巻頭言
横浜市立大学医学部 がん総合医科学(産婦人科学兼任)教授宮城 悦子
私が産婦人科医師となった1990年に産婦人科学は、周産期医学、婦人科腫瘍学、生殖・内分泌学の3大分野の中で展開 されていました。しかし、自分が実際に産婦人科専門医となり臨床や研究に従事していくうちに、その主要3分野が互い に極めて密接に関連しあって発展していることを強く感じてまいりました。そして現在は、産婦人科学の中に、女性医 学・女性のヘルスケアという従来の産婦人科学の全てを有機的につなげていく第4の学問分野が加わり、産婦人科学は新 たな展開と発展の様相を呈しています。そのような変化の中で、神奈川産科婦人科学会誌に投稿される論文にも、女性 医学・女性のヘルスケアに関係した論文が増えていることは、若手産婦人科医師の診療の視点が多角化していることを 象徴していると思われ、若手医師の研鑽が県内の産婦人科医療水準を高まることに貢献していくものと。大きな期待を 寄せています。 一方、少子化対策や女性の社会での活躍のために産婦人科医師の果たす役割が重要性を増す中で、初期研修の産婦人 科必修中止以降の産婦人科後期研修医の減少傾向を大変に危惧しています。2000年代前半に加速した病院勤務の産婦人 科医師の離脱と周産期医療の危機的状況と女性医師の増加に対して、日本産科婦人科学会と各地方部会、医会などの医 師団体と行政は団結し、様々な対策を講じてきました。特に男女共同参画の課題に関して、2006年に産婦人科医師不足 が顕著になる中、日本産科婦人科学会は他の学会や国の動きよりはるかに先行し、「女性医師の継続的就労支援のための 委員会」を設置し、現在その委員会は男女共同参画を推進する委員会へと発展しています。また、産婦人科医師の卒後 就労状況の調査では、医師側・行政側からの多角的方策により、若手産婦人科女性医師が卒後11年目に分娩を扱う施設 で就労している率は2006年調査の46%から2013年調査の66%へと上昇し、継続的就労意欲や専門性の高い仕事への意欲 も高まっていることが明らかになっています。女性医師が働きやすい職場環境は男性医師にとっての労働環境の改善に もつながっていることも多くの産婦人科医師が感じていることだと思います。また、日本の女性全体の継続的就労と社 会的役割への責任感を培うための一貫した教育は、義務教育から高等教育を通じてなされるべきであり、そのためには イクメンに象徴されるような男性の意識変革も欠かせないということがクローズアップされています。そのような現在 の日本の中で、われわれ産婦人科医師集団は、まさに男女共同参画のモデルケースとも言えると確信しています。とは 言うのもの、一旦上昇に転じた産婦人科を志望する医師数が再び減少傾向にあることを食い止めるには、さらなる取り 組みが不可欠であり、新たな専門医制度の導入の中で、神奈川産科婦人科学会と神奈川県産科婦人科医会が一致団結し ている神奈川県の強みを生かして行く必要があります。また、施設間や地域間の較差など取り組むべき課題も多く残さ れていると考えます。 さて、私自身は横浜市立大学産婦人科で平原史樹主任教授のご指導のもと、婦人科腫瘍学を専門としてきましたが、 2008年に横浜市立大学附属病院化学療法センター長に就任し、病院全体の化学療法のマネージメントや全科領域の化学 療法について新たに多くのことを学び、婦人科腫瘍学におけるこれからのがん化学療法についても多角的な視野を持つ ことができました。今回横浜市大に新設されたがん総合医科学では、臨床と研究を統合し最先端のバーチャルながんセ ンターを構築するというミッションを担うことになり、さらなる婦人科腫瘍学の発展に寄与したいとの思いを強くし、 新たにプロジェクトに取り組んでいる毎日です。そして、産婦人科学の素晴らしさを1人でも多くの医学生や研修医に伝 えていくこともまた使命であると思いながら、神奈川産科婦人科学会の皆様とともに前進してまいる所存です。今後と も、ご指導ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。概 要
月経随伴性気胸は月経に伴って繰り返し気胸が発症す る疾患である。今回我々は胸腔鏡所見と病理組織学所見 から稀少部位子宮内膜症と診断した症例に対して再発予 防に苦慮し、GnRH アナログ療法施行後ジエノゲスト投与 を行う、sequential 療法を応用した。月経随伴性気胸は、 複数の仮説に基づき考えると、子宮内膜症よりわずかな 病巣の再燃が症状の再発(気胸)を来しやすいと考えら れ、より慎重な再発予防治療が望まれる。外科的に病巣 摘出がされていない症例や、ジエノゲスト投与中に再発 したなど、再発が強く危惧される症例には、骨密度を鑑 みながら GnRH アナログ療法を6コースに延長することも 提案できると考えた。Key words:Catamenial pneumothorax, Thoracic endometriosis, Recurrence, Dienogest, GnRHagonist
緒 言
月経随伴性気胸は月経に伴って気胸を繰り返す疾患で ある。呼吸器科や産婦人科など、診断や治療に携わる診 療科は施設によって異なることもあり、標準的再発予防 治療は確立されていない。胸腔鏡所見と病理組織学所見 から稀少部位子宮内膜症と診断した症例に対し GnRH ア ナログ療法とジエノゲストの特徴を活かしたホルモン治 療を行った。この症例を通し、再発予防を目的とした薬 物療法の選択について文献的考察を加え、報告する。症 例
43歳、身長 150 cm、体重 40 kg、3回経妊3回経産の女 性、既往歴として38歳時左自然気胸、42歳時右自然気胸 があった。42歳時は月経6日目の発症であった。今回体動 時呼吸困難を主訴に内科受診し、右肺呼吸音減弱及び胸 部レントゲン上右肺尖部の軽度虚脱を認めた。しかし、 CT において左側にブラを認めるものの、右側には気胸の 原因となる所見がなかった(図1)。異時性両側気胸の既 往歴と右気胸の再発であること、また特に今回は月経中 の発症であったことから月経随伴性気胸の可能性も視野 にいれ、診断・再発予防目的に胸腔鏡下手術を待機的に 行うこととなった。 【手術所見】 虚脱した右肺尖部にはブラを認めず、横隔膜に多発す る小孔と点状出血斑、ブルーベリースポットを認め、横 隔膜は格子状に菲薄化しており、これらは内膜症による 横隔膜損傷を示唆する所見であった(図2)。ブルーベリ ースポットを含む横隔膜を部分切除し縫合、酸化セルロ ース膜で被覆した。左側肺尖部にも CT で指摘されたブラ を認めず、炎症性の癒着を認めるのみであり、その癒着 を剥離し酸化セルロース膜で被覆後、エアリークがない ことを確認した。 【病理組織学的所見】 右横隔膜切除検体は 3.5 cm × 2.5 cm 大で、肉眼的に明 らかな出血やヘモジデリンの沈着を認めず、横隔膜の小 孔も不明瞭であった。超音波メスによる熱変性が強く、 詳細な観察は困難であったが、組織学的には線維性結合 織を背景に上皮様の細胞集簇をわずかに認めた。クロマ チンは薄く、核は正常で細胞異型に乏しく、一様かつ小 型であった(図3)。鑑別として、横隔膜に迷入した上皮 細胞、または反応性あるいは腫瘍性中皮腫細胞が考えら れた。免疫組織化学検査では、中皮を含む上皮系細胞で 陽性となる KeratinAE 1/3の発現を認めたが、calretinin は 陰性であり、反応性あるいは腫瘍性中皮細胞でないこと が示された。また細胞異型が乏しいことや、多彩な組織月経随伴性気胸に対し再発予防に苦慮した1例
A case report about difficult prevention of recurrence after treatment for catamenial pneumothorax
横須賀共済病院産婦人科
Department of Obsterics and Gynecolgy of Yokosuka Mutual Aid Hospital
寺西 絵梨 Eri TERANISHI
松永 竜也 Tatsuya MATSUNAGA
小祝 千夏 Chinatsu KOIWAI
大沼 えみ Emi OHNUMA
瀬川 恵子 Keiko SEGAWA
松c結花里 Yukari MATSUZAKI
永田 亮 Ryo NAGATA
納田 容子 Yoko NOHDA
野村 可之 Yoshiyuki NOMURA
小林 有紀 Yuki KOBAYASHI
杉浦 賢 Ken SUGIURA
図1 CT肺野条件:右エアリーク像 図2 術中所見 右横隔膜腱中心に小孔を認め、6個のブルーベリースポッ トを認める。 表1 ジエノゲスト成功例の比較 図3 病理組織所見 HE:増殖した内膜腺組織を認める 像を呈さないことから、癌腫や胚細胞性腫瘍は否定的で あった。エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプ ターの両者とも陽性であることから、稀少部位子宮内膜 症又は、リンパ脈管筋腫症 Lymphangioleiomyomatosis (LAM)が考えられた。LAM 細胞は紡錘形を呈する間葉 系細胞でありケラチン陰性であること、LAM であれば陽 性となる可能性が高い SMA、HMB 45の双方が陰性であ ったことから、LAM も否定的となった1)ため、稀少部位 子宮内膜症と診断された。 【術後経過】 繰り返す気胸の原因が月経随伴性気胸であると考えら れたため気胸の再発予防目的に婦人科へ紹介となった。 月経は30日周期、整であり月経困難症及び過多月経を 認めなかった。内診上子宮は正常大であり可動性は良好 で圧痛を認めなかった。エコー上子宮前壁筋層内に 28 mm の筋腫を認めたが、両側付属器は正常大であり、子 宮内膜症を疑う所見を認めなかった。 月経随伴性気胸の再発予防として、挙児希望がないこ とから子宮腺筋症に対する保存療法として汎用されてい るsequential療法を応用してホルモン療法を行うこととな った。胸腔鏡術後1ヵ月より酢酸リュープロレリン 1.88 mg を3コース投与してからジエノゲスト 2 mg /日に移行 したが、移行後2ヵ月で不正出血を生じ4ヵ月でⅠ度右気 胸を再発した。症状は軽度であったためドレナージはせ ず、保存的に経過をみる方針とした。酢酸リュープロレ リン3コース投与では内膜細胞の死滅が不十分であった ため再発したと考え、腰椎 YAM 値89%と骨密度に問題 がないことを確認した後酢酸リュープロレリン1.88 mgを 6コース投与してから、ジエノゲスト2 mg /日に切り替え た。現在ジエノゲスト投与を継続し12ヵ月間気胸の再発 を認めていない。
考 察
月経随伴性気胸は1958年Maurer2)らによって最初に報 告され、月経に伴って繰り返し発症する、自然気胸の発症 原因のうち1-3%程度の稀な疾患であるとされてきたが3)、近年では症例の蓄積と統計調査により25-29%程度を占め ると考えられている4)。Alifino らによれば月経随伴性気胸 であっても気胸の発症は月経に随伴せず、子宮内膜症の 合併も25%程度で、合併していてもその重症度も関与し ないとされる4)。本症例も婦人科診察上骨盤内に内膜症所 見や月経随伴症状を認めない型であった。 月経随伴性気胸の発症機序は現在は大きく3つの説が有 力である。一つは空気腹腔由来説2)である。異所性内膜 症細胞の由来の違いにより仮説名を血行性転移説・中皮 化生説とする説もある4) 5)。二つ目は Lillington らにより提 唱された check valve説6)、三つ目は Rossi らによる、プロ スタグランディンF2α説7)である。いずれの説において も内膜症組織の存在により横隔膜や気道、肺胞が損傷さ れて気胸が発症すると考えられている。その治療として 外科的治療単独での気胸再発率は20%、ホルモン療法単 独では50%と高いため、外科的治療とホルモン療法との 併用が推奨されている8)∼10)。ホルモン療法は月経随伴性 気胸が稀少部位子宮内膜症の一つであるため、子宮内膜 症の治療に準じて行われることが多く、内膜細胞直接抑 制効果があるとされ、40代以上でも慎重投与の制限がな く、比較的長期投与が可能であることから、ジエノゲス トが適すると考えた。 そこで本邦においてジエノゲスト投与で気胸再発予防 に成功した報告をまとめ、患者背景や手術及び GnRHア ナログ療法の有無などを検討した(表1)。成功報告のあ った7例11)∼15)のうち手術未施行は3例、また GnRH アナ ログ療法の先行投与は4例に行われていた。文献上病変残 存の有無などの手術内容や使用した GnRH アナログ療法 の種類や投与量などの詳細が不明な部分もあったが、成 功例における傾向は明らかにならなかった。よって、子 宮内膜症に対し不正出血を有意に減らすことができたとす る合阪ら16)の報告や子宮腺筋症に対する坂埜ら17)の報告 を参考に、GnRH アナログ療法を3コース施行後ジエノゲ ストに移行する sequential 療法18)を本症例に対し行うこ ととした。しかし、ジエノゲストに移行後4ヵ月でⅠ度右 気胸が再発したため本症例と背景の類似していた渡邊ら の報告11)を参考に、GnRH アナログ療法を3から6コース へ延長し、現在12ヵ月間気胸の再発を予防することがで きている。 sequential 療法後4ヵ月で再発した理由は、術後であっ ても胸腔内に微小な子宮内膜組織が残存しており、ジエ ノゲスト移行後に上昇したエストラジオールに反応し、 気胸が再発した可能性を考えた。一方で骨盤内子宮内膜 症に対しては therapeutic window level にあるが、胸腔内に おいてはエストラジオール抑制のみだけでは気胸の再発 を予防できない機序がある可能性も考えられた。GnRH ア ナログ療法を6コースへ延長した後、気胸が再発していな い理由として、その投与期間を最大限延長したことで病 巣に対するアポトーシス誘導作用18)が有効に働いたと考 えられた。 月経随伴性気胸は複数の仮説に基づき考えると、骨盤 子宮内膜症よりわずかな病巣の再燃が症状の再発(気胸) を来しやすいと考えられ、より慎重な再発予防治療とし て GnRH アナログ療法とジエノゲストの特徴を生かした sequential 療法が応用できると考えた。外科的に病巣摘出 がされていない症例やジエノゲスト投与中に再発したな ど、再発が強く危惧される症例には骨密度を鑑みながら、 GnRH アナログ療法を6コースに延長することも提案でき ると考えた。
文 献
1) 林田美江, 久保惠嗣, 瀬山邦明, 熊坂利夫, 井上義一, 北 市正則, 審良正則. リンパ脈管筋腫症(LAM)診断基 準. 日呼吸会誌2008;46(6):425-427.2) MaurerER, SchaalJA, MendezFRJr.Chronic recurring spontaneous pneumothorax due to endometriosis of diaphragm.JAMA 1958;168:2013-2014.
3) H.Nakamura, M.D., F.C.C.P.; J.Konishiike,M.D., F.C.C.P.; A.Sugamura,M.D.; Y.Takeno, M.D., F.C.C.P. Epidemiology of spontaneous pneumothorax in women.Chest. 1986;89:378-82.
4) AlifinoM, RothT, BroetSC, SchusslerO, MagdeleinatP, RegnardJF.Catamenial pneumothorax a prospective study.Chest. 2003;124:1004-8. 5) 栗原正利.月経随伴性気胸の診断と治療.産科と婦人 科.2011;11号(69):1357.(12):1196-1200. 6) LillingtonGA,MitchellSP,WoodGA.Catamenial pneumothorax.JAMA 1972;219:1328-1332. 7) RossiNP,GolerudCP,Recurrentcatamenial pneumothorax Arch Surg.1974;109:173-176. 8) 谷村繁雄, 山瀬裕美, 伴場次郎. 月経随伴性気胸に手術は 必要か. 自験および文献報告例の検討. 日胸.1998;57:979-984. 9) 伴場次郎, 正木幹雄, 香田繁雄他. 月経随伴性気胸に対 する治療法の検討. 日胸. 1983;42:571-577. 10)小林優子, 竹内博之, 宮元英昭. 月経随伴性気胸の病態 と治療. 産科と婦人科. 2008;1号(13):13-19. 11)渡辺正, 渡邉善, 稲沢慶太郎, 岩間憲行. 月経随伴性気胸 に対するジェノゲスト療法の検討.日エンドメトリオ ーシス会誌. 2011;32:153-156. 12)竹 村 由 里 , 大 須 賀 穣 . H O R M O N E F R O N T I E R I N GYNECOLOGY. 2009;vol.16.No3:88-92. 13)宇多さと子, 佐竹由美子, 高橋顕雅, 横田浩美, 高橋良樹, 井伊庸弘, 戸田省吾. 月経随伴性気胸と胸水を繰り返し た重症子宮内膜症の一例. 産婦の進歩. 2011;第 63 巻 1 号:18-23. 14)藤原愛子, 増田幸蔵, 東久登, 根岸真人, 山形誠一, 志田 晴彦, 井上泰. 月経随伴性気胸の 2 例. 日臨外会誌. 2011;72(2):1725-1728. 15)安藤文隆, 野崎雅裕, 江上りか, 中野仁雄. 胸腔内子宮内 膜症の 4 例に対する検討. HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY. ;vol8.No1:75-81. 16)合阪幸三, 平池春子, 生月弓子, 小畑清一郎, 宮本雄一郎, 平池修, 池田悠至, 山本直子, 武谷雄二. 子宮内膜症に対
するジェノゲストの新しい投与法の開発 予期せぬ破 綻出血の減少を目指して.日本エンドメトリオーシス 学会会誌.2010;31巻:184-186.
17)坂埜浩司. 子宮内膜症治療におけるジエノゲスト使用法 の 工 夫 - 性 器 出 血 予 防 の た め の s e q u e n t i a l 療 法 - . HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY. 2009 ; vol16. No3:75-81.
18)BilotasM,BaranaoRI,BuquetR,SueldoC,TesoneM,and MeresmanG.Effect of GnRH analogues on apotosis and expression of Bcl-2,Bax,Fas and FasL proteins in endometrial epitherial cell cultures from patients eith endmetiriosis and controls.Human Repreduction.2007; vol22.No3:644-653. (H26.7.29受付)
概 要
HELLP 症候群や急性妊娠脂肪肝(acute fatty liver of pregnancy;以下、AFLP)など妊娠に特有な肝機能障害は 対応が遅れると母児ともに予後不良となる。今回我々は、 母体搬送直後に肝機能障害を認め、臨床的AFLPと診断し 加療した一例を経験したので報告する。 症例は41歳、9回経妊1回経産。他院での IVF-ET 後に 妊娠成立し、前医で妊婦健診を受けていた。妊娠30週3 日に胎児発育不全の妊娠分娩管理を希望し当院へ母体搬 送された。来院時の胎児推定体重は 928 g(-3.5 SD)であ った。CTG にて2-3分毎の子宮収縮を認め、胎児発育不全 と切迫早産の診断で入院した。入院時の血液検査で肝機 能障害及び凝固能低下を認めた。血小板減少や血圧上昇、 尿蛋白は認めなかった。臨床的 AFLP と判断し、緊急帝 王切開を施行した。児は930 g の男児、Apgar score は1分 値3点、5分値5点であった。臍帯動脈血 pH は7.18であっ た。出生後3分で気管内挿管し、NICU に収容した。分娩 後、母体経過は良好で、術後5日目までに肝機能及び凝固 能はほぼ正常値にまで回復した。児は、日齢89(修正43 週0日)に退院した。 AFLPは、早期診断と早期分娩により劇的に予後が改善 される。妊娠後期の肝機能異常をみたとき、除外すべき 疾患の一つと考える。
Key words:AFLP, fatty liver, HELLP syndrome
緒 言
周産期の肝機能障害、特に妊娠時に特有の疾患は、対 応が遅れると母児ともに予後不良となる。今回我々は、 母体搬送後に肝機能障害を認め、臨床的 AFLP と診断し、 早急な対応により予後良好であった一例を経験したので 報告する。症 例
年齢:41歳 主訴:妊娠30週3日胎児発育不全の妊娠分娩管理希望 既往歴:16歳で虫垂炎のため虫垂切除 アレルギー:なし 家族歴:特記事項なし 月経歴:初経13歳、28日周期、整順 妊娠歴: 9 回経妊 1 回経産。23 歳で人工妊娠中絶 1 回、 自然流産1回。33歳時、AIH 後に妊娠成立し、自然経腟分 娩した。その後、35歳から37歳にかけて不妊治療を行い、 AIH 後に6回、妊娠成立しが、4回は妊娠初期に自然流産、 2回は異所性妊娠(待機療法)であった。習慣流産検査及 び染色体検査では明らかな異常を指摘されていない。38 歳から別のクリニックで不妊治療を継続した。子宮卵管 造影で卵管閉塞を指摘され、IVF-ET を2回施行したが妊 娠に至らなかった。 現病歴:3回目の IVF-ET を行い、移植日を妊娠2週2日 と決定された。妊娠5週5日で胎嚢、妊娠6週1日で卵黄嚢 がそれぞれ確認された。妊娠8週1日で頭殿長 8.1 mm、妊 娠9週1日で頭殿長 14.4 mm(8週1日相当)であり、その 後も児は約1-2週間の発育遅延を指摘されていた(前医に て精査を行ったが原因は不明)。その他の妊娠経過に特記 事項は認めなかった。妊娠30週3日、妊婦健診で臍帯動 脈速度波形分析にて異常を指摘され、妊娠分娩管理目的 で当院に母体搬送された。搬送前に子宮収縮は認めなか ったが、来院時には2-3分間隔の痛みを伴う子宮収縮を認 めた。経腹超音波検査で-3.5 SD の不均衡型胎児発育不全 と、brain sparing effect を認めた。妊娠30週3日の胎児発育 不全、切迫早産と診断し、直ちに入院した。 入院時現症:身長162 cm、体重60 kg(非妊娠時53 kg、 BMI 20)。血圧118/66 mmHg、脈拍126回/分。子宮口閉 鎖、子宮頸管長50 mm 、funneling なし。BPD 70.3 mm 、 APTD 58.8 mm 、TTD 61.2 mm 、FL 45.2 mm 、EFW 928 g臨床的急性妊娠脂肪肝の1例
A case of clinical acute fatty liver of pregnancy
公益社団法人地域医療振興協会 横須賀市立うわまち病院 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Yokosuka General Hospital Uwamachi, Japan Association for Development of Community Medicine
平林 大輔 Daisuke HIRABAYASHI
河野 明子 Akiko KAWANO
伊藤 雄二 Yuji ITO
渡邉龍太郎 Ryutaro WATANABE
山本みのり Minori YAMAMOTO
森崎 篤 Atsushi MORIZAKI
小山 秀樹 Hideki KOYAMA
(-3.5 SD)で、胎児発育不全であった。AFI 16.5 cm 。 UAPI 1.52、MCAPI 1.31であり、brain sparing effect を認め たが、臍帯動脈速度波形分析で途絶・逆流は認めなかっ た。CTG 上、基線細変動は中等度で、一過性頻脈なし、 一過性徐脈なしであり、2-3分間隔の痛みを伴う子宮収縮 を認めた。入院2週間前に掻痒感を伴う発疹が体幹から四 肢にかけて出現し、蕁麻疹と診断され、抗ヒスタミン剤 の内服(3日間)とステロイド軟膏の塗布により加療され た。来院時に発疹は認めなかった。 入院時血液検査所見: 生化学:TP 7.1 g/dl, Alb 2.5 g/dl, T-Bil 2.30 mg/dl, AST 191 IU/l, ALT 263 IU/l, LDH 606 IU/l, CPK 84 IU/l, ALP 826 IU/l, γ-GTP 76 IU/l, ChE 146 IU/l, LAP 436 IU/l, T-Cho 124 mg/dl, BUN 13.5 mg/dl, Cre 1.19 mg/dl, UA 8.1 mg/dl, Na 139 mEq/l, K 4.3 mEq/l, Glu 73 mg/dl
血算:WBC 13400/μl, Hb 15.1 g/dl, PLT 21.9 104/μl, HCT 45.9%
凝固系:PT 92.0%, PT-INR 1.04, APTT 52.4秒, Fib 142 mg/dl, FDP 22.6μg/ml, D-dimer 7.3 μg/ml, AT活性 22.9% その他:TSH 0.01, FT 3 2.15, FT 4 1.84, 抗核抗体(-), 抗 DNA抗体(-), 抗カルジオリピン抗体(-), 抗CL・β2 GPI抗体(-),ループスアンチコアグラント(-), HBs抗原(-), HBs抗体(-), HCV抗体(-), CMV IgG(+), CMV IgM(-) 入院時尿検査所見:尿蛋白(-),尿糖(-),尿ケトン(-) 入院後経過:入院時に血液検査を行った。塩酸リトド リン50μg/minの静脈内投与を開始し、分娩に備えてベ タメタゾン12 mg を筋肉内注射した。その後、塩酸リトド リンを段階的に200μg/minまで増量したが、子宮収縮は 2-3分間隔で続いていた。塩酸リトドリン投与開始後、肝 機能障害と凝固能異常が判明した。AST、LDH、尿酸高 値を認めたが、血小板の減少はなく、一方で AT 活性が 22.9%に低下していたため、臨床的 AFLP と判断した。入 院4時間後に区域麻酔により緊急帝王切開術を施行し、妊 娠終了した。児は930 g の男児で、Apgar score は1分値3 点、5分値5点であった。臍帯動脈血の pH は7.18であっ た。出生時に自発呼吸なく、出生 3 分後に気管内挿管し NICU に入院管理となった。分娩時出血は羊水込みで1200 ml、羊水混濁(1+)であった。術中の視触診上、肝臓に 明らかな異常を認めなかった。胎盤の病理検査では絨毛 膜羊膜炎による小梗塞巣を認めたが、それ以外に明らか な異常は認めなかった。術後1時間(入院後6時間)の血 液検査所見は以下の通りである。 生化学:TP 3.8 g/dl, Alb 1.3 g/dl, T-Bil 0.99 mg/dl, AST 93 IU/l, ALT 129 IU/l, LDH 316 IU/l, CPK 51 IU/ l, ALP 428 IU/l, γ-GTP 40 IU/l, ChE 75 IU/l, LAP 219 IU/l, T-Cho 62 mg/dl, BUN 15.4 mg/dl, Cre 1.44 mg/dl, UA 7.9 mg/dl, Na 135 mEq/l, K 3.2 mEq/l
血算:WBC 13900/μl, Hb 9.8 g/dl, PLT 15.3 104/μl, HCT 31.4%
凝固系:PT 58.3%, PT-INR 1.32, APTT 49.6秒, Fib 84 mg /dl, FDP 20.9 μg /ml, D-dimer 6.7 μg /ml, AT 活性 10.7% 産科的 DIC スコアは7点であった。AT 活性が低下して いたためAT-Ⅲ製剤を使用した(図1)。術直後は乏尿であ ったが、腎機能に異常なく、輸液負荷で改善を認めた。 図1 入院中のAT活性の変化 DICの予防でAT-Ⅲ製剤を使用した。
写真1 術後2日目の腹部単純 CT 肝実質 CT 値の低下はなく、肝 CT 値/脾 CT 値>0.9で あり、脂肪肝の所見を認めなかった。 写真2 術後2日目の経腹超音波検査 肝腎コントラストなく、脂肪肝の所見を認めなかった。 図2 入院中の肝機能の変化 妊娠終了に伴い改善を認めた。
術後2日目に胸腹部単純 CT と経腹超音波検査を施行し た(写真1、2)。胸腹部単純 CT では肝実質 C T値の低下 はなく、肝 CT 値/脾 CT 値>0.9であり、脂肪肝の所見 を認めなかった。経腹超音波検査では肝腎コントラスト なく、脂肪肝の所見を認めなかった。確定診断のための 肝生検は行わなかった。 術後5日目の血液検査所見は以下の通りである。AST 39 IU/l, ALT 56 IU/l, LDH 339 IU/l, γ-GTP 51 IU/l, T-bil 0.92 mg/dl, WBC 21600/μl, Hb 11.4 g/dl, PLT 27.6 104/ μl, HCT 35.6%, PT 107.9%, PT-INR 0.96, APTT 34.0秒, Fib 206 mg/dl, FDP 12.4μg/ml, D-dimer 5.4μg/ml, AT活性 65.4%。 肝機能及び凝固能はほぼ正常化し、術後6日目に退院し た(図1、図2)。 1ヵ月健診では、産褥経過、血液検査所見とも異常を認 めなかった。 児は、経過中に新生児呼吸窮迫症候群等の合併を認め たが回復し、日齢89(修正43週0日)に、2838 g で退院 した。
考 案
妊娠時の肝機能障害の鑑別疾患には、妊娠悪阻、薬剤 性 肝 炎 、 ウ イ ル ス 性 肝 炎 、 妊 娠 性 肝 内 胆 汁 う っ 滞 、 HELLP症候群、AFLP等があげられる1)(表1)。本症例で は、悪心・嘔吐の症状はなく、妊娠週数からも妊娠悪阻 は否定的であった。前医で内服していた抗ヒスタミン剤 が原因の薬剤性肝炎の可能性は存在したが、入院の10日 前に内服を終了しており、AT 活性の低下を伴って増悪傾 向にある肝機能障害の原因としては否定的であった。 HBV、HCV、CMV 抗原及び抗体は陰性で、これらが原因 のウイルス性肝炎は否定的であった。また、入院時に黄 疸や全身掻痒感はなく、妊娠性肝内胆汁うっ滞も否定的 であった。 HELLP 症候群と AFLP との鑑別は容易ではない。今回、 AST、LDH の上昇を認め、HELLP 症候群と AFLP を疑っ た。「産婦人科診療ガイドライン産科編2014」では、AST 高値かつ LDH 高値に加え、血小板数<12万/μlのときは HELLP 症候群を疑い、血小板数≧ 12 万/μl かつ AT 活 性<60%のときは臨床的 AFLP を疑うとされている2)。今 回、血小板数が21.9万/μl、AT活性が22.9%であったた め、臨床的 AFLP と判断した。 AFLPは妊娠に合併して発症する極めて稀な肝疾患で、 妊娠後期(妊娠28-40週、平均妊娠37週)に突然発症し、 妊娠を終了させない限り肝不全となって、母児ともに予 後不良となる。7000-20000妊娠に1例と報告され、HELLP 症候群の1/20程度の発症頻度である3)。多くの場合、妊 娠後期の悪心・嘔吐、上腹部痛、倦怠感などの非特異的 症状を初発症状として突然に発症し、その数日後に黄疸 が出現する。約半数に妊娠高血圧症候群を合併するとの 報告もある4)。これと並行して肝機能や腎機能の増悪が進 行し、肝不全、腎不全、DIC 等の全身症状が出現する5)。 本症例では、搬送時の子宮収縮以外に自覚症状はなく、 血圧も正常であり、また、事前情報もなかったため、入 院当初は積極的に肝機能障害を疑ってはいなかった。 AST、ALT、LDH の上昇を認め、HELLP 症候群と AFLP を疑った。血小板の低下はなく、AT 活性の低下を認め たため、臨床的 AFLP と診断した。血液検査所見では白血球の増多、トランスアミナーゼ の上昇、ビリルビンの上昇、BUN 及びクレアチニンの上 昇がみられ、尿酸は高値となる。一方、血清アルブミン の減少、フィブリノーゲンの減少、AT 活性の低下、PT 及び APTT の延長を認める。DIC を合併すると二次線溶 の亢進を反映して FDP の上昇などがみられるようになり、 肝不全が進行するとアンモニアが上昇してくる。本症例 では、入院時の血液検査所見で BUN 以外の値で異常を認 めており、この時点で肝機能障害が判明した。また、FDP の上昇を認めていた。アンモニアは測定しなかった。 画像検査では、超音波断層検査や CT で脂肪肝の所見を 認めることがある。その頻度はそれぞれ50%、20-30%と 言われている。本症例では、いずれの検査でも脂肪肝の 所見は認めなかった。 AFLP の病因は定かではないが、文献的には、近年、ミ トコンドリアでの脂肪酸のβ酸化に関わる long-chain 3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase(β酸化の第3段階を触媒す る酵素;以下、LCHAD)欠損の関与が指摘されている。 すなわち、母体がこの変異をヘテロ接合で有していると、 児の変異がホモ接合となることがある。この LCHAD 欠 損児がストレスにさらされると脂肪酸のβ酸化障害やリ ポ蛋白合成・転送障害が発生する。その結果、胎児及び 胎盤で産生された潜在的に肝毒性を有する L-βヒドロキ シアシル CoA が母体に蓄積し、AFLP を引き起こすと考 えられている6)∼9)。実際、正常な LCHAD 活性を有する 場合、AFLP をはじめとする妊娠関連の肝障害はみられな い10)。病理組織学的には肝細胞内に微細顆粒状脂肪滴が 沈着していることで確定診断されるが、壊死、炎症、線 維化は伴わず、この点でウイルス性肝炎や劇症肝炎等と は鑑別できる。成人の肥満などでみられる脂肪肝では中 性脂肪が沈着するが、AFLP では主に遊離脂肪酸が沈着す る小滴性脂肪肝となり、Reye 症候群やテトラサイクリン 肝障害と同様の所見を呈する。LCHAD 欠損児は、身体的 ストレスにより、非ケトン性低血糖や肝機能障害といっ たReye症候群様の症状を呈するという報告もある6)。本 症例では、LCHAD 欠損の有無の検索はされていないため、 関連は不明である。 治療の原則は早期の児娩出と母体の集中管理であり、 肝障害による凝固因子低下及び DIC に対する治療はほぼ 必須となる。重症例では血漿交換を行うこともある。分 娩によって肝機能は速やかに改善することが多く、早期 診断・早期治療により、近年、母児の予後は著しく改善 されてきている11)。再発は LCHAD 欠損の有無に関係な く起こりうるが、正確なリスクははっきりしていない。 今回、母体搬送後に肝機能障害を認め、臨床的 AFLP と診断し治療に当たった。搬送前に血液検査は未施行で あったため発症時期の詳細は明らかではないが、入院時 の血液検査で肝機能障害が判明し、結果として早期診 断・早期治療を行うことができた。「産婦人科診療ガイド ライン産科編 2014」では、1)妊娠高血圧腎症妊婦、2) 妊娠33週以降双胎妊婦、3)妊娠30週以降に上腹部症状を 訴えた妊婦、4)蛋白尿(≧2+)を示した妊婦、5)異常 体重増加あるいは減少を示した妊婦、に対して、血小板 数、AT 活性、AST、LDH の測定を推奨している2)。本症 例は上記のいずれにも当てはまっていなかったが、臨床 的 AFLP であった。AFLP は稀な疾患で、特徴的な臨床所 見に乏しい。その一方で、症状は急速に増悪し、治療が 遅れると母児ともに予後不良となるが、早期診断と妊娠 終了により劇的に予後が改善される。積極的に疑い、除 外すべき疾患の一つであると考える。
文 献
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要 旨
乳癌合併妊娠5例を経験し、その臨床的経過を示すとと もに乳癌合併の問題点について考察したので報告する。 全例乳房腫瘤の自覚を契機に診断された。診断がおこな われた時期は1例が妊娠初期、3例が妊娠中期、妊娠後期 に1例であった。2例は妊娠中に手術がおこなわれ、1例 は妊娠を早期に終了し化学療法をおこなった。 2例は妊娠 中に化学療法がおこなわれた。臨床進行期は StageⅠAが 1例、StageⅡAが3例、StageⅡBが1例であった。平均分 娩週数は36週(32週-41週)で、早産のため入院を必要と した症例もあったが全例で生児を得ることができた。ま た、治療中の症例を除いては現在まで全症例で再発なく 経過している。 妊娠中の乳癌は乳房腫瘤の自覚を契機に発見されるこ とが多く、早期発見のためには妊婦からの訴えを真摯に 受け止めることが重要である。また人工妊娠中絶は乳癌 の予後を改善させず、本症例のように妊娠を継続しなが ら治療をおこなうことができることを患者に説明するこ とで安易な妊娠中絶を避けることができる。 Keywords : 乳癌合併妊娠諸 言
妊娠中に乳癌を合併する頻度は妊娠3000例に1例と非常 にまれであるが1)、近年の日本人女性における乳癌罹患率 の上昇や出産年齢の高年化に伴って2)3)、乳癌合併妊娠は 増加傾向にある。妊娠中は乳腺に変化が生じるため乳癌 の診断が困難となり進行癌として発見されることが多い が、自覚症状のなかでも妊娠時に特徴的な症状は知られ ていない。また治療においては母体の生命予後だけでな く胎児に対する影響も考慮する必要がある。今回我々は、 乳癌を合併した妊娠を5例経験した(表1)。その臨床的経 過を示すとともに、乳癌合併の問題点について考察した ので報告する。 【症例1】 41歳1回経妊1回経産 妊娠6週に左乳房のしこりを自覚し、近医外科で左乳癌 StageⅠA(cT1N0M0 ; ER+, PR+, HER2 1+)と診断された。 妊娠7週6日に左乳房温存術をおこない、摘出腫瘍径は20 mmであった。妊娠41週0日に自然分娩し、児は4008 g、 アプガースコア1分値8点/5分値8点であった。経過良好 であり産褥5日目に母児ともに退院となった。産後授乳は おこなわず、産褥60日目よりLH-RH アゴニストによるホ ルモン療法を開始し現在まで7年間無病生存中である。 【症例2】 38歳0回経妊0回経産 妊娠33週に8 cm 大の卵巣嚢腫を指摘され、当院を紹介 受診した。妊娠35週に右乳房のしこりを自覚し、乳腺外 科を受診したところ右乳癌 Stage Ⅱ A(cT2N0M0 ; ER-, PR+, HER2-)と診断された。妊娠37週2日、卵巣嚢腫に よる分娩障害が予想されたため選択的帝王切開術を行い、 同時に左付属器摘出術と右乳房腫瘍全摘術をおこなった。 摘出した左付属器は Endometrial Cyst of the ovary、乳房腫 瘍径は25 mmであった。児は2662 g、アプガースコア1分乳癌合併妊娠5例の母児の転帰
Maternal and neonatal outcomes of pregnancy-associated breast cancer in 5 cases
横浜市立大学附属市民総合医療センター 総合周産期母子医療センター
Yokohama City University Medical Center Perinatal Center
古賀 絵理
Eri KOGA青木 茂
Shigeru AOKI今井 雄一
Yuichi IMAI持丸 綾
Aya MOCHIMARU笠井 絢子
Junko KASAI望月 昭彦
Akihiko MOCHIZUKI倉澤健太郎
Kentaro KURASAWA奥田 美加
Mika OKUDA高橋 恒男
Tsuneo TAKAHASHI 横浜市立大学附属病院 産婦人科Yokohama City University Hospital, Obstetrics & Gynecology
平原 史樹 Fumiki HIRAHARA
値8点/5分値9点であり、術後8日目に母児ともに合併症 なく退院となった。産後初乳を授乳してから断乳し、術 後30日目より化学・放射線同時療法(AC療法 ;ドキソル ビシン+シクロフォスファミド、2 Gry/f 5f/w total 50 Gry) を行い現在まで4年間無病生存中である。
【症例3】
29歳2回経妊0回経産
妊娠25週、左乳房腫瘤を主訴に近医外科を受診し左乳 癌StageⅡA(cT2N0M0 ; ER-, PR-, HER2-)と診断された。 腫瘍径から早急に治療が必要であり、何度も話し合いを 重ねた後に本人の強い希望で分娩後に化学療法をおこな う方針となり、ベタメタゾン投与後、妊娠32週4日選択 的帝王切開を施行した。児は1618 g、アプガースコア1分 値6点/5分値9点だった。児は早産、低出生体重であっ たため NICU に入院した。新生児一過性多呼吸認めるも 徐々に改善、未熟児黄疸に対しては光線療法を施行し日 齢 32 に退院となった。産後初乳を授乳してから断乳し、 術後28日目より化学療法として FEC 療法(フルオロウラ シル+エピルビシン+シクロフォスファミド)3コースお こなったが増悪、TC 療法(ドセタキセル+シクロフォス ファミド)に変更したが増悪したため乳房切除術をおこ ない、摘出腫瘍径は70 mm であった。現在まで2年間無病 生存中である。 【症例4】 40歳1回経妊1回経産 妊娠25週に左乳房に直径10 mm 大の硬結を自覚し近医外 科を受診して左乳癌 Stage ⅡB(cT2N1M0 ; ER+, PR+, HER23+)と診断され、当院を紹介受診した。リンパ節転 移陽性であったため妊娠継続のもとに化学療法をおこな う方針となり、妊娠27週と30週に AC 療法を合計2コー スおこなった。化学療法による骨髄抑制は軽度であり、 貧血、好中球減少、血小板低下ともに回復したことを確 認して妊娠 34 週 0 日選択的帝王切開術を行った。児は 2118 g、アプガースコア1分値8点/5分値9点だった。児 は早産、低出生体重児であったため NHCU 入院となった。 未熟児黄疸を認め光線療法をおこなったが、その他に特 記すべき合併症なく日齢13に退院した。産後初乳を授乳 してから断乳し、産褥8日目よりFEC療法を開始、産褥30 日目より近医での化学療法を希望し転院となった。 【症例5】 32歳1回経妊1回経産 妊娠27週時に20 mm 大の左乳房のしこりを自覚して近 医を受診し左乳癌StageⅡA(cT2N0M0 ; ER境界型、PR 境 界型、HER2 3+)と診断され当院紹介受診となった。妊娠 継続のもとに化学療法をおこなう方針とし、妊娠33週時 にAC療法を1コース行った。化学療法後の骨髄抑制と分 娩時期が重複しないよう妊娠中の化学療法を1コースで終 了し、陣痛発来まで経過観察した。化学療法施行後特記 すべき有害事象はなく、妊娠 39 週 4 日に自然分娩した。 児は 3310 g 、アプガースコア1分値8点/5分値9点だっ た。化学療法が原因と考えられる合併症なく産褥5日目に 母児ともに退院となった。産後断乳し、産褥14日目より FEC療法3コース施行した後乳房温存術をおこない、術 後放射線療法をtotal 50Gy照射した。摘出腫瘍径は 23 mm であった。現在トラスツマブ単独療法中である。 表1 症例のまとめ *ER :エストロゲンレセプター PR :プロゲステロンレセプター HER2 :human epidermal growth factor receptor
考 察
私たちは乳癌合併妊娠5例の検討から、妊娠中の乳癌の 診断契機が妊婦本人の乳房腫瘤の自覚であったこと、及 び乳癌合併妊娠でも人工妊娠中絶は不要であり、妊娠の 継続により生児を得られることを学んだ。乳癌の診断時 期は妊娠6週∼35週であり、5例とも乳房腫瘤の自覚を契 機に診断された。5例のうち妊娠中に外科的治療を行った 症例が1例、分娩後に行った症例が2例、帝王切開と同時 に行った症例が1例であった。また、妊娠中に化学療法を 施行した症例が2例、分娩後から行った症例が2例、分娩 後にホルモン療法を施行した症例が1例であり、すべての 症例で早産・低出生体重児であったために合併した新生 児一過性多呼吸や未熟児黄疸のほかに非可逆的な合併症 のない生児を得ることができた。 第1に、乳癌の発見契機は5例とも乳房腫瘤の自覚であ った。妊娠に合併した乳癌の発生頻度は1/3000程度と報 告されている1)。乳癌合併妊娠の予後は非妊娠期乳癌と有 意な差がないといわれているが4)、一方で妊娠中は乳腺に 変化が生じるため、比較的進行した状態で発見されるこ ともある5)。妊娠中においても非妊娠期と同様に乳癌は自 覚症状を契機に発見されることが多いが、診断までにか かる期間は非妊娠期乳癌で平均4.5ヵ月であるのに対し、 妊娠期乳癌では 6.3 ヵ月と長いことが報告されている6)。 しかし、乳癌治療に積極的に取り組んでいる産婦人科で は発見から1ヵ月以内に診断できるとした報告もあり7)、 自覚症状を見逃さないことが重要である。妊娠による乳 腺変化のため、マンモグラフィーによる診断率は高くな いが、超音波検査は比較的有効で低侵襲であるため取り 入れやすい。患者からの訴えを受け止め、適切なタイミ ングで専門医療機関に紹介することも大切である。 第2に、乳癌の治療のための人工妊娠中絶は不要であり、 いずれの症例でも生児を得た。乳癌合併妊娠の治療方法 として人工妊娠中絶は予後を改善しないと報告されてい るため8)、妊娠中の乳癌の治療方針は基本的に非妊娠時と 同様に決定されるが、妊娠時特有の問題もある。まず、 催奇形性の問題から妊娠初期には化学療法は施行できな い。妊娠中期以降の化学療法では、先天奇形率や自然早 産率の有意な増加はなく、新生児予後に有意な差を認め ないという報告もあるが9)、胎児の成長が障害されること で出生後の合併症が増加することも報告されており慎重 に投与する必要がある10)。また出産時の母体の血液凝固 系合併症をさけるため、妊娠35週以降または出産予定日 の3週前の投薬は中止すべきであると推奨されている11)。 さらに、妊娠中の放射線療法やホルモン療法は禁忌であ るため、診断時期と妊娠週数を考慮して総合的判断で治 療方針を決定する必要がある12)。当院では妊娠に合併し た乳癌の治療は外科に一任しているが、治療開始時期や 治療方法は妊娠週数を考慮する必要があり、話し合いを 重ねたうえで個々の症例に応じて分娩時期や授乳可否も 含め治療方針を決定している。 本症例では、妊娠中に施行された化学療法は2例ともド キソルビシンがベースとなっている。また症例1は妊娠初 期に発見された stage Ⅰ A と初期の乳癌で手術可能であ り、分娩後に後療法を行っても予後に差がないと判断さ れたため、患者と十分話し合いをしたうえで妊娠終了を 待たずに手術を施行した。症例2では乳癌発見時期が遅く、 また帝王切開が予定されていたため、外科と相談し同時 に乳房切除術をおこなう予定とした。症例3では治療の第 1選択として妊娠中の化学療法を提示し産婦人科、外科と もに話し合いを重ねたが、本人の意向を尊重して妊娠32 週で分娩とした。症例4は化学療法後の骨髄抑制と分娩時 期が重ならないよう産婦人科、外科で連携を測りながら 妊娠30週で化学療法を終了し、計画的に分娩をおこなっ た。症例5では腫瘍の大きさから乳房切除術の適応であっ たが、妊娠後期に術前化学療法を行い腫瘍の縮小を図る ことで乳房温存術をおこなえることになった症例であっ た。症例5でも産婦人科、外科で連携を測りながら化学療 法をおこなう時期を決定した。このように乳癌合併妊娠 では、乳癌の治療を考慮した妊娠・分娩管理が重要とな り、慎重に管理することで非妊娠時と同等の治療を受け ることも可能であり、人工妊娠中絶の必要はない。結 語
妊娠中は乳腺に変化が生じるため、その診断は困難で あり、進行癌として発見されることが多いと言われてい る。妊娠期の乳癌も非妊娠時の乳癌と同様に自覚症状か ら発見されることが多く、妊婦からの訴えを真摯に受け 止めることが早期発見につながる。また人工妊娠中絶は 乳癌の予後を改善させず、進行度や妊娠週数によって妊 娠を継続して治療をおこなうことができる。治療にあた って外科医との密な連携と、患者への十分なインフォー ムドコンセントを得ることが重要である。参考文献
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緒 言
妊娠性血小板減少症(Gestational thrombocytopenia:GT) は妊娠中に血小板数150,000/μl 未満となる血小板の減少 を 示 し 、 か つ 特 発 性 血 小 板 減 少 症 ( I d i o p a t h i c thrombocytopenic purpura:ITP)が否定された病態で、① 無 症 候 性 で 軽 度 の 血 小 板 減 少 を 示 し ( 典 型 的 に は 70,000/μl 以上)、②血小板減少の既往がなく(但し前回 妊娠中の血小板減少は除く)、③妊娠後期に発症し、④新 生児血小板減少症とは相関せず、⑤分娩後自然回復する という特徴がある。1)GT は妊娠中の血小板減少の主たる 原因であり、妊婦の5%に生じる。2)その妊娠アウトカム は良好であり治療を要すことはない。1)∼3) 一方、ITP は時に高度な血小板減少を認め、母児ともに 治療を要することがある。1)ともに、除外診断によって のみ診断がなされるため、血小板数<100,000/μl の中等 度から高度の血小板減少が妊娠中に初めて指摘された際 には、最終的にその鑑別は、分娩が終了しないとわから ない。1)∼3)(表1) 今回我々は、妊娠中の最低血小板数が59,000/μl まで 低下し ITP との鑑別が困難であった GT の一例を経験した ので報告する。Key words:Idiopathic thrombocytopenic purpura, Getational thrombocytopenia
症 例
患者:39歳、女性 妊娠分娩歴:0経妊0経産 原発性不妊のため、体外受精−胚移植施行し妊娠に至 り、妊娠6週で1絨毛膜双胎の診断で、当院を紹介受診し た。初診時の血液検査は血小板数219,000/μl で血小板減 少は認めなかった。その他の末梢血液、生化学所見は全 て正常範囲内であった。妊娠7-9週に重症悪阻で入院した が、補液により軽快した。その際に施行した超音波検査 で羊膜を確認し、1絨毛膜2羊膜性双胎(MD 双胎)と診 断した。以後、外来で2週間ごとに妊婦健診を行ったが双 胎間輸血症候群などの合併症を呈することなく順調に経 過し、妊娠29週に MD 双胎管理目的で入院した。 妊娠30週で施行した血液検査で血小板数122,000/μlと 減少を認めたが、妊娠高血圧症候群等の血小板減少の誘 因となるような疾患(表2)は認めず、GT を疑い経過観 察とした。妊娠33週で血小板数 78,000/μl とさらに低下 したため ITP の可能性を考慮し、当院血液内科に併診し た。末梢血塗沫標本で3系統すべてに明らかな形態異常は なく、ほかに血小板減少を来す疾患を認めなかったため、 ITP または GT と診断したが、出血傾向もなく、血小板数 50,000/μl 以上であったため厳重経過観察とした。以降 血小板数70,000/μl 台で経過していたが、妊娠37週で血 小板数59,000/μl と血小板減少の進行を認めたため、妊 娠のterminationの方針とし緊急帝王切開術を行った。 術中出血量は羊水込みで2164 g 、第Ⅰ児は2302 g 、ア プガースコア8点/9点(1分値/5分値)、第Ⅱ児は2366 g、アプガースコア8点/9点(1分値/5分値)であった。 術後経過は順調であり、帝王切開後7日目に母児ともに 退院した。血小板数は術後4日目118,000/μl 、術後1ヵ月 後には229,000/μl まで自然回復を認め、以後はフォローITPと鑑別困難であった妊娠性血小板減少症の1例
A case of gestational thrombocytopenia difficult to differentiate from idiopathic thrombocytopenic purpura
横浜市立大学附属市民総合医療センター 総合周産期母子医療センター
Maternity and Neonatal Center, Yokohama City University Medical Center
紙谷菜津子 Natsuko KAMIYA
青木 茂 Shigeru AOKI
長谷川良実 Yoshimi HASEGAWA
葛西 路 Michi KASAI
持丸 綾 Aya MOCHIMARU
笠井 絢子 Junko KASAI
望月 昭彦 Akihiko MOCHIZUKI
倉澤健太郎 Kentaro KURASAWA
高橋 恒男 Tsuneo TAKAHASHI
横浜市立大学附属病院産婦人科Department of Obstetrics and Gynecology,Yokohama City University Hospital
を行っていない。
考 案
本症例から、以下2つの臨床的意義が示唆された。第1 に GT でも血小板数<70,000/μl を示しうること、第2に ITP と GT の鑑別は分娩が終了するまでわからない場合が あるということである。 第1に GT でも高度な血小板減少を認める場合があるこ とが分かった。GT は、妊娠中の血小板減少の原因として 最も高頻度に認めるが、GT の95%は血小板数100,000/μl ∼150,000/μl であり、血小板数<80,000μlとなることは 例外的であると報告されている。2)Burrowら4)は217例の GT のうち、16例に80,000∼100,000/μl 以下の血小板減 少を認め、1例が43,000/μl まで低下したと報告している。 Matthews ら5)は101例の GT のうち、血小板数100,000/μl 以下を認めたのが15例、さらに50,000∼80,000/μl を認 めたのはそのうちの8例であったと報告している。Win ら 6)は血小板数40,000/μl 台であった6例のGT を報告して いる。当センターで経験した1例は、稀ながらも時に認め る血小板減少の範疇であることがこれらの報告からも確 認された。 第2に ITP と GT の鑑別は分娩が終了するまでわからな かった。厚生労働省特発性凝固異常症研究班による ITP の診断基準案(2004年)では、ITP の診断基準として1. 血 小板減少(10万/μl 以下)2. 末梢血塗沫標本で3系統すべ てに明らかな形態異常を認めない 3. 血小板減少を来す 他疾患の除外 をあげている。ITP の診断は除外診断であ り、出血傾向の有無は問わず、PAIgG の存在は血小板減 少を来す他疾患でも認めるため診断に有用でない。また 骨髄穿刺は特異的な所見があるわけではないので骨髄異 形成症候群(MDS)と鑑別しなくてはならない時を除き、 不要であるとされている。7)つまり、原因不明の血小板数 10万以下を来す病態がITPということになる。一方でGT は妊娠中に血小板数150,000/μl 未満となる血小板の減少 表1 TP とGT の特徴 表2 妊娠中に血小板減少をきたす疾患とその検査所見及び臨床所見を示し、かつITPでないもの1)と定義されているため、血 小板数<100,000/μl を妊娠中に示した際にはその鑑別が 問題となる。GT では、血小板数は通常産後2-12週以内に 正常域に戻るとされている8)が、本症例でも帝王切開後4 日目には血小板118,000/μlと、速やかな血小板の上昇を 認め、産後1ヵ月では血小板229,000/μlであった。本症 例では、妊娠37週で血小板数59,000/μlとさらに血小板 減少が進行したため、妊娠の termination を行ったが、「血 小板数50,000/μl以上あり、他の凝固機能が正常であれば、 安全に正常経腟分娩が可能である(推奨レベルB)」2)と ITP のガイドラインでは記載されているため、出血傾向が なくても分娩時に血小板数<50,000/μlでは血小板減少に 対する治療を行う必要がある。実際に、Win ら6)は高度 の血小板減少を認め、ITP で行われる免疫グロブリン療法 や血小板輸血といった治療を要した、5例の GT のケース を報告しているが、これら5例は分娩後に速やかな血小板 数の自然回復を認めている。 GT においても稀に重度の血小板減少を認めることがあ り、血小板減少の重症度は ITP との鑑別の参考程度にし かならない。GT は ITP と類似しており、GT を一過性の 軽症の ITP と捉えている報告も多い。1)実際、血小板減 少を認めた妊婦のうち、42%が抗血小板抗体を認めてお り、George JN9)は「妊娠中 GT と ITP との鑑別は困難で あり、軽度の血小板減少で治療不要である場合、ITP との 鑑別はあまり重要でない」と報告している。一方で、 Minakami ら10)は、高血圧を発症しなかった妊婦637名の 血小板数と AST の推移について検討し、GT 群では対照 群に比較し、有意に AST 上昇(>30 IU/l)を認め、GT は HELLP 症候群のハイリスク因子(前駆症状)であり、 軽度の GT でも注意が必要であると報告している。 ITP と血小板数100,000/μl以下を呈する GT との最終的 な鑑別は分娩が終了しなくてはわからないため、妊娠中 の治療を必要としない GT でも慎重なモニタリングに加え 長期的な follow up が必要である。
文 献
1) George JN, Woolf SH, Raskob GE, Wasser JS, Aledort LM,
Ballem PJ, Blanchette VS, Bussel JB, Cines DB, Kelton JG, Lichtin AE, McMillan R, Okerbloom JA, Regan DH, Warrier I. Idiopathic thrombocytopenic purpura: a practice guideline developed by explicit methods for the American Society of Hematology. Blood. 1996;88:3-40.
2) British Committee for Standards in Haematology General Haematology Task Force. Guidelines for the investigation and management of idiopathic thrombocytopenic purpura in adults, children and in pregnancy. Br J Haematol. 2003;120:574-96.
3) Gernsheimer T, James AH, Stasi R. How I treat thrombocytopenia in pregnancy. Blood. 2013;121:38-47. 4) Burrow RF, Kelton JG. Thrombocytopenia at delivery : A
prospective survey of 6715 deliveries. Am J Obstet Gynecol. 1990 Mar;162:731-4.
5) Matthews JH, Benjamin S, Gill DS, Smith NA. Pregnancy-associated thrombocytopenia: definition, incidence and natural history. Acta Haematol. 1990;84:24-9.
6) Win N, Rowley M, Pollard C, Beard J, Hambley H, Booker M. Severe gestational (incidental) thrombocytopenia: to treat or not to treat. Hematology. 2005;10:69-72.
7) 桑名正隆. ITPの新しい診断基準の作成(主任研究者 池田康夫). 厚生労働科学研究費補助金 難知性疾患克 服研究事業 血液凝固異常症に関する調査研究. 平成 16年度総括・分担研究報告書. 2004;78-84.
8) American College of Obstetricians and Gynecologists. Thrombocytopenia in pregnancy. Clinical management guidelines for obstetrician-gynecologists. Int J Gynaecol Obstet. 1999;67:117-28.
9) George JN. Platelets. Lancet. 2000;355:1531-9.
10)Minakami H, Kohmura Y, Izumi A, Watanabe T, Matsubara S, Sato I.Relation between gestational thrombocytopenia and the syndrome of hemolysis, elevated liver enzymes, and low platelet count (HELLP syndrome). Gynecol Obstet Invest. 1998;46:41-5.
概 要
単孔式腹腔鏡下手術(TANKO)は臍部の切開創から内 視鏡と鉗子を挿入し、手術操作を行う手術であり、整容 性に優れた低侵襲手術として急速に普及している。腹腔 鏡下子宮筋腫核出術(以下、LM)における単孔式手術へ の適応は、従来の多孔式腹腔鏡下手術に比べて手技が特 殊であり、鉗子の干渉等により操作上の制限もあるため 困難であった。今回、TANKOを改良し、E・Z アクセス TMを臍に使用し、下腹部の 2 mm切開創から細径鉗子を用 いたTANKO plus one puncture として reduced port surgery (RPS)による子宮筋腫核出術を施行した一例を経験した ので、本術式における工夫と有用性について文献的考察 を加えてここに報告する。症例は39歳、0経妊、0経産。 過多月経をともなう約 7 cm の筋層内筋腫に対し手術目的 に紹介された。性交未経験である臨床背景を考慮し、腟 式操作及び子宮鏡手術(TCR)が困難であると判断し LM の方針とした。GnRH アゴニストを2回投与し筋腫核は約 4 cm に縮小したため、TANKO plus one puncture として RPS を行った。これにより従来の4-puncture method に近い 設定で通常通りの LM が施行可能であった。筋腫核のサ イズや数、変性の有無などを検討し、十分なトレーニン グを行うことで、より小さな傷で LM 施行可能となる症 例があると考えられる。Key words : reduced port surgery (RPS), laparoscopic myomectomy, single port surgery
緒 言
単孔式腹腔鏡下手術は臍部に設けた1つの切開創から内 視鏡と鉗子を挿入し、手術操作を行う手術である。単孔 式腹腔鏡下手術は、1992年に Pelosi らによって行われた 単孔式腹腔鏡下虫垂切除術で最初に報告された1)。その後 1997年に Navarra らが経臍2点トロカーによる胆のう摘出 2)を、また1999年に Piskun らが臍内2点胆のう摘出3)を 発表したものの、単孔式腹腔鏡下手術は手技も難しく汎 用されるには至らなかった。 その後、2004年に NOTES という体表の術創をつくらな い腹腔内アプローチが報告され4)、これを応用し臍を胎生 期の生理的な孔と考え、臍をアクセスルートとした Embryonal NOTES(=単孔式腹腔鏡;TANKO)というコ ンセプトが考えられた5)。TANKOは2009年より外科領域 で爆発的な拡がりを見せ、整容性に優れた低侵襲手術と して近年婦人科手術においても急速に普及している5)。し かし手技の困難性から適応可能な術式は限られ、婦人科 では比較的単純な卵巣嚢腫切除術などに導入されてきた。 腹腔鏡下子宮筋腫核出術(以下、LM)は、すでに子宮 筋腫に対する標準的術式となったが、TANKO への適応は 従来の多孔式腹腔鏡下手術に比べて手技が特殊であり、 鉗子の干渉等により操作上の制限もあるため困難であっ た。これまで我々は腟式回収を施行することで、可視的 な創部を少しでも減らす努力をしたが、TANKO を応用し、 プラットフォームとして E・Z アクセスTMを臍に使用し、 下腹部の 2 mm 切開創から細径把持鉗子を用いた TANKO plus one puncture として reduced port surgery(RPS)による 子宮筋腫核出術を施行した一例を経験したので、本術式 における工夫と有用性について文献的考察を加えてここ に報告する。症 例
39歳0回経妊0回経産、性交未経験。 家族歴・既往歴:特記すべき事なし 現病歴:過多月経を主訴に前医を受診し、経腟超音波 検査にて子宮底部に約 7 cm 大の子宮筋腫を認め手術目的 で当院紹介受診となった。術前に施行した MRI 画像(図 1a,b)では子宮底部に約 7 cm の筋層内筋腫を認め、内腔 への突出率は50%未満であった。このような術前評価をTANKO plus one punctureにて施行しえた腹腔鏡下子宮筋腫核出術の1例
A case of laparoscopic myomectomy perfomed by the TANKO plus one puncture method
川崎市立井田病院 婦人科1)
東海大学医学部 専門診療学系 産婦人科学2) 川崎市立川崎病院 産婦人科3)
Department of Gynecology, Kawasaki Municipal Ida Hospital1) Department of Obstetrics and Gynecology, Tokai University Hospital2)
Department of Obstetrics and Gynecology, Kawasaki Municipal Kawasaki Hospital3)
植木 有紗
1)Arisa UEKI
浅井 哲
1)2)Satoshi ASAI
林 保良
3)Bao-Liang LIN
宮本 尚彦
1)Naohiko MIYAMOTO
中田さくら
1)Sakura NAKADA
図1 MRI 画像(T 2強調像) 子宮底部に約7cmの筋層内筋腫を認め、内腔への突出率は50%未満であった 図2 トロカー配置 a).矢状断 a).臍部のプラットフォームと細径把持鉗子の配置 b).水平断 b).腹腔内より観察したEndoReliefR(○囲み) 行い、また性交未経験である臨床背景を考慮し、腟式操 作及び子宮鏡手術(TCR)が困難であると判断し LM の 方針とした。術前に GnRH アゴニストを 2 回投与した。 GnRH アゴニストの効果で子宮底部の筋腫核は経腟超音 波上約 4 cm にサイズが縮小したため、臍部にプラットフ ォームを設置し、左下腹部に細径把持鉗子を使用した 2 mmトロカーを挿入する RPS の方針とした。
手術手技及び術中所見
全身麻酔下に子宮マニピュレーターを挿入し手術を開 始した。臍部のプラットフォームは 5 mm トロカーが2本 挿入できるタイプ( E・Z アクセスTMラッププロテクタ ー FF 0504用及びラッププロテクター FF 0504;Hakko) を選択し、切開創は 1.5 cm とした(図2a)。また、細径把 持鉗子として Endo ReliefR(ホープ電子)を選択し、左 下腹部に挿入した。Endo ReliefRはトロカーと一体化して いる鉗子であり、2 mm の創で挿入可能である(図2b)。 5 mm 硬性鏡にて腹腔内を観察すると、子宮底部に約 3cmの子宮筋腫を認め、両側付属器は正常であった(図 3a)。plus one puncture として細径把持鉗子を併用したこと で、従来の 4-puncture method に近い設定で、通常通りの LMが施行可能であった。核出は100倍希釈バソプレシン を局注し筋腫周囲に浸潤させ、モノポーラで筋層切開し、 細径把持鉗子で筋腫核を把持しながらクーパーを使用し 筋腫核周囲を剥離し核出を行った(図3 b)。術中に内膜 穿破あり、3-0モノクリルRで内膜面を修復後に、筋層欠 損部を0-オペポリックスR及び 0-モノクリルRで2層に連 続縫合し修復した(図3 c)。筋腫は臍部のプラットフォームより、メスによるモルセレーションを行い搬出した。 出血少量、手術時間は85分であった。