目 次 はじめに 第一章 寄附金課税制度の概要 第一節 寄附金課税制度の趣旨及び沿革 第二節 ﹁寄附金の額﹂の意義 第三節 法 人 税 法 上 の 寄 附 金 と 民 法 上 の 贈 与 と の 異 同 点 第四節 寄附金概念に関する学説・判例 第五節 かっこ書費用の法解釈及び性格 第六節 対価性の意義 第七節 寄附金課税制度の問題点 第二章 整理支援通達の概要 第一節 整理支援通達の趣旨及び沿革 第二節 整理支援通達の適用基準 第三節 ﹁相当な理由﹂の意義 第四節 整理支援通達とかっこ書費用との関係 第五節 整理支援通達の問題点 第三章 グループ寄附金課税制度の概要 第一節 グループ法人税制の導入背景及び趣旨 第二節 グループ寄附金課税制度の概要 第四章 裁判事例の考察 第一節 大阪高裁昭和五三年三月三〇日判決︵清 水惣事件︶ 第二節 東京高裁平成四年九月二四日判決︵太洋 物産事件︶ 第三節 福岡高裁宮崎支部平成一四年一〇月二九 日判決︵低利貸付事件︶ 第四節 東京地裁平成一九年六月一二日判決︵D ES事件︶ 第五節 まとめ 第五章 寄附金課税制度等の検討 第一節 寄附金概念の検討 第二節 間接的対価性が是認された裁判事例 第三節 整理支援通達の検討 第四節 グループ寄附金課税制度と整理支援通達 との関係に関する検討 結びに 論 説
寄附金課税についての一考察
早
川
真
一
論 説 はじめに 一般に寄附とは、財産を贈与することをいい、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示 し、 相 手 方 が 受 諾 を す る こ と に よ っ て 成 立 す る 契 約 で あ る︵ 民 法 五 四 九 条 ︶。 確 か に、 寄 附 に つ い て 新 潮 国 語 辞 典︵第二版︶で調べてみると、 ﹁公共事業や寺社などに、金銭・物品を進んで出すこと。また、その金品。 ﹂とあ る。これに対し、法人税法上の寄附金とは、その名義の如何を問わず、金銭その他の資産又は経済的利益の贈与 又 は 無 償 供 与 を い い︵ 法 三 七 条 七 項 ︶、 こ れ に は 債 権 放 棄 等 も 含 ま れ る。 ま た、 法 人 税 法 上 の 寄 附 金 に は、 資 産 の 低 額 譲 渡 や 高 価 買 入 れ の ほ か、 役 務 の 低 廉 供 与 等 も 含 ま れ る た め︵ 法 三 七 条 八 項 ︶、 そ れ は、 通 常 の 意 味 に お ける寄附金よりもはるかに広い概念となっている。更に、これらの規定には不確定概念は用いられてはいないも のの、寄附金概念︵意義・範囲・内容︶等については、専ら法解釈に委ねられている。それ故に、特に関係会社 間取引において、寄附金課税の適用を巡る争いは後を絶たない。 一方、法人税基本通達において、 ﹁子会社等を整理する場合の損失負担等︵法基通九 −四 −一︶ ﹂及び﹁子会社 等 を 再 建 す る 場 合 の 無 利 息 貸 付 け 等︵ 法 基 通 九 −四 −二 ︶﹂ と い う 二 つ の 寄 附 金 課 税 制 度 の 適 用 除 外 規 定 が 設 け ら れ て い る︵ 以 下、 こ れ ら 二 つ の 通 達 を 総 称 し て、 ﹁ 整 理 支 援 通 達 ﹂ と い う。 ︶。 整 理 支 援 通 達 は、 支 援 者 等 が そ の適用基準を満たす場合に限り、支援損等の損金算入を認めるというものである。なお、被支援者等サイドでは、 基 本 的 に は 同 額 の 受 贈 益 が 益 金 算 入 さ れ る こ と に な る︵ 法 二 二 条 二 項 ︶。 こ の 整 理 支 援 通 達 の 適 用 基 準 の 具 体 的 な内容については、国税庁のホームページにおいて公表されているが、詳細かつ非常に厳しいものとなっている。
それ故に、関係会社間取引において、整理支援通達の適用を巡る争いが生じているのも事実である。 そこで、本稿では、関係会社間における整理支援を目的とする取引を中心に、寄附金概念の変更や整理支援通 達の適用基準の緩和について、裁判事例等を通じて検討する。 ところで、平成二二年度の税制改正によって、グループ法人税制が創設された。この制度には、完全支配関係 にある内国法人間における寄附金課税制度︵以下、 ﹁グループ寄附金課税制度﹂という。 ︶が設けられており、寄 附を行う法人については、 損金の額に算入しないこととされ︵法三七条二項︶ 、 また寄附を受ける法人については、 益 金 の 額 に 算 入 し な い こ と と さ れ て い る︵ 法 二 五 条 の 二 第 一 項 ︶。 つ ま り、 グ ル ー プ 寄 附 金 課 税 制 度 に お け る 取 扱いは整理支援通達における取扱いとは真逆のものであり、一〇〇%グループ内にある内国法人においては、同 通達の適用も認められていることから、 これら両者の選択適用ができてしまうという問題 ︵以下、 ﹁二者選択問題﹂ と い う。 ︶ が 生 ず る こ と に な る。 ま た、 支 援 者 等 サ イ ド で 計 上 し た 支 援 損 等 が 認 定 寄 附 金 と さ れ た 場 合、 被 支 援 者等サイドで計上した受贈益につき、税務当局の職権による減額更正がなされるのか否かという対応的調整の問 題も生ずることになる。 そこで、本稿では、この二者選択問題や対応的調整の問題についても検討する。 なお、本稿では、法人税法上の寄附金課税制度のうち、連結納税制 度及び移転価格税 制並びに公益法人税 制に おいて規定されているものを対象外とし、またグループ寄附金課税制度と区別するために、これを除いた一般寄 附金課税制度のことを﹁寄附金課税制度﹂ということにする。 1 2 3
論 説 第一章 寄附金課税制度の概要 本章では、主に、法人税法上の寄附金の範囲が極めて広く捉えられている原因を探るために、寄附金課税制度 の 概 要 に つ い て み て い く こ と に す る。 具 体 的 に は、 寄 附 金 課 税 制 度 の 趣 旨 や そ の 沿 革、 ﹁ 寄 附 金 の 額 ﹂ の 意 義、 法人税法上の寄附金と民法上の贈与との異同点、寄附金概念︵意義・範囲・内容︶に関する学説・判例、法人税 法三七条七項のかっこ書に例示されている費用︵以下、 ﹁かっこ書費用﹂という。 ︶の法解釈やその性格及び対価 性の意義︵内容・程度︶について考察する。そして、最後に、寄附金課税制度の問題点について整理する。 第一節 寄附金課税制度の趣旨及び沿革 一.寄附金課税制度の趣旨 内国法人が寄附金に該当する取引を行った場合には、次のような定めがあ る。 ︵一︶内国法人が支出した寄附金の額︵グループ寄附金課税制度の適用を受ける寄附金の額を除く。 ︶の合計額 のうち、損金算入限度額を超える部分の金額は、損金の額に算入しない︵法三七条一項︶ 。ただし、 ︵二︶国又は 地方公共団体に対する寄附金の額や公益社団法人等に対する寄附金のうち財務大臣が指定したものの額は、上記 ︵一︶の寄附金の額の合計額に算入しない︵法三七条三項︶ 。また、 ︵三︶特定公益増進法 人に対する寄附金の額で、 その法人の主たる目的である業務に関連するものは、上記︵一︶の損金算入限度額とは別枠でもう一つの損金算 4 5
入限度額まで損金の額に算入され る︵法三七条四項︶ 。 まず、上記︵一︶の損金算入限度額が設けられている趣旨として、次の二つの説明がある。 第 一 に、 金 子 宏 氏 は、 ﹁ 寄 附 金 が 法 人 の 純 資 産 の 減 少 の 原 因 と な る こ と は 事 実 で あ る が、 そ れ が 法 人 の 収 益 を 生み出すのに必要な費用といえるかどうかは、きわめて判定の困難な問題である。もし、それが法人の事業に関 連を有しない場合は、利益処分の性質をもつと考えるべきであろう。しかし、多くの場合、法人の支出した寄附 金のうちどれだけが費用の性質をもち、どれだけが利益処分の性質をもつかを客観的に判定することが困難であ るため、法人税法は、行政的便宜ならびに公平の維持の観点から、統一的な損金算入限度額を設け、寄附金のう ち そ の 範 囲 内 の 金 額 は 費 用 と し て 損 金 算 入 を 認 め、 そ れ を こ え る 部 分 の 金 額 は 損 金 に 算 入 し な い こ と と し て い る。 ﹂と説明されている。このような説明は、 ﹁所得税法及び法人税法の整備に関する答申﹂においてもみられる ところであ る。 これらによると、寄附金の性質︵費用性の有無や利益処分性の当否︶を考慮して、現行の寄附金課税制度が設 けられたと考える。企業は営利を目的として事業活動を行っているのであるから、その活動の中でいわば﹁捨て 金﹂となるような支出をすることは通常あり得ないが、企業が社会貢献などの一環として寄附金を支出すること は多々あろう。たとえ、この支出が、利益処分の性質を有するものであったとしても、企業の将来の収益獲得に 全く貢献していないとはいえないが、その支出の効果がどの程度のものかを判断することは非常に難しいことか ら、画一的な処理を実現するために上記︵一︶の損金算入限度額が設けられたと考える。なお、裁判事例におい ても、金子氏の説明と同旨の判示がみられるところであ る。 第 二 に、 渡 辺 淑 夫 氏 は、 金 子 氏 の 説 明 に 加 え て、 ﹁ も と も と こ の 種 の 贈 与 と か 恵 贈 と い っ た 類 の 支 出 金 は、 そ 6 7 8 9
論 説 の 性 質 上、 ﹃ 事 業 遂 行 上 通 常 に し て、 か つ 必 要 な 経 費 ﹄︵ or dinar y and necessar y expenses ︶ と い う よ り は、 む し ろ利益の分配に近いものであろうし、かりにこれを無制限に損金として控除することとすれば、これにより租税 負担が減少する分だけに実質的に国庫が寄附金を負担する結果となる。極端にいえば、国はおのれの関知しない 相手方に一種の補助金を交付するに等しいことになるわけであって、このようなことを放置するとすれば、租税 負 担 の 公 平 な 配 分 を 損 ね る こ と に な る。 こ れ が、 寄 附 金 に つ い て 税 法 が 規 制 を 加 え る 第 一 の 理 由 で あ る。 ﹂ と 説 明されている。このような説明は、 ﹃臨時租税措置法解説﹄においてもみられるところである︵本章本節二参照。 ︶。 次 に、 上 記︵ 二 ︶ の 寄 附 金 全 額 の 損 金 算 入 が 認 め ら れ て い る 理 由 と し て、 武 田 昌 輔 氏 は、 ﹁ 指 定 寄 付 金 等 は、 寄付金の限度計算とはややその意味を異にする。指定寄付金等の最も典型的なものは、国又は地方公共団体に対 してされる寄付金である。これらの寄付金は、結局において課税権者たる国又は地方団体に帰属するものである から、前述のような意味の弊害は考えられない。さらに、国、地方団体に対するもの以外で純粋に公益的な目的 を持つ寄付金は、ことにそれがその対象たる事業に、国、地方等の補助金等が支出されている場合を考えれば、 財政の歳入、歳出独立の原則をしばらくおくとすれば、その支出によって失われる租税が、究極においては公益 的目的に支出されたと同様の結果となる。これらの点から、政策的に公益度の高い事業を推進するため、これら に 対 す る 寄 付 金 の 特 別 の 損 金 算 入 を 認 め た の が 指 定 寄 付 金 の 意 義 で あ る と 考 え ら れ る。 ﹂ と の 見 解 を 示 さ れ て い る。また、裁判事例からも、武田氏の見解と同旨の判示がみられるところであ る。 そして、上記︵三︶の寄附金についても、公益性が高いものと認められるため、別途政策的に損金算入限度額 が設けられたと考え る。 なお、現行法人税法における普通法人の損金算入限度額は、次の通りである。 10 11 12 13
①上記︵一︶の損金算入限度額︵令七三条一項一号︶ [期末資本金等の額×当期月数/12×2・5/1、000+当期所得金額×2・5/100] ×1/4 ②上記︵三︶の損金算入限度額︵令七七条の二第一項一号︶ [期末資本金等の額×当期月数/12×3・75/1、000+当期所得金額×6・25/100] ×1/2 二.寄附金課税制度の沿 革 寄 附 金 課 税 制 度 は、 昭 和 一 七 年 二 月 の 臨 時 租 税 措 置 法 の 改 正 に よ っ て 創 設 さ れ た︵ 同 法 一 条 の 一 六 ︶。 鈴 木 保 雄 氏 ら は、 当 時 の 時 代 背 景 に つ い て、 ﹁ 本 条 を 設 け ら れ た 趣 旨 に 付 て 一 言 す る と、 近 時 会 社 の 為 す 寄 附 金 が 著 し く増加の傾向を示してゐる。従来寄附金に対する税務の取扱はこれを損金としてゐたのであって、租税が軽率で あった時代は特にとりたてていふ程に足らなかったのであるが、現在の如く租税負担が相当重くなった場合、実 に時局の好影響を享けて高率の利益を挙げてゐる会社に付ていへば、その所得のうち最高の税率を以て課税せら れる部分は臨時利得税七五%、法人税六%二五、営業税︵附加税共︶一%五、合計八二%七五といふやうなこと も あ り 得 る 状 態 ﹂ で あ っ た と 説 明 さ れ た 上 で、 当 時 の 寄 附 金 課 税 制 度 の 趣 旨 に つ い て、 ﹁ 時 局 下 国 庫 の 収 入 増 加 を図る必要大なるものある秋に於て、多額の寄附金を損金に認容することは国庫収入の財源を失ふ虞れがある。 只従来これを損金として取扱って来た沿革上、直ちに寄附金全額を損金と認めないこととすれば、会社の租税負 担に相当急激な変動を与へることとなるから、一定の標準に依って算出した金額を超えて為したる寄附金の超過 部分の金額に付ては、これを損金に算入しないこととせられたのである。もとより本条の規定は寄附金の性質が 14 15
論 説 損金に属すべきに非ずとか、益金処分に依るべきであるとかを決定したものではな い。 ﹂と説明されている。 この説明によると、寄附金課税制度の創設前においては、法人が支出する寄附金全額の損金算入が認められて お り、 特 に 制 約 は 加 え ら れ て い な か っ た こ と が 分 か る。 そ し て、 法 人 に 対 す る 当 時 の 適 用 税 率 が 非 常 に 高 率 で あ っ た た め、 法 人 が 支 出 す る 寄 附 金 が 激 増 し た の で あ ろ う。 こ の こ と は、 ﹁ 日 中 事 変 を 起 し て か ら、 特 に 法 人 が 重 課 さ れ た た め に﹃ 威 張 っ て と ら れ る 税 金 よ り も 御 礼 を 言 わ れ る 寄 附 金 を ﹄ と い う 考 え 方 が 流 行 し た。 ﹂ と の 説 明からもみてとれる。 寄附金の支出により、純資産が減少することは否定できないが、もし、このまま寄附金の支出全額の損金算入 を容認し続けるのであれば、国の財政収入が確保されなくなるだけでなく、その支出額に見合う分だけ法人税の 負担が国に転嫁されるため、課税の公平が維持できなくなる。このような理由から、寄附金課税制度が創設され たと考えられる。ただ、当時は太平洋戦争の真只中にあり、国防献金や恤兵金として寄附されたものについては、 その全額の損金算入が認められていたことか ら、戦費調達の目的もあったように思われ る。また、当時の損金算 入限度額については、寄附金の性質︵費用性の有無や利益処分性の当否︶を考慮して設けられたというのではな く、むしろ国側の納税者に対する若干の配慮によって設けられたのではないかと思われる。なお、当時の寄附金 課税制度が、現行の限度計算制度や現行の指定寄附金等の特例制度の原型となっている。 その後、寄附金の解釈を初めて明らかにした昭和一七年九月二六日付主秘四八七号の主税局通牒︵現在の取扱 通 達 に 相 当 す る も の ︶ が 公 表 さ れ、 こ こ で は、 ﹁ 寄 附 金 ト ハ、 一 方 ガ 相 手 方 ニ 対 シ、 任 意 ニ シ カ モ 反 対 給 付 ヲ 伴 ワズシテ為ス財産的給付ヲ云フ。 ﹂と定められ、寄附金の解釈の拠所とされ た。 昭和二二年の税制改正において、臨時租税措置法に定められていた寄附金課税制度は、初めて法人税法本法に 16 17 18 19 20
取り入れられた︵旧法九条三項︶ 。 昭和三六年の税制改正において、試験研究法人等︵現行、特定公益増進法人︶に対する寄附金について、一般 寄附金の損金算入限度額と同額まで別枠で損金算入が認められる制度が設けられた︵旧規七条の二︶ 。 昭和四〇年に法人税法の全文改正が行われたが、 これに伴い、 寄附金課税制度について、 従来、 政令事項であっ たものを法律事項へ格上げするとともに、次のような改正が加えられた。 ︵ 一 ︶ 従 来 は 寄 附 金 の 意 義 に つ い て 税 法 上 明 文 規 定 は な く、 専 ら 解 釈 に 委 ね ら れ て い た が、 法 人 税 法 三 七 条 五 項︵現行七項︶において、 ﹁寄附金の額﹂の定義が明らかにされた。 ︵二︶資産の低額譲渡等の場合に、その時価 と譲渡価額等との差額のうち実質的に贈与したと認められる部分について、寄附金の支出があったものとみなす 規定が創設された︵法三七条六項、現行八項︶ 。︵三︶法人が寄附金を支出した場合に、これにつき確定決算にお いて利益又は剰余金の処分による経理をしたときは、その経理をした金額については、限度計算を待つまでもな く、その全額を損金の額に算入しないとする規定が創設された︵旧法三七条一項、現行廃止︶ 。︵四︶未払の寄附 金は法人税法上その支出がなかったものとされ、寄附金についていわゆる現金主義を適用することが明確にされ た︵令七八条︶ 。︵五︶全額損金算入の特例が適用される国等に対する寄附金について、その寄附金が国等の行政 目的のために直接供する施設︵たとえば、庁舎、学校、病院、養護施設など︶に充てるためのものに限ることと された︵旧法三七条三項一号︶ 。 昭和六二年の税制改正において、普通法人等が特定公益信託として指定された公益信託に金銭を信託した場合 には、その時点で寄附金の支出があったものとみなし、さらにそのうち、特に著しく公益性が高いものとして主 務大臣の認定を受けたものについては、特定公益増進法人に対する寄附金とみなして損金算入限度額の特例を適
論 説 用する制度が創設された︵法三七条五項、現行六項︶ 。 第二節 ﹁寄附金の額﹂の意義 法 人 税 法 三 七 条 七 項 で は、 ﹁ 寄 附 金 の 額 は、 寄 附 金、 拠 出 金、 見 舞 金 そ の 他 い ず れ の 名 義 を も っ て す る か を 問 わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与︵広告宣伝及び見本品の費用その他 こ れ ら に 類 す る 費 用 並 び に 交 際 費、 接 待 費 及 び 福 利 厚 生 費 と さ れ る べ き も の を 除 く。 次 項 に お い て 同 じ。 ︶ を し た場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその 供与の時における価額によるものとする。 ﹂と定められている。 法人税法においては、 ﹁寄附金の額﹂の意義についての定めはあるが、 ﹁寄附金﹂の意義についての定めはない。 その理由は、所得計算上必要とされるものは、贈与目的物の額又は価額であって、贈与契約そのものではないか らであ る。そして、名義の如何を問わない、つまり、法人の支出について、企業会計上、どのような勘定科目を 用 い て い た と し て も、 ﹁ 金 銭 そ の 他 の 資 産 の 贈 与 又 は 経 済 的 利 益 の 無 償 供 与 ﹂ に 該 当 す る 取 引 で あ れ ば、 基 本 的 には寄附金として取り扱われることを意味する。ただし、かっこ書費用に該当する費用については、寄附金から 除 か れ る こ と に な る。 更 に、 寄 附 金 の 額 は、 金 銭 そ の 他 の 資 産 の 贈 与 時 又 は 経 済 的 利 益 の 無 償 供 与 時 の﹁ 時 価 ﹂ であることを明らかにしている。 なお、 この規定にいう﹁贈与﹂とは、 民法上の贈与概念と同様に解すべきであろう。法人税法において、 ﹁贈与﹂ の 意 義 に つ い て の 定 め が な い こ と か ら す る と、 こ の よ う に 解 し て も 差 し 支 え は な い と 思 わ れ る。 ま た、 ﹁ 無 償 ﹂ 21
に つ い て、 金 子 宏 氏 は、 ﹁ 対 価 ま た は そ れ に 相 当 す る 金 銭 等 の 流 入 を 伴 わ な い こ と を 意 味 し て い る と 解 す べ き で あ ろ う。 ﹂ と の 見 解 を 示 さ れ て い る。 こ れ ら の こ と か ら、 こ の 規 定 に い う﹁ 贈 与 ﹂ や﹁ 無 償 ﹂ と は、 金 銭 そ の 他 の資産や経済的利益を相手方に給付し、何らの見返りも求めないことであると考えられる。以上のことは、神戸 地裁昭和五八年一二月一九日判決からもみてとれ る。 ま た、 法 人 税 法 三 七 条 八 項 で は、 ﹁ 内 国 法 人 が 資 産 の 譲 渡 又 は 経 済 的 な 利 益 の 供 与 を し た 場 合 に お い て、 そ の 譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における 価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認めら れる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。 ﹂と定められている。 これは、形式的には有償譲渡や有償供与となるような取引であっても、対価額と贈与時又は供与時の時価との 間に差額が生ずる場合には、当該差額は基本的には寄附金に該当するということを明らかにしたものである。こ の規定は、 ﹁贈与の意思を隠匿して売買を仮装するがごとき行為に適用され る。 ﹂ことから、租税回避を防止する 目的で設けられたものであると考える。ただし、ここで留意すべきは、当該差額は無条件で寄附金に該当すると い う こ と で は な く、 ﹁ 実 質 的 に 贈 与 又 は 無 償 の 供 与 を し た と 認 め ら れ る 場 合 ﹂ に 限 ら れ る と い う こ と で あ る。 つ まり、当該差額が合理的な理由によって生じた場合には、当該差額は寄附金に該当しないことにな る。武田隆二 氏 は、 ﹁ 実 質 的 な 贈 与 ま た は 無 償 の 供 与 に 該 当 す る か ど う か を 判 断 す る に あ た っ て、 経 済 合 理 性 を も つ 行 為 と し てみられる場合︵すなわち、コストに対し十分なベネフィットをもたらすと判断される行為に基づく場合︶には、 贈与がなかったものとして扱われなければならな い。 ﹂との見解を示されている。つまり、同氏は、 ﹁合理的な理 由﹂の意義を﹁経済合理性の存在﹂と解されている。 22 23 24 25 26
論 説 ま た、 ﹁ 実 質 的 に 贈 与 を し た と 認 め ら れ る ﹂ の 意 義 に つ き、 贈 与 に つ い て 贈 与 の 意 思 を 必 要 と す る 見 解︵ 主 観 説︶ 、当事者に贈与の意思が推定されれば足りるとする見解︵折衷 説︶ 、低額譲渡の経済的な効果が贈与と同視し うるものであれば足りるとする見解︵客観 説︶の対立がある が、この点につき、今日の裁判事例では、客観説が 採られてい る。これは、多分、税務執行上の簡便性を考慮してのことと思われ る。 なお、法人税法三七条八項の規定は、低価取引について定められており、高価取引については定められていな いため、高価取引に関する規定を設けるべきであるとする見 解と、この規定は高価取引についても適用し得ると する見 解とが対立している。ちなみに、裁判事例においては、後者の見解が採られてい る。 第三節 法人税法上の寄附金と民法上の贈与との異同点 法人税法上の寄附金と民法上の贈与との相違点については、次の二点が挙げられる。 第一に、中村利雄氏は、法人税法上の寄附金の範囲に関して、 ﹁民法上の﹃贈与﹄が直ちに税法上の﹃寄付金﹄ となるとは限らない。すなわち、税法は、民法上贈与に当たらないとされる無利息貸付及び資産の無償貸与等も ﹃ 経 済 的 な 利 益 の 無 償 の 供 与 ﹄ と し て 寄 付 金 に 含 め て い る の で、 こ の 限 り で は 寄 付 金 は 民 法 上 の 贈 与 よ り も 広 い 概念ということができるが、他方、民法上の贈与であっても、例えば、得意先に配布する見本品又は試用品、従 業員又は得意先の慶弔、禍福に際し支出する金品等は見本品、広告宣伝費、福利厚生費、交際費等の営業経費と さ れ、 寄 付 金 か ら は 除 外 さ れ て い る の で︵ 法 法 三 七 ⑤ か っ こ 書、 現 行 七 項 ︶、 こ の 点 で は 民 法 上 の 贈 与 よ り も 狭 い 概 念 で あ る と い え る。 ﹂ と 述 べ ら れ て い る。 つ ま り、 両 者 に お い て は、 概 念 の 範 囲 が 異 な る と い う の で あ る。 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36
民 法 上 の 学 説 に お い て は、 ﹁ サ ー ビ ス︵ 役 務 ︶ や 労 務 の 無 償 供 与 に つ い て は、 こ れ も 贈 与 で あ る と す る 説 と 財 産 の 実 体 が 減 少 す る わ け で は な い の で、 贈 与 で は な い と す る 説 と が 対 立 し て い る。 ﹂ が、 あ く ま で 学 説 上 の こ と で ある。よって、法人税法上の寄附金の範囲は、民法上の贈与のそれよりも極めて広い概念であるといえ る。 第 二 に、 武 田 昌 輔 氏 は、 贈 与 の 目 的 に 関 し て、 ﹁ 民 法 に お け る 贈 与 は い う ま で も な く、 贈 与 者 と 受 贈 者 と の 法 律関係を中心として定められている⋮。⋮その贈与の目的がいかなるものであるかを問わず、およそ無償の提供 であれば、贈与に該当することになるのである。これに対して税法が寄付金を制限する理由は、これが恣意的な ものであること、税法上の利益を減殺する目的を有していることである。端的にいえば、納税するよりは寄付し た 方 が 課 税 上 有 利 で あ る こ と で あ る。 ﹂ と 述 べ ら れ て い る。 つ ま り、 両 者 に お い て は、 贈 与 の 目 的 が 異 な る と い うのである。確かに、節税対策の一環として、指定寄附金等の支出が行われることもあると思われる。その意味 では、法人税法上の贈与目的は、民法上のそれとは異なるものであるといえる。 結 局 の と こ ろ、 法 人 税 法 三 七 条 七 項 の﹁ 寄 附 金 の 額 ﹂ の 意 義 の 中 で、 ﹁ 贈 与 ﹂ や﹁ 無 償 ﹂ と い う 用 語 が 用 い ら れていることから、両者の共通点は﹁無償性﹂ということになる。 ち な み に、 福 井 地 裁 平 成 一 三 年 一 月 一 七 日 判 決 で は、 ﹁ 同 条︵ 法 三 七 条 ︶ 六 項︵ 現 行 七 項 ︶ に い う﹃ 贈 与 又 は 無償の供与﹄とは、民法上の贈与である必要はなく、資産又は経済的利益を対価なく他に移転する行為であれば 足りるというべきであ る。 ﹂と判示されている。ここでも客観説が採られていると思われるが、 ﹁民法上の贈与で ある必要はなく﹂ということから、法人税法上の寄附金は、税法独自の固有概念であるといえ る。 37 38 39 40 41
論 説 第四節 寄附金概念に関する学説・判 例 寄附金概念︵意義・範囲・内容︶に関する学説・判例については、非事業関連説、事業関連説及び非対価説の 三つに分類することができる。 第一に、非事業関連説は、寄附金とは、事業活動に関係なく支出される金銭その他の資産の贈与等をいい、資 産の贈与や経済的利益の無償供与であっても、それが法人の事業活動に関係のあるものであれば、寄附金には該 当しないという考え方であ る。非事業関連説によると、たとえば、親会社の子会社に対する無利息融資などの取 引については、親会社の事業に関連するものであるため、無条件で寄附金に該当しないことになる。このことか ら、非事業関連説は、寄附金概念をかなり狭く捉えているところに特徴があるといえる。なお、非事業関連説は、 現在の裁判事例や課税実務では採用されておらず、学説も少数説ということができる。 第二に、事業関連説は、法人税法上の寄附金は、事業遂行に関連がある寄附金について規定したものであり、 事業に関連のない寄附金は利益処分による支出として損金の額に算入されないという考え方であ る。この考え方 は、通常かつ必要な費用に限定して損金控除を認めている米国歳入法典の損金性の考え方と軸を一にするもので あ る。事業関連説によると、たとえば、親会社の子会社に対する無利息融資などの取引については、親会社の事 業に関連するものであるため、基本的には寄附金に該当することになる。このことから、事業関連説は、非事業 関連説と比べると、寄附金概念を広く捉えているところに特徴があるといえる。なお、事業関連説も、現在の裁 判事例や課税実務では採用されておらず、学説も少数説に位置付けられている。 42 43 44 45
第三に、非対価説は、寄附金は、事業関連性の有無を問わず、直接的な対価を伴わない支出であるという考え 方であ る。非対価説は、金子宏氏が説明されているとおり︵本章第一節一参照。 ︶、現行の寄附金課税制度の創設 趣旨にその論拠を求めることができ る。非対価説によると、たとえば、親会社の子会社に対する無利息融資など の取引については、親会社の事業に関連するものであるか否かを問わず、直接的対価性が認められない限り、寄 附金に該当することになる。このことから、非対価説も、非事業関連説と比べると、寄附金概念を広く捉えてい るところに特徴があるといえる。なお、非対価説は、現在の裁判事例、学説や課税実務では通説とされている。 ちなみに、寄附金概念は、非対価説と非事業関連説の対立であるとの見解があ る。 な お、 裁 判 事 例 を み て み る と、 鳥 取 地 裁 昭 和 五 七 年 六 月 二 四 日 判 決 で は、 ﹁ 法 三 七 条 に 規 定 す る 寄 付 金 は、 法 人 の 事 業 に 関 連 が あ る か 否 か を 問 わ ず、 法 人 が 行 う 直 接 の 対 価 の な い 支 出 で あ る と 解 す べ き で あ る。 ﹂ と 判 示 さ れており、非対価説が採られている。ただし、近年においては、 ﹁直接﹂の文言がない裁判事例も存在す る。 第五節 かっこ書費用の法解釈及び性格 一.かっこ書費用の法解 釈 かっこ書費用の法解釈については、無限定例示説、限定例示説及び限定説の三つの見解がある。 第一に、無限定例示説は、事業関連費用を法人税法三七条七項の贈与等から除く趣旨で、その除く費用を例示 しているという見解であ る。そして、無限定例示説からは、事業関連性のない費用が寄附金であり、事業関連性 のある費用は事業経費として損金の額に算入されるという﹁非事業関連説﹂の寄附金概念が導かれることになる。 46 47 48 49 50 51 52
論 説 よって、無限定例示説によると、たとえば、親会社の子会社に対する無利息融資などの取引については、非事業 関連説を採った場合と同じく、無条件で寄附金に該当しないことになる。 第二に、限定例示説は、かっこ書で除かれる費用は、事業関連性を有する費用という広義の費用ではなく、販 売費及び一般管理の営業費用の性質を有する費用に限るという見解であ る。かっこ書費用と寄附金概念に関する 学 説・ 判 例 と の 関 係 に つ い て、 成 松 洋 一 氏 は、 ﹁ 寄 附 金 は こ れ ら 広 告 宣 伝 費 な ど を 除 い た 残 余 の 概 念 で あ る か ら、 寄附金には当然事業に関連するものもあり得るということになる。この法人税法第三七条第七項かっこ書の規定 を単なる例示と解するか、限定列挙と解するかによって説が異なってくるが、非対価説は限定列挙と解するので あ る。 ﹂ と 説 明 さ れ て い る。 こ の 説 明 か ら、 限 定 例 示 説 に よ る と、 た と え ば、 親 会 社 の 子 会 社 に 対 す る 無 利 息 融 資などの取引については、非対価説を採った場合と同じく、親会社の事業に関連するものであるか否かを問わず、 直接的対価性が認められない限り、基本的には寄附金に該当することになる。ただし、販売費及び一般管理の営 業費用の性質を有する費用に当たるのであれば、寄附金に該当せず、損金算入されることになる。 第三に、限定説は、かっこ書の費用として贈与等から除かれる費用は、かっこ書に掲記されている費用に限定 されるという見解であ る。 なお、 裁判事例をみてみると、 名古屋地裁昭和四五年一月二七日判決では、 ﹁従って﹃その他これに類する費用﹄ というのも広告、宣伝及び見本品の費用と類似した性質を有する販売経費を予想しているものというべきであり、 本件負担金の如きはこれに含まれないこというまでもな い。 ﹂と判示されており、限定例示説が採られている。 53 54 55 56
二.かっこ書費用の性格 渡 辺 淑 夫 氏 は、 か っ こ 書 費 用 に 例 示 さ れ て い る 広 告 宣 伝 費︵ 見 本 品 費 を 含 む。 ︶ 及 び 交 際 費 等 並 び に 福 利 厚 生 費については事業遂行上直接必要な経費であり、寄附金については事業遂行と直接関連しない支出あるいは事業 活動との関連性が希薄な支出であるとの見解を示されているが、その一方で、これら広告宣伝費等の費用につい ては、一種の贈与ないしはこれに類する行為の結果にほかならないものであるとの見解も示されてい る。 以上のことから、かっこ書費用に例示されているこれらの費用については、いずれも事業活動との結びつきが 強い支出であるとともに、対価性に欠けるものであると考えられる。なお、広告宣伝費に関する裁判事例として、 東京地裁平成二四年一月三一日判決があ る。 第六節 対価性の意義 既述のとおり ︵本章第四節参照。 ︶、 現在の学説・判例では、 非対価説が通説とされているが、 対価性の意義 ︵内 容・程度︶に関しては、直接的な対価と捉えるか、それとも間接的な対価と捉えるか、という二つの見解がみら れる。 第一に、 水野忠恒氏は、 対価性の意義について、 ﹁寄付金の規定の適用を不明確にする要因は、 このように﹃無 償の支出﹄というファクターにもある。裁判例には﹃無償﹄の意味につき、厳格に﹃直接の対価性﹄の存在しな い こ と を 要 求 す る も の が あ る が︵ 広 島 高 松 江 支 判 昭 和 五 七・ 九・ 三 〇 税 資 一 二 七 号 一 一 三 二 頁 ︶、 た し か に、 無 償の認定に際して対価の意味を広げることは三七条の趣旨を無意味にすると思われる。というのは、主たる寄付 57 58
論 説 金である贈与というものが、慈善的感情や尊敬の念から行われる場合もあれば、将来の利益の事実上の期待や過 去 の サ ー ビ ス に 対 す る 謝 礼 の 意 味 を こ め て な さ れ る こ と も 多 い か ら で あ る。 ﹂ と 述 べ ら れ て お り、 直 接 的 な 対 価 と捉える見解を示されている。 第 二 に、 大 淵 博 義 氏 は、 対 価 性 の 意 義 に つ い て、 ス ト ッ ク・ オ プ シ ョ ン 事 件︵ 第 五 章 第 二 節 参 照。 ︶ の 最 高 裁 判 決 前 に お い て は、 ﹁ 寄 付 金 以 外 の 費 用 と さ れ る 支 出 の 反 対 給 付 た る 対 価 性 と は、 当 該 出 捐 に 伴 う 金 銭 又 は 経 済 的 利 益 の 直 接 的 対 価 の 享 受 と い う 有 償 性 を 有 す る 場 合 に 限 定 し て 解 し て よ い の で は な い か と 思 わ れ る。 ﹂ と 述 べ ら れ て お り、 直 接 的 な 対 価 と 捉 え る 見 解 を 示 さ れ て い た。 し か し、 同 氏 は、 当 該 判 決 後 に お い て、 ﹁ 従 前、 親 会 社が子会社の支援のために行う金員の供与又は無利息融資等の経済的利益の供与は、グループ企業の発展のため に経済的合理的な行為ではあるが、その子会社の業績向上等がもたらす親会社への寄与は間接的かつ漠然とした ものにすぎず、直接的な反対給付︵対価︶を享受しているとはいえないとして、利息相当額を寄附金課税してい た 清 水 惣 事 件 判 決︵ 第 四 章 第 一 節 参 照。 ︶ 等 の 解 釈 論 理 は、 今 回 の ス ト ッ ク・ オ プ シ ョ ン 訴 訟 の 給 与 所 得 説 に 立 つ 判 決 に よ り 今 後 大 き く 軌 道 修 正 が 図 ら れ る べ き こ と が 認 識 さ れ る べ き で あ ろ う。 ﹂ と 述 べ ら れ て お り、 間 接 的 な対価と捉える見解に変更されている。この見解によると、たとえば、親会社の子会社に対する無利息融資など の取引については、親会社の事業に関連するものであるか否かを問わず、間接的対価性︵近い将来に対価の獲得 が見込めるという性質︶が認められない限り、寄附金に該当することになる。 59 60 61
第七節 寄附金課税制度の問題点 第一に、寄附金概念︵意義・範囲・内容︶について、現在の裁判事例、学説や課税実務では非対価説が通説と されているため、法人税法上の寄附金の範囲は極めて広く捉えられていることになる。それ故に、寄附金課税の 適 用 を 巡 る 争 い が 継 続 的 に 発 生 し て い る こ と に な る。 武 田 昌 輔 氏 は、 ﹁ 贈 与 又 は 経 済 的 利 益 の 供 与 で あ れ ば、 す べて寄付金となるという点が、果たして課税所得算定の原則とマッチしているのかどうかが問題となる。たとえ ば、親会社が子会社支援のために支出した金額が寄付金として取り扱われて損金不算入となることが、果たして 妥当かどうかも検討されなければならない問題であ る。 ﹂と指摘されている。また、右山秀一氏は、 ﹁寄附金の最 も重要な本質は、 ﹃任意的、恣意的かつ無償であること﹄と考え る。 ﹂との見解を示されている。関係会社間にお いては、経営上密接な繋がりがある。親子会社間に限っていえば、親会社には子会社に対する社会的責任もある。 確かに、関係会社間における整理支援を目的とする損失負担等や無利息貸付け等の取引については、形式的には 無償性のあるものであり、また恣意性が介入するものではあるものの、その密接な繋がりやその社会的責任から すると、任意性に欠けるものであるといえ る。やはり、関係会社間における整理支援目的の損失負担等や無利息 貸付け等の取引までもが基本的には寄附金に含まれる、という点については問題である。よって、寄附金概念に ついては再検討すべきではないかと考える。 第二に、かっこ書費用の法解釈について、裁判事例では限定例示説が採られているため、結果的に、寄附金の 範 囲 が 極 め て 広 く 捉 え ら れ て い る こ と に な る。 武 田 昌 輔 氏 は、 ﹁ 当 初 は 上 の 意 味︵ 寄 付 は、 公 共 的 団 体 等 に 対 す 62 63 64
論 説 る拠出金たる性格を有するという意味︶における﹃寄付金﹄に限定して、損金算入限度額を定めたのであったが、 次第にこれが拡大されて、およそ贈与︵経済的利益の供与を含む︶をもってこの対象とし、単に営業費的費用を 除 く と し た に す ぎ な い の で あ る。 果 た し て 営 業 費 的 費 用 だ け を 除 外 す る こ と が 適 切 で あ る か ど う か は 問 題 で あ る。 ﹂ と 指 摘 さ れ て い る。 既 述 の と お り︵ 本 章 第 五 節 二 参 照。 ︶、 か っ こ 書 費 用 と し て 例 示 さ れ て い る 費 用 は、 事 業活動との結びつきが強い支出、換言すれば、支払わざるを得ないという任意性に欠ける支出であ り、また対価 性に欠けるものであるといえる。かっこ書費用が営業経費のみであると法文上明示されているわけでもないこと からすると、このような解釈についても再検討すべきではないかと考える。 第 三 に、 対 価 性 の 意 義︵ 内 容・ 程 度 ︶ に つ い て、 大 淵 博 義 氏 は、 ﹁ 法 人 税 法 上 の 寄 付 金 は、 そ の 支 出 に よ り、 直接反対給付たる対価を求めるものでないことは異論のないところである。しかし、この場合でも、その対価性 の 内 容 又 は そ の 程 度 が 問 題 と な る。 ﹂ と 指 摘 さ れ て い る。 通 説 と さ れ て い る 非 対 価 説 で は、 直 接 的 な 対 価 が 求 め られており、また、同旨の判示がなされている裁判事例も存在する。一方、近年の裁判事例では、直接的な対価 が求められていないのではないかと思われるものも見受けられるところである︵本章第四節参照。 ︶。また、非対 価説の立場からは、整理支援通達の内容が対価性に欠くことは明らかであるとの見解もあ る。これは、損失負担 金等の支出によって、これに見合う収入︵対価︶を得ることができるわけではなく、換言すれば、ロスを最小限 に抑えられるという消極的利益を得ることができるにすぎず、また、その利益の額が概算値にすぎないためであ ると考えられる。よって、対価性の意義についても、再検討すべきではないかと考える。 65 66 67 68
第二章 整理支援通達の概要 第一章では、寄附金課税制度の概要について考察してきた。これによって、法人税法上の寄附金の範囲が極め て広く捉えられている原因は、 寄附金概念︵意義・範囲・内容︶ 、 かっこ書費用の法解釈や対価性の意義︵内容・ 程度︶に起因しているのではないかということが分かった。ところで、整理支援通達にいう﹁相当な理由﹂があ ると認められる場合に限り、 ﹁寄附金の額に該当しないものとする。 ﹂ということからすると、同通達と第一章で 考察した寄附金課税制度とは密接な関係があると考えられる。そこで、本章では、法源となっていない整理支援 通達の概要についてみていくことにする。具体的には、整理支援通達の趣旨やその沿革、同通達の適用基準、同 通達にいう﹁相当な理由﹂の意義及び同通達とかっこ書費用との関係について考察する。そして、最後に、整理 支援通達の問題点について整理する。 第一節 整理支援通達の趣旨及び沿革 一.整理支援通達の趣旨 法 人 税 基 本 通 達 九 −四 −一 で は、 ﹁ 法 人 が そ の 子 会 社 等 の 解 散、 経 営 権 の 譲 渡 等 に 伴 い 当 該 子 会 社 等 の た め に 債 務 の 引 受 け そ の 他 の 損 失 負 担 又 は 債 権 放 棄 等︵ 以 下 九 −四 −一 に お い て﹃ 損 失 負 担 等 ﹄ と い う。 ︶ を し た 場 合 において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると
論 説 認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められると き は、 そ の 損 失 負 担 等 に よ り 供 与 す る 経 済 的 利 益 の 額 は、 寄 附 金 の 額 に 該 当 し な い も の と す る。 ﹂ と 定 め ら れ て い る。 ま た、 そ の 後 に 注 書 き と し て、 子 会 社 等 の 範 囲 に つ い て、 ﹁ 子 会 社 等 に は、 当 該 法 人 と 資 本 関 係 を 有 す る 者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる︵以下九 −四 −二におい て同じ。 ︶。 ﹂と定められている。 山 本 守 之 氏 は、 ﹁ 法 人 は 社 会 的 な 存 在 で あ り、 税 務 が そ の 実 際 活 動 を 対 象 と し て い る 以 上 は 民 商 法 の よ う に 親 子会社といえども別個人の人格を持ち、株主有限責任の原理の上で取引が行われるという前提のものですべての 取引を観察することができない場合がある。例えば、子会社等が経営危機に瀕して解散等をした場合に、親会社 はその出資額を回収できないだけで、それ以上の新たな損失を負担する必要がないという株主有限責任の原理か らみれば、子会社等を整理する場合に際して親会社がその債務を引き受け、その他の損失を負担すれば、子会社 等 に 対 す る 寄 附 金 の 支 出 が あ っ た と 考 え る こ と も で き よ う。 ﹂ と 原 則 論 を 説 明 さ れ た 上 で、 法 人 税 基 本 通 達 九 − 四 −一 の 趣 旨 に つ い て、 ﹁ し か し、 親 会 社 の 社 会 的 責 任 か ら、 子 会 社 等 の 従 業 員 の 退 職 金 を 負 担 し て 子 会 社 等 の 整理を行うということがしばしば行われる。これは、子会社等の従業員の退職金を負担しなければ、子会社等の 従業員を再雇用せざるを得ないため、より大きな損失を避けるために行われた負担であり、減量経営をめざす親 会社が自ら生き残るために必要かつ不可欠なものであるといえる。そこで、子会社等の解散、経営権の譲渡等に 伴い、やむを得ず債務の引受けその他損失の負担又は債権放棄等︵損失負担等︶をした場合において、その損失 負担等をしなければ今後より大きな損失が生ずることを回避するために行われた等の相当な理由がある場合には、 寄附金の支出として取り扱わないことにしてい る。 ﹂と説明されている。 69 70
この説明によると、たとえば、親会社が業績不振の子会社に対して、いま損失負担等をしておかなければ将来 的にはより多額の損失負担等が生じるかもしれないという経済的合理性の観点から、寄附金課税制度の適用除外 規定として、 法人税基本通達九 −四 −一が設けられたと考えられる。なお、 ここにいう ﹁経済的合理性﹂ とは、 ﹁損 得勘定の結果としての必然性﹂を意味すると考えられる。 ま た、 法 人 税 基 本 通 達 九 −四 −二 で は、 ﹁ 法 人 が そ の 子 会 社 等 に 対 し て 金 銭 の 無 償 若 し く は 通 常 の 利 率 よ り も 低い利率での貸付け又は債権放棄等 ︵以下九 −四 −二において ﹃無利息貸付け等﹄ という。 ︶ をした場合において、 その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再 建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、そ の 無 利 息 貸 付 け 等 に よ り 供 与 す る 経 済 的 利 益 の 額 は、 寄 附 金 の 額 に 該 当 し な い も の と す る。 ﹂ と 定 め ら れ て お り、 そ の 後 に 注 書 き と し て、 合 理 的 な 再 建 計 画 の 判 断 基 準 に つ い て、 ﹁ 合 理 的 な 再 建 計 画 か ど う か に つ い て は、 支 援 額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事 例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと 認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う。 ﹂と定められている。 山本守之氏は、 ﹁法人が子会社等に対して金銭の無利息貸付け︵低利息貸付けを含む。 ︶又は債権放棄をした場 合等には、通常収受すべき利息と実際に収受している利息との差額又は債権放棄をした金額は、原則として寄附 金の支出があったものとして扱 う。 ﹂ と原則論を説明された上で、 法人税基本通達九 −四 −二の趣旨について、 ﹁こ こ で、 ﹃ 原 則 と し て ﹄ と し て い る の は、 経 済 的 合 理 性 が な い 場 合 と 考 え る べ き で、 特 段 の 事 項 が あ る 場 合 は 寄 附 金とすべきではない。例えば、業況不振の子会社の倒産を防止するために、緊急に合理的な再建計画を策定し、 71
論 説 これに基づいて﹃つなぎ資金﹄の融資を行う際に、通常の金利負担を求めれば子会社の再建を阻害することにな るので、低利又は無利息とすることはしばしば見受けられるところである。このように無償若しくは低利貸付け 又は債権放棄等について相当の理由があるときは、その貸付け又は放棄は正常な取引条件に従って行ったものと して、寄附金の取扱いはしないのであ る。 ﹂と説明されている。 この説明によると、法人税基本通達九 −四 −二についても、たとえば、親会社が業績不振の子会社に対して、 いま再建をしておかなければ将来的にはより多額の損失が生じるかもしれないという経済的合理性の観点、換言 すれば、損得勘定の結果としての必然性の観点から、寄附金課税制度の適用除外規定として設けられたというこ とになる。 二.整理支援通達の沿革 整 理 支 援 通 達 は、 昭 和 五 五 年 の 法 人 税 基 本 通 達 等 の 一 部 改 正 に よ っ て 創 設 さ れ た︵ 昭 五 五 直 法 二 −八 ︶。 四 元 俊 明 氏 は、 当 時 の 時 代 背 景 に つ い て、 ﹁ わ が 国 経 済 の 成 長 パ タ ー ン の 変 化 も あ っ て 四 〇 年 代 の 後 半 か ら 五 〇 年 代 の初めにかけて続いた景気の長期低迷期にあっては、構造不況業種を中心とする各企業の減量経営への努力には 厳しいものがあった。その過程で親会社が、子会社等の整理のためやむをえず債務の引受け、債権の放棄その他 の損失の負担をせざるをえなかったケースや子会社等の再建のために無利息または低利の融資を行ったケースが かなり発生した。一般の税の取扱いは正常下での独立企業間の取引を前提としているので、税の執行の現場では、 このような一方的な経済的利益の提供をその形式に従って寄付金と判断しがちな傾向がなかったとはいえな い。 ﹂ と 説 明 さ れ た 上 で、 整 理 支 援 通 達 の 創 設 趣 旨 に つ い て、 ﹁ し か し、 こ の よ う な 税 務 の 姿 勢 は、 オ イ ル シ ョ ッ ク 後 72 73
の数多くの企業救済の事例を経験することによって事実上改まってきているところであるので、今回通達改正の 機に、ここ数年の経験を踏まえてこれらの取扱いについての基本的指針を明らかにしたところである︵九 −四 − 一 ∼ 二 ︶。 要 件 は や や 細 か く 表 現 さ れ て い る が、 考 え 方 と し て い え ば、 要 は そ う し た 損 失 負 担 等 を す る こ と に 客 観的かつ合理的な必要性が存する場合にはこれを寄付金とは取扱わないというもので、租税回避行為がこの適用 から厳に排除されるべきことはいうまでもな い。 ﹂と説明されている。 この説明によると、整理支援通達の創設前において、たとえば、親会社が子会社の整理や再建のために支出し た損失負担金等については、形式的に寄附金とされていた傾向にあったようである。そして、オイルショック後 の数々の企業再建などの事例を踏まえて、整理支援通達が創設されたということになる。また、この整理支援通 達が租税回避の道具に用いられることを危惧して、同通達の内容が非常に厳しいものになっていることも窺い知 ることができる。ただ、課税庁が何故このタイミングで通達改正を行い、この整理支援通達を創設したのかとい う こ と に つ い て は、 こ こ で は 具 体 的 に 説 明 さ れ て い な い。 こ の 点 に つ い て、 武 田 昌 輔 氏 は、 ﹁ 本 件 判 決︵ 清 水 惣 事 件 判 決、 第 四 章 第 一 節 参 照。 ︶ を 契 機 と し て、 親 会 社 と 子 会 社 と の 関 連 に お い て は、 親 会 社 が 子 会 社 を 援 助 す ることもありうるという考え方が、 いわば表面化したことに注意されるべきである。 ⋮この通達 ︵九 −四 −二︶ は、 あ る 意 味 で は、 本 判 決 に 触 発 さ れ て 公 表 さ れ た も の と み る こ と も で き よ う。 ﹂ と 述 べ ら れ て い る。 や は り、 こ の 事件判決を機に、整理支援通達が創設されたと考えるべきであろう。 そ の 後、 整 理 支 援 通 達 は、 平 成 一 〇 年 に 改 正 さ れ た︵ 平 一 〇 課 法 二 −六 ︶。 当 時 の 改 正 経 緯 に つ い て、 武 田 隆 二 氏 は、 ﹁ 平 成 一 〇 年 度 の 特 殊 問 題 で は あ る が、 景 気 回 復 策 と し て 政 府 が 打 ち 出 し た 総 合 経 済 対 策︵ H 10・ 4・ 24︶において、景気回復の阻害要因となっている不良債権の迅速・円滑な処理を推進するための施策の一環とし 74 75
論 説 て、 ﹃ 合 理 的 な 再 建 計 画 に 基 づ く 債 権 放 棄 に よ り 発 生 す る 損 失 は 税 務 上 損 金 の 額 に 算 入 さ れ る 旨 の 一 般 的 な 取 扱 い に つ き、 一 層 の 明 確 化 を 図 る ﹄ こ と と さ れ た。 こ の こ と を 受 け て、 ﹃ 法 人 税 基 本 通 達 の 一 部 改 正 に つ い て ﹄ が 発 遣 さ れ た。 ﹂ と 説 明 さ れ て い る。 こ の 改 正 で は、 上 記 の ほ か、 子 会 社 等 の 範 囲 や 合 理 的 な 再 建 計 画 の 判 断 基 準 に つ い て も 明 記 さ れ た。 な お、 こ の 改 正 は、 ﹁ あ く ま で も 従 来 か ら の 取 扱 内 容 を よ り 分 か り 易 く、 明 確 に し た も のであり、対象範囲の拡大とか取扱いを緩和したものではな い⋮。 ﹂とのことである。 そ し て、 平 成 一 二 年 に 国 税 庁 タ ッ ク ス ア ン サ ー ホ ー ム ペ ー ジ に お い て、 ﹁ 子 会 社 等 を 整 理・ 再 建 す る 場 合 の 損 失 負 担 等 に 係 る 質 疑 応 答 事 例 等 ﹂︵ 以 下、 ﹁ 質 疑 応 答 事 例 等 ﹂ と い う。 ︶ が 公 表 さ れ た。 こ こ で は、 損 失 負 担 等 を する相当な理由の判断基準や再建計画の合理性の判断基準などについて、より具体的に示されることとなり、現 在に至っている。 第二節 整理支援通達の適用基 準 質疑応答事例 等︵コードNO. 5280︶のA二 −四では、整理支援通達の適用基準について、 ﹁子会社等を整 理又は再建する場合の損失負担等が経済合理性を有しているか否かは、次のような点について、総合的に検討す る こ と に な り ま す。 一. 損 失 負 担 等 を 受 け る 者 は、 ﹃ 子 会 社 等 ﹄ に 該 当 す る か。 二. 子 会 社 等 は 経 営 危 機 に 陥 っ て い る か ︵ 倒 産 の 危 機 に あ る か ︶。 三 . 損 失 負 担 等 を 行 う こ と は 相 当 か ︵ 支 援 者 に と っ て 相 当 な 理 由 は あ る か ︶。 四 . 損 失 負 担 等 の 額︵ 支 援 額 ︶ は 合 理 的 で あ る か︵ 過 剰 支 援 に な っ て い な い か ︶。 五. 整 理・ 再 建 管 理 は な さ れ て い る か︵ そ の 後 の 子 会 社 等 の 立 ち 直 り 状 況 に 応 じ て 支 援 額 を 見 直 す こ と と さ れ て い る か ︶。 六. 損 失 負 担 等 を す る 支 76 77 78 79 80
援 者 の 範 囲 は 相 当 で あ る か︵ 特 定 の 債 権 者 等 が 意 図 的 に 加 わ っ て い な い な ど の 恣 意 性 が な い か ︶。 七. 損 失 負 担 等の額の割合は合理的であるか︵特定の債権者だけが不当に負担を重くし又は免れていないか︶ 。﹂と説明されて い る。 ま た、 そ の 後 に 注 書 き と し て、 上 記 二︵ 以 下、 ﹁ 緊 迫 性 基 準 ﹂ と い う。 ︶ に つ い て は、 ﹁ 倒 産 の 危 機 に 至 ら ないまでも経営成績が悪いなど、放置した場合には今後より大きな損失を蒙ることが社会通念上明らかであるか を検討することになります。 ﹂と説明されており、また上記五については、 ﹁子会社等の整理の場合には、一般的 にその必要はありませんが、整理に長期間を要するときは、その整理計画の実施状況の管理を行うこととしてい るかを検討することになります。 ﹂と説明されている。 と こ ろ で、 質 疑 応 答 事 例 等 の A 三 −三 で は、 緊 迫 性 基 準 に つ い て、 子 会 社 等 の 再 建 の 場 合 に は、 ﹁ 経 営 危 機 に 陥っていない子会社等に対する経済的利益の供与は、その利益供与について緊急性がなく、やむを得ず行うもの とは認められませんので、寄附金に該当することとなります。子会社等が経営危機に陥っている場合とは、一般 的には、子会社等が債務超過の状態にあることなどから資金繰りが逼迫しているような場合が考えられます。な お、債務超過等の状態にあっても子会社等が自力で再建することが可能であると認められる場合には、その支援 は経済合理性を有していないものと考えられます。 ﹂と説明されており、また子会社等の整理の場合には、 ﹁子会 社 等 の 整 理 に 当 た り、 整 理 損 失 が 生 じ る 子 会 社 等 は、 一 般 的 に 実 質 債 務 超 過 に あ る も の と 考 え ら れ ま す。 ﹂ と 説 明されている。 この説明からは、子会社等の再建の場合には、子会社等の﹁自力再建不能﹂が大前提とされた上で、子会社等 が債務超過の状態であることだけでは、この緊迫性基準を充足していないことや、子会社等の資金繰りが逼迫し ている状態でなければ、これを充足していないことが分かる。これは、子会社等単体のみで再建可能であれば、
論 説 親会社等の子会社等に対する無利息貸付け等の取引については、正に金銭等の贈与又は経済的利益の無償供与等 に該当するためであり、また、子会社等が債務超過の状態であっても、その資金繰りが逼迫している状態でなけ れば、親会社等には、子会社等の再建の際に、無利息貸付け等を行う必然性はない︵金利減免、利息棚上げや返 済猶予等の措置で十分対応可能︶ということになる。 そして、子会社等の整理の場合にも、子会社等の﹁自力再建不能﹂が大前提とされた上で、子会社等は多額の ︵ 実 質 ︶ 債 務 超 過 を 抱 え て お り、 子 会 社 等 の 今 後 の 業 績 見 通 し も 芳 し く な い と い っ た 理 由 に よ り、 最 終 的 に 親 会 社等が子会社等の再建は不可能であると判断したとしても、その資金繰りが逼迫している状態でなければ、親会 社等には、子会社等の整理の際に、損失負担等を行う必然性はないということになる。 やはり、整理支援通達の適用基準の内容は、非常に厳しいものであるといえる。 第三節 ﹁相当な理由﹂の意義 泉美之松氏は、 ﹁﹃相当な理由﹄というのは、 ﹁﹃合理的な理由﹄といった意味であり、相当といえるためには、 客観的な経験則や条理に従った合理性がなければならない。⋮﹃やむを得ない理由﹄よりももっと明確で強い客 観 的 合 理 性 の あ る こ と が 要 件 と し て 表 現 さ れ て い る。 ﹂ と の 見 解 を 示 さ れ て い る。 こ れ に よ る と、 ﹁ 相 当 な 理 由 ﹂ とは、誰もが納得できるような原因が存在していることを意味すると考えられる。つまり、整理支援通達にいう ﹁ 相 当 な 理 由 ﹂ と は、 損 得 勘 定 の 結 果、 子 会 社 等 を 直 ち に 整 理 や 再 建 を せ ざ る を 得 な い と い う 必 然 性、 す な わ ち、 経済的合理性が存在していることを意味すると考えられる。そう考えると、武田隆二氏の見解とも合致する︵第 81
一章第二節参照。 ︶。 こ れ に 対 し、 粕 谷 幸 男 氏 は、 ﹁ 上 記 通 達 で い う﹃ 相 当 の 理 由 ﹄ の 意 義 を 貸 付 等 を す る 合 理 的 理 由 の 存 在 が あ る かどうかと考えるべきでない。それは、無利息等の経済的利益等と貸付等をする理由のなかに存在する経済的コ ストとが少なくとも対価関係にあることが ﹃理由﹄ のなかに示されなければならない。 すなわち、 そのことによっ て、 無償性が否定される訳であるから、 ﹃理由﹄のなかには無償性を否認するものが含まれていなければならない。 そのような意味に限定された ﹃理由﹄ を ﹃相当の理由﹄ と表現しているものと考え る。 ﹂ との見解を示されている。 これによると、整理支援通達にいう﹁相当な理由﹂とは、無償性の否認、すなわち、対価性が認められるような 理由が存在しているということになる。そして、この場合の﹁対価﹂とは、親会社等が子会社等に対して損失負 担等や無利息貸付け等の取引を行うことによって、当該親会社等のロスを最小限に抑えられるという消極的利益 を意味すると考えられる。 前者の見解は経済目的等の観点からみたものであり、後者の見解は対価性の観点からみたものである。両者の 見解は、着眼点こそ異なるものの、実質的には非常に類似するものであるといえ る。 ち な み に、 ﹁ 相 当 な 理 由 ﹂ の 意 義 に つ い て 判 示 さ れ た 裁 判 事 例 と し て、 低 利 貸 付 事 件 判 決 が あ る︵ 第 四 章 第 三 節二参照。 ︶。 第四節 整理支援通達とかっこ書費用との関係 中 村 利 雄 氏 は、 ﹁ 同 通 達 九 −四 −一 に 定 め る 子 会 社 等 の 債 務 の 引 受 け そ の 他 の 損 失 の 負 担 又 は 子 会 社 等 に 対 す 82 83
論 説 る債権の放棄は、 直接の対価がないから、 法人税法三七条五項︵現行七項︶本書の﹃経済的な利益の無償の供与﹄ に該当するため、これを寄付金の額に該当しないものとするためには、同項かっこ書の費用に該当するものと解 さざるを得ないこととなる⋮。同通達九 −四 −二に定める子会社等に対する無利息又は低利率貸付についても同 様、直接の対価がないから、当該取引は⋮同法三七条五項︵現行七項︶本書の﹃経済的な利益の無償の供与﹄に 該当するものの、同項かっこ書の費用に該当するものと認めて寄付金から除外し、営業費用として損金の額に算 入 す る こ と と し、 課 税 関 係 を 生 ぜ し め な い こ と と し た も の と 解 さ れ る。 ﹂ と の 見 解 を 示 さ れ て い る。 つ ま り、 こ の見解によると、同条項の枠内において、整理支援通達の内容のような解釈が成り立つということになる。 一 方、 こ の よ う な 解 釈 が 成 り 立 つ こ と に 対 す る 批 判 的 な 見 解 が あ る。 水 野 忠 恒 氏 は、 ﹁ 通 達 も、 先 の 大 阪 高 裁 判 決︵ 清 水 惣 事 件 判 決、 第 四 章 第 一 節 参 照。 ︶ を う け て、 親 子 会 社 間 の 債 権 放 棄 と 無 利 息 貸 付 に つ き、 相 当 な 理 由があれば寄付金と認定しないと改められたことは周知のことである。これらの解釈は経済的合理性ないし相当 性の用語によって事業との関連性を再び問題にするか、あるいは、それにより次に述べる対価性の解釈を行うも のとうけとれる。いずれにせよ、法人税法三七条の立法趣旨が画一的処理による明確化にあった点を考えても、 このような解釈は不適当であ る。 ﹂と評されている。 確かに、法人税法三七条七項からは、経済的合理性の存在が寄附金非該当性の判断基準であるとの解釈は困難 であるから、後者の見解については一理あるといえる。しかし、かっこ書費用で例示されている費用については、 いずれも事業活動との結びつきが強い支出、すなわち、任意性に欠ける支出であるとともに、対価性に欠けるも のであるといえる。また、整理支援通達の内容についても、半ば強制性という性格を有するとともに、対価性の 欠如という性格を有するといえることから、かっこ書費用には同通達の内容が含まれると解すべきであろう。 84 85
第五節 整理支援通達の問題点 整理支援通達の適用基準について、同通達の適用を受けるためには、子会社等が経営危機に陥っていること、 つまり、緊迫性基準の充足が要件の一つとされている。たとえ、債務超過であったとしても資金繰りに問題がな け れ ば、 整 理 支 援 通 達 は 適 用 さ れ な い こ と に な る。 田 中 治 氏 ら は、 ﹁ 企 業 グ ル ー プ 内 で 経 営 危 機 が 生 じ た 場 合 に、 事態が重要な局面を迎えるまで手をこまねくのではなく、早期の段階において、親会社があるいは企業間におい て支援をするということは決して不合理なものではない。このように考えるならば、判決︵太洋物産事件判決、 第 四 章 第 二 節 二 参 照。 ︶ の い う﹃ 死 活 に か か わ る よ う な 経 営、 信 用 の 危 機 ﹄ な ど の 基 準 は、 余 り に 狭 す ぎ る と い う べ き で あ ろ う。 ﹂ と 評 さ れ て い る。 関 係 会 社 間 に お け る 整 理 支 援 を 目 的 と す る 取 引 は、 形 式 的 に は 無 償 性 の あ るものであり、また恣意性が介入するものではあるものの、任意性に欠けるものであるといえる。また、親会社 等にとって、経済的合理性の観点からは、より早めに対応した方が得策であると考えられるし、対価性の観点か らも、より早めの対応によってロスを最小限に抑えることができると考えられる。よって、この緊迫性基準につ いては、再検討すべきではないかと考える。 第三章 グループ寄附金課税制度の概要 平成二二年度の税制改正によって、グループ法人税制が導入された。その制度の一つに、グループ寄附金課税 86