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−「セルフスタディ」の方法に焦点をあてて−

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Academic year: 2022

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(1)

 1 緒言

教師の資質能力の向上が叫ばれて久しい。中央教育審 議会(2015)は,これからの時代の教員に求められる資 質能力として,自律的に学ぶ姿勢を持ち,時代の変化や 自らのキャリアステージに応じて求められる資質能力を 生涯にわたって高めていくことのできる力や,情報を適 切に活用する能力や知識を構造化する力を提言している。

これまでの教員養成カリキュラムは,理論に関する科 目と実践に関する科目が区別されて実践に関する内容は 専ら学部段階の教育実習にのみ負わされていたことが問 題視され,教職大学院に対して,授業観察・分析や現場 における実践活動・現地調査(フィールドワーク),実 務実習など,学校における活動自体に特化した科目を設 定することにより理論的教育と実務的教育との実効的な 架橋を図る工夫が求められている(中央教育審議会,

2006)。

X大学教職大学院では,学部新卒学生に対する実習の ねらいとして,共通科目やコース科目で習得した知識と 技術を活用して連携協力校等で学級担任や教科担任を支 援する実習を行い,教育課程・学習指導・学級経営・教 育相談などの基本的な教育実践について認識し,自己課 題を発見し解決の方法を探究することがあげられている。

本研究では,学び続ける教師の出発点である採用前段 階における学部新卒学生が自律的に授業力量を形成して いくプロセスを検討するために,「セルフスタディ」の 方法論(Loughran,2005,2007,2010)に着目した。

「セルフスタディ」とは,「批判的友人」(武田,2019a)

の介入を得て,①実践の改善を目的とし,②相互作用的 に,③多様な手法を用いて,④熟議,検討,判断を行い 専門家コミュニティの構築を目指して,教育における実 践知を明確化することをねらいとしてなされる教師教育 研究である(LaBoskey,2004;武田,2019b)。そこ で今回は,当事者が教職大学院の実習科目を中心に「セ ルフスタディ」を展開し,理論的教育と実務的教育をい かに融合・統合させながら自らの授業力量を形成するか について実践的に検討した。具体的には,授業力量を「授

業設計力」,「授業展開力」および「授業評価力」の 3 つの側面から捉え,それぞれの変容について量的および 質的に分析した。ここで得られた結果は,教職大学院に おける指導内容と指導方法の体系化を図るうえで有用な 知見になり得ると考えられる。

 2 方法

2.1 研究の当事者

「セルフスタディ」を展開する当事者は,X大学大学 院教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)の「教 育 実 践 力 開 発 コ ー ス 」 に 所 属 し,2017 年 5 月 か ら 2018 年 12 月の期間にS市立M小学校において実践力 開発基本実習Ⅰ(30 時間 1 単位)・Ⅱ(90 時間 3 単位)

および実践力開発発展実習Ⅰ(60 時間 2 単位)・Ⅱ(60 時間 2 単位)を履修した学部新卒学生である(以下,

当事者またはA院生と称す)。なお,A院生は,教員養 成課程を有しないY大学出身で,中学校教諭一種免許状

(保健体育)を取得するために公立中学校で 3 週間の教 育実習を経験している。

2.2 実習校および実習期間

A院生はS市立M小学校 6 年生に 2 年間配属され,

2017 年 5 月から 2018 年 12 月まで実習を行った。具 体的には,2017 年 5 月初旬から 2018 年 1 月中旬にか けて実践力開発基本実習Ⅰ・Ⅱが,2018 年 5 月中旬か ら 2018 年 10 月下旬にかけて実践力開発発展実習Ⅰ・

Ⅱがそれぞれ実施され,その間に担当した体育科の 5 つの単元(①器械運動領域の鉄棒運動(1 時間):2017 年 6 月,②ボール運動領域のベースボール型(7 時間): 2017 年 10 月,③体つくり運動(4 時間):2018 年 1 月,

④ボール運動領域のゴール型(5 時間):2018 年 5 月,

⑤ボール運動領域のネット型(8 時間):2018 年 10 月)

の授業について検討を行った。

2.3 内容

本研究では,授業力量に関して「授業設計力」,「授業 展開力」および「授業評価力」の 3 つの側面から捉え ることにした。

−「セルフスタディ」の方法に焦点をあてて−

Development of Teaching Ability in Students at the Pre-employment Stage:

Focusing on the Self-study Method

川部 長人 Taketo KAWABE

東近江市立能登川南小学校

辻  延浩 Nobuhiro TSUJI

滋賀大学大学院教育学研究科

< キーワード> セルフスタディ 教師教育 採用前段階 小学校体育科

25

(2)

(1)授業設計力

A院生は,2017 年 10 月から 2018 年 10 月の期間に,

体育科の 5 つの単元で学習指導案を作成した。学習指 導案の分析においては,秋田(2010)により作成され た「学習指導案の評価」を用いて評価した。すなわち,「Ⅰ.

指導目標の把握」「Ⅱ.指導内容の構成」「Ⅲ.教材の選 択」「Ⅳ.授業展開の構成」「Ⅴ.評価方法の設定」の 5 つの評価観点に対して各 3 段階の評価基準(表 1)に基 づいて評価した。達成度の高い方から 3,2,1 と評定 が定められている。この結果をもとにして,5 つの単元 の学習指導案の変容について検討した。なお,データの 信頼性を担保するために,保健体育科教育学を専門とす る大学教員による分析内容への助言と同大学院に所属す る学生 3 名に分析基準の合致を確保したうえで,共同 的に分析を行った。

(2)授業展開力

A院生が作成した学習指導案をもとに,第 6 学年の 1 学級を対象に体育の授業を計 25 時間実践した。授業分 析においては,高橋・吉野(2003)による「体育授業 場面期間記録法」を用いた。すなわち,VTR およびボ イスレコーダーを用いて観察収録したものをコーディン グシートと集計表をもとに授業場面を表 2に示す「マ ネジメント」「学習指導」「認知学習」「運動学習」の 4 つのカテゴリーに分けて分析した。また,授業を観察し てもらった実務家の指導教員や「批判的友人」である実 習校の教諭(以下,I教諭,F教諭と称す)から提出さ れた授業に関するコメントをもとに授業展開力の変容に ついて検討した。なお,データの信頼性を担保するため に,保健体育科教育学を専門とする大学教授で実習の指

導教員でもあるB教員に対して評価結果に偏りや齟齬が 生じていないかチェックを依頼し,合意が得られてから 分析を行った。

(3)授業評価力

「体つくり運動」,「ゴール型」,「ネット型」の授業では,

授業を受けた児童に対して「診断的・総括的授業評価法」

(高田ほか,2000;高田ほか,2003)および「形成的 授業評価法」(高橋ほか,2003)による授業分析を実施 し,その分析結果をもとにしながら授業実践について省 察を行った。また,状況関連的に授業の現象を質的に記 述し解釈することを通して授業や子どもを評価する力を 検討した(高橋,2003)。

2.4 研究の枠組み

授業を評価する基本的な枠組みは教師の指導状況の良 し悪し(教授過程変数),児童・生徒の学習状況の良し 悪し(学習過程変数)と両者によって生み出される児童 の学習成果(学習成果変数)の 3 つによってとらえる ことができる(吉野,2010)。図 1は本研究の構想を示 している。すなわち,教授過程変数については「学習指 導案の評価」と「体育授業場面期間記録法」を用いて分 析する。学習過程変数については児童の行動を VTR 撮 影したものやフィールドノーツに書いたものを用いて分 析する。学習成果変数では,「形成的授業評価法」およ び「診断的・総括的授業評価法」を用いて分析する。加 えて,これらの量的研究法では一人一人の学習行動を分 析できないという限界があることから,それを補うため に状況関連的な質的分析を合わせて行う。それらの結果 をもとに授業実践後,「批判的友人」(教職大学院でA院 生と同じコースの現職教員学生F教諭・教職経験 19 年,

表 1 学習指導案の評価の観点と基準

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26

(3)

および連携協力校に勤務するI教諭・教職経験 16 年)

と共同検討して授業改善を行った。

3 結果と考察 3.1 授業力量の変容

(1)授業設計力

表 3は,A院生が作成した複数の学習指導案を「学 習指導案の評価」(秋田,2010)を用いてA院生自らが 評価した結果を示している。「指導目標の把握」,「教材 の選択」および「授業展開の構成」においては,実習を 経るに連れて段階的に「1」から「3」に向上した。そ の要因として,鉄棒運動の授業後のカンファレンスにお いて,子どもの実態や子どもの姿を想定して授業をデザ インする必要のあることを学び,自分が子どもになった つもりで実技による教材研究を行い,運動の構造や技の ポイントを理解することができるようになったことが考 えられる。また,「批判的友人」のF教諭の教科全般の 授業を観察しながら,子どもの認識過程を考えながら授 業を創るとはどういうことかについて問題意識を高め,

子どものつまずきを予測しその対応を考えられるように なったことが全般的な段階の向上につながったと推察さ れる。さらに,「評価方法の設定」では,2 年次の実践 において遅れて「2」,「3」と向上した。このことから,

評価に関する設計力は,指導目標が明確になり,目標に 即した教材選択と展開ができるようになってから関連的 に高まってくると考えられる。

(2)授業展開力

図 2図 3および図 4は,「体つくり運動」,「ゴール型」

および「ネット型」の授業における「体育授業場面期間 記録法」の結果を示している。高橋・吉野(2003)は「体 育の授業では運動学習場面を最低 50% は確保したいと ころである。また,マネジメント場面は 20%を超えな いようにすべきである。」と述べている。1 年次の 6 月 に実施した「体つくり運動」の授業(図 2)では,運動 学習場面は 50%程度確保できているものの,単元後半 において横ばいの状態である。その要因は認知学習(話 し合い活動)が常に 20%強を占めたことが関係してい る。このことに関して,事後検討会でI教諭から,「授

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図 1 本研究の構想図

表 2 体育授業場面の観察カテゴリーと定義

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27

(4)

業が終わった時に子どもたちがどのような姿になってい るのか,明確な目標を持つことが大切だ。その部分が不 十分だと,教師は不安になり話し過ぎてしまう。子ども たちにどのような力を身につけさせるかという目標を明 確に持つことで,教師の話も必要最低限になり運動でき る時間がたくさん確保できるのではないか。」とコメン トがあり,目標に即した適切な説明の必要性が指摘され た。次の「ゴール型」(図 3)および「ネット型」(図 4) の授業では,指導目標を明確に持てるよう教材研究を行 い指導することで,説明の時間を短縮でき運動学習の時 間を十分に確保できるようになっていったと考えられる。

また,「ゴール型」の授業前のカンファレンスにおい てB教員から「運動学習を十分に確保するためには構造 的なマネジメントが重要である。」というコメントがあっ た。福ヶ迫(2010)は「構造化されたマネジメント」

について,教師が子どもたちとルールや約束事を取り決 め,学年や単元のはじめに徹底して指導することで,中 盤や終盤にかけて子どもたちが学習課題に没頭しやすい 状況を生みだすことを述べている。A院生は,電子タイ マーを用いて授業を効率的に進行し,子どもたちに審判 や進行の役割を与え,教師が対戦相手を予めミニ黒板に 整理したり,チームの出場順番をグループノートに計画 させたりして子どもたちで授業を進めることができるよ うに環境設定を工夫した。これにより,「ゴール型」の 単元では,中盤から後半にかけてマネジメントの時間が 減り,運動学習場面が増加する傾向がみられた。このこ とは「ネット型」の授業においても継続して実施でき,

その効果が表れている。

3)授業評価力

①「形成的授業評価法」による分析

図 5図 6および図 7は,「体つくり運動」,「ゴール型」

および「ネット型」の授業における「形成的授業評価法」

の結果を示している。「体つくり運動」では 4 つの次元 で単元経過とともに向上する傾向がみられ,とりわけ「学 び方」および「成果」の向上が著しかった。1 時間目の 授業後の検討会で I 教諭から「今日の授業の中で,子ど も同士がアドバイスし合っている場面があった。子ども がアドバイスを行うことで,教えている児童にとっても 学びになるので,指導者はその行動を肯定的に価値づけ る必要がある。」とコメントがあった。2 時間目以降に その点を意識して相互作用を行ったことにより,「学び 方」および「成果」の得点が向上したと推察される。

しかし,「ゴール型」の授業では単元を通して各項目 の向上があまり見られず,3 時間目以降「停滞」または

「低下」がみられた。特に「成果」において低下がみられ,

課題を達成した後の新たな課題の提示が不十分であるこ とが考えられた。「ネット型」の授業では,全体的に向 上の傾向がみられるものの,「成果」において単元序盤 の得点が 2.0 付近で停滞し他の教材に比べて低かった。

これは,多くの児童が「タッチテニス」教材においてラ ケットでボールを打つ経験が初めてであったため,技能 の伸びの自覚が停滞したものと推察された。加えて,「学 び方」も 2.0 付近で停滞しており,児童が主体的に取り 組める課題の設定と練習方法の工夫が必要であると考え られた。そこで,授業中の児童の姿をよく観察し,「批 判的友人」と検討し合い,児童の技能レベルに合った課 題の設定と,個人技能を高めるドリルゲームを位置づけ るようにした。その結果,4 時間目以降「学び方」およ び「成果」の得点がともに向上していった。

②「診断的・総括的授業評価法」による分析

表 4は,単元前後に実施した「ゴール型」の授業に おける「診断的・総括的評価法」の結果を示している。

図 2 「体つくり運動」における

「体育授業場面期間記録法」の結果

図 3 「ゴール型」における

「体育授業場面期間記録法」の結果

図 4 「ネット型」における

「体育授業場面期間記録法」の結果

28

(5)

単 元 前 の 総 合 評 価 得 点 は 46.77 点 , 単 元 後 の そ れ は 50.10 点であり,10% 水準で有意に向上する傾向が認め られた。各因子では,「情意」において 10% 水準で有意 な差の傾向が,「成果」において 5% 水準で有意な向上 がそれぞれ認められた。

表 5は,「ネット型」の授業における「診断的・総括 的評価法」の結果を示している。単元前の総合評価得点 は 44.14 点 , 単元後のそれは 47.00 点であり,10%水準 で有意に向上する傾向が認められた。各因子では,「成果」

および「学び方」においてそれぞれ 5%水準で有意な向 上が認められた。

「形成的授業評価法」および「診断的・総括的評価法」

表 4 「ゴール型」における「診断的・総括的評価法」の結果

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表 5 「ネット型」における「診断的・総括的評価法」の結果

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図 5 「体つくり運動」における「形成的授業評価法」の結果

図 6 「ゴール型」における「形成的授業評価法」の結果

図 7 「ネット型」における「形成的授業評価法」の結果

29

(6)

の結果が「ネット型」の授業で向上した要因として,「ゴー ル型」の授業の反省を生かして授業中の児童の姿をよく 観察し,「批判的友人」と検討を重ね,児童に合った課 題の設定と,練習方法の工夫を行ったことが考えられる。

すなわち,「診断的授業評価法」を活用することにより,

教師の授業改善の視点が明確になるとともに,どの児童 が運動に対して苦手意識を持っているか客観的に把握す ることができ,苦手意識を持っている児童に対して積極 的に相互作用を行うことが可能となった。その結果,診 断的評価で各項目の点数が低かった児童が総括的評価で 向上したと推察される。また,苦手意識を持っている児 童を中心にモニタリングを行うことにより,児童のつま ずきをよく観察することができるようになった。運動の 苦手な子を中心に授業を設計することで他の児童にとっ ても成功裡な体験を多く経験できるようになり,クラス 全体の総括的評価の項目が向上したことにつながったと 考えられる。

③状況関連的な質的分析

「ゴール型」の授業における「形成的授業評価法」の 結果は,3 時間目以降「停滞」または「低下」する傾向 を示した。この点に関して状況関連的に授業を質的に分 析すると,児童同士のトラブルが起因していると考えら れ,勝つことにこだわる S 児を中心に検討した。S 児は 3 時間目の授業で試合に負け,チームメイトに対して「お 前らのせいで負けた」と発言し,授業の雰囲気が悪くなっ た。A院生が仲裁に入るが,「試合に勝てへんかったら やる意味がない」という S 児の発言に対して,「体育は 勝つことだけがすべてじゃない」と表面的な言葉しか伝 えられていなかった。児童同士のトラブルが起きないよ うにするためには,S 児を中心に,授業のなかでの人間 関係づくりが必要である。児童を信じて思い切って児童 に任せる方法がないか検討された。そこで,教師が試合 時間を毎回計るのではなく児童が見える電子タイマーを 使用してグループでゲームの運営を行わせ,児童同士の 関わりを重視することになった。また,S 児との人間関 係を配慮してペアがつくられた。そうすることで授業者 は相互作用に専念でき,S 児や S 児のチームメイトなど に対して肯定的なフィードバックを多く与えることがで

きるようになった。加えて,子どもが課題を達成したと きにさらに挑戦できる新たな課題を複数準備するように なった。このような手立てが 3 時間目で停滞した形成 的授業評価の得点を向上させることにつながったと推察 される。

3.2 評価観と教育観の形成

(1)ルーブリック評価の作成

「春学期月曜日 1 限共通科目:教育課程編成の理論と 実践」の講義では学習指導案作成とルーブリック評価に ついて学んだ。西岡(2016)は著書『教科と総合学習 のカリキユラム設計』でルーブリックを作る留意点を 6のようにまとめている。「ゴール型」の授業では,辻 ほか(2002)が作成した「評価の枠組み」を参考にA 院生は評価基準を作成した。子どもの姿を評価する視点 が明確になった。次の「ネット型」の授業ではA院生が 表 6を参考に作成した。しかし,A院生は学校現場での 実践経験がなく,子どもたちの姿を具体的に記述するこ とができなかった。また,5 段階の記述を作成すること は難しいことから,2 段階のルーブリック評価の作成か ら取り組むことになった。実際にルーブリック評価に取 り組んでみることで,以前は評価に対して不安や苦手意 識が強かったが,子どもの姿で評価するポイントが少し ずつ理解でき,授業改善に生かすことができるように なった。

(2)パースペクティブ変容

「秋学期月曜 2 限コース別科目:校内研究・研修の理 論と実践」の講義では,パースペクティブ変容の重要性 について学んだ。佐野(2010)は,経験の場や討論の 場を単に設けるだけでは不十分で,経験をもとにした相 互の討論の場を通じて,新たな場面への応用が可能にな るような経験の概念化が促される,過去の経験にとらわ れた特定の「意味パースペクティブ」を変容する契機に することが重要であると述べている。本研究では自分の 見方・考え方に固執してしまわないようにするため,「批 判的友人」を位置づけカンファレンスを行った。「批判 的友人」と共同検討することにより,様々な教育観や授 業観から学ぶことができ,経験が少ないなかでつくられ た暗黙知に対して省察の幅を広げることができた。

表 6 ルーブリックを作る際の留意点

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(7)

3.3 量的および質的な研究手法の活用

「セルフスタディ」は特定の研究手法(メソッド)を 志向するものではなく,研究の方法論であり,目的にあっ た研究手法を選択して用いればよいとされている(武田,

2019b)。今回は「体育授業場面期間記録法」を用いる ことにより,これまで知識として理解していた「構造化 されたマネジメント」を,実際に教えるという行為が伴っ てより深く理解することが可能となった。また,子ども による客観的な授業評価を活用することで,自己の実践 を省察し授業改善の視点が持てるようになった。これら のことから,「セルフスタディ」における量的手法は,

教授行為や学習成果を可視化できる点において有効であ ると考えられる。

一方,状況関連的な質的分析を用いることにより,以 前よりも子どもの学習行動を深く考え,自分なりに読み 解くことができるようになり,次単元の授業設計場面に おいて子どもの姿をイメージして検討できるようになる ことにつながった。「セルフスタディ」における質的手 法は,授業の一般的傾向でなく,目の前にいる子どもに とってどのような意味や価値があるのか,子どもの学び の文脈を捉えて考えることの重要性に気づかせてくれる 点において有効であると考えられる。

3.4  実習を活用したセルフスタディの可能性と今後    の課題

「セルフスタディ」は専門家コミュニティの構築をめ ざしている。本研究では教職大学院の教師教育プログラ ムに即して,A院生の指導教員(研究者教員ならびに実 務家教員)や連携協力校の現職教員である「批判的友人」

を配置することができるとともに,カンファレンスや資 料収集および分析の時間を計画的に設定することができ た。その結果,A院生の授業力量と教員志望が高まると ともに,X大学教職大学院のカリキュラムや授業の改革・

改善に向けて示唆を得ることができた。しかし,実際の 小学校現場では教科教育や教師教育を専門とするスー パーバイザーや「批判的友人」の確保とカンファレンス や分析を行う時間の確保が困難であることは容易に予想 できる。まずは,「セルフスタディ」に取り組んでいる 教師教育者との関係づくりが必要である。教職大学院の ネットワークを活用したり,民間教育団体や地域の研究 会などに自らが積極的に参加したりして,教師教育者と

「教えることについて学ぶ」機会をもち,学び続ける同 志としての批判的友人を校内外につくることが重要であ る。今後,学校現場で実践できる「セルフスタディ」を 探究していきたい。

4 結論

本研究では,採用前段階における学部新卒学生が自律 的に授業力量を形成していくプロセスを検討するため に,「セルフスタディ」の方法を用いてどのように自ら の授業力量を形成するかについて,「授業設計力」,「授 業展開力」および「授業評価力」の 3 つの側面から検

討した。得られた結果の大要は以下のとおりである。

1) 作成した複数の学習指導案を評価した結果,「指導 目標の把握」や「授業展開の構成」で子どもの姿を もとに単元を通して段階的に指導計画を立てられる ようになり得点が向上した。

2) 「体育授業場面期間記録法」を用いて分析した結果,

「運動学習」の場面を概ね 50% 以上確保でき,「マネ ジメント」の場面の割合を 20% 以下におさえること ができた。

3) 子どもからの客観的な授業評価を用いることで,多 角的に授業改善の視点が持てるようになった。加え て,子どもにとってどのような意味があったかとい う観点での評価ができるようになった。

4) 「状況関連的な質的分析」を用いて自分の授業を分 析したことにより,以前よりも子どもの学習行動を 状況関連的に分析できるようになり,授業設計や授 業評価の場面で子どもの姿をイメージした検討会を 行うことができるようになった。

5) 以上のことから,本研究で用いた「セルフスタディ」

の手法は,採用前段階の院生の授業力量を高める有 効な方法であることが示唆された。

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