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外傷全身CT撮影における被ばく線量(CTDIvolとDLP)の国内実態調査

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背  景

2009 年 に Huber-Wagner ら 1)は 外 傷 全 身 CT 施 行 例のほうが未施行例と比較した際,標準死亡率には統 計学的有意差を認めたと Lancet 誌に報告し,外傷患 者に対する全身 CT 撮影の有用性が日本国内でも注目 されるようになった。 2010 年度の診療報酬改定で外傷全身 CT 加算が新 設され,施設基準を満たした施設では頭部から骨盤ま での範囲を撮影する,外傷全身 CT を施行するように なった。 そ こ で 2012 年 に『 外 傷 初 期 診 療 ガ イ ド ラ イ ン JATEC TM(改訂第 4 版)』 2)に外傷全身 CT の撮影方 法について記載されたが,「日本救急撮影技師認定機 構による外傷患者の体幹部 CT 撮影条件アンケート調 査」 3)によると高エネルギー外傷患者に対する体幹部 の撮影方法(撮影時相や撮影条件など)は各施設で大 きく異なっているとの報告もある。したがって,現在 施設間で患者被ばくに少なからず差が出ていることが 予想される。 一方,医療分野における放射線被ばく防護に関する 最近の動向としては,放射線診療における施設・機 器・頻度・被ばく線量・リスク評価に関するデータを収 集し,わが国の医療被ばくの実態把握を行うとともに, ほかの先進国と同程度の医療被ばく管理体制を国内に 構築することを目指した,医療被ばく研究情報ネット ワーク(Japan Network for Research and Information  on Medical Exposure;J-RIME)が,日本医学放射線 学会をはじめとした放射線診療に関連する 14 の団体 会員のもと,2010 年 3 月に設立された。 J-RIME は 2015 年にわが国初となる医療被ばくの線 量指標を示した,診断参考レベル diagnostic reference  levels 2015(以下,DRLs 2015) 4)を発表した。 CT 検査の診断参考レベル diagnostic reference level (以下,DRL)には CT 装置の線量指標である volume  CT dose index(以下,CTDIvol)および dose length  products(以下,DLP)が利用される。2 つの線量指 標は CT 装置の基礎安全および基本性能の規格(CT Research for CTDIvol and DLP, to clarify radiation dose  of whole-body CT for trauma in Japan

Takayuki  MIYAYASU,  Ichiro  FUJIMURA,  Jyunpei  SUZUKI, Keishi OGURA, Masami TASHIRO, Yoshihiro  TANAKA, Isamu OOBO, Noriaki AKAGI, Takayuki  IGARASHI, Keiji SAKASHITA Department of Radiology, Kobe Red Cross Hospital 神戸赤十字病院放射線科部 〔原稿受付日:2018 年 9 月 27 日 原稿受理日:2019 年 8 月 19 日〕 【要旨】 目的:外傷全身 CT を施行された症例の被ばく線量(CTDIvol と DLP)の全国調査を 行い,国内の外傷全身 CT の被ばく線量の現状を明らかにすること。方法:全国の救命救急セ ンター 284 施設を対象とした。日本救急撮影技師認定機構が運用しているメーリングリストを 用いて調査フォームを送付し,回答を得た。このうち標準的体形と考えられる体重 50 〜 60kg 群について被ばく線量の解析を行った。結果:55 施設,症例数 1,630 例の回答が得られた。体 重 50 〜 60kg 群は 346 症例であった。頭部から骨盤部まで造影剤を用いて 2 相撮影されたもの は 111 例であり,中央値 4,723.8mGy・cm,最小値 1,766.8mGy・cm,最大値 12,921.3mGy・cm であった。最大値 / 最小値は 7.31 であった。結語:外傷全身 CT は症例ごとに撮影範囲が異な るため単純な比較はできないが,被ばく線量の格差が生じていることが示唆された。 索引用語:外傷全身 CT,CTDIvol,DLP,被ばく線量の格差

外傷全身 CT 撮影における

被ばく線量(CTDIvol と DLP)の国内実態調査

宮安 孝行  藤村 一郎  鈴木 淳平  小倉 圭史  田代 雅実 田中 善啓  大保  勇  赤木 憲明  五十嵐隆元  坂下 惠治 調査・報告

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装置の安全規格)により,スキャン計画前およびスキャ ン終了後に操作モニターに表示することが義務づけら れている 5) CTDIvol は,断面上の点の平均的な線量(空気カー マ)を表した CTDIw をX線ビーム幅に対する寝台移 動量で除したものである。 また DLP は 1 回の検査で被験者が受ける総線量の ことで,CTDIvol 値に照射された範囲の長さを乗じ たものである 6) 国内の施設では,DRLs 2015 に記載された数値を 参考として,放射線防護への関心が高まっている。し かしながら,DRLs 2015 の中には外傷全身 CT 撮影に 関する記載はなく,日本国内の外傷全身 CT の被ばく 線量について記載された報告もない。

目  的

外傷全身 CT を施行された症例の被ばく線量(CT 装置に表示される CTDIvol と DLP)の全国調査を行 い,国内における外傷全身 CT の被ばく線量の現状を 明らかにすること。

調査方法

1. 対象施設 全国に救命救急センターとして登録している,284 施 設(日本救急医学会ホームページ参照;2017 年 6 月 8 日時点) 7)を対象とした。 2. 募集方法 日本救急撮影技師認定機構に協力を依頼し,機構が 管理しているメーリングリストに案内文を送信し,調 査協力を依頼した。本研究に賛同した対象施設の施設 担当者に調査フォームを送信し,調査項目を入力して もらい,回答を得た。 3. 対象期間 原則として,2017 年 8 月 1 日〜 11 月 30 日の 4 カ 月間。 4. 対象症例 鈍的外傷により多発外傷を疑い,外傷全身 CT(頭 部から少なくとも骨盤部まで)を施行された症例。 5. 調査項目 装置情報として,以下の項目の調査を行った。 ①使用している装置名とソフトウエアのバージョン ②外傷全身 CT の基本的な撮影条件 対象症例について,以下の項目の調査を行った。 ①背景情報:年齢,性別,身長,体重 ②撮影された部位,造影検査での撮影時相(1 相撮 影 or 多相撮影) ③ CT 検査終了後に装置に表示される CTDIvol, DLP 6. 倫理承認 本研究は神戸赤十字病院倫理委員会にて承認された (受付番号 78)。この結果を協力施設に送付し,各施 設にて倫理承認の取得,もしくは倫理委員会のない施 設には該当部署の責任者に了承をして頂き,必要な情 報を取得した。

アンケート回収率

今回の調査では 55 施設より回答があった。回収率 は 19.3%(55/284)であった。また対象症例は 1,630 例であった。

評価方法

DRLs 2015 の中で CT の線量評価は,成人患者の 50 〜 60kg を標準体格と定めていた。 今回はこの方法に準じて,対象症例のうち 50 〜 60kg の体重群を抽出した。 また CT 装置に表示される CTDIvol の値について, 国 際 電 気 標 準 会 議(International Electrotechnical  Commission;IEC) が 制 定 す る 国 際 規 格,IEC2-44Ed.3.0 の項番「201.3.214,2)」では,位置決め撮影画 像を基に被写体の X 線透過度を推定し,管電流を自 動的に変調する自動露出機能,CT-Auto Exposure  Control(以下,CT-AEC)を用いて撮影した場合には, 「CTDIvol が変化する場合には,時間によって重みづ けした CTDIvol の平均を用いる」ことが規定されて いる。しかしそれ以前はとくに規定されていなかった ため,装置のバージョンによっては最大値を表示する 装置も存在する 5) 今回は最大値表記のバージョンで撮影された症例 は,すべて対象外とした。 50 〜 60kg の体重群を抽出し,上記の装置で撮影さ れたものは除外したため,対象症例は 346 例(男性 214 例,女性 132 例)になった。 本研究の目的は外傷全身 CT 実施時の線量調査では

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あるが,各施設での撮影方法は多岐にわたっており, すべての項目が撮影されていないものも散見された。 そのため集計をするにあたり, ①撮影部位ごとの CTDIvol,DLP ②外傷全身 CT(頭部から骨盤まで撮影されており, かつ造影剤使用により 2 相撮影されているもの。 ただし下肢まで撮影されているものは除く)の DLP〔mGy・cm〕の合計値 を集計し,統計学的解析を行った。 ①について,撮影部位は「頭部」「頸椎」「頭頸部一 連」「体幹部 単純」「体幹部 造影 2 相」について集 計を行った。ここで表記する「体幹部」について,『外 傷初期診療ガイドライン JATEC TM(改訂第 4 版)』 では,頸部血管から骨盤まで撮影を行うと記載されて いる。今回の調査では各症例の具体的な撮影範囲まで 回答欄を指定していなかったため頸部まで撮影してい るかどうか判断がつかなかったが,ガイドラインどお り「体幹部 造影 2 相」には頸部まで含まれているも のとして集計した。また,「頭部」と「頸椎」を別々 にされたものと「頭頸部一連」の被ばく線量を比較す るために,「頭部」と「頸椎」を別々に撮影されてい る症例の DLP を足したものと,「頭頸部一連」で撮影 された症例の DLP について,比較検討を行った。 ここで「頭頸部一連」とは,頭部と頸椎を一度に撮 影されているものであるが,一部のメーカーの装置に は,撮影中に移動する寝台を止めることなく条件を変 化させることができるバリアブルヘリカルピッチ(以 下,vHP)と呼ばれる撮影方法がある 8) 「頭頸部一連」で検査されている症例については, vHP を使用しているものと使用していないものとの 比較検討を行った。検定には Mann-Whitney U 検定 を用い,p<0.05 をもって有意とした。 ②について,外傷全身 CT の撮影方法は施設ごとに 大きく異なっていた。そこでまず,症例ごとの外傷全 身 CT の DLP 合計値を統計解析した。次に撮影方法 ごとに分けたものを統計解析した。撮影方法は,「頭 部,体幹部 単純+造影 2 相」「頭部,体幹部 造影 2 相」「頭頸部一連,体幹部 単純+造影 2 相」「頭頸 部一連,体幹部 造影 2 相」「頭部,頸椎,体幹部  単純+造影 2 相」「頭部,頸椎,体幹部 造影 2 相」 の 6 種類に分類した。 今回の統計解析において,解析ソフトはすべて EZR を使用した。EZR は R および R コマンダーの機 能を拡張した統計ソフトウエアであり,自治医科大学 附属さいたま医療センターのホームページで無料配布 されている 9)

結  果

1. 撮影部位ごとの CTDIvol,DLP について 撮影部位ごとにまとめた CTDIvol の結果を表 1, 図 1 に示す。また,同様に DLP の結果を表 2,図 2 に示す。 各部位で,CTDIvol の最大値 / 最小値は 12.86 〜 44.26,DLP の最大値 / 最小値は 7.26 〜 63.87 となっ ており,施設間で被ばく線量の格差が生じている結果 となった。 「頭部」+「頸椎」の DLP の総和と,「頭頸部一連」 の DLP を比較した結果を図 3 に示す。両者の差につ いて検定を行うと,p 値は 0.05 以下になった。頭頸部 を一連で撮影するよりも,「頭部」と「頸椎」を分け て撮影したほうが有意に少ない結果となった。 「頭頸部一連」撮影において,vHP の有無で比較し た結果を図 4 に示す。 「vHP なし」と「vHP あり」で両者の差について検 定を行うと,CTDIvol,DLP ともに p 値が 0.05 以下 になり,vHP を用いたほうが被ばく線量は少なく, その差は有意であった。 表 1 部位ごとの CTDIvol の集計結果

部 位 症例数 〔mGy〕最小値 〔mGy〕25% 〔mGy〕中央値 〔mGy〕75% 〔mGy〕最大値 / 最小値最大値 頭部 206 11.20 57.65 70.90 86.85 144.00 12.86 頸椎 113 7.17 13.48 21.43 30.93 96.00 13.39 頭頸部一連 131 14.10 57.00 68.60 93.70 221.20 15.69 体幹部 単純 221 5.70 12.34 15.68 22.00 77.50 13.60 体幹部 造影 2 相 113 7.84 13.77 20.50 33.10 347.00 44.26

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頭部 (n=206) (n=113)頸椎 頭頸部一連 (n=131) 体幹部 単純 (n=221) 体幹部 造影 2 相 (n=113) 100 200 300 400 (mGy) 図 1 部位ごとの CTDIvol の集計結果 CTDIvol: 断面上の点の平均的な線量(空気カーマ)を表した CTDIw をビームピッチで 除したもの 頭部 (n=206) (n=113)頸椎 頭頸部一連 (n=131) 体幹部 単純 (n=221) 体幹部 造影 2 相 (n=113) 2,000 4,000 6,000 8,000 (mGy・cm) 表 2 部位ごとの DLP の集計結果

部 位 症例数 〔mGy・cm〕最小値 〔mGy・cm〕25% 〔mGy・cm〕中央値 〔mGy・cm〕75% 〔mGy・cm〕最大値 / 最小値最大値 頭部 206 54.20 1,024.30 1,300.73 1,739.33 3,461.80 63.87 頸椎 113 120.80 337.90 530.70 950.01 2,409.30 19.94 頭頸部一連 131 592.00 2,066.20 2,495.90 2,892.05 6,446.50 10.89 体幹部 単純 221 503.50 992.64 1,259.44 1,592.66 3,657.30 7.26 体幹部造影 2 相 113 613.60 1,674.00 2,066.00 3,201.30 6,168.60 10.05 図 2 部位ごとの DLP の集計結果 DLP:1 回の検査で被験者が受ける総線量 この値は CTDIvol に照射された範囲の長さを乗じたもの

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2. 外傷全身 CT の DLP 合計値について 今回対象 346 例のうち,頭部から骨盤部まで造影剤 を用いて 2 相撮影されているものは 111 例であった。 111 例すべての DLP 合計値の結果を表 3 に示す。中 央値は 4,723.8mGy・cm,最小値は 1,766.8mGy・cm, 最大値 12,921.3mGy・cm であった。最大値 / 最小値は 7.31 であった。また撮影方法ごとに分類したものを表 4,図 5 に示す。中央値で比較すると,DLP 合計値で 一番小さかったものは「頭部&体幹部 2 相」であり, 一番大きかったものは「頭部&頸椎&体幹部 単純+ 造影 2 相」であった。

考  察

外傷全身 CT の撮影方法は,『外傷初期診療ガイド ライン JATEC TM(改訂第 4 版)』に掲載され,また日 本放射線技術学会『放射線医学技術学叢書(27)X 線 CT 撮 影 に お け る 標 準 化 〜 GALACTIC 〜( 改 訂 2 版)』 10)にも記載されているが,今回の調査では施設に 頭部+頸椎 (n=21) 頭頸部一連(n=131) 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 (mGy・cm) *p<0.05 * vHP なし (n=109) vHP あり(n=22) 300 250 200 150 100 50 (mGy・cm) *p<0.05 * vHP なし (n=109) vHP あり(n=22) 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 (mGy・cm) *p<0.05 * 【CTDIvol】 【DLP】 図 3 「頭部+頸椎」と「頭頸部一連」の DLP 比較 DLP:1 回の検査で被験者が受ける総線量 この値は CTDIvol に照射された範囲の長さを乗じたもの 図 4 頭頸部一連撮影におけるバリアブルヘリカルピッチ(vHP)使用の有無による比較 vHP:天板を止めずに撮影条件を変化させることができる撮影方法

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よって撮影方法が大きく異なることが明らかになった。 とくに異なっていたのが頸椎撮影であった。頸椎の み撮影するのか,また頭部から連続で撮影するのか, 体幹部撮影に含めて撮影し,後で画像再構成を行い評 価しているかという,3 つに分かれていたと思われる。 今回,「頭部」と「頸椎」の DLP を足したものと,「頭 頸部一連」の DLP を比較したが,「頭部」と「頸椎」 の DLP を足したもののほうが,DLP は有意に小さく なっていた。これは頭部を評価するには十分な撮影線 量が必要であるが,頸椎の評価には頭部よりも撮影線 量を必要としない。しかし頭頸部一連で撮影する場合, 頭部の条件のままで頸椎まで撮影されていた症例が多 く,結果として,被ばく線量に差が出てしまったので はないかと思われる。 表 3 外傷全身 CT の DLP 合計値:全例総計 症例数 最小値

〔mGy・cm〕 〔mGy・cm〕25% 〔mGy・cm〕中央値 〔mGy・cm〕75% 〔mGy・cm〕最大値 / 最小値最大値 全例 総計 111 1,766.8 3,582.6 4,723.8 6,728.14 12,921.3 7.31

表 4 外傷全身 CT の DLP 合計値(撮影方法別)

部位 症例数 〔mGy・cm〕最小値 〔mGy・cm〕25% 〔mGy・cm〕中央値 〔mGy・cm〕75% 〔mGy・cm〕最大値 / 最小値最大値 頭部&体幹部 単純+造影 2 相 18 3,127.00 4,206.99 4,506.35 5,199.53 6,206.75 1.98 頭部&体幹部 造影 2 相 20 2,300.10 2,605.45 2,816.20 3,174.85 4,299.30 1.87 頭頸部一連&体幹部 単純+造影 2 相 15 3,366.80 4,479.75 5,158.30 7,072.60 9,564.00 2.84 頭頸部一連&体幹部 造影 2 相 22 1,766.80 4,298.40 5,670.41 8,242.20 9,701.70 5.49 頭部&頸椎&体幹部 単純+造影 2 相 31 2,992.00 4,366.64 5,739.60 7,430.30 12,921.30 4.32 頭部&頸椎&体幹部 造影 2 相 5 4,621.20 5,173.20 5,622.20 6,306.00 6,677.38 1.44 * DLP:1 回の検査で被験者が受ける総線量 この値は CTDIvol に照射された範囲の長さを乗じたもの 頭部 体幹部 単純造影 (n=18) 頭部 体幹部 造影 (n=20) 頭頸部一連 体幹部 単純造影 (n=15) 頭頸部一連 体幹部 造影 (n=22) 頭部 頸椎 体幹部 単純造影 (n=31) 頭部 頸椎 体幹部 造影 (n=5) 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 (mGy・cm) 図 5 外傷全身 CT の DLP 合計値(撮影方法別)

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もし頭頸部一連で撮影する場合は,一部の装置のみ でしか使用できないが,vHP を用いることで有意に 被ばく線量を少なくすることができていたため,vHP を利用できる施設は積極的に活用されることを期待し たい。また,表 1,2 では同様の撮影部位で比較して いるが,すべての部位で最大値 / 最小値の値が大きい 結果となった。CT 装置の種類に関して,佐藤ら 11) 同一のファントムを用いて,6 施設 12 装置で日常使 用している体幹部 1 相撮影の撮影条件での DLP を比 較した場合に,最小値は 496.2mGy・cm,最大値は 1,480.0mGy・cm,最大値 / 最小値は 2.98 であったと 報告している。つまり CT 装置の種類や撮影条件で被 ばく線量はこれだけ変化する可能性があるといえる。 さらに外傷患者の場合,バックボードに乗せたまま 撮影するかどうかで被ばく線量が大きく変わる。 Loewenhardt ら 12)は,バックボードの種類にもよる が,バックボードを使用していない場合と比較して 2.5 〜 4.5%ほど被ばく線量が増加すると報告してい る。 体幹部撮影においては,上肢の位置でも被ばく線量 は変化する。Karlo ら 13)は,上肢を挙上せず身体の横 に置いて撮影した場合,30.2%被ばく線量が増加した と報告している。 今回の調査では,バックボードの有無や種類,上肢 挙上の有無について十分に調査ができていなかったた め推測にはなってしまうが,これらの理由も最大値 / 最小値の値が大きくなっていた要因ではないかと推測 される。さらに,DLP は撮影範囲と相関関係にある ため,同一の撮影部位でも設定する長さの違いにより 少なからず差は生じているものと思われる。 外傷全身 CT の症例ごとの DLP 合計値について, 表 3 より中央値は 4,723.8mGy・cm,最大値 / 最小値 は 7.31 となっていた。外傷全身 CT は受傷機転や臨 床所見などにより撮影範囲が変わるため単純に比較す ることはできないが,この差は少なくないと考える。 その原因としては撮影方法の違いも影響していると考 える。 撮影方法別の線量結果より,「頭部&体幹部 2 相」の 撮影方法が中央値の比較で一番小さかった。JATEC TM や GALACTIC には,「頭頸部一連&体幹部 2 相」の 撮影方法が掲載されているが,今回の結果では外傷全 身 CT 撮影を行う場合,「頭部&体幹部 2 相」が患者 被ばくにも考慮された撮影方法であった。外傷全身 CT 加算が算定される 64 列以上の高機能 CT であれ ば,体幹部撮影からの画像再構成で頸椎を評価するこ とは難しくないと思われる。外傷診療の手順として頸 椎を評価してから体幹部の評価を行う施設も多いと思 われるが,撮影回数が増えるほど被ばく線量も大きく なるため,頸椎の評価をどのようにして行うのか各施 設で検討されることを期待したい。 最後に外傷全身 CT は多発外傷を契機とした重症患 者に行われる撮影法であり,損傷を迅速に,また的確 に描出できる撮影方法でなければならない。外傷患者 は受傷機転や損傷形態も千差万別であるため,撮影方 法の標準化を行うのは難しいと思われる。しかし放射 線被ばくを伴う検査でもあるため,今後各施設でさま ざまな検討が行われて,外傷全身 CT について被ばく 線量にも考慮された,撮影方法の標準化が進むことを 期待したい。

結  語

外傷全身 CT を施行された症例の被ばく線量の全国 調査を行った。DLP の中央値は 4,723.8mGy・cm,最 小値は 1,766.8mGy・cm,最大値 12,921.3mGy であっ た。最大値 / 最小値は 7.31 であり,撮影方法により 被ばく線量の格差が生じていることが示唆された。今 後,被ばく線量にも考慮された,撮影方法の標準化が 進むことを期待したい。

利益相反

本研究は,日本救急撮影技師認定機構より研究調査 助成費を頂き,「外傷全身 CT 撮影における被ばく線 量(CTDIvol と DLP)の実態調査」WG として,調 査活動を行った。 謝 辞 アンケート調査に協力頂きました施設担当者の皆様, 地区担当としてアンケート収集に協力頂きました WG の 皆様,研究助成を頂きました日本救急撮影技師認定機構 の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。 文 献   1)  Huber-Wagner S, Lefering R, Qvick LM, et al: Effect of  whole-body CT during trauma resuscitation on survival: A  retrospective, multicenter study. Lancet 373: 1455-61, 2009.   2)  日本外傷学会・日本救急医学会監: 外傷初期診療ガイドラ インJATEC. 改訂第4版, へるす出版, 東京, 2014, p241-50.   3)  日本救急撮影技師認定機構: 日本救急撮影技師認定機構に

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よる外傷患者の体幹部CT撮影条件アンケート調査.    http://www.jert.jp/research/emr_CTMR/15th_ClinQQ_ BodyCT_Questionnaire.pdf(最終アクセス: 2017.7.10)   4)  医療情報ネットワーク(J-RIME): 最新の国内実態調査結果 に基づく診断参考レベルの設定. 2015年6月.    http://www.radher.jp/J-RIME/report/DRLhoukokusyo. pdf(最終アクセス: 2017.7.10)   5)  村松禎久, 野村恵一, 藤井啓輔, 他: CT装置の線量指標; 線量 指標のピットフォール. 日獨医報 2016; 61: 52-9.   6)  前川昌之編: 医療被ばく測定テキスト. 放射線医療技術学叢 書25, 日本放射線技術学会, 京都, p52.   7)  日本救急医学会: 全国救命救急センター設置状況.    http://www.jaam.jp/html/shisetsu/qq-center.htm(最終ア クセス: 2017.7.10)   8)  森原宗憲: 救急領域への応用〜バリアブルヘリカルピッチ スキャンの外傷Panscanへの臨床応用.    http://www.innervision.co.jp/ad/suite/canonmedical/ sup201312/tech04(最終アクセス: 2018.7.8)   9)  Kanda Y: Investigation of the freely available easy-to-use  software  ‘EZR’  for  medical  statistic.  Bone  Marrow  Transplant 2013; 48: 452-8.  10)  高木卓編: X線CT撮影における標準化; GALACTIC.  放射 線医療技術学叢書27,  改訂2版,  日本放射線技術学会,  京都,  p82-4.  11)  佐藤俊光,  齋藤之寛,  斎藤暢利,  他: X線CT体幹部1相撮影 (胸腹骨盤部)における実効線量調査. 日放線技師会誌 2017;  73: 258-69.

 12)  Loewenhardt  B,  Hüttinger  R,  Reinert  M,  et  al:  Dose  effects  and  image  quality:  Is  there  any  influence  by  bearing devices in whole-body computed tomography in  trauma patients? Injury 2014; 45: 170-5.

 13)  Karlo C, Gnannt R, Frauenfelder T, et al: Whole-body CT  in  polytrauma  patients:  Effect  of  arm  positioning  on  thoracic and abdominal image quality. Emerg Radial 2011;  18: 285-93.

表 4 外傷全身 CT の DLP 合計値(撮影方法別)

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