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Microsoft Word 「減水曲線で森林の渇水緩和機能を評価する手法について」本部(氏名入り)

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Academic year: 2021

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1 減水曲線で森林の渇水緩和機能を評価する手法について-淡路島南部諭鶴羽ダム流域を事例に 国立研究開発法人森林総合研究所 森林整備センター 森林業務部 森林企画課 井上 清美 水土保全研究領域 水保全研究室 玉井 幸治 森林整備センター 森林業務部 森林企画課 青柳 浩 1.はじめに 森林の渇水緩和機能に関しては,森林の成長に伴い渇水流量はどのように変わるかという問題がある。渇 水流量を比較する方法の一つに,林齢が異なるそれぞれの時期で洪水後の減水曲線を調べる方法がある。 しかし,無降雨が長期間続くような状況が稀であるため,この方法では渇水時の流量データを揃えることの難 しさが伴う。そのため,一雨ひ と あめを対象とする短期水収支で直接流出量,基底流出量,蒸発散量を求め,これらに 基づいて減水曲線を作成し渇水流量を比較する手法を試みた。この手法を淡路島南部の諭鶴羽ダム流域に 適用した結果を報告する。 2.調査地の概要 洪水調節を主目的とした諭鶴羽ダムは 1975 年に完成した。流域面積が 4.1km2と小さいこと,流域の林相が 単純であること,長期間の雨量・流量データが揃うことなどを理由に諭鶴羽ダム流域を調査地とした。 図-1 諭鶴羽ダム流域 ① 気候 淡路島は温暖少雨の瀬戸内気候区に区分される。諭鶴羽ダムの西5kmのアメダス南淡観測所では年雨量 1200mm と少ないが,山間部の諭鶴羽ダムでは 1600mm(1976 年-2010 年)と多くなる。年平均気温は約 14℃, 温量指数は 110 前後で照葉樹林帯に属する。 ② 地形・地質 ダム流域の標高は 180m~580m,最大幅 2km,主流長 4km で細長い流域形状を呈する。地質は白亜紀後 期の和泉層群で,泥岩,砂岩,礫岩の互層からなる。 ③ 森林

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2 流域の土地利用の殆どは森林で,その 70%は 1950~1960 年代に更新されたカシ,スダジイ,コナラなどの 広葉樹林である。かつてアカマツ林が存在したが,現在は殆ど消滅している。広葉樹林の他は 1960 年頃に植 栽されたスギ・ヒノキ林が流域の下流部で 10%,1990 年代前半に植栽されたヒノキ林(水源林造成事業地)が 中・上流部で 20%の面積を占めている。 図-2 諭鶴羽ダム流域の森林分布 3.調査方法 3.1 洪水事例の収集 一雨を対象とする短期水収支を行うに当たって,5月~10 月の洪水の中から雨量が 50mm~200mm,初期 流量(直接流出開始時の流量)が 0.5~2mm などの条件を設定し,22 の洪水事例を収集した。2009 年以降は 流量の観測誤差が見込まれたため,事例の収集は 2008 年までを対象とした。 林齢が異なる2つの時期で水収支を比較するため、過去に遡って流域全体の平均林齢を把握した。図-3 は森林簿に記載されている樹種,林齢,面積のデータに基づいて過去の林齢を推定したものである。ダムが 完成した 1975 年当時,流域全体の平均林齢は 18.5 年,1990 年から5年間ヒノキの植栽が行われ,この間の 平均林齢は 31 年前後で推移している。この植栽は 1994 年にほぼ終了し,翌年から再び1年ずつ林齢が積み 上がっている。 図-3 平均林齢の推移 1 3 .5 1 4 .5 1 5 .5 1 6 .5 1 7 .5 1 8 .5 1 9 .5 2 0 .5 2 1 .5 2 2 .5 2 3 .5 2 4 .5 2 5. 5 2 6 .5 2 7 .5 2 7 .9 2 8 .9 2 9 .9 3 0 .9 3 1 .9 3 2. 0 3 1 .5 3 0 .5 3 0 .5 3 0 .6 3 1. 6 3 2 .6 3 3 .6 3 4 .6 3 5 .1 3 6 .1 3 7 .1 3 8 .1 3 9 .1 4 0 .1 4 1 .1 4 2 .1 4 3 .1 4 4 .1 4 5 .1 4 6 .1 4 7 .1 4 8 .1 4 9 .1 5 0. 1 5 1 .1 0 10 20 30 40 50 60 1970年 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 2015年 平 均 林 齢 (年 ) 前期 後期 ヒノキ植栽

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3 図-3 を参考に 1979 年からヒノキ植栽前の 1986 年までの8年間を前期とした(1978 年以前と 1987 年~1989 年は事例なし)。前期の平均林齢は 22~29 年で,この間の洪水事例は 10 である。また,前期の林齢と重なら ないように 1995 年~2004 年の 10 年間を後期とした(2005 年~2008 年は事例なし)。後期の平均林齢は 31~ 40 年で,この間の洪水事例数は 12 である。 3.2 短期水収支とハイドログラフ模式図の作成 短期水収支では通例 10 日~2ヶ月を目処に水収支期間が設定されるが,本調査では1つの降雨を挟んで 流量及び流量変化率が概ね同じである日を水収支期間の起点日と終点日とする。その期間は1~2週間と短 いため,水収支が終了した時点での流量は渇水流量の水準よりも大きい。渇水流量は大雨から1ヶ月程経過 したときの流量と言われている。そのため,この水収支で得られたデータを用いてハイドログラフ模式図を作り, その減水曲線で1ヶ月後の渇水流量を求める。ハイドログラフの模式図は次のように作成する(図-4)。 図-4 ハイドログラフ模式図の作成 ① 雨量 100mm を想定し,そのときの直接流出量(Rd),基底流出量(Rb),初期流量(qi),水収支期間日数(T) を短期水収支で得られた結果に基づいて計算する。 ② 水収支の起点日は直接流出開始日に合わせる。直接流出の生起期間は3日,ピーク流量までは1日とす る。 ③ 直接流出終了日の流量(q0)を仮定し,直接流出が生起している間の基底流量をqiとq0を結ぶ1次関数式 (1)で表す。直接流出終了後はq0と水収支終点日の流量(qi)を結ぶ分数関数式(2)で減水曲線を表す。 q=a・t+qi (1) q=q0/(1+b・t)2 (2) ④ (1)式と(2)式の各々を積分して基底流出量を計算する。両者の和が水収支による基底流出量(Rb)に一致 すればq0が確定する。 ⑤ 次にピーク流量(qp)を仮定し,qiと qpを直線で,qpとq0を分数関数式による曲線で結び,基底流出量の場 合と同様にして直接流出時の総流出量を計算する。この総流出量から基底流出量分を引いた値は直接 流出量となる。この値が短期水収支で得られた直接流出量(Rd)に一致すれば qpが確定する。 4.調査結果 4.1 一雨を対象とする短期水収支 0 20 40 60 80 100 120 140 160 0 5 10 15 20 25 30 35 40 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 雨 量 (m m / 日 ) 流 量 (m m / 日 ) qp 初期流量:qi qo 水収支期間:T(日) qi 減水曲線:q=qo/(1+bt)2 直接流出量:Rd 基底流出量:Rb

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4 ハイドログラフ模式図の作成に先立って雨量と直接流出量,基底流出量の関係を求める。直接流出量と基 底流出量は初期流量の影響があるが,前期と後期の初期流量の平均がそれぞれ 1.10 と 1.09 であるので初期 流量の影響を考慮する必要はなく,図-5 に雨量と直接流出量,基底流出量の関係を単回帰式で表した。 直接流出量については,有意水準 5%のt検定で前期と後期の回帰式の併合検定を行った。サンプル数の 問題もあって有意差は認められなかったが,雨量が 100mm のときの直接流出量は前期 38.1mm,後期 33.8mm となり 4.3mm の減少であった。 図-5 雨量(P)と直接流出量(Rd),基底流出量(Rb)の関係 基底流出量は,前期と後期の回帰直線が殆ど重なるので前期と後期を区別することなく,改めて(3)式の回 帰式を作った。雨量 100mm のときの基底流出量は 27.2mm となる。 Rb =0.2665・P+0.5076 (3) ハイドログラフ模式図の作成では水収支期間の日数も定める必要がある。水収支期間日数に関係する要因 として雨量,蒸発散量(=雨量-流出量)が考えられるが,蒸発散量を用いたときの方が決定係数 R2の値が大 きくなる。そこで,図-6 のように前期と後期の各々について水収支日数と蒸発散量の関係をベキ乗関数で回 帰したが,2本の回帰曲線は殆ど重なるため,前期と後期を区別することなく,改めて水収支日数と蒸発散量 の関係を(4)式で表した。 Et=9.565・t0.542 (4) 雨量 100mm のとき,前期と後期の蒸発散量は各々34.7mm,39.1mm となるので,水収支期間日数として前 期 10.8 日,後期 13.4 日が得られる。 0 20 40 60 80 100 0 50 100 150 200 直 接 流 出 量 , R d( m m ) 雨量,P(mm) 前期 Rd=0.607・P-22.567 後期 Rd=0.540・P-20.232 0 20 40 60 80 0 50 100 150 200 基 底 流 出 量 , R b( m m ) 雨量,P(mm) 前期 Rb=0.267・P+0.320 後期 Rb=0.268・P+0.519

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5 図-6 水収支期間日数と蒸発散量の関係 4.2 減水曲線による渇水流量の比較 前期と後期の短期水収支結果に基づいてハイドログラフの模式図を作り,その減水曲線から 1 ヵ月後の基底 流量を比較する。表-1 にハイドログラフ模式図を作成するための条件を示した。 表-1 ハイドログラフ模式図の作成条件 図-7 に前期と後期のハイドログラフ模式図を示した。直接流出が終了して1ヶ月後の流量計算値は,前期 の 0.17(mm/日)に対して後期は 0.33(mm/日)と約2倍の大きさである。1981 年7月に 102mm の降雨があり,こ のときの流量観測値を並べると,前期の流量計算値はこの観測値をよく再現している(流量計算値の相対誤差(=| 観測値-計算値|/観測値)の平均は前期 0.34,後期 1.00)。 以上のように,渇水流量は短期水収支結果に基づいて作成した減水曲線で評価することができ,諭鶴羽ダ ム流域の場合は,森林の成長に伴い渇水流量が増大するという結果が得られた。 0 20 40 60 80 0 5 10 15 20 蒸 発 散 量 , E t( m m ) 水収支期間日数,t(日) 前期 Et=9.761・t^0.533 R^2=0.491 後期 Et=9.393・t^0.550 R^2=0.390 項   目 前期 後期 雨量(mm) 100.0 100.0 直接流出量(mm) 38.1 33.8 基底流出量(mm) 27.2 27.2 水収支期間(日) 10.8 13.4 直接流出生起日数 3 3 ピーク流量までの日数 1 1 直接流出開始時流量(mm/日) 1.1 1.1 水収支起点日,終点日流量(mm/日) 1.1 1.1 1 .7 4 1 .4 7 1. 2 7 1 .1 0 2 .3 8 3 .6 6 4 .9 4 3 .7 7 2 .9 8 2 .4 1 1 .9 9 1 .6 7 1 .4 2 1 .2 2 1 .0 7 0 .9 4 0 .8 3 0 .7 4 0 .6 6 0 .6 0 0 .5 4 0 .4 9 0 .4 5 0 .4 2 0 .3 8 0 .3 5 0 .3 3 0 .3 1 0 .2 8 0 .2 7 0 .2 5 0 .2 3 0 .2 2 0 .2 1 0 .2 0 0 .1 8 0 .1 7 0 .1 7 0 .1 6 3 8 .2 8 1 0 .6 9 4 .9 4 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 0 1 2 3 4 5 10 15 20 25 30 35 雨 量 (m m / 日 ) 流 量 (m m / 日 ) 日 流量観測値(1981年7月) 流量計算値(前期) 水収支期間:10.8 日 直接流出量:38.1mm 基底流出量:27.2mm

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6 図-7 前期と後期のハイドログラフ模式図(雨量 100mm) 1 .4 4 1 .3 1 1 .2 0 1 .1 0 1 .8 9 2 .6 7 3 .4 6 3 .0 0 2 .6 2 2 .3 1 2 .0 6 1 .8 4 1 .6 6 1 .5 0 1. 3 6 1 .2 4 1 .1 4 1. 0 5 0 .9 7 0 .9 0 0 .8 3 0. 7 7 0 .7 2 0 .6 8 0 .6 3 0 .6 0 0 .5 6 0 .5 3 0. 5 0 0 .4 7 0 .4 5 0 .4 2 0 .4 0 0 .3 8 0 .3 7 0 .3 5 0 .3 3 0 .3 2 0. 3 0 3 5 .6 8 8 .0 4 3 .4 6 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 0 1 2 3 4 5 10 15 20 25 30 35 雨 量 (m m / 日 ) 流 量 (m m / 日 ) 日 流量観測値(1981年7月) 流量計算値(後期) 水収支期間:13.4 日 直接流出量:33.8mm 基底流出量:27.2mm

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