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まえがき(pdf)

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Academic year: 2021

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まえがき

本書は,動物-植物の相互作用を対象にした野外研究手法をまとめたもので ある。野外で生き物の相互作用を調べるとは,一体どのような行為だろうか? どのような場所に,どのような生き物が棲んでいて,何を食べているのか,と いうことや,どのような生活をしているのか,といったことについて,それら をしらみつぶしに記録することだろうか? その中で,新しい種や珍奇な振る 舞いを発見することが目的なのだろうか? 次のような有名な言葉がある。「家が石でつくられるように,科学は事実を 用いてつくられる。けれども,石の集積が家ではないように,事実の集積も科 学ではない」。たとえば,人と人の関わりという相互作用から考えてみよう。 身近な例に,人と人の間でのお金やモノのやりとりがある。このやりとりによ って貨幣の流れが社会の中に生まれ,それによって経済というシステムが回っ ている。さらには,この経済の動きは政治や文化のあり方にも影響を与えよ う。経済,政治,文化のあり方は互いに影響を与えながら,再び日常の中にお ける人と人との間でのお金やモノのやりとりへとフィードバックするであろ う。これらを全体として眺めた時,「人と人の間でのお金やモノのやりとり」か ら「システム」までを俯瞰しながら,システムの生成,維持,そして破たんの 背後にあるルール(一般原則)は何か?という大きな課題が立ち上がってくる。 この課題に取り組むことは,人間社会について洞察を得る上で,あるいはより 良い社会を志向するための処方箋をつくる上で,とても重要なことのように思 える。 生物間相互作用の研究も,実はこれとよく似ている。野外において生物と生 物が関わり合うというのは,普遍的にして多様な事象である。その普遍的かつ 多様な事象を,個体の振る舞いや進化,群れや食物網などの集合体の特徴,生 態系をめぐる物質の動き,というさまざまなシステム(経済・政治・文化とい うさまざまな切り口があるように,生態系というシステムにもさまざまな切り

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口がある)との関連の中で位置づけて,その生成・維持・崩壊の背後にあるル ールの解明に客観的に迫っていくことが,生物間相互作用研究の大目的であ る。 このような大目的に沿って考える時,重要なことが 2 つある。まず 1 つ目 に,(当たり前であるが)仮説を立てて調査を行うことである。すなわち,先人 たちが生態系のシステムと生物間相互作用について構築してきた理論(考え 方)を踏まえて問いを設定し,仮説を練り,それを検証するということである。 2 つ目に,仮説の検証にはさまざまなアプローチから多角的に迫っていくこと である。観察をベースにしたピュアなフィールドワークだけではなく,因果関 係の検証をするための野外操作実験,膨大なデータからパターンを抽出するた めのデータ解析,そして進化の歴史が刻まれている遺伝子を用いた実験など, 多岐にわたるアプローチを取捨選択し,上手に組み合わせることが大切であ る。これら技術の急速な発展は,現代の生態学の進歩に大きく寄与してきた。 そこで本書では,多岐にわたる技術の詳細は他書に譲り,「野外で相互作用の 調査をどのように行ったらよいのか?」そして「どのような考え方で研究を進 めたらよいのか?」について,基本的な答えを見つけるための道筋を紹介する。 卒業研究や修士論文研究を始めようとする学生や,研究業務に携わる NPO 関 係者,環境教育を担う中学・高校教員などを念頭に,これから初めて本格的に 野外研究に足を踏み入れようと考えている方々の助けになることを願って執筆 を進めたものである。できるだけ最新の科学的知見を盛り込み,発展的に取り 組むためのアプローチを紹介している。 本書は全 7 章から構成されている。第 1 章では,動物-植物相互作用の研究 の特徴,基礎概念,重要な仮説などを概説した。次いで第 2〜4 章は,基礎技術 編として位置づけた。第 2,3 章では,トラップや動力を利用した昆虫採集法や 林冠調査法,被食度の評価法など,動物-植物相互作用における野外での基礎調 査法について説明し,第 4 章では,野外調査で得られたデータのうち,昆虫群 集や植物群落などのデータの取り扱い方について説明した。統計解析的な議論 は最小限に留め,群集の特徴を理解したり表現したりするためのデータのまと め方(指標やグラフ表現)について,現在一般的に使われる方法を紹介してい る。後半の第 5〜7 章は実践編である。調査(観察)から新しいパターンを見つ まえがき vi

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けて仮説を立て,操作実験を用いてメカニズムを解明することを基本アプロー チとした 3 つの研究手法(さまざまな生物間相互作用とその調査法,地球温暖 化が植食性昆虫に与える影響の調査法,進化を調べる)の紹介へと進んでいく。 この実践編では,基礎技術編で触れていないような,研究デザインを考えるた め,あるいは仮説を検証するための方法論や理論も概説している。研究事例に ついても,背景や仮説,用いられた手法,得られた結果と解釈,という一連の 研究の流れについて字数が許す限り丁寧に説明した。第 1 章は内海と中村が, 第 2・3・6 章は中村が,第 4・5・7 章は内海が担当したが,本書の全構成と各章 の内容について互いに吟味しながら執筆をした。本書が,自然界の複雑に絡み 合う生物間相互作用の生態と進化を紐解いていく研究の一助になれば,これほ ど嬉しいことはない。 本書の執筆過程では,多くの方々にお世話になった。本シリーズ編集委員会 の占部城太郎氏,日浦勉氏,和希氏には,本書を執筆する機会をいただき, また編集委員として原稿に目を通していただいた。坂田ゆず氏,服部充氏,山 尾僚氏には,原稿の内容と表現について有益な助言をいただいた。共立出版の 山内千尋氏には,何度も原稿が遅くなったことに対して忍耐強く支えていただ いた。ここに,心よりお礼を申し上げる。 2017 年 5 月 著者を代表して 内海俊介 まえがき vii

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