調査報告
著者 田中 優
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 9
号 2
ページ 173‑193
発行年 2007‑12‑20
権利 同志社大学大学院総合政策科学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011443
あらまし
「ローカル(コミュニティ)・ガバナンス」、「新 しい公」、「参加(参画)と協働」といったキーワー ドに代表されるように、自治体現場は、その職 員・組織を含めて、今まさしく変容の最中にあ るといえよう。
しかしながら、その大きな変革の流れ(パラ ダイムシフト)のなか、日々の自治体現場―と くに個々の職場(上司―部下関係)とそこで働 く職員の姿―の実態については、意外というか ほとんど知られていない。
そこで、こういった状況をクリアにすべく、す べての取り組みの土台(出発点)となる自治体職 場の現状を的確に把握し、適切な職場マネジメン トを考えるための材料を揃えることを第一義的な 目的とし、『A県における職場マネジメントに関 するアンケート』と題する調査を行った。
その結果、次のような自治体現場における職 場マネジメントの特徴(考える素材)が得られ た。
⑴仕事系の自己意識・関係意識は高いが、上 下・職場の人間関係についての肯定的意見は低 調である。⑵所属長は部下(とくに非役付職員)
の意識を掌握していない傾向が感じられる。⑶ 本庁の所属長に「職員の気持ち的疲れ」・「オー バーワーク感」に気づかない傾向が感じられる。
⑷地方機関の所属長に、部下の意識をあまり掌
握せず、監督職に任せたり甘めに判断する傾向 が感じられる。⑸本庁の非役付職員(とくに若 手吏員)に「今の仕事での能力発揮感」が低い。
₁.はじめに(調査の概要等)
「ローカル(コミュニティ)・ガバナンス」、「新 しい公」、「参加(参画)と協働」といったキーワー ドに代表されるように、自治体現場は、その職 員・組織を含めて、今まさしく変容の最中にあ るといえよう。
しかしながら、その大きな変革の流れ(パラ ダイムシフト)のなか、日々の自治体現場―と くに個々の職場(上司―部下関係)とそこで働 く職員の姿―の実態については、意外というか ほとんど知られていない。
たとえば、田尾や大森の優れた先行研究1にし ても、マクロベースでの自治体職場を把握した に過ぎず、ある一つの自治体を事例としたよう な、ミクロベースでの、実際の(動態的な)職場・
職員のありようや状況といったものは、これま で的確に把握されてこなかったように思われ る。
そこで、こういった諸状況を踏まえ、すべて の取り組みの土台(出発点)となる自治体職場 の現状を的確に把握し、適切な職場マネジメン ト2を考えるための材料を揃えることを第一義
A県における職場マネジメントに関するアンケート調査報告
田 中 優
1 [田尾, 1990, 79-117ページ]および[大森, 1993, 364-378ページ]を参照のこと。
2 職場マネジメントの目的としては、個々の構成員(職員)におけるパフォーマンスの向上を通じて、(結果としての)職場とい う単位における最大限の成果を追求していくことが一つには取り上げられるわけだが、その際には、外的および内的な促進・
阻害要因(たとえば、管理監督職員は部下の能力を的確に把握し、その育成に配意しているかどうか、個々の職員は自らの役 割を正確に認識し、足らない部分の自学に努めているかどうか、また、仮にその両者が十全であったとして、職場に環境的な 問題点はないか等のこと)についても当然考慮していく必要がある。そこで、こういった観点から職場マネジメントを捉えて みると、その要素としては、主に、「現在の自らの能力等に関する自己意識」「上司・同僚等との関係意識および評価」「職場の
的な目的として3、『A県における職場マネジメ ントに関するアンケート』と題する本調査は行 われたのである。
なお、上記の目的を果たすべく、調査項目に ついては、次のように構造化してアンケートを 行った。
⑴自己評価
① 自分自身についての意識=仕事の意義の 認識や仕事の遂行意識<設問1から3> ② 自分と職場・仕事との関係意識<設問4
から5>
⑵職場や職場仲間に対する評価
① 仕事面での仲間の資質や職場の連携<設 問6から9および29>
② 職場の人間的な連携意識<設問10から 13>
⑶上司の評価および上司と自分との関係評価 ① 上司自身の能力の評価<設問14から17>
② 上司の部下への配慮<設問18から21>
③ 仕事面での上司と自分との関係について
の評価<設問22から23>
④ 人間的な面での上司との関係<設問24か ら26>
⑷職場の問題点<設問27から29>
₁.₁ 調査の方法および実施
本アンケート調査は、A県の職員研修所4で実 施された平成17年度の階層別研修5における全 ての受講生に対して調査票を用い行われたもの である。調査票は、各階層別研修のプログラム の終わりに、当該研修の事後評価アンケートに あわせて配布し、回収を行った。
なお、本調査については、平成17年度におけ る最初の階層別研修終了日の平成17年5月10日 から、最終の階層別研修終了日の平成18年2月 24日にかけて行われたもので、各階層別の調査 票回収率状況は下表のとおりであった。
人間的関係に関する意識・評価」「職場におけるOJTの意識・評価」「職場の問題点」などが抽出されることになり、当該アンケー ト調査の項目設計もそれら要素に基づいて行われた次第なのである。なお、パフォーマンスの向上という観点からの職場マネ ジメントに関する調査としては、「職場環境要因に対する部下の肯定的認知が、部下の現有能力自己評価を高める方向に影響を 及ぼす」という仮説を検証した[榊原, 1995, 131-157ページ]や、「仕事全体の満足度」は「個人の仕事の裁量、仕事の内容、
職場の人間関係」等が「統計的に有意な影響を与えていた」と結論づけた[労働政策研究・研修機構, 2006]、看護職場におけ る分析から、「職務満足因子の第1としては、看護師間の人間関係(上司との人間関係が良好、自由に意見が言える、上司の指 導監督がある)」ということを指摘した[藤野他, 2003, 130-132ページ]などがある。
3 他方、理想的な職場マネジメントを行うためには、どういった人材が求められ、そのためにはどういったOJT(職場研修)・
OFF-JT(職場外研修)が必要なのかということを追求する端緒にしたいというねらいも含めている。
4 A県を調査対象に選んだ理由としては、強固な階層別研修(人材育成)構造をいまだ維持して(かつ県下市町職員の研修も実施
して)おり、それらを媒介にすることで、職場マネジメントに関する県・市町間の幅広い職員意識を探ることが可能と考えた からである(郵送法では各階層からのこれだけの高いアンケート回収率は望めなかっただろう)。なお、A県は様々な地方機関(と くに10に亘る県民局組織の存在)を有している自治体組織であることから(知事部局の職員数は約1万1千人と全国都道府県の なかでも大規模な部類に入る)、区役所のある政令指定都市や支所等を抱える合併後の市町村においても、本調査結果が応用可 能な部分もあると思われる。
5 A県職員研修所における階層別研修(平成17年度)は次のように構成されていた。
・管理職第二部研修(県の新任所属長:課長級対象)
本庁 地方機関 合計(人) 配布総数 回収率(%)
県新任所属長(1年目) 28 58 86 134 64.18
県経験監督職(4年目) 62 64 126 216 58.33
県新任監督職(1年目) 41 110 151 173 87.28
(市町・公社新任監督職)(※) - - 164 181 90.61
県経験主査(5年目) 53 139 192 338 56.81
県新任主査(1年目) 137 176 313 340 92.06
県新任主任(1年目) 112 148 260 292 89.04
県吏員(4-8年目) 31 67 98 146 67.12
1390 1820 76.37 表1-1-1 調査票回収状況
※市町・公社新任監督職については、今回の分析対象とはしていない。
₂.調査により得られた考察結果および知見
6₂.₁ 職員自身の自己評価
設問の1から5までは、職員自身の自己評価
について問うている。そのなかでもとくに、設 問1から3では、職員自身の意識、すなわち仕 事に対する意義の認識や仕事の遂行意識を、設 問4・5では、職員自身と職場や仕事との関係 について訊く内容となっている。
・管理職第一部研修(県の新任管理職:主幹級対象)
< 職場マネジメントにおける位置付けが曖昧なため、今回の調査対象からは除いた>
・監督職フォローアップ研修(県における在職4年目の経験監督職:課長補佐級対象)
・監督職研修(県および県下全市町等の新任監督職:係長級対象)
・主査第二部研修(県における主査経験5年目の職員)
・主査第一部研修(県の新任主査)
・主任研修(県の新任主任)
・吏員研修(県における入庁後4~8年目の職員)
6 最初に述べておくと、本稿におけるアンケート結果の考察・分析は、一階層における意識特徴や階層間の特徴を比較しているが、
すべての回答者が、同一の職場に属しているわけではないので、そのまま、一つの職場に対応した上司―部下の意識等を反映 しているものではない。したがって、こういったことを大前提として、本稿では、本庁/地方機関と区分した比較分析方法を 採用している。
属性\質問項目 回答(%) 1 仕事の意義
を感じている 2 仕事は必ず
やり遂げる 3 自分のノウハ
ウは教える 4 自分が努力す
ればプラス変化 5 能力発揮で きている
本 庁
新任所属長(28人) はい 82 - - - -
いいえ 0 - - - -
どちらともいえない 18 - - - -
経験監督職(62人) はい 76 63 74 52 52
いいえ 3 11 3 11 10
どちらともいえない 21 26 23 37 38
新任監督職(41人) はい 83 73 78 73 73
いいえ 5 2 0 12 7
どちらともいえない 12 25 22 15 20
経験主査(53人) はい 51 58 66 58 43
いいえ 8 11 6 11 21
どちらともいえない 41 31 28 31 36
新任主査(137人) はい 61 60 64 54 46
いいえ 7 10 5 13 17
どちらともいえない 32 30 31 33 37
新任主任(112人) はい 53 63 68 61 37
いいえ 11 13 8 16 25
どちらともいえない 36 24 24 23 38
吏員(31人) はい 58 61 71 77 29
いいえ 13 16 3 10 19
どちらともいえない 29 23 26 13 52
表2-1 自分自身についての意識(仕事の意義認識や仕事の遂行意識)・自分と職場や仕事との関係意識
₂.₁.₁ 自分自身についての意識=仕事 の意義認識や仕事の遂行意識
順に結果をみていくと、まず設問1は、「自 分の仕事に社会的意義や役立ちを感じるか」(新 任所属長に対しては「仕事の意義を感じ職員に も伝えていると思うか」という質問)という内 容であったが、比較的明瞭な特徴をうかがうこ とができている。それは、本庁・地方機関に属 する新任所属長から吏員までの全階層におい て、「はい」とする回答が過半数を占めている ものの、地方機関と本庁における経験主査から 吏員までの結果を比較してみると、後者の「は い」とする割合が相対的に低くなっているということである(地方機関当該階層平均値74.7%:
本庁同56.5%)。そして、本庁内の各階層でみて も、新任監督職以上のいわゆる役付階層の方が 高いスコアを示していることがわかる(本庁役 付階層における「はい」とする平均値79.4%)。
この二つの特徴的な結果に関する解釈を試み てみると、まず、本庁/地方機関の差について は、職務の性格の差(関係住民への身近さ、具 体的で明確な職務の存在)や仕事の意義が認識 しやすいか否かということが背景にあると理解 できる7。また、本庁内の役付/非役付職員にお ける階層差については、お互い職務の抽象性は あるものの、職分の重さや裁量性の増大(階層 が上がるにつれて)が仕事の意義認識に繋がっ ているのであろうと思われる8。
7 本調査を行ったA県においては、入庁1年目の職員に対し、「政策課題調査」という研修名目のもと、関連する職場を訪問の上 ヒアリング調査をさせているが、筆者が、彼/彼女(受講生)らに各職場の印象を尋ねた際の「本庁より地方機関の方が活気 があるように感じられた」という数多くの声をここでは想起できるのである。
8 このことは、別の見方をすれば、仕事意義認識度の高い人が役付職員に就いているという面もあるといえよう。
属性\質問項目 回答(%) 1 仕事の意義
を感じている 2 仕事は必ず
やり遂げる 3 自分のノウハ
ウは教える 4 自分が努力す
ればプラス変化 5 能力発揮で きている
地 方 機 関
新任所属長(58人) はい 72 - - - -
いいえ 3 - - - -
どちらともいえない 25 - - - -
経験監督職(64人) はい 86 69 75 70 63
いいえ 6 3 6 6 9
どちらともいえない 8 28 19 24 28
新任監督職(110人) はい 88 72 75 78 63
いいえ 2 4 4 3 9
どちらともいえない 10 24 21 19 28
経験主査(139人) はい 82 65 66 57 62
いいえ 5 9 9 12 9
どちらともいえない 13 26 25 31 29
新任主査(176人) はい 70 57 76 66 54
いいえ 5 14 6 7 11
どちらともいえない 25 29 18 27 35
新任主任(148人) はい 69 63 61 57 51
いいえ 7 6 8 10 14
どちらともいえない 24 31 31 33 35
吏員(67人) はい 70 64 57 60 45
いいえ 12 7 10 10 21
どちらともいえない 18 29 33 30 34
続いて設問2であるが、これは、「あなたは、
与えられた仕事は何が何でもやりとげようとす るか」という仕事の遂行意識を問うたものに なっている(新任所属長に対しては同設問はな し)。設問1が、積極性やモラール(職業倫理)
の基礎となる仕事の意義認識を尋ねたのに対 し、積極性のもう一つの現れ方としての「組織・
命令への従属モラール」について問いかけたわ けである。
結果は、「何が何でも」という相当に強い意 志を課しているにもかかわらず、本庁/地方間、
階層間の大差なく、6割以上が「はい」と回答 をしており、「いいえ」は1割程度にとどまっ ていることから、当該自治体職員の従属的モ ラールの高さ(真面目な職員集団であるという こと)を示したものになっている9。
職員自身の仕事意識を問う設問群の最後は、
「あなたは、自分のノウハウ・情報を職場仲間 に進んで教えるか」という内容であったが(新 任所属長に対しては同設問はなし)、これは、
職場内の仕事連携の基礎となる自己意識を探る ものとなっている。
この設問に対しても、本庁/地方および階層 間の大差なく、「はい」とする回答が7割前後 を占め、何よりも「いいえ」とする回答が数パー セント程度で、健全な組織像10を浮かび上がら せている11。
ここまでの設問1から3までにおいて導出さ れる知見としては、ひとつに、本庁の所属長や 監督職等の役付職員は部下の仕事に対する意義 認識を高める工夫を要するということである。
たとえば、仕事の与え方やさせ方、上司自身の 意義認識を十分に伝えるなどの練られたマネジ メントを行わなければならないだろう。もうひ とつには、上司(役付職員)は、部下の積極性 の性質を見分ける努力をすべきということであ る。すなわち、設問1で「はい」と回答した職 員の積極性は、仕事の成功によって自ら報酬を
得ていることになるが(上司として意識的なマ ネジメントは必要ない)、設問2を「はい」と した(設問1で「はい」を選ばずに)職員の積 極性は、成功したら心理的報酬(感謝を述べる、
褒めるなど)を与えるような工夫が必要なので ある。
₂.₁.₂ 自分と職場・仕事との関係意識
設問の4と5は、自己評価群のなかでも、職 員自身と職場や仕事との関係を問う内容になっ ている。まず、設問4は、「自分が努力すれば仕事や 職場にプラス変化を与えられると感じるか」(新 任所属長に対しては同設問はなし)というもの であるが、いわゆる「効力感」を尋ねた質問に なっている12。
ここでは、二つの特徴的な結果が浮き彫りに されているが、まず、階層間の「はい」とする 回答推移が本庁と地方機関では逆になっている ということである。すなわち、地方機関の新任 監督職・新任主査・新任主任で追ってみると、
順に78%→66%→57%と下がっているのに対し、
本庁では、もっとも下位階層の吏員のスコアが 77%と一番高く、順に、経験主査が58%、経験 監督職が52%と、階層が上がるにつれて下がっ ていることに気がつく。つづいて、本庁/地方 機関間の同階層を比較してみると、本庁の経験 監督職が52%の「はい」回答に対し、地方機関 の同職では70%と18ポイントも高くなってい る。このほか、本庁の吏員が77%に対し、地方 機関の吏員が60%と17ポイントも低いことも印 象的な結果となっている。
これら二つの結果について総合的な理解を試 みてみると、地方機関における監督職のスコア が相対的に高いことは、彼/彼女らの影響力の 高さを示唆しているように思える。もちろん、
9 この結果をして公務組織の強固な階統制を説明できるとは思わないが、当該設問を用いた他自治体との比較検討は興味深い考 察結果をもたらすことになるのではないか。
10 たとえば、「学習する組織」などの新しい概念を想起されたい([遠藤, 2005, 8-19ページ]を参照のこと)。
11 若干気になる点としては、地方機関の吏員クラスのスコアが最も低いこと(「はい」とする割合57%)をあげておきたい。若手 職員のイメージ(フランクでオープンである)からすると意外な結果ともえいえるが、このことは、地方機関における職務の 特性(一般的に地方機関の方が個々の職員への仕事分担が明確)を捉えて判断をする必要があろう。
12 うまくいかない事態が自分の努力で改善できると感じている間は努力が継続されうるが、努力しても自分に能力がないとか周 りの力が支配的で自分には影響力がないと感じれば努力をしなくなるという考え方(効力感の喪失⇒無気力へ)をベースにし ている。
理解要素としては二面を想定(「内部意識とし ての効力感」と「影響力の自己認識」13)しなけ ればならないであろうが、経験監督職における 本庁/地方機関間格差(52%:70%)から、地 方機関の仕事・職場の明快さ、監督職の影響力 の大きさが明らかに推測されるのである。この 設問4における結果は、ひとつに、地方におけ る監督職の行政状況(=監督職の影響力の高さ)
を証明したものになっていよう。
また、本庁/地方機関における吏員のギャッ プについては、設問3の結果と連携しているよ うに思える。すなわち、自らのノウハウ情報を 仲間に伝えることで、仕事や職場をプラス方向 に変えていこうとするベクトルをそこには読み 取ることができよう。
このほか設問5についてみていくと、「今の 仕事で自分の能力が発揮できていると思うか」
という問いかけをここではしているが、相対的 に若手職員において低いスコアを示しており、
とくに、本庁では、経験監督職(52%)から順に、
新任監督職が73%、経験主査が43%、新任主査 が46%、新任主任が37%、吏員が29%という結 果になっている(本庁主任で「いいえ」とする 割合が25%、地方機関の吏員で同21%というの も特筆すべき結果であろう)。
このように、設問4・5を通してみると、本 庁の吏員において非常にアンビバレントな結果 を呈していることがわかる。つまり、「効力感」
を訊ねた設問4については、「はい」とする割 合が各階層中最高値である77%を示しているに もかかわらず、設問5における「能力発揮感」
の問いかけに対しては最低値である29%でしか なく、この結果をどのように理解すればいいの かということである。
あくまでも推測の域を出ないが、現時点では 二つの方向で捉えている。すなわち、ひとつに は、「本庁の若手職員はプライド・自己評価が 高く、仕事に満足していない。だから、もっと 努力すべきだ」ということで、もうひとつには、
「本庁の若手職員は意欲があるのに、上司がそ れを汲み上げる仕事のさせ方をしていない、あ るいは、組織が彼/彼女らの配属に失敗してい
る」ということである。これらの討究には今後 の詳細な分析が必要であるが、職場マネジメン トの重要な視点として十分に配慮すべきことで あろう。
₂.₂ 職場や職場仲間の評価
前節では自己評価群についての結果考察を試 みたが、本節では、職場や職場仲間の評価につ いて取り上げたいと思う。とくに、設問6から 9までは、仕事面での仲間の資質や職場との連 携を中心にみていく。
₂.₂.₁仕事面での仲間の資質や職場の連携
まず、設問6では、「あなたの職場は新しい 課題が生じたときに積極的に取り組もうとする 職員が多いか」という問いかけをしているが、
本庁/地方とも、所属長の評価が高く(「はい」
とする回答が50-60%、「いいえ」とする回答 が10%前後)、非役付職員の方が厳しいという 結果になっている(本庁の役付職員の「はい」
回答は51.1%、同非役付職員回答は38.7%、地方 機関ではそれぞれ44.8%と31.1%になっている)。
この結果については、設問29と関連比較するこ とでより鮮明になると思われるので、その結果 についても触れておくが、当該設問では、「あ なたの職場ではもっと積極的に仕事に取り組め ばいいのにと思う人がかなりいると感じるか」
と問うている。
結果を一瞥してわかるように、この設問でも、
本庁の所属長評価がもっとも厳しく(高く)なっ ている(地方機関所属長は甘めの評価)。また、
非役付職員では、相当明確に、本庁/地方機関 の認識差があらわれている(本庁で「はい」と した回答は「いいえ」とした回答よりも低いス コアを示している。一方で、地方機関において は、「はい」と「いいえ」の回答がほぼ同スコ アになっている)14。一般的に、地方機関勤務は
「島流し」とも揶揄されているように、どちら
13 「内部意識としての効力感」とは、課題を自分の努力と結びつける意識(もっと努力を、努力すれば物事は改善するという考え)
を指している。「影響力の自己認識」とは、職場内での自分の影響力への自己意識(努力の有無ではなく影響力の意識)のこと を指している。
14 本庁での「はい」とする割合は21.6%、「いいえ」とする割合は49%であったのに対し、地方機関ではそれぞれ31.3%と36.6%で
近似値を示していた。
属性\質問項目 回答(%) 6 積極的職員多い 7 報告連絡相談が
活発 8 管理監督職連
携良い 9 良い仕事すれば 仲間が評価
本 庁
新任所属長(28人) はい 57 71 61 -
いいえ 14 4 11 -
どちらともいえない 29 25 28 -
経験監督職(62人) はい 47 65 45 47
いいえ 23 10 19 18
どちらともいえない 30 25 36 35
新任監督職(41人) はい 54 83 44 73
いいえ 15 0 12 5
どちらともいえない 31 17 44 22
経験主査(53人) はい 53 70 42 62
いいえ 19 17 21 13
どちらともいえない 28 13 37 25
新任主査(137人) はい 33 54 27 44
いいえ 29 13 38 13
どちらともいえない 38 33 35 43
新任主任(112人) はい 40 58 35 54
いいえ 29 16 32 16
どちらともいえない 31 26 33 30
吏員(31人) はい 35 48 32 65
いいえ 19 13 29 10
どちらともいえない 46 39 39 25
地 方 機 関
新任所属長(58人) はい 53 62 69 -
いいえ 9 7 2 -
どちらともいえない 38 31 29 -
経験監督職(64人) はい 36 53 38 61
いいえ 25 8 19 8
どちらともいえない 39 39 53 31
新任監督職(110人) はい 45 64 41 55
いいえ 13 5 12 7
どちらともいえない 42 31 47 38
経験主査(139人) はい 28 47 22 50
いいえ 28 14 44 13
どちらともいえない 44 39 34 37
新任主査(176人) はい 26 54 24 49
いいえ 36 24 47 10
どちらともいえない 38 22 29 41
新任主任(148人) はい 40 48 21 60
いいえ 29 16 39 11
どちらともいえない 31 36 40 29
吏員(67人) はい 31 54 21 45
いいえ 36 21 48 24
どちらともいえない 33 25 31 31
表2-2-1-1 仕事面での仲間の資質や職場の連携
属性\質問項目 回答(%) 29 積極性不足の 職員が多い
本 庁
新任所属長(28人) はい 36
いいえ 43
どちらともいえない 21
経験監督職(62人) はい 26
いいえ 48
どちらともいえない 26
新任監督職(41人) はい 22
いいえ 56
どちらともいえない 22
経験主査(53人) はい 15
いいえ 47
どちらともいえない 38
新任主査(137人) はい 21
いいえ 40
どちらともいえない 39
新任主任(112人) はい 21
いいえ 48
どちらともいえない 31
吏員(31人) はい 10
いいえ 61
どちらともいえない 29
地 方 機 関
新任所属長(58人) はい 26
いいえ 50
どちらともいえない 24
経験監督職(64人) はい 30
いいえ 39
どちらともいえない 31
新任監督職(110人) はい 25
いいえ 46
どちらともいえない 29
経験主査(139人) はい 35
いいえ 29
どちらともいえない 36
新任主査(176人) はい 30
いいえ 34
どちらともいえない 36
新任主任(148人) はい 34
いいえ 28
どちらともいえない 38
吏員(67人) はい 39
いいえ 30
どちらともいえない 31
表2-2-1-2 あなたの職場ではもっと積極的に仕事に取り組めばいいのにと思う人がかなりいると感じるか
かというと組織のミッション・ビジョンを共有 できない(認識しようとしない)ような職員が 数多く集められている現状を鑑みれば15、地方 機関における非役付職員の評価は大きくは外し ていないと思われる16。
さて、両設問を通じてのマネジメントのポイ ントになるのは、所属長の意識だと考えるが、
所属長は、部下が職場のなかで相互にどう感じ ているかにもっと関心を高める方が良いであろ う。とくに、本庁所属長は、部下の「積極性不 足の職員が多いとは考えていない」という意識 の部分をもっと認識すべきだろうと思われる。
つづいて設問7に戻るが、ここでは、「あな たの職場は、報告、連絡、相談がよく行われて いるか」という質問をしている。すなわち、仕 事上のもっとも基礎的なコミュニケーションの 活発さを尋ねたわけだが、本庁/地方機関とも、
やや、役付職員(管理・監督職)>非役付職員(主 査以下)の傾向がうかがわれている。そして、
本庁では、新任監督職の83%という「はい」回 答に対して、本庁吏員では35%までしか至って いない(地方機関ではここまでの階層差は散見 されていない)。
設問8では、「あなたの職場における管理監 督職同士はうまく役割分担と連携ができている と思うか」と訊いたが、役付職員と非役付職員 の評価がもっとも食い違ったかたちで現れてき ている。つまり、本庁/地方機関の所属長とも、
60-70%が「はい」と回答しているのに対し、本 庁の新任主査以下でみてみると、順に、27%(新 任主査)、35%(新任主任)、32%(吏員)、地方 機関では同様に、24%、21%、21%のスコアし か示していない。
さらに、ここでは、「いいえ」とする回答割 合に着目すべきであろうが、地方機関の経験主 査以下では、44%(経験主査)、47%(新任主査)、
39%(主任)、48%(吏員)とかなり高いスコア を示しており、所属長との意識の乖離は激しい ものとなっている。
コミュニケーションは相手も認めて初めて有
効に成立するものであるので、職場マネジメン トの観点からは、とりわけ地方機関において、
役付職員と非役付職員で意識の乖離が大きいこ とに地方機関の所属長は気づく必要がある。
次の設問9であるが、ここでは、「あなたは、
良い仕事をすれば職場の仲間から高く評価され ると感じますか」と尋ねている17。結果としては、
地方機関の吏員における「いいえ」とする割合 が24%と高いことが気になるが、全体として「は い」とした回答が40-60%となっているのは妥 当なところであろう。
ところで、ここでは本庁の階層差に着目して みたいが、「はい」とする回答率は、吏員から 主査に向けて緩やかに低下している。そして、
経験主査から新任監督職へと再び上昇するもの の、経験監督職で再度下がるという傾向を示し ている(吏員65%→新任主任54%→新任主査 44%→経験主査62%→新任監督職73%→経験監 督職47%という推移)。このパターンは、「自分 自身についての意識:自己評価」の意識変化(と くに設問4「自分が努力すれば仕事や職場にプ ラス変化を与えられると感じるか」)とかなり 共通しており、切磋琢磨の意識が自分自身のモ ラールの推移を反映している面を感じさせてい る。
なお、地方機関においては、こうした階層間 変動がほとんど見られていないが、前述のとお り、まだ若い職員層である吏員の「はい」とす る回答率が低く、「いいえ」のスコアが高いこ とが気になる材料としてある。
以上より、設問9から得られる職場のマネジ メントに対する知見としては、モラールの維持・
高揚が何らかの心理的報酬と連関しているとす れば、上下の報酬と同時に職員相互間の切磋琢 磨や報酬も重要ということである。また、本庁 では経験監督職・新任主査の、地方機関では若 手吏員のスコア(評価)がそれぞれ低い(47%
/44%/45%)ことに留意し、職員自身のモラー ルの低下によるものなのか、職場の風土が問題 なのかを探った上で工夫する必要があろう。
15 [大森, 2004, 20-22ページ]は、「人事異動に際して、住民に接する機会の少ない本庁の内部管理の職員が優遇され、問題のあ る職員あるいはどうしようもない職員を出先や支所に出している」ことを指摘しながらも、「職員をだめにするのは、挑戦すべ き仕事がなく、挑戦しても処遇の上でなんら報われない場合であ」り、地域機関の職員は、「政策課題の発見と政策形成の出発点」
にならなければいけないと説いている。
16 理想的な職場マネジメントへ向けては、やはり、本庁/地方機関間の定期的な人事交流・人事異動は必要なのである。
17 設問の趣旨としては、仕事面での切磋琢磨の意識状況を尋ねたわけである。職員の心理的報酬のうち、第一は上司との関係で のものだろうが、それよりも生産性があがるのは、この「仲間同士の仕事に向けての認め合い」だと考えている。
₂.₂.₂ 職場の人間的な連携意識
ここでは、「職場の人間的な連携意識」につ いて問う設問10から13までをみていく。
まず、設問10については、「あなたの職場は 温かくてなじみやすい職場だと感じるか」とい う内容で、元気・安全に仕事ができるもっとも 基礎的な職場イメージについて尋ねている。結 果は、地方機関の所属長の約80%が「はい」と 回答、本庁所属長の約40%が「どちらともいえ ない」としていることが突出している。また、
本庁では、設問9の結果と同様の階層間変動パ ターンが見られるが、地方機関においては、各 階層とも50-60%の「はい」回答率を示している。
全体的には、おおむね、「はい」とする回答 が50%以上、「いいえ」とする率は10-20%で穏
当な状況と考えられるが、本庁の方が、「はい」
とする回答にばらつきがあり(40-73%まで)、
「いいえ」とする回答も、吏員から経験主査ま でにおいて19-21%のスコアとなっていること から、分化傾向を示しているといえよう。
続く設問の11から13では、それぞれ、「あな たの職場では私生活上の問題も話しができると 感じるか」、「仲間の悩みや問題はだいたい分か り合えているか、分かってくれている人がいる と感じるか」(所属長に対しては、「部下の悩み はわかっており、また、伝わってくるか」とい う質問)、「あなたの職場では困ったらカバーし てくれる仲間がいるか」(所属長には当該質問 はなし)ということを訊いている。
結果としては、全階層を通じて、設問11・12 では「はい」とする割合が20-40%と低く、「い いえ」とする割合も同程度あることに気づく。
属性\質問項目 回答(%) 10 温かくなじみや
すい職場 11 私生活問題も 話せる
12 悩みは分かり 合えている
(*部下の悩みはわ かり伝わる)
13 困ったらカバー の仲間がいる
本 庁
新任所属長(28人) はい 57 36 11* -
いいえ 4 7 21* -
どちらともいえない 39 57 68* -
経験監督職(62人) はい 69 24 32 58
いいえ 13 32 16 10
どちらともいえない 18 44 52 32
新任監督職(41人) はい 73 34 37 80
いいえ 5 20 20 5
どちらともいえない 22 46 43 15
経験主査(53人) はい 57 34 38 66
いいえ 19 38 28 15
どちらともいえない 24 28 34 19
新任主査(137人) はい 40 23 30 71
いいえ 21 45 28 9
どちらともいえない 39 32 42 20
新任主任(112人) はい 46 29 34 76
いいえ 21 42 26 12
どちらともいえない 33 29 40 12
吏員(31人) はい 65 42 39 94
いいえ 19 39 26 3
どちらともいえない 16 19 35 3
表2-2-2-1 職場の人間的な連携意識
さらに、本庁/地方機関の所属長において、「ど ちらともいえない」とする回答が60-70%もあ り、他の階層から突出していることが特徴的で ある。なお、設問13は「はい」という回答がお おむね70%程度を示しているが、地方機関の経 験主査において(ある面、職場マネジメントの 中心軸)、「はい」とする回答が46%しかないこ とは気になる点である。
以上より、若干の考察をこころみるが、所詮、
職場は仕事をする場でしかないものの、人間が 仕事をする以上、私生活問題は必ず影響してく る。仕事仲間は友人ではないが、友人であった 方が協力しやすいことはいうまでもない。その 意味で、「私事も話せる雰囲気」は職場の人間 的連携を高める一つの要素である。設問11から
13を通してみえてくることは、「はい」「いいえ」
とする回答が混在しており一定ではなく、個人 的問題や悩みは共有できないまたはしようとは 思わない職場のようだが、困ったときに誰かカ
バーしてくれる仲間がいることが職場の安全弁 になっているように思われるのである。
本節の最後に、これまでのアンケート項目結 果も踏まえまとめておくと、「当該組織におけ る職員は、仕事には相当真面目で頑張る姿が見 受けられるが、人間関係は心許ない」というこ とであり、このことを、所属長は掴んでいない か、仕事が忙しくて関心が薄いこと(「どちら ともいえない」とする回答が多いことから)が うかがわれているのである。
前記したような結果を待つまでもなく、所属 長は、自らの職場の実態を的確に把握し、自分 の職場に相応しいマネジメントの工夫をすべき ことは言うまでもない。
もちろん、職員の個人的問題や悩みを所属長 だからといって解決できないし、する責務もな い。しかしながら、少なくとも、職員が悩みを 話せると感じることが重要であり、上司も職員 の問題を把握して、仕事面で対処できる部分に 属性\質問項目 回答(%) 10 温かくなじみや
すい職場 11 私生活問題も 話せる
12 悩みは分かり 合えている
(*部下の悩みはわ かり伝わる)
13 困ったらカバー の仲間がいる
地 方 機 関
新任所属長(58人) はい 81 26 24* -
いいえ 2 10 17* -
どちらともいえない 17 64 59* -
経験監督職(64人) はい 56 38 34 61
いいえ 9 31 19 9
どちらともいえない 35 31 47 30
新任監督職(110人) はい 69 37 29 70
いいえ 7 20 20 8
どちらともいえない 24 43 51 22
経験主査(139人) はい 49 28 37 46
いいえ 14 41 29 17
どちらともいえない 37 31 34 37
新任主査(176人) はい 55 32 39 72
いいえ 16 30 25 10
どちらともいえない 29 38 36 18
新任主任(148人) はい 55 35 41 75
いいえ 14 34 21 8
どちらともいえない 31 31 38 17
吏員(67人) はい 66 40 45 78
いいえ 13 36 25 6
どちらともいえない 21 24 30 16
ついては必要な配慮をするほうが、お互いに「分 かり合って」仕事ができるであろう。
₂.₃ 上司の評価及び上司と自分との関係評価
₂.₃.₁ 上司自身の能力の評価
設問14から17にかけては、「直属の上司自身 の能力評価」について尋ねている。ここでの上 司とは、監督職回答では所属長を、非役付職員 の回答では監督職のことを指しているが、設問 の14は「あなたの上司は人間的魅力とか包容力 があると感じるか」、同15は「あなたの上司は 決断力や的確な判断力があると感じるか」、同 16は「あなたの上司は部下の仕事をきちんと進 行管理すると感じるか」(所属長への質問「所
属の仕事をきちんと進行管理しているか」)、同 17は「あなたの上司は部下を正しく評価すると 感じるか」(所属長への質問「自信をもって職 員の人事評価をできるか」)となっている。
結果をそれぞれみてみると、各階層において、
人間的魅力・包容力といった内面の評価の方が、
仕事上の能力評価(決断力・判断力)より低い スコアを示している。たとえば、本庁では設問 15の「はい」回答の平均値が59.8%であるのに 対し、設問14のそれは54%に下がっている。ま た、地方機関では相対的に低く、設問15の「はい」
とする割合は50%で、設問14では47.5%になっ ている。
設問16については、地方機関監督職に対する 評価が厳しいものになっている(地方機関にお け る 経 験 主 査 以 下 の「 い い え 」 回 答 は 平 均 27.5%、本庁の同階層平均は17.3%)。
属性\質問項目 回答(%) 14 人間的魅力・
包容力ある 15 決断力・判断
力ある 16 きちんと進行 管理する
17 部下を正しく 評価する
(*職員評価に自信 ある)
新任所属長(28人) はい - - 64 57*
本 庁
いいえ - - 4 0*
どちらともいえない - - 32 43*
経験監督職(62人) はい 49 58 52 50
いいえ 11 9 11 6
どちらともいえない 40 33 37 44
新任監督職(41人) はい 59 63 66 59
いいえ 7 5 2 0
どちらともいえない 34 32 32 41
経験主査(53人) はい 64 72 57 68
いいえ 9 11 15 11
どちらともいえない 27 17 28 21
新任主査(137人) はい 46 49 42 36
いいえ 17 14 16 13
どちらともいえない 37 37 42 51
新任主任(112人) はい 48 56 51 41
いいえ 21 13 15 10
どちらともいえない 31 31 34 49
吏員(31人) はい 58 61 55 45
いいえ 6 10 23 10
どちらともいえない 36 29 22 45
表2-3-1-1 直属の上司自身の能力の評価
また、設問17においては、評価を行うことに ついて評価者/被評価者の戸惑いが看取されて いる。すなわち、「評価に自信あり」とする本 庁/地方機関所属長の「はい」回答は、それぞ
れ57%/43%と過半数前後になっているのだ
が、一方で、「どちらともいえない」とする回 答も43%/43%になっており、人事評価の難し さを物語っている。このことは、本庁/地方機 関における監督職での回答傾向と符号してお り、誠に興味深い(「所属長は部下を正しく評 価してくれている」とする回答が過半数前後あ るにもかかわらず、一方で、「どちらともいえ ない」が40-50%あるということ)。
₂.₃.₂ 上司の部下への配慮
設問18から21にかけては、上司の部下への配 慮について探っている。
設問の18は、「あなたの上司は重要な仕事は 部下の同意を得て進めるか」と尋ね、設問19で は、「あなたの上司は部下も満足できる問題解 決をすることが多いか」と問うている18。さらに、
設問20では、「あなたの上司は部下の私生活を 考慮して仕事や配置を柔軟に決めると感じる か」と訊いている(所属長に対しては、「部下 の私生活を考慮して仕事や配置を柔軟に決める か」という設問)。
ここまでの結果考察としては、本庁の所属長 を除くと、「はい」とする回答率の高さは、設 問18→19→20の順になっており(仕事系の内容
>人間系の内容:たとえば、本庁/地方機関の 新任監督職でみると、前者は68%(設問18)→
59%(設問19)→44%(設問20)、後者は50%→
18 所属長への設問としては、それぞれ、「重要な仕事は部下の同意を得て進めるか」「部下も満足できる問題解決をしていると感 じるか」と訊いている。
属性\質問項目 回答(%) 14 人間的魅力・
包容力ある 15 決断力・判断
力ある 16 きちんと進行 管理する
17 部下を正しく 評価する
(*職員評価に自信 ある)
地 方 機 関
新任所属長(58人) はい - - 57 43*
いいえ - - 3 14*
どちらともいえない - - 40 43*
経験監督職(64人) はい 58 65 47 42
いいえ 10 11 13 13
どちらともいえない 32 24 40 45
新任監督職(110人) はい 46 53 46 48
いいえ 11 11 7 5
どちらともいえない 43 36 47 47
経験主査(139人) はい 42 45 37 38
いいえ 19 18 22 17
どちらともいえない 39 37 41 45
新任主査(176人) はい 47 43 36 43
いいえ 23 24 28 20
どちらともいえない 30 33 36 37
新任主任(148人) はい 49 49 39 48
いいえ 16 16 24 9
どちらともいえない 35 35 37 43
吏員(67人) はい 43 45 36 39
いいえ 24 25 36 21
どちらともいえない 33 30 28 40
属性\質問項目 回答(%) 18 重要な仕事に
は部下の同意 19 部下も満足の 問題解決
20 部下の私生活 を考慮した柔
軟対応
21 上司は部下育成 の仕事のさせ方
(*上司は部下の 成長に関心)
本 庁
新任所属長(28人) はい 68 32 42 71
いいえ 4 7 12 0
どちらともいえない 28 61 46 29
経験監督職(62人) はい 61 58 31 53*
いいえ 10 11 13 11*
どちらともいえない 29 31 56 36*
新任監督職(41人) はい 68 59 44 66*
いいえ 5 0 24 5*
どちらともいえない 27 41 32 29*
経験主査(53人) はい 62 55 43 55
いいえ 6 11 19 13
どちらともいえない 32 34 38 32
新任主査(137人) はい 46 39 37 34
いいえ 22 15 21 17
どちらともいえない 32 46 42 49
新任主任(112人) はい 54 40 36 42
いいえ 12 14 23 16
どちらともいえない 34 46 41 42
吏員(31人) はい 58 42 42 52
いいえ 26 13 16 13
どちらともいえない 16 45 42 35
地 方 機 関
新任所属長(58人) はい 76 47 38 66
いいえ 3 2 14 0
どちらともいえない 21 51 48 34
経験監督職(64人) はい 55 41 36 55*
いいえ 11 9 13 16*
どちらともいえない 34 50 51 29*
新任監督職(110人) はい 50 40 32 66*
いいえ 13 9 15 5*
どちらともいえない 37 51 53 29*
経験主査(139人) はい 53 32 30 33
いいえ 12 17 29 20
どちらともいえない 35 51 41 47
新任主査(176人) はい 57 36 28 32
いいえ 12 24 28 22
どちらともいえない 31 40 44 46
新任主任(148人) はい 55 39 33 34
いいえ 14 12 23 16
どちらともいえない 31 49 44 50
吏員(67人) はい 46 33 31 37
いいえ 21 21 22 19
どちらともいえない 33 46 47 44
表2-3-2-1 上司の部下への配慮
40%→32%になっている)、そして、全般的には、
本庁の方が地方機関よりも「はい」とする回答 率は高い(設問18における「はい」回答の平均値、
本庁59.6%、地方機関56%、同様に、設問19で は本庁46.7%、地方機関38.3%、設問20では、本 庁39.3%、地方機関32.3%となっている)。
また、設問18における「重要事は部下の同意 を得るか」については、地方機関所属長の「はい」
とする回答率と、監督職の当該スコアが大きく かけ離れていることを確認できる(地方機関所 属長76%:監督職平均52.5%)。このほか、設問 19の「部下も満足の問題解決」、設問20の「私 生活配慮」に関して、地方機関における非役付 職員の上司(監督職)評価が厳しいこと(設問 19で の「 は い 」 率 は35%、 設 問20で は30.5%)
に気づくことができる。
続いて、設問21では、「あなたの上司は部下 の育成を考えた仕事のさせ方や指導をするか」
と尋ねているが19、地方機関における非役付職 員の上司(監督職)評価が厳しいことを理解で きる(本庁「はい」率45.8%に対し、地方機関 では34%)。
また、本庁の所属長は、突出して「自分はやっ ている」と思っているが(71%が「はい」と回答)、
別の観点から、この役付層の「育成意識」につ いて探ってみることにする。
それは、今回の調査で、所属長に対し、「監 督職の努力」についても追加的に訊いたのだが
(上記のごとく、監督職の育成努力に対する部 下評価が厳しいことを受けて)、二つの関連設 問を用意し考察をしてみた。
ひとつには、「あなたの職場の監督職は、それ ぞれ部下の育成を重視した仕事のさせ方をしてい ると感じるか」、もうひとつには、「あなたの職場 における部下の育成については、監督職の自主的 な取り組みに任せているか」という質問を投げか けたのであるが、結果は次のとおりであった。
まず、前者の設問については、本庁の所属長 に お け る「 は い 」 回 答 は61%、「 い い え 」 は 11%、「どちらともいえない」は28%、同様に、
地方機関の所属長においては、「はい」が53%、
「いいえ」が5%、「どちらともいえない」が42%
もあった。
さらに、後者の結果についてだが、本庁の所 属長の「はい」回答は11%、「いいえ」は32%、「ど ちらともいえない」が57%にものぼっており、
地方機関の所属長では、それぞれ、「はい」が 28%、「いいえ」が31%、「どちらともいえない」
が41%となっていた。
最初の設問結果をみるに、上記した設問21に おける部下意識との違いは明らかであろうが、
非役付職員の監督職評価と較べて、本庁/地方 機関の所属長評価は、おおむね20-30%程度甘 めになっている。
なお、前者の結果における、「監督職の部下育 成意識」に対する「どちらともいえない」が42%、
後者の結果における、「自主的な取り組みに任せ ている」が本庁所属長の2倍以上(本庁11%:地 方28%)になっていることからして、地方機関所 属長の育成マネジメント20に関する特徴的な意識 については、今後詳細な考察を行う必要がある。
₂.₃.₃ 仕事面での上司と自分との関係 についての評価
ここでは、仕事を通じた上司と職員自身の関 係についてみていく。
設問22では、「あなたは仕事上の質問や意見 を上司に言えているか」と訊いているが、本庁
/地方機関の全階層において、60%以上が「は い」と答えており、とくに、監督職では80%前 後が「はい」となっており、上司⇔部下の健全 な関係がうかがわれている。
次に、設問23では、「あなたは、上司に仕事 で注意されてもくじけず相談に行けるか」と尋 ねているが(所属長設問「仕事のことで注意し ても部下はくじけず相談にやってくるか」)、こ こでも、本庁/地方機関問わず、60-80%が「は い」と回答しており、所属長の意識(60%台)
とそれほどギャップは感じられていない。
いずれにせよ、両設問を通じて、仕事面では、
上司との関係意欲はかなり高いとみてよいであ ろう。
19 当該設問において、所属長に対しては、「部下の育成を考えた仕事のさせ方や指導をしていると思うか」、監督職に対しては、「あ なたの上司は部下の成長に関心を持っていると感じるか」と訊ねている。
20 育成マネジメントの視点として、職場全体(若手吏員層の末端部分)にまで及んでおらず、この点に関する地方機関所属長の 意識は、監督職で留まってしまっている(それも十全な意識ではない)と推察される。今後、詳細な分析を行っていきたい。
属性\質問項目 回答(%) 22 仕事上の意見・
質問が言える
23 仕事で注意されてもく じけない
(*部下は注意されてもくじ けない)
本 庁
新任所属長(28人) はい - 61*
いいえ - 4*
どちらともいえない - 35*
経験監督職(62人) はい 77 74
いいえ 5 8
どちらともいえない 18 18
新任監督職(41人) はい 85 78
いいえ 5 2
どちらともいえない 10 20
経験主査(53人) はい 81 77
いいえ 6 9
どちらともいえない 13 14
新任主査(137人) はい 71 64
いいえ 8 5
どちらともいえない 21 31
新任主任(112人) はい 65 62
いいえ 9 7
どちらともいえない 26 31
吏員(31人) はい 68 62
いいえ 13 10
どちらともいえない 19 28
地 方 機 関
新任所属長(58人) はい - 67*
いいえ - 2*
どちらともいえない - 31*
経験監督職(64人) はい 73 70
いいえ 6 3
どちらともいえない 21 27
新任監督職(110人) はい 80 73
いいえ 6 6
どちらともいえない 14 21
経験主査(139人) はい 73 66
いいえ 9 6
どちらともいえない 18 28
新任主査(176人) はい 72 65
いいえ 10 7
どちらともいえない 18 28
新任主任(148人) はい 64 61
いいえ 9 7
どちらともいえない 27 32
吏員(67人) はい 66 60
いいえ 15 12
どちらともいえない 19 28
表2-3-3-1 仕事面での上司と自分との関係
₂.₃.₄ 人間的な面での上司との関係
本質問群では、設問24で「あなたの所属長は 信頼できるか」、設問25で「あなたは自分のい ろんな悩み・希望を上司と相談できるか」(所 属長に対しては「職員が悩んでいたり、問題を 抱えていたら必ず何らかの対処を試みるか」)、そして設問26で「あなたは上司の問題があたか も自分の問題であるかのように感じるか」と問 い、「人間的な面での上司との関係」について 明らかにしている。
まず、設問24からは、本庁監督職における所 属長への絶対的信頼感を読み取ることができて いる。回答率としては、本庁経験監督職におけ る「はい」が81%、同新任監督職における「はい」
が85%を示しているが、これは、前記した設問 22・23の結果(いずれも高い「はい」回答)か ら一連のものとしてみるべきなのだろう。すな わち、本庁の監督職にとって、所属長は「信頼 できる」から、「仕事上の質問や意見」を言え るし、また、「仕事で注意されてもくじけずに 相談に行ける」のだろう。
なお、他階層においても、本庁/地方機関を 問わず、「はい」の回答率が50-70%程度で推 移しており、所属長への抽象的な信頼感は相対 的に高いといえよう21。
一方で、設問25・26の結果では全く違う様相 を呈することになっている。これらは、全設問 中で最低の「はい」回答率を示しており、本庁
/地方機関における監督職の所属長評価は軒並 み30%台に下がっている。また、非役付職員に よる上司(監督職)評価はさらに厳しく、たと えば、本庁の吏員から経験主査では、設問25に おける「はい」の平均値が31.5%(「いいえ」が 34.5%)、同じく設問26では、「はい」が32%(「い いえ」が20.8%)までしか至っていない。そして、
地方機関の同階層においてはさらに下がり、設 問25の「はい」とする割合は22.3%(「いいえ」
は34.5%)、設問26では21%(「いいえ」は30%)
となっている。
以上の結果を通してうかがえることは(2. 3.3における設問群結果も含む)、仕事面では 上司にも食いついて頑張っている職員の健気さ
(意見を具申し、質問も述べる)がある一方、
人間面での共感は低く、気兼ねをしているよう な職場状況にあるということである。
設問25における所属長回答では、平均80%強 の者が「部下が相談してきたら対応努力する」
としているにもかかわらず、部下層はそういっ た意識には及んでいない。職場は、仕事をする ところという割り切った雰囲気が蔓延している のであろうか。
属性\質問項目 回答(%) 24 所属長は信頼できる 25 悩みや希望相談できる
(*部下の悩みは対応努
力する) 26 上司の問題に共感する
新任所属長(28人) はい - 86* -
いいえ - 0* -
どちらともいえない - 14* -
本 経験監督職(62人) はい 81 34 35
いいえ 3 23 19
どちらともいえない 16 43 46
新任監督職(41人) はい 85 32 34
いいえ 5 17 12
どちらともいえない 10 51 54
庁 経験主査(53人) はい 72 38 42
いいえ 11 38 11
どちらともいえない 17 24 47
表2-3-4-1 人間的な面での上司との関係
21 ただし、そのなかでも、地方機関の若手吏員における「いいえ」とする回答率が18%と最高値を示していることは気に留めてお きたい材料である。
属性\質問項目 回答(%) 24 所属長は信頼できる 25 悩みや希望相談できる
(*部下の悩みは対応努
力する) 26 上司の問題に共感する
新任主査(137人) はい 62 24 20
いいえ 10 30 24
本
どちらともいえない 28 46 56
新任主任(112人) はい 58 25 37
いいえ 14 38 19
どちらともいえない 28 37 44
庁 吏員(31人) はい 55 39 29
いいえ 6 32 29
どちらともいえない 39 29 42
地 方 機 関
新任所属長(58人) はい - 78* -
いいえ - 0* -
どちらともいえない - 22* -
経験監督職(64人) はい 70 31 42
いいえ 8 25 13
どちらともいえない 22 44 45
新任監督職(110人) はい 69 35 32
いいえ 5 26 21
どちらともいえない 26 39 47
経験主査(139人) はい 53 21 22
いいえ 17 36 31
どちらともいえない 30 43 47
新任主査(176人) はい 51 25 24
いいえ 14 36 29
どちらともいえない 35 39 47
新任主任(148人) はい 57 21 17
いいえ 11 27 24
どちらともいえない 32 52 59
吏員(67人) はい 57 22 21
いいえ 18 39 36
どちらともいえない 25 39 43
₂.₄ 職場の問題点
本アンケート調査の最後の設問群となるが、
ここでは、職場の問題点について浮き彫りにし ようと試みている。
まず、設問27では、「あなたの職場では気持 ち的に疲れた人が多いと感じるか」(監督職へ
は「あなたは、仕事が苦になったり、パスした いと、時々感じるか」という質問22)
と問い、設問28では、「あなたの職場は相当オー バーワークだと感じるか」と訊いている。
結果を考察するに、特徴としては、所属長と 部下との認識乖離があまりにも大きいというこ とがまずあげられる(本庁・地方機関とも、所 属長だけが「部下の気持ち疲れ感」を認めてい
22 一般的に、もっともハードワークの層に対しては本人評価を訊くことにした。