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対人関係の進展段階における自己開示に関する研究
キーワード:人づきあい,自己開示,返報性,親和欲求と拒否不安,対人関係の良好さ 行動システム専攻 瓜生 佑樹 Ⅰ.問題と目的 1.研究の背景 近年,社会に出て活躍する上で必要な能力として,対人 関係を円滑に営むためのスキルが重要視されており(経済産 業省, 2010),大学時代に良好な対人関係を営むことは非常 に重要である。 しかしながら,その一方で,ある程度までは他者と仲良 くなることができても,さらに一歩進んだ関係に発展させ ることができない若者が増えており(土井, 2004),対人関係 を進展させることを困難に感じている人も少なくない。 こうした現状をふまえ,本研究では,以下の3 点につい て明らかにすることで,友人とより親密になり,良好な対 人関係を営むために有用な知見を得ることができると予想 される。 2.本研究で明らかにすること (1) 友人とのつきあい方 我々の対人関係を振り返ってみると,自分から友人に働 きかけるつきあい方(能動的人づきあい)をする人と,友人か らの働きかけに応じるつきあい方(受動的人づきあい)をす る人がいる。従来の研究では,こうした観点から友人との つきあい方について検討されていない。 したがって,自分から友人に働きかける人と,友人から の働きかけに応じる人の特徴について明らかにする。 (2) 返報の重要性が他者への働きかけに及ぼす影響 我々は,自分が他者に対して働きかけた場合,相手から 同様の行為が返報されることを期待しており(互恵モデル; 奥田, 1994),また,相手の返報に応じて,他者への働きか けを調整していることが明らかにされている(社会的交換理 論; Homans, 1961)。つまり,他者への働きかけは,報酬(返 報)の獲得を目的とした行動と言える。 ところで,我々は何を基準として,他者への働きかけを 調整しているのだろうか。 Atkinson(1964)の達成動機理論によれば,我々は報酬の 獲得を目的とした行動をする際,報酬の重要性(need)に基づ いて行動を調整することが明らかにされている。 研究1 では,他者への働きかけを,報酬(返報)の獲得を目 的とした行動として捉え,以下の仮説を検討する。 仮説 1:相手からの報酬(返報)を望む人ほど,友人によ く働きかけを行うだろう。 (3) 返報の見込みが自己開示に及ぼす影響 また,Atkinson は,報酬が獲得される見込み(expectancy) も,報酬の獲得を目的とした行動に影響を及ぼすことを明 らかにしている。 研究2 では,他者への働きかけの中でも,対人関係の進 展に重要な役割を果たすとされる自己開示に着目し,以下 の仮説を検討する。 仮説 2:相手からの返報を高く見込む人ほど,友人に対 して自己開示をよく行うだろう。 Ⅱ.研究1 1.調査方法 (1) 調査手続き 大学生と大学院生182 名(男性 76 名,女性 106 名,平均 年齢20.3 歳)に対して質問紙調査を実施した。 (2) 質問紙の構成 以下の5 項目について回答を求めた。なお,(b)~(e)の項 目については7 件法で測定した。また,因子分析の結果, (b)~(e)の尺度について,以下のように因子が抽出された。 (a) 友人への働きかけ方 友人とのつきあいにおける, 「自分から友人に働きかけること」と「友人からの働きかけ に対して応じること」の割合について尋ねた。 (b) 友人との交友願望 友人との交友願望について尋ね た(13 項目)。因子分析の結果,「悪口や陰口を言われていな いか不安だ」などの第1 因子を「対人不安」(α=.90),「他者と つきあうのが好きである」などの第2 因子を「親和欲求」(α =.86)とした。 (c) 対人関係の良好さ 「現在の対人関係は良好である」 など,自分の現在の対人関係がどの程度良好であると感じ ているかということについて尋ねた(3 項目)。因子分析の結 果,1因子が抽出され,「対人関係の良好さ」とした(α=.80)。 (d) 友人に対する受容 「好意を示すこと」など,友人に対 して,どの程度受容的な態度を示しているかということに ついて尋ねた(4 項目)。因子分析の結果,1 因子が抽出され, 「友人への受容的な働きかけ」(α=.76)とした。- 2 - (e) 友人からの受容願望 「好意を示してもらいたい」な ど,友人からどの程度受容されたいと望んでいるかという ことについて尋ねた(4 項目)。因子分析の結果,1 因子が抽 出され,「友人からの受容願望」(α=.81)とした。 2.調査結果および考察 (1) 能動的人づきあい群と受動的人づきあい群の比率 友人とのつきあいにおいて,73 名が「自分から友人に働 きかけること」の方が多いと回答し(以下,「能動的人づきあ い群」とする),109 名が「友人からの働きかけに対して応じ ること」の方が多いと回答した(以下,「受動的人づきあい群」 とする)。 このように,受動的人づきあい群が全体の約60%を占め ており,大学生は,友人からの働きかけに応じるつきあい 方をする人の方がやや多い傾向にあることがうかがえる。 (2) 両群の交友願望と対人関係の良好さにおける特徴 友人とのつきあい方によって,交友願望(親和欲求および 対人不安),対人関係の良好さにそれぞれどのような特徴が 見られるかを明らかにするため,これらの項目について t 検定を行った(Table.1) 能動群 受動群 t 値 1. 親和欲求 4.59 4.29 1.69* 2. 対人不安 4.50 4.53 0.17 3. 対人関係の良好さ 4.49 3.95 3.05** Table.1 交友願望と対人関係の良好さの両群間比較 注1) *
p
<.10 **p
<.01 交友願望 親和欲求は,能動的人づきあい群の方がやや 高かったものの,対人不安については,友人とのつきあい 方の違いによる差異はほとんど見られなかった。 また,親和欲求と対人不安はやや高い相関を示しており (r=.54, p<.01),親密になりたいと思いつつも,同時に拒否 されることなどに対する不安を感じるといったように,親 和欲求と対人不安はアンビヴァレントな感情であることが 考えられる。 対人関係の良好さ 対人関係の良好さの感じ方について は,友人とのつきあい方による差異が顕著に見られた。こ のことから,対人関係の良好さの感じ方が,能動性を規定 する要因である可能性がうかがえる。 では,なぜこのように顕著な差異が見られたのだろうか。 ここで,親和欲求と対人不安が対人関係の良好さに及ぼす 影響を検討するため,親和欲求と対人不安を独立変数,対 人関係の良好さを従属変数とする重回帰分析を実施した (Table.2)。 その結果,いずれの群においても,親和欲求は正の効果 を持っていたが,受動的人づきあい群においては,対人不 安が負の効果を持っていた。こうした影響の及ぼし方の違 いにより,対人関係の良好さの感じ方に差異が生じている 可能性が考えられる。 このことから,いずれの群においても対人不安の感じ方 に差異はないものの,能動的人づきあい群の方が,対人不 安にうまく対処しているのではないかと推察される。 能動群 受動群 親和欲求 .47** .63** 対人不安 -.19 -.35**R
2 .18 .29 対人関係の良好さ Table.2 対人関係の良好さに影響を及ぼす要因の検討 注1) ** p<.01 (3) 働きかけの特徴 友人とのつきあい方によって,友人に対する受容と,友 人からの受容願望にそれぞれどのような特徴が見られるか を明らかにするため,これらの項目についてt 検定を行っ た(Table.3)。 能動群 受動群t
値 1. 友人に対する受容 4.73 4.59 0.98 2. 友人からの受容願望 5.05 4.95 0.63 Table.3 受容に関する両群間比較 分析の結果,これらの項目について,両群間に差異は見 られなかった。 このことから,友人とのつきあい方が,能動的であるか 受動的であるかという違いはあれど,友人に対する受容や, 友人からの受容願望の程度はほとんど変わらないというこ とがうかがえる。 (4) 働きかけにおける返報性の規範 また,友人に対する受容に影響を及ぼす要因について検 討するため,友人からの受容願望,親和欲求,対人不安の3 項目を独立変数,友人への受容的な働きかけを従属変数と する重回帰分析を実施した(Table.4)。 能動群 受動群 友人からの受容願望 .52** .23* 親和欲求 .15 .42** 対人不安 -.06 -.12R
2 .32 .25 友人に対する受容 Table.4 友人に対する受容に影響を及ぼす要因の検討 注1) *p
<.05 **p
<.01 分析の結果,いずれの群においても,友人からの受容願 望が友人に対する受容に正の効果を持っていた。受動的人 づきあい群においては,親和欲求も正の効果を持っていた。- 3 - このように,我々は友人からの返報を望むほど,友人に 対して働きかけを行っていることがうかがえる(仮説 1 の支 持) Ⅲ.研究2 1.研究方法 (1) 調査手続き 大学生と大学院生167 名(男性 83 名,女性 80 名,平均年 齢21.6 歳)に対して質問紙調査を実施した。 (2) 質問紙の構成 以下の6 項目について回答を求めた。なお,(b)~(g)の項 目については5 件法で測定した。また,因子分析の結果, (b)~(g)の尺度について,以下のように因子が抽出された。 (a) 友人とのつきあい方 日常生活における友人とのつ きあいにおいて,「自分から友人に積極的に働きかける」方 であるか,「友人からの働きかけに受け身的に応じる」方で あるかについて尋ねた。 (b) 対人関係の良好さ 現在の自分の対人関係がどの程 度良好であると感じているかということについて尋ねた(7 項目)。因子分析の結果,「現在の対人関係がこのまま続けば よいと思う」などの第 1 因子を「対人関係に対する満足度」 (α=.85),「私は対人関係を円滑に営むことができる」などの 第2 因子を「対人関係スキル」(α=.70)とした。 (c) 楽観性 「失敗したり,困ったことが起きたりしても, あまり気にしない方だ」など,物事を認識する際,どの程度 楽観的に考えているかということについて尋ねた(7 項目)。 因子分析の結果,1 因子が抽出され,「楽観性」(α=.83)とし た。 (d) ネガティブ感情 「嫌われたのではないかと思うだろ う」など,友人に話をした(自己開示を行った)にもかかわら ず,期待した反応が得られなかった場合に抱くと考えられ るネガティブ感情について尋ねた(8項目)。因子分析の結果, 1 因子が抽出され,「ネガティブ感情」(α=.87)とした。 (e) 友人に対する自己開示 友人に対してどの程度自己 開示を行っているかということについて尋ねた(10 項目)。 因子分析の結果,1 因子が抽出され,「友人に対する自己開 示」(α=.83)とした。 (f) 友人からの返報の見込み 友人に対して自己開示を 行った場合,友人がどの程度返報を行ってくれると考えて いるかということについて尋ねた(10 項目)。因子分析の結 果,1 因子が抽出され,「友人からの返報の見込み」(α=.89) とした。 (g) 友人からの開示に対する返報 友人から開示をされ た場合に,自分はどの程度返報を行っているかということ について尋ねた(10 項目)。因子分析の結果,1 因子が抽出さ れ,「友人の開示に対する返報」(α=.88)とした。 2.調査結果および考察 (1) 友人とのつきあい方の傾向 友人とのつきあい方について,69 名が「自分から友人に 積極的に働きかける」方であると回答し(能動的人づきあい 群),98 名が「友人からの働きかけに受け身的に応じる」方で あると回答した(受動的人づきあい群)。 このように,受動的人づきあい群が全体の約60%を占め ており,大学生は,友人からの働きかけに応じるつきあい 方をする人の方がやや多い傾向にあるという研究1 で得ら れた知見をさらに裏付ける結果が得られた。 (2) 両群の対人関係の良好さ,楽観性,ネガティブ感情にお ける特徴 友人とのつきあい方によって,対人関係に対する満足度, 対人関係スキル,楽観性,期待した反応が獲得されなかっ た場合に生じるネガティブ感情の感じ方に,それぞれどの ような特徴が見られるかを明らかにするため,これらの項 目について,t検定を行った(Table.5)。 能動群 受動群 t 値 1. 対人関係に対する満足度 3.72 3.36 2.72** 2. 対人関係スキル 3.37 2.67 5.45** 3. 楽観性 2.99 2.79 1.38 4. ネガティブ感情 2.98 3.07 0.66 Table.5 対人関係の良好さ,楽観性,ネガティブ感情の両群間比較 注1) ** p <.01 分析の結果,対人関係に対する満足度および対人関係ス キルについては,能動的人づきあい群の方が高かった。ま た,楽観性とネガティブ感情に関しては,友人とのつきあ い方による差異は見られなかった。 このように,対人関係の良好さの感じ方において,友人 とのつきあい方による差異が見られ,研究1 で得られた知 見をさらに裏付ける結果が得られた。 (3) 自己開示の特徴 友人とのつきあい方によって,友人に対する自己開示, 自己開示に対する友人からの返報の見込み,友人からの開 示に対する返報に,それぞれどのような特徴が見られるか を明らかにするため,これらの項目についてt 検定を行っ た。(Table.6)。 能動群 受動群 t 値 1. 友人に対する自己開示 3.39 2.97 4.20** 2. 友人からの返報見込み 3.34 3.19 1.25 3. 友人からの開示に対する返報 3.81 3.58 2.18* Table.6 自己開示に関する両群間比較 注1) * p<.05 ** p<.01
- 4 - 分析の結果,能動的人づきあい群の方が,友人に対する 自己開示と,友人からの開示に対する返報について高かっ た。 (4) 友人からの返報の見込みに影響を及ぼす要因の検討 自己開示に対する友人からの返報の見込みに影響を及ぼ す要因を検討するため,「友人からの開示に対する返報」, 「対人関係に対する満足度」,「対人関係スキル」,「楽観性」 を独立変数,「自己開示に対する友人からの返報の見込み」 を従属変数とする重回帰分析を実施した(Table.7)。 能動群 受動群 友人からの開示に対する返報 .56** .63** 対人関係に対する満足度 -.18 .17* 対人関係スキル .05 .04 楽観性 .20* -.05 R2 .23 .48 友人からの返報見込み Table.7 友人からの返報の見込みに影響を及ぼす要因の検討 注1) * p <.10 ** p <.01 分析の結果,どちらの群においても,友人からの開示に 対する返報が正の効果を持っていた。 この結果は,従来の研究で明らかにされていた,返報性 の規範の存在を裏付けるものであると言える。 (5) 友人に対する自己開示に影響を及ぼす要因の検討 友人に対する自己開示に影響を及ぼす要因を検討するた め,「友人からの返報の見込み」と「ネガティブ感情」を独立 変数,「友人に対する自己開示」を従属変数とする重回帰分 析を実施した(Table.8)。 能動群 受動群 友人からの返報見込み .15 .48** ネガティブ感情 .15 .00