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慣性モーメントの概念理解を深めるための物理振り子の周期測定課題 利用統計を見る

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(1)

慣性モーメントの概念理解を深めるための物理振り

子の周期測定課題

著者

本橋 健次

著者別名

MOTOHASHI Kenji

雑誌名

東洋大学教職センター紀要

1

ページ

27-32

発行年

2019-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00011633/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

理工学部生体医工学科 得」とも一部対応している。そこでは、概念的知識の獲得 とは知識と経験の結びつきによる納得に留まらず、さら に発展して様々な場面で活用できる能力に高めることとし ている。しかしながら、慣性モーメントという物理量に対 しては、その概念理解を深め得る日常的な経験が少ない 上、あったとしても知識との対応関係を気づきにくい。慣 性モーメントが回転運動を持続しようとする性質の強さ を表す物理量であることを実感でき、それが腕の長さ(支 点までの距離)と質量で決まることを納得できる経験が 必要である。  そのようなとき、概念の理解を助けるのが観察や実験 6 ~ 8)であることは異論を挟む余地がないであろう。物理 学が自然を理解するための学問である限り、実験や観察 なくして概念の理解も伴わないからである。自然現象を単 純化した実験を通じて、日常的な経験と知識が間接的に 結びつき、概念理解に至ることが期待される。そのために は、学習者が実際の「もの」を扱う経験が重要である。例 えば、平山6) は腕の各部位の寸法を測定し、腕の形状を 数種類の異なる直径を持つ円板の連結体でモデル化する ことにより、その慣性モーメントを学習者に計算させた。 1.はじめに  慣性モーメントは剛体の回転運動を記述するために不 可欠な物理量1 ~ 4)であり、並進運動における質量に相当 する基礎的かつ重要な物理量である。しかし、質量のよ うに簡単に測定ができないため、初学者にとって理解し づらい。特に、高校で物理を学んでこなかった学生が大 学の教養教育や共通教育において初めて剛体の力学を学 ぶとき、「重心」までは理解できても「慣性モーメント」に 入った途端に理解できなくなることがある。例えば、本や ノートのように平面的な物体をその重心の位置で支えれ ば、指一本で水平に保つことができる。そして、これが支 点の周りの力のモーメントのつりあいで説明できるという こと(すなわち、重心の概念)は、やはり誰もが体験した ことのある天秤のつりあいの実験から容易に理解できる。 この例からも分かるように、概念の理解とは頭で学んだ 知識と体で感じた経験が結びついて納得することである と考えられる。例えば、文部科学省中央教育審議会では、 「社会に開かれた教育課程」の観点から「知識」について の考え方5)の検討が進められているが、本稿に記載した 「概念理解」は、そこで述べられている「概念的知識の獲

慣性モーメントの概念理解を深めるための物理振り子の周期測定課題

A homework of time period measurement of physical pendulum to enhance the understanding of the

concept of moment of inertia

 本橋 健次

要  旨

 大学の教養教育や学部共通教育の物理学において学生が剛体の力学を学ぶ際、概念の理解に苦労する 物理量の一つに慣性モーメントがある。回転運動における慣性モーメントは並進運動における質量に対応す る重要な物理量であるが、質量のように直接測定することが困難であるため、初学者にとって理解しづらい。 本研究では慣性モーメントの概念理解を深めるため、学生が自宅で個別に取り組むことのできる簡単な物理 振り子(剛体振り子)の周期測定課題を開発した。そして、理工学部 1 年次の物理学の講義でこれを実施し、 今回その 10 年分の答案を分析した。本研究で開発した課題は、計算と実験が容易であるにも関わらず、物 理学の定量性の高さを実感でき、慣性モーメントの概念理解に有効であると考えられる。 キーワード:慣性モーメント、剛体、物理振り子

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理工学部生体医工学科 理工学部生体医工学科  2.2 課題の詳細  本課題では学生は計算と共に実験を行うので、表 1及 び図 3 のような実験用材料を全員に配布した。板(図 3 左)は桧の節なし工作材料の端材板として安価にネット 販売されているので、それを利用した。端材の利点は安 価なだけでなく、材質や寸法が様々であるため、学生が 他人の答案を写すことができないことを保証してくれる 点である。固定軸の役割を果たす針は大学生協で販売 されている長さ 26 mm、頭の直径約 1.6 mm のオフィス ピン(図 3 右)を使用した。待ち針のように頭が大きいと、 支点と回転軸が異なってしまい、実験値に影響が出てし まうので、なるべく頭の小さいものがよい。なお、筆者は  筆者の授業では、敢えて平行軸の定理9, 10)は使わずに、 15分程度の時間を割いてこの例題を解かせている。この 計算には二重積分が必要なので、数学が苦手な学生は及 び腰になりがちだが、実際にはx2y2の積分を一回ずつ 繰り返すだけで解けることが分かるとハードルは一気に下 がり、手が動き始める。多重積分の苦手意識をなくすため の例題としてもこの計算は貴重であると考えられる。  一方、重心 G を除く任意の点(x0, y0)を通る板に垂直な 回転軸で板を支え、図 2の中段挿絵で示されるような重 力による振り子運動(物理振り子または剛体振り子運動) をさせたとき、振幅が小さい場合の振動周期 T は近似的 に(3)式で与えられる。6, 7, 9 ~ 11) ただし、g は重力加速度の大きさ、h は回転軸の位置座標 x0, y0)と重心座標 (xG, yG)との間の距離であり、(4)式 で表される。 また 、板の厚さを考えた場合の慣性モーメントも(2) 式と等しくなることは明らかなので、ここでは説明を省い た。なお、この課題に取り組む段階では、学生はまだ剛 体の回転に対する運動の法則を学んでいないため、(3) 式の導出を行っていない。そのため、周期 T が重心から の距離h で表される理由、すなわち、重心に働く外力の モーメントの総和が回転運動を決定することについては 言及を避けた。また、慣性モーメント(1)式の計算にお いて、原点を最初から重心 G にとることもできるが、そ の場合、学生は最初に板の重心(xG,yG)に印をつけて から回転軸座標(x0, y0)を決めなくてはならず、長さの 測定誤差や測定ミスが増えることから、板の頂点を原 点とした。 図 1 長方形板の任意の点の周りの慣性モーメントの計算に必要な    座標(図 2の上部挿絵を拡大) (1)式を計算すると、I ⁄ M は次式で表される。 図 2 長方形板の任意の軸の周りの慣性モーメントと物理振り子の    振動周期を求める計算と実験の課題 さらに、学習者の腕振り運動の周期を測定し、モデルの 理論値と比較させた。極めて日常的な運動である腕振り 運動をモデル化したことは、概念理解に大変有効である。 しかし、腕振り運動には学習者の身体的・精神的要因が 複雑に影響するので、定量性に問題があると考えられる。 一方、G. B. Russeva ら8) は、任意の形状に切った厚紙を 重心以外の任意の支点の周りで振り子運動させ、重心か ら支点までの距離と周期の関係を測定させることにより、 慣性モーメントに関する平行軸の定理 9, 10) を導出させる 課題を考案した。この課題は身近で簡単でありながら、定 量性の高い結果を導出することができるという点で優れ た手法であるが、慣性モーメント自体の概念理解には直 接結びつかない。  そこで、本研究では学生が自宅で簡単に取り組むこと ができ、慣性モーメントの概念理解を深めるための物理 振り子の課題を提案し、過去十年にわたって提出された 665人分の解答結果の分析から効果を検証することを目 的とした。その際、1クラス 100 名前後の一般的な規模の 講義において、特別な準備を必要としない宿題形式の課 題であることを念頭に置いた。 2.提案課題  2.1 長方形板の慣性モーメントと物理振り子の周期   本課題は宿題形式をとっており、その日の授業で棒、板、 円板などの基本的な慣性モーメントの計算方法を学んで いることを前提としている。とりわけ長方形板の任意の点 の周りの慣性モーメントIの計算 9, 10)は、この課題を解く 上で必須の例題である。 ここで、M は板の質量、a と b は長方形の板の一辺の長 さ、(x0, y0)は図 1に示すように、長方形の一つの頂点(図 1の0点部分)を原点としたときの回転軸の位置座標を 表す。 品名 サイズ 数量 金額 入手先 無節の桧工作材 料の端材板 縦 40 ~ 70 mm, 横 50 ~ 120 mm, 厚さ 6 ~ 12 mm 1 1000 円 (1.5 kg入り) ネット通販 オフィスピン 針の直径 0.73 mm, 頭の直径 1.6 mm, 長さ 26 mm 2 500 円 (100 g入り) 大学生協 表 1 物理振り子の実験課題に必要な材料 (数量:学生一人当たり) 図 3 板(左)とオフィスピン(右)の写真 図 4 授業中に回覧した物理振り子の見本の写真(上)と    台座に添付した実験方法の注意書き(下)

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(4)

理工学部生体医工学科 理工学部生体医工学科 つことが分かる。また、線形近似における傾きが 2.17で あることから、本課題の 1点が中間試験に約 2点分のプ ラスの影響を与えたと考えられる。すなわち、線形近似だ けで考えれば、本課題 10点分が中間試験結果におよそ 20点分の影響を与えたことになる。もちろん、中間試験 の得点にはそれ以外の要因による大きな個人差があり、 本課題が 0点(未提出)であっても中間試験で 100点を 取った学生もいれば、逆に、本課題で 10点を取っても中 間試験が 20点程度の学生もいる。しかしながら、図 7(b) のような二次元頻度表示では、当然、そのような極端な例 は少ないことが分かる。本課題で満点を取った学生の場 合、中間試験では 75 ~ 80点の得点を取った人数が最大 であるのに対し、本課題で 0点(未提出)の学生の場合、  3.2 理論値と実験値の答案分析結果  次に、総提出者 665人のうち再提出も含めて最終的に 受理された 568人分の答案に対し、理論値と実験値の相 対誤差(絶対値を取らない相対的な差)を分析した結果 を図 6に示す。受理されなかった 97人分の答案は計算ミ スや明らかな測定ミスのため本人に返却して再提出を求 めたが、その後、再提出されなかった答案である。この結 果から、89%の答案が相対誤差 5%以内に収まっており、 有効数字 2 桁以上が達成されている。しかし、相対誤差 0.2%以内に見られる鋭いピークはゆるやかなガウス分布 から大きく外れており、三桁以上一致する精度で結果を 出した学生が 12%もいたことが分かる。このように、簡単 な実験にもかかわらず、高い精度の測定 7, 8)が可能である ことが分かった。  本課題が学生の慣性モーメントの理解度にどれぐらい 寄与したかを直接調べることは容易ではないが、課題の 得点と試験の得点の相関関係が一つの指標になると考え られる。図 7は本課題の得点(10点満点)と中間試験の得 点(100点満点)の相関を散布図(a)と二次元の頻度分 布(b)で表したグラフである。図 7(b)では、人数を対数 のグレースケールで表示した。全 15回の講義の 8回目に 行った中間試験の範囲は「剛体の力学」であるため、慣性 モーメントの概念理解は中間試験結果に大きな影響を及 ぼすと考えられる。図 7(a)より、中間試験の得点は本課 題の得点に対して弱い正の相関(相関係数 0.312)を持 が、表計算ソフトに計算式を入力しておけば、学生の理 論計算の誤答案はすぐに判別できるので、それほど大き な負担にはならない。実験結果が正しいか誤りかの判断 に微妙なケースは多少あるが、その場合は再提出にはせ ず受理した上で、「もっとよく一致するはずなので、再度 実験してみて下さい。」といったコメントをつけて返却し た。なお、提出締め切りは翌週の授業終了時で、板から ピンを抜き、学籍番号と氏名を板とプリントそれぞれに 記入し、それらを別々に提出させた。 3.答案の分析結果  3.1 課題提出状況 図 5に課題の提出者数(a)と提出割合(b)の年度推移を 示す。図 5(a)より、履修登録者数と提出者数は共に増加 傾向であるが、再提出の未提出者数はほぼ横ばいである。 履修登録者数の増加には授業運営の善し悪し以外にも 時間割その他の様々な要因がある。一方、図 5(b)より、 課題提出者数の履修登録者数に対する割合は 2011年度 以降 85%前後でほぼ横ばいである。2010 年度以前はオ フィスピンを配布せず、自宅にあるもので代用させていた ため、提出率が低かったと考えられる。必要な材料をす べて配布することが提出率の向上には大変重要である。 提出者数に対して、最終的に正答として受理された割合 は 90%に達した。 板とオフィスピンを入れた紙袋を授業中に回し、必要な材 料を学生に取らせている。その際、図 4のような物理振 り子の見本もいっしょに回覧し、具体的な実験方法も学生 に提示した。ただし、図 4の見本で使用したステンレス製 の台座の代わりに、本や空き箱などで板の両側のピンを 支えるよう、注意書きも添えた(台座の下部)。また、危険 防止のため、オフィスピン 2 本をセロハンテープで板に貼 りつけて持ち帰るよう指示し、セロハンテープもいっしょ に袋に入れて回している。  学生には、図 2及び図 4のように、板の重心を除く任意 の位置にオフィスピンを 2 本刺し、それらを支点として両 側から水平に支え、30周期分の時間を 0.1秒の精度で 測定するよう指示した。2 本のピンが水平に置かれてい ること、板が本などに擦れないように振動させることが 重要であることも伝えた。最近はスマートフォンアプリで もストップウォッチと遜色ない機能と精度を簡単に実現 できるので、学生が 0.1秒精度の時間測定に困ることは ない。しかし、この課題を導入した当初はインターネット上 のストップウォッチのサイトを紹介し、パソコンによる測 定を推奨していた。一方、ストップウォッチをスタートさ せた瞬間を 0 回とし、30 回目で元の位置に戻ってきたと きストップさせるよう念を押した。スタートさせた瞬間に 1 から数え始めれば 1周期分時間を短く測定してしまうし、 元の位置と反対の位置でストップさせれば 0.5周期分短 く測定してしまうからである。当たり前のことではあるが、 これを間違える学生がいるのも事実である。板の二辺の 長さa,bと回転軸の座標 x0, y0の長さは 0.5mm の精度 で測定するよう指示した。さらに、理論値と実験値は最 低でも 2 桁の精度で一致するはずであり、そうならない 場合には理論と実験のどちらか(または両方)が間違っ ている可能性が高く、その場合は再提出になる可能性も あることを予め伝えた。とは言え、実際には計算ミスの他、 板の長さa,bと回転軸位置座標 x0, y0 の縦横の組合せを 逆にする、30周期分の時間が 5 秒以上理論値と異なる、 などの明らかな測定上のミスがない限りは受理した。当 然、採点では個々の板の長さを測定しなければならない 図 6 理論値と実験値の誤差分布 図 5 課題提出者数(a)と割合(b)の年度推移 図 7 本課題と中間試験の得点の相関 (a:散布図,b:二次元頻度分布) 店唖

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理工学部生体医工学科 参考文献 1) 田中文男、物理教育、23 (1) (1975) 20-24. 2) 北林照幸、藤城武彦、滝内賢一、基礎から学ぶ物理学、 講談社(2018)p. 93. 3) 高橋正雄、工科系の基礎物理学、東京教学社(1996 ) p. 86-93. 4) 中野嘉弘、大学の物理教育、21 (1)(2015) 39-40. 5) 文部科学省ホームページ、中央教育審議会 ・ 初等中等教 育分科会 ・ 教育課程部会・芸術ワーキンググループ ・ 教 育課程部会・芸術ワーキンググループ(第 7回)配付資料、 資料 5「知識」についての考え方のイメージ(たたき台)   http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo3/069/siryo/attach/1371893.htm 6) 平山 修、物理教育、 59 (3) (2011) 175-180.

7)  T. H. Richardson and S. A. Brittle, Phys. Educ. 47 (5) (2012) 537-544.

8) G. B. Russeva, G. G. Tsutsumanova and S. C. Russev, Phys. Educ. 45 (1) (2010) 58-62.

9) 原 康夫、詳解物理学、東京教学社、(2010) p. 83-86. 10) 原 康夫、物理学基礎 第 5版、学術図書出版社、(2016)

p. 96-100.

11) M. Kladivová and L. Mucha, Eur. J. Phys. 35 (2) (2014) 025018. 中間試験で 45 ~ 50点を取った人数が最大である。当然 のことながら、本課題だけで剛体の力学全般の理解度を 推し量ることはできない。しかし、本課題の得点と中間試 験の得点が弱い正の相関を持ち、その比(=中間試験の得 点/本課題の得点)が 2を超えたことから、慣性モーメン トの概念理解に一定の効果を上げたと考えられる。このよ うに、本課題が剛体の回転運動の理解に与える影響が客 観的なデータで示されたことは注目に値する。  3.3 再提出答案  一回以上の再提出によって最終的に正答に達した答案 も多い。誤答箇所として最も多いのが、板の二辺の長さ a ,b や回転軸座標 x0, y0の長さの測定ミスであり、次い で、(2)~(4)式の数値計算ミスや周期の測定ミスである。 その他、単位換算ミスや位取りのミスなども少数ではあ るが見られた。二回以上の再提出は、上記のミスを複数 回に分けて起こした場合に多い。  なお、再提出の回数によらずその都度の期限内に正答 にたどり着いた答案は 10点、期限後に提出された答案は 7点満点とし、正答にたどり着かなかった答案は程度に応 じてその間の点数とした。(図 7の横軸参照) 4.まとめ  慣性モーメントの概念理解を深めることを目的として、 学生が一人で実施可能な物理振り子の実験課題を実施し、 その 10年分の答案を分析した。履修登録者の約 85%が 課題を提出し、そのうちおよそ 90%が正答を導いた。さ らに、正答数の 89%は理論値に対する実験値の相対誤差 が 5%以内であり、正答数の 12%が相対誤差 0.2%以内で あった。このように、本稿で紹介した課題は簡単でありな がら、精度の高い結果を導き出すことができるため、学生 は物理学の定量性の高さを実感できると考えられる。さら に、剛体の力学に対する中間試験結果と本課題の得点に は弱い正の相関(相関係数 0.312)が見られたことから、学 生の理解度向上に一定の効果があったと考えられる。 生命科学部生命科学科  反逆する大衆の鉾先は ‘ 非大衆 ’ すなわち社会・経済 的なエリートに向けられる。つまり、従来の政治・社会・ 経済的な制度や仕組みの中で十分に意思を反映させ利 益を得られなかった大衆による、社会的・経済的エリート への反逆である。近時においては、例えば ‘グローバル・ エリート’と大衆との間の対立ということにもなろう。資本 や人の自由化を促すグローバル化の進展によって、ワシン トンの政治エリートやウォール街の大企業や投資家およ びメキシコなどからの外国人移民が利益を得ているとす る一方で、不遇を強いられたと感じた白人アメリカ人の労 働者層がトランプ氏支持に廻るといった対立が挙げられ よう。あるいは、ブリュッセルのEU本部のエリート官僚や シティの金融エリートおよび東欧圏などからの移民によっ て疎外感や閉塞感を強めた英国民が、反グローバリズム・ 反EUの声を上げるといった対立なども含まれるであろう。  もしこうした問題の背景にグローバル化という要因が共 通して横たわるのであれば、政府がグローバル化を強力に 推進している日本もこの問題と無縁とは言えない。政府与 党は、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた改正出入国 管理法を 2018 年 12月8日未明の参院本会議をもって可 決・成立させたが、移民を巡って揺れる欧州やアメリカと 1.はじめに  本稿の目的は、2017年度に改訂され 2019年度の移行 期間から高等学校で導入が始まる『高等学校 学習指導要 領』(平成 30 年 3月公示)に新たに定められた「総合的 な探究の時間」に関し、その学習活動としての生徒間の 「対話」や「協働」のもつ ‘ 社会的意義 ’ の視点から、「総 合的な探究の時間」がその意義に応えられるものである かを探ることにある。中心となる議論は、学習指導要領 および『高等学校学習指導要領解説 総合的な探究の時 間編』の内容や記述が、価値観や取り組み姿勢を異にす る生徒間の違いを超えて、「対話」や「協働」を成立させる よう向けられているかどうかを明らかにすることにある。  ここ数年、‘ ポピュリズム’ による社会の分断状況に関す る報道等に接することが増えてきた1。「大衆迎合主義」等 と訳されるポピュリズム(英:populism)という言葉は、ラ テン語の populus(‘ 民 ’ を意味)を語源とし、その意味は 「政治に関して理性的に判断する知的な市民よりも、情緒 や感情によって態度を決める大衆を重視し、その支持を求 める手法あるいはそうした大衆の基盤に立つ運動」とされ る2。「大衆の基盤に立つ運動」とあるが、アメリカでは ‘ ポ ピュリズム’ に「大衆の反逆」という意味合いもある3

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