DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.38.28 171 山田: 九州大学の心理学事情
九州大学の心理学事情
山 田 祐 樹
九州大学Psychology at Kyushu University
Yuki Yamada
Kyushu University は じ め に 本記事では九州大学における基礎心理学に関連する状 況について紹介します。本記事の想定する読者は主にこ れからの進路として九州大学を選択肢に考えている大学 生,大学院生,ポスドクなどの若手です。基礎心理学研 究はJ-STAGEにて公開されており会員以外でも読めるた め,高校生の進路選択の役にも立てれば嬉しく思いま す。 ちなみに私は「基幹教育院」という教育開発・運営組 織に所属しており,特定の研究科に在籍しているわけで はありません。他の大学でも見られることですが,本学 でも心理学関係の研究室は極めて広く拡散しており,さ ながら心理学ディアスポラとも呼べる様相を呈していま す。ざっと見渡すだけでも心理学に関わる研究室や研究 者は文学部,教育学部,工学部,芸術工学部,理学部, 農学部,医学部,共創学部,基幹教育院,アドミッショ ンセンター,キャンパスライフ健康支援センター,持続 可能な社会のための決断科学センターなどに在籍してお り枚挙に暇がありません。 これらの中で,基礎心理学に関する基礎を身につける ためのシステマティックなカリキュラムを備えている部 局としては文学部と芸術工学部を挙げることができま す。これらの学部では心理学実験の演習を数多く行って います。大学院だと人間環境学府,芸術工学府,システ ム情報科学府,医学系学府の研究室にて基礎心理学分野 の研究が主に行われます。ちなみに私は大学院としては 人間環境学府に所属しています。このへんの組織関係が 少しややこしいとは思いますが,本研究室に興味のある 方はぜひご一報を! 「ベルリンの壁」 九州大学の心理学研究室の来歴について触れておきま す。1925年(大正14年),九州帝国大学法文学部に佐久 間鼎を初代教授として設置されたのが始まりです。佐久 間教授は着任と同時に心理学教室の建物を箱崎キャンパ スに建造しましたが,この設計図はベルリン留学時代に 師事していたクルト・レヴィン教授とともに考案された ものでした。特に目を引くのは南西側に作られた3メー トルを超える高い壁で,これは「ベルリンの壁」と呼ば れていました。後に心理学研究室は文系地区に移転し, さらに伊都キャンパスへ移転します。それに伴い心理学 教室の建物は2017年に解体されました。それでもなお ベルリンの壁だけは保存されていましたが,2019年にこ れも解体されたことを確認しました(Figure 1)。なお, 在りし日の心理学教室については箱田裕司文学部教授 (当時)による解説付きの動画にて知ることができます (http://www.psycho.hes.kyushu-u.ac.jp/2016/02/03/oldlab/)。 2018年10月に伊都キャンパスへの完全移転が成され, 多くの心理学研究者は再びひとところに集ったのです が,芸術工学部,医学部はそれぞれ大橋キャンパス,馬 出キャンパスにあり,依然として地理的分断は続いてい ます。いつかは伊都キャンパスののどかな自然に囲まれ て,みんなでゆったりと研究する日が来てほしいもので す(Figure 2)。 研 究 交 流 かといって各部局が完全にバラバラで活動しているわThe Japanese Journal of Psychonomic Science
2019, Vol. 38, No. 1, 171–173
紹
介
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172 基礎心理学研究 第38巻 第1号 けではありません。各所で様々な研究交流が実現されて います。私も多くを把握しているわけではないので,こ こでは私の周辺で起こっている交流活動について触れる ことにします。人間環境学府とシステム情報科学府との 間で,2019年度からPsyc-Talk@QU (仮称)という研究会 が始められました。月1くらいのペースで各所属教員が そのとき最も面白いと思っている研究紹介を行います。 この会に参加するのは知覚や認知だけではなく,発達, 社会,応用系の教員まで様々ですので,とても学際的な 議論がなされます。また,応用知覚科学研究センター (ReCAPS),ラーニングアナリティクスセンター(LAC), 五感応用デバイス研究開発センターといった学内組織に 多くの基礎系の心理学研究者が参画していて,実際に共 同研究を行っています。各センターにおける研究会も頻 繁に開催されています。私は毎週開催される LACの研 究会によく参加していまして,情報科学の発表が多くて 正直ほとんど理解できない場合もあったりしますが,そ れだけに非常に刺激になります。逆に私の(基礎心でも 比較的マニアックめの)発表に対しても強く興味を持っ てくれて,議論はいつも盛り上がります。毎月開催され るReCAPSの研究会では知覚心理学の発表が多いのです が,ここでは公用語が英語に設定されていて国際色が豊 かです。 特 色 通常であればこのコーナーでは特定の研究科に所属す る先生方の研究紹介が行われますが,先述のとおり私は 全学的な特殊組織に所属しているため誰を紹介すればよ いのか非常に悩みました。そこで個人ではなく執筆時点 での各部局のおおまかな特色について紹介したいと思い ます。 文学部では主に視覚に関する研究が行われています。 特に奥行き知覚,運動知覚,時間知覚の研究を得意とし ており,眼球運動計やViSaGe等の装置も揃っています。 計量心理学の研究室もあるので,心理統計や尺度構成の 研究を行うこともできます。実験は,伊都キャンパス内 Figure 1. Time course of the Berlin Wall at Kyushu University.
173 山田: 九州大学の心理学事情 の行動実験棟という心理実験専用施設にて日夜激しく行 われています(私の研究室の持つSlack被験者プールに は現在350名が登録しており,一声かければ大量の被験 者が殺到します!)。教育学部では発達心理学の研究体 制が充実しています。現在のところ,実験は大橋キャン パスで行われることが多いのですが,街中なのでむしろ 伊都よりも被験者は集めやすくなっています。それにこ こにもTobii等の装置が多く保有されています。他の部 局では視覚と聴覚の基礎研究が非常に活発になされてい ますが,芸術工学部は環境適応研究実験施設を保有して いることが特徴的で,ここでは気圧・水圧・温度・湿度 といった様々な環境条件を操作した実験を行うことがで きます。医学系学府ではMRIやMEGを用いた神経科学 的なアプローチを主体としており,他部局の心理系研究 者とも連携してさまざまな知覚現象の神経基盤を解明せ んとしています。システム情報工学府では基礎研究に加 え,交通心理,スポーツ心理,ヴァーチャルリアリティ などに関する応用的研究も数多くなされています。ちな みに私の所属する基幹教育院には特殊組織ゆえに心理系 の講座の類いは存在していません。私のことを知る方は ご存知だと思いますが,特定の講座がないからこそ,本 当に好き勝手なことをのびのびやらせてもらっておりま す。そう,この実験室の外の風景のように素朴に,元気 一杯に(Figure 3)。 お わ り に まあとにかく,本学では多様な研究に触れることがで き,何より研究に限界まで集中できる環境に浸れること は間違いありません。脇目も振らず一心不乱に研究でき ます。たまに大学の裏で同僚が獲ってきたイノシシを食 べるのですが,これがまたうまい。うまいものを食らい ながら,うまいものを食らうがごとく研究できる。本当 に幸せな環境なのです。 ところで冒頭にて読者には進路希望の若手を想定して いると書きましたが,事情によりやや具体性の低い紹介 になってしまいました。学生生活や在籍教員,研究設備 などについては各部局のHPでたいてい詳しく紹介され ていますのでぜひご覧になってください。大学院生以上 の方々とは学内の各種研究会などで,学部生の方々とは 基幹教育の授業でそれぞれお会いできることを心より楽 しみにしています。