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避難行動シミュレーションによる 道路トンネル火災安全性の評価方法

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(1)

煙流動 CFD を用いた

避難行動シミュレーションによる 道路トンネル火災安全性の評価方法

清家 美帆

1

・川端 信義

2

・長谷川 雅人

3

1正会員 金沢大学大学院生 自然科学研究科博士後期課程(〒920-1192 石川県金沢市角間町)

E-mail: m-seike5@stu.kanazawa-u.ac.jp

2正会員 金沢大学教授 理工研究域 機械工学系(〒920-1192 石川県金沢市角間町)

E-mail: kwbt@se.kanazawa-u.ac.jp

3金沢大学助教 理工研究域 機械工学系(〒920-1192 石川県金沢市角間町)

E-mail: mhase@se.kanazawa-u.ac.jp

トンネル火災時の煙挙動CFD解析と避難シミュレーションとの1-way couplingによって煙流動に影響され た避難者の行動を求め,煙中で行動不能に陥っている要救助者の数によって火災安全性を定量的に評価す る方法を提案した.煙による影響を簡略化して表すために,CFD解析から幅方向平均煙濃度分布を求め,

さらに路面からの高さとその高さにおける煙濃度から判定する数段階程度の危険度を導入した.危険度を トンネル長さ軸と時間軸によるコンター図で表すことにより,火災時の煙の時間的な流動挙動を簡便な1 枚の図で表すことが可能になった.避難シミュレーションはトンネル形状の特徴を考慮して一次元とし,

トンネル利用者は避難の必要性を,天井部を流動する煙,他の避難者からの情報伝達,避難放送によって 認識するとモデル化した.

Key Words : road tunnel fire safety, smoke’s behavior, 3-D CFD analysis, evacuation simulation, assessment method

1.

序論

日本は世界有数の経済大国であり,その経済活動を支 えるため日本列島を縦横に結ぶべく道路交通網が整備さ れてきた.しかしながら国土の

70 %

以上が山地であり,

必然的に多くのトンネルが建設されてきた.また近年は 経済を活性化しつつ環境への影響を考慮することの要求 から都市部幹線道路の地下化が進められ,トンネル構造 物が増加している.

トンネル内空間は細長い閉鎖された大空間という特殊 な空間であり,内部で火災事故が発生した際の避難行動,

救助・消火活動は大変困難となり,些細な事故から甚大 な被害に発展する危険性が高い.これまでに実際に発生 したトンネル火災事故例を挙げると,日本では

1979

年 の日本坂トンネル火災事故(死者

7

名,負傷者

2

名,消 失車両

173

台,復旧工事費

34

億円(静岡,東名高速道 路))1),海外では

1999

年のモンブラントンネル火災事

故(死者

39名,復旧工事費 250億円(フランス・イタリ

リア))2),タウンエルントンネル火災事故(死者

12

名,

オーストリア)3)等が挙げられる.日本におけるトンネ ル火災防災対策 4)は,トンネル延長長さと交通量により 決定された等級(

AA

A

B

C

D

)に基づいて各種 非常用設備の設置が決定されており,日本坂トンネル火 災事故を教訓としてさらに対策が講じられた.一方

EU

では,モンブラントンネル火災事故を契機としてトンネ ル防災対策についての活発な議論を踏まえて,その成果 として

2004

EU

指令5)が発令され,交通量に関係なく

延長長さ

500 m

以上の全ての高速道路トンネルを対象に

安全対策の検討を行うことが義務付けられ,その結果,

日本の安全基準より厳しい基準が適用されることになっ た.日本の高速道路におけるトンネルの本数は

EU

全体 の本数とほぼ同数であり,日本は世界一のトンネル大国 ともいえ,諸外国に比べて多くの人が日常的にトンネル を利用していることから,より高度でかつ合理的な安全 対策が必要とされると考えられる.

前述のように道路トンネル火災時の危険性は交通量,

長さに依存するとされているが,断面形状,勾配等の地 形条件,気象条件による自然風が与える影響も大きいと

(2)

考えられ,これらの諸条件が与える影響について明らか にすることは重要なことである.もしトンネル火災の安 全性を数値化して評価することが出来たならば,各種ト ンネル非常用設備の最も効果的かつ安価な適用について 明らかにでき,トンネル火災防災力の向上に大いに寄与 できると考えられる.

本論文で提案する評価方法は,CFD解析によって得ら れる煙濃度分布に基づいて避難者の行動シミュレーショ ンを行い,一定時間経過時に煙の中で行動不能に陥って いる要救助者の数によってトンネル火災安全性の定量的 な評価を行うものである.本論文での特徴は,トンネル 火災時の煙の流動状態の経時変化を簡略化した「危険度」

の提案(3章),および一次元避難行動モデル(4章)

である.危険度は煙の状態(濃度と高さ)を

10

段階程 度に簡便に表し,膨大な

CFD

解析結果を避難行動シミ ュレーションに簡便に取り入れるために導入したもので ある.この危険度を,横軸にトンネル延長長さ座標,縦 軸に経過時間としたコンター図(危険度マップと定義)

で表すことによって,一つの図で煙の流動状態の経時変 化を簡潔に表すことができる.一次元避難行動シミュレ ーション(4章)については,トンネル空間が細長い大 空間という特徴を利用した一次元的な避難行動モデルと し,利用者の近傍の煙の状況,他の避難者からの情報伝 達,避難放送によって避難必要性を認識するモデルとし た.

(用語の説明)

幅平均煙濃度 : 幅(y)方向に平均した煙濃度で,x,

y

および時間

t

の関数となる.

危険度

R : 煙が避難者に及ぼす影響の程度を 10

段階程

度に簡便化した量.本研究では表-1.

危険度マップ : 横軸にトンネル延長長さ座標,縦軸に 経過時間とした危険度のコンター図.

避難者行動マップ : 危険度マップ上に全避難者の移動 軌跡を表した図.

行動不能 : 煙に囲まれて適切な避難行動ができなくな った状態.歩行速度を

0 m / s

とした.

要救助者 : 行動不能に陥り救助を必要とする人.

本論文で使用する主な記号を以下に示す.

x, y, z : x

はトンネル長さ方向,yは幅方向,z方向は高

さ方向,原点は火源とする.

[m]

t : 火災発生からの経過時間.

g

:トンネル縦断勾配

[%]

Cs : 光の透過度を表す減光係数.本論文では煙濃度と

呼ぶ.

[m

-1

]

) (

) ln(

) (

- 1

発光強度 受光強度

= 光路長 Cs

2. 煙流動解析

(1) 煙流動CFD解析

本論文では

LES

乱流モデル(標準

Smagorinsky

モデル)

を用いた三次元

CFD

解析

Fireles

を用いる.Firelesは著者 の一人によって

1998

年に開発6)されたもので,トンネル 火災に特化しており,開発当初からトンネル火災の熱気 流の挙動に支配的な影響を与える天井や壁への吸熱モデ ルを用いている.実大及び模型トンネルでの火災実験結 果との比較・検討により,天井に沿った熱気流の伝播と 煙の降下現象などトンネル内での火災による熱気流の 様々な流動現象を定量的に再現することが確認されてい る6)7)8)9)10).特に煙の降下位置と降下時間について実 大実験結果に定量的に一致することを確認した例は他に はなく,日本の道路トンネル火災防災の検討では

Fireles

を用いて評価されることが多い.

欧米では火災時に発生する熱気流シミュレータとして

FDS

11)

Fire Dynamics Simulator

,開発年度

2000

年)がよく 用いられている.FDSはアメリカのNIST(National Institute

of Standards and Technology

)によって建築火災を対象とし て開発されたオープンソースのシミュレータである.燃 焼時の化学反応を考慮した火源モデルや放射熱の影響を 取り入れるなど,火源近傍の現象に対するモデルに特徴 がある.

FDS

によるトンネル火災の解析例12)もあるが,

実験との比較は数少なく,特にトンネル火災時の煙の流 動として重要な特性である煙の降下現象についての実験 との比較はまだされていない.

(2) 煙濃度

火災時の避難者の行動を阻害する要因として,避難者 周囲の温度上昇,有毒ガス(一酸化炭素,以下CO),

煙が考えられる.建築火災における避難環境の評価では 熱と煙の挙動がほぼ同じであるとして一般的に温度を用 いることが多い13).一方,道路トンネルは内空容積が大 きく,長さが数百メートル以上にもなる細長い特殊な空 間であり,かつ火災規模も短時間で数十

MW

まで達する 危険性が想定されていることから,大量の煙を含んだ熱 気流が極めて広い範囲で流動し,その分吸熱の影響を大 きく受け,火源から離れた領域で熱と煙の流動が異なる ことになる8).このことから道路トンネルにおける火災 時の避難環境の指標としては,温度よりも煙や有毒ガス を用いる場合が多い8)10)12)14)と考えられる.

CO

濃度を 用いる理由は過去のトンネル火災事故における多くの犠 牲者の死因が

CO

中毒であるためで,欧米で良く用いら れている12).日本においては,まず煙によって避難者の 視認性が阻害されることにより行動不能に陥り,その後 に有毒ガスの影響を受け,負傷あるいは死に至ると考え,

煙による避難者周囲の視認性の低下によって避難環境を

(3)

評価することが多い14).本論文でも同様に,避難環境の 指標として煙の濃度の指標である光の透過度を意味する 減光係数Cs[m-1

]を用いることにする.

先に述べた

CFD

解析では,様々な物理量が保存則に基 づいた移流拡散方程式を解いて時々刻々計算されている.

したがって

CFD

解析で解くべき煙濃度も保存性を有する ことが求められるが,減光係数Csは保存性を有しない.

そのため,保存性を有する煙粒子の質量濃度

m[g / m

3

]

CFD解析によって求め,実験に基づいたmとCsの換算式





    

         

] m / g [ 0.15 94

. 4 ln 73 . 1

] m / [g 0.15 1

. 11

3 3

m m

Cs

m m

Cs

(1)

によってmをCsに変換する15).以下,本論文では

Csを煙

濃度と呼ぶことにする.

(3) CFD解析条件

本論文にて示しているCFD解析例の主な条件はすべて 同一である.本節にてこれらの条件について説明する.

a) CFD解析領域

本論文では換気機器が設置されていない延長長さ

700 mの短いトンネルとし,トンネル断面形状は開削トンネ

ルでよく見られる二車線矩形断面(高さ

H = 5 m

,幅

W = 10 m)を例に検討を行った(図-1).トンネル内縦断勾

g

x

の正方向に一定の上り勾配とし,火災発生前は 無風状態であるとした.計算格子数については,実験結 果との確認を行った際の格子分割9)を参考に,トンネル

内をdx = 0.40 m,dy = 0.30 m,dz = 0.25 mのサイズに等分割 し,トンネル内の総格子数を約

117

万とした.

図-1に示すように,トンネル両坑口外部の領域も解析 領域としているが,これは勾配があるトンネル内では発 生した熱気流の浮力により下り側の坑口から上り側の坑 口に向かう流れが発生することになり,坑口部における 流入抵抗の影響が無視できなくなるためである.なお,

初期風速を

0 m / s

としているため,その影響はそれほど 大きくないと考えられ,計算効率のために,外部領域の 大きさは

Lx = 15 m

Ly = 16 m

Lz = 9 m

(体積

2160 m

3)と した.外部領域における分割は不等分割とし,計算セル 数の効率化を行い,トンネル内を含めた総セル数を約

-1 CFD解析領域 9 m

外部領域

トンネル部

0 20 40 60 80 100

0 5 10 15 20 25

0 120 240 360 480 600

発煙速度[g /s]

発熱速度(対流成分) [MW]

火災発生からの経時時間t[s]

(i) 180 s (ii) 240 s (iii) 300 s (iv) 390 s

図-2 実大トンネル大型バス火災実験での発熱(煙)速度曲線9)と対応する実際の映像

(4)

130万とした.ちなみに両坑口間に圧力差がある場合に

ついて,十分に大きい外部領域の場合に比べて自然風の 風速が2 %程度の違いであった.

トンネル天井および壁はコンクリート(密度

2100 kg / m

3,比熱879 J / (kg

 K),熱伝導率1.10 W / (m  K)

,厚さ500

mm

)とし,壁内も厚さ方向に

9

分割し,

CFD

解析との

2- way couplingによって壁内の熱伝導問題を解いている.

b) 火災条件

日本では大型バス相当の火災規模を検討火災として設 定することが多い.図-2に実大トンネル(縦断勾配

g = 2 %)における大型バス火災実験の発熱速度曲線を示す

9)15),図中にその際の火災中の写真も合わせて示した.

発熱速度は火災発生から8分後に20MWに達し一定とな るが,ここで示した発熱速度は対流成分のみであり,総 発熱速度の約60 %~70 %が対流成分とされていることか ら,総発熱速度としては

30 MW

規模の火災となる.発煙 速度は文献15)に基づき発熱速度と同じ変化とし,火災発 生後

8

分に最大発煙速度

90 g / s

とした.ちなみに,この曲 線はEUREKA EU499 Project16)で行われたスクールバス火 災実験に対する曲線とよく一致することが報告されてい る9)

火源位置(

x = 0 m

)は左坑口から

200 m

地点とし,車両 通行方向は右坑口(x = 500 m)から左坑口(x = ‐ 200 m)

の一方通行とする.すなわち,火源は左坑口寄りにある ため危険側の想定となる.

表-1 本論文での危険度の定義

危険度 R 色

煙濃度 Cs [m-1]

煙高さ z [m]

0

0.4 4.0

1

0.1 1.5

2

0.2 1.5

3

0.4 1.5

4

0.4 1.0

5

0.8 1.0

6

1.2 1.0

7

3. 危険度

(1) 危険度の定義

トンネル火災時の煙濃度分布は幅方向の変化が少なく,

ほぼ長さ方向座標xと高さ方向座標

zによる二次元の分布

として表すことができる.したがって避難者周囲の煙の 状況を簡素化して表すために,CFD解析により得られる 三次元煙濃度分布を幅(

y

)方向に平均した二次元平均 煙濃度分布を基にし,煙が避難者の行動を阻害する影響 の度合いを危険度

R

として表すことにする.なお,危険 度Rはxとtの関数として表される.

表-1に本論文における危険度の定義を示す.火災発生 前は煙は存在しないので,危険度Rは全ての

x においてR

= 0

である.火災発生により火源から熱気流と煙が発生 し,煙は熱気流と共に天井に沿って成層状態となり流動 する.この状態を天井近くの照明が煙に覆われる程度と 考え,z = 4 m(天井から1 m下)において煙濃度Cs 値が

0.4 m

-1以上であるとして

R = 1

とした.さらに危険な状態

として避難者の顔の高さに煙が降りて来るまでとし,z

= 1.5 m

において

Cs

値が

0.1 m

-1となるまでを

R = 1

とする.

すなわち(z = 4 m,Cs = 0.4 m-1)から(z = 1.5 m,Cs = 0.1

m

-1)までを危険度

R = 1

とする.なお,

Cs = 0.4 m

-1では光 が1.7 mの行程で約50 %に減衰し,

Cs = 0.1 m

-1は7 mの行程 で約

50 %

に減衰する状態である.さらに煙が拡散し,

( z = 1.5 m,Cs = 0.1 m-1)から(

z = 1.5 m,Cs = 0.2 m

-1)ま での範囲を危険度

R = 2

,さらに(

z = 1.5 m

Cs = 0.2 m

-1) から( z

= 1.5 m,Cs = 0.4 m

-1)までを危険度

R = 3

とする.

なお,

Cs = 0.2 m

-1の濃度は光が

3.5 m

の行程で約

50 %

に減 衰する状態であり,視界は限定されるものの避難行動は 可能とされている14).次に(

z = 1.5 m

Cs = 0.4 m

-1)から

(z = 1 m,Cs = 0.4 m-1)までを危険度

R = 4とする.日本に

おけるトンネル防災検討では,(

z = 1.5m

Cs = 0.4 m

-1) の状態を避難行動が可能か不可能かのしきい値とするこ とが多い14).さらに危険な状態として避難者が屈んだ状 態での目の高さz = 1 mに注目し,(z

= 1.0 m,Cs = 0.4 m

-1) から(

z = 1.0 m

Cs = 0.8 m

-1)までを危険度

R = 5

,(

z = 1.0 m,Cs = 1.2 m

-1)から(z = 1.0 m,Cs = 1.2 m-1)までを 危険度

R = 6

,それ以上を危険度

R = 7

とした.

(2) 危険度マップと煙の挙動

横軸に長さ方向座標x,縦軸に火災発生からの経過時 間

t

をとり,危険度をコンター図(表-1の色)として

x

方 向分布と時間変化を同時に示す(図-3).この図を危険 度マップと称することにする.図-3は例として

g = 2 %

の 場合である.図-4は図-3に対応するトンネル幅方向に平 均した煙濃度分布であり,

1

分毎に示している.なお,

図-3の色分けは危険度,図-4の色分けは煙濃度を表して

(5)

おり,異なっていることに注意されたい.図-3の危険度 マップと図-4の煙濃度分布との対比から,危険度マップ がトンネル内煙流動の経時変化を表し得ることを以下に 述べる.

図-3から,発火から20秒から2分過ぎまでは危険度R =

1

(青)の領域が火源から左右に拡がる.危険度

R = 1

は 煙が天井に沿い成層状態を成し,避難者がいる床近傍に は煙が降りていない状態であり,図-4の幅方向平均煙濃 度分布からも2分までは煙は成層状態を保っていること が分かる.また,図-4から,

z = 4 m

から

5 m

(天井)の範 囲の煙先端位置は殆ど同じであり,危険度R = 0(白)と

危険度

R = 1

(青)の境界線を煙先端位置として評価して

良い事も分かる.その境界線の傾きが煙先端の進行速度 となるが,

2

分を過ぎたあたりから火源左側の煙の進行 速度が徐々に遅くなり,右側の進行速度が速くなる.こ れは天井部の高温の熱気流領域が拡大すると共に浮力が 大きくなり,2 %勾配の上り側(右側)へ移動し始めた ためである.図-3より,火災発生から

3

分前後,煙が避 難者の目線高さz = 1.5 mまで降下してきたことを表す危 険度

R = 2

(水色),

3

(橙),

4

(黄緑)の領域が

x = 100 m前後地点に現れ,その位置からxの負の方向(火源方

向)に筋状の状態が見られる.これは,図-4から

x = 100 m付近で煙層の厚さが厚くなり路面近くに拡散し,路面

近傍の火源に向かう流れによって拡散した煙が流される ことに対応している.4分経過時になると,図-3からx =

100 m

強で発生した危険度

R = 4

の領域は,

+ x

方向には煙

先端位置から若干遅れて移動し,

- x方向には火源に向か

って拡がり,その結果,危険度

R = 4

の領域が左右に急速 に拡がる.図-4からも火点の右側の煙層の厚さが厚くな り,火源右側の広い範囲で煙が路面近くに拡散すること が確認できる.5分になると図-3よりz = 1 mに煙が降下し たことを表す危険度

R = 5

(ピンク),

6

(黄)の領域が

x

= 100 ~ 200 m間に現れ,一気に危険度R = 7(赤)になる

が,図-4からも

5

分以降には煙濃度が

1

以上の煙が路面近 くにまで拡散し,広範囲で濃い煙の降下が発生すること が読み取れる.また,煙先端部においては危険度

R = 0

(白)から急激に危険度R = 7(赤)に移行することから 成層状態とならずに横断面全体に煙が拡散した状態で遡 上していくことがわかる.一方,火点の下り勾配側(左 側)では

6

分までは煙層厚さがほぼ一定の成層状態で左 側に進展することが図-4から分かるが,7分になると火 源近くの煙層厚さが厚くなり,左坑口に向かって厚さが 減少する.これは浮力の増加に伴いxの正方向の流れが 増加し,火源左側の熱気流もその流れに流され後退し始 めたためである.図-3の危険度マップにおいても,6分 まで火源の左側はほとんど危険度

R = 0

1

のみで成層状 態を保っていることが分かるが,6分から7分の間に危険 度

R = 2

3

4

の領域が

x = - 80 m

地点から火源までの範囲

で発生する.さらに約

7

分に危険度

R = 1

の熱気流が左坑 口に達すると,それ以降危険度R = 4,5,6の領域が左坑

x [m]

z [m]

Cs [m

-1

]

図-4 幅(y)方向平均煙濃度分布の経時変化

(縦断勾配g = 2 %)

-3 危険度マップ

(縦断勾配g = 2 %,危険度は表-1の色による)

トンネル長さ方向座標x [m]

災発生からの経過時間t [min]

(6)

口付近で発生し,火源に向かって流される.これは坑口 から流入する外気流によって熱気流が乱され煙が流入す る外気流に混じるためと考えられる.また,右側の熱気 流は

6

分以降加速し,

8

分弱には右坑口に達する.

8

分過 ぎになると左坑口での煙の降下はなくなり,熱気流層が 火源側に後退し,

9

分以降火源左側の環境は急速に回復 する.

縦断勾配

g

が異なる場合の煙の挙動を図-3と同じ危険 度マップで比較する(図-5).図-5 (i)のg = 0 %の場合,

発火から

5

分くらいまでは危険度

R = 1

(青色)の領域が 火源から左右対称に拡がり成層状態を維持している.5 分以降は

x =

±

100 m

地点から危険度

R = 4

(黄緑)の領域 が急激に広範囲に拡がり煙が降下し始める.火源右側で 降下した煙は右坑口に向かって進行し,

6

30

秒前後に 煙先端(危険度R = 0と危険度R = 1の境界線)にほぼ追い つく.

7

分経過時には

x = - 100 m

150 m

の広い範囲で危 険度R = 5と危険度R = 6の領域が現れ,さらに煙の降下が

進む.

9

分には

x = 300 m

で濃い煙が路面近くに降下する.

このように図-3のg = 2 %の場合と比べると,煙が成層状 態を維持する時間が長く,火源右側の避難環境も図-3に 比べて良いことが分かる.

図-5 (ii)の

g = 4 %

の場合,発火から

2

分くらいまでは

g = 0 %,2 %の場合とほぼ同じように危険度R = 1(青色)の

領域が火源から左右に拡がるが,勾配の影響により浮力 が右側に向かって作用し,左側の煙先端速度は減速し,

4

分経過時には

x = - 100 m

ほどでほぼ停止し,その後

6

分経 過時から火源方向に後退し始め,8分以降は火源左側に 煙が存在しなくなる.なお,火源左側は危険度

R = 2

以上 の領域は現れず成層状態を保つことが読み取れる.火源 右側の煙先端部は危険度

R = 1

(青色)の領域が狭く,成

層状態を成すことなくほぼ横断面全体に煙が拡散した状 態で進み,

g = 2 %

の場合よりも

1

分ほど早い

7

分経過時に 右坑口に達し,極めて危険な状態であることが分かる.

このように

1

枚の危険度マップから熱気流の挙動を読 み取れることが分かる.

4.

避難行動シミュレーション

火災時の避難行動モデルについての既往の研究は,建 築物内や震災時の避難を取り扱っている例がほとんどで ある.古くは,ある人数の避難者を均質な属性を有する 集団として扱い,その集団の行動を予測する手法17),18)が 提案されてきたが,最近では,個々の避難者に作用する 事象を運動方程式を用い個別要素法19),20)や避難者が存在 する場に避難方向や危険性が高い所を表すポテンシャル を与えるポテンシャル法21),22),23)などが提案されている.

トンネル火災における避難行動シミュレーションの研 究は数少なく,国内では大上ら24)による例がある程度で ある.大上らのモデルは水平二次元での渋滞車両等の障 害物を考慮した詳細な避難行動モデルであるが,煙の挙 動に関しては,成層状態や拡散状態を考慮せず,煙の流 動解析を行わずに一定の移動速度を与える極めて単純な モデルである.しかしながら,トンネル内の煙の挙動は,

避難者の行動に大きな影響を与え,前節で述べたように 勾配による影響だけでも複雑な流動を成し,それに加え て自然風,換気機器の運用,発熱規模などの影響を大き く受け,さらに煙層の下を避難することも想定しなくて はならないため,より詳細な煙の流動解析を用いた避難 行動シミュレーションが不可欠である.そこで本論文は,

(i) 縦断勾配g = 0 % (ii) 縦断勾配g = 4 %

図-5 縦断勾配に違いによる危険度マップ トンネル長さ方向座標x [m]

災発生からの経過時間t [min]

トンネル長さ方向座標x [m]

災発生からの経過時間t [min]

(7)

2章で述べた LES

乱流モデルによる煙流動三次元

CFD

解 析結果から求められる危険度(

3

章)を用いて,煙濃度 が避難者に与える影響を考慮した避難行動シミュレーシ ョンを提案する.なお,避難者の行動は煙流動に影響し ないため,本研究の避難シミュレーションは煙流動CFD 解析に対する

1-way coupling

となる.

(1) 避難者行動の一次元モデル

本論文で提案する避難行動モデルは,避難者一人一人 の行動を追いかけ,避難中に発生する事象もそれぞれの 避難者毎に考慮するモデルである.トンネル空間は幅に 比べて長さが極端に長いという特徴を有する閉空間であ りながら,幅も10 m前後もある大空間である.また,避 難者は特定のところに多人数が集中して存在することは 稀であり,渋滞車両が存在する区間に点在する.したが って,避難者が非常時に避難経路となる車道を通って避 難する際にも,たとえ停止車両があってもその横を通り 抜けることは容易であり,避難者間の物理的干渉の影響 を無視し,他の避難者を追い越して避難することも可能 であるとした.また,トンネル長さ方向を認識すること は容易であり,避難の方向を見失うことは無いものと考 え,避難者の行動を長さ(

x

)方向に限定した一次元的 挙動として取り扱う.

i

番目の避難者の位置を

x

i,その歩行速度を

v

iとし,微 小時間Δt 間の位置変化(

x

iold

x

inew)を

t v x

xinewioldi

(2)

で計算する.歩行速度viを様々な状況に基づいて決定し,

時間を進行させる.すなわち,避難行動開始以前は静止 しているのでvi

= 0とおき,避難開始後は避難者周囲の煙

の状況,すなわち危険度によって歩行速度を決め,避難 完了後はvi

= 0とする.

(2) 避難必要性認識のモデル

建築火災では,建物内が複数の区画に区切られ,さら に高層化されているため,殆んどの在館者が火災発生を 直接認識することがなく,火災感知器による感知と非常 警報25)に頼らざるを得ない状況がある.そのため,火災 室の面積によって,避難開始時間を決め,避難に必要な 時間などの算出25)を行っている.一方,トンネル内は延 長の長い大空間であり,ほとんどすべての避難者は火災 が発生している空間と同じ空間に存在するため,各避難 者が避難の必要性を認識する事象も建築火災の場合とは 異なる.そこで避難の必要性を認識する要因として,利 用者近傍の事象,避難行動中の他の避難者からの情報伝 達,外部からの情報伝達の三つについてモデル化した.

1)

利用者近傍の現象(天井部の煙)

道路トンネルの天井は汚れており,さらに利用者 のほとんどは車両内にいるため,天井部を伝って 煙が流動して来ても気付き難い.そのため,天井 部の照明が煙に覆われ薄暗くなることで,異常を 察知し避難必要性を認識し,避難開始に至ると考 えられる.本論文では利用者の直上で危険度

R = 1

(表-1)になった時に,避難の必要性を認識する

図-6 避難必要性認識のモデル化

(ii) 避難行動中の他の避難者からの情報伝達によって (iii) 避難放送を聞いて

(i) 天井部の煙を見て

(8)

とした(図-6 (i)).

2)

避難行動中の他の避難者からの情報伝達

Nillsonら

26)は実際のトンネルを用いて避難行動に関

する実験を行い,避難をしている人を見て避難の 必要性を感じる傾向があると報告している.これ に基づき,利用者の近傍(

15m

以内)にほかの避難 者が到達したときに避難の必要性を認識するとし た(図-6 (ii)).

3)

外部からの情報伝達(避難放送)

トンネル内に放送設備が設置されている場合,避 難放送を聞いて避難必要性を認識するとした(図- 6 (iii)).

避難必要性を認識した後,避難者は避難準備のため少 しの時間差を持って避難を開始する.この時間を避難準 備時間と定義し,本論文では5秒から15秒の範囲とし,

避難者ごとに乱数を発生させ決定した.

(3) 避難歩行速度モデル

避難行動中の歩行速度(避難歩行速度)は各避難者の 周囲の煙の状況,すなわち危険度

R

によって決定する.

煙濃度と避難歩行速度の関係は神による実験27)が有名で あり,日本の道路トンネル火災防災の検討14)においても 神の結果に基づき危険度R = 4(z = 1.5 m,Cs = 0.4 m-1)と なった時点で煙に巻かれて行動不能,すなわち避難歩行 速度 v を0 m / sとしている.

人の歩行速度は年齢・性別等により個人差が大きい.

そこで個々の避難者に異なった避難歩行速度を与えるた め,図-7に示すような避難歩行速度の分布を与えた.横 軸は避難歩行速度 v ,縦軸はその避難歩行速度の確率分 布

S

であるが,

S

v

による積分を正規化し

1

となるよう にした.

0Sdv1

(3)

図-7には

case 1

case 4

4

つのケースについて示すが,

それぞれ下記のような根拠に基づいている.

case 1

は,火災便覧28)に示されている平均歩行速度

1.3 m

/ sと従来のトンネル火災防災検討で採用されてきた最低

歩行速度

1 m / s

を考慮し,避難歩行速度範囲を

0.9

1.7 m / sとし,平均避難歩行速度を1.3 m / sとする分布とした.

case 2

は,参考文献29)に示されている平均

1.33m/s

,速い人 が2 m / sを参考にして決定した.なおcase 1とcase 2は通常 時の歩行速度の計測値に基づいたものである.

case 3

は 急いでいる状況を想定し,建築設計資料集成30)の朝の通 勤時の平均歩行速度

1.5 m / s

に基づいて,

case 1

と同様な 考えで決定したものである.さらに緊迫した状況の想定 が

case 4

である.

Boer

31)は実際のトンネルを用いて‘爆発 の危険性があるので直ちに避難をするように’といった 放送を行って避難速度の計測を行った.その結果,平均

2.3 m / s,最大3.1 m / sという結果を得た.この結果を参考

に,

case 4

を決定した.

避難歩行速度を個々の避難者に対して決定するため,

個々の避難者に乱数値(

0

1

)を与える.

i

番目の避難 者の乱数をriとし,その避難者の避難歩行速度viとの関係 を

vi

i Sdv

r 0

(4)

とする.これにより与えた

r

iに対し数値的に

v

iを求めた.

なお,運転者には子供や高齢者はいないと考え,

0

1

の乱数

r

i

1 . 0 9 .

0 ri

(5)

によって

0.1

1

の範囲の乱数に変換し,図-7の避難歩行 速度の遅い方(左側)の10 %の範囲を除いて避難歩行速 度を決定した.ここで,

10 %

7

歳以下の幼児や高齢者 の人口割合を考慮して与えたものである.

なお,避難者が避難口あるいは坑口の

10 m

以内に到達 したときに避難完了とした.

(4) 避難者行動マップ

危険度マップ上に各避難者の位置の変化を実線で示す ことによって,煙の挙動と避難者の行動を同時に示すこ とが出来る.その図を避難者行動マップと呼び,

3

章(2) のg = 2 %の場合を例として図-8に示す.避難者は

100 m毎

A

B

C

D

4

名を配置し,各避難者の避難歩行速 度は1.0 ~ 1.3 m / sの範囲で乱数で決定し,避難放送は火 災発生から

3

分後に行われるとした.

図-8より火源から10 m離れた位置にいる避難者Aは,

1

分後に天井部の煙

(R = 1)

を見て避難を開始する.避難 者Aの避難歩行速度は煙先端移動速度より早く,安全に 避難し,約

2

分時に避難者

B

の近傍に達する.避難者

B

は 避難行動をしている避難者Aを見て避難を開始するが,

避難速度が避難者

A

より遅く,避難者

B

が最も遅れた避 難者となる.避難者CとDは3分時の避難放送により避難 を開始し,避難者

A

より早く右側坑口に達する.煙先端

0

0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5

確率分布S 1 / (m / s)

避難歩行速度v[m / s]

case 1 case 2 case 3 case 4

-7 避難歩行速度分布

(9)

移動速度は火災の発達とともに増加し,煙は路面に拡散 した状態で遡上し,避難者

B

は右側坑口から約

50 m

に位 置で煙に巻かれて行動不能となる.避難者Aは煙が右側 坑口に到達するとほぼ同時に坑口に達し,無事避難を完 了した.よって避難者行動マップによって,時々刻々の 煙の挙動と避難者の行動を簡潔に表わすことができる.

(5) 平均要救助者数

火災発生からある評価時間(本論文では10分)経過時 に煙に巻かれて避難行動不能に陥っている避難者を要救 助者とし,その人数を要救助者数と定義し,トンネル火 災安全性の評価の指標として用いることにする.実際の 場合に対する検討においては,交通量および大型車混入 率などに基づいて渋滞車両数を決定することになるが,

本論文では簡略化し,渋滞車両は全て乗用車(4 m),

車間距離は

2 m

とし,車頭間隔

6 m

で両レーンに火点位置 から右坑口までに密に停車するとした. 1台あたりの平

均乗車人数は参考文献32)より1.4人とし,乗車人数が1名

(ドライバーのみ)の場合を

70 %

2

名の場合を

20 %

3

名の場合を10 %の確率とし,その決定には乱数を用いた.

用いる乱数は計算する度に異なり,同じ条件での要救助 者数もシミュレーションの度に異なる.火災事故を評価 する場合,最大被害を想定することはよく行われるが,

ここでは平均的な被害について評価することとし,要救 助者数も多数のシミュレーション結果を平均した平均要 救助者数とする.

図-9に縦断勾配

g = 4 %

の場合について,横軸にシミュ レーション回数を取り,点でシミュレーション毎の要救 助者数,実線で平均要救助者数を示す.図より,要救助 者数は7人から34人の範囲で変化し,平均要救助者数は

19.05

人となることがわかる.また,回数が少ない場合

は平均要救助者数も変動するが,回数が増加するにつれ て徐々に変動が少なくなり,ほぼ一定となる.本論文は 一次元避難シミュレーションであるため,計算時間が極 めて早いため,以下の本論文の結果は

1000

回の平均値を 用いることとした. この一定になる値を改めて平均要 救助者数と定義する.

5. 計算例(縦断勾配と避難速度による影響)

図-10は横軸にトンネル縦断勾配 g,縦軸に平均要救助 者数をとり,図-7の

case 1

4

の歩行速度について平均要 救助者数の変化を示し,トンネル縦断勾配が火災安全性 に及ぼす影響について調べたものである.また,縦断勾 配g = 4 %のときの避難速度の遅いcase 1と速いcase 4の場 合について,避難者行動マップを図-11に示す.なお,

700 mのトンネルでは通常避難放送は設置されていない

ため,図-10,11は避難放送が無い場合とした.

図-10から,避難速度を通常時の歩行速度としたcase 1,

0 10 20 30 40

0 200 400 600 800 1000

要救助者数[人数]

計算回数[]

平均要救助者数

-9 平均要救助者数(g = 4 %)

トンネル長さ方向座標x [m]

災発生からの経過時間 t [min]

A

A B C D

B-D

図-8 避難者行動マップ(g = 2 %)

避難放送

-10 縦断勾配gによる影響

0 10 20 30

0 10 20 30

0 1 2 3 4

平均要救助者数[人]

縦断勾配g[%]

case 1 case 2 case 3 case 4

(10)

case 2

では,

g = 1 %

から平均要救助者数が増加し始め,

g

が増加するに従い二次関数的に増加し,g = 4 %のとき20 名前後となる.これは煙先端速度が勾配の増加に伴って 増加し,煙に巻かれる避難者が増加するためである.急 いだ歩行とした

case 3

g = 2 %

位からなだらかに平均要 救助者数が増加し始め,

g = 4 %時で6

名弱とcase 1,2より かなり少なくなる.最も緊迫した状況を想定した

case 4

は,トンネル内利用者への情報伝達が早くなるために

(図-11

(ii)

),勾配が大きくなっても要救助者はほぼ発 生しない.これらの結果から,避難歩行速度は平均要救 助者数に大きく影響し,特に最大避難歩行速度が大きい ことはトンネル内利用者への情報伝達を早くする効果が あり,平均要救助者数を減少させると考えられる.すな わち,トンネル内利用者への迅速な情報伝達が重要であ ることが分かった.

迅速な情報伝達の一つの方法として避難放送がある.

図-12は,縦軸に平均要救助者数,横軸に火災発生から 避難放送までの時間とし,避難放送のタイミングの影響 について示したものである.実線は避難放送を行ってい る場合,点線は避難放送がない場合である.避難歩行速 度が比較的遅い

case 2

の場合,縦断勾配は

g = 4 %

の場合 である.その他の条件は図-11の場合と同様である.図 より,避難放送がない場合,平均要救助者数が

22

名程度 であるのに対し,火災発生から60秒に避難放送を行うと 平均要救助者数が

15

名程度となり

7

名程度減少する.ま た,90秒後の場合は2名強しか減少しないことから,火 災発生から

60

秒以内に避難放送をするのが望ましいこと が分かる.この場合はトンネル延長長さが700 mと短い ため浮力の影響を大きく受けやすく,煙の移動速度が速 くなり,避難放送の効果が小さくなったものと考えられ る.

本章では要救助者数を用いた評価の例を示したが,避 難歩行速度や縦断勾配による影響,避難放送のタイミン グの効果について定量化して比較することができること が分かった.

6. 結論

トンネル火災時における安全性に関する定量的な評価 手法の提案を行った.主な結果をまとめると以下のよう になる.

1)

煙挙動

CFD

解析を用いた避難者行動シミュレーシ ョンのために,三次元煙濃度分布を煙濃度と高さ 10

15 20 25

60 120 180

平均要救助者数[人]

火災発生から避難放送開始までの時間

s

図-12 避難放送時間による影響

(歩行速度:case 2,縦断勾配g = 4 % 避難放送がない場合 トンネル長さ方向座標x [m]

災発生からの経過時間t [min]

トンネル長さ方向座標x [m]

災発生からの経過時間t [min]

(i) 歩行速度分布が遅い場合(case 1 (ii) 歩行速度分布が速い場合(case 4

図-11 避難者行動マップ(歩行速度による違い)

(11)

から決定する8段階の危険度を定義して,簡便に表 した.

2)

危険度を,縦軸に時間,横軸にトンネル長さ座標 としたコンター図を危険度マップと定義し,時々 刻々変化する煙の流動状況を表せることを示した.

3)

トンネル空間の特徴を考慮し,危険度と

1-way cou-

pling

させた一次元避難行動シミュレーションを提

案した.

4)

避難必要性の認識について,避難者周囲の煙状況

(危険度),避難者間の情報伝達,避難放送の

3

つ の要因を想定したモデルを提案した.

5)

トンネル火災安全性の指標として,火災発生から ある時間経過時(本論文では

10

分)に煙に巻かれ て避難が出来ない要救助者数を用いることを提案 した.

6)

提案した評価方法の適用例として,縦断勾配およ び避難放送のタイミングの影響について示し,本 手法を用いることで様々な諸元に対してトンネル 火災安全性を定量的に評価できることを明らかに した.

本論文は,避難シミュレーションによるトンネル火災 安全性の評価方法の考え方を示したものであり,評価方 法の確立のため,特に定量的な評価をするためには今後 の更なる検証が必要である.

謝辞:本論文の一部は平成

21

22

年度「

JICE

研究開発助 成制度」によるものであり,ここに感謝の意を表します.

また,トンネル火災安全研究会のメンバーの方々には有 益なご意見をいただきました,ここに感謝の意を表しま す.

参考文献

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若松孝旺:建築火災時の避難安全評価シミュレーシ ョンプログラムの開発(その2)避難行動モデルの概

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1997.

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http://www.mlit.go.jp/road/ir/iinkai/1pdf/s1-54.pdf.

(2013. 8. 12 受付)

ASSESSMENT METHOD FOR ROAD TUNNEL FIRE SAFETY BY EVACUATION SIMULATION IN SMOKE’S BEHAVIOR

FROM CFD ANALYSIS

Miho SEIKE, Nobuyoshi KAWABATA and Masato HASEGAWA

The present paper proposed quantitative assessment method for road tunnel fire safety by numerical

simulation of evacuation in smoke. To evaluate the influence of smoke on evacuees, Smoke Environment

Level (R) has been defined as a function of time and longitudinal location, by simplifying smoke distribu-

tion derived from 3-D CFD analysis and then weighting it with visibility. By mapping R on time-distance

plane, smoke's behavior in tunnel fire can be concisely expressed. In the developed 1-D evacuation simu-

lation method using R, each evacuee recognized the necessity of evacuation through smoke's behavior,

other evacuees' behavior or emergency announcement. The number of people who were surrounded by

thick smoke in 10 minutes was used as evaluation index for tunnel fire safety. The present method has been

tested in the cases of various longitudinal gradients and evacuees' moving speed.

参照

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項 目 実 施 結 果 ◇ 電車・バス・自転車に乗りやすい街 ○自転車道の整備【部局連携】

第43条 理事長は、災害発生の情報を受けた場合は、防火・防災管理者に危機管理室等への 自衛消防本部の設置を指示するものとする。

[r]

[r]

Ⅲ.定量的指標以外の交付対象事業の

[r]

第十八号様式(第四十八条関係) 所属局部課名 職    名 氏    名

(1) 計画図に示す道路Aを 前面道路とする敷地の建築物