292–298

23)Risser WL, Andersen SJ, Bolduc SP, et al: Mitral valve prolapse and athletic participation in children and adolescents. American Academy of Pediatrics Committee on Sports Medicine and Fitness. Pediatrics 1995; 95: 789–790

24)Maron BJ, Ackerman MJ, Nishimura RA, et al: Task Force 4: HCM and other cardiomyopathies, mitral valve prolapse, myocarditis, and Marfan syndrome. J Am Coll Cardiol 2005; 45: 1340–1345

25)Ohara N, Mikajima T, Takagi J, et al: Mitral valve prolapse in childhood: The incidence and clinical presentations in different age groups. Acta Paediatr Jpn 1991; 33: 467–475

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参照

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