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中国人留学生にとっての飲食業アルバイトの考察
―90年代生まれの学生の経験を中心として―
鄭美君
目次
1 はじめに ... 4
2 先行研究と研究意義 ... 5
2.1在日外国人労働者に関する背景 ... 5
2.2中国人留学生アルバイトに関する先行研究 ... 7
2.2.1中国人留学生のアルバイトとキャリア意識 ... 8
2.2.2中国人留学生のアルバイトにおける差別経験 ... 8
2.3研究意義 ... 9
3 調査概要 ... 10
3.1調査の目的 ... 10
3.2調査方法 ... 10
3.3調査者の概要 ... 10
4 中国人留学生の本国での生活とアルバイト ... 12
4.1一般的な大学生生活の素描 ... 12
4.2中国国内の学生の飲食業のアルバイト ... 13
4.2.1働く理由 ... 13
4.2.2時間帯 ... 14
4.2.3賃金 ... 15
4.2.4危険性 ... 16
5 日本での留学生活 ... 17
5.1留学仲介業者から ... 18
5.2日本語能力の違いによるアルバイト経験 ... 20
5.3アルバイトの斡旋 ... 23
5.4中国人留学生が飲食業で働く動機ときっかけ ... 24
5.4.1SNSによる ... 24
5.4.2日本語学校 ... 30
5.4.3紹介 ... 31
5.4.4まとめ ... 32
5.5日本人学生が飲食業で働く動機ときっかけ ... 33
5.5.1 Iさん ... 33
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5.5.2 Jさん ... 34
5.5.3 Kさん ... 34
5.6両国の学生の「アルバイト」における問題に対する対応の違い ... 35
5.6.1シフト ... 35
5.6.2 敬語 ... 37
5.6.3人間関係 ... 38
6 アルバイト経験による発見や肯定的な経験 ... 40
6.1いい出会い ... 40
6.2差し入れ ... 41
6.3成長 ... 42
7 結論 ... 43
注 ... 47
参考文献 ... 48
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図表一覧
・ 図1 日本能力試験のN1~N5:認定目安
・ 図2 日本能力試験のN1~N5:認定目安(続き)
・ 図3 「日本留学」のイメージ図
・ 図4 「日本留学生」のイメージ図
・ 図5 「Wechat」のPC版イメージ図
・ 表1 アルバイトをする時間の割合
※上記の図表はすべて、本文中の該当する箇所に差し込むこととする。
4 1 はじめに
本論の目的は、中国人留学生が経済的に困っていないにも関わらず、如何に日本の飲食 業の労働や仕事をするようになるのかを明らかにすることである。また、実際にどのよう に日本社会で働き、言語や文化的な学びを得ているのかを明らかにする。
現在の日本においては、少子高齢化などによって、労働力不足が深刻化している。日本 政府は条件付きで外国人労働者を導入し、労働力の不足に対処している。単純労働者の受 け入れは承認できていないものの、飲食サービス業などの業種では、外国人留学生が積極 的に雇われている状況が見られる。日本人人口の減少に歯止めがかからないなか、2018年 の臨時国会で「改定出入国管理及び難民認定法」(以下、「入管法」という)等が成立し、
2019年4月には「特定技能」による外国人労働者の受け入れが始まった。しかしこれらも 文字通り特定の技能に限られた受け入れであり単純労働を認めるものではなく、雇用する ための条件も厳しい。こうした中、週28時間の資格外活動が認められ、単純労働やサービ ス労働でも雇用できる留学生は、人手不足に悩む飲食業界にとって頼みの綱となってきた。
外国人留学生は、本来就学を第一目的として在留資格を受け来日するが、生活費を獲得 するため資格外許可を得て就労することができる。日本学生支援機構(2018)がまとめた 2017年度「外国人在籍状況調査結果」によれば、日本国内の教育機関に在籍する外国人留 学生の総数は267,042名である。そのうち、中国人留学生の数は98,483名で、全留学生に 占める割合は41.2%(前年度40.2%)となっている¹⁾。
日本の物価は高く、留学生たちは「アルバイト」で生活費を稼ぎながら学校に通う。日 本学生支援機構(2016)の外国人私費留学生についての生活実態調査によると、「アルバ イト」をする学生は全体の7割以上(74.8%)となっている。多くの留学生が日本でアル バイトをしていることが推測できる。アルバイトは留学生の生活の中で重要な位置を占め ているといえる。講師や事務などいくつかの職種があるが、「飲食業」をアルバイトに選 ぶ留学生は全体の半数近く(45.7%)と割合として最も多く、それに「営業・販売(コン ビニ等)」(26.3%)と「ティーチングアシスタント・リサーチアシスタント」(6.9%)が 続いている²⁾。データから見ると、飲食業に従事している留学生が圧倒的に多いことが分 かる。
筆者自身も飲食店のアルバイト経験がある。実際にアルバイトを始めた頃は、言葉によ る問題が常に発生した。そこで気づいたことは、普段の日本語の使い方のみならず、飲食 店の中だけで使われる言葉を理解しなければならないということであった。例えば、魚を 主に扱う店であれば、料理が品切れになった時に、店の内部では「品切れ」と言うのでは なく、「山」と言うことがある。また、飲食店の従業員の置かれた立場の違いによる問題 も少なくない。例えば、ある時、店が混雑し、注文ミスがあった際、私はそれに気付き、
自ら判断し、客に謝罪したのち、改めて注文品を確認し、状況をおさめた。しかし、後に 現場にいる日本人の同僚に報告したところ、心配して改めて客の様子を見に行くというこ とがあった。中国であれば、特に問題なさそうなことだったので、意外に感じた。外国人
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スタッフの文化や習慣の違いによって、働く意識の違いやコミュニケーションなどの問題 が生じていることに気付いた。このように、日本の飲食店のアルバイト現場でどのように 対応するべきかを正しく理解していない場合、外国人にとっては働きづらさを感じること がある。
それでも中国人留学生がアルバイトをするのは、経済的必要に迫られているだと一般的 に思われている。しかし、筆者の周囲には、経済的な問題がないにもかかわらずアルバイ トをしている人が少なくなかった。本研究のきっかけは、言語が異なり、文化も異なる環 境下で、なぜ中国人留学生がアルバイトをすることにしたのかという問いである。「留学 生」として、あるいは「外国人」として、日本の職場でアルバイトという形で「働く」と いうことは、彼ら自身にとってどのように意識しされているのか。飲食業界の留学生アル バイトについて調べてみると、ほとんどが日本人雇用者側の視点で書かれており、留学生 側の視点から書かれたものは限られていることが分かった。本論文では日本の飲食業でア ルバイトとして働く中国人留学生を対象にし、彼らへのインタビュー調査から人類学的な 視点の研究を試みたい。近年、中国人留学生に関する様々な研究の蓄積があるが、中国人 留学生が日本の飲食業でアルバイトをすることに関する研究については十分とはいえない。
筆者は、人類学的な参与観察と聞き取り調査によって、当事者の視点を明らかにしてみた いと思う。
2 先行研究と研究意義
2.1在日外国人労働者に関する背景
まず、「外国人労働者」という言葉を定義しておきたい。『新社会学辞典』によると、
「外国人労働者」とは、「国境を超える移住を伴って就労する労働者」を意味する[森岡 1993:138]。日本の厚生労働省による外国人労働者の定義とは、日本国籍を有しない者を 指す[厚生労働省 2007]。
1990年代までのバブル経済の崩壊を経て、人手不足などの状況下で、ここに「はじめて 外国人労働者の導入問題が本格的な課題として」[手塚 2004:1]登場したという。外国 人労働者の導入は人手不足への対策の一つになった。また、高度経済成長期における労働 不足、留学生の受け入れ、少子高齢化などの時代変化が外国人の入国を加速した[李
2012:189]。1990年の入管法の改正により、外国人労働者の就労は合法化され、外国人労
働者の受け入れが進んでいる。厚生省による2017年10月末の「外国人雇用状況」の届出 状況のまとめによれば、外国人労働者数は1,278,670人であり、前年同期比で194,901人
(18.0%)増加し、過去最高を更新したことがわかる³⁾。しかし、受け入れ体制が整ってい るとは言えず、外国人労働者の労災や不法就労などが問題となっている。
手塚は日本の外国人労働者を以下の三つのグループに分けて説明する。ひとつは、専門 職に就き、入管法のもとに就労が認められる人々であり、彼らは日本人と同等の労働条件 で働く。二つは、中南米をはじめとする日系人である。彼らは日本が「戦後はじめてうけ
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いれた『外国労働者』」だという[手塚 2004:7]。三つ目は、1980年代を通じて激増し た不法就労者である[手塚 2004:7-8]。従来の外国人労働者は手塚が述べたような三つ のグループに分けられるだろう。しかし、現在では、多くの留学生が労働力の一部として 使われており、彼らへの注目も必要ではないかと考える。以下においては、留学生という グループが日本の労働市場において、どのように位置づけられているのかを概観する。
外国人が日本に入国し、滞在する際には、在留資格が必要である。日本の「出入国管理 及び難民認定法」により、身分又は地位に基づく在留資格を持つ人は在留期間の範囲内で、
職種などを問わずに就労することができる。いわゆる、「永住者」、「日本人の配偶者」、
「定住者」などがこれにあたる。就労することを内容とする在留資格については、専門的・
技術的職種など一定範囲のものに限りがある。このような就労を目的とする在留資格は、
医療、教育、技術、研究などが代表的なものである。これらの在留資格を持つ人は、在留 資格範囲内で就労できる。就労できない在留資格としては、「短期滞在」、「留学」「研 修」などがある。その中で留学生は、「留学」という在留資格を持ち、資格外活動の許可 を得れば、「出入国管理及び難民認定法」により、一週間以内に28時間の勤務時間は可能 となり、留学生たちは日本で学校に通いながら仕事をし、ある程度お金をもらうことがで きる。しかし、「入管法」によると、専門的技術的分野に限ってのみ、外国人労働者の就 労は法的には認められているが、「単純労働者」などの一般的労働者の受け入れは禁止さ れている⁴⁾。しかし、留学生が労働力として働いているのが現状である。岩切は「留学生 が新規労働力を確保するバイパスとして重要な役割を担うようになっていったのである」
と述べている[岩切 2017:20]。つまり言い換えれば、留学生は本格的な「外国人労働 者」ではない状況下で「単純労働者」として働いているということがいえる。
「単純労働者」というのは、一般事務や販売、飲食サービス業などの肉体労働がメイン となるような仕事をする者である。2008年に福田康夫が「留学生 30万人計画」を提唱し、
数多くの留学生が日本に留学してきた。留学生と「外国人労働者」との関連について、梶 田は留学生が「非公式」な「外国人労働者」になっていると述べており、また、日本にお ける留学生制度の不完全が「出稼ぎ留学生」問題の発生の一つの原因であり、アジア諸国 との所得格差が大きいことを指摘した[梶田 1994:41-42]。1990年代のアジア諸国の 経済発展状況においては、日本は圧倒的に繁栄している先進国であったことより、周辺の 発展途上国の人々の就労希望は増大した。他方、日本側の労働力が不足していたため、「繁 栄」を維持するために外国人労働者を導入する必要があるという[依光 2003:25]。2019 年4月に成立した改正入管法は、人手不足を解消するために設けられた制度である。今ま で「偽装労働者」であった「留学生」をなくし、新たに外国人を正面から「労働者」とし て受け入れようとするが、留学生ビザでの資格外活動は温存されたままであり、問題は放 置されたままだという指摘もある[川上 2019]。
7 2.2中国人留学生アルバイトに関する先行研究
ここでは対象とする中国人留学生アルバイトに関する先行研究を概観する。まず、「ア ルバイト」という言葉を定義しておきたい。『大辞泉』「小学館 2012」によると、アル バイトとは、「本業や学業のかたわら、収入を得るための仕事をすること。また、その仕 事をする人」を意味する。これまでに中国人留学生に関する研究が数多くなされてきた。
例えば、山口和代による留学生の日本語表現と母国文化の影響についての研究[山口 2001]や、徐光興と蔭山英順の中国人留学生を対象とした日本生活や文化適応過程に関する 実態と問題を心理学的に検討する研究もあった[徐、蔭山 1994]。その中でも、中国人 留学生のアルバイトに関する研究が行われた。特に、加賀美[1994]と黄[2010]による 中国人留学生アルバイトと被差別の研究、そして、黄美蘭による中国人留学生がアルバイ トの目的と将来のキャリア意識についての研究もある[黄 2019]。
留学生は、日本の飲食産業にとってなくてはならないし、それと同様に、アルバイトは 留学生たちの生活の中で重要な位置を占めているといえる。筆者自身の経験から言えば、
現在中国のアルバイトの現状を見ると、大学進学までにアルバイトを経験する学生はかな り少ない。大学に進学してもアルバイトの経験が少ない学生が多いと感じる。その背景に は、中国の競争の厳しい「高考」という受験制度の下で、大学に進学する予定の学生たち はアルバイトよりも勉学に勤しむことを優先する傾向があるためだ。大学進学後、アルバ イトを経験する人は高校在学中にアルバイトを経験する人よりも多い。生活費を獲得する ため、また仕事の経験を積む等の理由でアルバイトを始める人が多い[楊、王、郭 2018]。
一方、日本では日本人学生がアルバイトをすることが一般的であり、そのための環境が 整っている。駅には「Worker」という雑誌や、インターネットでよく使われている「タウ ンワーク」、「マイナビ」等、アルバイトを探す手がかりも多い。つまり、仕事の情報は オープンになっていると考えられる。日本での生活はかなりお金がかかるゆえに、アルバ イトで生活費を自分で稼ぐという考えを持つ留学生は多い。留学生が合法的な範囲でアル バイトをすることで学費や生活費を稼ぎながら勉強することは長く日本留学の一つの誘因 になっている[志甫2015]。
とは言え、母国でのアルバイト経験が少ない中国人留学生にとって、日本でのアルバイ トは単に生活費を稼ぐためではないと考える。筆者自身の場合、日本語の上達のためにア ルバイトを始めた。周りの友達の中にも、奨学金や親からの仕送りをもらいながら、アル バイトをする人がいる。しかし、このような筆者や周囲の留学生の間の認識と大学におけ る日本人学生や教員との認識にはズレがあることが明らかになってきた。日本人の多くは、
留学生がやむを得ずアルバイトをしているか、そもそもアルバイトが目的で留学している というバブル時代の留学生観を未だに持っている。これに対し、筆者は違和感を持つと同 時に、これまで知り得た中国人留学生にも一定の偏見があることに気づいた。
では、日本国内で中国人留学生のアルバイトに関する研究を見ていきたい。
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2.2.1中国人留学生のアルバイトとキャリア意識
従来の中国人留学生に関する研究では、殆ど「出稼ぎ学生」のイメージが強かった。近 年では、中国人留学生がアルバイトをする目的を新たに分析する研究者たちがいる。伊藤 と比留間は私費外国人留学生のアルバイトに関する意識の研究で、留学生がアルバイトを する目的は必ずしも金銭だけではなく、「就労経験を積むことや日本語学習のためでもあ ること」を指摘した[伊藤 比留間 2019]。さらに、中国人留学生がアルバイトをすること と将来のキャリア意識との関連を指摘する研究もある。中国人留学生のアルバイト経験と キャリア意識の関係については、黄は、中国人留学生がアルバイトを通して、様々な側面 で肯定感を得ることができ、またその得た肯定感が将来のキャリアにも影響を及ぼすこと に意義があると述べている[黄 2018]。つまり、中国人留学生がアルバイトを通して日 本社会を体験する一方で、彼らは肯定感を得ることができ、それが将来のキャリア意識に 対して積極的な影響を与えていると思われる。そこから得た経験は、将来日本社会に入る 前の下準備にもなるのではないかと考える。黄は、留学生が現在従事しているアルバイト に満足し、将来日本で就職したいという希望があれば、アルバイトを通して学んだことを 将来の日本でのキャリアに結びつけやすいと述べている[黄 2019]。つまり、今の職場 で満足し、これからも日本で就職することを検討している場合は、優先的に現在のアルバ イト先に就職できる可能性があるということである。
確かに、現在サービス業界では、よく留学生を積極的に募集している様子が窺える。な かでは、会社でのアルバイト経験がある人が優先的に考えられている状況が見える。これ らのことより、留学生がアルバイトをする際に単に「金銭」、「日本語能力の向上」や「日 本人との交流」のためだけではない、さらに留学生活を終えた後の就職とつなげた考えを 持っているのではないかということが推測できるだろう。然るに、中国人留学生が何故ア ルバイトをするのかについては、多くの研究では、このような視点からの考えがまだ不足 している。また、多くの中国人留学生が飲食業アルバイトを選ぶことに対しては、日本人 雇用者の視点が主で、当事者からの視点や声を調べるものは未だに少ない。
2.2.2中国人留学生のアルバイトにおける差別経験
前節では、アルバイトを通して、中国人留学生が肯定感を得ることで将来のキャリアに 対してよい影響を与えることが分かった。だが、その反対に、アルバイトにおける被差別 感も存在している。つまり、アルバイトを通して積極的な影響ばかりではなく、コミュニ ケーションの問題や異文化による考え方の違いなどで生じた問題もあると考えられる。筆 者も自分が外国人のため、不公平なことがあった際に、差別されたのではないかとつい意 識してしまうことがよくある。アルバイトをする際には、そういった差別の感覚がさらに 感じやすくなると思われる。黄は、日本語学校に通う中国人留学生を対象とした調査で、
彼らがアルバイト先で差別を感じており、その原因を「日本人」に帰属する傾向があるこ とを指摘した[黄 2010]。さらに、黄[2010]の調査では、53.1%の学生がアルバイト先
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で日本人の上司に中国人または外国人という理由でアルバイトを拒否されたことが多いと 述べていたという。そして、多くの中国人日本語学校生は自分が外国人のため差別された ということを意識していた。ここでは、中国人留学生がアルバイト先で自分が差別された という風に感じたことが分かった。
ここで注意すべきことは、黄の研究対象が、日本語学校に通う中国人留学生となってい ることだ。つまり、彼らは来日したばかりか来日二年未満の学生たちが多い。そういった 学生たちの日本語能力は平均的に低い。彼らは「日本語能力不足」であるにも関わらず、
その自覚がないため、差別されていると感じる、と黄は述べる[黄 2010]。
また、中国人留学生がアルバイト先でどこから差別を感じたのかについて、黄は二つの パターンを挙げている。一つ目は「日本と中国の接客習慣の違いにより、日本人の利用客 との間に認識の不一致」があるというものである。二つ目は、「日本人の店長」という要 因である。中国人留学生が差別を感じた際に、どのような行動を取るのかにはこの二つの パターンによる。自分が差別を感じた原因を「日本人の店長」に求める場合は、自己主張 をし、店長と喧嘩などをしたりすることで積極的な解決行動を取ると指摘されている。差 別された原因を「利用客」に求める場合は、喧嘩をしたり、差別をしないように抗議する ことで対立する相手を攻撃するような行動を取る傾向があると指摘している[黄 2013]。
このように、中国人留学生がアルバイト先でネガティブな面を感じることもあることが分 かった。「差別」を感じることは、中国人留学生がアルバイトを始めたり、あるいは続け たりするという選択にあたり、大きな影響を及ぼすことだと考えられる。本研究の具体的 な事例は、5章で挙げる。
2.3研究意義
日本国内の人手不足の影響下で、サービス業は、外国人労働者にかなり高く依存してい る。留学生が外国人労働者の一部として、非常に頼られている現状が見える。中国人留学 生の数は圧倒的に多いため、彼らの日本での留学生活が注目されている。「留学生30万人 計画」のもと、これからも多くの中国人留学生が日本に留学に来るのではないかと考えら れる。現在彼らが日本の「人手不足」のもとで言葉の壁を乗り越えつつ、日本の飲食業の アルバイトを選ぶことで何を得たのか、また彼ら自身の認識をこれまでより深く理解する 必要がある。また、飲食店で働く留学生の経験を通して、文化の差異が見える。この差異 は言語だけでなく、日本人の仕事に対する考えにも起因する。規範に厳しい日本人のやり 方をいかに受け入れるのか、受け入れなければ、自分の留学生活にどのような影響がある のか。中国の発展とともに、中国人留学生が日本に留学する目的が、最初の「出稼ぎ」か ら「勉学」に少しずつ変わっていく中、今までの中国人留学生に対する固有の「出稼ぎ留 学生」のイメージを変える必要もあると思う。筆者の今回の研究では、20 代の中国人留学 生を対象とし、彼らが飲食業アルバイトをする理由を明らかにした。この研究により、少 しでも中国人留学生に対する偏見を変え、もしくは新たな認識を持ってくれたら幸いであ
10 る。
3 調査概要
本論では、「留学」ビザを持ち、日本の飲食店で働いた経験がある、主に20代の中国人 留学生と日本人学生を対象とする。調査対象の人数は全部で11人であり、出身地、学歴、
性別などの制限はしない。ここでは、筆者が2018年11月から2019年11月までに行った インタビュー調査について概要を述べる。
3.1調査の目的
筆者は身近にいる8人の中国人留学生と3人の日本人学生を対象として、飲食店のアル バイトについて聞き取り調査をした。主に20代の若者を対象とした。中国の20代の学生 と言えば、1990年代以降生まれであり、緩やかに過ごしてきた世代というイメージもある。
20代の学生は「文化大革命」のような社会変化を経験したことがない。ちょうど中国の経 済が発展している時期に、日本への留学を選択した中国人留学生が、なぜ飲食店のアルバ イトをしたのか。それに、自国と全く異なる雰囲気を持つ日本の飲食店で、彼らが文化の 違いと言語の問題を抱えながら、日本の飲食業の労働や仕事をどのように捉えているのか。
以上の点を明らかにしてゆく。また、彼らとの対比のため3人の日本人学生にインタビュ ーを行った。これはなぜなら、これまで筆者は自身のアルバイト先でしか飲食業に従事す る日本人の舞台裏の様子を見たことがなかったが、別の店で働く人の経験や考えをもとに、
自身の経験を相対化する必要を指摘されたためである。そこで、筆者による中国人留学生 へのアルバイトの調査に関する中間発表に参加していた日本人学生からも協力を得た。
3.2調査方法
調査方法は、主にインタビュー調査を中心に行った。レコーダーとノートを同時に使い、
聞き取り調査をした。また、録音を文字に書き起こした。
3.3調査者の概要
本調査は8人の中国人留学生と3人の日本人学生を対象としてインタビュー調査をした。
調査者についての基本情報を以下、まとめる。
[中国人]
Aさん(女性 28歳)
中国の河南省出身、一人っ子であり、高校を卒業してから親戚の勧めにより、2011 年 4 月に日本に留学した。来日前に日本語能力試験を受けなかったため、来日した時は、該当 する日本語レベルはなかった。現在はN1になった。日本に滞在し、八年経った。現在、彼 女は都内の大学院に通っている。日本に来る前はドイツへの留学も考えたそうだ。その理
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由を聞いたら、「ドイツの大学は入学金しか取らない、学費はいらないからだ」と答えて くれた。
Bさん(男性 24歳)
中国の遼寧省出身、一人っ子であり、大学に進学するために、2015年の10月に日本に留 学した。当時の日本語レベルはN2だった。日本に来てから日本語能力試験を受けていない ため、現在でもN2だ。彼は親に言われて日本に来たため、日本に来たことは不本意だった が、現在都内にある私立大学に通っている。将来は日本で就職してみようと考えているら しい。日本に滞在して四年経った。
Cさん(男性 23歳)
中国の広東省出身、弟一人がいる。高校卒業後、大学に進学するため、2016 年1月に日 本に留学した。当時日本語能力試験を受けなかったため、該当する日本語レベルはなかっ た。現在はN2になった。日本に滞在して四年になった。現在、彼は都内にある私立大学の 三年生だ。
Dさん(女性 26歳)
中国の北京市出身、一人っ子である。国内で大学を卒業し、日本の街道が好きだという 理由で2016年4月に日本に留学した。来日前の日本語レベルはN5だった。現在はN2にな った。日本に滞在し、まもなく四年になる。彼女は大阪で日本語学校に通っていた。まだ 自分のやりたいことが見つからないため、再び大学への進学を選び、現在は都内のある私 立大学に通っている。
Eさん(女性 23歳)
中国の遼寧省の出身、一人っ子である。高校を卒業し、大学に進学するために、2016 年 1月に日本に留学した。来日する前に日本語能力試験を受けなかったため、該当する日本 語レベルはなかった。現在はN2になった。日本に滞在し、今年四年になった。現在、彼女 は専門学校から卒業して日本の会社に就職している。
Fさん(女性 27歳)
中国の遼寧省出身、姉が一人いる。2015年10月に日本に留学にきた。来日する前に日本 語能力試験を受けなかった。現在はN3になった。当時は日本語が話せなくても日本に来た ら自然に話せるようになるという話を聞き、何も考えずに日本に来たそうだ。今年は日本 在住五年目になった。
Gさん(男性 25歳)
中国の広西省出身、妹が一人いる。父が中国で会社を経営している。母が日本に勤めて おり、母と一緒に過ごしたいという思いでアメリカへの留学をやめ、2017 年7月に日本に 留学した。来日前の日本語レベルはN2だった。現在はN1になった。日本に来て三年未満。
現在都内の公立大学の大学一年生である。
Hさん(女性 27歳)
中国のウルムチ市出身、一人っ子であり、2016 年9月に日本に留学した。来日前の日本
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語レベルはN3だった。現在はN1になった。日本に滞在して三年半ぐらい経った。
[日本人]
Iさん(女性 25歳)
音楽大学出身、現在公立の大学院に進学し、勉強している。複数のアルバイトを経験し たことがある。
Jさん(女性 22歳)
公立大学の学生、高校まで勉強に集中してアルバイトをしたことがなかった。一度海外 に留学したことがある。
Kさん(女性 22歳)
公立大学の学生、これから大学院に進学する予定である。
4 中国人留学生の本国での生活とアルバイト
4.1一般的な大学生生活の素描
中国の学生は、大学に合格して大学に入る前は勉強以外のことが殆どできない状態であ る。学校の教員や両親は、学生が大学に合格するまで勉強以外のことに集中することを許 さない。九年間の義務教育と高校三年間の厳しい学習生活を経て、長年抑圧された学生た ちがやっと大学の入学試験から解放され、大学に入る。中国人の学生のほとんどが大学を 選ぶ時に自分の町から遠く離れていくことが多い。なぜならば、せっかく親の管理から逃 げることができるからだと思う。
筆者自身の経験から中国での大学四年間の生活で言えば、最初の一年目は、12 年間の苦 しい勉強生活から解放され、よく知らない新鮮な生活に入り、新しい環境や人と接触する ことができ、部活や学園祭などにも積極的に参加していた。課外活動以外にも、一年の頃 には必須科目が多いため、一年目に取らなければならない授業は多い。一年目は欠席した りする人も少なかった。二年に入ると、ほとんどのサークルの部長や副部長を選挙する時 期になり、そこでは極少数の人しか選抜されないため、同期で入った人々は部長や副部長 にならなければ、自然の流れで部活を辞めるパターンが多かった。普段は授業以外に、様々 な資格を取るために図書館に行ったり、塾に通ったりする人が増えた記憶がある。三年生 になると、授業が少なくなり、まだ資格を取ろうとする人も努力を続ける。または、大学 院に進学しようか就職しようかを悩む人が増えてくる。四年目になったら、多くの大学で は、実習(中国の大学で必修の日本のインターンシップに相当するもの)という課題が必 要とされ、学生たちは学校から出て社会でインターシップを行う。大学四年になると、授 業を続けて受ける学生がいる。しかし、専攻によっては、殆どの学生の場合は授業が無い ため、実習を終えた後に自分でコントロールできる時間が多くなった。それと同時に、卒 業するため、選考により卒業論文か卒業作品かを提出することが必要である。
13 4.2中国国内の学生の飲食業のアルバイト
中国国内は労働環境が整っていないと中学校の授業で先生に言われたことがまだ記憶に 残っている。前節で言ったように、中国の学生は大学に進学するという目標をもって大学 まで必死に勉強する人が多い。彼らの中には、大学に入ってからアルバイトを始めようと 考え、始めた人が多い。と言っても、どういう手段でアルバイトを探し、安全に働くのか を一番に考えなければならない。残念ながら、現在の中国では、アルバイトで被害を受け た事例が少なくはない。筆者はこの章では、中国人留学生が自国でのアルバイトをする理 由と彼がアルバイトをする環境を紹介したいと思う。
4.2.1働く理由
近年、アルバイトをする学生が増えている。筆者の地元馬鞍山市と隣の安慶市の六所学 校を対象とした学生アルバイトに関する銭結海の調査結果によると、68.4%の学生がアル バイトをした経験があるということが分かった。さらに、その中に、一年生、二年生、三 年生と四年生のアルバイトをする割合は 68.2%、76.1%、62.3%、52.6%となる。四年生 の割合が明らかに少ない原因は、四年制の大学にしか四年生がいないためである[銭 2011]。銭によれば、学生がアルバイトをする理由は主に社会に対する意識を高めることと、
社会で生活できる能力を持つためだという。銭によると、大学生はアルバイトをすること が時間の無駄である考え、将来に対して自信があるため、学生時代にアルバイトをしなく てもよいと考えているそうだ。このため大学生でアルバイトをする人が専門学校の人より 少ないということである。また、お金目当てではなく、自身の能力を高めることができる などの理由もあると述べている[銭 2011]。だが、筆者は大学四年になると、実習や卒業 の準備などで忙しくなるため、アルバイトをする余裕がないということも原因の一つでは ないかと考える。
2017年のある大学の学生を対象としたアルバイトに関する調査報告では、184人の中、
136人がアルバイトをした経験があると答えた。その中で、「社会経験を持つため」を理由 としてアルバイトを始めた人が最も多く、58.7%を占めている。二位に続く理由は「生活 費が足りない」と17.93%を占めている。この調査報告の結論から言えることは、多数の学 生のアルバイトをする理由が個人の能力を開発し、実践能力を向上させるためだというこ とだ [孫 2017]。
筆者は大学時代にアルバイトをした経験がある。きっかけは友達からの誘いであった。
当時大学二年生になった筆者は新入生が来る際に、友達の誘いでキャンパスにブースを設 置したある通信会社の下で、携帯電話を一日販売した。結果は大成功で、一台売れたら500 円がもらえる条件で、二人で販売をしたため、一人あたりおよそ15000円もらった記憶が ある。その後は、携帯を販売することに興味を感じ、自ら学校の近くにある携帯ショップ に行ってアルバイトとして働くことになった。そのようなキャンペーンは殆ど新学期が始 まった最初の二ヶ月ぐらいのみしかないため、一ヶ月ぐらいでアルバイトを終えた。今考
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えると、当時はアルバイトをしているという意識がなかった。面接もなく、ただ自らショ ップに行って担当者に自分の意図を伝え、そのまま雇ってもらい、契約書すらなかった。
給料日の際にもらった給料が実際販売した携帯の数と少し合わないと違和感を感じたこと を今でも覚えている。その当時は深く社会と関わりたいといった様な気持ちでアルバイト をしようとは考えていなかった。だが、その時の経験は、確かに学生生活以外のことを体 験できたものであったと言える。
筆者が8人の中国人留学生に中国国内でのアルバイト経験を尋ねた時、8人のうち7人が アルバイト経験ありと答えた。彼らが中国国内でアルバイトをした理由を聞いたところ、A さんは次のように答えた。
日本の留学生活にいち早く慣れるために、家の近くにあるパン屋で一ヶ月ぐらいの アルバイトをしていた。すごく簡単な仕事だよ、パンを売るだけです。それに、も う日本に行くことを決めたからやることがないし、ちょっと暇だったので、母に、
どうせ日本に行くなら、先にアルバイトを経験してみたらって言われた。
Aさんがアルバイトの経験を積んだのは、日本への留学の準備のためということが分かっ た。また他の学生たちに聞いたら、Cさんは「暇だから、アルバイトをしなかったら、どう せ家で寝たり、遊んだりしちゃうよ」と語った。Dさんも「大学二年の夏休み、すごく暇だ った。それに、もう大人になっているし、社会経験がまだないことが恥ずかしくて、ピザ 屋でのアルバイトを始めた」と語った。Gさんは少し異なる理由でアルバイトを始めたとい う。
その店のスタッフをやってみたかった。店の魅力を感じたから、接客がすごくいい よ。お客さんが褒めてくれるよ。一緒にアルバイトをしていた人たちもほぼ大学生 だから、私と大体同じ考えでそこに入ったと思う。生活の体験だと思ってそこでア ルバイトをしたよ。ほぼ遊びの感覚でアルバイトしていた。
Gさんのように店の面白さや接客の魅力を感じ、社会経験だと思い、アルバイトをする学 生もいる。彼らが夏休み中に時間の余裕を持ち、社会体験をしたいという思いでアルバイ トを始める傾向が見える。
4.2.2時間帯
学生がアルバイトをできる時間としては、学校以外の時間、週末などが多いと思うが、
中国の場合は、夏休みになるとアルバイトをする学生が増えていく。なぜならば、アルバ イトの環境が整っていないため、アルバイトを探すには難しい面があり、また、学期間は アルバイトをするより学業を重視するという考えがあるからである。その上、夏休みにな
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ると多くの工場からのアルバイトの募集が増えていき、比較的アルバイトを探しやすい時 期になるからでもある。毎年工場でアルバイトをする学生のニュースがよくテレビで見ら れる。中国では、「暑期工」という言葉があり、これは夏休み期間に有給の仕事に参加す る16歳に達した学生を定義している⁵⁾。筆者もクラスメイトから夏休みに工場のアルバイ トをしようと誘われたことがある。だが、そういった工場の殆どは自分の町から遠く離れ ている場所にあり、月単位で契約を結ぶ形が多いため、もし途中で辞めたら給料がもらえ なくなる場合がある。それ故、筆者は少し不自由を感じ、それを断った。
学校に行きながらアルバイトをする学生もいるが、銭の調査に基づいた週ごとのアルバ イトをする平均時間によると、普段頻繁にアルバイトをする学生が少なそうである。以下 の表では、大学生がアルバイトをする時間の週ごとの平均を見ていく。
表1アルバイトをする時間の割合(筆者が銭のデータを表に起こした)
アルバイトをする時間(週ごと平均) 比率
5時間 31.0%
5-10時間 40.6%
10-15時間 14.8%
15時間以上 13.6%
以上の表を見ると、毎週5-10時間アルバイトをする学生が一番多く、毎週15時間以上 アルバイトをする学生は13.6%と、一番少ないことが分かった。つまり、普段アルバイト を積極的にする学生は少ない。学業とアルバイトを両立できる学生が少ないということが 言えるだろう。
筆者がインタビュー調査で8人の中国人留学生に国内でのアルバイト経験を聞いた時、
彼らがアルバイトをする時間は殆ど夏休みだった。当然、工場の募集に応じる学生が比較 的多いが、工場のアルバイトを選ばず、地元に帰る学生たちも少なくない。その彼らもま たそれぞれの帰省先でアルバイトを始めた。なぜ夏休みがアルバイトの時期である場合が 多いかと言えば、一つは、時間的に余裕ができ、学業と両立できないという心配がなく、
社会経験を積める一番良い機会だからだ。もう一つの理由は、両親の関与である。一部の 学生の両親は、彼らの子どもたちが大学の長期休暇の間、特にする事がないと考えている。
そういった両親から文句を言われることをきっかけに、学生自ら「アルバイトでもしよう か」と思うに至る。
4.2.3賃金
まず、中国の国情を考えると、まだ発展途上国であり、人口が世界第二位である。そうい
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う状況が労働力の低価格化を引き起こしている。大量の労働力があり、大学生も労働市場 に入るため競争が起き、それがさらに賃金価格を引き下げている。地域や業種により、時 給は異なるが、学生アルバイトの賃金は最低賃金よりも低いと言われている[蔡 2018]。
多くの大学生がアルバイトを希望し、供給過剰となっているためだ。また、学生側が社会 経験を希望しているため、採用側がそれを理由として安く雇っている状況が見える。さら に、試用期間には給料が発生しないという採用側もいる[蔡 2018]。次にそういった厳し いアルバイト環境下で、実際学生たちが一ヶ月アルバイトをしていくら得られるかを見て いきたい。
銭の調査では、安徽省の大学生で月650元(約10000円)をもらえるのは11.6%しかなく、
500元(約7700円)未満の学生が75.3%を占めている。多くは200元(約3100円)程度だとい う[銭 2011]。つまり、週15時間以上働く学生が最大月650元の収入を得られる。では、
学生たちが希望するアルバイトで得られる収入の金額を見ていきたい。孫の調査によると、
西安市では、64.67%の学生が8-15元/時間、50-90元/一日が望ましいという結果が出てい る。つまり、この金額でなければ、アルバイトを選ぶ学生も減る[孫 2017]。
参考に、筆者が直接知り得たアルバイトとその時給を挙げる。筆者が大学四年の時に、
ピザハットでアルバイトをしたことがある友人に聞くと、時給は8元(125円)だと答えられ た。非常に安いと感じたが、友達にはこれでもほかの大学生アルバイトの中では一番高い と言われた。
Aさんの家の近くにあるパン屋は月給400元(7500円)ぐらいだそうだ。Cさんは広州の 三ツ星ホテルでのアルバイト経験がある。彼の話では、当時は約40日働き、一日8時間で、
時給は約350円ぐらいだった。Gさんは北京にある飲食店でのアルバイトを一ヶ月していた。
ホールをやったけど、超安かったよ。月給は1900元(約 30800円)で一日8時間、
途中に休憩はないよ。食事と社員寮を提供してくれたけど、社会経験が欲しかった から、そのアルバイトをしたんだよ。私は忍耐力がすごくある方だと思うよ、たと え好きじゃない仕事でも耐えられる。
こう語ってくれた時、筆者も北京の学生アルバイトの賃金の安さに驚いた。以上の例よ り、学生アルバイトの賃金の安さを改めて感じた。学生のであるため、長く働かせ、かつ 最低賃金で雇っている状況が見える。また、学生側があくまで社会体験をしたいという思 いで、賃金を気にせず、たとえ理不尽なことがあったとしても強く反抗せず、耐えて仕事 をするという傾向も見える。
4.2.4危険性
現在、中国の大学生向けのアルバイトの労働環境はまだ不十分であり、法的にも整備され ていないため、学生がアルバイトをする際に、騙されることがよくある。劉正発と何継秀
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の調査によると、200人の対象者の中、49%の学生がアルバイト中に騙された経験があると 答えている。そして、その原因は主に、不良仲介所や採用側による金銭の詐欺が多いと述 べている[劉 何 2005]。2016年7月に中国の青団社と浙江大学が行なった「全国大学生 アルバイトの行為分析報告」によれば、大学生の 40%がアルバイト先で身の安全の問題を 経験したことがあり、また企業による賃金の支払い遅れの経験があると答えた学生も 40%
に上っている。加えて、仲介所に騙された経験がある学生は 30%となっている[青団社 2016]。この二つの調査から見て、学生がアルバイトをする際に、危険性があることが分 かった。では次に、なぜ学生がアルバイトをすることによって危険を感じるかを具体的に 見ていきたい。
学生アルバイトの仕事内容は主に家庭教師やパンフレット配布等であるが、現在中国の 労働環境は不十分で、法的にも整備されておらず、アルバイトをする学生の身の安全の問 題ともなっている[楊 谭 2008]。まず、中国では、学生アルバイトに関する明確な法律 がない。何か不公平なことがあったとしても、それを支える法律はまだできておらず、採 用側が圧倒的に有利な立場にある。また、学生は社会経験が浅く、騙されやすい。このた め、学生は問題のある仲介所や会社を見極めることができないと考える。また、正規の仲 介所を通さず、ネット上の求人情報や街頭のチラシを信じ、騙される者も多い。約 58.5%
の学生がネット上の求人情報や街頭のチラシを見てアルバイトを探しているという[劉、何 2005]。つまり、多くの学生がそのような手段でアルバイトを探しても大丈夫だろうという 未熟な考えをしていることがわかった。
筆者の今回のインタビュー調査に対して、Gさんは中国でアルバイトを探す際に危険な目 にあったことを語ってくれた。
カラオケ店の応募で店に行った。そして、担当の人に保証金の支払いと身分証明書 の預かりを要求された。とても暗くて小さい部屋に連れ込まれて怪しいなと思って、
途中で逃げ出した。後で両親に話したら、両親も絶対怪しいと言った。
Gさんの経験のように、確かに、アルバイトを始める前に保証金の支払いを要求されるこ とは怪し。それに、いざアルバイトを始めたら、辞めるまで身分証明書を返してくれない 可能性もある。万が一、自分の身分証明書を使い、何か悪いことをされてしまえば大変な 事態になる可能性がある。それ以外にも、Gさんは、国内での飲食業アルバイトをした際に、
最低賃金で休みなしで一か月働いたこともあった。以上の調査によって、中国人留学生が いかに本国のアルバイトで危険な目に遭い、不公平な待遇を受けてきたかがわかる。
5 日本での留学生活
グローバリゼーションの急速な発展に伴い、国と国の境界はより緩やかになっており、
中国人留学生も留学生として国際的に活躍するようになった。日本は中国に隣接し、アジ
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ア地域に属し、共通性の高い漢字を用いているため、欧米文化圏の言語と比べても、言語 学習はそれほど難しくない。それに加えて、90年代生まれの中国人留学生は日本のアニメ 文化の影響を受け、日本への憧れが高まった。福田康夫が提唱した「留学生 30万人計画」
に基づいて、平成30年度外国人留学生在籍状況調査結果によれば、中国人留学生の数は 114,950名になった⁶⁾。
多くの留学生が日本に来て生活を始める際に、彼らに対して最初に与えられる情報源は、
日本語学校、もしくはインターネットや先輩である。これらの影響を受けつつ、彼らは留 学生生活を始める。
この章では、主に、中国人留学生が来日する前に自国内の留学仲介業者から与えられた 日本生活のイメージが彼らの初期の日本留学に及ぼす影響と、日本での仕事に対するイメ ージの影響について説明する。 また、彼らの日本語能力の違いにより、選んだ仕事の内容 も異なる。来日以降に受けた様々な影響が日本で働く目的と、仕事中に発生した問題や出 会いにつながっている。ここでは中国人留学生だけの考察ではなく、参照として、日本人 三人の大学生のアルバイト経験も考察していく。日本人学生の経歴と対比することによっ て中国人留学生が飲食業でアルバイトをする動機がより明確になる。
5.1留学仲介業者から
いまの中国社会では、日本への留学を選択する学生が増えている。だが、言語や文化習 慣の違いによる心配事も多い。そういった留学先に対する不安を解消するために、多くの 人は留学仲介業者に相談しに行く。留学仲介業者は学校への申請、書類の準備、個別指導 などのサービスを提供している。また、仲介所のコンサルタントは、学生たちが留学前に 抱える日本での生活や学業に対するすべての問題や不安に答えてくれる。当然、彼らも日 本での留学経験がある。したがって、留学仲介業者に相談することによって、学生たちは 日本に行ったことがなくても、日本に対する一般的な印象を得ることができると感じる。
例えば、言語習得の問題に対して、日本語が出来ない学生は、現地で学んだ方がより良い 教育を受けられるため、間違った発音もなく、本場の日本語を学ぶことができる、という ような説明がなされているそうだ。また、留学費用については、やはり海外留学であり、
大変費用がかかることから、親にとっては金銭面から中々行かせることが難しい。ある民 間留学仲介業者から2018年に公開された記事によれば、中国人私費留学生が日本の国公立 大学で勉強するには、一年間で8~11万元(約123~169万円)が必要だそうだ⁷⁾。
実際の中国の一般的な家庭の一年間の収入はいくらだろう。中国の大都市上海の一人当 たりの賃金を見てみると、2017年の平均月給は7132元で、平均年収は85684元である[点 拾 2018]。つまり、国公立大学に留学させるには、平均年収に近い費用がかかる。一般 的な家庭が子どもを海外に留学させようとすることは金銭的には困難である。そんな中、
日本では、留学生には週28時間のアルバイトが認められており、もし東京でアルバイトを すれば、平均時給1013円~1300円の給料で月に約10万円を稼ぐことができる。つまり、
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日本で働けば、生活費は十分まかなえるということが、留学仲介業者の説明である。この ように、自分で生活費を負担できるという所も留学仲介業者が親と学生を説得する一つの 理由である。
日本でのアルバイトとは何かを説明する際に、留学仲介のコンサルタントは自身の経験 からコンビニや飲食店のアルバイトをイメージとして語った。筆者は来日する前に、留学 仲介業者で8年間日本での留学を経験した人の話を聞いた。日本に来れば日本語がすぐ覚 えられるため、居酒屋などでのアルバイトができると聞いた。さらに、日本の賃金は高い から儲かるというように言われた。当時の筆者はまだ大学四年生で、その際に日本でアル バイトをすることも実習の一つの形だと言われたこともある。今回、筆者は8人の中国人 留学生に対するインタビュー調査を行ない、Aさんは筆者と同じような経験もしていた。
留学しようと思った時に仲介所に行って、様々な面で話を聞きました。やはり留学
費用のところがとても大事なので、日本でアルバイトができて生活費が自分で稼げ ると聞いて安心した。殆どコンビニや居酒屋のアルバイトですね。宣伝用の雑誌も あるから、そこでみた日本の居酒屋の写真が最初に持つイメージです。
Fさんの経験では、留学仲介所に行った際にそこでの人から、日本での生活は大変お金が かかるが、自分でアルバイトをして生活費を稼ぐことができるということを説明されたそ うだ。
仲介所の人に特にアルバイトの紹介はされてないけど、ただ、日本はアルバイトが たくさんあるから、とても探しやすいと聞いた。自分で日本に行って探してもすぐ 見つかるからだよって言ってくれた。あとは、物価が高いので、日本での生活はと てもお金がかかるんです。その代わりに、時給も高くて、生活の質が比較的高いで す。あとは、日本語学校は基本半日制なので、勉強をしながらアルバイトすること ができる。つまり、自分が自由に使える時間があります。
Dさんは日本のアルバイトに対するイメージをはっきり聞いていなかったが、「日本に行 ったらアルバイトができると留学仲介業者が言っていた。ただ、日本の法律上では週28 時間の制限があるから、それをちゃんと守れば大丈夫です」と語った。
以上の三人の話をまとめれば、留学仲介業者は日本のアルバイトに関して、日本での生 活に慣れる前でもアルバイトは簡単にできるというような宣伝をしていることが分かる。
しかし、ここには、単に学生を日本に留学させたくて良い話ししか言わない部分が見える。
中国人留学生は来日する前から留学仲介業者より聞いた話で、日本での留学生活はアルバ イトと密接しており不可分であるというような印象を抱く。またそれにより、日本に来れ ば、アルバイトを探して簡単に始めることができるというように思った。このように留学
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仲介業者で宣伝を見るうちに、学生は知らず知らずのうちに感化され、日本ではアルバイ トをすることが日本での留学生活の一部であると思わされている傾向がある。日本でアル バイトをしながら親に負担を掛けないで、自分で海外での生活を維持することができるの だと学生が思うように、留学仲介業者は宣伝をしていた。しかし、実際の状況を見てみる と、日本に来たばかりの中国人留学生ですぐにアルバイトを見つけて自分で生活費を稼い だ者は少数であった。多くの学生は留学仲介業者の言葉を聞いただけであって、実際の日 本のアルバイト状況がどのようなものであるのかは分かっていなかった。
5.2日本語能力の違いによるアルバイト経験
日本に留学しに来る学生は進路の違いによって主に以下の二つのグループに分けられて いる。一つは高校生で日本の大学に進学しようと思っている人達である。もう一つは大学 生であり、日本で修士号(あるいは博士号)を取ろうと思っている人達である。この二つ のグループは日本語のレベルも異なる。高校生の時にもし塾に通っていなければ、殆どの 学生にはきちんと体系的な日本語学習の経験がない。大学生の場合は、専攻の違いによっ て異なる。日本語専攻の学生にはきちんと日本語を学んだ経験があり、大学で日本人教師 と話せるチャンスもある。さらに、日本語専攻の学生は大学を卒業するまでに日本語能力 試験のN1を取ることが卒業の必須要件である。その為、日本語専攻の学生は日本語専攻で はない学生よりも日本語能力が高く、日本生活への適応が早い。日本語専攻の学生でない 殆どの一般学生が日本語を学ぶには、独学するか塾に通うかという二つのパターンがある。
ただし、遼寧省のように日本との距離が近い地域でなければ、日本語を教える塾は、上海 や北京のような大都市にしかない状況である。筆者は四年前に来日する前、前もって少し でも日本語の学習をしようと思い、地元で探してみたが、見つからなかった。他の地域に 行って塾に通うよりは、通信教育の方が便利なため、通信教育に受講して自宅で学んでい た。筆者はこのような中国国内での日本語の教育環境を鑑み、来日前の一般の学生の日本 語の能力は比較的低いと考える。
留学生は来日する前に日本語能力試験を受け、結果の良し悪しに関わらず日本語能力試 験に関する資格を得ていた方が留学ビザを獲得しやすいと言われている。その当時、筆者 は日本語能力試験を受けずに来日したが、現在は、留学ビザの審査が段々と厳しくなり、
入国管理局はビザ申請時にN5相当の日本語証明書の提出を申請者に求めている。入国管理 局によれば、留学生が来日し勉強するという決意を確認するためだという[一般財団法人 日中亜細亜教育医療文化交流機構 2016]。それと同時に、留学生の日本語学習意識も高 くっていると考える。ここでは、中国人留学生の日本語能力がどのぐらいの程度なのかを わかりやすく説明するために、以下の日本語能力試験による N1~N5 の認定目安表をあげ る。
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図1 日本語能力試験のN1~N5:認定目安