• 検索結果がありません。

作業が残るだけである だがもう少し視点を広げてウイルスとヒト 動植物の関係を視野に収めると <ウイルス X がヒトに感染して 潜伏したり発症したり流 したり沈静化したりを繰り返しつつも共存している > こうした事態の成 そのものの不思議さに思い る そこをさらに考えようとするならば 感染症の臨床医学

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "作業が残るだけである だがもう少し視点を広げてウイルスとヒト 動植物の関係を視野に収めると <ウイルス X がヒトに感染して 潜伏したり発症したり流 したり沈静化したりを繰り返しつつも共存している > こうした事態の成 そのものの不思議さに思い る そこをさらに考えようとするならば 感染症の臨床医学"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1

ウイルス学 2010 年度中間テスト向け資料

◆編集:⽊下貴⽂(医学科 2008 年度⼊学) ◆2010.6.6 公開、6.7 考察問題などを追加 はじめに ウイルス学の中間テスト(2010.6.8 実施)向けの資料です。内容は、 1. ウイルス総論の考察問題対策 2. ⻄⼭教授配布のウイルス⼀覧表へのコメント追記 ……となってます。後者は「公開主義」の⽮野さんとのコラボ企画(?)で、もとのウイルス⼀覧表に⽮野さんがコメン トした資料をベースに、⽊下がさらにコメントや編集を加えています。 事前の予告によると、中間テストでは ウイルス⼀覧表の暗記問題(30 点) ウイルス総論講義から、考察問題(10 点) が出題されるとのこと。このうち前者は、ガチ暗記問題が出るようです。伝聞なので正確ではないですが、⼀昨年の問題 では「〇〇科と××科のウイルスについて、それぞれ属するウイルスの属、種、媒介する動物、代表する疾患をすべて書 け」というようなものだったらしい。つまり写経でもなんでもして覚えるしかないわけですが、①暗記の負担を減らすこ とと、②せっかく覚えるならば感染症の病態などの周辺情報も⼀緒に理解した⽅が役⽴つという観点から、コメントを加 えていきます。 参考⽂献 ①河岡義裕・堀本研⼦『インフルエンザ パンデミック』(講談社ブルーバックス) ②ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』(草思社) ③『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』(メディックメディア) 教科書は⾃前のシンプル微⽣物学と図書館の標準微⽣物学を主に使っているが、ここではそれ以外に参考にしたものや関 連する読み物を紹介する。ウイルス学では、まず 1 つのウイルスについて、その臨床症状、分⼦機序、疫学などを⼀通 りある程度詳しく理解すると、ウイルスに対する全体像に近づきやすくなる。そのための 1 冊の例として、2009 年の新 型インフルを扱った①を挙げておく。②は体裁としては⼀般向けの本だが、⼈類史を農業⽣産、地政学、疫学、技術史な どの観点から捉え直そうする⼤作。農業や牧畜の開始と定住以降の、細菌やウイルスと⼈類との付き合いの経緯にも焦点 が当てられていて、微⽣物と⼈間の関係を広い視野で捉えたい⼈には、とてもおもしろいとおもう。免疫学でも紹介した ③は、とりわけ微⽣物学の各論でかなり便利。どうせ多くの⼈は 4〜6 年のいずれかで買うので、今から買っておいて資 料集的に使うことを推奨します。

1、ウイルス総論 考察問題対策

⻄⼭教授の総論講義時に配布されたプリントのうち、「ウイルスの⽣存戦略」「⼈の感染症の起源」「新しい感染症の出 現」のタイトルを掲げた部分の解説をしていきます。 ウイルスの⽣存戦略 狭い意味での医学の範囲内で考えるならば、ウイルス学で注⽬すべきは「病原性を持つさまざまなウイルスが存在して、 それらが⼈体にさまざまな影響を及ぼす」ということだけで済み、あとはこの「さまざま」を各論的に詳細に詰めていく

(2)

2

作業が残るだけである。だがもう少し視点を広げてウイルスとヒト・動植物の関係を視野に収めると、<ウイルス X が ヒトに感染して、潜伏したり発症したり流⾏したり沈静化したりを繰り返しつつも共存している>、こうした事態の成⽴ そのものの不思議さに思い⾄る。そこをさらに考えようとするならば、感染症の臨床医学や分⼦⽣物学の知識に加えて、 もっといろいろな側⾯を考慮して、考えていく必要がある。その探究の導き⼿として、疫学(Epidemiology)、とい う分野の名称を掲げておこう。 ウイルスそれ⾃体はただのタンパク機械であるが、<ヒトや動植物の細胞に感染して、⾃分のコピーを⼤量に作って、次 の個体に感染する>、この繰り返しによって、⾃らのコピーをこの世界において物理的に存続させる。この事態を「⽣存 する」と形容することにそれほど違和感はない。 ウイルスが⽣存するためには、直感的な⾔い⽅をすると「ちょうどよい感染⼒と病原性」を持つことが重要である。感染 性が低すぎると増殖できないし、ウイルスの病原性が強すぎて宿主を絶滅させてしまえば、ウイルス⾃⾝も滅んでしまう、 など。今⽇、さまざまな動植物とウイルスが⼀応の共存を果たしているという事実は、両者の⽣存戦略の綱引きが、局所 的な進退を伴いつつも⼀種の均衡(膠着状態?)にある、ということを⽰している。戦況(?)がここに⾄る経緯を、広 いパースペクティヴで眺めてみたい、とおもう。ここでは、4 つのヒト感染症ウイルス(⿇疹ウイルス、インフルエンザ ウイルス、⽔痘帯状疱疹ウイルス、狂⽝病ウイルス)を例にしてそれぞれの<⽣存戦略>をみていこう。 1、⿇疹ウイルス ⿇疹 measles はいわゆる「はしか」で、⽣後 6 ヶ⽉以降〜6 歳の⼩児に好発する、顔⾯や全⾝の発疹を特徴とする感染 症である。 ⽣後 6 ヶ⽉までは、⺟体由来の IgG 抗体があるため(受動免疫)、あまり発症しない。 ⿇疹ウイルスは⿐咽頭分泌物などによって⾶沫感染し、伝染⼒は⾮常に強く、免疫のない⼈が初感染を受けると、すべて の⼈が発症する。すなわち、不顕性感染(=ウイルスが体内にいるのに発症していない)はない。感染すると、10 ⽇後 前後の潜伏期のあと、カタル期(3 ⽇)→発疹期(4-5 ⽇)→回復期(3 ⽇)という、合計で三週間の経過を経て、ウイ ルスは体内からクリアされる。 以上のようなウイルスの特徴と⽣活環を考えると、⿇疹ウイルスが⽣存するためには、絶えず新しい宿主(ほとんどは⼩ 児)をみつけて、短期間のうちに増殖と感染を繰り返さなければならない。感染し発症している⼩児の近くに別の⼩児が いて、前者から後者へのウイルスの受け渡し(感染)が成⽴すると、⿇疹ウイルスはあと 3 週間の⽣存の猶予を得る。 ⿇疹ウイルスがヒトの特定集団内で数⼗年に渡り⽣存しているというのは、実態としてはこの 3 週間以内の受け渡しの 連鎖、が常に起こっている、ということを意味する。 よって⿇疹ウイルスが⻑期的に⽣存するためには、⼀定の領域内に⼀定以上の⼈⼝が存在して、免疫を持たない⼩児が常 に供給される状態でなければならない。ある研究者は、これに必要な都市の⼈⼝を「50 万⼈」であると試算した。ちな みに、18 世紀初頭において世界⼀の規模の都市の 1 つだった江⼾の⼈⼝が 100 万⼈超、現在の名古屋市の⼈⼝も同程度 である。 ここから逆に⿇疹ウイルスの特徴を再び考えるならば、上記のような特徴(⾶沫感染する、感染⼒が強い、3 週間程度で 体内からクリアされる……)を持つからこそ、近代の⼤都市において⿇疹ウイルスが持続的に存続できた(さらにいえば、 そういう特徴を持つウイルスが natural selection で選ばれた)、とも⾔えるのである。 2、インフルエンザウイルス

(3)

3

説明の都合上、分⼦機構のさわりだけ説明しておこう。右図にイ ンフルエンザ A ウイルスの模式図を⽰す。図のように、カプシド 内には 1 本鎖 RNA が 8 分節で存在している。各論的に絶対に覚 えるべきなのは、HA(ヘマグルチニン;⾚⾎球凝集素)と NA (ノイラミニダーゼ)の 2 種類の表⾯分⼦である。それぞれ、 HA は細胞表⾯のシアル酸(糖の⼀種で、膜タンパクに付く 糖鎖の先端にある)と特異的に結合する。 右下図のシアル酸 (sialic acid)は、ノイラミン酸 (neuraminic acid) のアミノ基やヒドロキシ基が置換さ れた物質を総称するファミリー名である。通常は糖鎖の⾮ 還元末端に存在し、細胞膜の認識タグなどの重要な機能を 担っている。 NA は、増殖後のウイルスが出芽するさいに、細胞膜からシ アル酸を切断する。 という機能を持つ。 つまり、NA がはたらかないと、ウイルスは細胞から出芽 できず、体内で増殖できない。この仕組みを利⽤したのが、 抗インフルエンザ薬のノイラミニダーゼ阻害剤(タミフル やリレンザ)である。 シアル酸は細胞膜の膜タンパクの糖鎖の先端にあり、糖鎖との結 合の仕⽅によって複数のタイプがある。ヒトでは隣のガラクトー スとα2-6 結合し、トリでは隣のガラクトースとα2-3 結合する。 ウイルスの HA はこれらを特異的に認識して結合する。 つまり、通常の⿃インフルエンザウイルスの HA はα2-3 結 合型シアル酸を認識するので、ヒトには感染できない。逆 にいえば、HA がα2-6 結合型シアル酸を認識するような遺 伝的変異が起これば、ヒトに感染するウイルスができるた めの⼀段階をクリアしたことになる。 また組織ごとにシアル酸を発現している細胞としていない細胞がある。シアル酸のタイプは感染するかどうかを決める要 因となり、組織ごとの発現パターンは感染時の病態が決める要因となる(たとえば、多くの組織で発現していると、ウイ ルスが全⾝に感染してふつうは重篤な病態となる)。 インフルエンザウイルスは、⿃類や哺乳類に広く感染する⼈獣共通感染症である。⾃然界ではカモなどの⽔禽類に不顕性 感染をして共存している。⽔禽類ではウイルスは腸管で繁殖し、糞中に排出され、他の動物に経⼝感染する。冬季には糞 中のウイルスは凍結保存され、越冬して感染を引き起こすことができる。不顕性感染した渡り⿃は⾶翔ルートの途中でウ イルスをばらまき、各地の家禽や家畜に感染する。飼育中に発⽣した変異ウイルスの⼀部がヒトへの感染性と増殖能⼒を 獲得して、流⾏する……、このような経路で、⾃然界の⽔禽が持つ無害なウイルスが、ヒトで流⾏するに⾄る。 いちどヒトで感染・増殖できるようなったウイルスは、その後、遺伝的なマイナーチェンジを⾏いつつ季節性に流⾏を繰 り返す。インフルエンザは RNA ウイルスで、上記の HA や NA 分⼦もウイルス⾃⾝の RNA がコードしている。ウイルス が複製されるときに RNA がコピーされるが、このコピーは⼀定の頻度でエラーが起こる。そこで微妙に異なる HA や NA 分⼦を持つウイルスが出現し、既に流⾏しているインフルエンザに対する免疫をすり抜けて流⾏を引き起こすことができ るのである。 http://www.glycoforum.gr.jp /glycoe /09.html(改変) シアル酸 糖鎖 Wikipedia(J)より

(4)

4

DNA の複製はプライマーが必須で、かつ校正(proofreading)が⾏われることで、かなりの正確さで複製きる。⼀ ⽅、DNA→RNA や RNA→RNA の複製は、正確性の点でかなり劣る。 最後に、近年問題となっている新型インフルエンザウイルスについて説明しておこう。まず、動物からヒトに感染する変 異ウイルスが出現するかどうかは、基本的には確率の問題である。家禽や家畜のウイルスから起こりやすいのは、⼈⼯的 な環境での飼育によって、 ウイルスは遺伝的な多様化と選別を⼤規模に⾏うことができる 感染拡⼤するヒトとの接触が密にある といった条件が整うことで、この確率が増⼤するからだ。例えば H5N1 型⿃インフルエンザは東アジアや東南アジアで 最初に発⽣した。これらの地域では近年、先進国から持ち込まれた⼿法で狭い空間で多くのニワトリを飼育しており、⼀ ⽅でニワトリを市場で⽣きたまま販売する慣習が残っているという点から、上の条件を満⾜しやすいと考えられる。 次に、新型化には、上で説明した遺伝的マイナーチェンジだけでなく、いわば遺伝⼦のフルモデルチェンジが伴う。後者 を引き起こす機序の 1 つとして、遺伝⼦再集合 genetic reassortment が知られている。1 つの細胞に複数のインフル エンザウイルスが同時に感染することによって、RNA 分節の交換が起こり、新しい組み合わせの RNA 分節を持ったウイ ルスが⽣まれるのである。遺伝的なフルモデルチェンジされたウイルスが、もし強い伝染⼒と病原性を持っていたら、ほ とんどのヒトが抗体を持たないため、爆発的に感染が拡⼤する恐れがある。これがパンデミックである。2009 年の新型 インフルエンザは、ブタ、ニワトリ、ヒトのインフルエンザの段階的な遺伝⼦再集合によるキメラウイルスだが、幸い病 原性はあまり⾼くなかったために、極めて深刻な事態には⾄らなかった。 上記のような遺伝的なマイナーチェンジを連続的抗原変異 antigenic drift、遺伝⼦再集合などによるフルモデル チェンジを不連続抗原変異 antigenic shift と呼ぶ。 以上の説明を、疫学的な⾯から⼤雑把に捉えると、東アジアや東南アジアでの感染発⽣(?)と拡⼤の社会的な背景には、 (1)⼈⼝の増⼤と⾷料⽣産の増⼤という強⼒なトレンドがあり、(2)衛⽣⾯での整備がそれに追いついていない、と いうことが考えられる。(1)のトレンドは⽌めようがなく、⼀⽅、(2)の対策にも限界がある。2009 年度のインフル騒 ぎで、各種の「専⾨家」がパンデミックは遅かれ早かれ必ず起こると主張したが、その根拠の 1 つはこのようなことだ ろう。 3、⽔痘帯状疱疹ウイルス(VZV)

これはヘルペス科のウイルスで、⽔痘(varicella ⽔ぼうそう)と帯状疱疹(herpes zoster)という 2 つの症状を引き起こ す。 ⽔痘は⼩児の間で⾶沫感染・空気感染して流⾏し(流⾏性のヘルペスウイルスはこれだけ)、多くは発症するが、予 後は良好である。ただし成⼈が罹患した場合は重症化しやすい。 ⽔痘の治癒後、VZV は宿主の知覚神経節の外套細胞に潜伏して、⻑い間⼤⼈しくしている。宿主の免疫⼒低下などに よって再活性化すると、帯状疱疹が発症する。帯状疱疹は⾼齢者に多く、⽚側の肋間神経、三叉神経(CN5)、顔⾯ 神経(CN7)などの⽀配領域に沿って、疼痛と帯状の発疹が出現する。 このように VZV は<幼児期の流⾏性の感染>と<超⻑期の潜伏と再活性化>を特徴とする。帯状疱疹が発症した場合、 近くに免疫を獲得していない⼩児がいると感染する。こうして祖⽗⺟の世代から孫の世代へとウイルスが受け渡される。 ⿇疹ウイルスが 3 週間単位の感染の連鎖で⽣存を維持するのに対して、VZV は数⼗年単位の感染の連鎖で⽣存を維持し ようとしているわけだ。⼈間世界の時間の尺度でみると、ウイルスの⽣存戦略が極めて幅が広いことが分かる。 4、狂⽝病ウイルス 狂⽝病 rabies は、あらゆる哺乳類に感染する⼈獣共通感染症である。ヒトでは、感染したコウモリやイヌなどが咬傷に よって感染すると、潜伏期間中のワクチン接種で発症を回避できるが、発症してしまった場合の致死率はほぼ 100%で

(5)

5

ある。狂⽝病ウイルスは、筋⾁や結合組織で感染を拡⼤するほか、末梢神経に侵⼊して上⾏性に脳に到達し、脳実質を破 壊する。 ウイルスの⽣存戦略という点からみると、<咬傷による唾液を介した感染>と、<神経系へ侵⼊して脳にダメージを与え る>という 2 つがカップリングしている点が極めて興味深い。ウイルス感染による脳へのダメージによって凶暴化した ⽝が、同種や他の動物を辺り構わず咬んで感染を拡⼤させるという仕組みが、ちょっと考えられないくらいよく出来てい るとおもう。 ⼈の感染症の起源 1、vertical evolution 垂直進化 VZV(⽔痘帯状疱疹ウイルス)、HSV(単純ヘルペスウイルス)、CMV(サイトメガロウイルス)、EBV(Epstein-Barr ウイルス)、HPV(ヒトパピローマウイルス) 「垂直進化」という⽤語は進化学、⽣態学でたまに⾒かける⽤語だが、「⽔平進化 horizontal evolution」と対をなす。 後者は、下の例のように、遺伝⼦の⽔平伝播による⽣物の進化を指す。 細菌は細菌どうしでプラスミドを交換して、遺伝的に変化する 逆転写ウイルスによる、細胞内への遺伝⼦の組み込み それに対して、通常の親から⼦どもへと遺伝⼦を渡していくのに伴う古典的な進化を、垂直進化と呼ぶことがある。 VZV(⽔痘帯状疱疹ウイルス)の⽣存戦略について直前に説明したが、このグループに分類されたウイルスは、ヒト体内 で⻑期間潜伏して⼤⼈しくしており、次のような感染様式で、ヒトの世代から世代へと受け継がれていく。 免疫⼒が低下したときに再発し、免疫⼒が弱い個体に感染する。 性交や出産時に感染する。

2、Origin from animals(動物に由来)

インフルエンザウイルス(⿃類)、⿇疹ウイルス(⽝?)、Rotavirus(⽜、猫、⾺)など

このグループのウイルスは、ヒト以外の動物がキャリアであったウイルスが、ヒトでの感染性や増殖能⼒を持ってヒトウ イルスになったという経緯を持つ。インフルエンザの例を既に説明した。

3、Man infected accidentally(ヒトが偶発的に感染)

マールブルグウイルス、エボラウイルス、ラッサウイルス、狂⽝病 マールブルグウイルス(以下 MV)について。1960 年代のドイツのマールブルグで、アフリカのウガンダから輸⼊した ミドリザルを実験やワクチン製造に利⽤していた施設において、職員 25 名が原因不明の出⾎熱にかかり、うち 7 名が死 亡するという事件があった。このときに単離されたのが MV である。これは、サルに感染していたウイルスが、たまたま ヒトにも感染可能であったと考えられている。「ヒトが偶発的に感染」とはこのような意味である。 このグループに含まれるウイルスには 脳炎や出⾎熱などの重篤な症状が出る 熱帯地⽅に住むヒトと遺伝的に近縁の動物がキャリアであることが多い。 などの特徴がある。

(6)

6

新しく発⽣、または以前から存在していたものが急激に感染したウイルスを、エマージング・ウイルスという。以下に重 要な例(プリオン以外は⼀覧表に含まれる)を⽰すが、エマージング・ウイルスは 20 世紀後半になって多く出現してお り、次節で考える社会的な変化との関連が疑われている。 1957 アルゼンチン出⾎熱(フニンウイルスーアレナウイルス科) 1959 ボリビア出⾎熱(マチュポウイルスーアレナウイルス科) 1967 マールブルグ病(マールブルグウイルスーフィロウイルス科) 1969 ラッサ熱(ラッサウイルスーアレナウイルス科) 1976 エボラ出⾎熱(エボラウイルスーフィロウイルス科)) 1977 リフトバレー熱(リフトバレーウイルスーブニアウイルス科) 1981 エイズ(⼈免疫不全ウイルスーレトロウイルス科) 1985 ⽜海綿状脳症(プリオンー細胞由来蛋⽩;ウイルスではない) 1993 ハンタウイルス肺症候群(ハンタウイルスーブニアウイルス科) 4、起源不明 ウイルス⼀覧表をみれば分かるように、⼀部のウイルスは起源が分かっていない。 新しい感染症の出現 1、Crowding(⼈⼝密度の増加) 2、Domestication of animals(動物の家畜化) ウイルスは基本的に、空間的に近接する同種から同種へと感染を広げていく(他種への感染はハードルが⾼い)。⼈⼝密 度と訳したが、⼤型動物を家畜化して集団的に飼育することも含め、⾃然界や狩猟採集社会ではあり得ないような⾼い個 体密度が、ウイルスが進化し⽣存する必要条件となる。 個体密度の増⼤に加えて、定住という観点も重要である。ヒトは 700 万年を狩猟採集により⽣活していたが、農業や牧 畜によって効率的に⾷料を⽣産し、定住が可能になったのはここ 1 万年のことだ。効率的な⾷料⽣産は、より稠密で規 模の⼤きな社会を可能にした。1,2 を合わせると、農業や牧畜の開始によって、⼈類と少ない種の動植物が特定の空間 に⾼い密度で安定的に存在する、というウイルスにとって都合のよい状況が準備されたことになる。

3、Moving into new habitats(新しい地域への移住) 4、Increased rate of movement(移動の増加)

⾷料の余剰がある⼤規模な社会は、より遠⽅へと交易を⾏い、また場合により戦争を⾏うようになる。マールブルグウイ ルスの例のように、異なる地域ではじめてのウイルスに接触することで、ヒト集団内に感染症が発⽣することがある。ま た別の例で、ヨーロッパ⼈の新⼤陸への進出は、かの地の先住⺠に天然痘をはじめとする新しい感染症を持ち込んだ。

免疫のない先住⺠に天然痘は爆発的に広がり、象徴的には<数百⼈のスペイン⼈が数百万⼈のインカ帝国を「征 服」する>という事態の、⼤きな原動⼒となった。

5、New patterns of sociosexual activity(社会の変化により新しいパターンの性的活動が出現したこと)

⼈類史において婚姻と出産は社会的再⽣産の要であり、性⾏動もその観点から制度化され、制御されてきた。近代社会は ⼀⾯では婚姻や性的パートナーシップの⾃由化に特徴付けられるが、婚姻関係の地理的拡⼤や異なる社会階層間での婚姻 の増加は、性⾏為により感染するウイルスが 1 つの社会全体へと拡⼤していくのに寄与しただろう。また⼀部の⼈によ り「後期近代 late modernity」と呼ばれるおよそ 1960-70 年代以降の先進国では、より個⼈化され、より偶発的で、⽣ 殖と切り離された性的⾏動の新しい様式が、徐々に⼀般化した。ここでは、性感染性ウイルスのさらなる拡⼤とともに、

(7)

7

⼀部のハイリスク集団の出現が注⽬される。HIV/AIDS が当初、とくに英⽶において、不特定多数との性的関係を持つ傾 向がある同性愛者コミュニティとの関連でフレームアップされたことがそれを象徴している。 近代社会は、別の⾯では、性的⾏動を歴史上最も熱⼼に管理することを⽬指し、またある程度はそれを実現した 社会でもあった。このことは⾃由化とその反動としてではなく、⾃由と管理が表裏⼀体、いわば抱き合わせ販売 なのだと理解すべきだろう。

6、Increased survival of of susceptible individuals(感染しやすい個体が⽣存できるようになったこと)

⾼齢になると免疫能⼒は⼀般に低下する。またウイルスの感染しやすさには遺伝的要因が絡むが(たとえば MHC の多型)、

感染症の予防や治療が進歩すると、かつては死亡リスクの⾼かった個体が、⽣存できるようになる。この傾向は世代的に 拡⼤再⽣産される。このような感染リスクの⾼い個体の増加は、ウイルスにとっては、感染して⾃らのコピーを増やすた めに都合のいいキャリアが増加することを意味する。

7、Manufacture of new infectious agents by man(新しい⼈為的な感染媒介物の製造)

かつて、⾎液製剤によって HIV や C 型肝炎ウイルスが感染する薬害事件があった。また注射器、ドレナージのチューブ、 ⼈⼯呼吸器の気管などの病院で使われる各種の管は、体内と体外を空間的に繋げて感染リスクを⾼めるほか、患者や医療 関係者の間での感染の原因ともなる。

2、ウイルス⼀覧表 + コメント

「核酸タイプ」「科」までの⼀覧表で、全体を概観する

コメントつき⼀覧表の前に、全体をざっとみて、概要をつかんでおこう。次の表(次ページ)では、⼀覧表から「科」ま での分類と主な感染症のみを抜き出してみた。 ウイルスはまず核酸のタイプで⼤きく分類され、次にウイルスの形状や物理化学的性質から「科」に分けられる。実際に 感染症の患者から分離されるウイルスは、「科・属・種」の「種」のレベルで分類され、ヒト特有のウイルスだと「ヒト 〇〇ウイルス」という名称がつく。 核酸のタイプ別にみていくと、⼆本鎖 DNA と⼀本鎖 RNA(という、普通に細胞内に存在する形態)が多数派で、⼀本鎖 DNA、逆転写ウイルス、⼆本鎖 RNA は、この表ではそれぞれ 1〜2 種類しかない。核酸のタイプは、そのウイルスが細 胞内でどのように増殖するか、に直結する。ということは、核酸のタイプとウイルスの病原性の特質(どんな病態か?) との間には、ある程度の相関関係があるはずだ。とくに時間軸(急性か慢性か、潜伏期間の⻑さ)でみると、この傾向を 分かりやすく抽出することができる。順にみていこう。 逆転写タイプは、宿主のゲノムにウイルス遺伝⼦を組み込むことができるから、⻑期間の潜伏が可能ではないかと予想で きる。実際に、成⼈ T 細胞性⽩⾎病(ATL)や AIDS はいずれもかなり⻑期の潜伏期間を特徴とする。

DNA ⼆本鎖ウイルスについて、DNA ⼆本鎖は RNA ⼀本鎖と⽐べて細胞内での安定性が最も⾼く、⼀⽅でウイルス増殖

に⾄るステップ数は多い。そこから、(逆転写タイプほどではないにしても)⽐較的⻑期的に推移する疾患が多いのでは ないかと予測できる。実際の疾患をみると、DNA ⼆本鎖タイプには、イボ、炎症、癌などが局所的に発⽣する慢性疾患 が多い。また体内に⻑期的に住み着く、⽐較的⼤⼈しいウイルスが多い印象がある(HSV-1 による⼝唇ヘルペスが典型)。

(8)

8

<核酸タイプと科までの⼀覧表>

ウイルスの核酸タイプと科分類 主な感染症 エンベロープの有無

The dsDNA viruses(二本鎖 DNA ウイルス)

Poxviridae(ポックスウイルス科) 天然痘

Herpesviridae(ヘルペスウイルス科) 口唇ヘルペス、性器ヘルペス

Adenoviridae(アデノウイルス科) 急性咽頭炎 なし

Polyomaviridae(ポリオーマウイルス科) なし

Papillomaviridae(パピローマウイルス科) 尖形コンジローム、子宮頸癌 なし

The ssDNA viruses(一本鎖 DNA ウイルス)

Parvoviridae(パルボウイルス科) 伝染性紅斑 なし

The DNA and RNA reverse transcribing virus(DNA・RNA 逆転写ウイルス)

Hepadnaviridae(ヘパドナウイルス科) B 型肝炎

Retroviridae(レトロウイルス科) ATL、AIDS

The dsRNA viruses(二本鎖 RNA ウイルス)

Reoviridae(レオウイルス科) 小児下痢症 なし

The negative stranded ssRNA viruses(マイナス一本鎖 RNA ウイルス)

Rhabdoviridae(ラブドウイルス科) 狂犬病 Filoviridae(フィロウイルス科) 〇〇出血熱 Paramyxoviridae(パラミクソウイルス科) かぜ症候群、流行性耳下腺炎 Orthomyxoviridae(オルトミクソウイルス科) インフルエンザ Bunyaviridae(ブニヤウイルス科) 〇〇出血熱 Arenaviridae(アレナウイルス科) 〇〇出血熱

The positive stranded ssRNA viruses(プラス一本鎖 RNA ウイルス)

Picornaviridae(ピコルナウイルス科) ポリオ、無菌性髄膜炎 なし Caliciviridae(カリシウイルス科) ノロウイルスの食中毒 なし Astroviridae(アストロウイルス科) なし Coronaviridae(コロナウイルス科) かぜ、SARS Flaviviridae(フラビウイルス科) 黄熱病、脳炎 Togaviridae(トガウイルス科) 脳炎 RNA ⼀本鎖は、DNA ⼆本鎖よりも細胞内の安定性が低い反⾯、タンパク合成へのステップ数は少なくて済む。とくにプ ラス RNA ⼀本鎖は⾃らを鋳型にして直接タンパク合成ができるから、ウイルス増殖が最も容易である。よって RNA ⼀ 本鎖ウイルスによる疾患は、DNA ⼆本鎖ウイルスよりも急性疾患が多く、とくにプラス⼀本鎖タイプが最も急性度が⾼ いのではないか、と予測できる。実際に主な疾患を抜き出してみると、(出⾎熱と脳炎の病態は⽐較しにくいので除外し て考えると)マイナス⼀本鎖の⽅が治癒までの期間がやや⻑い(インフルエンザ>かぜ、はしか>三⽇ばしか)という傾 向がみられる。 RNA マイナス⼀本鎖ウイルス: ・インフルエンザ、流⾏性⽿下腺炎(おたふくかぜ)、⿇疹(はしか)など ・〇〇出⾎熱(主に熱帯や亜熱帯の動物に由来) RNA プラス⼀本鎖ウイルス: ・かぜ症候群の原因の過半を占める。その他、胃腸炎や⾵疹(三⽇ばしか)など。 ・各種脳炎(蚊を介して動物から感染するものが多い)

(9)

ウイルス一覧表(西山教授配布、 矢野コメント、 木下コメント+編集) The dsDNA viruses(二本鎖DNAウイルス)

科 属 種 自然宿主(媒介動物) 代表的な疾患 備考

Poxviridae(ポックスウイルス科) poxとは膿疱(のうほう)の意.天然痘の膿の入った水ぶくれのことを言う.

Orthopoxvirus(オルトポックスウイルス属)

Variola virus ヒト 痘瘡(とうそう)(=天然痘) ★ラテン語のvarius(=various)より(病態がさまざまだから?)-olaは縮小名詞(→caveola)

Monkeypox virus 齧歯類(→サル) ヒトサル痘

Parapoxvirus(パラポックスウイルス属)

Pseudocowpox virus ウシ 搾乳者結節

Molluscipoxvirus(モラシポックスウイルス属)

Molluscum contagiosum virus ヒト 伝染性軟属腫(みずいぼ) ★molluscは「軟体動物」、contagiousは「伝染性の」、umはラテン語の語尾。

Herpesviridae(ヘルペスウイルス科) ギリシャ語のherpes“匍匐(ほふく)する”に由来.神経走行に沿って発疹が出るところから命名. ★生体内での潜伏と再発が特徴。ヘルペスウイルスに一度感染すると、宿主の神経節やリンパ 節に潜伏し、免疫力が低下すると再活性化して感染する(回帰感染)。 Simplexvirus(単純ヘルペス属) ★ウイルスは発見順に番号がつくのが原則だが、左の表でなぜ数字がこの順番かというと, ・1~3でAlpha-herpesvirinae(→おもに神経細胞に感染), ・5~7でBeta-herpesvirinae(→おもにマクロファージに感染), ・4と8でGamma-herpesvirinae(→おもにB細胞に感染) でそれぞれ亜科を構成するから。 Human Herpesvirus 1 (HSV-1) ヒト 口唇ヘルペス,ヘルペス脳炎 ★三叉神経節に潜伏。いわゆる口内炎というごくありふれた症状の原因となるほか、単純ヘルペ ス脳炎という重篤な疾患(治療が遅れたら致命的)をも引き起こす。 Human Herpesvirus 2 (HSV-2) ヒト 性器ヘルペス,新生児ヘルペス 腰仙骨神経節(腰のあたりの神経の根元)の神経細胞にすみつく.妊娠後期に母親が初感染す ると、出産時に新生児が経産道感染する可能性が高くなる(だから,性器ヘルペスと新生児ヘル ペスがセット). Varicellovirus Human Herpesvirus 3 (VZV, varicella-zoster virus) ヒト 水痘varicella(水ぼうそう) 帯状疱疹zoster 帯状疱疹は、神経節にひそんでいた水ぼうそうウイルスが、免疫が弱った時などに神経に沿って 皮膚に表れ、強い痛みを伴う発疹を作る。 Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス属) ★細胞(cyto)、巨大な(megalo)から。細胞診をすると「多核巨細胞」「核内封入体」がみられる。後 者は病理実習で「フクロウの眼」と紹介された。 Human Herpesvirus 5 (HHV-5,HCMV) ヒト 間質性肝炎、先天性巨細胞封入 体症 プリントの肝炎はミスプリかと思うくらい肺炎の方がメジャー。ほかに伝染性単核球症を発症する ことも。 HHV-5と6は胎児期・幼児期に中枢に移行→てんかんの原因に?

(10)

Roseolovirus ★roseolaは「バラ疹」。

Human Herpesvirus 6 (HHV-6) ヒト 突発性発疹症

Human Herpesvirus 7 (HHV-7) ヒト 熱性発疹症

Lymphocryptovirus ★リンパ球(lymphocyte)に潜む(crypt)から。HHV-4とHHV-8はB細胞に潜伏。

Human Herpesvirus 4 (EBV, Epstein-Barr virus)

ヒト 伝染性単核球症、バーキットリン

パ腫

★バーキットリンパ腫は、B細胞由来の悪性リンパ腫。伝染性単核(球)症は、感染B細胞の排除 に伴う免疫反応の亢進。他に上咽頭がんの原因にもなる。

Rhadinovirus

Human Herpesvirus 8 (HHV-8) ヒト カポジ肉腫 KSHV:Kaposi's sarcoma-associated herpesvirusとも呼ぶ.カポジ肉腫はAIDSによる日和見感染 症の代表的なもの. Adenoviridae(アデノウイルス科) Adeno-は「腺」の意.アデノイド(咽頭扁桃)から分離されたのでこの名がある. Mastadenovirus Human adenovirus C ヒト 急性咽頭炎,小児腸重積症 プールを介して咽頭炎や結膜炎が出ることから、「プール熱」と呼ばれる。 小児腸重積症は多くが回腸が結腸にめり込んでしまった状態を言う.ウイルス感染が引き金とな り腸のリンパ組織が腫れたために起こるのではないかと言われている.発症後24時間以内に高 圧浣腸が必要. Human adenovirus D ヒト 流行性角結膜炎 流行性角結膜炎は「はやりめ」ともいう。 Human adenovirus F ヒト 乳幼児急性胃腸炎 Polyomaviridae(ポリオーマウイルス科) 多発性(poly)の腫瘍形成(oma)の意. Polyomavirus JC polyomavirus ヒト 進行性多巣性白質脳症 JCは最初に分離された患者のイニシャル.元来ヒトの腎臓に潜伏感染しており,これが生体防御 機能の低下で日和見感染症として顕在化すると考えられる.尿中に排出される. Papillomaviridae(パピローマウイルス科) 乳頭(papilla)形の腫瘍(oma)の意. Alphapapillomavirus Human papillomavirus 6 ヒト 尖圭コンジローム ★外陰部、肛門周囲に鶏冠状、カリフラワー状の疣贅(ゆうぜい、イボのこと)を生じる。 Human papillomavirus 16 ヒト 子宮頸癌 Human papillomavirus 18 ヒト 子宮頸癌 Betapapillomavirus Human papillomavirus 5 ヒト 疣贅状表皮発育異常症 疣贅状表皮発育異常症は30%が悪性腫瘍化するとされる. Gammapapillomavirus Human papillomavirus 4 ヒト 尋常性疣贅

(11)

The ssDNA viruses(一本鎖DNAウイルス) 科 属 種 自然宿主(媒介動物) 代表的な疾患 備考 Parvoviridae(パルボウイルス科) ラテン語のpurvus“小さい”に由来.一本鎖だけあってDNAウイルスの中で最も小さい.(←科学 的根拠はないよ) Erythrovirus(エリスロウイルス属) erythro-「赤い」(→erythrocyte 赤血球) Human parvovirus B19 ヒト 伝染性紅斑,関節炎 ★伝染性紅斑は「リンゴ病」とも。このウイルスとリウマチの関節炎の関連が疑われている。

The DNA and RNA reverse transcribing virus(DNA及びRNA逆転写ウイルス)

科 属 種 自然宿主(媒介動物) 代表的な疾患 備考

Hepadnaviridae(ヘパドナウイルス科) hepa(肝臓)で増えるDNAウイルスだから,hepa+dna=hepadna(ヘパドナ). (→hepatitis 肝炎)

Orthohepadnavirus Hepatitis B virus ヒト 急性肝炎,慢性肝炎,原発性肝 癌 いわゆるB型肝炎(A,B,Cの中で予後が最も悪い)を引き起こす。 新婚夫婦の一方がキャリアで,他方が「ハネムーン肝炎」を発病する場合あり. Retroviridae(レトロウイルス科) これは有名.retroは逆という意味で,この科のウイルスはセントラルドグマ(DNA→RNA→タンパ ク質)に逆行するRNAからDNAへの逆転写を行うことができる. Deltaretrovirus

Human T-lymphotropic virus 1 (HTLV-1) ヒト 成人T細胞白血病(ATL),痙性 (ケイセイ)脊髄麻痺 troph-は栄養、増殖の意(→atrophy 萎縮) 九州地方に見られる多くみられるウイルスで,母乳を介して乳児期に感染するが,ATL発病まで は50年近くかかる。このレトロウイルスに対する研究の蓄積があったので,九州の医学部,特に 熊本大学はAIDS研究に強い。 Lentivirus lentivirus亜科のウイルスはゆっくりと病気を引き起こすので,ラテン語lentus“ゆっくり”より,そう 名付けられた. Human immunodeficiency virus 1

(HIV-1)

ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)

ヒト 後天性免疫不全症候群(AIDS) 言わずと知れたAIDSの原因ウイルスHIVだが、1型と2型(こちらは感染力がより弱い)があること

を知っておきたい。 The dsRNA viruses(二本鎖RNAウイルス)

科 属 種 自然宿主(媒介動物) 代表的な疾患 備考

Reoviridae(レオウイルス科) reoはrespiratory enteric orphanvirusの頭文字で,「呼吸器と腸から分離される」の意の通り,感

冒や下痢の原因となる. Orbivirus ★orb(球)から。(→orbit 軌道) Kemerovo virus 不明(ダニ) 急性熱性疾患 Rotavirus Rotavirus A ヒト 小児下痢症,胃腸炎 小児下痢症のほぼ半数はロタウイルスが原因とされる. ★rotaは車輪の意(→rotation)。電顕像だと実際に車輪のようにみえる。

Coltivirus ★皮質corti-ではなく、colorad tickの短縮形。

Colorado tick fever virus 不明(ダニ) 急性熱性疾患,出血熱 Seadornavirus

(12)

The negative stranded ssRNA viruses(マイナス一本鎖(=mRNAに相補的な配列)RNAウイルス) 科 属 種 自然宿主(媒介動物) 代表的な疾患 備考 Rhabdoviridae(ラブドウイルス科) Rhabdoはrabdos“棒状の”の意(英語のrodの語源)。弾丸のような形をしたウイルス。 Lyssavirus(リッサウイルス属) Rabies virus(狂犬病ウイルス) コウモリ 狂犬病 ★コウモリや犬など多数の動物がキャリア。咬傷から感染し、末梢神経から上行して中枢に至る と、広範な脳炎を引き起こす。 Filoviridae(フィロウイルス科) filo-は“糸状の”の意.(→filament) Marburgvirus

Lake Victoria marburgvirus 不明 マールブルグ出血熱 一類感染症(感染症新法で定められた一番ヤバいグループ).ドイツのマールブルグでウガンダ

から輸入したアフリカミドリザルの腎臓の培養を行った人間の間で1次・2次感染が起こったので この名がある.

Ebolavirus

Zaire ebolavirus 不明 エボラ出血熱 一類感染症.Ebolaは流行地のザイールを流れる川の名前.スーダンでも見つかっており,Ebola

Sudan virusとEbola Zaire virusがある.

Paramyxoviridae(パラミクソウイルス科) myxoはmucus(粘液)の意で,このウイルスが粘液によく含まれるムコ蛋白に親和性があるので名

付けられた.なお,para-はside(副)の意で,ortho-がstraightまたはcorrect(正)の意であり,ミク ソウイルスがパラとオルトに分かれた.そんなわけで,両者はそう言われてみれば喉(=粘膜!) が最初におかしくなるウイルスが多いね.

Rubulavirus(ルブラウイルス属) ★rubi, rubellaはラテン語のruber「赤い」からで、発疹の色からきている。(→ruby)

Mumps virus ヒト 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ) おたふくかぜ自体は小児期の感染なら多くの場合問題ないが,合併症として、思春期の感染で 男性の3割に睾丸炎・副睾丸炎を起こすこと,小児・成人を問わず感染後1000分の1近い頻度で ムンプス難聴と呼ばれる治療不能の難聴(多くの場合片耳)を起こすことは知っておきたい. Human parainfluenzavirus 2 ヒト かぜ症候群 Respirovirus(レスピロウイルス属) Human parainfluenzavirus 1 ヒト かぜ症候群 Henipavirus(ヘニパウイルス属) Hendra virus コウモリ(→ウマ) 急性熱性疾患

Nipah virus コウモリ(→ブタ) 脳炎 Nipahは患者の出身地であったマレーシアの一村名.

Morbillivirus(モルビリウイルス属) ★ラテン語のmorbusは「病気」、moriは「死」。途上国では麻疹での死亡者は結構多い。

Measles virus(麻疹ウイルス) ヒト(←ウシ) 麻疹,亜急性硬化性全脳 ★「麻疹(ましん)」は、いわゆる「はしか」。普通は小児疾患だが、2007年には国内で予防接種を

していない10-20歳台の若年層に大流行した。

Pneumovirus(ニューモウイルス属) ★Pneumo-は「肺の」の意(→pneumonitis 肺炎)

Human respiratory syncytial (RS) virus ヒト 乳幼児肺炎,かぜ症候群 ★syncytium「合胞体」より。

6ヶ月以下の乳児の風邪の50%以上がこのウイルスに起因.特に早産児は重症化しやすく(肺 の未成熟,母親からの抗体移行が不十分),反復性ぜん鳴や喘息の原因となるので抗体パリビ ズマブ(商品名シナジス)を予め投与して重症化を防ぐ(現役医でも知らない人が多いことが問 題となっている話なので是非覚えておきたい!).

(13)

Orthomyxoviridae(オルトミクソウイルス科) 上でパラミクソと似ていると書いたが,増殖機構だけは全く違って,インフルエンザはウイルス RNAの複製・転写を宿主細胞の核内で行う(他のRNAウイルスはレトロウイルスを除き細胞質で 行う).

Influenzavirus A ★イタリア語influentia coeli「天の影響」から。冬に流行するからこう呼ばれていた。

Influenza A virus ヒト,鳥類など A型インフルエンザ インフルエンザでは小児や高齢者が細菌の重複感染による複合型の肺炎を起こすことがあり, 注意を要する. Influenzavirus B Influenza B virus ヒト B型インフルエンザ Influenzavirus C Influenza C virus ヒト かぜ症候群 高熱と鼻水が特徴. Bunyaviridae(ブニヤウイルス科) 左にあるBunyamwera(ウイルスの見つかったアフリカのウガンダの地方名)が短縮されて命名。 Orthobunyavirus(オルトブニヤウイルス属) Bunyamwera virus 不明(蚊) 急性熱性疾患

California encephalitis virus 不明(蚊) 脳炎 Hantavirus(ハンタウイルス属)

Hantaan virus(ハンターンウイルス) 齧歯類 腎症候性出血熱 韓国型出血熱(朝鮮戦争時にアメリカ人兵士の間に蔓延,実験施設が拙かった時代にマウス実

験者の間にも蔓延).宿主のネズミがハンターン河で見つかったのでこう呼ぶ.

Andes virus 齧歯類 急性熱性疾患

Sin Nombre virus(シンノンブレウイルス) 齧歯類 ハンタウイルス肺症候群 Sin Nombre(シン ノンブル)はスペイン語でno nameの意味。

Seoul virus(ソウルウイルス) 齧歯類 腎症候性出血熱

Nairovirus(ナイロウイルス属)

Crimean-Congo hemorrhagic fever virus (クリミア・コンゴ出血熱ウイルス)

ウシ,ヒツジ(ダニ) クリミア・コンゴ出血熱 一類感染症

Phlebovirus(フレボウイルス属) ★phleb-は静脈の意。(→phlebotomy 瀉血)

Rift Valley fever virus (リフトバレー熱ウイルス)

齧歯類(蚊) 急性出血熱,脳炎 アカイエカが媒介しヒツジ,ヤギ,ウシ,ヒトの間で流行.

Sandfly fever Naples virus (スナバエ熱ナプレスウイルス) 不明(スナバエ) 急性熱性疾患 スナバエは蚊よりも小さい吸血蝿で網戸もくぐり抜ける.昔はスナバエ熱を「地中海熱」といったよ うに地中海や中近東の乾燥した砂地にいる.なおNaplesはナポリのこと。 Arenaviridae(アレナウイルス科) arenaは“砂”の意で,ウイルス粒子内のリボソームが砂のように見えるのでこう名付けられた.この 科の多くが病原性がないが,右のウイルスはしゃれにならない出血熱を起こすので「アレな」ウイ ルスとでも覚えておこう. Arenavirus(アレナウイルス属) Lassa virus 齧歯類 ラッサ出血熱 一類感染症。西アフリカの地名から。 Junin virus 齧歯類 アルゼンチン出血熱 ★「フニン」はアルゼンチンの地名。 Machupo virus 齧歯類 ボリビア出血熱 ★「マチュポ」はボリビアの地名。

(14)

The positive stranded ssRNA viruses(プラス一本鎖(=mRNAとして機能できる配列)RNAウイルス)

科 属 種 自然宿主(媒介動物) 代表的な疾患 備考

Picornaviridae(ピコルナウイルス科) pico“小さな”,RNAウイルスなので,pico+rna=picorna(ピコルナ)ウイルス.

Enterovirus(エンテロウイルス属) ギリシャ語enteron“腸管”に由来(→enteritis 腸炎).腸管での増殖を見せるから.

Poliovirus ヒト 急性灰白髄炎(ポリオ,小児まひ) ★polios “grey” + myelos “marrow” + -itis "inflammation" より。脊髄前角細胞の傷害で運動麻 痺が出る。

Human enterovirus A ヒト 手足口病,ヘルパンギーナ ・手足口病→手足口に水疱疹がでる。

・ヘルパンギーナ→口蓋~咽頭部にアフタ。

Herpanginaは(おそらく)herpes+angina から。(→Angina pectralis 狭心症)

Human enterovirus B ヒト 心筋心膜炎,無菌性髄膜炎 ★髄膜炎症状が出ているのに、原因菌がみつからないとき、ウイルス性の髄膜炎(≒無菌性髄 膜炎)をうたがう。 Human enterovirus C ヒト かぜ症候群 Human enterovirus D ヒト 出血性結膜炎 Rhinovirus(ライノウイルス属) ギリシャ語のrhinos“鼻”に由来.いわゆる「鼻かぜ」を起こすから. ★rhinoは動物の「サイ」の意味でもある。かぜ症候群の原因微生物で最大の割合(30%-40%) を占める。 Human rhinovirus A ヒト かぜ症候群 Human rhinovirus B ヒト かぜ症候群 Hepatovirus(ヘパトウイルス属)

Hepatitis A virus ヒト 急性肝炎 A型肝炎ウイルスは昔はエンテロウイルス72と分類されていた(くらいなので,当然エンテロウイル

スと同じピコルナウイルス科).

Parechovirus ★par(同等の)+echo(enteric cytopathic human orphan)より。

Human parechovirus ヒト 小児下痢症 Kobuvirus ★日本語の「コブ」より。 Aichivirus ヒト 急性胃腸炎 Caliciviridae(カリシウイルス科) ラテン語のcalix“コップ”に由来.蛋白質の殻(カプシド)を作るカプソメアに凹みがあるのでこの 名が付いた. Norovirus(ノロウイルス属)

Norwalk virus ヒト 急性胃腸炎 オハイオ州Norwalk市で発見されたのでNorwalk virusという.

★牡蠣などに含まれる。ウイルス性食中毒の原因のほとんどはノロウイルス。 Sapovirus

Sapporo virus ヒト 急性胃腸炎

Hepevirus ★hepatitis Eより。

Hepatitis E virus 哺乳動物(イノシシ, シカなど) 急性肝炎 E型肝炎ウイルスはかつて分類されていたカリシウイルス科から除外され,未分類となった. Astroviridae(アストロウイルス科) astron“星”より命名.5,6個の尖頭を持った星状構造をしている.(→astronaut) Mamastrovirus Human astrovirus ヒト 小児下痢症

(15)

Coronaviridae(コロナウイルス科) corona“王冠”に由来.エンベロープ(一番外側の殻)の突起(ペプロマー)が花びら状に見える ことからこの名がある.

★かぜ症候群の10%(2位)を占める。2003年に原因ウイルスが同定されたSARSは、新型のコロ ナウイルス。

Coronavirus

Human coronavirus 229E ヒト かぜ症候群

Human enteric coronavirus ヒト 下痢症

Severe acute respiratory syndrome coronavirus

コウモリ 重症急性呼吸器症候群(SARS) SARSは38度以上の高熱と,咳嗽(がいそうと読む,「せき」のこと),呼吸困難,低酸素血症,肺炎

を特徴とし,統計上の死亡率は9.4%(実際には14~15%に達すると推測される).

Flaviviridae(フラビウイルス科) この科の代表的ウイルスに黄熱ウイルスがあり,そのラテン語名中のflavus“黄色”に由来.(→

Flavivirus

Yellow fever virus(黄熱ウイルス) サル(蚊) 黄熱病 野口英世が黄熱病の病原体を光学顕微鏡で発見可能なスピロヘータ(らせん菌の一種)と思い

込んで研究し,失敗した(実はウイルスだった)のはあまりに有名な話. Dengue virus(デングウイルス) ヒト(蚊) デング熱,デング出血熱 温暖化の進行によるネッタイシマカ(ベクター)の生息域拡大,都市化による越冬場所の確保に より,熱帯と温帯の境目地域,例えば台湾で感染の拡大が問題となっている.デング熱自体は 一過性の疾患だが,何度も感染すると危険なデング出血熱に進行する可能性が高まるので (はっきりしないが免疫複合体病であるためと言われている),ベクターが常にいる状況は危険な 環境と言える.

Japanese encephalitis virus (日本脳炎ウイルス) 鳥類,ブタ(蚊) 脳炎 副作用(急性散在性脳脊髄炎(ADEM,アデム))を考慮して2005年5月末日時点で日本脳炎 ワクチンの積極的勧奨が控えられたため,免疫のために十分とされる計3回の接種をうけていな い子どもが出てきている.一方,感染源であるウイルス感染しているブタは多数存在しているの で,ウイルスを持ったコガタアカイエカ(ベクター)も一定数はいるはずで,今後の発症件数の増 加が懸念される.

West Nile virus(西ナイル熱ウイルス) 鳥類(蚊) 脳炎 西ナイル熱ウイルスはアメリカで鳥類に広がり,その鳥類から血を吸った蚊によりヒトに感染が広

がっており問題となっている(2005年に3000人が発症,死者119人).もっとも,キャリアの発症率 は20%と高くはない.

Omsk hemorrhagic fever virus 齧歯類(ダニ) 急性出血熱 ★「オムスク出血熱ウイルス」。オムスクはシベリアの都市名。

Tick-borne encephalitis virus 不明(ダニ) 脳炎 ★「ダニ媒介性脳炎ウイルス」。 tickは「ダニ」、borneはbearのp.p.で「媒介する」。

Hepacivirus ★hepatitis Cより。 Hepatitis C virus ヒト 慢性肝炎,原発性肝癌 日本人の3%がキャリア.汚染されたフィブリノゲン(血液製剤)を用いての感染があったために 薬害として問題となったことは記憶に新しい. Togaviridae(トガウイルス科) Alphavirus ラテン語toga“外套”に由来.エンベロープを有するウイルスなのでこの名がある. Chikungunya virus(チクングニヤウイルス)不明(蚊) 急性熱性疾患 Eastern equine encephalitis virus

(東部ウマ脳炎ウイルス)

鳥類,齧歯類(蚊) 脳炎

Venezuelan equine encephalitis virus (ベネズエラウマ脳炎ウイルス)

不明(蚊) 脳炎

Ross River virus 鳥類(蚊) 急性熱性疾患,発疹,関節痛

Rubivirus(ルビウイルス属) ★rubi, rubellaはラテン語のruber「赤い」からで、発疹の色からきている。(→ruby)

Rubella virus(風疹ウイルス) ヒト 風疹 症状はふつう3日ほどでおさまるから「3日ばしか」ともいわれる。 ヒトの間で水平感染,並びに垂 直感染(経胎盤感染)する.疾患自体は軽症だが,妊娠初期に母親が感染すると胎児に極めて 高い奇形発生率(妊娠1カ月目で60%),死亡率(重大な奇形が出なくても出生1年以内に20%が 死亡)をもたらす(先天性風疹症候群).このため女性は予防接種を受けておくことが欠かせな い. これら脳炎ウイルスは鳥類と蚊の間で感染環を形成していたものが,蚊を介してヒトに感染したも の.

参照

関連したドキュメント

tiSOneと共にcOrtisODeを検出したことは,恰も 血漿中に少なくともこの場合COTtisOIleの即行

しかし何かを不思議だと思うことは勉強をする最も良い動機だと思うので,興味を 持たれた方は以下の文献リストなどを参考に各自理解を深められたい.少しだけ案

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

子どもが、例えば、あるものを作りたい、という願いを形成し実現しようとする。子どもは、そ

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

えて リア 会を設 したのです そして、 リア で 会を開 して、そこに 者を 込 ような仕 けをしました そして 会を必 開 して、オブザーバーにも必 の けをし ます

個別の事情等もあり提出を断念したケースがある。また、提案書を提出はしたものの、ニ

平成 29 年度は久しぶりに多くの理事に新しく着任してい ただきました。新しい理事体制になり、当団体も中間支援団