ダム水位の違いによるアーチダムの地震時発生応力についての一検討
九州電力(株) 正会員 ○大熊 信之 正会員 池田 浩一 熊本大学大学院 正会員 松田 泰治
(一財)電力中央研究所 正会員 西内 達雄 正会員 松井 淳
1.はじめに
ダムの耐震性能照査においては,通常,ダムの耐荷機構上一番厳しい満水位時における地震応答解析結果 に基づき照査が行われている.しかしながら,常時作用する水圧をアーチ軸力として両岩盤に伝達し支持す るアーチダムにおいては,水位低下に伴いアーチ軸力が低下し堤体内部応力の発生状況が異なることが考え られる.したがって,本稿では低水位での線形地震応答解析を実施し,満水位での同解析結果と比較するこ とにより,ダム水位の違いによる地震時発生応力について検討した.
2.解析モデルと解析条件
検討は,表-1,および図-1に示すダム‐基礎岩盤‐貯水連成系のアーチダム
FEM
解析モデルを用いた.解析領域の岩盤は,堤体挙動に影響を及ぼさない程度の領域をモデル化した.堤体はコンクリートブロック 部,鉛直ジョイント部,余水路部,およびゲート部をモデル化し,コンクリートブロック部は,鉛直ジョイ ント部間を均等
2
分割,厚さ方向に均等5
分割(弾性体要素)した.境界条件は,右左岸方向境界および上下流方向境界は鉛 直方向のみ拘束とし,底面境界は粘性境界(水平
2
方向ダッシ ュポット要素)とし,鉛直方向は拘束とした.堤体コンクリー トと岩盤の物性値については,固有値解析および常時微動計測 結果を基に設定した動ポアソン比と動ヤング係数を用いた.減 衰については,1~3 次の固有値に着目し既往検討結果を参考1)に減衰が 3%程度となるよう Rayleigh 減衰を設定した.作用 荷重は,貯水に伴う静水圧,気温・貯水池水温の年変化に伴う 温度荷重,揚圧力,泥圧,堤体自重の常時荷重と,地震力,動 水圧の地震時荷重を考慮した.ダム水位は満水位(天端-3.0m)
と低水位(天端-43.0m)の
2
ケースを設定した.温度応力は,堤体内部のアーチ推力(圧縮応力)が低下することで堤体内部 応力状態が一番厳しくなる冬季の応力状態を考慮した.入力地 震動は,「大規模地震に対するダム耐震性能照査指針(案)・同 解説」が提示している照査用下限加速度応答スペクトルの適合 波であり,位相特性は,観測波形を基に作成した地震動の位相 を用いた.
なお,本検討は,鉛直ジョイント部の状態変化(すべり・剥 離)を考慮しない線形解析結果に基づく評価である.
3.解析結果
図-2に,下流側最大変形時における下・上流側表層の主応力分布図を示す.圧縮・引張応力の発生方向は,
下・上流側表層とも堤体全体にかけてほぼ同じ傾向を示している.発生応力の大きさについては,(a)満水位 時は,上流側表層の堤体底部岩着部付近に発生している水平方向の引張応力と,上流側表層の堤体底部岩着
キーワード アーチダム,地震応答解析,FEM解析,ダム水位
連絡先 〒815-8520 福岡市南区塩原 2-1-47 九州電力(株) 技術本部 総合研究所 土木グループ TEL.092-541-2910 表-1 対象ダムの諸元と水位条件 項 目 仕 様 備 考 堤 高 130 m -
堤 頂 長 418 m -
貯水容量 261×106 m3 - 満 水 位 天端- 3.0m
低 水 位 天端-43.0m 水位差40m
<モデル全体図>
<堤体部分のみの拡大図> 上流側
赤線部:鉛直ジョイント部 鉛直ジョイント部間
均等2分割 右岸側
下流側
図-1 解析モデル
厚さ方向 均等5分割
左岸側
土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)
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部付近に発生している片持ち梁変形に起因した鉛直方向の引張応力が(b)低水位時に比べ大きくこの部位の 応力状態は満水位条件の方が厳しい.しかしながら,右左岸アバット部の引張応力については,下・上流側 表層部とも(a)満水位時では無応力状態に近いのに対し,(b)低水位時には大きな引張応力が発生している.
図-3 に高引張応力発生分布を示す.
(b)低水位時の下・上流側表層の堤体底部 岩着部付近では,(a)満水位時に比べ引張 応力がかなり小さい.この理由は,ダム 水位低下に伴う静水圧の減少により片持 ち梁変形に伴う引張応力が低減したため である.
一方,(b)低水位時の下・上流側表層の 右左岸アバット部では,(a)満水位時には 未発生の高引張応力発生領域が存在する.
この理由としては,水位低下に伴いアー
チ半径方向に作用するアーチ軸力(圧縮)が低減した状態で地震力に より下流側へ最大変形を強いられた結果,大きな引張応力が発生した ものと考えられる.ただし,(b)低水位時において右左岸アバット部の 高引張応力発生領域はダム水位や洪水吐ゲート敷高よりも標高が高い ため,貯水機能は維持できるといえる.図-4 には低水位時における 上流側最大変形時の高引張応力発生分布を示すが,上流側最大変形時 には大きな引張応力は発生していない.
4.まとめ
ダム水位条件を変えた線形地震応答解析を実施し,満水位時の解析 結果との比較を行った.その結果,ダム水位が満水位から低くなるに
つれ,堤体底部岩着部に発生していた片持ち梁変形に起因する引張応力は静水圧の低下に伴い低減し,一方 で,右左岸アバット部においてアーチ軸力(圧縮力)の低下と地震力の作用により,この領域の引張応力が 増加することがわかった.この水位条件の違いによる引張応力の発生状況の変化はアーチダムの維持管理に おいて,あらゆる水位条件での地震シナリオを想定しておくことの重要性を示唆しているといえる.
【参考文献】
1) 上田稔 塩尻弘雄 横井幹仁 恒川和久,「アーチダムの地震観測記録などから求めた減衰定数」,第24回地震工学研究発表 会論文集pp.825-828,1997.7
図-2 下流側最大変形時の主応力分布図
(a) 満水位時(天端-3.0m) (b) 低水位時(天端-43.0m)
9.71MPa 3.60MPa
17.20MPa
i) 下流側表層 i) 下流側表層
ii) 上流側表層
5.76MPa
ii) 上流側表層 左岸
左岸
右岸
右岸
左岸
左岸
右岸
右岸
左岸 右岸
i) 下流側表層
ii) 上流側表層
■ 引張応力≧4.2 MPa
■ 引張応力≧3.2 MPa
左岸 右岸
図-4 上流側最大変形時の高引張応力 発生分布図(低水位時)
図-3 下流側最大変形時の高引張応力発生分布図
左岸 右岸
左岸 右岸
左岸 右岸
左岸 右岸
i) 下流側表層 i) 下流側表層
ii) 上流側表層 ii) 上流側表層
■引張応力≧4.2 MPa
■ 引張応力≧3.2 MPa
(a) 満水位時 (b) 低水位時 土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)
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