5 日本での留学生活
5.6 両国の学生の「アルバイト」における問題に対する対応の違い
飲食店アルバイトは基本的にシフト制である。前月に翌月のシフトを決めるパターンが 多い。学生たちは学業とアルバイトを両立するため、自分の都合によってシフトを決めら れることになってはいるが、店の事情やほかのスタッフたちの都合を考えた上、希望通り のシフトに入ることが中々難しいケースも少なくない。自国と完全に異なる労働環境下で 中国人留学生がどういう対応をするのかを見ていきたい。
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Aさんはいくつかの飲食店で働いた経験があるが、彼女がある店を辞めた理由は決まった シフト通りではなかったことだった。彼女は「店に向かっている途中で急に店の電話が来 て、『今日来なくていいです』って言われて、そのまま家に帰った。こういうことが何回 もあって、ちょっとイラっとして辞めたんだ」と語った。日本に来てから五カ月ぐらいの 頃だったため、Aさんはそこまで日本のアルバイトを経験しておらず、シフト制のデメリッ トを知らなかった。今の彼女はむしろ慣れて来て、店が暇な時に店長に「早めに帰っても いいですか」とお願いをしたこともある。
Aさんは最初「シフト制」に対して、理解出来なかったが、アルバイトを通して日本の飲 食店のそういう制度の柔軟性の部分が分かるようになったことが見てとれる。もう一人のD さんも2年ほどの飲食店アルバイトをするうち、「シフト制」に対して、慣れて来たそう だ。以下のように語った。
私的な感想だけど、どこでもシフトを変更されたりするよ、忙しい時に必要とされ て、暇な時に捨てられる。良いところもあると思うよ、自分が入りたい時間だけを 入れれば良い、どうしても入れない日は言われても入れないから。強制じゃないと ころが良いと思う。私は大阪の寿司屋にいた時、クリスマスから正月までずっと休 んでいた。店の人に何も言われなかった。いまのコンビニは多分人が足りなくて、
日本人のスタッフは正月に実家帰るから、店長に「1月1日に来られる」って聞か れた時、どうせやることがないからその日は出勤した。
Dさんは「シフト制」のメリットとデメリットを兼ねて考え、自分が適応できる方法を取 った。一方、Fさんはシフトのことで不公平さを感じていた。
シフトを増やしてほしいと店長に頼まれた時がある。店長がすごくニコニコして、
男の人なのにちょっと情けないなって思った。一回断ってもまた頼んでくる。何回 も聞かれて、やっぱり断ったが、店長も大変だなって思って最終的にはシフトを増 やした。でも、私も大変なのよ。私も助けてくれる人が欲しいよ。もし店長にその 日時間伸ばしてほしいと言われて、私がそれを受けたのに、また今度私が何らかの 事情で休みたい時に休ませてくれないことはちょっと対等じゃないと思う。
Fさんは店側からシフトを頼まれ、自分はそれを受け、自分は店の助けになったと考えた。
だが、自分が事情あって休みを申請した時には、店側がそれに応じてくれることはなく、
店側に対して不満が生じた。
中国人留学生だけが飲食業アルバイトの「シフト制」に対して不慣れなわけでない。筆 者が日本人学生にインタビュー調査をした際には、日本人側も不満を持っていた。Kさんは 店にシフトのことで不満を言う人が多く、理不尽を感じていたことを話してくれた。
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結構不満を言っている人は多くて、なんか、シフト。当日に「ごめんやっぱ今日い らない」とか、「やっぱ入れない」ということは結構あって、それに文句を言う人 が結構多い。一回洗い場の、皿洗いの人で、来ちゃって、もう来ているのに、ごめ ん、やっぱ今日何時からみたいで、時間つぶして来てみたいな、一回あって、それ ですごい怒ってました。土日基本10時からなんですけど、11時オープンで、お客さ んが来るのは割と遅めなので、12 時ぐらいから、大体来るので、その最初に皆入っ ても、人が多いから、「明日11時からね」とか、「12時からね」みたいな、それは かなりあります。その分働く時間が減るので、ちょっと稼げないみたいな。
Kさんも店が空いていた時に「上がっていいよ」と言われ、混む時に「もうちょっといて くれる」と言われ、嫌だと思ったが、店側には言わず、アルバイト同士で不満を言い合っ たようだ。
以上の例を見ると、国籍と関係なく、飲食業界のシフトに対して不満を持つ人が多いと 分かった。しかし、両国の学生がその不平等を感じた時に取った態度は大きく違う。中国 人留学生はそれを受けるかやめるか、または、別の手段でこの問題を解決しようという考 えでいた。その一方、日本人側は不満を感じつつ、アルバイトを続ける傾向が見える。
5.6.2 敬語
中国人留学生が飲食店アルバイトをする際は、言葉の問題が一番大きい。正しい日本語 の会話だけでなく、敬語も必要とされる。日本人でも敬語を正しく使うことが難しいとよ く聞くほどなので、留学生にとっては勿論非常に難しい。また、中国では、日本のように 複雑な敬語がないため、敬語に対する理解も少し難しいと考えられる。そういった文化的 な面の違いによる問題に対し、留学生たちがその場でどのような対応していたのかを事例 で見ていきたい。
Aさんが初めて飲食業アルバイトをしたのは、まだ日本語を勉強し始めて約三か月の頃だ った。彼女はお客さんから「お箸ちょうだい」と言われた時に、「箸」を「足」のことだ と思い、お客さんの足をずっと見ていたことがあった。勤務終了の際に、店長から「お疲 れ様です」と言われた時に、そんなに疲れてもいないのに何でそれを言われるのかがわか らなかった。これを思い出して語った彼女は自分でも笑っていた。
Eさんは高級な和食レストランでアルバイトをした経験があり、彼女は最初入ったばかり の頃に、仕事中に必要な敬語だけを二日間かけて覚えたそうだ。彼女は、それ以前のアル バイト先で、実用的な日本語をある程度学んだうえで、和食レストランでのアルバイトを はじめた。筆者が、彼女が辞めた理由を聞いたところ、彼女は「言葉を言い間違えたら怒 られるし、少しでも間違ったことをしたら怒られる」と述べた。この時、彼女は、レスト ランの店長からのプレッシャーを感じて、結果として自ら辞めてしまったと話した。
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Dさんは日本人と接する際、お世辞が多いと思った。「必要じゃないと思っている言葉を 言わなきゃいけないよ」と語った彼女は、未だに敬語をうまく使えないそうだ。ある日店 長に「タメ口」で話したところをほかのアルバイトの人に見られた。
店長から「ご飯食べたか」って聞かれて、私が「食べた」って言ったら、店の高校 生の子が笑いながら私のマネをしていた。多分私が失礼なことを言ったと思ってい るからだ。それで、店長が「私とDさんは友達だから、敬語は使わなくていいから」
って言ってくれた。それで、私はやっと気づいた。敬語を使わないと、失礼だと思 われるのだ。あとは、同じ歳の人との会話もそうなんですよ。考え方の違いかな、
ちょっと会話しづらい部分がある。
最初Dさんは、日本語は簡単に話せればよいと思っていたが、周りの人からの反応で敬 語を使う必要があるのだと気がついた。会話を単純に進めるだけではなく、敬語を使わな いと失礼なのだと思い始めた。
Kさんは高級和食店でのアルバイトを通して、敬語使いは厳しいと感じていた。間違えた 時は、「店長に注意されたりするので、お客様からは言われないけれど」とKさんが語っ た。
5.6.3人間関係
仕事をする場は、ある意味、小さいコミュニティーである。人間関係がとても大事だと 思う。しかし、留学生には言葉の問題だけではなく、文化の違いによる考え方の違いもあ る。彼らは職場でどのように日本人のスタッフ達と接するのだろう。また、日本人学生た ちもアルバイト先で先輩と後輩の関係を気にして、私たちよりもっと気を遣うだろう。店 という小さい空間と言っても人間関係が発生する場で彼らはどのように考えて働くのだろ う。
人間関係を難しいと思っている留学生はかなりいる。彼らが難しいと思っている人間関 係とは、具体的に見ていくと、コミュニケーションがうまく取れなかった状況を指すこと が分かる。例えば、Aさんは店内に発生した人との関わりに対してネガティブな考えをとっ ており、彼女は「人間関係は、気が合う人、喋れる人がいれば喋るけど、喋れない人だっ たらそれでいい、そのまま退勤するまで待って終わる」という風に語った。
Bさんは、職場で日本人のスタッフ達と雑談したりするが、わからない言葉があったらど うするのかと聞いたら、彼は「分かるふりをするよ、そっちのほうがかっこいいからだよ。
もし悪口を言われたら、こっちはわかっているよというアピールをするね」と話した。彼 は日本の人や生活に対して「日本の生活はつまらない、日本人の頭は固いし、ルールも多 いし」と不満を言ったが、「日本に残りたい」と思っている。
Cさんは楽天家で、アルバイト先で仕事をミスし、先輩に叱られたことがあり、彼は最初