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医療機器事故 と危険責任

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医療機器事故 と危険責任

橋 口 賢 一

第 1章 問題 の所在 2 わが国の現状 3 ドイツ法 の動 向 4 総合 的検討 5 結語

キー ワー ド :医療機器事故 ,危険責任

1 問題の所在

病 院 で医師 に治 療 を受 け る場 合 , 医療機器 1を用 いて な され る こ とか よ くあ る占 わが国 において医療過誤 が多 い とい う指摘 は周知 の通 りで あ るが,実 際 そ の原 因 に医療 機器 が絡 ん で い るこ と も多 い2。 その なか に は, 医 師 の操 作 ミス に基 因す るケー ス も,医療機器 固有 の塀庇 に基 因す るケ ー ス もあ ろ う。 しか し, 両者 の判別 か困難 で あ るか らか,患者 がその医療機 器 の メーカーを把握 で き る ことか まれであ るか らか,被害者 た る患者 が損害賠償請求訴訟 を提起 しよ うと 思 え ば, その対象 は医師 または病 院 にな るのか大半 で あ る。

病 院 開設者 は,人 的設備 と物 的設備 の双方 につ き患者 に対 し何 らの損害 も与 え る こ との な い よ うに病 院 を組織 化 す る義務 を負 う3。 そ して, こ う した義 務 違反 の存否 につ いて は, 当該 病 院 に対 し要求 され る医療 水準 に基 づ いて判 断 が な され る。 この点 につ き総論 的 に問題 はないれ 実 際 に医療機器 の関係 す る事

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故 にお いて, 当該病 院が どこまでの責任 を負 うのか につ いて は,実 はそれ ほ ど 明 白なわ けで はない。 に も関わ らず, これ まで この間題 につ き意識 的 に論 じら れ る ことはほ とん どなか った。

と ころが,近 時, この間題 に関す る下級審裁判例 が相次 いで 出 され, そ こで は伝 統 的 な過失論 か らの帝離現象 の見 られ ることか注 目され る。 また,一部 の 学説 において は, この事故類型 に危 険責任 を導入 すべ きで あ るとの主 張 もな さ れ て い る。 この よ うな判 断 や主張が な され るの はいかな る理 由によるので あ ろ うか。単 に,治療 の対象 が患者 の生命 ・身体 ・健康 だか らとい う理 由に基 づ く のか, それ と も他 の理 由 に基 づ くのか。前者 の理 由だ けに して も,他 の理 由が 存 す るに して も, 問題 は残 る。 す なわ ち,前者 の理 由のみ存す る場合 には, あ ま りに抽象 的 にす ぎ, よ り突 っ込 ん だ議論 をなす必 要 が あ ろ う。 そ う しな けれ ば,事実上病 院 に対 して際限のない要求 をす る端緒 とな りかね ない。 この よ う な病 院 の責任 の拡大化 傾 向 につ いて は再考 す る必要 が あ るとの指摘 か近 時 よ く 見 受 け られ るの は周知 の通 りで あ る4。 また,他 の理 由が あ る場合 にはそれ が 病 院 の さ らな る責任 を肯定 す る方 向 に作用 しかね ない以上, 明 らか にす る必 要 が あ ることはい うまで もない。 また前者 の理 由 との関係 につ いて も明 らか に し て お く必要 が あろ う。

いずれ にせ よ, 医療 の領域 において は,他 の領域 と比 べて相対 的 に責任 の拡 大化 が図 られ て きた。 その一場面 であ る医療機器事故 とい う類型 において,過 失責任 か ら危険責任 ‑ の接近 が見 られ ることを どの よ うに捉 え るべ きで あ ろ う か。 その答えを出すためには,医療機器事故 に関 して,具体 的な中身 にまで突 っ 込 んで病 院 に対 しどれ だ けの責任 を負 わせ るこ とが可能 であ り, かつ適切 か に つ き検討 してみ る必要 かあ ろ う。 この よ うな検討 は,今後一層高度 な医療機器 を用 いた治療 のな され る ことが容 易 に想像 のつ く現状 にあ って は,有意義 な こ とで あ ろ うと思 われ る。 また, この検討 は,診療契約 において病 院 の負 う診療 債務 の具体 的 内容 の検討 に もつ なが る もの といえ よ う。

以上 の よ うな問題意識 か ら,本稿 では,医療機器事故 にお ける医師 ま・た は病

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院の責任 につ いて検討す る。 しか し, この領域 につ いては,上述 の通 り,わが 国ではこれまでほとん ど言及がな されて こなか った。一方 で ドイツにおいては, 立法論 ・解釈論の入 り混 じった議論の蓄積があ り, かつ判例 もまま見 られ る。

このよ うな議論 を参照す ることで,わが国に対す る一定 の示唆が得 られ るので はないか と思 われ る

検討 の順序 と してはまず, わが国における裁判例 とこの間題 に関 してわずか なが ら言及 している学説 につ いて押 さえ る (2章)。次 に, わが国 と異 な り 一定 の議論 の蓄積 が見 られ る ドイ ツの状況 を見 る (3章)。最後 に, そ こか

ら示 唆を得 て,私見を展開す ることと したい (4葦)。

2 わが国の現状

1 近時の下級審裁判例の動向

医療機器事故 に関 して,近時下級審裁判例が続 けて2件現 れてお り,注 目に 値す る判断を示 している。 これ らは共 に,医療機器 メ「カー と病院か被告 であ り,少 な くともメーカ‑の責任が認 め られた ものである。 メーカーに責任 が認 め られた とい うことは,当該機器 に暇庇 が存 した ことを意味 し,医療機器 の関 係す る事故 における病 院の責任 の射程 を探 るに格好 の素材であ るといえ る。】ま ず は, これ らの事件 の概要 と判示 を見てお くこととす る

1.①事件

事実の概要】

Ⅹは,右室二腔症」 の治療のためYlの設置す る病 院で人工心肺装置 を用 い た心臓手術 を受 けたが,手術 中に送血 ポ ンプの.チ ューブに亀裂 が生 じ空気 が混 入 したため,脳梗塞 を引 き起 こし,脳機能障害の重篤 な後遺 障害 が残 った。 そ こで,Xは,ポ ンプを操作 していたY.病院の臨床工学技士Aの注意義務違反 と, この装置 を製造販売 したY2の過失が競合 して右事故 が発生 した と主張 し,YL

に対 して は債務不履行 に基づ き,Y2に対 しては不法行為 に基づ き損害賠償 を

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請 求 した。

1】千葉地判平13・3 ・30判 時1755108

【理 由】Yl:請求棄却 Y2:請求一部認容

「本件事故 が専 らAの右措置 によ って生 じた もの とは認 め られず, また, 例 ,A技 師 に本件 ポ ンプの操作,貯血槽 の設 置等 に関 して何 らかの問題 が あ っ た と して も, ‑ 本件事 故 の態様 か ら,本件事 故 が専 らA技 師の注意義務 違反 に よ って引 き起 こされ た もの とは認 め られな い」 と した うえ で,「本件事故 の 発生 につ きA技士 に 『責 め に帰すべ き事 由』 が あ った とは認 め られ」 な い と し ,Y】に対 す る請 求 を棄却。 一 方 で,「本件事故 は, ‑ 主 と して本件 ポ ンプ の構 造 に基 因 して生 じた事故 で あ る と認 め られ る」 と してY2に対 す る請 求 を 一部認 容 した。

2】東京高判平14・2 ・7判 時178978

【理 由】YL,Y2と も請 求一部認容

「もと もと人工心肺装置 は手術 時の患者 の血流 を管理 す る もので あ るか ら, その操作 を行 う臨床工学技士 には, 患者 に生 じ得 る重篤 な被書 を防止 な い し回 避 す るための操作上 の安全性保持義務 が あ る もの と解 され, その観点 か らみれ ば,機器 自体 にチ ュー ブ締 め付 けを客観 的 に測定 す る装置 が付 されて いなか っ た と して も,事前 に機器 自体 の特性 を習熟 し,手術時 に安全操作 を行 うことが で きるよ う準備 すへ き こと も前 記 の操作上 の安全性保持義務 に含 まれ ると解 さ れ る。 したが って,機器 の機 能上 の性質 に限界 が あ ると して,A技士 に過 失 な い し過誤 がなか った とはいえない。 また, これ まで に同様 な事 故 が発生 して い なか った と して も, 小 人工 心肺 装 置 自体 ,種 々の トラブル の要 因が あ る もの で,保安 点検,整備,作動 中の監視 が不可欠 な ものであ るこ とが認 め られ,辛 故発生 の可能性 が全 くない とい う機器 で あ る とはいえないのであ るか ら,専 門 文献上 本件事故 の よ うな トラブル例 やチ ュー ブの亀裂 の危険性 とその監視 の必 要性 につ いて記述 か なか った と して・も,少 な くと もA技士 に本件事故 の よ うな

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事故発生 の蓋然 的予見可能性 まで もがなか った とはいえない̀と して,「Ⅹに 被害 を もた らした本件 ポ ンプへのチューブ設定 に関 しては,A技士 に過失 ない し過誤 があ り,診療契約 の履行上 の過誤 と して,Y.に債務不履行責任 を生 じ させ る もの とい うべ き」 であ り,「本件 ポ ンプを含 む人工心肺装置 とその回路 及 びエアー ・トラ ップの状況 に対す る監視 について は, これを十分 に していな か った もの と認 め られ る」 か ら,「前述 の本件機器 の操作 を行 うもの と しての 安全性確保 の義務 か ら生ず る機器監視義務 に違反 していた もの と認 め られ」 る として,Y.に対す る請求 を一部認容 した。 また,Y2に対す る請求 につ いて は,

本件機器 の操作 に関す る製造者 と しての説 明ない し警告 の義務 に違反 す る過 失 が あ った」 と して その一部 を認 容 した。 さ らに, 両者 の損害賠償責任 は,

不真正 な連帯 関係 にある もの と解す るのか相 当」 と した。

2.②事件 (【3】東京地利平15・3・20夕113397貢)

事実の概要】

B病 院 において呼吸回路 が閉塞 して生後3ヶ月 の乳児Aか死亡 した ことにう ,Aの遺族であるⅩか,呼吸回路 を接続 した医師Cを雇用す るY.に対 し使用者 責任 に基づき, 組み合 わせて使用 された各 医療器具 の製造 ・輸 入販売業杜Y2 (ジャクソンリース回路を製造販売)・Y3 (気管切開チューブを輸入販売) に対 し 製造物責任 に基づ き,損害賠償 を請求 した。

理由】Yl,Y2,Y3とも請求一部認容

「医師 は,患者 に対す る適切 な治療行為 を行 うことをその職務 とす る。 そ し て,医師が医療行為 を行 うために医療器具 を用 い る場合 には,適切な医療行為 を行 う前提 と して,適切 な医療器具 を選択す る必要があ る, また選択 された医 療器具 は, その本来の 目的 に沿 って安全 に機能す る ものでなければな らない」

と した うえで,「本件 で使用 された ジャクソ ンリー ス回路 や気管切 開 チ ュー ブ 等の呼吸補助用具 は患者 の呼吸管理 に用 い られ る ものであ って, それ らが安全 に機能 しないと患者の生命身体が危険 に晒 され る可能性の高 い医療器真である

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また, それ らの器具 は,通常,単体 で使用 され る ものではな く,相互 に接続 さ れて呼吸回路 を組成 し,一体 と して人工換気 の機能 を果 たす ものであ るうえ, そのなかには死腔 を減 らす とい う目的か ら特徴 的な構造 を有す る器具 も販売 さ れていた」

「これ らの観点か らす ると, ジャクソンリース回路 と気管切 開チ ュー ブ等 の 呼吸補助用具 を組み合 わせて使用す る医師 としては,少 な くとも,各器具 の構 造上 の特徴,機能,使用上 の注意等の基本的部分 を理解 した うえで呼吸回路 を 構成す る各器具 を選択 し,相互 に接続 された状態でその本来の 目的に沿 って安 全 に機能す るか どうかを事前 に点検すべ き注意義務 を負 うとい うべ きであ る」。

「本件 の場合,本件 患児 に人工換気 を行 お うと したC医師が, ‑ 本件 ジ ャ クソ ンリ‑スの構造上 の基本 的特徴 を理解 し認識 していれば,両器具 を接続 し た場合 に,上記新鮮 ガス供給パ イプの先端が上記接続 の内壁 にはま り込 んで呼 吸回路の閉塞をきた し本件事故が発生す ることを予見できた とい うべ きである。

医師 は,人間の生命身体 に直接影響す る医療行為 を行 う専 門家であ り, その生 命身体 を委 ね る患者 の立場か らすれば,医師に この程度 の知識 や認識 を求 め る ことが当然 と考 え られ るのであ って,法的な観点か らもそれを要求す ることが 理不尽 であ り,医師 に不可能を強 いる もの とは考 え られない」 と して予見可能 性 を認 め,「呼吸回路 に接続不具合 があ る と,直 ちに患者 の生命身体 が侵害 さ れ るおそれかあるばか りでな く,医療の現場 においては,他社製品同士 の ジ ャ クソンリース回路 と気管切開チ ューブ等 の呼吸補助用具 を接続 して使用す るの か常態 にな っていたのであるか ら, これ らを組合わせ使用 しよ うとす る医師 と して は, た とえ医学専門書 に接続不具合 の点検方法 について記載 がないか らと い って,直 ちに結果 回避 の可能性 がなか った とはい うことはで きない。本件 の 場合,C医師 は,遅 くとも,本件気管切 開チ ュー ブに本件 ジャクソ ン リースを 接続 して本件患児 に用手人工換気 を始 めるまでの時点で,本件 ジャクソン リー ス と本件気管切開チ ューブとを実際 に接続 させ,回路 を通 じて 自分で呼吸 し異 常 な呼気,呼気 の抵抗 がないことを確かめ るとい う方法 によ り, その接続時の

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機能 の安全性 を確認 してお くことは可能 であ った と考 え られ る。C医師がその よ うな安全点検 を行 えば回路 の閉塞 を察知 し,本件 ジャクソン リースと本件気 管切開チ ューブとの組合せ使用 を中止す ることによ り本件事故 を回避す ること がで きた もの と認 め られ る」 と して回避可能性 を も認 めて,「C医師 には, ・ 事前 に接続不具合 につ いての安全 を確認すべ き注意義務 を怠 った過失 が認 め ら れ る」 ことか ら,民法715条 に基づ きYlに対す る請求 を一部認容 した。 また;

Y2に対 しては 「使用者 に対 し,気管切 開 チ ュー ブ等 の呼吸補助用具 との接続 箇所 に閉塞が起 きる組合せかあることを明示 し, その よ うな組合せで本件 ジ右

クソンリースを使用 しないよ う指示 ・警告 を発す る等 の措置を採 らない限 り, 指示 ・警告上 の欠陥が あ る もの とい うべ き」 と し,Y3に対 して は 「本件気管 切開チ ューブを販売す るに当た り, その当時医療現場 において使用 されていた 本件 ジャクソンリース と接続 した場合 に回路 の閉塞 を起 こす危険があ ったに も かかわ らず, そのよ うな組合せ使用 を しないよ う指示 ・警告 しなか ったばか り か,かえ って,使用説 明書 に 『標準型換気装置 および麻酔装置 に直接接続 で き る』 と明記 し,小児用麻酔器具である本件 ジャクソン リース との接続 も安全 で あるかの ことき誤解 を与える表示を してしたのであるか ら,本件気管切開チュー ブには指示 ・警告上 の欠陥があ った とい うべ き」 と してその請求 を一部認容 し

た 。

2 錦織成史教授の見解

学説 は,医療機器 の関係す る事故 における医師 または病院の責任 に関 し,従 来 あま り意識 して こなか ったが,皆無 とい うわ けではな い5。 かつて錦織成史 教授 か この問題 に先鞭 をつ け,詳細 な分析 を試 みている6

錦織教授 は,従来医師 または病院の責任 を論ず るにあた り,医療機器事故 と い う事例群 が立 て られて こなか った ことに着 目 し, それか 「ある特殊 な性質」

を持つ と してその定立 を提唱す る。すなわ ち, この事例群 を 「患者 の身体 に接 触 し, または患者 の身体 に侵襲 を加 え る機能 を もった「医療 の場 において用

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い られ る器具,機械 または設備 に起 因す る事故」 であ り,「その事故 が患者 の 生命,身体 または健康 を侵害す るもの」 と定義 した うえで,医師 または病 院の 責任 の成否 の判断 において,「医師の裁量性 とい うフ ァクターが背後 に退 くべ き構造」 が把握 され るとい うので あ る。 したが って,「物 に起 因す る事故」 と い う点では薬品使用 に起 因す る事故 と共通す る ものの,薬 品使用 の当否 は 「医 師の裁量 に基づ く判断 によ らざるを得 ない帝かかな り強 い」̲ことか ら両者 は明 快 に区別 され るO さ らに,薬 品事故 において は,「責任主体上 して医師 (また は病嘩) の他 に医薬 品製造業者 が出て くる可能性」 があ ることか ら,法 的判断 の枠組かその他 の事故 (医療機器事故を含む) と異 な るとされ る7。

次 に,̲錦織教授 は, わが国の裁判例の分析 か ら,違法性 または過失の有無 は,

「当該機器 と して の本来 の機能 を発揮 で・きるよ う機器 を管理 して, その よ うな 機器 を使用すべ き医師の義務」違反 の存否 によるとす る。 そ して, そ こにい う

「当該機器 と しての本来 の機能」 とは,主 に機械工学 的な知識 によって解 明 さ れ得 る もの」 であ って,「いわば医療原則 に適合 した注意 深 い診療行為 か否か を決定す る義務 と同 じレベルの ものであ りなが ら,、この義務 の内容 は医学的判 断 を要す る基準 によ って組み立て られて′いない」。 また, この義務 は,「極 めて 客観 的な要素 か ら構成 されて」 お り,「この限 りでは標準的能力 を もった医師 であれば行 うべ きであ った器具の管理 のための具体的行為 の僻意 の存否 は問題 にな らない。 それは医師 (または被告たる病院など) が免責 を得 るために主 張 し,立証すへ き ことにな る」。 す なわち, 医師 または病院が 「本来 の機能 を発 揮す る医療機器 を診療 に投入すべ き」義務 に違反 していること,す なわ ち医師 の行為 の客観的な違法性 に関す る立証責任 を患者 が負 い,̲有責性 (の不存在) に関す る立証責任 を医師側が負 うとい うのである8。

さ らに錦織教授 は, このよ うな裁判例 における中間責任的取扱 いを,「717 と同 じ実体法上 の判断枠組 と立証責任分配ルールを適用 しているとも理解で き る」 と して,民法717粂 1項の土地工作物 の 占有者 の責任 との連続性」 につい て指摘 し,「民法709条 の装 いを もった民法717条 的責任」 を抽 出す る。 とはい

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え,裁判例 の立場 は, 医師 または病院が,「標準 的医師 と しての注意 を尽 くし て当該医療機器 を管理 していたに もかかわ らず当該機器 の不完全機能 か起 こっ た ことを立証すれば,被告 か無過失 を立証 した もの と して, その医師 (または その病院) の損害賠償責任 は否定 され る」 とい・うに とどまる七考 え るへ さとい 9。 しか し,錦織教授 はここで とどまることな く1715条 におけると同様 に,

「医師 (または被告たる病院) の免責の立証 を事実上認 めない とい う運用」 をな す ことで,「解釈 と法制度 の運用 の中で民法717条 1項 の所有者責任 とパ ラ レル な責任」 を認 めるべ きだ とい う10

この よ うな709条 に仮託 された危険責任 を認 め ることの妥 当性 につ き,錦織 教授 は以下 の2点を述べ る。すなわち,・① 医療機器事故 は 「機器 の使用 に伴 っ て生 じる事故 であ り, それは工業化社会 における機械 の運転 の危険が現実化 し た事態」 で ある以上,責任法上他 の機械事故 と区別 して取 り扱 うへ き合理 的 理 由は見 出 し難 い」。判例 や学説 にお㌧ける努力 は,「現代の高度技術化社会 にお ける事故 の法的処理 にあた り,立 ち遅 れ る損害賠償責任立法 を危険責任の性質 を もつ と解せ られ る民法717条 の活用 によ って補 お うとす る ものに他 な らない」

とし, ここに 「高度技術化社会 における技術的設備 ・施設 の運転事故 は過失責 任ではな くて危険責任 の法理 によって処理 され ることこそ妥 当である」 との評 価が見 出され る。② わが国 においては,履行補助者 の行為 の責任 につ き,債務 者本人 の責任 と使用者責任 の扱 いは実務上 同一 の扱 い とな っていることか ら,

「支配す る側 は仕事 のいわば道具 につ き保証人的地位 に立つ ので あ って, それ が人 か機器 かで区別すべ きではない。 ・‑ 機器 の不完全機能 につ いて も,免責 のための立証 を実務上認 めない ことに して,客観的責任 を認 めることによって.; 既 に認 め られている仕事のために用 い られ る ものにつ いての保証人的責任 の, 人及 び機器 の双方 につ き並行的な発展 を達成すべ き」 とい う11

この ように,錦織教授 は,従来 の判例の延長線上 で,医療機器 の不完全機能 のみを要件 とす る客観 的責任 を709条 を根拠条文 と して実現 すべ き と し,「709

条 に仮託 された危険責任上 を提 唱す る3のであ る。

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3節 小括

錦織教授 は,「医師 の裁量性 とい うフ ァクターが背後 に退 くべ き構造」 との 特徴 を挙 げて医療機器事故を特別の事例群 と して把握すべ きと した。 ここでは,

主 に機械工学的な知識 によ って解 明 され得 る」極 めて客観 的な 「不完全機能 のない医療機器 を診療の際 に投入すべ き」義務違反が認 め られ ることによって, 医師の行為 の違法性 が認 め られ ると同時 に過失が推定 され る。一方 で,医師 ま たは病院 は, 自己の過失 の不存在 についての立証 に成功 した場合 に限 り責任 を 免れ る。 これはまさに717条 の土地 占有者責任 と同 じ判断 スキームであ り,「民 709条 の装 いを もった民法717条的責任」 といえ る。 そ して,①高度技術化社 会 における技術的設備 ・施設 の事故 を危険責任 によ って処理す ることを指 向す る損害賠償責任立法 の立 ち遅れ,②病院は 自己の用 い る人 において も機器 にお いて も保証人的地位 に立つへ さとの理 由か ら, このよ うな解釈 に医師または病 院 の免責立証 を事実上認 めない とい う運用 を併 せて駆使す ることで,709条 に 仮託 された危険責任 を実現すべ きだ とい う。

上述 の裁判例 を一見すれば,他 の事例群 と同様 の判断 スキームに依拠 してい るといえる。 しか し, 【2】 における 「患者 に生 じ得 る重篤 な被害 を防止 ない し回避 す るための操作上 の安全性保持義務」 や, 【3】 における 「選択 された 医療器具 は,その本来の 目的に沿 って安全 に機能す るものでなければな らない」

とい った具体的な義務 内容 を仔細 に見れば,次 のよ うな問題点が浮か び上 が っ て くる。

す なわ ち,【2】 において は,専 門文献上記述 されていなか った ことまで予 見可能性 の範噂 に取 り組む判断がな されてい る。確 かに,臨床工学技士 は,坐 命維持管理 の装置の操作及 び保守点検 をお こな う専 門職 (臨床工学技士法 2条) であ る以上,高度 な注意義務 が課 され ることはい うまで もない。 とはいえ, こ れほ どまでの予見 ・調査義務 を臨床工学技士 に課す ことか妥 当か といえば果た して疑 問であ るP。現 に,【1】 につ き 「予見義務 の範囲が明確 であ るとい う意 味 においては妥 当」 と評価す る一方 で,【2】 につ き 「蓋然的予見可能性 とは,

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その内容が不明確であ り,臨床工学技士 には,如何 な る範 囲で予見義務 が認 め られ るのか具体 的に明 らかでな く,かか る判 旨によると,今後人工心肺装置 に 関す る事故 が生 じた場合 には,臨床工学技士 において注意義務違反か広汎 に認 め られ ることが懸念 され る」 と し,「予見義務 の範 囲 も不 明確 な まま安易 に責 任 を認 めることは,臨床工学技士 の行動予見可能性 が害 され るのではないか」

との指摘 がある12。 また 【3】 につ いて も,本件 は病 院の責任 を肯定す る要素 が見 られ る事案 であ ったが, これを一般論 と して捉 え るべ きでな く,個 々の 事案 の具体的事情 に基づ き,慎重 に検討,考察 され るべ き」 との指摘 がある13

また,裁判例 において,、患者 に生 じ得 る重篤 な被害」 (【2】) や 「患者 の 生命身体 か危険 に晒 され る可能性 の高 い医療器具」 (【3】) な どの表現 が随 所 に見 られ ることも注 目され る。 医療機器 を用 いた治療 が患者 の生命身体 に直 接影響 を及 ぼす点 につ いては,法的 に も何 らかの配慮 か要請 され ることはい う まで もない。 しか し, このような患者 の生命身体への危険の再三 の強調 は, そ れが説得力 を持つか否 かはさておき,上述 の ような指摘 を回避 しよ うとす る姿 勢 の現 われのよ うに見えな くもない。

この よ うに, 医療機器事故 において は,709条 の 「過失」 の判 断 にあた って 医師側 の予見可能性 や結果回避可能性 の存否 を検討す るとい う従来 の一般 的な プロセスを経 てい るよ うに見え るが, その内実 は全 く違 った ものであることが わか る。すなわ ち,従来の過失 の⊥般理論では予見可能性 の面で有責性 を肯定 す ることが蹄緒 され るような危険を,患者側 と医師側 の とち らに負担 させ るの か妥 当か とい う判断がな されているのであ る。 そ してそ こでは,患者 の生命身 体への危険を強調す ることで,医師側 の当該 医療機器 に関す る監視 や点検 な ど といった客観的な注意義務 を設定 し,医師側 の責任 が肯定 されている。 これは, 過失 の一般理論 か らの帝離現象であ って,危険責任‑の接近現象 とい って もよ

いであろう。

しか し, こう した現 象 につ いての研究 は,錦織論文以降 ほとん どフォローが な されていな い14。錦織教授 の見解 も参考 に しなか ら,改 めて この よ うな傾 向

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の進展の是非 を再検討 し,理論面 での再構築の可能性 とその具体化 を模索 して み る必要があろ う。

以上, わが国 においては医療機器事故 に関す る議論 は末だ混沌 とした状況 に あ るといえ る。 しか し,今後 ます ます医療機器事故 に関わ る訴訟 が提起 され る であろ うことは想像 に難 くないのであ って, その前 に理論 的解 明を しておかね ばな るまい。 そ こで次章 では,議論の不十分 なわが国を一旦離 れ,議論 の蓄積 のあ る ドイツ法 の動 向を参照す ることとしたい。錦織教授 が参照 したの もやは り ドイツ法であ ったか,錦織論文以降 もかの地 では議論が進展 している。 さ ら には, ドイツで も根拠条文 と してはBGB823条 が挙 げ られ, そのなかでの危 険 責任 の導入 の是非か議論 されているとい う点でわが国の理論状況 と酷似 してい る。 こう した議論 を参照す ることで, わが国の議論 の深化 をはか ることがで き るのではあるまいか。

3 ドイツ法の動向

本章では次 の ような順序 で検討 を試 み る。 まず, ドイツにおける医療機器 を め ぐる法状 況 と (第 1節), 医療機 器 メー カーの責 任 につ いて簡単 に触 れ る (2節)。 そ してその後,病院開設者の責任論 を見 てい く (3節)0

1 医療機器 をめ <る法状況

医療機器 に関す る病院組織 の堀庇類型 は,判例 よ りはむ しろ ヨー ロ ッパ指令 や ドイ ツ国内法でかな りの程度把握す ることかで きる。 そのなかで もと りわ け 重要 なのが,1994年 の医療機器法 (以下MPGという) であ るとされ るL5。 とい うのは,本法施行前 も,治療 において投入 され る物的設備 に関す る安全性 の要 求 は さまさまな法律 で規律 されていたが,それ らの法律間の関係 は不明確 で適 用領域が部分的 に重 な り合 うことも多か った。 しか し,本法 によ り,対象が客 体 ではな く機能 に関連す る広範 な概念規定 に包括 された ことで,病院の負 う組 織義務 の源泉 となる包括 的な規範 の基礎 が獲得 されたか らである160

‑ 58(58)‑

(13)

とはいえ,Mf,Gは薬事法 (Arzneimittelgesetz)と異 な り,特別 の責任規定 を有 していない。 したが って,BGBの規範 か この領域 で も妥 当す ることとな る。 また,.MPGによ って規範化 され る病 院開設者 な らびに医師へ の要求 は, 判例 によ って (一般的な社会生活上の義務 として̲) すで に展 開 されて い る義務 プ ログラム と広範 にわた って一致す る17したが って,法規律 は主 と して宣言 的な性質 を有す るも のであ り,何 ら目新 しい もので はない18

しか し,MPGは,高度化 され充実 した規律,事業者 の義務 の質 の厳格化,、 ほぼ全 ての物 的設備 の把握 によ って,治療 の莫大 な法化 を もた らす。MPG おける社会生活上 の義務 のカタログは,病院開設者 や医療 に携 わる者 が顧慮 し なければな らない組織義務 を先取 りす る。 これによ り,患者 や裁判官 は,組織 義務 の定式化な らびに病院開設者 の責任を肯定す るための決定的な手かか りを 獲得す ることとな うた ことは否定で きない事実であ る。

2 医療機器 メーカ‑の責佳

ドイツにおい七 も,医療機器 に噸庇 が存在 しそれ に基づ いて損害 か生 じた場 令,被害者 の製造者 に対す る損害賠償請求 は当然 に認 め られ る。 その際,製造 者 と病院開設者 または医師が連帯債務者 と して対外 的 に独立 して完全 に責 めを 負 う場合 もある。 もちろん,他 の連帯債務者 に対す る求償 も認 め られ る19

医療機器 メーカーに対 して損害賠償 を請求す る際 に根拠 と して提示 され るの が,製造物責任法 (Produkthaftungsgesetz)の規律 で あ る。 この場合,原告 は少 な くとも当該医療機器 に 「堀庇」の存す ることを立証 しなければな らない。

現在の ドイツの通説 によれば, その 「積庇」 は,次 の3つ に類型化 され る。す なわち,設計上 の畷庇,製造上 の環庇,指示 ・警告上 の畷症 であるo これ らに つ いて は, わが国で も一般 に承認 されて い るところであるが20, 医療機器 に特 有 の若干注意 してお くべ き点 も存す る。 そ こで,病院開設者 の責任 を検討す る 前 に この点 につ き若干触 れてお くこととす る21

(14)

1.設計上 の王段症

設計上 の塀庇 とは, 当該製造物 が設計 どお りに製造 された と して もそれが学 問的 ・技術 的水準 を充 た していない ことか ら消費者 に対 して危険を及 ぼす畷庇 をい う22。 消費者 は, 当該製造物 の使用 目的 に適 った使用 を して も発生す る危 険か ら保護 されねばな らない。 その際の使用 目的 は, と りわけ‑, 当該製造物 が 平 均 的消費者 の観 点 か ら備 えて い るべ き適格性 (有用性) によ って確定 され る23。特別の知識 を有す る職業 の消費者 は, 当該製造物 の使用 目的 につ き 自制 し,慎重 に判断す ると一般 に考 え られ るが 24,製造者 は原則 と して最 も危 険な 使用者群 を想定 し25,使用 目的に反 した使用 のな され ることを一定 の範囲で予 め考慮 に入れ,設計上 の措置 によ りそのよ うな場合で も消費者か損害 を被 らな いよ うに確保す ることも期待 され る

このように, 危険が当該製造物の設計 に端 を発す るとして も,製造者 に責任 が認 め られるためには, 当該製造物の流通 に置かれた時点における最新の科学 ・ 技術水準 により, 当該危険が回避可能でな くてほな ら・ない (開発危険の抗弁)260

2.製造上 の蝦庇

製造上 の王炭庇 とは,設計 に積庇がないに もかかわ らず製造 中に発生す る,人 的 ・物 的な機能不全 に紛 れ込 んだ製造物 の畷庇 をい う27。製造者 の義務 は,最 新 の科学 ・技術水準 に適合す る製造設備 の導入 に ととま らず,製造物 の品質管 理 にまで及ぶ。 その際,検査 と して どれだけ徹底 した ものが要求 され るか は, 発生 しうる損害 の規模,噸庇発生 の蓋然性 な どによる. したが って,発生 しう る損害 の規模が大 きければ,製造者 は細心 の注意 を払 って品質管理せねばな ら ない2B

3.指示 ・警告上 の畷症

積庇 を全 く有 しないまたは有害 な副作用 を有 しないよ うな製造物 の製造 が常 に可能 なわけではない。 とりわけ医療機器 にはこのよ うなケースか多 い。製造

‑ 60L(60)‑

(15)

物 に副作用が存す ると して も,他の製造物 と比較 して特別 な長所 を有 している 場令や,有効 な手段が他 に存 しない場合 に, 当該製造物 を流通 に置 くことは, 製造者 に責 めを負 わせ ることな く許容 され うる29。 しか しそれ は, 当該危険 に つ き言及 し, または書 の及 び うる特定の者 に対 して指示 ・警告 がな されている 場合 に限 られ る。 なぜな ら,予見 され る情報 の大部分 が当該製造物 の性質 にか か ってお り, この表記 が製造者 の裁量 の範 囲内にあるのが通常 だか らであ る

製造者 の指示 ・警告 は,当該製造物 が流通 に置かれ る時点 にな されているこ とを要 し30, その具体 的内容 は,危 険 に さらされ る法益 や危険発生 の蓋然性 な どによる。当該製造物の危険につ き警告が全 くなされていない,または不明確 ・ 不完全 に しかな さrれていない場合,′それは指示 ・警告上 の瀬庇 とされ る。

このよ うな指示 ・警告 を要求す る目的は,製造者 が 自己に責 めのない危険か らの回避可能性 を使用者 に与 え る点 にあ る。すなわ ち,指示 ・警告 によ って使 用者 に, リスクを受 け入れ るか, または当該製造物 の使用 を断念す る もしくは 有効性 は減少す るが危険性 の少 ない他 の製造物 を選択す るか につ いての 自己決 定 の基礎 が与 え られ るのである

4.製造物監視義務

医療機器 を流通 に置 いた後 に,技術 や学問の発展 にーよ って当該機器 に内在す る危険が認識 された り,その回避が可能 にな った りす ることがある。 この場合, 上述 の3類型 には該 当 しないか,製造者 は, こうした場合 で もなお当該製造物 の買主 または使用者 に対 しこの点 につ き説明す る義務 を負 う (製造物監視義務)0

製造者 は 自己0)従来認識 していなか った危険を除去すべ く当該製造物 を流通 に置 いた後 も監視せね ばな らな31。製造者 はまた, 自己の最 た る競合会社 が 類似 の危険 を どの よ うに制御 して い るのか につ いて も点検 せね ばな らな い32 その際 は, 当該機器 に固有の危険のみな らず,他社 の機器 との組合 わせ によ り 惹起 され るJ危険 につ いて も留意 せねばな らない330 この よ うな 自己の製造物 の 監視 を全 くしない製造者 は, この義務違反 がなければ損害 を回避で きた場合 に

(16)

は常 に責 めを負 うO

この義務が どの程度 の範囲で負 わ され るかば,̲危険の種類 やその発生 の蓋然 性 な どによる。 当該製造物 の使用者や他者 の生命身体 に損害 を負わせ うる場合 (とりわけ医療機器 に当てはまる),危 険 の効果 的な阻止 が可能 であるだ けの広 範 な指示 ・警告義務 が負わ され る34。 また, リ・コール は と りわ け自動車 におい て よ く用 い られ る措置であ るが, それに限 られ るわけではない。

3 病院開設者の責任

ドイツにおいては, わが国 と同様,医療事故 につ き様 々な類型が定立 されて い る。個 々の治療 の種類 に応 じた類型35か ら抽象的な類型 まで さまざまである

そ してそのなかで も丁般的であるの机 組織過失論 における類型である。組織 過失論 は病院 とい う組織 の観点か ら見 た過失論であるが,そのなかで具体的な 類型 か提示 されてい る36。 すなわ ち, ここで は人 的設備 と物 的設備 とを区別 し た議論 がな され,後者 の物的設備 のなかで医療機器 に関係す る事故 は把握 され てい る。

従来 の判例 の傾 向 と して,医療機器 の関係す る事故 は, あま り明確 ではない ちのの,医療機器 の投入義務 と医療機器の習熟 ・管理義務 に大別 して議論がな されて きた といえ る。以下,個別 に検討 を加 え る37

1.医療機器 の投入義務

病 院開設者 は, 自己に要求 され るスタ ンダー ドに応 じて最新 の医療機器 を投 入す る義務 を原則負 う。 この点 に関 し ドイ ツで は,判例 ・学説上異論 を見 な

い 38。 お、よそ病 院 は,技術的な機器 に関す る基本 的な設備 を有 して いなけれ ば な らない とされ るのである。 こう した点が不十分 であることが明 白になれ ばそ れ は病 院開設者 の責任 を もた らす。 すなわち,治療 をなす につ き機器設備か十 分 でな い に もか か わ らず患者 の治 療 を引受 けた こ とを もって, 引受 け過 失 (Ubernahmeverschulden)が認 め られ るのである39。 これについては, リーデ ィ

ー 62(62)一

(17)

ングケースが存す る40

4】BGH 1989530日判決41

【事実の概要】

Ⅹは,下半身の苦痛が原因でY2の開設す るG病院を訪 れ,検査 によ り子宮癌 であ ることが判明 した。部長 医Sは,癌治療 のために, ラジウム治療 を指示 し た。 その後,Sは,Y】の開設す るD病 院 にXを転送Ⅹはそ こで さ らな る手術 を受 けた。 それ によ り苦痛 は除去 されたが, その後照射 を原因 とす る腔 障害が 起 こった。 さ らに腸障害 が起 こ り,最終的 に直腸 を摘 出 し人工旺 門を着用す る こととな った。 その後,勝朕障害 まで進展 し,新 たな外科手術が必要 にな った

Ⅹは、 こう した健康損害が病院 における有責 な過度 の照射量 に帰亘 られ る, と りわけY2の医師が, 医療 の認識 ・要請 に反 して, ラ ジウム治療 の間 に照射量 を測 らず,骨盤 や腔 の レン トゲ ンを とらなか ったために,照射負荷 の管理 がで きなか った ことによると主張 して,Yl・Y2に対 し損害賠償 を請求 した。 さ ら にⅩは,治療 の リスクやそれによる場合 の治癒 の見込 み につ いての説 明が不十 分 であった点 を も指摘 した。一審 ・原審 とも請求棄却oXが上告.

理 由】Y.:上告棄却,Y2:破棄差戻 し

Ⅹを治療す るにあた ってG病 院 に期待 され うる水準 に適 った十分 な諸条件 が整 っていなか った とい うことが出発点 にされな くてはな らないⅩは実際 に 最初 か ら,人的 ・物的設備 に関 して水準 を充 た してい る他 の病 院 に転送 されね ばな らなか った。注意深 く誠実 な医師であれば病院 における不十分 な治療手段 に鑑 みて原告 の治療 を拒 んでいたであろ う場合, こう した措置 の不作為 は治療

ミスである」。

「治療 の管理 をなすに当た って とりわけ機 器設 備 が重要な本件 のような事案 においては,G病院に対 して要求 され うる医療 のスタ ンダー ドが未 だ保証 されて いないな らば, ‑ そのことは患者 が この病院で治療 を受 けるか , それ とも場合 によっては他の癌治療専門の病院で見て もらうかにつ き決定 をす るに あた らて著

(18)

しい意義 を有する以上,患者 はそれにつき説明を受 けねばな らない。 川 本法廷 の知 りえた事実 関係 によれば,本件 においては深刻 な苦痛 に関す る明 白で よ り よい治癒 の機会が存 したⅩの治療 は, よ りよい医療機器 を備 え,場合 によ っ ては経験豊富 な医師をかかえ る大病院 においては功 を奏 していたはずであ る」

この義務 に違反 しているか どうかの判断 にあた っては, 当該病院の規模 や経 済 的な観点,専 門性 の程度 な どが考慮 され る。病院開設者 には常 に最新 の機器 (とりわけ高価な機器) を備 えていることが要求 され るわ けではな く,高価 で大 規模 な機器 の場合 には,病院の予算案や優先条項 な どに鑑み,機器 の購入 を財 政 的 に期待す ることができるか とい う点が考慮 され るのであ る42

したが ってその反面, 【4】 も述 へ るよ うに, この義務 を果 た しえない病 院 には転送義務 が負 わ され る43。 すなわ ち, 当該機器 の存在 が スタ ンダー ドを充 たす のに必要不可欠 であるに もかかわ らず 当該機器 を備 えていない場合 には, 当該機器を備えた病院に当該患者 を転送 しな くてほな らないとされ るのであ る

併せて,他 の医療機 関 に成果の見込 まれ ることか明快 な設備 が存す ることの説 明を怠れば, それを もって責任 を負わされ る可能性 も存す る14

2.医療機器 に関する習熟 ・管理義務

スタ ンダー ドを充 たす に十分 な医療機器が存 して も, それが原 因で患者 に損 害 を与 え ることもあ る。 ドイツにおいては一般 に,医療機器 を扱 う医師 は, そ の こと自体 か ら,少 な くとも機器 の機能法 につ き大 まかな特徴 を習熟 している 義務 や, それ によって患者 に損害 を与 えないよ うに管理す る義務 を負 うとされ る45。以下, この義務 についての判例 ・学説 の展開を見 てい くこととす る。

(1)判例の展開

5BGH 197710月11日判決46

事実 の概要】

‑ 64(64)‑

(19)

A,Yによる整形外科 の侵襲 における麻酔事故 で酸素不足 に陥 り, その後

2年 間, 深刻 な脳 の損傷 を被 った (後死亡)。 原 因は,侵襲 に投入 された麻酔 機器 「ス ピロマ ッ ト(SplrOmat)」 の供給部分 と蒸気 をつな ぐ管 の連結 ボル ト の外 れにあ った。 そのボル トは,製造工場 の組立工 が手作業 で締 めていた こと か ら,外れやす くな っていた。 この障害 は,超過圧弁 をメーターの後 ろに配置 し, ボル トが外れた部位の前 に秩序 に適 ったガスの流れを示せ るよ うにす るこ とで妨 げ られ る もので あ った。Aの遺族XYに対 し損害賠償 を請求 した。一 審 は請求認容,原審 は請求棄却Ⅹが上告。

理 由】破棄差戻 し

「この契約 (筆者註:YとⅩの健康保険によって締結 された (完全)入院契約) に基づ き病院開設者 は,手術 のために機能 しうる麻酔機器 を意 のままにで きる よ うに してお く義務 を負 う。 この義務 が客観的 に違反 されれば,主張 されてい る損害が惹起 され る」。

「医師が約束 で きるのは,技術 に適 った努力をす ることに通常限 られ るので あ って,治癒 とい う結果ではない (客観的に適切な診断であることはほとんとな いが)。 しか しなが ら, この原則 は,完全 に支配可能 な付随義務 の履行, と り わけ適切で危険のない治療 のための技術上 の前提 の保証 においては適用 を見 出 されえない。すなわちYは,使用 した機器 の秩序 に反す る状況が履行補助者 に よ って惹起 された ものでない ことを立証せねばな らない」。

L(筆者註 :ス ピロマ ットを操作 した医師) の僻意 に関す る責任 は,Yが, 秩序 に適 って指図 ・監督 した ことを説明 ・立証 した場合 に限 り,責 めを免 れ る。

しか しこれ には,Lの操作す る機器 の機能法 につ き最低で もおお まかな特徴 を 教 え ることも含 まれてい る。

確 かに,現代医学の技術化 の増大 に伴 って,医師が 自己の意 の ままにな る機 器のすべての技術的特質を理解 し,現在有 していることは もはや不可能である。

しかノしそれを もって, とりわ け患者 にとってその投入 か生命 に関わ る意義 を有 す る機器 の機能法 を最低 で も, 自然科学や技術 に関心 のあ る者 (こめ資格 はと

(20)

りわけ麻酔医において前提 とされねばな らない) に とって可能 であ りかつ期待 で きるとい う限 りで,熟知 していな くてほな らない とい う義務 か ら医師が解放 さ れ るわけではない」

「しか しそ うだ と して も,YかLの僻意 に関す る責任 を免 れ るには,Lが適 切 な指示 を期待 に反 して無視 した とい うことや,Lの技術 的な無知 が損害 を惹 起 したのではない とい うことを立証せねばな らない」。

6】OLGHamm 1979101日判決47

事実の概要】

Ⅹは,右手 の 「こぶ」 のために皮膚科医Yにかか った。Yは, 両手 に初期 の 拘縮 を診断 し, レン トゲ ン照射 による治療 を企 図 した。 レン トゲ ン照射 は,A

社製 のⅩ線装置 (Dermopan)によ って手 の甲や内部 にな された。数度 の照射 級,発癌 や酒癖 を伴 う皮膚炎が現れ,M病院やG病 院 にて約5ヶ月半 の入 院治 療 を受 けた。右手 は手術す ることな く,左手 は数 回の手術 によ って治癒 した。

しか し,傷が とじて疲痕化 した後 も,Ⅹには,両手 を完全 に閉 じることができ ない後遺症が残 った。X,Yが照射量 を適切 に調節せず, また照射治療 の危 険性 につ いて説 明 しなか った として,Yに対 し損害賠償 を請求 した。一審 は, 請求一部認容Ⅹが控訴。

理 由】請求一部認容 (増額)

Yの義務違反 は, ‑ 照射 の際, 治療機器 を十分 に監視 しなか った点 に存 す る。 その限 りで,Yは過失 ある行為の非難 を受 ける。

Ⅹの両手 に発生 した損害 が過度 の照射 による ものであることは疑 う余地 がな い。 ‑ 本法廷 は,本件 のような過度 の照射 の理 由は‑・当該機器 が適切 に調節 されなか ったか らと しか考 え られないことを確認 した」。

照射 の際に当該機器を監視 していたな ら,誤 った調節がな されていないか, または治療 の間 に誤 った調節か始 ま った りしないかにつ き,Yは容易 に気付 く ことがで きる。 したが ってYは,誤 った調節 によ り過度 の照射 がな された場合

‑ 66(66)‑

(21)

Ⅹに生ず る著 しい危険 に基づ き義務 を負わ され る」。.

電圧段階 ブロックの組 み込 まれた機器の使用説明書 が製造会社か ら手渡 さ れていなか った ことを もってYが免責 され ることはない。Yの機器 は確 か に, 実際に損害発生の時点でそのような安全性 を備 えて、お らず,それ らは後 に付加 的 に組 み入 れ られた ものであ る。 ‑ Yは電圧段階 ブ ロ ックが組 み入 れ られた と して も治療の間当該機器 を監視せねばな らない。 なぜな ら,・電圧段階 スイ ッ チの ラ ンプがつかないまたは消えたな ら,誤 った調節がな されているか らであ る」

Ⅹの もとで発生 した損害 はYの義務違反 にのみ帰せ られ うる。過度 の照射 の原因 と しては,機器 の誤 った調 節のみが問題 とな る。本法廷 か確信 した とこ ろによれば,Yに とって予見不可能 で認識不可能 な他 の技術的欠 陥は問題 にな りえないJ.

7OLG Saarbrucken 1990年̲530日判決48

事実 の概要】

Ⅹは,A病 院において登録 医 と して勤務 して いたYによ り,高周波機器 E」

を用 いて両胸 に整形外科手術 を受 けた。侵襲後,Ⅹの両方 の背部 の上部位 に傷 が見 られた。Xは治療 な らびに説 明 に碍庇 が あ った と してYに対 し損害賠償 を 請求 した。一審 は,請求一部認容。Ⅹ・Yともに控訴。

理 由】請求認容

Yが侵襲 に際 して中性電極 をⅩの左手 に秩序 に適 って取 り付 けず, それ に よ って この侵襲 の際 にⅩの背部 の上部位 に内因性 やけ どが発生 した とい うこと を出発点 とす ることができるな ら,YにはⅩの この身体侵害 につ き過失 かあ り 有責 であると して責 めを負 わせ ることがで きる」 と した うえで,「14年 間の実 務 において この類 の事故 に遭遇 した ことがな く,第一審 の鑑定で引用 された文 献 による と関連す る専 門雑誌 において問題 とな っていない ことか ら, そのよ う なやけ どが起 こる可能性 な らびに 自己の用 いた高周波機器 E』:を用 い ること

参照

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