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(1)

監修

大阪大学名誉教授

岡田 正

REVIEW NUTRITION & DISEASE 高齢者の低栄養における栄養管理 名古屋大学大学院医学系研究科老年科学 特命教授 葛谷 雅文 癌化学療法時の栄養管理 岐阜市民病院呼吸器科・腫瘍内科 部長 澤 祥幸 経管栄養施行患者の口腔ケア 日本大学歯学部摂食機能療法学 教授 植田 耕一郎 NUTRITION CASE REPORT

経腸栄養剤の変更・中止によりワルファリンの抗凝固作用に 変動をきたした症例の検討 社会保険小倉記念病院救急部 中島 研 ほか 同種造血幹細胞移植後の慢性呼吸不全に対し, プルモケア®が有用であった症例 独立行政法人国立病院機構 熊本医療センター呼吸器内科 医長 森松 嘉孝 ほか 巻頭言 栄養アセスメントにおけるアルブミン測定の意義 大阪大学名誉教授 岡田 正 NST/ASSESSMENT NETWORK NST+嚥下リハビリチーム+口腔ケアチームが経口摂取をめざして, 集学的に栄養管理を実践 愛媛労災病院脳神経外科 部長 福井 啓二 カンファレンス,セミナーを活用して栄養管理に対する コンセンサスを得る ─病棟単位から病院全体へ, そして地域全体に 社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷横浜病院脳神経外科 部長 太田 誠志 CURRENT TOPICS 二重エネルギーX線吸収測定法

(dual energy X-ray absorptiometry;DEXA)による栄養評価 大阪樟蔭女子大学大学院人間科学研究科人間栄養学専攻 教授 山東 勤弥 NS PHARMACIST

薬剤の経管投与に関する問題点

東京都老人医療センター薬剤科 課長補佐 阿部 和史

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Medical Magazine 2006 Vol.7 No.2

巻頭言 栄養アセスメントにおけるアルブミン測定の意義 p.3 岡田 NST/ASSESSMENT NETWORK NST+嚥下リハビリチーム+口腔ケアチームが経口摂取をめざして,集学的に栄養管理を実践 p.4−7 福井 啓二 カンファレンス,セミナーを活用して栄養管理に対するコンセンサスを得る ──病棟単位から病院全体へ,そして地域全体に p.8−11 太田 誠志 CURRENT TOPICS

二重エネルギーX線吸収測定法(dual energy X-ray absorptiometry;DEXA)による栄養評価 p.12−14

山東 勤弥

NS PHARMACIST

薬剤の経管投与に関する問題点 p.15−17

阿部 和史

REVIEW NUTRITION & DISEASE

高齢者の低栄養における栄養管理 p.18−21 葛谷 雅文 癌化学療法時の栄養管理 p.22−26 祥幸 経管栄養施行患者の口腔ケア p.27−29 植田耕一郎

NUTRITION CASE REPORT

経腸栄養剤の変更・中止によりワルファリンの抗凝固作用に変動をきたした症例の検討 p.30−31

中島 研ほか

同種造血幹細胞移植後の慢性呼吸不全に対し,プルモケア!が有用であった症例 p.32−33

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栄養アセスメントにおける

アルブミン測定の意義

大阪大学名誉教授

岡田

栄養アセスメントの第一歩は身体測定および血清アルブミン値の測定である といわれるようになって久しい。両者のスクリーニング的意義に関しては今日 ほぼ確立されていると思われるが,より詳細な検討やその意義ということにな ったとき,未解決の課題は多い。本号の葛谷雅文教授による「高齢者の低栄養 における栄養管理」では,血清アルブミン値の解釈をするうえで陥りやすい重 要な問題点が指摘されている。 第1は半減期の問題である。トランスフェリン,プレアルブミン,レチノー ル結合たん白質など(rapid turnover proteins)がそれぞれの代謝回転率に応じ た動きを示すことにより,これらを連続的に測定比較すれば,どの時点で測定 を行ったのか明瞭となる。第2は,臥位で測定した値が立位または座位で測定 した値に比べ低く検出される点である。寝たきりの高齢者を扱ううえで必須の 事項であろう。第3はストレスの関与である。急性の外傷,手術,感染症など により血管の透過性が亢進し,循環血液量が増加することが知られており,そ の主犯としてサイトカイン(tumor necrosis factor,interleukin-1または6)があ げられている。第4は心不全,腎不全,肝不全などの臓器不全時には大量の水 分が血管内に入り込み,循環血液量の増加,ひいてはアルブミン値の低下をも たらす。これらの問題点があるにもかかわらず,これだけ広くアルブミン値が 用いられ一般的であるゆえんは,安定期(循環的,代謝的)であるという条件が 満たされるかぎりにおいて,ほぼ安定した値を得ることができるという点であ る。 さて,最近注目されつつあるのがDEXAによる栄養評価である。この方法は 二重エネルギーX線吸収測定法(dual energy X-ray absorptiometry;DEXA) の略であり,生体試料に2つのエネルギーのX線を照射して,その減衰率から 骨塩量と軟部組織を定量的に解析する方法である。本来DEXAは骨塩量定量が 目的で開発された機器ではあるが,lean body mass(fat free mass)については 除脂肪組織の水分含有量を一定の73%とする仮定に基づいており,このことが 妥当であるとするならば,gold standardにより一歩近づいた指標といえる可 能性がある。

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Nutrition Support Journal 19

栄養管理は管理栄養士だけでなく

チームで行うことがベストだと知る

患者が必要十分な栄養量を経口摂取できない背景 には,もともとの低栄養や服用薬剤の影響,嚥下障 害などさまざまな要因がある。栄養管理室の中野恵 子先生(写真2)ほか管理栄養士らは,研修会や日本 静脈経腸栄養学会,日本病態栄養学会などへの参加 や病棟で患者に栄養指導を行った経験から,「栄養 管理は管理栄養士だけでなく,他の医療スタッフの それぞれの専門性を活かして協力して行う必要があ る」とチーム医療の必要性を実感していた。中野先 生は労災病院栄養士協議会の会長を務めていた時期 に,本部へNST活動の推進を懸案事項として提出し ていたが,なかなかその要望は聞き入れられなかっ た。NSTの発足・稼働をめざして活動を開始するき っかけとなったのが,2002年11月の全国労災病院栄 養士協議会の研修会であった。中野先生自身もNST をテーマに取り入れた講演を計画し,またNST活動 を立ち上げる方法を聞くなど,熱意をもってあたれ ばNSTを発足できると確信した。 まず,2003年1月から,院内のNSTの認知を高め

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NST+嚥下リハビリチーム+

口腔ケアチームが経口摂取をめざして,

集学的に栄養管理を実践

Profile ふくい けいじ ’82年愛媛大学医学部卒業。’83年和 昌 会 貞 本 病 院,’88年 愛 媛 大 学 病 院,’89年市立宇和島病院,’92年県立 伊予三島病院,’96年和市立八幡浜病 院,’01年松山城東病院を経 て’04年 より現職。専門は脳神経外科。 愛媛労災病院脳神経外科 部長 福井 啓二 2003年10月,愛媛労災病院(写真1)にも,院長直属の組織として栄養サポートチーム(Nutrition Support Team;NST)が発足・稼働した。同病院のNSTも,東口!志先生(藤田保健衛生大学医学部外科学・緩和ケ ア講座教授)により考案された持ち寄りパーティー方式(Potluck Party Method;PPM)というシステムで運 営されている。ただし,2代目のチェアマンを務める脳神経外科部長の福井啓二先生は「他院のNSTではPPM といってもカリスマ的なリーダーが存在していることが多い。当院にはそれがなく,まさにPPMで個人の力 を持ち寄ってなりたっているNST」と笑う。 写真2 NSTメンバー 前列左より福井啓二先生,中野恵子先生(栄養管理室 長)。後列左より寺松寛明先生(理学療法士),清水亮 先生(管理栄養士)。 写真1 愛媛労災病院 4

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るために全職種を対象にした研修会を行った。出席 者は,研修会の内容でNST活動を理解したが,残念 ながら活動までには至らなかった。それでも中野先 生らは発足活動を継続した。また,全国労災病院栄 養士協議会の有志で尾鷲総合病院(三重県)のNST活 動を見学し,その様子を全国労災病院の院内報に報 告した。この院内報を目にした当時の院長である西 岡幹夫先生がNST活動の必要性を強く実感し,近 畿・中四国ブロックの労災病院長会議で他施設の院 長へNSTの必要性・重要性を知らせるとともに,同 院のNST発足・稼動を推進した。 その結果,同年8月に東口!志先生(藤田保健衛 生大学医学部外科学・緩和ケア講座教授)により考 案されたPPMにより,当時の外科副部長 原田昌和 先生をチェアマンとして院長直属のNST(当初のメ ンバー数18名)が発足。約2ヵ月間の準備期間を経 て,10月にNSTはその活動を本格的にスタートさせ た。

ITやマニュアルを活用

効率的で質の高いNST活動を実践

同院のNST活動は,すべての入院患者を対象にス クリーニングを行っており,①入院時に病棟看護師 が 主 観 的 包 括 的 評 価(subjective global assess-ment;SGA)で低栄養と判定,②臨床検査技師が生 化学検査結果で血清アルブミン値3.2g/dL以下,総 たん白質6.0g/dL以下を確認,③管理栄養士が1週 間以上,流動食,三分粥食,五分粥食を継続提供し ていることを確認,のいずれかを満たした場合に NST対象候補患者として抽出される。次に,その患 者について,病棟のNST担当医師と担当看護師が栄 養管理が可能か否かを判断する。このときに「難し い」と考えられた場合,毎週火曜日に開催されてい るNSTのランチタイムミーティング(緊急の場合は 随時)でその旨が報告される。そして,翌日の水曜 日(緊急の場合は随時)に,NSTが当該患者について カンファレンス(写真3)を行ったうえで回診し(写 真4),検査データや臨床所見などから総合的に栄 養管理のストラテジーを検討し,その結果をリコメ ンデーションとして,主治医をはじめとした病棟ス タッフにフィードバックする。 このような一連のNST活動を円滑かつ正確に行う ため,同院はNST発足・稼働時よりITシステムを 活用しているという。当初はエクセルベースのお手 製システムだったが,2006年4月から労働者健康福 祉機構内の研究費を受け,同院オリジナルの本格的 なNSTシステム(図1)が開発,導入されている。 そのシステム開発の中心的役割を果たしていた管 理栄養士の清水亮先生(写真2)は「以前のシステム と新しいシステムの基本構成はほとんど変わってい ない。NST介入患者の基本的情報を入力して初期登 録(図1左上)後,身体計測,検査結果,輸液,食事 摂取量などを入力すると,患者の現在の栄養状態や 栄養摂取量と各栄養素の過不足などが自動的に表示 される(図1右下)」と説明する。 ただ,以前のシステムでは患者1名に1ファイル が必要で,ファイル数が膨大になるため管理がしづ らく情報にアクセスしにくかったため,すべてのデ ータ入力管理を担っていた管理栄養士の負担が大き いという問題があった。清水先生は「新しいシステ ムではこれらを解決。データ管理が簡便となり,情 報へのアクセスも容易となったため,NSTメンバー の情報共有化が促進された。また,データ入力は病 棟から携帯端末やCSVとして出力したデータも反映 できるようになったため,身体計測はリハビリテー ション科の理学療法士と作業療法士,検査結果は臨 床検査技師,輸液は薬剤師が担当するようになった 写真3 NSTカンファレンスの様子 写真4 NST回診の様子 5

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○部分ボタン色 ブルーが処理されます。(下画面参照) 薬剤部 (輸液・栄養剤) ケーブル NSTシステム リハ科 (体重・AC・TSF) 検査科 (臨床検査値) 栄養管理室 (濃厚流動食・食事) ・データ管理が容易 ・データのCSV出力可能 CSV CSV NST回診 (図2)。このことは,管理栄養士 の 負 担 を 軽 減 す る だ け で な く, NSTメンバーのチームへの参加意 識や栄養管理に対する意識を高め た」と話す。 また,同院ではNSTの活動内容 がマニュアル化され,それが各病 棟に配置されている(写真5)。同 マニュアル(NST関連資料)には, 栄養補給経路の選択,経腸栄養剤 の選択,絶食期間2週間以内と2 週間以上の経腸栄養スケジュー ル,腎疾患患者用経腸栄養投与ス ケジュールなどが記載されてい る。NSTチェアマンを務める脳神 経外科部長の福井啓二先生は「入 院患者すべての栄養管理をNSTが 引き受けることは実際のところで きないし,もしできたとしてもそ れでは病院全体の栄養管理の質が 上がらない。それを補うのがマニ ュアルだと思う」と説明する。実 際,同マニュアル作成後,病棟で の絶食後の経腸栄養開始時のトラ ブルが減少したほか,病棟スタッ フが簡便かつ適切に疾患別の栄養 管理を行えるようになった。病院 全体の栄養管理に対する取り組み も積極化し,それに伴ってNST依 頼件数も減少傾向にあるという。

NST活動が

軌道に乗るにつれ

患者もスタッフも

最終目標は経口摂取に

NST活動が軌道に乗るにつれ, 経腸栄養で栄養改善が得られた患 者は「口から食べたい」と思うよ うになり,その姿をみてNSTメン 図1 愛媛労災病院で使用している NST支援システ ム の 入 力 画 面 図2 NSTシステムの運用方法 ザウルス用のソフトを開発し,ベッドサイドでもデータ入力が可能。また,ザウ ルスとNSTシステムがインストールされているパソコンは相互に最新情報を送信 することが可能で,ベッドサイドで入力した情報はパソコンに反映することがで きる。さらに,エクセルで作成したCSVデータをNSTシステムに転送することで, 各部署がそれぞれの分野を入力できるようになっている。 CSV:カンマ区切りテキスト。テキスト形式で保存されるため,別製品のデータ ベースや表計算ソフトからのデータ交換が可能。 6

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バーのみならず病院のスタッフらは「口から食べら れるようになってから退院してほしい」と願うよう になった。そして,“輸液から経腸栄養,さらには 経口摂取へ”をスローガンとして2004年5月に嚥下 リハビリチームが発足,その活動を開始した。現在, 嚥下リハビリチームは患者の嚥下状態をSGAや嚥下 造影などを用いて評価し,その結果から適切な食べ 物の形態や摂食時の姿勢,嚥下リハビリのスケジュ ール,看護師の食事介助方法などを決定し,実行し ている。 しかし,リハビリテーション科の寺松寛明先生(写 真2)はその背景に,「嚥下リハビリチームの発足を 望む声が高まっていることがわかっていても,リハ ビリテーション科としては,嚥下障害専門職がいな い現状で嚥下リハビリに取り組むことに積極的にな れなかった」という苦しい事情があったことを明か した。そこで,「リハビリテーション科スタッフの 総力と他職種の力を借りて嚥下リハビリを実践しよ う」と,①チーム構成と役割を設定,②SGAを用い た嚥下障害疑い患者の抽出法を作成,③経口摂取開 始時マニュアルを作成,④嚥下障害食の拡充(4段 階),⑤嚥下造影の導入(写真6),⑥嚥下リハビリ のスケジュールの整備,⑦嚥下障害に関する院内公 開講座や勉強会の開催などを経て,チーム発足を実 現させた。 また,「NSTと嚥下リハビリチームだけでは,経 口摂取という最終目標になかなか到達しなかった」 と寺松先生。口腔内が不潔な状態では誤嚥性肺炎を 起こしやすく,栄養管理も嚥下リハビリもうまくい かないという患者を少なからず経験し,寺松先生ら は口腔ケアの重要性に気づいたそうだ。そして,2006 年6月,歯科医師と歯科衛生士を中心にした口腔ケ アチームが発足,稼働した。口腔ケアチームはNST 対象患者全例に週1回の口腔ケア回診を行い,口腔 内のチェック後,必要に応じて日常の口腔ケアでは 取れない歯垢や歯石を取り除く専門的口腔ケアを行 うほか,看護師や介護者に口腔ケアの方法を指導し ている。 今後への抱負として,中野先生は地域連携を第一 にあげている。それには,退院していった患者が自 宅あるいは他の療養型施設へ移動したとたんに栄養 状態が悪化し,結局同院へ再入院するという症例が 少なからずあったからだ。具体的には,NST外来の 開設や近隣施設との研修,カンファレンスなどを通 して,地域や在宅でも同じ水準の栄養状態が維持で きるようにしたいと考えている。 最後に福井先生は,「当院のNSTの最大の特徴は カリスマがいないこと。NST,嚥下リハビリチーム, 口腔ケアチームはチーム全体でみればものすごいパ ワーをもって活躍しているが,大きな力に小さな力 が集まっているのではなく,小さな力がたくさん集 まっているもの」と笑いながら話した。実際,今回 の取材はチェアマンである福井先生の独壇場ではな く,それぞれの担当者がそれぞれの役割を語りなが ら進められた。愛媛労災病院のNSTはチーム医療の 本質を感じるNSTであった。 写真6 嚥下造影の様子 NSTメンバー全員で嚥下造影の様子を確認し,意見交 換を行う。 写真5 各病棟に配置されているNST関連資料 7

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聖隷浜松病院,聖隷三方原病院で

のNST経験者が中心となり,

1病棟でNSTを発足

2003年3月,旧 国立横浜東病院の経営移譲を受 けて開院した聖隷横浜病院。栄養サポートチーム (Nutrition Support Team;NST)の活動が盛んな聖 隷浜松病院から副院長として赴任してきた嶋田務先 生(現 聖隷吉原病院)は,開院と同時にNST発足を めざしたという。なにしろ,医療スタッフには聖隷 浜松病院や聖隷三方原病院から赴任してきた者が多 い。特に,臨床検査技師や栄養管理士は半数近くが そうで,NST経験者がほとんどだった。つまり,副 院長の「NSTを立ち上げるぞ」という掛け声に反応 するスタッフが少なからず揃っていたというわけ だ。 しかし一方で,NSTという言葉すら知らない者も 少なからずいた。そこで,まずは外科・脳神経外科 病棟のみにNSTを発足させた。そのときにchair per-sonに任命されたのが,浜松医科大学病院から赴任 してきた太田先生だった。

Chair personは脳神経外科専門

だからこそ,栄養管理の重要性,

必要性を痛感

太田先生は,「これまで脳神経外科を専門として いた私は,栄養管理の知識や技術を持ち合わせてい ない。本音を言えば,栄養管理に興味さえなかった。 確かに私は1990∼1992年に聖隷浜松病院に勤務して いたが,その当時はNSTが全く知られていなかった 頃。なぜNSTのchair personに任命されたのかが今 でも不思議だ」と話す。 脳神経外科は聖隷横浜病院となって新たに設置さ

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カンファレンス,セミナーを活用して

栄養管理に対するコンセンサスを得る

── 病棟単位から病院全体へ,そして地域全体に

Profile おおた せいじ ’88年浜松医科大学卒業後,同大学 脳神経外科へ入局。’90年聖隷浜松病 院,’92年景翠会金沢病院,’94年名古 屋大学病院,’98年ハーバード医科大 学 分 子 腫 瘍 部 門 へ 留 学 な ど を 経 て,’03年より現職。専門は間脳下垂 体腫瘍,脳腫瘍。 社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷横浜病院脳神経外科 部長 太田 誠志 2003年3月,聖隷横浜病院(写真1)は,旧 国立横浜東病院の経営移譲を受けて開院。それとほぼ同時に, 外科・脳神経外科病棟に院長直属の組織として栄養サポートチーム(Nutrition Support Team;NST)が発 足,同年5月よりその活動を開始した。その後,各病棟にNSTが発足・稼働し,2005年10月には全病棟(病 院全体)でNST活動が展開されるようになった。現在は,NST活動を地域一帯に拡げるための方法論を模索中 だ。 NSTのchair personを務める脳神経外科部長の太田誠志先生は「NSTによる栄養管理はコンセンサスを得 たうえで実施することが大切」と院内の全スタッフを対象にセミナー,カンファレンスを行ってきた。まずは, これらを院内だけでなく院外の医療スタッフを交えて実施し,栄養管理に対するコンセンサスを地域全体で得 ていきたいという。 写真1 社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷横浜病院 8

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れた診療科であったため,開院当初は患者数も少な く,太田先生はTNT(Total Nutritional Therapy)の 受講を含めて栄養管理を学ぶ時間が十分とれたそう だ。また,前述したように聖隷浜松病院,聖隷三方 原病院でNSTを経験した他専門職のサポートも受け られた。さらに,WOC(wound-ostomy-continence) 看護認定看護師をはじめとした褥瘡対策委員会も, NSTと連携し協力してくれた。太田先生はNSTの運 営・活動に携わるなかで,「チーム医療のすばらし さを実感するとともに,NSTによる科学的根拠に基 づいた栄養管理の重要性,必要性を痛感した」と振 り返る。 外科・脳神経外科病棟ではNST対象患者を血清ア ルブミン値3.5mg/dL以下でスクリーニングした。 NST活動に手慣れた臨床検査技師がスクリーニング で抽出された患者のデータを取り揃えてNSTミーテ ィングに持ち込む。なんと,その頃は入院患者の約 80%が血清アルブミン値3.5mg/dL以下だった。ミ ーティング時間は長時間にわたり,「低栄養状態の 患者がこれほど多いとは思わなかった」と驚愕した ことを今でも覚えていると太田先生。それと同時に, NSTが介入して,低栄養状態の期間が短くなるほど 合併症(感染症など)が減少し,リハビリを早期から 確実に行えるようになった結果,良好な予後が得ら れる患者が多くなったことにも驚いたと話す。

各病棟専任メンバーでNSTを

発足・稼働,疾患に応じた

きめ細かな栄養管理を実践

以上のような太田先生の実例もあって,同院では, これまで栄養管理には全く興味や関心がなかった医 師もTNTを積極的に受講している。現在,常勤医 師36名中9名(常時7名以 上 は 確 保)がTNT受 講 医 師だ。医師の専門は,脳神経外科をはじめ,外科, 循環器内科,呼吸器内科,内分泌科と多岐にわたる。 また,稼働病床数(5病棟,250床)からみると,臨 床検査技師(9名)や管理栄養士(8名)の数は他の病 院よりも多い。 このようなメリットを活かして,同院では,コア スタッフ(NST運営委員会)を基盤として病棟ごとに NSTが組織されている。コアスタッフが病棟のNST メンバーとなる場合もあるが,原則としてNSTメン バーは他病棟を兼務しないこととなっている。また, 各職種の役割や基本的な活動の流れ(スクリーニン グ→抽出患者についてのNSTミーティング→問題症 例の回診→栄養管理の検討→主治医などへのコンサ ルテーション)は同じだが,その細部は疾患に応じ て各病棟ごとに工夫されている。 たとえば,スクリーニングの指標に関して,太田 先生ら外科・脳神経外科病棟のNSTは血清アルブミ ン値3.5mg/dL以下を用いているが,他病棟のNST はそれに加えてヘモグロビン値や体重なども考慮し ているという。 「病棟ごとに扱う疾患がかなり異なる。脳神経外 科の患者と呼吸器内科や循環器内科の患者の栄養管 理がすべて同じであるはずはない。栄養管理は疾患 の違いを考慮してこそ,はじめてきめ細やかに行え るもの」と,太田先生はある疾患領域に精通した医 師,看護師,薬剤師,管理栄養士,臨床検査技師な どがチームで栄養管理を行うよさを強調する。

合同カンファレンスやセミナーを

介して,栄養管理に対するコンセ

ンサスを病院全体で図る

病棟ごとに独立したNSTが活動している場合,問 題になってくるのは栄養管理に対する病院全体のコ ンセンサスが得られにくいことだ。そこで,年に数 回(不定期),各病棟のNSTが一同に会して,それぞ れが持ち寄った症例を詳細に検討する『合同カンフ ァレンス』が開催されている。 また,冒頭で述べたように,外科・脳神経外科病 棟でNSTが発足・稼働した当時,院内スタッフの多 くがNSTとその活動を知っていたわけではない。栄 養管理に対する病院全体のコンセンサスを得るた め,太田先生らコアスタッフが中心となって2004年 10月から毎月1回(全6回,6ヵ月間),院内の全職 種・全スタッフを対象に,TNT.C(Total Nutritional Therapy Clinical Case Support)のテキストを活用し たTNT.Cセミナーを始めた。毎回の参加者は40名 ほどで,5回以上出席した参加者に対しては院長名 で修了書が渡された。 2005年4月 か ら の『第2回TNT.Cセ ミ ナ ー』が 終了する頃には栄養管理に対する病院全体のコンセ ンサスがほぼ得られ,『第3回TNT.Cセミナー』が 開催中の同年10月に全病棟でNSTが発足・稼働する に至った。 9

(10)

2006年4月 か ら『TNT.Cセ ミ ナ ー』を『NST養 成セミナー』にバージョンアップ。これは『TNT. Cセミナー』と同じ症例検討ベースのセミナーだが, 院内で作成したオリジナルテキストを使用し,1ヵ 月半で4回を1クールとして行われる。

地域全体で栄養管理に対する

コンセンサスを得ていきたい

病院,クリニック,施設との

連携システム構築を目指す

「今後は,地域全体で栄養管理に対するコンセン サスを得ていきたい」と太田先生は抱負を語る。実 際,それに向けた試みがいくつか始まっている。 たとえば,前述の『TNT.Cセミナー』は,第2 回目から参加対象を院外の医療スタッフに拡大し た。このきっかけは,地元医師会や,太田先生らが NSTの活動内容を講演しにいった病院からの「セミ ナーを行っているなら,うちのスタッフも参加させ てくれないか」という要望だった。現在,実施して いる『NST養成セミナー』も同じで,毎回の参加者 のほぼ半数は,院外の医師,薬剤師,管理栄養士, 臨床検査技師などだ。 太田先生は,「とにかく地域連携が盛んな土地柄。 私の専門領域である脳神経外科でも,地域全体での セミナーやカンファレンスが積極的に開催されてい る。このような活動を介して,脳神経外科疾患の診 断や治療に対する地域全体のコンセンサスが得ら れ,連携システムがつくられてきた。NST活動の地 域連携も,今のところパーソナルレベルだが,いつ かは地域全体でシステム化して行いたい」と述べ, 『NST養成セミナー』を一歩進めたかたちで『NST 地域合同カンファレンス(写真2)』を開催すること にした。 『NST地域合同カンファレンス』では,同院だけ でなく,参加施設からも症例が提示され,その病院 のNST活動が報告される。参加施設は癌治療の専門 施設であったり,療養型病床がメインの病院であっ 写 真3 第1回NST地 域 合 同 カ ン ファレンスの参加者と参加 後のコメント 左:医療法人明芳会の横浜旭中央総合病院の 皆さん。「NSTを立ち上げて1年半になるが, 壁にぶつかることも少なくない。他の病院の NST活動を知ることで,自分たちの悩みを解 決する糸口を見出せるのではないかと思って ……」と参加動機を話す薬剤科・科長の黒木 恵子先生(中央)。 右:横浜労災病院 外科部長,NST委員長の 大島郁也先生は,「私の施設ではNSTがある ものの,全科型NSTの稼動には至っていない。 聖 隷 横 浜 病 院 のNST活 動 を 参 考 に 全 科 型 NSTを稼動させ,同時に地域との連携システ ムについても構築していきたい」と今後への 抱負を語った。 写真2 NST地域合同カンファレンスの様子 写真4 神奈川県立がんセンター 岡本涼子先生 10

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たりとそれぞれ特徴を有している。地域のさまざま なNST活動のあり方を知ることで,地域連携のあり 方がみえてくるのではないか,というのが太田先生 の考えだ。取材日でもあった第1回目の『NST地域 合同カンファレンス』は,大雨にもかかわらず13施 設から約50名(半数が院外)の医療スタッフが参加 (写真3)。今回は,神奈川県立がんセンターの岡本 涼子先生(写真4)から『対照的な栄養管理をした末 期癌患者3症例』,同院の山口裕之先生(循環器内科) と谷口正彦先生(管理栄養士)から『グルセルナ!の 使用で血糖コントロールが安定した1症例』が報告 された。岡本先生は,末期癌患者の栄養管理の個別 性を強調したうえで,「末期癌患者の必要栄養量は, Harris-Benedictの式などから想定されるよりも少な い量でよいのでは」という考えなどを示した。末期 癌患者を抱える病院は多く,その栄養管理は悩むと ころだ。会場からの盛んな質問に,神奈川県立がん センターの医師が丁寧に応じていた(写真5)。 今後,年2回のペースで『NST地域合同カンファ レンス』を開催する予定だという。その先の,NST 地域連携システムの構築・稼働を近い将来みてみた い。 写真5 会場からの質疑応答 11

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Nutrition Support Journal 14

Nutrition Support Journal 19

身体構成成分

(body composition)とは

1) Blackburnは,まるごとの体重ではなく,貯蔵脂肪, 骨格筋および内臓たん白質という3つのコンパー卜メン 卜に区分して,それぞれについて特有な栄養指標を設定 して個別に測定し,それらを総合的に評価することを提 唱し,この考えは「古典的栄養アセスメン卜」と位置づ けされている。このように体組織の構成成分を詳細に解 析する場合には身体構成成分(body composition)という 用語が用いられ,栄養アセスメントの基本は「身体構成 成分を正確に測定すること」といえる。 生きている人間の身体構成成分を直接的に調べる方法 はなく,間接的評価法を用いざるを得ない。19世紀後半 から人体計測学が導入されて以来,多数の身体構成成分 の測定法が開発されてきた。1942年には水中体重秤量法 による体密度測定法が初期の身体構成成分研究の主たる 方法として確立され,続いてアイソトープ希釈法が用い られた。現在ではハイテク機器を駆使して,身体構成成 分の変化を水素,酸素,窒素の原子レベルから,たん白 質,脂肪,骨塩,水の分子のレベルでとらえ,これによ り外傷(trauma)と敗血症(sepsis)などのcritically ill pa-tientsの代謝と栄養管理(投与熱量,たん白質量,投与方 法など)についての研究が行われた。

二重光子吸収測定法

(dual-photon absorptiometry;DPA)

一般に放射線は,物質内を透過するときに減衰し,そ のときの減衰率は組織の厚さ,物質を構成する元素の原 子番号,放射線の強さによる。この特徴を用いて,1963 年に単一エネルギーのγ線源を用いるsingle-photon ab-sorptiometry(SPA)法によって骨塩量(bone mineral; BM)が測定された。続いて153 Gd(ガドリニウム)を線源 として用いる二重光子吸収測定法(dual-photon absorpti-ometry;DPA)が開発され,脊椎や大腿骨の骨塩量ある いは全身の骨塩量の測定が可能となった。153 Gdは崩壊し て40keVと100keVの2つ の 異 な る エ ネ ル ギ ー の 光 子 (photon)を発生する。153 Gdの物理的半減期は242日であ るため,1∼1年半に一度は線源を取り替える必要があ り,高価であるという欠点がある。また,測定時間も全 身と腰椎をスキャンした場合,測定時間に約1時間を要 した。

二重エネルギーX線吸収測定法

(dual energy X-ray absorptiometry;DEXA)

2)−4)

X線をabsorption-edge-filter法などによって2つのエ ネルギーに分離して利用する,二重エネルギーX線吸収 測定法(dual energy X-ray absorptiometry;DEXA)が 開発された。DEXAの原理はDPAと同様である。生体 試料に照射された2つのエネルギーの光子のカウント率 (光子/秒)は,空気中から生体試料内を通過すると指数 関数的に減衰することを利用している。 骨塩の化学的組成は一定であるので,骨塩での減衰係 数の低エネルギーと高エネルギーでの比は不変である。 このことから骨塩含量(bone mineral content;BMC), 骨塩密度(bone mineral density;BMD)が求められる。 一方,軟部組織では,軟部組織の減衰係数の低エネルギ ーと高エネルギーでの比は変数で一定でなく,脂肪密度 と直線的関係にある。軟部組織を脂肪と除脂肪に分離す るためには,脂肪密度と直線的関係にあることを利用, すなわち100%脂肪をアルコール,100%LBM(lean body mass)を水として,アルコールと水の測定値から求める。 DEXAは骨塩量と軟部組織の各コンパートメントの定量 的解析を可能にしたもので,測定された各コンパートメン トの和から求められた体重と実測体重はよく一致する。

DEXA法の実際

線源として安定したX線発生装置を用い,測定精度も 向上し,測定時間も短く,数分で全身スキャンが可能で ある。 主なメーカーとしてHologic(Waltham,Massachusetts, USA),Lunnar(Madison,Wisconsin,USA),Noralnd (Fort Atkinson,Wisconsin,USA)の3社がある。被験

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二重エネルギーX線吸収測定法(dual

en-ergy X-ray absorptiometry;DEXA)

による栄養評価

大阪樟蔭女子大学大学院人間科学研究科人間栄養学専攻 教授 山東 勤弥

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20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 Age Total BMD 1.6 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 Physician's Comment: DXA Results Summary:

Total BMD CV 1.0% DXA Results Summary:

TBAR1058 Region Fat (g) Lean+BMC(g) % Fat L Arm R Arm T runk L Leg R Leg Subtotal Head Total 852.0 1084.7 5424.9 1925.1 2206.3 11492.9 770.3 12263.3 2130.0 2463.1 20960.2 7295.4 7861.2 40709.8 3337.3 44047.1 28.6 30.6 20.6 20.9 21.9 22.0 18.8 21.8

Reference curve and scores matched to Asian Female Source: TMC Reference2001

Image not for diagnostic use 327×150 Region Area (cm2 BMC (g) BMD (g/cm2 T-Score Z-Score L Arm R Arm L Ribs R Ribs T Spine L Spine Pelvis L Leg R Leg Subtotal Head Total 200.68 221.42 103.73 120.09 142.43 59.44 195.09 363.45 369.84 1776.17 216.24 1992.40 153.19 177.62 80.10 79.11 149.20 72.76 246.36 426.76 436.12 1821.22 603.37 2424.59 0.763 0.802 0.772 0.659 1.048 1.224 1.263 1.174 1.179 1.025 2.790 1.217 2.4 3.3 Scan Information: Scan Date: Scan Type: Analysis: Operator: Model: Comment:

July 20, 2005 ID: A07200503 a Whole Body

July 20, 2005 18:25 Version 12.2 Auto Whole Body Fan Beam QDR Workstation(S/N1) Referring Physician:

Name: TOYO HANAKO Patient ID: DOB: January 14, 1949 Sex: Female Ethnicity: Asian Height: Weight: Age: 56 者を写真のように横臥させ,全身スキャンして測定する (図1)。コンピューターにより測定とデータの解析が行 われる。小児と成人別にソフトが用意されている。デー タは頭部,両上肢,両下肢,体幹,骨盤の分節ごとに解 析される(図2)。 正確度(Precision)については,腰椎のBMDのcoefficient of variation(CV)は約1%,大腿骨は2%,全身では1% 前後である。BMDが低い症例,老人や骨粗鬆症の症例 や肥満症例では誤差が大きくなる。Total-body massの 算出はCVが0.2%以下と確度が非常に高いが,脂肪量に ついては2∼3%である。標準偏差は1.0kg以下である。 被曝量は機種によって異なるが,概ね全身スキャンで 5μSv,腰椎で0.5μSv,大腿骨で1.4μSvである。自然界 からの1日被曝量が日本で約6.6μSv,英国で約5∼7 μSvと,無視できる量であるため繰り返して測定できる。

DEXA法の原理上の問題点

DEXAは,2つのエネルギーによる測定が行われ,得 られた2つの減衰係数の情報では,未知の項に対して方 程式を2つしか提供できないので,2コンパートメント (たとえば「骨」と「単一かつ均一な軟部組織」)の算出 のみが可能で,「骨塩量」「除脂肪量の軟部組織」「脂肪 組織の軟部組織」の3コンパートメントの算出は不可能 である(図3)。 骨塩量の算出には脂肪分布に対する「推定」が必要と なる。全身の約3分の2にあたる「骨と重ならない」部 分のスキャンでは,2つのエネルギーのX線の減衰率か ら軟部組織中の脂肪の比率が決定できる。しかし残りの 約3分の1の「骨と重なる」部分の脂肪を評価するため 図1 二重エネルギーX線吸収測定(DEXA)法 図2 身体構成成分 (資料提供:東洋メディ ック株式会社) 13

(14)

( )x ( )x ( )x ( )x ( )y ( )y ( )y ( )z ( )x X線 皮下脂肪(x) 筋肉(y) 骨(z) には,脂肪の分布についての「推定」が必要となる。メ ーカーはこれらの推定についての詳細は何も明らかにし ていない。 またDEXAについては,除脂肪組織の水分含有量を一 定の73%としている。一般に年齢差や病的状態によって 水分含有量は67∼85%の幅をもっているので,これらの 症例を測定する場合には問題となる。水分含有量が平均 である73%以上の場合,DEXAでは脂肪量が過大評価 される。しかし水分含有量は骨と重なる部分の除脂肪量 部での減衰率に影響を与えるが,細胞内・外液に含まれ るNa,Cl,Kなどの原子番号の大きい元素がX線の減 衰に大きく貢献しているので,これらの元素に水分分布 の違いによる変化がなければ,DEXA法での脂肪量の算 出にはほとんど影響しないという意見もある。

DEXA法の各会社の器械間の違い

各会社の器械間で測定結果に違いがあり,その理由と して①∼④があげられる。 ① 器械間で装置が異なる。 Hologic社製はswitching-pulse systemでX線発生装置 の電圧を高低に即座に変換できる。検出器は被験者の上 にあるスキャンアームに取りつけられている。Lunnar とNoralnd社製はconstant-potential X線発生装置を用い, K-edge-filterにて高低の2つのエネルギーに分離する方 法を用いている。また減衰したX線の検出器にはenergy-discriminating detectorを用いている。 ② キャリブレーションが異なる。 Hologic社製とNoralnd社製は,骨塩量をヒドロキシア パタイト・カルシウムのみをもとにキャリブレーション しているが,Lunnar社製は骨内の脂肪成分(intraosseous fat)の比率も考慮している。 ③ 会社間で解析ソフトが異なる。 ソフトのバージョンが変われば,解析結果も異なる。 EllisのHologic QDR-100Wを用いた体重5∼35kgのブタ の測定では,古い解析ソフトでは脂肪量が化学分析値よ り20%も低い値となった。一方,新しい解析ソフトでは 16%の過大評価の値となった。 ④ 測定部位の厚みの差が問題となる。 20cm以下の厚みでは,Lunnar社製とHologic社製は正 確で満足できる結果であったが,20∼25cmの厚みでは 骨塩量および脂肪量ともに過大評価となった。これらの 機種間の違いの補正用に,欧州の委員会によってquasi-anthropomorphic spine phantomが骨塩量測定の標準化 の助けとなるように作られている。

他の身体構成成分の測定法との比較

① IVNAAとの比較では,Piersonの報告によるとヒト の測定で両者間に非常に強い相関がみられた。カルシウ ム量 で80∼150g,骨 塩 量 で210∼400gのSEEで あ っ た。 脂肪量はLunar DPXとはよく一致したが,Norland XR26 の測定結果はIVNAAより高値であった。 ② 水中秤量法との比較では,Lunar社製とHologic社 製がよく一致した。Norlandは脂肪分で高値となった。 ③ Venkataramanは,新生児の死体を用いた結果,骨 塩量,脂肪量,除脂肪量とも化学分析値とよく一致した。

おわりに

DEXAは,生体試料に2つのエネルギーのX線を照射 して,このときの減衰率から骨塩量と軟部組織を定量的 に解析でき,測定時間も短く,被曝量も少なく,分析結 果の正確度や精度も高い。骨と軟部組織の2コンパート メントの定量的解析を可能にしたものである。しかし骨 塩量,軟部組織内の脂肪組織と除脂肪量の3コンパート メントの算出には脂肪分布に対する「推定」が必要とな ること,除脂肪組織の水分含有量を一定の73%としてい ること,また各機種間で測定結果に違いがあることなど が問題点であり,必ずしもgold standardとはなり得な い。そのような限界を認識して使用すれば有用な情報を 提供してくれる分析法であり,骨塩量のみを測定するの ではなく,是非身体構成成分の測定にも利用されること を望む。 文 献 1)山東勤弥:栄養アセスメントの実践,身体計測と身体構成成 分(身体構成成分)の評価.細谷憲政 監,ビジュアル臨床栄養 実践マニュアル(第1巻)栄養アセスメントと臨床検査/チー ム医療と栄養士.東京,小学館,112-119,2003

2)山東勤弥:二重エネルギーX線吸収測定法(dual energy X-ray absorptiometry:DEXA).栄養評価と治療 23:66-69,2006 3)Pacifici R,Rupich R,Vered I,et al:Dual-energy radiography

(DER):a preliminary comparative study,Calcif Tissue Int 43:189-191,1988

4)Mazess R,Collick B,Trempe J,et al:Performance evaluation of a dual energy X-ray bone densitometer.Calcif Tissue Int 44:228-232,1989

図3 X線透過の模式図

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Nutrition Support Journal 19

はじめに

薬剤は開発・販売された際の剤形で投与した場合に, 最も効果が発揮されるように製剤設計されている。ただ し,脳神経疾患あるいは嚥下困難などで錠剤・カプセル 剤が服用できない場合には,錠剤の粉砕・脱カプセルな ど,本来の剤形を変更したうえで経管栄養チューブを利 用して投与する方法が一般的に用いられている。 本稿では,薬剤投与時の経腸栄養剤による影響(相互 作用)を含めて,薬剤を経管投与する際に生じるさまざ まな問題点について概説する。

薬剤の経管投与時の問題点

薬剤を経管投与する際に最も問題となるのは,錠剤の 粉砕などによって生じる化学物質としての物性の変化, 物性変化に伴う安定性・溶解性の変化であり,bioavail-abilityに影響を及ぼす。腸溶性製剤・持続性製剤など特 殊な製剤設計を施された薬剤においては,剤形変更によ る効果・安全性への影響も考慮しなければならない。腸 溶性製剤・持続性製剤の粉砕は不可であり,製剤の設計 意図を損なうことから,投与可能な剤形への変更や同等 の効果を有する他剤への変更などが必要となり,薬剤師 の能力が発揮されることとなる。 経管投与時には薬剤を水に溶かしてチューブから注入 するので,最も適した剤形は液剤であるが,利用可能な 製剤はごくわずかであり,粉末状の薬剤(錠剤の粉砕・ 脱カプセルを含む)で投与する場合がほとんどである。た だし難溶性あるいは疎水性の薬剤は,水にうまく懸濁し ないため,注入器(シリンジ,デイスペンサー)で吸い取 りにくく,また注入器内に残存しやすいなど投与時のロ スが問題となる。さらに懸濁・注入に多量の水が必要と なり,水分制限を必要とする患者では大きな問題である。 なお,錠剤の粉砕・脱カプセルなどに関連したこれらの 問題は,倉田による簡易懸濁法によって近年大きく改善 された1) 。 経管投与時に最も問題となる合併症である経管チュー ブの閉塞に関しては,脂肪やたん白質の変性物質だけで なく,薬剤が原因となることもある。薬品注入による経 管栄養チューブの閉塞率は6∼38%ともいわれ1) ,脂肪・ たん白質分解酵素の入った消化剤の上澄み液でチューブ 内を充満させるなど,さまざまな対策が行われている。 市販されている散剤,細粒剤,顆粒剤などの粉末状態で あっても,チューブの閉塞が生じることは臨床では周知 の事実であり,粒子形の大きな顆粒剤,腸溶性顆粒だけ でなく,添加剤などの影響で細粒剤・散剤でも生じるた め,臨床上大きな問題となっている。 化学物質としての物性変化は,吸収・分布・代謝・排 泄といった薬物動態過程における吸収時にも大きく影響 する。血中濃度の測定結果で投与量の設定を行っている 抗てんかん薬などでは,経管投与の際には安定性・溶解 性の変化に加えて吸収への影響も考慮して薬物療法のモ ニタリングを実施していく必要がある。

薬剤─経腸栄養剤間の相互作用

薬剤を経管投与する際には,投与される薬剤の物性変 化だけでなく,経腸栄養剤との相互作用についても検討 する必要がある。薬剤と経腸栄養剤間の相互作用につい ては,静脈経腸栄養ガイドライン──静脈・経腸栄養を 適正に実施するためのガイドライン(第2版)には残念な がら記載がない。ただし,成人および小児に対する静脈・ 経腸栄養の施行に関するガイドライン──ASPENガイ ドライン2)には,第!章で薬剤─栄養素相互作用に関す る記載がある。 薬剤の溶解性は水溶性と脂溶性に大別されるが,脂溶 性薬剤では消化管内の食事内容が吸収に大きく影響す る。抗真菌剤であるイトラコナゾール,EPA製剤であ るイコサペント酸エチルでは,吸収が良好になるため食 直後の投与が推奨されており,経腸栄養剤による吸収低 下は認められないと考えられる。骨粗鬆症治療剤ビスフ ォスフォネートのように水分・食事との同時投与を避け ることが必要な薬剤では,当然ながら経腸栄養剤中の2 価の金属イオン(Ca2+,Mg2+)とのキレート形成は吸収 低下の原因となる。 経腸栄養剤の成分を考えてみると,多種多様な成分を 含む複合成分であること,脂質成分,電解質を含むこと を考慮する必要がある。薬剤との混合あるいは同時投与 でなくとも,消化管内で同時に存在することにより影響 が十分に考えられるからである。さらにASPENガイド ラインでは,「体外で起こる相互作用であり,栄養管理 を受けている患者において最もよく観察される相互作用

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薬剤の経管投与に関する問題点

東京都老人医療センター薬剤科 課長補佐 阿部 和史 15

参照

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