有痛性筋症状を呈し,シェーグレン症候群を合併した
サルコイドーシスの1例
松井祥子,相川秀彦,山下直宏,荒井信貴,多喜博文,杉山英二,丸山宗治,小林正
【要旨】
症例は54歳女性.約1年前より大腿部及び下腿部に腫瘤を認め,同部の疼痛のため,近医にて腫瘤摘出術を受けた.その病 理組織所見にて,サルコイドーシスを疑われ,当科に入院となった.胸部X線上,両側肺門リンパ節腫大および肺野病変もみ られたため経気管支肺生検を施行し,サルコイドーシスとの診断を得た.臨床的に,日常生活に支障をきたすほどの有痛性筋 症状のため,ステロイド療法を開始したところ,筋症状はすみやかに改善した.本症例は,2年来の眼・口腔内乾燥症状がみ られ,血清学的検査,唾液腺造影の結果から,シェーグレン症候群の合併と診断した.本症例は,有痛性筋症状を呈し,シェー グレン症候群を合併した稀なサルコイドーシスの1例と考えられた. [日サ会誌 2000;20:65-69] キーワード: サルコイドーシス,筋腫瘤,ステロイド療法,シェーグレン症候群A Case of Sarcoidosis with Symptomatic Muscle Involvements
and Sjögren’s Syndrome
Shoko Matsui, Hidehiko Aikawa, Naohiro Yamashita, Nobuki Arai, Hirofumi Taki, Eiji Sugiyama,
Muneharu Maruyama, and Masashi Kobayashi
【ABSTRACT】
A 54-year old woman was admitted to a local hospital with severe muscle pain and solid masses of both legs. She was trans-fered to our hospital for further examination, because sarcoidosis was suspected by the histological examination of muscle biopsy. A chest X-ray film revealed bilateral hilar lymphadenopathy and diffuse reticulonodular opacities in both lungs. Histo-logical examination of transbronchial lung biopsy specimens showed non-caseous epithelioid cell granulomas, and on these bases a diagnosis of sarcoidosis was made. Her clinical conditions improved, and solid masses subsided after the administration of prednisolone. She had the symptoms of eye and mouth dryness for 2 years, and the diagnosis of Sjögren’s syndrome was made by laboratory findings and sialography. This was a rare case of sarcoidosis with symptomatic muscle involvements and Sjögren’s syndrome.
[JJSOG 2000;20:65-69]
keywords ;
Sarcoidosis, Muscle nodules, Steroid therapy, Sjögren’s syndrome
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富山医科薬科大学医学部第一内科 著者連絡先: 松井祥子 富山医科薬科大学 第一内科 〒930-0194 富山市杉谷2630 TEL 076-434-7287 FAX 076-434-5025First Department of Internal Medicine, Toyama Medical and Pharmaceutical University, Faculty of Medicine
はじめに
サルコイドーシス(以下サ症)は全身の多臓器に非乾酪 性類上皮細胞肉芽腫が出現する原因不明の疾患であるが, 臨床的に筋症状を伴うサ症は稀とされている1).また筋症 状を呈するサ症は,中年女性に多く,免疫複合体が関与し ている例も報告されている2).一方,シェーグレン症候群 (以下SS)は乾燥性角結膜炎,慢性唾液腺炎による乾燥症 状を主徴とし,唾液腺,涙腺など外分泌腺を標的臓器とす る自己免疫疾患である.多彩な免疫異常を伴い,しばしば 他の膠原病と合併する3).今回我々は,臨床的に有痛性筋 症状を呈し,SSを合併した,サ症の1例を経験したので若 干の考察を加え報告する.症例
●患 者:54歳,女性,主婦. ●主 訴:膝関節屈曲時の大腿部疼痛. ●既往歴: 35歳時:虫垂炎,53歳時:乳頭浮腫 ●家族歴:父と兄が膵臓癌. ●現病歴:1996年11月頃より右下腿部に母指頭大の硬結を 触知するようになった.その硬結が徐々に増大し腫瘤状と なり,また膝の屈曲の度に右大腿部にひきつるような痛み を覚えるようになったため,1997年9月,近医を受診し,下 腿腫瘍の疑いにて,腫瘤摘出術を受けた.その切除病理標 本にて,類上皮細胞肉芽腫を認め,サ症が疑われたために, 1997年10月当科を紹介され,同年12月精査目的で入院と なった. ●入院時現症:身長155cm,体重57kg,体温36.5℃,血圧 126/88mmHg,脈拍70/分整.表在リンパ節は触知せず.聴 診所見では胸骨左縁第4肋間にレバインII/VI度の収縮期 雑音を聴取.肺音,清.腹部,異常なし.両下腿に複数の 直径3cm大,右大腿内側には10×5cm大の,可動性のない 腫瘤を触知し,圧痛を認めた.筋力低下や筋萎縮は認めず, 神経学的所見にも異常はなかった. ●入院時検査所見(Table 1):末梢血では,白血球分画で 好酸球とリンパ球の軽度増加を認めた.生化学検査ではγ -GTPとALPの軽度上昇を認めた.ツ反は陰性で,血清学的 には,ACEが30U/mlと高値であり,リウマチ因子陽性,抗核抗体陽性,SS-A陽性,免疫複合体がC1Q-IC 3.2μGEQ/ dlと上昇を認めた.呼吸機能検査,血液ガス分析では異常 は認めなかった.心電図上は左室肥大があり,その後の精 査で心サ症を疑われたが,確定診断には至らなかった.眼 底には異常はみられなかった.入院時胸部X線所見では,両 側肺門リンパ節腫大(BHL)と肺野の網状影を認め,サ症 のII期に相当した(Figure 1.A).胸部CT(Figure 1.B)で も肺門,縦隔リンパ節腫大および肺野に網状影を認めた. 疼 痛 を 訴 え て い た 右 大 腿 部MRIで は, rt. vastus medialis muscles 内 にT1 強 調 に てiso∼high,T2強 調 に て high-intensityの横径1.5∼2.7cm,長径9cm大の結節性病変を認め
(Figure 2.A),筋肉内腫瘤が示唆された.また,Gaシンチ
では,両側肺門部,右大腿部,両側下腿部への著明な取り 込みを認めた(Figure 2.B).
Table.1 Laboratory findings on admission
Hematology ESR 11 mm/h
WBC 4250/mm3 CRP 0.1 mm/h
Neutro 34.0% Serology
Lymph 45.0% RF 44 IU/ml
Mono 11.0% ANA 2.0 U/ml
Eo 7.0% SS-A x16
RBC 393×104/mm3 SS-B (-)
Hb 12.2 g/dl C1q-IC 3.2 μGEQ/dl
Plt 24.4×104/mm3 C3d-IC 4.4 μGEQ/dl
Blood chemistry Blood gas analysis (Room air)
TP 7.2 g/dl pH 7.429
Alb 63.0% PaCO2 42.9 Torr
α1 Grob 2.4% PaO2 80.1 Torr
α2 Grob 8.2% 〔Hco3-〕 27.9 mmol/l
β Grob 8.8% BE 3.6 mmol/l
γ Grob 17.6% Pulmonary function test
GOT 26 IU/l FVC 2.55 l
GPT 15 IU/l %VC 100.7%
LDH 207 IU/l FEV1 2.07 l
ALP 341 IU/l FEV1% 81.1%
γ-GTP 56 IU/l %DLco 78%
Amy 110 IU/l BALF
CPK 140 IU/l TCC 1.1×105/ml
ACE 30 IU/l recovery 51%
Lyso 14.3μg/ml Mφ 71.7%
PPD (-) Lymph 28.3%
気管支肺胞洗浄液では,総細胞数,リンパ球の増加と CD4/CD8比の上昇がみられた.経気管支肺生検で得られた 肺組織の標本では,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が認められ (Figure 3.A),サ症の所見に一致した.前医で施行された右 下 腿腫瘤の摘出標本にも同 様の所見がみられた(Figure 3.B).神経伝導速度および筋電図検査を施行したところ, 神経伝導速度はやや低下しており,筋電図では,左の大腿 四頭筋で,polyphasic dischargeを認め,軽度の神経・筋障 害が疑われた. また,自覚的に2年余にわたる眼・口腔乾燥症状を有して いたため,精査を行った結果,SS-A陽性,ガム試験陽性, Schirmer試験陽性,耳下腺造影陽性であり,SSと診断した. 口唇小唾液腺生検はステロイド投与後に施行したため,萎 縮した唾液腺と線維性変化がみられたのみであり,特徴的 な所見は得られなかった.以上より,肺病変と軽度の神経・ 筋障害を示す筋腫瘤型のサ症にSSを合併していると診断 した.
Figure 1 Chest X-ray film (A) and Chest CT scan (B) taken on December 16, 1996, showing hilar and mediastinal lymphadenopathy in both lungs and reticulonodular shadows in the whole lung fields.
Figure 2 Right femoral MRI showing a giant nodule in the femoral muscle (A; indicated by arrows).
Gallium-67 scintigram showing marked accumulations in the mediastinum of the lungs and both legs (B).
(Figure 1.A)
(Figure 1.B)
(Figure 2.B) (Figure 2.A)
(Figure 3.A) (Figure 3.B)
Figure 3 Photomicrograph of a transbronchial lung biopsy specimen from the rt. S5 (A), showing non-caseating epithelioid cell granuloma and Langhans giant cells (HE stain x15).
Photomicrograph of a muscle biopsy specimen in the right lower leg (B), showing giant non-caseating granuloma with degenerative changes in the muscle fibers (HE stain x15).
●入院後経過 主訴である筋肉痛に対し,まず安静を保たせたが,3ヶ 月間の経過観察中に症状が改善せず,疼痛のため屈曲でき ないほどの活動域の制限を認めるようになったため,ステ ロイドによる治療を開始した.プレドニゾロン60mg/日の 隔日投与にて,筋肉痛は減少し始め,1カ月後にはほぼ消失 した.右下腿の腫瘤も触知しなくなり,眼・口腔乾燥症状 も軽快した.検査所見ではACEの低下が認められた.胸部 X線および胸部CTではBHLの縮小および肺野病変の改善 が認められ,右大腿部MRIでは結節性病変の消失がみられ た(Figure 4.A).Gaシンチでも,肺門部,右大腿部および 両下腿部への取り込みが消失した(Figure 4.B).神経伝導 速度,筋電図においても改善が認められた. 以上から,自覚症状,検査所見,画像所見のいずれにも 明らかな改善が認められ,ステロイドが著効したと考えら れた.しかし,文献的には筋サ症の半数に再発がみられた ことから4),ステロイドの減量を慎重に行っており,投与 開始後2年を経た現在は,プレドニゾロン7.5mg/日の隔日投 与にて,再発を認めておらず,経過は順調である.
考察
サ症は原因不明の多臓器疾患であり,筋肉は,肺や肝臓 とともに高頻度に肉芽腫を認める臓器である5).筋サ症は, 一般に1)症状を呈さない無症候型と2)臨床症状を伴う 症候型があり,症候型はさらに腫瘤を触知する腫瘤型と筋 炎や筋萎縮,筋力低下などの症状を示すmyopathy型の2つ に分類される1).Zismanらは1908年から1995年までの筋サ 症の文献をまとめ,無症候型筋病変はサ症の20%から75%に 存在するが,症候型は0.5%以下であったと報告している6). 本邦では,山本らは,サ症491例中腫瘤型筋サ症は12例(2.4 %)と報告しており,立花の肺外病変の全国集計7)では, 筋病変130例中腫瘤型は78例であった.myopathy型はさら に少なく,山本らの報告では,491例中1例のみ,立花の 全国集計では筋病変130例中29例であった1) 7).myopathy型 の中には筋腫瘤で初発し,慢性の経過をたどって筋力低下 をきたすものも報告されている8).本症例は筋炎や筋萎縮, 筋力低下などは呈していないため,腫瘤型筋サ症であると 考えられるが,神経伝導速度や筋電図で軽度の神経・筋障 害を認めたことから,腫瘤型からmyopathy型への移行期に あったのかもしれない. 治療は,有症状例に対してのみステロイド療法が適応で あるが,ステロイド投与を受けた約半数に再発がみられた ことから,慎重な経過観察が必要とされている.本症例は, 今回のエピソードの6ヶ月前に,他の病院にて原因不明の 特発性乳頭浮腫と診断され,プレドニゾロン30mg/日を投 与され1ヶ月間で漸減中止された既往があった.乳頭浮腫 の原因の一つにサ症も挙げられることから,無症状の筋サ 症の経過中に眼症状としての乳頭浮腫を起こし,その治療 のために投与されたステロイドの短期間での投与中止が筋 サ症を有症状化させた可能性が考えられた.そのためプレ ドニゾロン60mg/日隔日から投与を開始し,ゆっくりと漸 減した結果,2年を経た現在では,7.5mg/日隔日投与にて再 発を認めておらず,経過は順調である. サ症とSSの合併については報告が散見されるが9-12),サ 症にsicca症状をきたすことがあり13),鑑別診断が困難な場 合もあると考えられる.確定診断には,口唇小唾液腺生検 にてリンパ球浸潤もしくは類上皮肉芽腫を確認することで あるが,本例はステロイド投与後に生検を施行したため, 特徴的な診断を得ることができなかった.しかし,乾燥症 状の出現が筋症状に先行することや複数の自己抗体陽性な どの検査所見から,SSを合併したものと診断した.SSの唾 液腺では,CD4陽性ヘルパーT細胞の増加,IFN-γの産生, IL-2mRNAの増加などが認められている3).サ症において もCD4陽性T細胞を認め,IFN-γやIL-2などのTh1サイトカ インが肉芽腫形成に重要な役割をはたしていると考えられFigure 4 Right femoral MRI obtained after corticosteroid therapy, showing disappearance of nodules in the muscle (A), and Gallium-67 scintigram showing no abnormal accumulation in the lungs and both legs (B).
(Figure 4.A)
ており,両者の病因に何らかの共通な免疫異常が関与して いることも推察される.さらに,本症例のように筋症状を 有するサ症の発症には,Immune complex の関与も言われ ており,SSなどの自己免疫疾患の病態形成との類似点が考 えられることからも,大変興味深い.症例の積み重ねによ る今後の検討が望まれる.
引用文献
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