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第4部 絆の総合構造研究ノート

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Academic year: 2021

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(1)

第4部

絆の総合構造研究ノート

─クラスタ分析による構造仮説の共分散構造分析での検証─

錦織 孜

要  旨

 男性の職場とグループ活動における「絆」を中心とした行動は個人の「人 間形成」と非常に深い関係(相関係数0.844)にあることがアンケート分析で 明らかとなった。しかしながら、活動から充実感を感ずる程度が強いほど、

他人に対する奉仕とか手助けの活動は低まる傾向(-0.234)が見られた。

 同じモデルで女性について計算した結果、大筋では男性と同じ傾向が得ら れた。グループ活動に対しては因子の作用は男性より強く、人間形成因子は 人間成長面でより効果が上がっていることが判明した。

 男性で見られた奉仕・手助けと安らぎ・充実感との間の負の偏相関の度合 いは女性ではさらに倍の大きさで、家事・育児の影響がうかがわれる。

キーワード

 絆、勤労者のグループ活動、共分散構造分析

(2)

1.

 モデルへのアプローチ

 バート-ランド・ラッセル(Russel, 1930)の幸福論によれば、幸福の源は、

①熱意、②愛情、③家族、④仕事、⑤私心のない趣味、⑥努力とあきらめ、

としている。人は人生の目標をたて熱中して実現を目指す。例えば科学者は 職場において研究目標を定め、技術の向上を図り仕事に熱中する。目標が達 成できた喜びが人生の幸福につながる。同時に幅広い趣味に熱意を注ぎ、仕 事とバランスをとることで更に幸福度が増すとしている。

 今回分析するアンケートには家族関係に関する質問項目は入っていないが、

勤労者が職場とグループ活動で心理的・身体的にどのように振舞うかを調べ たものである。職場での振る舞いとグループ活動の両活動において、明確な 目標を持って技術・スキルの向上を図り、周囲と融合しながら目標達成する かについての質問とその回答からそれらの関係を心理構造的に分析する。

 これまでの一連の筆者の研究では、探索的因子分析を用いて因子を求め、

観察変数との関係仮説を共分散構造分析で検証してきた。因子ごとの分析で は説明できるモデルができた。また二つの因子間関係をモデル化できたが、

三つ以上の因子間関係は複雑になりすぎ、また多重共線関係が発生したよう な現象が見られた。モデルの単純化と多重共線を避けるためには相関の強い 観測変数を削除するかまたは、変数統合をする必要がある。2変数相関表で 変数選択を行ってみたが、3変数以上が強い相関の場合の選択は残念ながら 視力障害のため相関表が一覧できず作業そのものができなかった。

 クラスタ分析のデンドログラムでは変数の接続関係が明確であり、特にユー クリッド距離で Ward 法を採用した場合、今回のデータで最尤法を用いた因 子分析結果と非常に近いことが判明したので、図1のクラスタ分析図を使用 して変数統合を行った。

(3)

0 5 10 15 20 25

Ward法を使用するデンドログラム

再調整された距離クラスタ結合

仕事好き・遣り甲斐 問11項目1 仕事が好き 40 問11項目2 やりがい 41 明快な目標・周囲期待 問11項目8 周りから期待 42 問11項目9 目的と目標がはっきり 43 問10項目2 積極的に支援 34 役割・支援・引き受け 問10項目3 役割や要件果たし 35 問10項目1 残業仕事引受 33 問10項目4 迷惑かけない 36 職場気遣い 問10項目7 丁寧に受け答え 39 問10項目6 不平不満言わない 38 問9項目1 所属意識 23 問9項目2 活性化に一肌 24 問9項目5 沈滞解消活性化 27 問9項目6 活動により活発化 28

グループ活動 問9項目3 メンバ援助 25

問9項目4 メンバ積極的援助 26 問9項目7 メンバー向上心 29 問9項目8 メンバー互酬性 30 問9項目9 リーダの活躍 31

安らぎ・充実感 問7項目2 安らぎ充足感 2

問8項目2 安らぎ従属感 11 問8項目9 協調性 18 問8項目10 信頼・友人 19

絆と信頼・協調性 問8項目3 つながり 12

問8項目11 楽しく常出席 20 問7項目3 つながり 3 問7項目9 信頼友人 9

知識・スキル 問7項目1 知識スキル 1

問8項目1 スキル知識 10 問7項目4 仕事スキル 4

奉仕・手助け 問7項目5 奉仕や手助け 5

問8項目4 奉仕手助け 13 問8項目12 活動準備練習 21 自己努力 問8項目13 責任リーダーシップ 22 問9項目10 私のがんばり 32

目標達成・新目標 問8項目5 目標実現 14

問8項目6 新しい目標 15 効果_自主性・人間的成長 問8項目7 人間的成長 16 問8項目8 自主性・主体性 17 期待_自主性・人間的成長 問7項目7 人間的成長 7 問7項目8 自主性主体性 8

急ぎ仕事 44

仕事に没頭 45

能力超え仕事 46 勉強必要仕事 47

仕事重複 48

アンケート質問 総合変数名

図1 クラスタ分析による変数の統合

(4)

2.

 共分散構造分析結果

 1で述べた変数統合を行った統合変数でパス図を作り、分析した結果が図 2である。

 13個の統合変数は大きく二つのグループとなる。

 第1のグループは「絆に関わる職場とグループ活動」(以後「F1. グループ 活動」と呼ぶ)の構成概念(因子)であり、7個の項目で構成される。「絆と 信頼・協調性」と名付けた統合変数(つながり、信頼する友人、協調性)は 第1因子から0.804の偏相関係数で結ばれる。職場関係では「役割り・支援・

引き受け」(役割や用件を果たす、積極的にメンバーを支援、残業仕事の引き 受け)で0.803、「職場気遣い」(迷惑をかけない、丁寧に受け答え、不平不満 を言わない)は0.703で第1因子と結ばれている。また「明解目標・周囲期待」

は、「仕事好き・遣り甲斐」の統合変数と0.490の相関関係があって、0.659、0.571 で第1因子につながっている。「グループ活動」(リーダー活躍、活性化、メ ンバー援助、メンバー向上心、メンバー互酬性など9変数)は0.855で第1因 子から影響を受けている。職場やグループ活動で得られた「安らぎ・充実感」

は0.528で第1因子とつながっている。

 第2の因子は個人の「人間形成」(以後、「F2.人間形成」と呼ぶ)に関する 構成概念である。第2因子は6個の項目で構成されるが、前述の幸福論で扱っ た目標、スキルアップ、目標達成を含んでいる。「目標達成・新目標」は、0.803 で第2因子とつながり、「知識・スキル」とは第2因子以外の要素でも0.29の 相関がある。責任感、頑張り、準備などの「自己努力」も第2因子と0.785で 結ばれる。「効果_自主性・人間的成長」は0.843と第2因子と強くつながり、

「期待_自主性・人間的成長」とも0.803でつながっている。

 二つの因子間での作用を見ると、因子そのもの間で0.844と非常に強い結び つきが見られる。「F1.グループ活動」は「F2.人間形成」に大きな寄与がある 一方、「F2.人間形成」からも「F1.グループ活動」に良い影響を与えている双 方向作用を表している。お互いの因子以外の要素でも「グループ活動」は「自 己努力」と0.273の相関があり、「絆と信頼・協調性」は「効果_自主性・人間 的成長」と0.236の相関関係にある。

 職場やグループ活動で「安らぎ・充実感」が強いほど内部指向が強くなる

(5)

のか、他人に対する「奉仕・手助け」が低くなる傾向(-0.234)が見られる。

データ上からは有意確率 0.003 で 0.167 の正の相関である。これは2因子間の

図2 絆の総合構成図

(6)

相関が 0.844、「F2. 人間形成」因子と「奉仕・手助け」の 0.879 の関係から第 1因子が1単位上昇すれば、「奉仕・手助け」の統合変数が間接的に 0.742 増 加するので、第1因子と「安らぎ・充実感」の0.527の関係を考慮すると総合 的な間接効果は 0.392 が想定されるので、0.158(=0.392-0.234)の正相関が計 算され、データの0.167に非常に近い。ただ因果関係でないのでこの計算が許 されるかどうかは不明である。

3.

 女性データを男性モデルに適用

 女性データは97件で男性の314件に比して約3分の1と少なく、47個の観 測変数に対して少なく、Ward法によるクラスタ分析からは説明できるモデル を構成することができなかった。したがって男性モデルを借用して男女比較 を試みた。図2によって行った変数統合をそのまま使ってデータを再編成し て得られたパス図が図3である。

 モデル適合度は 0.838 と通用基準 0.9 には届かないが、RMSEA 値などから 判断してぎりぎりの線で採用を決断した。

 第1因子の「F1.グループ活動」と第2因子の「F2.人間形成」間の相関は0.822 で非常に高く、男性との差も0.022とごくわずかで、お互いが強く作用している。

 第1因子からの影響を見ると、「グループ活動」に対して 0.914 の係数で男 性の0.855より0.06高く、グループ活動にかける情熱は女性が勝っている。「安 らぎ・充実感」も 0.627 と男性より約 0.1 高く、グループ活動に力点が置かれ ているようである。職場での気遣いや「役割り・支援・残業引き受け」は男 性より低く、仕事面は男性が頑張っている。また「仕事好き・遣り甲斐」や「明 解目標・周囲からの期待」も男性がやや勝っている。ただ男性では現れなかっ た「明解目標・周囲からの期待」と「職場での気遣い」が0.271の相関関係が 見られた。

 第2因子の「F2. 人間形成」では、「効果 _ 自主性・人間的成長」面で 0.912 と高い係数となり、男性より 0.07 上回っている。「自己努力」では 0.824 と男 性より0.04高く、また「目標達成・新目標」でも0.923と高く、男性より0.02 高い。しかし「知識・スキル」で0.533と男性より0.152低く、「奉仕・手助け」

では0.619と中程度であるが、男性と比較すると0.26も低く、自分中心の面が

(7)

男性より強い傾向が見られる。

図3 女性の絆モデル(1)

(8)

4.

 女性モデルの検討

 男性モデルを適用した結果は、二つの因子間の関係で、「安らぎ・充実感」

と「奉仕・手助け」では、男性で見られた因果関係でなく双方で影響しあう 負の相関(-0.464)となっている。負の関係度合いは男性の倍である。現実的 には納得できそうもない数値である。そこで、生データでの見かけの相関を 調べたところ、0.003で無相関であった(図4)。

 モデルからの間接効果を打ち消すための数値上のものなのか潜在的にある ものなのか不明である。この相関を外したモデルではモデル適合度は0.808、

RMSEAが0.111なので相関なしモデルは成立しないと判断した。

 パス図の各係数はすべて危険率1%以下の信頼確率で認定したものであり、

問題となっている「奉仕・手助け」の統合変数を削除して分析した結果が図 5である。

 モデル適合率は0.848、RMSEAが0.089と改善されたが、表1に示されたよ うに、多くの統合変数の重相関係数の平方値が小さく、重回帰式として問題 があり、使いたくない結果となった。このため女性用として図3のモデルを 採用し、女性でも「奉仕・手助け」に対し「安らぎ・充実感」との負の相関

図4「安らぎ・充実感」と「奉仕・手助け」の見かけの相関

(9)

の存在を仮定する。女性は育児・家事という男性以上の仕事があり、奉仕や 手助けには積極的にはなれない環境にあることを想定した。

図5 女性の絆モデル(2)

(10)

表1 重相関係数の平方

統合変数名 推定値 役割り・支援・引き受け .34

安らぎ・充実感 .38

明解目標・周囲期待 .29 仕事好き・遣り甲斐 .16 期待 _ 自主性・人間的成長 .70

知識・スキル .28

目標達成・新目標 .87

自己努力 .67

効果 _ 自主性・人間的成長 .84

職場気遣い .45

グループ活動 .82

絆と信頼・協調性 .73

5.

 終わりに

 男性の職場とグループ活動における「絆」を中心とした活動は個人の「人 間形成」と非常に深い関係にあることが明らかとなった。しかしながら、活 動から充実感を感ずる程度が強いほど、他人に対する奉仕や手助けの活動は 低まる傾向が見られた。

 同じモデルを女性に適用した結果は、大筋では男性と同じ傾向が得られた。

「F1.グループ活動」に対しては因子の作用は男性より強かった。「F2.人間形成」

因子については「効果 _ 自主的・人間成長」面で男性より成長したという効 果が上がっている。

 男性で見られた「奉仕・手助け」と「安らぎ・充実感」との間の負の偏相 関の度合いは女性ではさらに倍の負の大きさとなった。これは女性が男性よ り多くの家事・育児のために時間が取られることが影響したためと考えられる。

 面接を伴わない調査の限界を感じた分析作業となったが、共分散構造分析で いろいろな制約内でも観測変数間の影響力が推定できた事実は有用であった。

(11)

 本研究プロジェクトの共同研究者とアンケートを依頼したNTTコムオンラ イン・マーケティング・ソリューション株式会社の藤森氏にお礼を述べたい。

参考文献

 Russel B. A. W(1930), “The Conquest of Happiness” George Allen & Unwin

(翻訳書:安藤貞雄訳『ラッセル幸福論』岩波文庫、1991年)。

参照

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