振込の法律構造 はじめに 日 振 込 と 振 替 の 意 義 口 振 込 依 頼 人 と 仕 向 銀 行 の 関 係 口 仕 向 銀 行 と 被 仕 向 銀 行 の 関 係 四 被 仕 向 銀 行 と 受 取 人 の 関 係 国 振 込 依 頼 と 受 取 人 の 関 係
おわりに 目
次
込 取 引 に お け る 法 律 関 係
後
藤
三七
紀
2 ‑1 ‑37 (香法'82)
盆二 , , , , 諒
行協会を中心に統一的に整備され︑
これに穎似するものとして︑
これ
は同
時に
︑
一定
の取
Ob er
小切
銀行の預金通貨を処分する方法として︑.伝統的には︑小切手が大きな役割を果たしてきたが︑最近では︑銀行の躯
簿のつけかえによって行なわれる振込ないし振替がますます重要になってきている︒これは︑その利用者にとっては`
安全︑確実という利便を享受でき︑銀行にとっては︑実務上欠くことのできなくなっているコンピューターシステム
による大巾に手続の合理化ができるからである︒わが国では︑賑込または振替という言葉ですでに定着しているか︑
西ドイツでは︑債務者が弁済のために自ら振替手続を取る通常の振替の他に︑今日では︑ラストシュリフト制度か銀
題を論ずる前提として︑
これがいわゆる現金を用いない支払取引(=
b a r g e l d l o s e Z a h l u n g s v e r k e h r
手︑通常の振替︑ラストシュリフト取引の総称︶
小切手を上回り︑現金を用いない支払取引全体では︑%の取引高に達している︒
ラストシュリフト制度は︑通常の振替とは逆に︑債権者が自己の債権を振替の手段により取立のために︑
立証券︵ラストシュりフト︶を用いて自らがその手続を取るものであるため︑これは︑逆振替
( r t i c k l a t i f i g e
(1 )
w e i s u n g )
とも呼ばれている︒この制度については︑すでに別稿で詳しく紹介したが︑本稿では︑これをめぐる法律問
その基礎となっている通常の振替をめぐる法律問題をとりあげる︒
わが国の振込取引をめぐる法律問題の解決の参考となるものであるから︑比較法的観点から︑西ドイツの振替理論を
論ずる︒西ドイツのラストシュリフト制度と同一のものはもちろんわが国にはないが︑
(2 )
﹁口座振替﹂制度がある︒振込をめぐっては︑最近文献も増えてきたが︑他の分野にくらべるとまだ始まったばかり
といっても過言でないのであり︑本稿も︑ の中でますます重要な地位を占めてきており︑その取扱量はすでに
それにいかさかでも貢献できればと考えている︒
そし
て︑
は じ め に
1
¥
-f~
t~
一q︱
‑i ,J
般的によく使われているか︑
ヽしかし
現在
では
︑
二 九
右のように普通預金口座等にもなされる この両者の意義については︑必ずしも明確ではない︒
ヽノ
てょ
︑ カ マ ー '
振込
は︑
よる資金も口座に受入れる旨を定めているように︑
わが
国で
は︑
者の店頭振込の場合
5取扱いについて定めており︑振込に
︑ ' ︐ ,1 ,
当座勘定規定第三条︑第四条は︑ 振込と振替の意義
( l )
拙稿︑﹁ラストシュリフト制度とその問題点﹂手形研究三
0
二号二六頁以下︑同︑﹁ラストシュリフト制度の意義について﹂香川法学一巷一号九一頁以下︐
( 2
)
拓金口座振替制度は︑全銀協により︑昭和四七年にその事務取扱基準が作られ︑昭和五七年四月に改正が行なわれている︵高田輝
男︑﹁預命口座振替事務取扱基準の改正について﹂手形研究三二八号二0
貞以 下︑
なお︑ラストシュリフトには︑二種類あり︑
つは引落姿託方式
( A
b b
u c
h u
n g
s a
u f
t r
a g
s v
e r
f a
h r
e n
)
で他は取立権限授与方式
( E
i n
z u
g s
コ
en a
c h
t i
g u
n g
s v
e r
f a
h r
e n
) であ るが
︑
わ
が匡の預金口座拡替制度は︑飢者と基本的に類似する︶しかし︑西ドイツでは︑後者の方式の方がより菫要で︑その割合は︑九三
\九五%に達する︒また︑ラストシュリフトの事故率も非常に少なく︑返還ラストシュリフト︵小切手でいえば︑不渡返還に当る
といえようか︶も全体の一%どまりという
( M
i c
h a
e l
M i . i
t z e ,
D
as
Fe
h l
e r
r i
s i
k o
i
m ba r g e
l d
l o
s e
n
Z a
h l
u n
g s
v e
r k
e h
r
u n
t e
r
be
,
s o
n d
e r
e r
B e r i l c k s i c h t i g u n g
e d
s L a s t s c h r i f t v e r f a h r e n s ,
19
80
.
S.
3
Fn
2. 3
.) ︒
振込の法律構造
同一銀行の他の店舗または他の金融機関を通じて振込がなされた場合および第三
また
︑
にのみなされてしたので︑当座に振込と呼ばれていた︒ 普通預金規定第二条︑総合口座取引規定第三条は︑
振替という言莱よりむしろ振込という言葉の方が一
当座勘定口座
2 ‑1 ‑39 (香法'82)
論 説
ようになったので︑﹁当座口﹂をつける必要はないのであるが︑銀行実務上は︑なおこの名称で呼んでいるようである︒
さて︑振込の定義であるが︑従来︑﹁振込とは︑送金受取人︵被振込人︶が特定銀行に当座預金口座または普通預金
口座を有する場合に︑送金依頼人︵振込人︶この特定銀行を被仕向銀行として︑
人の当座預金口座または普通預金口座に振込をすることによってする送金方法である﹂とされてきた︒これは︑振込 の機能に着目して立てられた定義であるが︑ここにいう﹁送金﹂が抽象的に金銭の移動を意味するのであれば︑支払 のために送金することも含まれるので理解できるが︑具体的目的において︑振込が送金のために用いられるものとい う意味であれば︑債務の支払のためになされる場合が落ちることになり不都合である︒ドイツでは︑わが国の振込に
相当する振替(Uberweisung)は︑小切手同様︑現金を用いない支払取引と意義づけられているが︑わが国で振込が
利用される多くの場合が具体的には債務の支払のためになされるのであろうから︑誤解を招かない意味からも︑
定義づけの際には︑﹁送金方法﹂という言葉は避けるべきであろう︒というのは︑手形が信用手段であるに対して小切
手が支払手段であることに誰も異論はないが︑具体的には小切手が送金手段に使用されることもあるからである︒西
れに
対し
て︑
にも
とづ
いて
︑
ドイツの金融制度法 が仕向銀行を通じて︑
( G
e s
e t
z U
b e
r d
a s
K r
e d
i t
w e
s e
n 1
1
KWG)第一条九号には︑振替取引(G
i r
o g
e s
c h
a f
t )
を ﹁
現 金を用いない支払取引および決済取引の執行﹂であると定義しており︑その意味するところは︑事務処理喫約にもと
づいて︑預金通貨を入金記帳または引落によって決済する銀行諸業務︵したがって︑ラストシュリフト取引も含む︶
(4 )
および交換所またはその他の方法で相互の債務を現金を用いないで決済する取引をさすとされ︑その範囲は広い︒こ
わが国の振込に相当する通常の振替(Uberweisung)は︑一般に﹁振替とは︑銀行が自己の顧客の委託
一定の金額を顧客の口座から引落して︑第三者の口座に入金記帳することもしくは︵他の銀行をして︶
入金記帳させることによって行なう取引であって︑小切手と並び現金を用いない支払の重要な方式である﹂と解され
四〇
その送金受取
その
四
右のごとく︑振込概念には問題があるが︑振替についても︑論者によってかなり異なった意義づけがなされている︒
すなわち︑振替をもって︑同一店舗内または少なくとも︑同一銀行内における預金口座の付け替えの場合のみをさす
(6 )
と意義づけ︑銀行が異なる場合は︑振込の概念に含まれると解する立場︑振替は︑依頼者︑受領者の双方が共に一っ
の銀行に預金口座を有することを要するものではないが︑銀行帳簿上の付替によって︑当該銀行またはこれと取引を
有する銀行に預金口座を有する数人間の金銭債務の弁済であると意義づける立場︑ある勘定の金額を他の勘定に転記
することをいい︑とくに同一銀行に預金する数人がその間の債権・債務の決済のために現金の給付にかえて︑銀行の
(8 )
勘定帳簿上において計算を行なうことと意義づける立場︑振替を広狭二義に分け︑広義では︑
の預金口座ヘ一定金額を付け替えるすべての場合を指し︑これには︑当事者の一方が口座を有しない場合︑振替依頼
者と受領者が同一人である場合︑預金者と銀行間の債権債務を預金者の口座から引き落すことによって決済する場合 などが含まれ︑狭義では︑現在の銀行実務において行なわれている振替︑すなわち︑電話・電気・ガス料金その他
(9 )
の公共料金の支払のために消費者等の預金から引落す場合をさすと解する立場があるが︑一般の実務書では︑振替の
( 1 0 )
意義づけ︑ことに振込との関係において明確な意義づけをしているものはほとんど見当たらない︒
この
よう
に︑
(5 )
てい
る︒
わが国では︑振込についてはともかく︑振替の概念が明確でないため︑両者の区別がはっきりしない
ものとなっている︒両者が法律上同じものであるならば︑たんなる名称の問題として片づけられるが︑少なくとも︑
両者は別の機能︵送金機能と弁済機能︶を有し︑異なる法律問題︵たとえば︑預金払戻手続の必要性の有無など︶が
生ずること念頭に置いているのであれば︑その限界づけを明確にする必要はある︒その場合のメルクマールとして︑
( 1 1 )
送金方法か弁済の方法かという機能によって区別することは疑問がある︒それは︑前述の理由のほかに︑顧客と振込
︱つの預金口座から他
2 ‑1 41 (香法'82)
企叩
二1 I a 説
引落を依頼するか︑ 契約する銀行にとっては︑いし︑契約解釈上も意味がないからである︒結局は︑振込および振替の法的性質またはそれをめぐる法的問題につき両者を区別して効果を論ずべきかどうかという観点から判断しなければならない︒それでは︑このような点からみた
. . . .
. . . .
. . . .
場合︑前述の振替の意義づけの所で意見が分れた﹁同一銀行内に口座を有する者相互間での帳帳の付け替え﹂である
かどうかは有効なメルクマールとなるであろうか︒振込取引ないし振替取引は︑振込︵振替︶依頼者・銀行・受取人
の間の契約の連鎖の上に成り立つものであるから︑両者の区別のメルクマールは︑各当事者の実質関係に述めること
はて
きな
く︑
それが送金手段として使われるのか弁済手段として使われるのかは通常知ることはできな
その形式に求めるほかはない 3その意味で︑﹁同一銀行に口座を有する﹂かどうかという形式にその区別
の基準を求めるのは正しい方向である︒しかし︑法的にみれば︑それが同一銀行にあるということは︑仕向銀行と被
( 1 2 )
仕向銀行が同一人格であるということ以外に特別も影響を及ぽすものではない︒後に述べるように︑西ドイツでは︑
振咎の際に双方の口座が同一銀行の同一店舗にある場合を
H a
u s
u b
e r
w e
i s
u n
g (自店内振替︶︑それが同一銀行の他の店
舗に分れている場合を
F i l i
a l t i
b e r w
e i s u
それは銀行の内部組織上n g (本支店間振替︶と呼んで一応区別はしているが︑
の問題であって︑銀行と顧客の振替契約上は重要でないとされている︒したがって︑同一銀行に双方が口座を有する
かどうかで振込と振替を区別する立場には賛成できない︒同様に︑振込依頼人または振替依頼人と受取人のいずれか
一方か口座を有していない場合には︵依頼人が口座を有しない場合の振替を西ドイツでは︑
E i n z
e l t i b e r w e i s u n g 1
個別1
( 1 3 ‑
的振替と呼ぶ︶︑その委記が執行できなくなることはあるが︑これとて︑法的には重要ではない︒結局︑法的に重要な
メルクマールとして残るのは︑依頼者が銀行に対して︑第三者の口座に人金記帳を依頼するか︑第三者の口座からの
つまり帳簿の付け替の依頼のイニシアチブを債務者かとるか︑債権者がとるかである︒そこで︑
わたくしは︑前者をもって振込とし︑後者をもって振替と意義づけるのが妥当と思う︒これは︑わが国の実務の振込
四
四
( 1 4 )
と口座振替にもほほ適応する︒西ドイツでは︑前者を︵通常の︶振替
( U
b e
r w
e i
s u
n g
︑後者をラストシュリフト︵逆)
振替︑取立振替︶と呼ぶ︒なお︑
G i
r o
もわが国では︑振替と訳しているが︑
とは異なる概念︑つまりわたくしは︑
G i
r o
は
O b
e r
w e
i s
g
gの土位概念でないかと考えている︒というのは︑
G i
r o
は ︑
西ドイツ金融制度法第一条〔定義〕のGirogesch~ft(振替業務︶からきた言葉と思われるが︑それは︑前迩のごとく
帳簿の付け替による決済のほかに︑広く交換所・振替センターを通じて行なわれる決済取引
( A
b r
e c
h n
u n
g s
v e
k e r
h r )
わが国でいう交換決済に相当するものと思われる︶︑
に相当するものであるが︑ また︑同条は︑わが国の銀行法第一条
その趣旨からすれば︑個々の具体的銀行業務を定義づけたものというよりは︑銀
行として許される業務の限界づけを大まかに規定したとみるべきであって︑
U b
e r
w e
i s
u n
g はその内の︱つの業務として
( 1 5 )
その中に包摂されると解すべきだからである︒以下︑振込と振替を右の概念定義にしたがって議論を進めるが︑その
際 ︑
G i
r o
と
U b
e r
w e
i s
u n
を同じく振替と呼んでは議論が混乱する場合があるので︑必要に応じて原語を捜入する︒g
もっとも︑有価証券振替決済取引は︑ドイツ語の
E f f
e k
t e
n g i r
o v e r
e k
h r
の訳であるから︑ここでも
G i
r o
を振替決済と
( 1 6 )
訳した方がよいのかも知れない︒
(1)田中誠二•新版銀行取引法再全訂版ニ―六頁、なお、西原寛一・金融法ニ―五頁、青木正顕•新銀行実務口座一四巻「送金取引の
法律問題L
︹ 定
義 ︺
――二八頁、柴崎純之介編著•新内国為替の実務九八頁、香川11徳田11北原細・金融実務辞典iO四九頁、堀内仁・銀行
取引法入門二五四頁︑吉原省三・銀行取引判例石選新版一0
七頁 ほか
︒
っ2
)
田辺光政・釦5︑込取引の法的諸問題山﹂金融法務事惰七九
0
号七頁Q(3)ていねいにいえば、振込は、送金ないし支払方法としうべきなのであろうが(田辺•前掲七頁)、主たる機能が支払取引にあるの
も含むのであり︵これは︑
これ
は︑
i般にいう振替
(U
百
r w
e i
s u
n g
) 2 ‑‑1 ‑43 (香法'82)
ム岡
二 ー
1口 説
(12)青木正顕•前掲新銀行実務講座一四四頁。
( 7 )
/ ( 4 )
( 5 ) ( 1 0 )
( 1 1 )
八 九号 三八 頁︶
︑
︵宮下文秀・金融法務事情七七八号一五頁︶︒ であれば︑﹁送金Lという言葉は不要と思われる︒なお︑前田達明.﹁振込﹂銀行取引法講座上巻二九八頁は︑﹁振込とは︑金融機
関︵仕向店︶が依頼人から資金を受け取り︑その依頼に基づき受取人の取引金融機関︵被仕向店︶に受取人の預金口座に資金を人
金するように依頼し︑被仕向店がこれを受けて受取人の口座に入金することをいう﹂と定義し︑﹁送金﹂という言葉の使用を避け
ているがこれが送金方法であると解する点は同様である︒
B a
h r
e ‑
S c
h n
e i
d e
r ,
K W G
, K
om
me
nt
ar
, 2
A u f l
. S .
7 6 .
Ba
nk
‑L
ex
ik
on
:
Ha
nd
wo
rt
er
bu
ch
f t i r
da
s B
an
k‑
un
d S p
a r
k a
s s
e n
w e
s e
n .
A u 8
f 1 .
S .
1 5 6 2
. ( 6 )
西原寛一・金融法二四五頁︒
( 8 ) 岩田準平監修・銀行実務法律構座・新訂用語解説編四
Q i , ;
頁 ︒
たとえば︑前掲金融実務辞典一0
四九 頁は
︑
たんに﹁振替とは︑ある勘定を貸記して︑他の勘定を同額借記すること﹂とあるだけ
で︑これが振込と別の概念なのかそれとも振込の上位概念なのかは明確でない︒
田辺光政.﹁ドイツにおける振替取引﹂阪南論集第一︱巻二号五九頁以下︑同︑﹁振込取引の法的諸問題山二即掲金融法務事情七頁
も︑両者を送金目的と支払目的とで区別することはできないとされる︒
( 1 3 ) 第三者が店頭で受取人の口座に入金依頼する場合を振込に含めない説もあるが
一般には︑これを含めて考えており︑手続的にも仕向銀行店舗と被仕向銀行店舗が同一であること以外は︑全く
一般の振込と同様とされる
( 9 )
箭内昇・手形研究一七九号四0
頁以 ド︒
田中誠一―•前掲書ご五七頁。
︵山野勲夫・﹁当座口振込の性質﹂金融法務事情六
四四
ともなう場合であって︑ ①
(
二) ( 1
5 ) C a n a r i
s も
G i r o g e s c h a f t
のテクニックなる項目で︑振替取引︵わが国の振込︶︑ラストシュリフト取引および交換決済をあげてい
るので︑わたくしのような理解でよいものと思われる
( C a n a r i s , B a n k v e r t r a g s r e c h t , A nm . 151~155)
。
( 1 6 )
河本一郎.﹁有価証券振替決済の研究L︑同.﹁株券振替決済制度に関する諸問題﹂証券研究第四一巻一︱︱︱頁以下は︑その古典的研
振込依頼人と仕向銀行の関係 振込と受取人の承諾
て開始されるわけであるので︑振込依頼人と仕向銀行との関係は︑この依頼の法的性質をめぐる問題が中心となるが︑
それを論ずる前に︑振込人と受取人︵債権者︶
取人に対する振込依頼人の債務の弁済の目的で行なわれるといってもいいと思うが︑振込の執行によって債務が消滅 するためには︑受取人の承諾を要するかどうかは問題である︒現金ならば︑強制通用力があるので︑債権者の受取拒
否は受領遅滞となる︒この点について︑
と解される︒というのは︑振込は︑確かに安全︑確実な支払方法ではあるが︑
一定の不利益もあるからである︒したがって︑債権者は︑振込を受けるためにのみ口座を開設しなければならないわ
けでもなく︑振込受領を正当な理由なく拒否したからといって受領遅滞︵民四一三︶
でに債権者が振込を受入れることのできる口座を有しており︑
究で あり
︑
その債権額が巨額であって︑現金による支払に危険が
かつ振込による方法が当該事情の下で債権者に格別の不利益のない場合には︑例外的にこれ 最近わが国では︑
振込
取引
は︑
( 1 4 )
田辺光政・前掲金融法務事情七九0
号七 頁︒
四五
になるわけでない︒しかし︑
す
つぎに述べるように債権者にとっては まず振込人が自己の取引銀行である仕向銀行に振込依頼することによっ
の承諾の要否の問題を論ずる必要がある︒振込は︑主として︑振込受
わが国ではあまり議論されないが︑少なくとも受取人の黙示の承諾を要する それに関する立法化も進められている︒
2 ‑1 ‑45 (香法'82)
論 説
② くる︒ かどうかも問題である︒理論上は︑ 一たん与えた承諾を取消すことができる を認めねばならないと解する︒どのような場合がそれに当るかは信義則の原則により個々的に判断するほかないが︑
(2 )
たとえば︑銀行による相殺︑第三者による預金債権の差押のおそれなどが考えられよう︒同様の観点から債権者の承
諾をえないで振込が行なわれた場合であっても︑債権者が遅滞なく異議を申立ないかぎり︑これを承諾したものとみ
なされることになろう︒債権者が口座を開設したというだけでは︑右の承諾があったとはいえないが︑契約の申込書
その他取引上の各種印刷物に︑債権者の口座が表示されている場合とか︑すぐ以前になされた振込に債権者が異議申
立をしなかった場合には︑その承諾があったものと解すべきことは︑ドイツの通説・判例の認める所である︒これに
対して︑当該取引約款の中に現金払条項があった場合には︑もはや振込が許されないのかどうかは︱つの問題である︒
(3 )
それが単に債務のクレジット化を認めない趣旨と解される場合には︑振込は許されることになる︒
の承諾については︑当事者の意思解釈が頂要となるが︑振込が今後ますます重要度を増し社会に定着して行くことを
考え
れば
︑
その解釈基準を緩やかにしておかねばならないであろう︒また︑
振込契約の法的性質
この承諾をもって当事者の契約ヒの意思表示の内容とみるかどうかであって︑そ
れがそうであれば︑債権者は相手方の同意なく勝手に取消すことはできない︒しかし︑振込人が振入手続に着手する
以前であれば︑この者にとって現金払か振込かはさしたる菫要性はなく︑本来は債務の本旨に従った履行は現金払で
(4 )
あるからこれを認めてよいと考える︒なお︑これは︑振込依頼人と受取人の関係での問題であって︑受取人と被仕向
銀行との関係では︑受取人の意思に関係なく︑入金記帳によって銀行は預金債権を有効に成立させることができる︒
これは︑前述の当座勘規定・普通預金規定の解釈および後に述べる仕向銀行と被仕向銀行の間の契約の解釈から出て
振込は︑振込依頼人の依頼にもとづいて行なわれるが︑この依頼の法的性質をめぐっ いずれにせよ︑こ 四
六
四七
ては周知のごとく︑見解が分れている︒以下︑これを簡単に説明する︒④委任契約説︵通説︶は︑振込契約をもって︑
振込依頼人が仕向銀行に対して︑被仕向銀行の下にある振込受取人の預金口座に入金するという事務処理を委任する
契約と解し︑受取人がこれによって預金債権を取得するのは︑当座勘定規定または普通預金規定によって︑振込によ
る入金があった場合には︑預金として受入れる旨の定めがあるからとする︒⑤活雪一者のためにする契約説は︑これを
もって︑振込依頼人もしくは仕向銀行が受取人を受益者とする第三者のための預金契約を被仕向銀行と締結している
と解する︒この立場によれば︑受取人の受益の意思表示が必要であるが︵民五三七条二項︶︑これは受取人と被仕向銀
行の間の預金取引芙約によって︑あらかじめ包括的になされていると解されている︒その結果︑受取人は︑被仕向銀
( 6 )
行に対して理論上直接預金債権を取得すると解するわけである︒⑦舌︵払指図説は︑仕向銀行の被仕向銀行に対する口
座受入報告を支払指図と解し︑振込依頼人は︑仕向銀行に対して︑このような指図をすることを内容とする委任する
契約と考える︒ここでいう指図とは︑ドイツ民法の
A n w e i s u n g (
BG
B七八三条以下︶のことで︑わが国でも為替手形
の振出の法的性質の説明に関して用いられる概念であるが︑これによって被指図人たる被仕向銀行は︑指図人たる仕
向銀行の計算において受取人に支払をする権限を取得し︑受取人は自己の名で被仕向銀行から支払を受ける権限を取
得ずる︒この説は︑広い意味では委任説に含まれるのであろうが︑通常いう委任説は︑事務処理を委任するのに対し︑
(8 )
この説が指図することを委任する点において異なる︒なお︑その他に︑受取人入金説をあげるものもあるが︑これは︑
被仕向銀行が受取人の預金口座に入金する行為を︑受取人自身が振込人との実質関係にもとづき︑弁済として受領し
た資金を自己の口座に入金しているとみる考え方とされる︒しかし︑これは︑受取人が預金債権を取得する際の一っ
の説明であるから︑振込依頼人と仕向銀行の間の振込喫約の法的性質とは直接関係ないので︑ここではとりあげない︒
さて︑それでは振込契約の法的性質につきわが国で主張されている右の諸説の内︑どれを支持すべきであろうか︒
2 ‑1 ‑47 (香法'82)
論 説
その中で︑支払指図説については︑最近この立場に立つものはいないし︑この説の拠所となっているドイツ民法の指
図
( A
n w
e i
s u
n g
) もわが国ではなじみが薄い概念であるので︑委任説と第三者のためにする契約説を中心に議論を進 第三者のためにする契約説の実益は︑要するに︑受益者たる受取人が被仕向銀行に直接の請求権を取得することを
根拠づけられることにある︒ドイツでも︑古い判例は︑振替喫約をもって︑振込依頼人と受託銀行との間で結ばれる 受取人に振込金を取得させることを内容とする第三者のためにする契約
(B
GB
三二八条︶であって︑受取人が被仕向
(9 )
銀行に対する直接の権利取得するのは入金記帳の時点であると解していた︒しかしながら︑現在では︑連邦裁判所も︑
学説もこれを﹁事務処理を目的とする雇傭契約
( D i e
n s t v
e r t r
a g ,
d e
r e
i n
e G
e s
c h
a f
t s
b e
s o
r g
u n
g z
um
e G
g e
n s
t a
n d
a h
t
( 1 0 ) 1 1
BGB
六︱一条以下︑六七五条︶﹂であると解することにほぽ異論はない︒なぜ第三者のためにする契約説が支持さ
れなくなったのか︑それは︑つぎのような欠点があるからとされる︒
ば︑振込依頼があれば︑受取人は︑自己の口座に入金記板される以前でも︑受益の意思表示することによって
ツ民法では︑受益の意思表示はいらないので︑第三者が拒絶しないかぎり︑喫約と同時に第三者は権利を取得するが︶︑
被仕向銀行に直接の権利を取得できるはずであるのに︑なに故これが入金記帳まで許されないのか︑第二に︑この契 約は︑振込依頼人と仕向銀行との間で結ばれるので︑仕向銀行と被仕向銀行が同一銀行であればともかく︑そうでな い場合︑受取人は仕向銀行に対して債権を取得するはずであるのに︑なに故被仕向銀行に対して取得するのか︑第三 に︑この説によれば︑受取人が被仕向銀行に対して取得する債権は︑振込依頼人と仕向銀行との間の資金関係にもと
の場合に限ってなぜその対抗を受けないのか︑ づくすべての抗弁の対抗を受けることになるが︑これでは︑支払手段としての振込の機能が根底からくずされる︒こ
という点である︒思うに︑第一の受取人の権利の取得時期が入金記帳
める
︒
︵ド
イ
つまり︑第一に︑第三者のためにする芙約とすれ
四八
することができると解すれば足り︑
四九
までずれる点については︑民法学説では︑受取人の学益の意思表示を待たずに当然権利を取得させる特約を要約者と
諾約者の間の間ですることも有効とする説も多いので︑それからすれば︑当事者間で権利の取得時期をずらす特約を
またそのように解したからといって受取人に特に不利益を及ぼすこともないであろ
う︒つぎに︑第二の他行間振込の場合に︑第三者のためにする契約説では都合が悪いという点についても︑
︵通
常の
︶ ︵
そ の
それをわ
が国の第三者のためにする契約説のように︑振込依頼人と仕向銀行が直接この芙約を結ぶと解さず︑仕向銀行が振込 依頼人の代理人としてまたは自己の名で︑被仕向銀行とこの契約を結ぶと考えればよいので︑この点に対する批判も
さほど重大なものでないであろう︒問題は︑第三の資金関係上の抗弁の対抗を受けるという点である︒第三者のため
にする喫約の経済上の意義は︑要するに︑諾約者のなすべき出損を要約者が自ら受領してこれを第三者に支払うとい
う二重の手間を省略して諾約者から直接第三者に給付させる点にあること︑民法学説上一般に対価関係は第三者のた
めにする契約の内容をなすものでなく︑
法五
三九
条︶
した
がっ
て︑
その欠紐・瑕疵などは芙約の効力に影響を及ぼさないが
場合には︑不当利得の問題として処理される︶︑要約者・諾約者間の資金関係は喫約の内容となる解されていること︑
さらには︑この場合の第三者の法的地位は︑当該芙約から派生的に生じたものにすぎず︑その外形を信じて新たな利
害関係に入ったものでないので、資金関係上の抗弁、ことに喫約の無効•取消の効果を諾約者が第三者に主張する場
合には︑善意の第三者の保護の要請を考慮に入れないでよいことなどを考え合わせると︑右の第三の点についての批
判は︑第三者のためにする契約説にとって致命的なものといわざるをえない︒ドイツの学説も
BGB
三三四条︵わが民
の規定は︑第三者のためにする喫約にとって本質的規定であり︑これを特約によって排除することは困
( 1 2 )
難であるといっている︒
有価証券振替決済制度を始め︑振替制度の母国はドイツであるが︑
そこ
では
︑
わが国の振込に相当する
2 ‑‑1 49 (香法'82)
^冊
二‑
r
刀 説
v e
r t
r a
g )
振替についても︑学説・判例上多くの議論がなされている︒ドイツでの振替は︑
が銀行と顧客の間で結ばれ︑個々の振替
( O
b e
r w
e i
s u
n g
) は︑右の契約にもとづいて開設されだ恨替口座
( G
i r
o k
o n
t o
) を通じて行なわれ︑その際にいちいち預金の払戻手続はとらないしくみになっている︒この点︑わが国
の振込は︑受取人と金額が特定している場合には︑定額自働送金依頼書によって︑預金払戻手続をとうなくとも自己
の口座から引塔して直接振込むことができるが︑金額と受取人が変動する通常の振込にあっては︑
戻手続をとって振込依頼するのと異なっているので︑
ある︒しかし︑理論的に考えてみれば︑払戻手続をとって振込むことは︑
︵第
三者
店頭
振込
︶
ることができるし︑ ドイツでの議論がそのまま参考になるかどうかは一っの問題で
またはその他の銀行で振込依頼するのと同じことである︒
振替
( E
i n
z e
l U
b e
r w
e i
s u
n g
)
と呼
び︑
その法的取扱においては通常の振替と区別する必要はないとされているが︑
くしもそのように考えれば十分であると解する︒そうなれば︑ドイツでの振込理論は︑
そこで提起されている諸問題も今後わが国でも考えるべきことになる︒以下︑
ドイツでは︑議論の混乱をさけるため︑基本契約たる振替契約
( G
i r
o v
e r
t r
a g
)
理を目的とした雇庸喫約であ﹁て︑ ドイツではこの場合を四調別そのままわが国でも参考にす
ドイツでの議論を
と個々の具体的な振替委託
( U
b e
, r
¥ V
e i
s u
n g
s a
u f
t r
a g
)
を区別して論ずるのが通常である︒ドイツの判例・通説によれば︑振替
( G i r
o )
契約とは︑事務処
これによって銀行はつぎの義務つまり︑顧客のために口座を開設し︑顧客のため
に預金通貨を第三者の口座に振替え︑顕客あてに振替えられた預金涌貨の入金記帳を行ない︑顧客の振出した小切手
の支払を行ない︑顧客から受入れた小切手の取立を行い︑現金の支払またはその預け入れを受けるべき義務を負うと
される︵注
参照︶︒ここにいう口座とは振替口座1 0
( G
i r
o k
o n
t o
)
参考にさらに論を進める︒ 接出向いて
のことであるが︑右の定義からみるかぎり︑
わた
わが国 口座を持たない者が受取人の取引銀行に直 いちいち預金の払
まず基本契約たる振替契約
( G
i r
o ,
五〇
(B
GB
六六
六条
︑
わが
民法
六四
五条
︶︑
五
受取\に入金記帳されたかどうかを報告しなければならないが︑さらに委託 は困難でなかろうか︒ ドイツ銀行普通取引約款(‑九七七年四月改正︶
で
( n )
の当座預金口座に類似した機能を有することが分かる︒ドイツでは︑振替契約が有償か無償かでさかんに議論されて
おり︑たとえ個々の振替
( U
百
r w
e i
s u
n g
)
の際に手数料をとられなくとも︑振替
( G i r
o )
口座の預金には利息がつか
( 1 4 )
ないかついてもほんのわずかなことを理由に︑通説はこれを有償双務契約と解すが︑なぜこのような議論がなされる
を事務処理を目的とする雇傭喫約と解したわけであるが︑
(B
GB
六七
五条
︶︑
この契約では委任に関する諸規定がほとんど準用されるの
わが民法からいえば有償の委任芙約と解するのと同じことである c
BGB
六七五条によれば︑事務処理を目的とする契約には二雇傭と請負の二つがあるにもかかわらず︑ほとんどの学
説は︑これを唇傭の方であると解している︒これは︑振替委託を受ける銀行にとっては︑指定された振替受取人のロ
( 1 5 )
座が本当に存在するかどうか分らないので︑その結果つまりは仕事完成についてまで責任を持てないことによる︒西
の第一章総則でぶ銀行は︑種々の委託を処理するために︑営業設備
を顧客に提供する﹂と定めてあるごとく︑銀行としては︑自己の有する組織・施設を使用して依頼されたことを形式
( 1 6 )
的に執行するだけである︒受取人が被仕向銀行に対して権利を取得すろのは︑入金記帳の効果である
0 そうしてみる
と︑振込依頼人と仕向銀行の間の意思表示の解釈としても︑そこに第三者のためにする契約締結の意思を認めること
受任者たる仕向銀行は︑請求があれば︑事務処理の状況を報告し︑その執行後は︑顛末を報告する義務を負うので
をそのまま執行すれば委任者に不利益が生ずる事実を銀行が知ったとき︑これを委任者に通知する義務があるかどう
( 1 7 )
かは︱つの問題である︒というのは︑このような情報提供は︑同時に銀行の秘密保持義務の問題ともからむからである︒ か
とい
えば
︑
ドイツ民法では委任契約は無償でなければならないからである
(B
GB
六六
二条
︶︒
そこで︑通悦はこれ
2 ‑ 1 ‑51 (香法'82)
論 説
さて
︑
ある
が︑
ドイツでは振替喫約
( G
i r
o v
e r
t r
a g
)
は︑現在では以上のような法的性質を有することにほぽ異論はないので
それでは︑個々の振替
( U
b e
r w
e i
s u
n g
についてはどのように理解するのであろうか︒振替口座)
( G
i r
o k
o n
t o
) を有する顧客の振替委託の場合については︑それは契約でなく︑委任において認められる指図
( e
i s
u n
g )
と解するの
( 1 9 )
がドイツの判例・通説である︒というのは︑銀行の当該振替を執行すべき義務は︑記入済の振替依頼用紙の提出によっ
て始めて成立するのでなく︑すでに基本契約たる振替
( G i r
o )
契約によって根拠づけられているのであって︑個々の
振替委託は契約義務を創設するのでなく︑単にその内容を具体化するにすぎないからであるとされる︒したがって︑
この場合に振替委託
( U
b e
r w
e i
s u
n g
s a
u f t r
a g )
という言葉を使うのは︑委任契約の委任
( A
u f
t r
a g
)
と誤解されるおそ
れがある︒正確には︑振替指図とでもいうべきなのであろう︒その際︑指図
( e
i s
u n
g )
を真正な意思表示とみ︑
がって一方的法律行為とみるか︑法律行為類似の行為とみるかは意見の分れるところであるが︑
意思表示に関する規定は適用または準用されると解するので
係の
成立
は︑
︵し
たが
って
︑
した
その無効•取消の問題も起る)、右の点の
ところで︑右の振替
( U
b e
r w
e i
s u
n g
)
は︑依頼者があらかじめ振替契約
( G i r
o v e r
t r a g
)
にもとづいた振替口座を有
これを有しない者が振替委託する場合はどうなのか︒この場合には︑確かに継続的債務関係
は成立していないが︑同様に︑事務処理を目的とする雇傭哭約が成立すると解している︒なぜならば︑継続的債務関
( 2 0 )
この種の契約の本質的要素ではないからという︒わが国の振込は︑前述のごとく︑依頼者が口座を有し
ていても︑原則として預金の払戻を受けた上で振込手続をとっているので︑理論的には右と同様に解すればよいと思
う︒したがって︑顧客が振込用紙に記入して銀行窓口に提出しこれを銀行が受理した時に委任喫約が成立し︑同時に する場合の話であるが︑ 相異は重要でない︒ 結
局は
︑
( 1 8 )
信義則の見地から個々的に判断するほかない︒
いずれにせよ民法の
五
る ︒ て位置づけている建前から︑ 起るとかという重大な理由にもとづいているのでなく︑ のか銀行の為替担当者に聞いても︑もう一っ納得のいく理解は得られなかったが︑要するに︑ その具体的内容たる指図がなされたと解される︒なぜわが国では︑
ドイツ民法の
A n w e i s u n
とg
W e i s u n
は︑わが国ではともに﹁指図﹂と訳されており︑振込の法的性質についてもg
前述の支払指図説があるので︑ここで︑
A n w e i s u n
g と振替における指図
( W e i s u n g
) との関係に少しふれる︒確かに︑
A n w e i s u n
とg
¥ V e i s u n g
の間には共通性がある︒つまり︑第一に︑振替委託が執行されて︑被仕向銀行に入金記帳され
た場
合に
は︑
それは︑資金関係上の履行つまり仕向銀行の振込依頼者に対する履行であると同時に︑対価関係上の履
行つまり︑振込依頼人の受取人に対する履行であるという履行の同時性があること︑第二に︑受取人が取得する債権
である︒それ故︑ は抽象的債権であって︑被仕向銀行は︑資金関係上および対価関係上の抗弁を受取人に主張することができないこと
( 2 1 )
ドイツでは振替︵振込︶委託をもって広義の
A n w e i s u n
g としてとらえる見解もある︒しかし︑
の相異点もある︒
五
そうしなければ事故が
ドイツのように振込を支払手段としてでなく︑送金手段とし
その資金をいったんはもらったという手続を取っておく必要があるということと推察す
つま
り︑
第一
に︑
A n w e i s u n
の規定は︑﹃金銭・有価証券又はその他の代替物を第三者に給付すべきg
ことを他人に指図する証書を第三者に交付したる者あるときは︑その第三者は︑被指図人より自己の名をもって給付
を取立てる権限を有す︒被指図人は︑指図人の計算において指図証書受取人に給付する権限を有す﹄となっているが
(B
GB
七八三条︶︑振替︵振込︶委託の場合は︑金銭その他の代替物でなく︑預金通貨つまり債権を取得させること
を目的としていること︑第二に︑振替︵振込︶委託の場合は︑単に帳簿のつけかえを行なうだけであって︑
A n w e i s u n g
のよう証書を交付するのではないこと︒第三に︑
A n w e i s u n
g の場合には︑第三者から引受呈示があって︑これを引受
つぎ
いちいちめんどうな預金の払戻手続をとっている
2 ‑1 ‑53 (香法'82)
曲~
↓. ‑ 5
日 説
当する被仕向銀行は︑虹接振替事務を執行すべく依頼を受け︑
に関する規定を全面的に適用することはで苔ないが︑
仕向銀行の義務
受託銀行は︑振込人との関係では︑委任関係であるから︑
そ
けることによって始めて被指図人は義務が生ずるが︑賑替︵枷込︶委託の場合には︑引受制度はなく︑被指図人に相
これによって股行権限と同時に腹行義務も負うことで
ある︒したがって︑振替︵振込︶の法的性質を
A n
w e
i s
u n
g とみるわが国の支払指図説は妥当でない︒そこで︑
A n
w e
i s
u n
g
( 2 2 )
共通する部分もあるので︑個別的に準用の可能性はある︒
まずは委任法上の義務がある︒
したがって︑銀行は︑銀行として要求される正規の
( o r d
e n t l
i c h )
注意をもって委託されたことを忠実に実行しなけれ ばならない︵たとえ︑振込金額か受取人に対する依頼人の債務の弁済のためには不足していろことが明らかな場合で も︑遅滞なく振込を行うに必要な事務処理をしなければならない
C
銀行は︑原則として依頼人と受取人の間の基碗と
なっている法律関係に気をつかう必要はなく︑自己に与えられた委託の限度内で形式的に厳格に執行すれぱ足りる︒
というのは︑銀行は振込依頼人の意図および計画を十分に知ることはできないので︑自己の判断で委託を正しく修正
することはできないからである C
もっとも︑前述したように︑依頼人が事梢を知ったならば委託通りに執行しないこ
とを認める事情があるときは︑銀行は︑委託内容に反する措齢をとることができるが︑
て依頼人に間合わせてその指示を仰かねばならない︒
ずる場合には︑委託に反して執行することがでぎる ない︒以上は︑
のままあてはめて考えるごとができると解する︐ ③
ただ
し︑
その場合でも︑銀行は前もっ
それを待っていたのでは︑依頼人に重大な不利益が生
(B
GB
六六
五︶
3
何か重大な不和益かは伯義則に従い決するはか
ドイツの判例・学説の説くところであるが︑
たと
えば
.
このことは︑わが固でも善管注意義務の問題として︑
わか国ては︑振込の削巳不渡処分によって.受取人の当 座勘定口座が解約され︑本米入金記帳すべき口座かなくなったので︑被仕向銀行が振込金を別段仔金に留保し︑数日
後受取人に現払した事件において︑裁判所は︑﹁右振込金い処理を留保して︑自らまたは振込店を介して原告に対して︑
五四
通説によれば︑
五五
における銀行の責任との
これに対応して銀行普通取引約款を
一九七七年四月以降はドイツではもはや許されなくなっ
強制解約の事実を通知し︑これが回答をまって甜後の手続をすべき義務を有していた﹂として︑被仕向銀行に義務違
( 2 3 )
反を認めたが︑正当と思う︒
ドイツでは︑銀行.こ取引する者は一般に銀行普通取引約款か適用され︑
確にするほか︑場合によっては︑法律上の規定の変吏の効果をもたらすこともまれではない︒
ヽこ
3
てし
t
この約款が苫ル平者い哭約の内容となるには︑契約締結s g
匹にこれを明確に指摘しな\ともよいとされ
とい
Aつのは︑銀行と取引する顧客は取引慣行上︑約款が適用されることを当然子定しなければならず︑し
たがって振替ら場合にも顧客は︑
( 2 4 )
ができるからとされていた︒その際︑顧客が個々の条項の内容を知っていたかとうかは問題にならず︑
その適用しない旨を明白に意思表示しないかぎり︑黙示の承認があったと解すこと
あれば十分で灰ろという︒このような約款の拘束力に対する考えは︑
( 2 5 )
説に相当するものと思われる︒しかし︑右のような考えは︑
た︒というのは︑周知のごとく︑その時より︑普通取引約款規制法
( G
e s
e t
z z u r
R e
g e
l u
n g
e d
s R
e c
h t
s d
e r
A l
l g
e m
e i
n e
n
G e
s c
h a
f t
s b
e d
i n
g u
n g
e n
) が施行されたからであって︑ ドイツの従来の判例・
その可能性が
わが国でいえば︑自地慣習法説または意思推定 その第二条ては︑約款が契納の構成要素になる
r
めには
︑①
妬い
款使用者︵銀行︶が明白に約款の使用を指摘すること︑⑤︶契約の相手方に期待可能な方法で約款の内容を知る機会を
与えること︑①芙約の相手方が約款の適用を了解することの三つの要件を満たさなければならないことになった︒し
たが
って
︑
これまで¢よう︶尺顧・吝は約款の適用については知っておくべきこと
( W
i s
s e
n m
t i
s s
e n
) だ
から
︑
( 2 6 )
は同意したことになるという論法は通じなくなった︒そこで︑ドイツの銀行も︑
︵ 包
改正すると同時に︑銀行は
その沈黙
振替取引において用いられる用紙に右の旨の指摘を記載し︑その窓口にはその時々に適 用される約款類をファイルしていつでも見れるように展示している︒振替
(U
百
r w
e i
s u
n g
)
これによって個々の法律関係を補充し︑明
2 ‑‑1 ‑5f) (香法'82)
論 説
関係では︑その第四条三項第二文で﹃銀行は︑振替委託に不正確なまたは不完全な口座番号︑銀行コード番号もしく
は口座名称が指定されていた結果生じた過誤については︑銀行は︑重大な過失があった場合にのみ責任を負う﹄と定
め︑同七条では﹃顧客は︑委託の執行またはこれについての報告がなされた場合において︑遅滞または過誤によって
損害が生ずる可能性のあるときは︑個別に銀行にそのことを指摘し︑委託が印刷された書式によって与えられた場合
には︑この指摘は︑その書式外でしなければならない︒これらの場合には︑自己の過失の範囲で責任を負う︒このよ
うな指摘がなかった場合には︑銀行は︑重大な過失についてのみ責任を負う︒しかし︑その責任は︑委託が顧客にとっ
て営業活動の範囲に属する場合には︑利息の損失に限定される﹄と定め︑また︑同九条で
慮に入れた上でなお正当と考える場合には︑委託されたすべての取引の執行の全部または一部を自己の名において第
三者に委託することができる︒銀行がこれを利用した場合には︑銀行の責任は︑銀行が委託した第三者の慎重な選択
(B GB
六六四条一項二文︑顧客の委託の再委託︶︒銀行が第三者の選
択およびこの者に対する指示にあたり︑顧客の指図にしたがったときは︑銀行は︑その限りにおいて責任を負はない︒
しかし︑銀行は︑第三者に対してなんらかの請求権を有するときは︑顧客に対してその要求によりこれを譲渡する義
務を負う︒﹄と定めている︒これらの条文は︑前述の約款規制法の影響を受けて改正されたものであるため︑ただちに
( 2 7 )
わが国の場合に参考になるとはいえないが︵その意味では︑改正前の条文の方が参考となる︶︑振替︵振込︶依頼人と
銀行との委任関係上生ずる諸問題たとえば︑その執行の遅滞と銀行の責任︑誤って他の口座に振込手続をとった場合
の銀行の責任︑振込の執行に際して他の金融機関その他の独立の機関を介在させた場合における責任関係等につき解
決の指針となろう︒わが国の銀行取引約定書︑当座勘定取引規定をみても︑右に相当する条項はどこにもない︒ただ︑
振込金受取書に注意書きとして︑﹃やむをえない事由による通信機器・回線の故障または郵便物の遅延等によって︑振 およびこの者に対する慎重な指示に限定される ﹃銀行は︑顧客の利益を考
五六
する必要はなくなる 事者の法的安定性の見地からも約款の一層の整備が望まれる︒ 込が遅延することがあっても︑当行は責任を負いません﹄という文言が︑また預金口座振替依頼書には︑﹁記﹂として︑
﹃この預金口座振替についてかりに紛議が生じても︑銀行の責めによる場合を除き︑銀行には迷惑をかけません﹄と
いう文言が記載されているが︑これは︑
五七
︵これは︑わが国のように︑
一 た
むしろ当然なことを抽象的に言ったまでで︑具体的問題の解決には役立たな
い︒それは︑あげて一般の委任法理によって解決しようということであろうが︑銀行取引個有の問題もあるので︑当
受託︵仕向︶銀行は︑振替︵振込︶を執行するに先立って︑わが国では当該資金を受人れ︑
座から引落す︒これは︑法的にみれば︑受任者の費用前払請求権にもとづいており︵民六四九条︑
BGB
六七五条︑六
六九条︶︑首尾よく受取人の口座に入金記帳された場合には︑受任者の費用償還請求権により︑銀行はその金額の返還
︵民
六五
0
条一項
︑ BGB 六七
0
条︶︒しかし︑その執行が何らかの理由で︑口座が見付からなかったなどの理由で︑不可能となった場合には︑もはや前払金は必要なくなったので︑これを返還
しなければならないが︑その場合︑返還されるまでの利息を銀行は支払う必要ない
ん預金を引出して︑振込む手続をとれば問題はないが︑ ドイツでは依頼人のロ
たとえば︑受取人の
ドイツのように直接口座から引落す方式をとれば︑その引落
の効力いかんでは問題となる︶︒また︑振込資金がたとえば当座貸越契約にもとづいたものであれば︑顧客は︑振込が
なされなかったにもかかわらず︑その間の利息を支払わなければならない︒なぜならば︑この場合の銀行の返還義務
行が誤って受取人以外の第三者の口座に振込手続をとった場合にも成立するが︑この場合には︑ は︑振込芙約が無効または取消による原状回復の効果でないからである︒このような顧客の前払金返還請求権は︑銀
さらに銀行に対する
損害賠償請求権も生じうる︒依頼人が受取人の当座預金口座に振込依頼したのに銀行の過失で普通預金口座に入金記
帳した場合はどうか︒銀行は︑当座預金口座に再度振込手続をとらなければならないのかは︱つの問題であるが︑
2 ‑1 ‑57 (香法'82)