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車両の損傷事故・盗難事故において裁判所が求める立証事実

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<論 文> ●アブストラクト   車両保険において,車両の損傷事故・盗難事故の立証に関しては,間 接事実の積み重ねで判断するほかはなく,ⅰ事故の客観的状況,ⅱ被保 険者等の事故発生前後の行動,ⅲ被保険者等の属性・動機等,ⅳ保険契 約に関する事情に大別して,主要な下級審判決を概観し,立証すべき事 実について検討した。   立証事実として,損傷事故においては,ⅰについて,車両の状況・損 傷,現場の状況等が,ⅱについて,事故発見時の状況,被保険者・関 係者の供述等が,ⅲについて,事故歴・保険金の受領歴,経済状況等 が,ⅳについて,保険契約の内容等がある。盗難事故においては,ⅰに ついて,盗難の状況,事故現場の状況,鍵の保管状況等が,ⅱについて, 供述の信用性,被保険者等の供述,被保険者等の行動等が,ⅲについて, 事故当時の経済状況,偽装経験・保険金受領の有無,偽装動機等が,ⅳ について,保険契約の内容等がある。 ●キーワード   車両保険,損傷事故・盗難事故,立証すべき事実 目  次 1 .はじめに

車両の損傷事故・盗難事故において

裁判所が求める立証事実     

岡 田 豊 基

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2 .商法・保険法の規定と約款規定 3 .最高裁判決 4 .主な裁判例の概観 5 .車両の損傷事故および盗難事故において立証すべき事実 6 .おわりにかえて 1 .はじめに  拙稿において,火災保険,オール・リスク保険および傷害保険に関して 検討しているように1),損害保険会社の扱う保険契約における保険事故の 立証責任について,最高裁の判断が下されている。自動車保険に関して は,【Ⅰ】最判平成 18 年 6 月 1 日2)(車両の水没),【Ⅱ】同平成 18 年 6 月 6 日3)(車両の損傷),【Ⅲ】同平成 19 年 4 月 17 日4)および【Ⅳ】同平成 19 年 4 月 23 日5)(車両の盗難)で判示され,最高裁の立場は明確になってい るが,学説上,批判がみられるなど,必ずしも受け入れられているとは いえず,また,【Ⅳ】以降,数多くの下級審判決が示されている。そこで, 本稿において,車両保険における保険事故の仮装が問題とされる車両の人 為的損傷および盗難に焦点を当て,保険事故に関して立証すべき事実につ いて,最高裁の立場を改めて検討し,4 判決以後に判示された主要な下級 審判決を検討していく。 1) 岡田豊基「火災保険における保険事故の立証責任」神戸学院法学 37 巻 3・ 4 号 223-264 頁(2008),「オール・リスク保険における保険事故の立証責任」 同 38 巻1号 57-128 頁(2008),「傷害保険における事故の外来性の意義と 立証責任」同 45 巻 2・3 号 189-256 頁(2015)。 2) 民集 60 巻 5 号 1887 頁。判批については,岡田「火災保険」前掲注 1) 224 頁注 4)を参照。 3) 判時 1943 号 14 頁(2006)。判批については,岡田「火災保険」前掲注 1) 225 頁注 5)を参照。 4) 民集 61 巻 3 号 1026 頁。判批については,岡田「火災保険」前掲注 1) 225 頁注 6)を参照。 5) 判時 1970 号 106 頁(2007)。判批については,岡田「火災保険」前掲注 1)225 頁注 7)を参照。

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2 .商法・保険法の規定と約款規定  最高裁の事案では,保険法制定前商法(以下,「商法」という)629 条・ 641 条を対象としており,保険法 2 条 1 号・6 号および 17 条 1 項がこれら に該当する。  約款では,保険金支払条項として,車両保険契約では,「当会社は,衝 突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,盗難,台 風,こう水,高潮その他偶然な事故によって保険証券記載の自動車」(被 保険自動車)「に生じた損害に対して,この車両条項および一般条項に従 い,被保険自動車の所有者」(被保険者)「に保険金を支払います。」(【Ⅰ】), 自動車管理者賠償責任保険契約では,「当会社は,偶発的な事故により被 保険者が管理する他人の自動車を,自動車が保険証券記載の保管施設内に 保管されている間に損壊し,または紛失,盗取もしくは詐取されたことに より,自動車について正当な権利を有する者に対し,被保険者が法律上の 賠償責任を負担することによって被る損害をてん補する」(【Ⅰ】),故意 免責条項として,当会社は,「保険契約者,被保険者または保険金の受取 人」等の「故意または重大な過失」「によって生じた損害に対しては,保 険金を支払いません。」(T社(総合自動車保険))と定めるのが一般的で ある。 3 .最高裁判決 ⑴ 車両の水没・損傷 【Ⅰ】最判平成 18 年 6 月 1 日 <判旨>一部破棄差戻,一部却下。  商法 629 条は「損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかど うか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補すること を約束するものであり,保険契約成立時において保険事故が発生すること 又は発生しないことが確定している場合には,保険契約が成立しないとい

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うことを明らかにし」ている。641 条は「保険契約者又は被保険者が故意 又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨 げる免責事由として規定し」ている。  約款条項は「保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべて 保険事故とすることを分かりやすく例示して明らかにしたもので,商法 629 条にいう『偶然ナル一定ノ事故』を本件保険契約に即して規定したも の」である。本件条項にいう『偶然な事故』は,商法にいう『偶然ナル』 事故とは異なり,「保険事故の発生時において事故が被保険者の意思に基 づかないこと(保険事故の偶発性)をいうもの」ではない。  「したがって,車両の水没が保険事故に該当するとして本件条項に基づ いて車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基 づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない」。 【Ⅱ】最判平成 18 年 6 月 6 日 <判旨>一部破棄差戻,一部却下。  商法 629 条・641 条および約款条項の解釈は,【Ⅰ】と同じ立場にある。 車両に「傷が付けられたことが保険事故に該当するとして本件条項に基づ いて車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基 づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない」。 ⑵ 車両の盗難 【Ⅲ】最判平成 19 年 4 月 17 日 <判旨>破棄差戻。  商法 629 条,641 条の解釈は,【Ⅰ】【Ⅱ】と同じ立場にある。  保険金支払条項は「保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故 を『被保険自動車の盗難』も含めてすべて保険事故とすることを明らかに したもので,商法 629 条にいう『偶然ナル一定ノ事故』を本件保険契約に 即して規定したもの」である。故意免責条項は「保険契約者,被保険者等

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が故意によって保険事故を発生させたことを,同法 641 条と同様に免責事 由として規定したもの」である(【Ⅰ】【Ⅱ】参照)。「『被保険自動車の盗 難』についても他の保険事故と同じく」故意免責条項が適用され,保険金 支払条項で「『被保険自動車の盗難』が他の保険事故と区別して記載され ているのは,本件約款が保険事故として『被保険自動車の盗難』を含むも のであることを保険契約者や被保険者に対して明確にする」ものである。  「盗難とは,占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転」と解 される,「盗難という保険事故が保険契約者,被保険者等の意思に基づい て発生したことは」「免責条項により「保険者において免責事由として主 張,立証すべき事項であるから」,保険金支払を請求する者は「『被保険者 以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち 去ったこと』という外形的な事実を主張,立証すれば足り」る。 【Ⅳ】最判平成 19 年 4 月 23 日 <判旨>破棄差戻。  商法 629 条・641 条の解釈は,【Ⅰ】【Ⅱ】【Ⅲ】と同じ立場にある。  保険金支払条項は「保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故 を『被保険自動車の盗難』も含めてすべて保険事故とすることを明らかに したもので,商法 629 条にいう『偶然ナル一定ノ事故』を本件保険契約に 即して規定したもの」である。「保険事故を,商法の上記規定にいう『偶 然ナル』事故とは異なり,保険事故の発生時において被保険者の意思に基 づかない事故であること(保険事故の偶発性)をいうものと解することは できない」(【Ⅰ】【Ⅱ】参照)。  盗難の意義について,および,盗難が免責事由に該当することの立証責 任を負うのは保険者であることについて,【Ⅲ】と同じ立場である。しか し,立証責任の分配によっても,「保険金請求者は,『被保険者以外の者が 被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと』 という盗難の外形的な事実を主張,立証する責任を免れ」ない。「外形的

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な事実は,『被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張す る所在場所に置かれていたこと』及び『被保険者以外の者がその場所から 被保険自動車を持ち去ったこと』という事実から構成される」。  「保険金請求者は,盗難という保険事故の発生としてその外形的な事実 を立証しなければならない」が,「『矛盾のない状況』を立証するだけでは, 盗難の外形的な事実を合理的な疑いを超える程度にまで立証したことにな らない」。「盗難の外形的な事実,すなわち『被保険者の占有に係る被保険 自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと』及び『被 保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと』が証明さ れたものといえるのか」等について審理を尽くさせるため,原審に差し戻 す。 ⑶ 最高裁判決の解釈  【Ⅰ】【Ⅱ】は,衝突,接触その他偶然な事故等について保険金の支払を 請求する場合,保険金請求者は,保険事故の偶発性(保険事故の発生が被 保険者の意思に基づかないものであること)についての立証責任を負わな いとした。したがって,保険金請求者は被保険自動車が損壊したことにつ いて立証責任を負うにとどまり,保険者が免責事由として保険契約者また は被保険者の故意を主張立証することになる。【Ⅲ】は,盗難について保 険金の支払を請求する場合,保険金請求者は,被保険者以外の者が被保険 者の占有に係る被保険自動車を所在場所から持ち去ったという盗難の外形 的事実について立証責任を負うが,持ち去りが被保険者の意思に基づかな いことについて立証責任を負わないとした。【Ⅳ】は,同旨の判示をした 上で,盗難の外形的事実は,①被保険自動車が保険金請求者の主張する場 所に置かれていたこと,②被保険者以外の者がその場所から被保険自動車 を持ち去ったことという事実から構成されるとし,盗難の外形的事実につ いて,外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況 を立証するだけでは,盗難の外形的事実を合理的な疑いを超える程度にま

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で立証することにはならず,原審に差し戻すに当たり,盗難の外形的事実 を構成する 2 つの事実が証明されたものといえるのかなどの審理を求めて いる。  なお,学説においては,車両保険の保険金請求者は,事故の偶然性の主 張立証責任を負わないとする見解6)が多数である。 4 .主な裁判例の概観7)  前述のように,損傷事故において,保険金請求者は保険事故の発生が被 保険者の意思に基づかないことの立証責任を負わないと最高裁が判示した ことから,保険者が免責事由として保険契約者または被保険者の故意を立 証することになる(【Ⅰ】【Ⅱ】)。そして,盗難事故において,盗難の外形 的事実を構成する 2 つの事実,①車両が保険金請求者の主張する場所に置 かれていたこと,②被保険者以外の者がその場所から車両を持ち去ったこ とが証明される必要があると判示した(【Ⅲ】【Ⅳ】)。最高裁がこのような 基準を示した結果,下級審はこれらの基準に従って具体的な立証事実を示 し,各事案について判断を下すことになる。そこで,下級審の主な裁判例 を損傷事故および盗難事故という事故類型別に概観し,これらの裁判例が 最高裁の示した基準に従い,どのような具体的な立証事実を示し,判断を 下しているかについて検討する。裁判例は,最高裁の判決以後のものを対 象とすることとし,車両の損傷(水没を含む)事案については平成 18 年 6 月以降のもの,盗難事案については平成 19 年 4 月以降のものとする。 6) 山下友信『保険法』359 頁(有斐閣・2005),江頭憲治郎『商取引法〔第六版〕』 451-452 頁(弘文堂・2010),笹本幸祐・私法判例リマークス 32 号 103 頁など。 7) 平成 18 年から平成 21 年までの裁判例については,齊藤聡「車両保険に 基づく保険金請求権について」判タ 1382 号 19 頁(2013)を参照。

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⑴ 車両の損傷 【 1 】東京地判平成 19 年 1 月 30 日8)(棄却)  ①駐車場・損傷:国道に面し,人車の通行量は多く,目撃・通報の可能 性があり,時間・労力・慎重さが必要で,大きな音が発生することか ら,駐車場外での偽装事故である。  ②動機:過去,同じ犯行につき保険金を収受し,収入に比して出費が多 く,車両ローンも未完済で,駐車場には警備員がおらず,全面塗装を 目的として損傷させた。  ③供述の信用性:保険代理店担当者の証言も,口裏合わせの疑念あり。 【 2 】東京地判平成 19 年 1 月 31 日9)(認容。【Ⅰ】を引用)  ①損傷の状況・種類:凶器の種類,形状,硬度,行為者の人数が不明で, 同一犯が同一時期につけた傷である。  ②現場の状況:犯行は深夜に短時間で行われ,犯行音も凶器の形状や硬 度等で異なり,音で犯行が露見する可能性は低い。  ③犯人像の想定:悪戯か被保険者や車両に対する恨みが想定できる。  ④動機:車両を愛用し,塗装はオリジナルがよいとしていることから, オリジナル性が失われても,全塗装するため,傷をつけるまでの動機 はない。  ⑤事故後の行動:傷をつけられた者の行動として不合理ではない。 【 3 】東京地判平成 19 年 2 月 27 日10)(一部認容)  ①損傷:塗装修理が必要な部分が傷つけられ,偶然では説明が困難であ る。  ②事故の時期と駐車状況:損傷は時間を要するから,第三者が自宅横で 8) WestlawJapan文献番号 2007WLJPCA01308013。 9) WestlawJapan文献番号 2007WLJPCA01308023。 10) WestlawJapan文献番号 2007WLJPCA02278021。

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損傷できず,被保険者が惹起した可能性があるが,人通りの少ない場 所に駐車され,時間を掛けて損傷させた可能性もある,事故と契約締 結の時期が近接しているだけでは,被保険者が惹起したと推認できな い。  ③供述の変遷:発見時の状況につき,被保険者の訴訟前の供述と訴訟時 の陳述は異なるが,供述の変遷は記憶が不十分さによる,発見後の説 明を重視すべきではない。  ④警察への届出:事故発見の 5 日後であり,遅れた理由も合理的ではな い。  ⑤資力:資力が十分な父と同居し,修理費を確保でき,事故惹起の動機 に乏しい。 【 4 】東京地判平成 19 年 4 月 20 日11)(棄却)  ①被保険者等の供述:関係者の保険会社への供述は他の関係者の供述と の整合性を図るため,運転者の駐車位置に関する供述は信用できず, 関係者の供述は不自然である。  ②損傷の状況・事故歴:広範囲にわたり,悪戯にしては不自然,修理に は全塗装が必要,過去,損傷につき保険金の支払を拒否され,修理は せず,売却している。 【 5 】東京地判平成 19 年 4 月 23 日12)(棄却)  ①現場の状況:事故を起こす状況を目撃される恐れがある。  ②事故前後の車両の状況:マンション前に駐車し,全周する傷で,全塗 装するために保険金詐取の動機がある,車両を見ていないとの証言が あり,他の場所で惹起された可能性がある,普段,空地にシートもか 11) 自保ジャーナル 1691 号 16 頁(2007)。保険会社の提訴した不当利得返還 請求を認容(原判決維持の控訴審判決)。 12) 自保ジャーナル 1709 号 15 頁(2007)。

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けずに駐車しており,惹起するつもりがあった。  ③事故発見時の状況・車両利用者(被保険者の実質的経営者)の供述: 足の後遺症があるため路上駐車したと説明しながら,ゴミの非収集日 に散歩がてら持参したとするが,ゴミ出し目的であれば,収集所側で ある左側面の傷に気づくはずであり,右側に回って発見したという行 動は不自然である。  ④保険金請求歴:2 件の請求歴があり,実質的経営者が第一発見者であ り,被害届を提出後,警察の捜査状況を尋ねていない。  ⑤車両利用者の状況:保険料は被保険者が負担,車両は実質的経営者が 趣味で使用。 【 6 】東京高判平成 21 年 11 月 25 日13)(一部変更。【Ⅳ】を引用(外形的 事実の定義))  ①損傷の外形的事実:損傷が人為的なものであること(個数・傷跡の形 状,道具を使用した等の間接事実から推認),第三者によること(損 傷の時刻,場所,要する時間,アリバイ等の間接事実から判断)で構 成される。  ②悪戯を判断する場合,被保険者の動機・事故後の態度・行動経過・属 性,契約の継続期間,第三者の犯行可能性等が基準となる:保険会社 が求めるまで警察に届け出ていないが,前回の事故では保険会社が事 故証明書の提出を求めなかったため,今回も警察への届出は不要と考 えたとしても不自然ではない,保険代理店に勤務する被保険者が失職 リスクを犯してまで保険金詐取を企図するとは考え難い,保険契約は 10 年以上にわたり更新され,疑問を持たれる保険事故はない,駐車 13) 判タ 1316 号 226 頁(2010)。判批として,𡈽岐孝宏・法学セミナー 666 号 121 頁(2010),李芝研・ジュリ 1425 号 120 頁(2011),高木宏行・法律 のひろば 65 巻 2 号 51 頁(2012),尾形洋・法律のひろば 65 巻 4 号 53 頁(2012)。 原審:東京地判平成 21 年 4 月 17 日判タ 1316 号 231 頁(2010)。

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場に駐車した経緯に不自然な点はない,窃盗目的でトランクを抉じ開 けようとした者が目的を遂げられずに損傷を加える可能性もある。 【 7 】東京地判平成 22 年 7 月 5 日14)(棄却)  ①第三者が他人に発見されずに事故を惹起する可能性:混雑し,警備員 も配置される中で,発見されずに,僅かの駐車時間で多数の傷を全体 に付けるのは容易でない。  ②事故発生時刻の不自然さ:被保険者の当初の主張と警察署への届出時 の内容は,事故発生時刻の供述に約 1 時間半のズレがある。  ③事故前後の行動の不自然さ(携帯電話の発信履歴を含む):量販店の 駐車場に戻った際,車体の反射する光の具合に違和感を覚えながらも, 状態を確認しておらず,対応としては不自然,全周の損傷をコンビニ 店近くで発見後も,量販店に引き返し,店員や警備員に問合せをする とか,警察署に届出をする等の対処はせず,修理工場に向かい修理を 依頼したとする行動は不自然。 【 8 】名古屋地判平成 22 年 12 月 27 日15)(棄却)  ①第三者による損傷:人為的な損傷が事故による可能性は否定できない。  ②損傷の場所:事故発生の日時・場所が特定できない。  ③被保険者の行動:事故直後の行動の不自然さ(被保険者の言う日時・ 場所で損傷に気が付いた者のとる行動としては不可解,不自然)。  ④損傷の程度:事故後に持ち込んだ時の損傷よりも,認定された損傷 が拡大している,自宅駐車場では,狭く人目がある中での 193cm の ルーフへの傷,パチンコ店駐車場では防犯カメラ,所有者がいつ戻る か,勤務先駐車場で勤務時間内での他人の出入等の困難さの中で,金 属で線状痕を残す等には,疑いが残る,損傷は全面に,鋭利で硬度の 14) 自保ジャーナル 1829 号 79 頁(2010)。 15) 自保ジャーナル 1841 号 73 頁(2011)。

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高い物体で塗装面以外の部品まで,万遍なく付けられた。  ⑤自動車販売員の証言:損傷確認の 2 日後,自動車販売店に車両を持ち 込んだ際,従業員が「傷は 3 本くらいあったかな?」という印象しか もたなかった。 【 9 】横浜地判平成 23 年 1 月 19 日16)(棄却)  ①目撃者:深夜,住宅地の駐車場で 3 人組がバールで破壊し,消火剤を 撒いたことに目撃者がいる。  ②損傷前の状況:事故前夜のトラブルで,3 人組が犯行道具を調達し, 深夜に戻って来たか疑わしい,被保険車両の購入価格(300 万円)と 保険金額(750 万円)とに差がある,保険契約の更新まで 1 ケ月余で 保険事故が発生している。  ③動機:事故時,本件車両を含む 3 台の車両につき保険金が支払われた が,被保険者は保険代理店に,「車両は売却も検討しているので,修 理せずに保険金をもらえないか」と打診している等からして,保険金 目的であったと認められる。  ④怨恨の有無:第三者の犯行は,怨恨でなければ合理的説明がつかない, 事故前夜のトラブルからは,損傷させるほど強い怨恨を生じさせる ものではなく,犯行道具を調達し戻ってくる動機はない,従業員との トラブルは半年前であり,長期間経過後に行為に及ぶことは考え難い, 怨恨による犯行では被保険者を畏怖させて恨みを晴らすことが目的で あるから,通常,継続的に脅迫行為があるか,怨恨の原因について示 唆する行為があるとすると,事故前後 1 ケ月内に脅迫されるなど不穏 なことはない。  ⑤車両の時価と保険金額の差異:1,000 万円の債務を有していながら, 750 万円で車両を購入すること自体,不自然。 16) 自保ジャーナル 1844 号 159 頁(2011)。

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  本判決は,目撃者はいるが,第三者によるとは断定できないとしてい る点に特色がある。 【10】千葉地判平成 23 年 3 月 29 日17)(棄却)  ①目的:犯行態様から,事故の犯人は怨恨目的であった。  ②動機:被保険者の会社は利益がなく,事故偽装の動機がないとはいえ ない,自宅から敷地までは車で 10 分~ 15 分の距離にあり,偽装する 障害はない。  ③事故状況の不自然性:高価なゴルフセット等を積載していながら施錠 せず,損傷事故のあった敷地は住宅街になく,本件建物も空き家であ り,不自然である,会社の機器等について 2 ケ月前に保険契約が締結 され,事故時に機器等が被害にあっているのも不自然である。  ④事故歴:事故の 10 ケ月前,敷地付近で車両損傷にあい,保険金を受 領しているが,事故調査時にこの事実を申告していない。  ⑤被保険者の供述:事故調査時の供述と本人尋問での供述とが異なって いる。 【11】名古屋地裁岡崎支判平成 23 年 11 月 24 日18)(棄却。【Ⅳ】を引用)   外形的事実は,人為的な損傷であること,損傷は第三者が行ったこと で構成され,後者については,損傷の時刻,場所,損傷に必要な時間お よび被保険者のアリバイの有無などの間接事実を立証すべきである。本 件では,①車両は無施錠であった,②無施錠で駐車しても,第三者が現 場で損傷を生じさせたとするには不合理,③暴走族を注意したとする時 期から時が経過しており,暴走族に追いかけられることはないし,暴走 族の構成員等の内容も不明,④車両の駐車方向等の主張が変遷し,代表 取締役である会社の経営状況・被保険者の申入れ内容等も考慮すると, 17) 自保ジャーナル 1847 号 146 頁(2011)。 18) WestlawJapan文献番号 2011WLJPCA11246016。

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被保険者の供述は信用できない。 【12】名古屋地裁岡崎支判平成 24 年 1 月 26 日19)(棄却。【Ⅳ】を引用)  ①供述の信憑性:駐車場所が事情聴取と尋問とで異なる,損傷発見の経 緯につき,供述が面談と陳述書・法廷とにおいて矛盾する,病院での 付添宿泊した事実はない。  ②駐車場の状況:第三者が駅前ロータリーで損傷を付すのは人目に付き 困難,被保険者宅の駐車場での空間では第三者が損傷を付すことが困 難である。  ③事故歴:二度の当て逃げについて保険金の支払対象とならず,間がな い日時で第三者が傷を付けたとしていること照らすと,第三者が損傷 を付したというのは不自然である。 【13】東京地判平成 24 年 3 月 27 日20)(棄却)  ①動機:事故時の事業所得は 3 年前の半分以下で,500 万円の借入の返 済も遅れがち,事故による損害額は主張による損害額を下回っており, 保険金が得られれば,経済的利益に結びつく,被保険者は車両を経済 的利益のために利用する意図であった,保管場所を駐車場としていた 被保険者の行動は故意を推認させる有力な事情である。  ②供述:第三者が事故を発生させたとすると,曖昧さ,変遷・食い違い がある。  ③被保険者の行動:車両の取得保有の状況,駐車場を選択した行動,車 両の代金や被害額の水増しがある。 19) 自保ジャーナル 1873 号 173 頁(2012)。 20) 判時 2158 号 132 頁(2012)。

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【14】東京地判平成 24 年 3 月 28 日21)(棄却)  ① 80 万円で購入した車両に 500 万円をかけて改造している。  ②悪戯傷での保険金受領歴がある被保険者が,人目に付きやすい駐車場 に,人目につきやすい車両を駐車する状況で,第三者が危険を冒して 行為に及んだことになり,特殊塗装での車両保険の契約締結,傷は全 体にあり,悪戯として不自然である。  ③全面に執拗に傷をつける行為:目立つ自動車への妬みによる悪戯とは 不自然であり,損傷は損傷を与えようとする明確な意思に基づく行為 による。  ④被保険者等の供述:駐車場に駐車しようと考えた経緯・理由が不自然 であり,ホームセンターにいたということも不審な点があり,信用し 難い。  ⑤被保険者の行動・供述:受傷後の修理に至る被保険者の行動が不自然 であり,事故当日等の行動に関する被保険者らの供述も信用し難い。   判断要素として,損傷の状況等,保険契約締結の経緯,被保険者等が 事故を招致する動機,被保険者等の供述の信用性がある。 【15】名古屋高判平成 24 年 5 月 29 日22)(棄却)  ①事故の状況:現場は住宅街を通過した被保険者の事務所兼工場近くの 空き地で,破壊音は工場騒音と類似し,違和感がない,道具を用意 していたと推認され,空き地は工場や竹藪等が混在する住宅街にあり, 通行人が思いつきで事故を起こした可能性はない,犯人は損傷が目的 であったと認められる,暴走族が被保険者を恨んで事故を起こしたの は不自然(トラブルから数ケ月経過),リモコンキーを持たない第三 者がドアを開錠することは不可能である。 21) 自保ジャーナル 1884 号 157 頁(2012)。 22) 自保ジャーナル 1889 号 135 頁(2013)。原審:名古屋地裁岡崎支判平成 23 年 11 月 24 日自保ジャーナル 1889 号 147 頁(2013)。

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 ②車両価格・購入経過等:車両価格について,自社の会社決算と売主領 収書の金額が異なり,事故 2 日後の更新契約での車両保険金額が 200 万円減少している。  ③被保険者の属性・動機等:会社の経営状態の悪化等,保険金詐取の目 的で事故を生じさせる動機がある。  ④被保険者の事故時の行動:事故の時間帯の完全なアリバイが認められ ない。 【16】大阪地判平成 24 年 11 月 30 日23)(棄却)   車両購入と保険契約締結時のやりとり,管理状況と駐車場への入庫状 況,損傷,被保険者と保険会社のやりとり,修理状況等を検討している。  ①被保険者かこの者と意を通じた者以外の犯行の可能性:客観的状況等 に照らして,通行人や被保険者に恨みを持つ者が損傷させる可能性は 乏しい。  ②被保険者等動機等:事故時,車両は被保険者に必要な車ではなく,車 両を転売しても利益がある状況にないが,被保険者等が被保険者作成 の修理代金の見積書・領収証の通りの保険金を取得した場合には経済 的利益があった。  ③購入価格等の不自然さ:車両保険金額(715 万円)が車両購入価格 (533 万円)に比して高額である。  ④保険事故歴は 3 年余りの短い期間のうちに 3 度にも上る。 【17】大阪地判平成 25 年 1 月 28 日24)(棄却。【I】を引用)   被保険者が損傷を覚知した経緯について,提訴前後の陳述,本人尋問 の供述は変遷し,変遷は被保険者が損傷への関与を隠蔽しようとしたた めに生じたもの。 23) 判時 2177 号 123 頁(2013)。 24) 判時 2197 号 131 頁(2013)。

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  本判決は,被保険者の陳述等のみから故意免責を認めたものとして特 色があり。 【18】札幌地判平成 25 年 3 月 13 日25)(棄却)  ①自動車販売修理業者の所有車両の損傷:夜間でも人通りがあり,見通 しが良いにも関わらず,駐車場での損傷は執拗・徹底的なものであり, 相応の時間,労力を要し,騒音もあることから,第三者が公道に面し た被保険者の自宅前敷地内に侵入して行ったとするには,人目を避け つつ,早期に現場を離れることを重視する犯罪心理に照らして不自然 であり,供述の変遷,警察への無届け等から見て,損傷は,被保険者 のいう日時・場所で,第三者が行ったものとは言えない。  ②自動車管理者賠償責任保険に基づく預かり車両の損傷:フェンダー外 側の擦過痕・同アーチ最上部中央の凹みの損傷は,同外部構築物等に 対する接触・衝突による損傷であり,アーチの塗装剥離・錆の損傷は, タイヤとフェンダーとの干渉による損傷であるが,エアサスペンショ ン故障に伴う車高低下に起因する走行中にハンドルを切った場合の両 者の接触痕であるアーチ中央部の塑性変形を伴わないものであり,バ ンパーの割れ,擦過痕・塗装剥離・バンパー取付部の損傷は,車体が 段差に乗り上げた際の接触・衝突による損傷であり,発生時には,運 転者に感触・衝撃を伴うものであり,過去にも車高異常で使用してい ること等,損傷は搬送前に生じた。 【19】名古屋地裁一宮支判平成 25 年 3 月 29 日26)(棄却)   損傷等の状況,現場の位置・状況,車両の防犯装置・作動状況,被保 険者の事故後の行動・事故時の経済状況・保険金請求歴,事故の時期等 を検討している。 25) 自保ジャーナル 1898 号 170 頁(2013)。 26) 自保ジャーナル 1902 号 163 頁(2013)。

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 ①動機:3 台を所有する被保険者の防犯装置付き車両の状況をみると, ローンや保険料の支払を継続しているが,会社の経営状況が悪く,使 用していない本件車両が車検期間満了を迎え,車両新価保険特約の適 用期間の終了時期であったことからすれば,保険金で車両残ローンを 免れ,残額を現金で取得するか,新車を購入するにしても新車保険金 残額を現金で取得できたことから,保険金請求の動機がある。  ②供述:損傷状況や損傷時のアラームの作動状況,事故前後の行動等に 関して被保険者の供述は不合理である。 【20】名古屋地判平成 25 年 5 月 29 日27)(棄却)   現場・損傷の外形的客観的状況,損傷修理の見積り,損傷を発見した とされるコンビニエンスストアでの被保険者の状況があり,事故に関す る被保険者の説明・供述を検討している。  ①損傷:全周する傷は明確な意思に基づき,修繕費が保険金額 35 万円 に近い 332,955 円であり,保険で賄えるぎりぎりの損傷を加えた。駐 車位置が一段高い歩道の脇であったことから,歩道側の左側傷と車道 側にある右側・前後部の傷の高さが相当程度異なり,左側傷の位置が 他より高いはずであるが,高さに違いが見られず,事故が現場で発生 したとの被保険者の主張は外形的客観的状況等を検討しても不自然で ある。  ②事故前後の状況:遭遇した先輩と食事するために現場に駐車したとす るが,被保険者の車両であることを把握し,怨恨や腹いせ,妬み,嫌 がらせ等の目的で行ったとは考え難く,損傷は被保険者がいう状況に はない。  ③被保険者の供述・説明:本人尋問の供述と事故直後の保険会社代理人 への説明には,現場に行く前に友人に会ったか否かの他,先輩との付 27) 自保ジャーナル 1906 号 173 頁(2013)。

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き合いの度合や傷を発見した時期等,間違えるはずのない事実関係に ついて重大な齟齬があり,信用できない。 【21】名古屋高判平成 27 年 6 月 22 日28)(棄却)  ①現場は,通行人等に発見される可能性があり,使用者がいつ戻ってく るか分からない状況で,道具を使って多数の損傷を付けるといった時 間と労力がかかる犯行がなされたとは想定し難いこと等から,複数人 で道具を使って殴打して打痕等を付け,ミラーを折損し,全周に多数 の損傷を与える執拗な行為を短時間で行うことは,悪戯や怨恨目的と しても合目的的な行動ではなく,複数人による犯行とはいえない。  ② 2 年間に 4 回,車両保険金を受領していることは,統計的に特異であ り,保険金の不正取得の動機を否定できない,本件契約は,車両全損 (70%)特約・全損時諸費用倍額特約が付されており,全損の場合, 車両価格よりも相当多くの保険金を取得する保険なので,保険事故を 発生させ,保険金を取得する動機があった。  ③現場の状況,損傷状況,被保険者の事故後の行動,保険事故歴および 保険契約の特約付加の状況等を総合すれば,損傷は被保険者が故意に 生させたものと推認される。 【22】札幌高判平成 27 年 9 月 29 日29)(認容。原審取消)  ①損傷:全周に線状痕,窓ガラスとヘッドライトカバーに線状痕がある。  ②第三者による損傷:損傷場所は,スーパーの駐車場か自宅車庫内であ るが,前者は,スーパーの入口からの見通しを妨げるものがなく,全 周に傷を付けるためには,通路に出なければならず,第三者が損傷を 28) 自保ジャーナル 1953 号 163 頁(2015)。原審:名古屋地判平成 27 年 1 月 23 日自保 1953 号 169 頁。 29) 判時 2288 号 91 頁(2016)。梅村悠「判批」ジュリ 1508号 120頁(2017)。 原審:札幌地判平成 27 年 3 月 28 日判時 2288 号 97 頁(2016)。

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付けることは考え難い,後者で第三者が損傷させた可能性も否定され, 被保険者の損傷の発生場所・時期に関する供述が不自然,不合理に変 遷している(説明状況の変遷),直ちに警察に被害申告をする一方で, 被害届を提出しておらず,事故の対応として不自然(被害後の対応)。 【23】名古屋高判平成 28 年 6 月 24 日30)(棄却)  ①車両の状況:走行距離 22 万㎞の車両であることから,本件車両のみ 全周囲に傷を付ける程に,妬みや悪戯の対象にはなりえない。  ②事故・発生場所の状況:他の車両に悪戯被害が発生していないことも, 駐車場所付近が悪戯等をされやすい状況にはなかったことを裏付ける。  ③交際相手の保険金請求歴:従前,交際相手の車両が被保険者と外出時 に傷を付けられ,本件事故と同じ経過を主張して共済金等を受領して おり,本件事故でも,被保険者と出掛けて損傷を発見した。  ④交際相手:事故後,車両が交際相手の勤務先の従業員に売却され,残 ローンの返済,修理費等の支払資金が交際相手から被保険者の口座に 振り込まれ,交際相手は事故に深く関与しており,この者が被保険者 と全くの第三者とはいえない。 ⑵ 車両の盗難 【24】東京地判平成 19 年 7 月 24 日31)(棄却)  ①保険金請求者の信用性・動機:駐車場のシャッター前に駐車した理由 は信用性に疑問がある,駐車状況という重要な部分に供述の変遷があ り,2 台のうち盗難車両だけに車両保険が付されている。  ②事故前後の状況:鍵の管理状況等の供述は不自然,盗難届の提出だけ では盗難の事実が認められない。 30) 自保ジャーナル 1980 号 167 頁(2016)。原審:名古屋地判平成 28 年 1 月 22 日自保ジャーナル 1968 号 172 頁(2016)。 31) WestlawJapan文献番号 2007WLJPCA07248013。

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 ③盗難の困難さ:盗難防止装置が装備され,純正鍵を使わずに移動する にはレッカー車を必要とするが,タイヤの引摺痕がなく,純正鍵が盗 まれた事実がない。 【25】東京高判平成 19 年 9 月 27 日32)(盗難・損傷)(棄却)  ①盗難の判断要素として,第三者の駐車に対する認識の程度,鍵の保管 状況,所有者の事故後の行動・交友関係・偽装経験の有無,事故発生 の徴表の自然さがある。  ②損傷の判断状況として,第三者の駐車に対する認識の程度,窃盗を達 成できない場合の犯人の行動,損傷の軽重,盗難事故を裏付けるため に損傷事故を仮装がある。 【26】東京地判平成 20 年 5 月 27 日33)(認容。【Ⅳ】を引用)  ①事故当時の被保険者の経済状況:赤字状態は保険金で改善されない, 車両の販売価格は事故を作出する必然性があったとはいえない程度。  ②保険会社の主張:盗難が少ない場所でもその可能性は否定できず,そ れ以外の事実関係の一致は盗難の実行を困難にはしない,保険会社の 主張は,被保険者が事故を作出したという事実と合理的には関連し ない事項であり(盗難を作出したとすれば,説明が困難になる関係に なく,盗難に関与していないとすれば,説明が円滑にできる関係にな い),故意招致の事実を推認する力を有しない。  ③関係者の供述の整合性:供述は食い違いがあるが,被保険者の説明に 沿っており,信憑性を疑う事情は認められず,事故を作出した事実は ない。 32) 判タ 1274 号 224 頁(2008)。石田満=遠山聡「判批」『保険判例 2010』84 頁(保険毎日新聞社・2010)。原審:横浜地判平成 19 年 1 月 18 日判タ 1274 号 233 頁(2008)。 33) WestlawJapan文献番号 2008WLJPCA05278011。

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【27】千葉地判平成 20 年 12 月 22 日34)(車載物の盗難・損傷)(棄却)  ①第三者が惹起した可能性:第三者が惹起したというには不自然(盗難 の上,損傷を加えている),駐車場周辺での類似事故の発生(盗難は あるが,損傷させる事故は珍しい)。  ②被保険者が惹起した可能性:経済的状況(「車両保険が下りないと残 債務整理ができない」)が動機になる,事故が駐車場で発生したと認 められない(発見される可能性が高く,従業員が気付かなかったの は不自然,被保険者の自動車修理工場内で惹起された可能性が高い), 被保険者の供述は,合理的に説明できない変遷があり,不自然不合理 な点が多く,信用性が低い,事故当日,車両を使用する目的,駐車し た日,被害の発見経緯,被害品に関する供述が曖昧。 【28】東京地判平成 21 年 5 月 28 日35)(認容。【Ⅲ】を引用)  ①証拠上認められる事実と被保険者の供述とに整合性がある。  ②被保険者・窃盗者の行動の不自然性:他車ナンバープレートが取り付 けられ,プレート所有者や車内の名刺は組織的犯罪団体の関係者であ ることから,窃盗者が団体関係者であった可能性もあり,窃取を企て, 実行に移した可能性がある。  ③盗難を偽装する動機:生活状況の余裕はないが,保険金を受領しても, ローン支払後の残額は少なく,過去,保険金が修理代金として直接修 理工場に支払われており,被保険者が資金を得た経験はなく,保険金 詐取を企図する十分な動機はない。   窃盗者が防犯ビデオに映っており,行動としては不自然,短時間に窃 盗を共謀したことも否定できず,保険金取得による利得は車両売却よ りも少額であり,動機が存在しないことから,窃盗者が被保険者の意 を受けて窃盗したとするには合理的な疑いが残る。 34) 判時 2057 号 142 頁(2015)。 35) WestlawJapan文献番号 2009WLJPCA05288024。

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【29】東京地判平成 22 年 4 月 28 日36)(棄却)   真正鍵の 1 本は被保険者が所持し,1 本は保管しており,窃取された ことがない,駐車時にドアロックがされていたという供述からして,第 三者が窃取する方法としては,真正鍵を使用せずにエンジンを始動させ て運転する方法か,レッカー車で吊り上げて搬出するか,積載車で荷台 に積載して搬出する方法があるが,いずれも困難である。   被保険者は,盗難日時につき,訴状,準備書面,被害届,陳述書,調 査員の事情聴取,尋問での主張等が食い違っている,困窮状態にあり, 日本司法支援センターから任意整理事件の援助決定を受けている,弁護 士が過払金があると説明したとの尋問の供述は採用できず,供述の通り, 過払金の返還を受けたとしても,経済的余裕がある心理状態ではなかっ た,車両には,時価を上回る保険金額が設定されていた,過去,盗難に 遭い,保険金を受領している。 【30】名古屋高判平成 27 年 5 月 18 日37)(損傷・車載物の盗難)(棄却)   被保険者は,車両が損傷し,盗難に遭っていることを仲間に連絡した 後,保険代理店に電話したが,警察に連絡したのは 2 時間後である。破 産手続開始申立書によれば,被保険者は支払不能に陥り,破産手続開始 を申し立て,給料のうちから別居中の妻子や両親に渡すなど,剰余のな い状態にあり,破産裁判所に,預貯金は 3,753 円である旨を申告したこ とからすれば,経済的に困窮し,保険金の不正請求を行う動機があった。  ①事故の経緯:路上駐車の経緯(現場は民家と集合住宅の間にあり,発 見・通報される危険は高い),損傷から推認される犯行態様(リアガ ラスと運転席横ガラスの全壊等多数ヶ所にある),窃盗の状況(盗難 にあったものは重くて嵩のあるもの,犯行時間は比較的長時間,破壊 36) WestlawJapan文献番号 2010WLJPCA04288032。 37) 自保ジャーナル 1955 号 118 頁(2015)。原審:名古屋地裁一宮支判平成 26 年 9 月 4 日自保ジャーナル 1955 号 125 頁(2015)。

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音も相当程度)から見る。  ②事故後の被保険者の対応:経済状況,修理相当額と損害額との差異か らして不正請求の動機があり,第三者が窃取した事実を認められず, 損傷も被保険者の意思による。 5 .車両の損傷事故および盗難事故において立証すべき事実  ⑴ はじめに  車両保険金の不正請求には,事故偽装型,事故便乗型等の態様がある が38),車両の損傷や盗難の発生ないしこれらに関する立証については,直 接これらを証明する証拠がある場合が少ないことから,多くの間接事実の 積み重ねにより判断するほかはないとされる。間接事実としては,車両の 損傷事故および盗難事故の立証について検討している研究によれば,ⅰ事 故の客観的状況,ⅱ被保険者等の事故発生前後の行動,ⅲ被保険者等の属 性(保険金受領歴・経済状況等)・動機等,ⅳ保険契約に関する事情等が 示されている39)。以下,車両の損傷および盗難について,この 4 つの類型 に基づき,立証すべき事実について具体的な内容を検討する。  ⑵ 車両の損傷  最高裁によれば,保険者が免責事由として,車両の損傷が保険契約者ま たは被保険者の故意によるものであることを立証することになり,事故の 外形的事実が合理的な疑いを超える程度にまで立証されなければならない ことになる。そして,外形的事実は,人為的な損傷であること,損傷は第 三者が行ったことで構成される。 38) 日本損害保険協会『わが国における保険金詐欺の実態と研究』71 頁(2008)。 39) 大阪民事実務研究会「保険金請求訴訟の研究」判夕 1161 号 18 頁・21 頁 (2004),損保協会・前掲注(38)71 頁,塩崎勤=山下丈=山野嘉朗編『専 門訴訟講座③保険関係訴訟』355 頁以下(牧元大介筆)・605 頁以下(田中 敦筆)(民事法研究会・2009)。

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ⅰ 事故の客観的状況  ①車両の状況・損傷:個数,傷跡の形状,凶器の種類・硬度,行為者 の人数がある(【 2 】【 6 】【14】)。塗装修理が必要な部分が損傷して いる(【 3 】)。損傷は広範囲にわたり,悪戯にしては不自然,修理に は全塗装が必要である(【 4 】【 5 】【14】)。車両は無施錠であった (【10】【11】)。事故後に持ち込んだ時の損傷よりも,認定された損 傷が拡大している(【 8 】)。80 万円で購入した車両に 500 万円をかけ て改造している(【14】)。車両価格について会社決算と売主領収書の 金額が異なり,事故 2 日後の更新契約での車両保険金額が減少して いる(【15】)。自動車管理者賠償責任保険に基づく預り車両の損傷は, 搬送前に生じたものである(【18】)。修繕費が保険金額に近く,保険 で賄えるぎりぎりの損傷を加えた(【20】)。車両左右の損傷の位置が 相当程度異なるはずであるが,それと矛盾する主張は不自然である (【20】)。偶然に駐車した場所で,被保険者の車両であることを把握 し,怨恨や腹いせ等の目的で行ったとは考え難い(【20】)。全周,窓 ガラスとヘッドライトに線状痕がある(【22】【30】)。走行距離 22 万 ㎞の本件車両のみ全周囲に傷を付ける程に妬みや悪戯の対象にはなり えない(【23】)。第三者の駐車に対する認識の程度,窃盗を達成でき ない場合の犯人の行動,損傷の軽重,盗難事故を裏付けるために損傷 事故を仮装がある(【25】)。  ②事故現場の状況:人や車両の通行量が多く,目撃や通報の可能性が 高い(【 5 】【12】)。損傷には時間・労力・慎重さが必要であり,大 きな音が発生するとする判決があるが(【 1 】【 8 】【13】【18】),犯 行音も凶器の形状や硬度等で異なり,音で犯行が露見する可能性は 低いとする判決がある(【 2 】)。駐車場で警備員が存在する(【 1 】 【 7 】)。事故現場で車両を見ていないとの証言がある(【 5 】)。普段, 空地にシートもかけずに駐車している(【 5 】)。現場は住宅街になく, 建物も空き家であり,自宅から現場までの距離が車で 10 分~ 15 分の

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距離にあり,偽装する障害はない(【10】)。人目に付きやすい駐車場 に,人目につきやすい車両を駐車している(【14】)。現場は夜間でも 人通りがある等,そこでの損傷は執拗・徹底的なものであり,相応の 時間,労力を要し,騒音もあることから,人目を避けつつ,早期に現 場を離れることを重視する犯罪心理に照らして不自然である(【15】 【18】【21】)。駐車場所付近で他の車両に悪戯被害が発生していない (【23】)。損傷場所はスーパーの駐車場か自宅車庫内であるが,前者 はスーパーの入口からの見通しを妨げるものがなく,全周に傷を付け るためには,通路に出なければならず,第三者が損傷させることは考 え難い,後者で第三者が損傷させた可能性も否定される(【22】)。  ③事故の時期:損傷の時刻(【 8 】【11】)。事故と契約締結の時期が近接 しているだけでは,被保険者が惹起したと推認できない(【 3 】)。  ④目撃者の存在:目撃者はいるが,第三者の行為と断定できない(【 9 】)。  ⑤事故前の事件との関連性:事故前夜のトラブルで,相手方が犯行道具 を調達し,深夜に戻って来たか疑わしい(【 8 】)。暴走族を注意した とする時期から時間が経過しており,暴走族に追いかけられることは ないし,構成員等も不明である(【11】【15】)。  ⑥悪戯(【 2 】)・怨恨(【 8 】)の有無:怨恨による犯行では,被保険者 を畏怖させて恨みを晴らすことが目的であるから,継続的に脅迫行為 があるか,怨恨の原因について示唆する行為がある(【 8 】)。 ⅱ 被保険者等の事故発生前後の行動  ①事故発見時の状況:第一発見者である被保険者の実質的経営者は,後 遺症のため路上駐車したとし,ゴミの非収集日に散歩がてら持参した とするが,ゴミ出し目的であれば,収集所側である左側面の傷に気 づくはずであり,右側に回って発見したという行動は不自然である (【 5 】)。携帯電話の発信履歴を含め,発見後,店員や警備員に問合 せをするとか,警察署に届出をする等の対処はせず,修理工場に向か い修理を依頼したとする行動は不自然である(【 7 】)。

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 ②被保険者・関係者の供述:保険代理店担当者の証言は被保険者との口 裏合わせの疑念がある(【 1 】【 4 】)。発見時の状況に関する供述の変 遷は記憶が不十分さによるものであり,発見後の説明を重視すべきで はないとする(【 3 】)。損傷確認の 2 日後,自動車販売店に車両を持 ち込んだ際,自動車店の従業員が「傷は 3 本くらいあったかな?」と いう印象しかもたなかった(【 8 】)。駐車場所が事情聴取と尋問とで 異なり,損傷発見の経緯につき供述が面談と陳述書・法廷とが矛盾し, 事故当日のアリバイがない(【 4 】【10】~【12】【15】【17】〔被保険 者の陳述等のみから故意免責を認めている〕【18】【19】【22】)。受傷 後の修理に至る行動が不自然で,事故当日等の行動に関する供述も信 用し難い(【14】)。本人尋問の供述と事故直後の保険会社代理人への 説明には,現場に行く前に友人に会ったか否かの他,先輩との付き合 いの度合や傷を発見した時期等,間違えるはずのない事実関係につい て重大な齟齬がある(【20】)。  ③警察への届出:事故発見の 5 日後であり,遅れた理由も合理的ではな い(【 3 】)。第一発見者である会社の実質的経営者は,被害届を提出 後,警察の捜査状況を尋ねていない(【 5 】)。被保険者の当初の主張 と警察署への届出時の内容は,事故発生時刻に 1 時間半のズレがある (【 7 】)。届け出ていない(【18】【22】)。 ⅲ 被保険者等の属性・動機等  ①事故歴・保険金の受領歴:事故歴(【 1 】【 5 】【14】)。保険金の支払 を拒否され,修理はせず,売却している(【 4 】)。事故の 10 ケ月前, 保険金を受領している事実を調査時に申告していない(【10】)。2 度 の当て逃げが保険金の支払対象とならず,間がない日時で損傷した (【12】)。事故歴は 3 年余りのうちに 3 度ある(【16】)。2 年間に 4 回, 保険金を受領していることは統計的に特異である(【21】)。従前,交 際相手の車両が被保険者と外出時に損傷したとして,本件と同じく共 済金等を受領している(【23】)。

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 ②経済状況:出費が多く,車両ローンも未完済である(【 1 】)。多額の 債務がありながら,高額で車両を購入している(【 8 】)。会社の事業 所得は少ない(【10】【11】【13】【15】)。日常,使用していない本件車 両が車検期間満了を迎え,車両新価保険特約の適用期間の終了時期で あったことからすれば,保険金で車両残ローンを免れ,残額を現金で 取得するか,新車を購入するにしても新車保険金残額を現金で取得で きた(【19】)。資力が十分な父と同居し,修理費を確保できることか ら,事故惹起の動機に乏しい(【 3 】)。  ③車両への思い:車両を愛用し,塗装はオリジナルがよいとしているこ とから,オリジナル性が失われても,全塗装するため傷をつけるまで の動機はない(【 2 】)。  ④車両利用の状況:保険料は被保険者が負担し,車両は実質的経営者が 趣味で使用している(【 5 】)。事故時,車両は必要な車ではなく,被 保険者作成の修理代金の見積書・領収証の通りの保険金を取得した場 合には経済的利益があった(【16】)。  ⑤事故後の発言:事故時,被保険者は保険代理店に,「車両は売却も検 討しているので,修理せずに保険金をもらえないか」と打診している (【 9 】)。  ⑥車両の代金や被害額の水増しがある(【13】)。 ⅳ 保険契約に関する事情等  ①内容:購入価格と保険金額に差異がある(【 8 】)。特殊塗装での保険 契約を締結している(【14】)。保険金額が購入価額に比して高額であ る(【16】)。本件契約は,車両全損(70%)特約・全損時諸費用倍額 特約が付されており,全損の場合,車両価格よりも相当多くの保険金 を取得する保険である(【21】)。  ②継続期間:保険契約は 10 年以上にわたり更新され,疑問を持たれる 保険事故はない(【 6 】)。更新まで 1 ケ月余で保険事故が発生してい る(【 8 】)。

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 ③他の保険契約:会社の機器等について 2 ケ月前に保険契約が締結され, 事故時に機器等が被害にあっているのは不自然である(【10】)。  ⑶ 車両の盗難  最高裁によれば,保険金請求者は,第三者が被保険自動車を所在場所 から持ち去ったという盗難の外形的事実について立証責任を負い(【Ⅲ】), ①被保険自動車が保険金請求者主張の場所に置かれていたこと,②第三者 がその場所から被保険自動車を持ち去ったことという 2 つの事実が合理 的な疑いを超える程度にまで証明する必要がある(【Ⅳ】)。盗難の事案は, 被保険車両が持ちさられ,保険金請求者が車両を秘匿している可能性もあ ることから,損傷の事案と比較して事故の状況を把握することが難しい。 ⅰ 事故の客観的状況  ①盗難の状況:盗難の上,損傷させているのは不自然である(【27】)。  ②事故現場の状況:事故現場が住宅の間にある場合,盗難が発見され, 通報の危険は高い(【27】【28】【30】)。窃盗者が防犯ビデオに映って おり,行動としては不自然で,短時間に窃盗を共謀したことも否定で きない(【28】)。②は第三者が盗難車両の駐車に対する認識に関連す る(【25】)。  ③車両鍵の保管状況(【24】【25】)。  ④盗難の難易度:盗難防止装置付きの車両を,純正鍵を使わずに移動す るには,レッカー車を使用するか,積載車で搬出する方法があるが, タイヤの引摺痕がない,鍵が窃取されていない(【24】【29】)。盗難に 要する時間が長時間であり,破壊音もある(【30】)。 ⅱ 被保険者等の事故発生前後の行動  ①供述の信用性:被保険者が駐車したとする場所,駐車理由,駐車状 況という重要な部分に関する信用性がなく,供述が変遷している (【24】)。車両の使用目的,駐車した日,被害の発見経緯,被害品に 関する供述が曖昧である(【27】)。盗難日時につき,訴状,準備書面,

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被害届,陳述書,調査員の事情聴取,尋問での主張等が食い違ってい る(【29】)。  ②被保険者と関係者の供述の整合性(【26】)。  ③被保険者・窃盗者の行動の自然さ(【28】)。  ④警察へ連絡するまでの時間の長さ(【30】)。  ⑤盗難届の提出だけでは盗難の事実が認められないとする判決がある (【24】)。 ⅲ 被保険者等の属性・動機等  ①事故当時の経済状況(【25】【28】~【30】:赤字状態は保険金で改善 されない(【26】)。  ②偽装経験・保険金受領の有無(【25】【28】【29】)。  ③盗難を偽装する動機:修理相当額と損害額に差異がある(【30】)。保 険金を受領しても,車両ローンの支払後の残額が少なく,過去,保険 金が修理代金として直接修理工場に支払われており,被保険者が資金 を得た経験はない(【28】)。  ④交友関係(【23】【25】):事故後,車両が交際相手の勤務先の従業員に 売却され,交際相手は,残ローン,修理費等の支払資金を立て替える など,事故に深く関与しており,被保険者と全くの第三者とはいえな い(【23】)。 ⅳ 保険契約に関する事情等  ①保険契約の内容:盗難車両だけに車両保険が付されていた(【24】)。 時価を上回る保険金額が設定されていた(【29】)。  ②保険会社の主張:被保険者が事故を作出したという事実と関連しない 事項であり,故意招致を推認する力はない(【26】)。 6 .おわりにかえて  車両保険において,保険事故として仮装が問題とされる車両の損傷事故 および盗難事故の立証については,直接的に証明する証拠がある場合が少

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なく,間接事実の積み重ねにより判断するほかはないとされる。間接事実 として,一般的な解釈によると,ⅰ事故の客観的状況,ⅱ被保険者等の事 故発生前後の行動,ⅲ被保険者等の属性(保険金受領歴・経済状況等)・ 動機等,ⅳ保険契約に関する事情に大別されることから,本稿ではこれら 4 つを分類の柱として,最高裁の 4 判決以後に判示された主要な下級審判 決を概観し,損傷事故および盗難事故において立証すべき具体的な事実に ついて検討した。  損傷事故においては,ⅰについて,車両の状況・損傷,事故現場の状況, 事故の時期,目撃者の存在,事故前の事件との関連性,悪戯の有無が,ⅱ について,事故発見時の状況,被保険者・関係者の供述,警察への届出が, ⅲについて,事故歴・保険金の受領歴,経済状況,車両への思い,車両利 用の状況,事故後の発言,車両の代金や被害額の水増しが,ⅳについて, 内容,継続期間,他の保険契約がある。  盗難事故においては,ⅰについて,盗難の状況,事故現場の状況,車両 鍵の保管状況,盗難の難易度が,ⅱについて,供述の信用性,被保険者と 関係者の供述の整合性,被保険者・窃盗者の行動の自然さ,警察へ連絡す るまでの時間の長さが,ⅲについて,事故当時の経済状況,偽装経験・保 険金受領の有無,盗難を偽装する動機,交友関係が,ⅳについて,保険契 約の内容,保険会社の主張がある。 (筆者は神戸学院大学法学部教授)  

参照

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