運動ニューロンの識別におけるGFP導入ショウジョ
ウバエの有効性
著者名(日)
山岡 景行
雑誌名
東洋大学紀要. 自然科学篇
号
45
ページ
47-56
発行年
2001-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00002458/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja運動ニューロンの識別における
GFP導入ショウジョウバエの有効性
山 岡 景 行
The advantage of GFP
fruit flies to distinguish the motor neurons
transgenic
Kageyuki YAMAOKA
Abstract
To examine how GFP is advantageous in distinguishing the motor neurons fOr the electrophysiological experiments, motor neurons innervating the larval body wall muscles 6 and 70f three different GFP transfbrmants,ノVrv2-GAL4+UAS- GFP, P103-3/Cy×UAS-GFP and D42/TM3×USA-GFP, of Drosophilαmelαno- gαster were observed at their 3rd instar larval stage. In these transf()rmants, jellyfish green fluorescent protein(GFP)gene was induced genetically to express in the nervous system In Nrv2、 because of very strong expression of GFP in the abdominal ganglion, motor neuronal somata could not be distinguished each other, while the nerve terminals on the muscles 6 and 7 could not be labeled. In P103-3/Cy、 the somata and the terminals of the motor nellrons ilmervating the muscles 6 and 7 were allnost not labeled. In D42/TM3、 the individuals whose nerve terminals were clearly labeled held high percentage examined so far, Theref()re, an intracellular or extracellular recordillg electrode could be easily oriented to the nerve terminals. In this transfbrmant, GFP expression on somata. of motor neurons was relatively weaker ill comparison with other somata. The strongly labeled somata in this transformant would be eH:lcient, landmarks to guide an electrode to weakly-labeled target sonllata of motor neurons illnervating the muscles 6 and 7. Key words:Dro50ρ肋α、 larva, motor neurol.1, GFP, transgene序論
筆者はキイロショウジョウバエ(Dア那o助〃αTnelan・ogaste7-)幼虫の.神経筋接合部を用い て伝達機構を解明する努力を行ってきた.電気生理学的データの解釈のためには対象とし てきた腹部縦走腹側筋6と7の神経支配を組織形態学的に確定しなければならなかった.これ等の筋はJan and Jan(1976)が速・遅2つの運動ニューロンにより支配されているこ とを電気生理学的に示唆して以来,広く双翅目幼虫の相当する筋に一般化されてこれ等の 筋を材料とする研究者達の常識となっている観がある(例えば,Irving and Miller,1980). 2つ存在することになっている運動ニューロンの一つはRP3(Raw Prawn 3)と呼ばれる ニューロンであることにほぼ間違いはない(Johansen etα1.,1989;Sink and Whitington, 1991a,b;Keshishian and Chiba,1993;Keshishian et al.,1993.1994,1996, etc.).とこ ろが,第2の運動ニューロンは細胞体の所在を示す証拠が提示されたことはない. 筆者は先にcarbocyanine系の蛍光色素DiIとDiOを用いて神経終末から逆行性に運動 ニューロン細胞体をラベルする方法が神経支配を明らかにする方法として有効であること を報告した(山岡・池田,1998).この手法を用いて運動ニューロンの同定を行った論文原 稿は,DiIとDioが細胞膜を拡散する色素でありギャプ接合を介して近傍のニューロンに 拡散する可能性を完全に否定することができないこと,およびDrosophilα胚で運動ニュー ロンの同定に広く用いられているlucifer yellowによる証拠が欠落しているというレフリー の見解に阻まれて受理されなかった.指摘されるまでもなく神経球内のニューロン細胞体 にlucifer yellowを注入する試みを行っていたが,幼虫では胚とは異なり技術的に多大な 困難があった.特に幼虫の神経球は特別の支持構造を持たず,幼虫体の運動に伴う激しい 衝撃から保護するためと思われるが強固な膜で覆われているので特定のニューロンに電極 を挿入して1ucifer yellowを電気泳動的に注入しようとすると神経球が電極に押されて動 いてしまうので,電極の挿入自体が困難であった.Lucifer yellowに代わる手段としてDiI やDioを試して一定の成果を得たのであるが,その結果が受け入れられず,腹部縦走腹側 筋6と7の神経支配を組織形態学的に確定する仕事はもとより,それらを用いた電気生理 学的研究もデッドロック状態に陥った. Chal丘e etαt.,(1994)によってクラゲAequoriαvictoriα由来の緑色蛍光タンパク質 (green fiuorescent protein:GFP, Sullivan and Kay,1999参照)が生きた細胞の光学顕 微鏡的マーカとして組み込まれて以来,遺伝子発現のマーカーとして広く用いられてきて いる(例えば,Brand,1999参照).キイロショウジョウバエにおいてはニューロンの先 駆細胞の分離やニューロンとグリアの移動,axonの成長などの神経系形成過程をトレース する有力な方法として用いられてきている(例えば,Brand,1995). GFPによる遺伝子 発現マーカーは決してlucifer yellowに代わる神経支配の証拠を提供するものではないが, 神経系,特に運動ニューロンで発現する遺伝子のマーカーとなり得るならば個々のニュー ロンを特定できないまでもそれらの細胞体や神経終末を観察しながらピンポイントでDiI を投与することが可能となることが期待される.また,電気生理学的実験に際してもそれ 等が目視できれば実験そのものが容易になりうる.最近,ニューロン,特に運動神経系で GFPが発現するとされる3つのtransformantsの分譲を受けることができた.それらの 有効性を検討したので,その結果を報告する.
運動ニューロンの識別におけるGFP導入ショウジョウバエの有効性 49
材料と方法
材料 キイロショウジョウバエ1)rosoρhilα melαnogαsterのGFPの遺伝子を導入して作成され たNrv2-GAL4十UAS-GFP(Sunε舌αL,1999),D42/TM3×USA-GFP, P103-3/Cy×UAS GFPを使用した. Nrv2(Nervanα 2)はDrosophilaのNa+, K+-ATPaseのβサブユニット遺伝子の組織 特異的転写制御因子(tissue-specific transcriptional regulatory element)として分離され たものであり神経組織特異的とされている(Xu etαL,1999). D42-GAL4はDrosophilα の胚では広い範囲に発現するが幼虫では運動ニューロンと介在ニューロンに発現が制限され るようになるとされている(Parks et al.,1998). P IO3-3/Cyは最近作られたtransformant で詳細は未発表であるものの,D42-GAL4と同様に運動ニューロンと介在ニューロンに特 異的であるとされている. ノVrv2-GAL4, D42-GAL4およびP103-3/Cyのトランスジーンを持ついずれの個体も, 第3染色体のバランサーに挿入されたUAS-GFPトランスジーンを持つ個体と交配するこ とによりGFPを発現する. いずれの材料も米国ロサンゼルスのBeckman Reserach lnstitute of the City of Hope, Div. NeurosciencesのDr. P. Sarvaterraの研究室で, Nrv2-GAL4はDr. B. Sun等に より,D42/TM3とPIO3-3/CyはDr. T.KitamotoによりUAS-GFPと交配して作成さ れた雑種第1代(G1)であり,同研究所のDr. K. Ikedaのご厚意によって筆者に定期的 に分譲されたものである.やむを得ずG2以降の世代を使用する場合はGFPを良く発現し ている個体を選抜して交配し,次世代でGFPの発現を確認した上で材料として使用した. 方法GFPの観察
定法に従って飼育した3齢幼虫を先に報告した方法により体壁筋と神経系を損傷しない ように気を付けながらBodenstein液(pH7.2)中で解剖し, pH7.2の燐酸バッファーで 4%に調整したparaformardehydeで軽く固定した(山岡・池田,1988).固定が終わった 標本は燐酸バッファーで数回洗浄して落射蛍光顕微鏡(オリンパス,BHS-RFC-A1または BX50WI)で検鏡した. GFPのexcitationは487-489 nm, emissionは509-511nmで あるから(Cubitt et al.,1999)基本的にblue励起としてBX50WIの場合は適切なダイ クロイックミラーを組み込んだキューブを使用し,BHSの場合はblue励起用のダイクロ イックミラーと補助励起・補助吸収フィルターを組み合わせて検鏡した.なお,BX50WI の場合は解剖容器として用いたアクリルシャーレの底に流し込んだ厚さ約3mmのsylgard を通してさえ微分干渉(DIC)観察が可能なので, DIC画像を観察しつつ,あるいは切り 換えつつ落射蛍光画像を検鏡することができた. DiIラベル DiIは先に報告した方法で(山岡・池田,1988),95%エタノールでo.15%溶液としてガ ラス微小ピペットに充填して投与した.神経終末をラベルする場合はGPFでラベルされ た近傍のニューロン細胞体をランドマークとしてRP3の細胞体が存在する腹部神経球の第2節背面正中線近傍のRP3および「第2の運動ニューロン細胞体」と思われるニュー ロンの細胞体をねらって投与し,また細胞体をラベルする場合GPFでラベルされた神経 終末を観察しながら筋6または7上の目的とするvaricosityを可能な限り狙って手動の圧 力で投与した.DiIを投与した標本は20℃に3~14日間paraformardehyde固定液中に 静置してDiIがターゲットまで拡散するのを待って検鏡した.手動の圧ではガラス微小ピ ペットの先端が圧に応じて微妙なぶれをおこすために,注入個所が不正確になりがちであ るが,手元にピコスプライサー等の装置が無いので微妙な手動のコントロールで投与せざ るを得ず,投与部位の正確さに問題が残った. 画像データの保存と処理 観察した画像は,落射蛍光顕微鏡にBHSを用る場合は,先に報告したように一度フィル ムに撮影し,フィルムスキャナーで2820dpiの解像度でスキャンしたデータをTIFF形式 ファイルとして保存した(山岡・池田,1988).BX50WIの場合は,ディジタルカメラと その無限光学系用アダプターセット(オリンパス,DS3030U-A)を用いて2048×1536ピ クセルの解像度の画像データをスマートメディアにTIFF形式ファイルとして保存した. DS3030Uは1.8インチの液晶モニターを装備しているが,顕微鏡にセットするとカメラの 後ろについているモニターが上に位置することになり事実上見ることができない.幸いAV 出力を備えているのでカーナビゲーター用の5.6インチTFTディスプレイ用パーツに加工 を加えて作成した液晶ビデオモニターに接続し,画像を表示してカメラのセッティングを行 うと共に焦点の調整と撮影範囲の決定を行った.なお,デジタルカメラセットDS3030U-A は,蛍光画像であっても明るい蛍光が観察される場合は殆ど問題がないが,暗い蛍光の場 合には画像のノイズが目立つのでやや難点があるが(例えば,第2図d参照),今回の材料 ではほぽ問題はなかった. 保存した画像ファイルは,photoretouchソフト(Adbe, Photoshop ver.5.5)を用いて 画像原稿の作成を行った.ただし,photoretouchは画像の解像度の調整,トリミングと組 合せ,明暗およびコントラストの調整,文字や記号の張り込みの目的にのみ使用し,客観 性を担保するために画像データには一切の作為的な加工は加えないことにした.
結果と考察
Nrv2-GAL4十UAS-GFP
第1図に典型的なGFPの発現状況を示す.第1図aは腹部第2節右側の筋6と7の運
動ニューロンがaxonを送る体節神経束とその分枝の一つ(SNb)のGFP像である.図の 左が頭部側,上が背面正中線側である.体側神経束は図の左下から斜め左上方向に走る. その分枝SNbが筋6と7の体壁側から両者の隙間を体腔側に立ち上がってきている部分まではGFPが発現しているが,筋6と7の体腔側表面の神経終末ではGFPの発現が見
られなかった(第1図b,c参照). 第1図bはGFPの蛍光画像を検鏡後,腹部第2節背面正中線近傍のRP3細胞体が存在 する近傍にDilを投与して順行性に神経終末をラベルしてrhodamineファイルターで検鏡 した第1図aと同一視野の画像である.GFPが発現していないために見ることが出来な運動ニューロンの識別におけるGFP導人ショウショウハエの有効性 5] 図1N7・ll.e-GAL4+UAs-GFPにお けるGFPの発現状況. ac:同一標本の同’フィールドであり 左が頭側,ヒが背面正中線側.a:腹部 第2節右側の腹側縦走体壁筋6と7の Hllorescehlフィルター画像.体節神経束 およびその分枝tSNb)まではGFPが発 現しているが(緑色蛍光),筋6と7hの 神経終末はGFPが発現していない. b: 同’標本の細胞体側にDilを投与して順 行性に神経終末をラベルしたrh(⊃dallline フィルター画像.aでGFPが発現して いない神経終末が1)ilでラベルされてい る.℃:bと同一・視野のfhloresceillフィ ルター画像.GFPは緑色の. Dilは黄金 色に蛍光を発している.SNb:体節神経 束の分枝b;6と7:腹側縦走体壁筋6 と71鍬印:神経終末.スケールバー: 50μm.
かった筋6と7の体腔側表面上に多数のvaricositiesが連なる神経終末がラベルされた. 第1図cは第1図bをfluoresceinフィルターで検鏡した同一視野の画像であり,GFP は緑の蛍光を発しDilは黄色から黄金色の蛍光を発している. Nrv2-GAL4では神経終末 でGFPが発現していないことは明らかであり,残念ながら1Vrv2-GAL4+UAS-GFPは3 齢幼虫神経終末に関する限り「神経系特異的蛍光」(Sun etα1.,1999)とは言えず,神経 終末の可視化に向いていないことが分かった. 一方,腹部神経球は全体が強い蛍光を発するために個々のニューロンの細胞体を識別す ることは困難であった(画像データの提示無し).この事実はこのtransformantの制作者 達も「多数の細胞が蛍光を発するので通常の蛍光顕微鏡で個々の細胞のタイプを判別する ことが難しい」と指摘している(Sun etα1.,1999)ことと一致した. このtransformantではDrosophilαのNa+, K+-ATPaseのβサブユニットのDNAに 隣接する5’に存在する転写制御因子に,イーストの転写活性化因子であるGAL4が連結さ れていることになっている.GAL4は上流側を活性化するシークエンスでUASと名付け られるシークエンスと特異的に結合する.したがって,Nrv2-GAL4のトランスジェニッ ク個体をUAS-GFPのトランスジェニック個体と遺伝的に交配することによって組み換え られるNrv2-GAL4+UAS-GFPではGFPがNrv2が発現する部位のマーカーとなる仕組 みである(Sun et al.,1999).この論議が正しいとすればNrv2-GAL4+UAS-GFPの神 経終末でもGFPが発現するはずである. GFP自体はサイズが27kDaの小さなタンパク 分子であり,細胞核にフリーに入り込み,細胞質を満たし,細かな細胞の突起にまで容易 に拡散しうると言う(Brand,1999).したがって,仮に神経終末でGFPが発現しないと してもNrv2がニューロンの何れかの部位で発現し, GFPが産製されるとすれば細胞末端 まで拡散するはずであり,神経終末もラベルされて然るべきである.第1図a-cからGFP はaxonや神経終末ではなくてgliaで発現しているように見える.神経終末でGFPが発 現しない理由は: 1.Drosophilαでは運動ニューロンのアクティヴサイトがあるvaricositiesのみならず神 経終末全体でNa+, K+-ATPaseのβサブユニットの遺伝子が発現しない 2.GAL4が正しく挿入されなかった 等の可能性が考えられるが,1の可能性は考えにくいであろう. いずれの理由であるにしろこのtransformantは神経終末を可視化する目的および中枢 内の特定の運動ニューロン細胞体を識別する目的には有効ではないことが分かった.
D42/TM3×UAS-GFP
第2図a・-cに典型的なGFPの発現状況を示す.このtransformantではGFPの発現状 況に可成り個体差があり,全体的に極めて弱い蛍光しか発しない個体も見受けられた.し かし,現在までに調査した56個体中45個体では筋6と7上の神経終末は極めて強い緑 色蛍光を発した(第2図a).しかし,その様な個体であっても他の細胞があまりにも強い 蛍光を発するために筋6と7を支配する運動ニューロンの細胞体を識別することは困難で あった(第2図b).連動二.1 一一ロンノ川良別におけるCl1P・・鍵ノ、ンi r’.]ン.㌍い・τ・ノノカU性 53 図2Dl2 TNB・1’.ys-(:1・/)ヒP川3-3rCv川「AS-Gl・1Pにおける(IFPの発現状況 a(:1)42’i’NIJS ,1’.Xl.)-Gl・’P:・・一ゼ:Pm3-:s‘(.’い1「.-S-GI・1P、㌃二画像は1|11・IV…pmフィ1しターlt.fli 1”ζ{一こあリブllカ・凱「l t則. パヒcl:事乏∴に汀)2;’ill{i似[1付こ』1’l/・ti4t’1’印∫ノノト印1}5 klfi LT I象一こt’)1〕、 1・一力:-ly[[’U[1・[{1辛タ艮{則. /21’N:i豆∴;ンマ↓2三1」:/土き;9iii≒≦:../:1\N:i蔓∴::〕~3三ll ft・1’]「/i:]i≦. b.{.(、t1:1艮∴:9Ei,ilS,t.}..Fピ…テ【き1ノ([}]Li士llこ∫.i‘、 を.三才っせ}:、iii」1”1{. 1 こゼ:…i,1..・鰻’三t・・“ノ㍍ご乞.㌧コぐ・三1二li~‥・..㌦ill-≦i”s」L.こ{ミ:こ1_’こD」『こi±~f’・㌧: ・二’㍉・レさち;:・「L亙戸二・一:: :t ;/:幽巳lr・こプ∵.:..㌧づ .パ:およひ1・i・、,’「:は、そ㌧それ 三r二川て ・ /・ ・・「D三れている二・.一コン..戸・i≡ll・、こじ二丁こ↓.川を’,ミ.元..いにIM1いいい一GI-1P二、パ三hヒ ニ・ / ;:三.二s一筈it二(;IP、二:ミ:《ご.:,三て..・・二 .t:’,・、そ・≒∵::1,J i{.i二多敦・い川’を完房’一て.一る吉ii:泡 ;1・.1・想い蛍たを『1が;ヒするたソ,二川、江に誠川すTるニヒか.li{…㌧い㍑.1’IU,1.:~ピいUVS-C川)では 川6三7を乏配1.る運動ニンー!コ〉.} に川三パ]i巳!{_.ご,GトPか全ゾ「.ないヶ・スか多 1.・D .ノ、午一1し’ドー:一▲1)i.〔li.
第2図cは腹部第2節右側の筋6上に存在する神経終末を蛍光顕微鏡下で見ながら数個 のvaricositiesを狙ってDiIを極めて少量投与し,2週間固定液中で逆行性に拡散させてラ ベルしたRP3と「もう一つの運動ニューロン」の細胞体をfluoresceinフィルターによっ て観察した画像である.第2図bはcとは異なる個体のGFP画像であり, cでDiIによ りラベルされた細胞体の所在を矢印で示す.蛍光が弱くてこのままでは識別が容易ではな いが,異なる個体であっても嫉印を付した細胞体は第2図bとcで相互に同一であること の判別が可能であり,これ等の細胞体をランドマークに用いるならば筋6を支配する運動 ニューロンの細胞体の所在を特定することが可能であった.ただし,物理的に支持する組 織構造を持たない腹部神経級のオリエンテーションを個体毎に一定にすることは難しく, その事によって焦点深度が浅い蛍光顕微鏡下ではこれらのランドマークに使い得る細胞体 の見え方が異なることに注意を要する. D42-GAL4アクチベーターの発現は胚期では広い範囲の細胞で見られるが幼虫の神経系 では運動ニューロンと介在ニューロンに限定されるようになり,成虫期には幾らかの例外 を除いて縦走飛翔筋運動ニューロンに限定されるようになることが報告されている(Parks etα1.,1998).今回使用したG2世代以降は生きたままの幼虫の蛍光を調べて強い蛍光を 発する個体のみを4世代選抜して飼育して材料としてきた.しかし,G2世代以降では当然 ながら遺伝的に不安定である.また,数日間固定液中に静置するとGFPの蛍光が弱まる 傾向が認められることは問題であった. このtransformantは個体を選べば上述のように筆者が対象としてきた筋6と7上の神経 終末を鮮明に見ることができるし,他の細胞体をランドマークにすればそれらの運動ニュー ロン細胞体の所在をほぼ特定できるので,目視下で筋6と7の運動ニューロン細胞体や神 経終末に細胞内・外誘導電極のターゲットを定めることができる点で非常に有効であった.
P103-3/Cy×UAS-GFP
P103-3/CyもGFP発現個体を選抜して交配した4世代の25個体を含む38個体チェッ クしたが,筋3,4,12等の神経終末がGFPでラベルされていることが希に認められるが (第2図d),筋6と7上の神経終末がラベルされている個体は1個体も確認できなかった. 筋3,4,12等の神経終末がGFPでラベルされている個体の腹部神経球を観察すると,多数 のニューロン細胞体および軸策がラベルされているが(第2図e),D42(第2図b参照)と 比較すると明らかにラベルされる細胞体が少なく,また筋6と7を支配する運動ニューロン 細胞体を見分けることはできなかった.しかし,上述の様に極めて少数の神経終末しかラベ ルされていないにも関わらず一定数の細胞体でGFPが発現しているので,これらの多くは 介在ニューロンもしくはグリアである可能性が考えられる.同様の別個体で,筋6上の神 経終末が存在する部位にDiIを投与して逆行性に運動ニューロン細胞体をラベルすると近 接するRP3および「第2の細胞体」がラベルされた(第2図f矢印).これらの運動ニュー ロンの頭部寄りと尾部寄りには明瞭にラベルされる正中線を挟む一対の細胞体が認められ るので,これ等をランドマークとして用いることは可能ではあるが,このtransformantの GFP発現が不安定過ぎることが問題であった. 以上,Nrv2-GAL4十UAS-GFP, D42/TM3×UAS-GFP, P103-3/Cy×UAS-GFPに運動ニューロンの識別におけるGFP導入ショウジョウバエの有効性 55 おけるGFPの発現を調べた結果を報告した. Nrv2-GAL4は腹部神経球内の非常に広い 範囲の細胞で発現し,個々の細胞体を識別することは完全に不可能であり,また神経終末 で全く発現することがない.したがって,このtransformantは運動ニューロンを特定し て識別する目的で使用するメリットはほとんどない.P103-3/Gyはその何たるかが未だに 報告されていない材料である.今回の結果からは少なくとも3齢幼虫では唾液腺で最も良 くGFPが発現し,神経系では神経終末でGFPが発現することが少なく,比較的少数の運 動ニューロンと,おそらく可成りの数の介在ニューロンおよびグリアでGFPが発現する と考えられる.しかも,その発現状況は極めて大きな個体差が認められるので筆者の目的 に使う材料としては期待できない. D42/TM3のtransformantは個体差が認められるもののP103-3/Cyに比べると比較的 安定であり,上手くGFPが発現している個体の多くは神経終末で極めて明瞭にGFPが発 現する.腹部神経球内でも筆者が目的としている筋6と7を支配する運動ニューロンの細 胞体も,他に比べて弱いとは言え目視することが不可能ではない.近傍の特徴的な配置を とるGFPが極めて強く発現する細胞体をランドマークとすれば,それらの所在を推定す ることができる. 細胞体が目視,またはその所在を他の特徴的な配列をとる細胞体をランドマークとする ことによって知ることが出来れば細胞体に直接電極を挿入できる可能性が生まれる.また, 神経終末の個々のvaricosityが見えれば細胞内電極を挿入して電気現象を誘導できるで あろうし,細胞外電極によるフォーカルリコーディングの可能性も考えられる.したがっ て,D42/TM3×UAS-GFPは筆者の目的にとって極めて有効な材料となりうる.目下こ のtransformantを継続的に分譲を受け,その有効性を活用したinnervationの確認と神経 筋伝達機構を解明するための実験と各種電気生理学的実験の予備実験を進行中である.
引用文献
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