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顔面外傷による気道緊急,出血性ショックに対しドクターカー出動と経カテーテル的動脈塞栓術が奏功した1例

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Academic year: 2021

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全文

(1)

はじめに

顔面外傷に起因する口腔内の血液貯留,骨折によ

る顔面骨の変形,喉頭や声帯の浮腫などからの気道

閉塞により危機的状態が引き起こされる。また Le

Fort型骨折や頭蓋底骨折合併例では損傷領域の血管

損傷により大量出血となり制御困難となることがあ

る。我々は顔面外傷による気道閉塞に対して迅速か

つ適切な気道確保を行い,出血性ショックに対して

迅速かつ有効な経カテーテル動脈塞栓術により救命

した重症顔面外傷の1例を経験したので報告する。

症  例

症 例:53歳の女性

既往歴:特記事項なし

現病歴:自動車で走行中,路肩に停車していたト

ラックに後方から衝突し受傷した。トラックの運転

手により救急要請,高エネルギー外傷,気道閉塞,

閉じ込め事故の可能性があり同時にドクターカー要

請となった。実際には閉じ込め事故ではなく車外に

救出された後に評価を行った。接触時,意識レベル

はGlasgow coma scale(GCS)7[E1V1M5],鼻腔およ

び口腔内から大量の血液が噴出し気道閉塞の可能性

があると判断しAirwayscope

®

(HOYA-ペンタックス,

Emergent airway management under the doctor-car system and transcatheter arterial embolization as treatment for life-threatening maxillofacial injury. 1北里大学医学部救命救急医学 2北里大学医学部脳神経外科 著者連絡先:〒252-0375 神奈川県相模原市南区北里1-15-1 原稿受理日:2014年10月7日(14-073)

顔面外傷による気道緊急,出血性ショックに対し

ドクターカー出動と経カテーテル的動脈塞栓術が奏功した1例

山谷 立大

1

  小泉 寛之

1,2

 樫見 文枝

1

  近藤 竜史

2

竹内 一郎

1

  隈部 俊宏

2

  浅 利  靖

1 要旨 顔面外傷は気道閉塞や出血性ショックなど,時に緊急度の高い病態を引き起こす。我々は 顔面外傷による気道閉塞に対してドクターカーの出動により迅速かつ適切な気道確保を行い,出 血性ショックに対して迅速かつ有効な血管内治療により救命した重症顔面外傷の1例を経験した ので報告する。症例は53歳の女性。自動車で走行中, 路肩に停車していたトラックに後方から衝 突し受傷した。トラック運転手により救急要請,高エネルギー外傷および気道閉塞の可能性があ り同時に救急隊よりドクターカー要請となった。救急隊現着時意識レベル Glasgow coma scale

(GCS)7[E1V1M5],SpO2 76%,血圧96/71mmHgであった。鼻腔および口腔内からの大量出血 による気道閉塞に対し直ちにAirwayscope®を使用し気管挿管を行い, 出血性ショックに対し急速 輸液開始し当院救命救急センターに搬送した。病着時には収縮期血圧60mmHgまで低下し輸血の 急速投与を行った。頭部CT検査で多発顔面骨骨折, 外傷性クモ膜下出血, 急性硬膜下血腫,気脳症, 頭蓋底骨折を認めた。体幹部CT検査で肺挫傷,気胸を認めたが出血性ショックの原因となる所 見は存在しなかった。鼻腔および口腔内からの出血が持続していることから,原因として外頸動 脈系からの出血を疑い血管造影検査を施行した。左顎動脈からの血管外漏出像を認めたため緊急 に経カテーテル動脈塞栓術を施行,直後から血圧が上昇し循環動態の安定を得ることができた。 (日救急医会誌. 2014; 25: 892-6) キーワード:病院前診療,血管内治療,外頸動脈

(2)

東京)にて気管挿管を行った。挿管後SpO

2

は76%か

ら90%台後半まで回復した。収縮期血圧90mmHgで

あったが末梢冷感著明であり出血性ショックと考え

乳酸リンゲル液の急速投与を行い当院救命救急セン

ター搬送となった(

Table 1

)。

来院時現症:意識レベルGCS 7[E1V1M5],SpO

2

92%(酸素10L/分,補助換気下), 皮下気腫は認めず

呼吸音に明らかな左右差も認めなかった。forcused

assesment with sonography for trauma

(FAST)は陰性,

胸部レントゲン検査にて右胸腔にdeep sulcus signを

認めたため胸腔ドレーンを挿入した。血圧の低下

(64/35mmHg),心拍数の上昇(116bpm)を認め,

末梢冷感持続し出血性ショックが遷延していたため

アルブミン,輸血の急速投与を開始した。鼻出血に

対してボスミンガーゼによる鼻腔内圧迫止血施行も

出血は持続していた。頭部および顔面骨CT施行し

た結果, 頭部CTで急性硬膜下血腫,外傷性くも膜下

出血,気脳症を認め,顔面CTで左眼球破裂と顔面

多発骨折(両側 Le Fort I,II,III 骨折,上顎骨矢状

骨折,前頭蓋底骨折,下顎骨折)を認めた(

Fig. 1

)。

造影CTで上顎洞背側に血管外漏出像を認めた(

Fig. 2a, b

)。体幹部CTで右気胸と両側肺挫傷を認める以

外に異常所見は認めなかった。鼻腔および口腔内か

らの活動性の出血を持続していることから,原因と

して外頸動脈領域からの出血を疑い頭部血管造影検

査を施行した。左外頸動脈撮影で左顎動脈終末部か

ら分枝へ移行する周辺から血管外漏出を認めた(

Fig. 3a

)。引き続き経カテーテル動脈塞栓術により左顎

動脈を閉塞した(

Fig. 3b

)。塞栓術施行直後から血

圧 140-150mmHg,心拍数 80-90bpm となり,皮膚所

見も改善しショック状態を離脱した。同日,顔面処

置の必要性より気管切開術を施行し集中治療室へ入

院となった。

入院後経過:意識レベルは徐々に改善し,入院翌

日には意識清明となり人工呼吸器離脱となった。顔

面多発骨折の整復固定術を第7病日に施行し,第19

病日に気管切開口を閉鎖した。眼球破裂による左眼

の失明は残存するもADLは自立し,Glasgow outcome

scale: Good Recovery

で第74病日に自宅退院となった。

考  察

当院のドクターカーの要請基準を示す(

Table 2

)。

北里大学病院ドクターカーシステムは北里大学病院

のある相模原市と神奈川県央東部地域(座間市,大

和市,綾瀬市)と協定を結び活動している。この地

域の人口は約 116 万人,面積は約 396km

2

である。

本邦の多くのドクターカーおよびドクターヘリで採

用しているキーワード方式

1,2)

を導入しており,消

Fig. 1. Computed tomography 3-D reconstruction showing on admission showing bilateral Le Fort I, II and III fractures. Tabel 1. Timeline.

8:35 Traffic accident 8:36 Ambulance call

8:41 Ambulance crews arrived at the accident site 8:46 Doctor Car call

8:56 The Doctor Car arrived at the accident site [vital sign: GCS 7 (E1V1M5), BP 127/62mmHg, HR 100/ min, SpO2 76%]

9:04 Establish an peripheral intravenous route

9:08 Oral tracheal intubation using Airwayscope® [vital sign before tracheal intubation: BP 127/63mmHg, HR 80/min, SpO2 66%]

(3)

Fig. 2. Contrast enhanced computed tomography showing contrast medium extravasation at dorsal left maxil-lary sinus (black arrow).

Fig. 3.

a: A lateral view of the left external carotid angiogram before endovascular treatment showing contrast medium extravasation from the internal maxillary artery (black arrow).

b: A lateral view of the left external carotid angiogram after endovascular treatment showing the disappearance of extravasation (black arrow).

a b

Table 2. Standards of request for doctor car system on Kitasato University Hospital. Cardiopulmonary arrest on witness

Chest pain with cold sweat over 40

Any problem with airway and breathing and circulation

Long time for patient rescue in traffic accident (estimated over 20minutes) Need for medical treatment in the field

(4)

防からの遅延のない要請を目指している。2011年2

月から開始している当院ドクターカーシステム

3)

平成 26 年 6 月現在で 330 件の出動を数え, 週に 2~3

回のペースで消防署からの出動要請がある。傷病者

を乗せた救急隊とのドッキング方式を採用し互いの

中間地点の消防署などでドッキングを行い傷病者と

医師が最短の時間で接触できるように努め,外傷や

循環器疾患症例を積極的に受け入れる努力をしてい

る。現在の当院ドクターカー出動後のキャンセル率

は6.1%と他施設(静岡県西部ドクターヘリ16.0%

4)

岐阜県立多治見病院ドクターカー 21%

5)

)に比べま

だ低く,今後オーバートリアージを許容した円滑な

応需体制

6)

を構築するため消防への一層の教育およ

び周知徹底と要請基準の再検討も必要となるかもし

れない。今回のような閉じ込め事故疑いなどの救出

に時間がかかると予想される事案に関しては医師と

傷病者への接触時間の短縮のため現場へ直接出動し

ている。本症例では現場への医師出動により,顔面

外傷による気道の解剖学的な変形や大量の出血によ

る気道閉塞を最小限の時間で解除でき患者の予後改

善に寄与したと考えられた。

今回の顔面外傷症例は気道の解剖学的変形と大量

出血による声門の視野不良に対しAirwayscope

®

を用

いた経口気管挿管が有効であった。Airwayscope

®

チューブ誘導機能を持つ間接声門視認型喉頭鏡で喉

頭蓋を直接挙上し近距離からカメラで声門を確認で

きるため,比較的初心者でも良好な喉頭視野を確保

可能ある

7)

。また,頸部の伸展を控えるためにも通

常の喉頭鏡による挿管よりもビデオ喉頭鏡の方が適

しており当院ドクターカーに常備している。しか

し,ビデオ喉頭鏡を用いた場合でも挿管困難のケー

スがあるため外科的気道確保セットも常備すること

が必要である

8,9)

顔面外傷による重篤な鼻出血,口腔内出血に対す

る止血方法としてまず試みられるのは,タンポナー

デ法による圧迫止血であるが不成功となることも多

10)

。またタンポナーデ法は頭蓋底骨折や髄液漏が

認められる症例には禁忌とされている。顔面外傷に

よる重篤な出血に対し TAEを必要とした症例を頻度

順に挙げた報告によると顎動脈65%,顔面動脈13%,

内頸動脈6%,外頸動脈6%,舌動脈4%,その他6%

と外頸動脈系の方が多く報告されている

11)

。タンポ

ナーデ法が施行できない場合や不成功であった場合

には外頸動脈結紮法や選択的動脈塞栓術が選択され

る。しかし外頸動脈結紮法は手術侵襲が大きく,循

環動態が悪化している症例では施行困難である。ま

た内頸動脈分枝からの出血では止血できず,外頸動

脈の分枝からの出血でも側副血行路が豊富なため止

血が不確実となる場合がある

12)

。選択的動脈塞栓術

の利点としては出血点を確認でき損傷血管の選択的

な閉塞より高い止血効果が得られること,他血管の

影響を軽減できること,顔面や頸部の挫滅や腫脹が

激しい症例でも施行できることが挙げられる

13)

。選

択的動脈塞栓術の合併症としては顔面神経麻痺,失

明,その他の脳神経麻痺,舌の壊死,脳梗塞などが

挙げられる

12,14)

。とくに頭蓋内血管への塞栓物質の

流入は重篤となり得るため外頸動脈からの頭蓋内血

管への吻合枝などを詳細に評価し経カテーテル動脈

塞栓術を施行しなければならない。また外頸動脈は

血管攣縮を起こしやすいため丁寧なカテーテル操作

も必要であり,同時にゼラチンスポンジやNBCAで

塞栓を行う場合には誤塞栓による合併症を起こさな

いよう手技の習熟が重要となる。

結  語

本症例において救命できたポイントとして,(1)

ドクターカーによる医師派遣が奏功し, 顔面外傷に

よる気道閉塞を気管挿管にて早期に解除できたこ

と,(2)顔面骨骨折に伴う大量出血によるショック

に対し,顎動脈の経動脈塞栓術により良好な止血効

果を得たことが挙げられる。

文  献 1) 境田康二 , 栗原宜夫 : 船橋市のドクターカーと ACLS, PTLS. 治療. 1999; 81: 47-53.

(5)

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5) 間渕則文, 山田富雄, 山崎潤二, 他: 医師が自ら運転する欧 州型ドクターカー DMERC: doctor driven medical emergency response carの4 ヶ月報告. 日臨救急医会誌. 2009: 12: 558-63. 6) 松本尚: 病院前救急診療からみる救急・災害医療体制の 将来像. 日医大医会誌. 2009; 5:187-92. 7) 林健太郎, 鈴木昭広, 菅原亜美, 他: 挿管未経験者におけ る各種喉頭鏡を用いた挿管施行の検討 . 麻酔 . 2011; 60: 389-94. 8) 田邊三思, 石井圭亮, 塩月一平, 他: ドクターカー出動が 奏功し外科的気道確保にて救命し得た重症顔面外傷の 1 例. 日臨救急医会誌. 2011; 14: 666-9. 9) 小林誠人, 冨岡正雄, 中村雅彦, 他: 救急現場での輪状甲 状靭帯切開にて救命し得た顔面外傷の 1 例 . 日臨救急医 会誌. 2005; 8: 373-7.

10) Sakamoto T, Yagi K, Hiraide A, et al: Transcatheter emboliza-tion in the treatment of massive bleeding due to maxillofacial injury. J Trauma. 1988; 28: 840-3.

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ABSTRACT

Emergent airway management under the doctor-car system and

transcatheter arterial embolization as treatment for life-threatening maxillofacial injury.

Tatsuhiro Yamaya 1, Hiroyuki Koizumi 1,2, Fumie Kashimi 1, Ryusi Kondo 2

Ichiro Takeuchi 1, Toshihiro Kumabe 2, Yasushi Asari 1

1 Department of Emergency and Critical Care Medicine, Kitasato University School of Medicine

2 Department of Neurosurgery, Kitasato University School of Medicine

Maxillofacial trauma can cause fatal airway obstruction and life threatening hemorrhage. Here we report emergent airway management under the doctor-car system and transcatheter arterial embolization in the treatment of life-threatening maxillofacial trauma. A 53-year-old woman experienced maxillofacial trauma resulting from an automo-bile accident. We received a call for doctor-car service because she experienced high-energy trauma and was sus-pected of having airway obstruction. On arrival at the accident site, she was in a semicoma. Her blood pressure was 96/71 mmHg and peripheral oxygen saturation was 76%. We used Airwayscope® to perform rapid intubation for

re-lief of airway obstruction due to massive hemorrhage from the oral and nasal cavities. Additionally, we performed fluid resuscitation because of hemorrhagic shock. On arrival at the hospital, her systolic pressure dropped to 64/35 mmHg. Therefore, emergent blood transfusion was performed. Head computed tomography revealed maxillofacial fracture, traumatic subarachnoid hemorrhage, subdural hematoma, pneumocephalus, and skull base fracture. Whole body computed tomography revealed pulmonary contusion and pneumothorax, and there was no life-threatening hemorrhage. The hemorrhage from the oral and nasal cavities was continuous. Left external carotid angiography re-vealed contrast medium extravasation from the internal maxillary artery. Trascatheter arterial embolization was per-formed, and her vital signs immediately stabilized.

(JJAAM. 2014; 25: 892-6)

Keywords: prehospital treatment, endovascular treatment, external carotid artery Received on October 7, 2014 (14-073)

Tabel 1.   Timeline.
Fig. 2.   Contrast enhanced computed tomography showing contrast medium extravasation at dorsal left maxil- maxil-lary sinus (black arrow).

参照

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