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成年後見制度と民事信託

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〈論説〉

成年後見制度と民事信託

       渡 部 朗 子 1.はじめに 2.民事信託が適用される理由―民法上の制度との比較 3.民事信託のしくみ 4.家族信託―民事信託の活用例 5.受益者連続信託 6.遺言代用信託 7.民事信託の問題点―東京地裁平成30年9月12日判決を手掛かりに 8.小括 73 74 75 76 79 80 82 86 1. はじめに の と と の の の と の と比較 1

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2.民事信託が適用される理由―民法上の制度との比較  民事信託が適用されるようになったのは、民法では対応しきれない点を補 うためである。 (1)遺言  遺言を作成した場合、その遺言の内容により、次の世代までの相続は確定 する。しかし次の次の世代(孫の世代)については、条件付きの遺言(長男が 相続した後は、次男の第1子に相続させること、等)があっても、確実に遺言ど おりに相続するかは定かではない。これに対し、信託を適用することにより、 孫の代まで財産の帰属を指定できる。そして、子の次の代の孫に引き継ぐ信 託契約の条項に入れておけば、子・孫の全員についての契約として確定する。 受益者連続信託(信託法91条)、後継ぎ遺贈型信託(信託法91条)の適用が 考えられる。 (2)成年後見制度  成年後見制度を適用する場合には、まず本人に判断能力があるうちに、将 来に備えてあらかじめ財産管理に関する取り決めをしておく任意後見契約(任 意後見制度)がある。契約締結のためには判断能力が必要であるが、判断能 力が低下しない限り効力は発生しない。すでに判断能力が不十分な場合は、 任意後見契約による財産管理の依頼ができないので、法定後見制度(後見・ 保佐・補助)を適用することになる。  法定後見制度を利用する場合、家庭裁判所に後見等開始の審判の申立て を行う。任意後見制度の場合、本人の判断能力が十分ではない状況になった 時、家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てをする。そして、財産管理 を含む成年後見人等の職務に関しては、定期的に家庭裁判所への報告が必 要になる。このように、成年後見制度を適用すると裁判所の関与がある。その ため、自分の現在の意思がそのまま実現するとは限らない(例えば、自分の希 望どおりに誰かに贈り物をするということができなくなる)。また、自宅を売却 して老人ホームの入所資金を捻出したい場合にも、成年後見制度の場合、家

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庭裁判所の許可が必要になるため(民法859条の3条参照)、希望している老 人ホームへ入所できるとは限らない。このような場合、家族信託を設定して財 産の管理・処分方法を信託条項に盛り込んでおけば解決できる。 (3)委任契約  資産の運用・管理を委任していたとしても、委任者の死亡または受任者の 後見開始があれば、委任契約は終了する(民法653条)。そのため、老後対策 や死後対策までは委任できない。信託を設定する際に、後見開始や死亡に関 わらず契約時の意向・意思を契約内容に入れておけば、そのまま継続する。遺 言代用信託(信託法89条、90条)の適用が考えられる。  このように、信託の活用の方法によっては、遺言、成年後見制度、委任契約 におけるそれぞれの短所を補うことができるのである。 3.民事信託のしくみ (1)背景  わが国における信託法及び信託業法は、大正11年(1922年)に制定され た。信託法制定の目的は、当時の信託の仕組みを悪用したビジネスを取り締 まるためだった。また、受益者保護の観点からの強行法規であり、信託業の 免許を持たない者が信託を設計・運営することができなかった。そして、信託 業の免許を取得できるのは、銀行に限られていたため、免許を持つ者が営利 目的で行う商事信託(信託銀行を利用する金融サービス)のみが発展した。  2006年信託法改正により、制度が全面的に改められた。主な基本方針は、 ①最近の経済社会の発展に的確に対応した制度となるよう、原則として任意 規定にする、②受託者の義務や受益者の権利に関する規定を整備する、③多 様な信託の利用形態に対応するための新たな制度を導入する、であった。これ により、営利を目的とせず特定の人から単発的に信託を受託できる民事信託 が活用できるようになり、成年後見分野以外にも相続・事業承継対策として 注目されている。

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(2)意義  民事信託は、信託法に文言として規定されていない。講学上商事信託に対 する用語として使われる。受託者が信託業法または兼営法の適用を受ける信 託会社・信託銀行である信託を商事信託といい、受託者が信託業の免許や 登録を有しない個人や法人である信託を民事信託という2。民事信託は、委託 者が自己の財産を受託者に信託し、受託者がそれを信託財産として受益者の ために管理又は処分を行い、信託が終了したら残余財産を受益者等に引き 渡すことによって、財産の管理と承継を行っていく信託である。  民事信託は、機能によりさらに分類される。民事信託の中には、個人が自 分の財産を信託する仕組みがある(個人信託)。委託者が個人の場合、相続 分野で適用する場合を家族信託、障害者福祉の分野で適用する場合を福祉 型信託と分類することがある。 4.家族信託―民事信託の活用例 (1)意義  民事信託の中でも、営利を目的としない個人信託(個人が自分の財産を信 託する仕組み)のうち、家族が受託者になる場合を、家族信託という3。家族 信託は、信託法上に規定はなく、講学上使われる用語である。家族信託は、 不動産などの財産をもっている人(委託者)が、その財産を信頼できる家族 (受託者)に預けて管理・処分などを任せ、特定の人(受益者)に利益を得さ せる仕組みである(信託法3条1項参照)。自分の老後や介護などに備えて、保 有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる家 族のための財産管理といえる。 (2)家族信託の具体例4  家族信託の多くは、自益信託による設定である。したがって、委託者=受益 者となる。 ① 預貯金を信託する場合

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 委託者である親が家族の同意を得た上で信託契約を結び、現預金類を信 託する。まず委託者が銀行などから預貯金の払い戻しを受ける。現金を信託 財産として、受託者の管理に任せる。そして、受託者が「信託口口座5」を開設 する。委託者が払い戻しを受けた現金を信託口座に振り込み、受託者が管理 する。これは、預貯金を信託財産とする場合、委託者名義の口座を受託者名 義に変更することはできないからである。 ② 受益者連続型信託  受益者連続型信託とは、第1受益者が死亡もしくは認知症になった場合、 第2受益者へ受益権が移転する。第2受益者が死亡もしくは認知症になった場 合、第3受益者へ受益権が移転する。第3受益者が死亡で信託を終了する、と いうように、世代を連続して受益権が移転する信託のことである。例えば、障 害のある長女の生活を受益者連続信託で守る場合、第1受益者は父親が受益 者となり、長女の面倒を見る。父親が死亡もしくは認知症になった場合、母親 が受益者となり長女の面倒を見る。そして、母親が死亡もしくは認知症になっ た場合、長女が受益者となり、面倒は長男が見る、という設定ができる。この 場合、受託者は長男にしておく。 ③ 会社経営者の事業承継の場合  高齢の経営者が認知症などで意思能力を失ってしまうと、株主総会で議決 権が行使できなくなり、会社の重要な意思決定ができなくなる。このような事 態に備えるために、自社株式を後継者候補に信託し、議決権行使を通じて行 う会社の意思決定を任せる。その一方で、配当を受ける権利などの受益権は 経営者に残すことによって、株式を譲渡した際に発生する税金を回避するこ とができる。例えば、自社株式を信託しつつ創業社長が指図権を持つといっ た場合である。社長を委託者兼受益者として、後継者候補を受託者とする。 自社株式を信託することのメリットは、後継者に自社株式を贈与すると税金 の負担が大きく、売却するには買い取るお金がない時、信託にすることにより 事業承継を有利に進めるための時間稼ぎに有効である点である。社長が認 知症を患ったり判断能力を喪失した場合は指図権が消滅する旨を取り決めて

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おく。 ④ 成年後見制度と家族信託を組み合わせる場合  例えば、地方に住むA(委託者兼受益者)が長男Bと同居していて、東京に 賃貸用マンションを保有している。そしてAの次男Cが東京に住んでいる場 合、身上監護と地方の自宅の管理は長男Bが、東京にある物件の管理はCとい うように分担する。Aが元気なうちに長男Bと任意後見契約を、CとCを受託者 とする信託契約を結ぶ。Aが判断能力を失ったときにBが任意後見人となっ て、自宅や信託財産と分けておいた預貯金や年金などを管理する。 ⑤ 障害がある子の親亡き後のための信託  この場合の信託は、他益信託(委託者と受益者が別)である。  例えば、障害がある子の親が、自分が元気なうちは責任をもって子供の面 倒を見ることができるが、自分の心身が衰えていくと対応しきれない。まして 自分の死後は対応できないので、信託を設定する。親を委託者、福祉関係団 体等の信頼できる先を受託者、子供を受益者として信託契約を結ぶ。親の資 産を福祉関係団体に管理・運用してもらい、その運用益を子供のために使う 方法を取る。親が亡くなった時は、委託者の地位を受益者に承継させるもの とする(他益信託から自益信託へ)。親が衰えてきて資産の管理・運用がで きなくなっても、また親の亡き後に子供の生活の保障ができる。 (3)家族信託の問題点6  家族信託の場合、委託者、受託者、受益者がともに家族の場合が想定され るが、受託者の利益相反が問題になる可能性がある。親が委託者兼受益者、 その子供が受託者となっている信託において、その受託者である子がその信 託の帰属権利者にも指定されている場合である。この場合、受託者である子 は信託事務を行うにあたって、信託財産をできるだけ使わないようにした方 が、信託修了時に帰属権利者として多くの財産を受け取れるという利益相反 の関係になる可能性がある。信託においては、受益者が受託者を監督する役 割を果たすことがあるが、受益者である親が高齢の場合、その監督機能は十 分に果たせないと考えられる。このような場合には、受託者に対する監督機関

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として信託監督人または受益者代理人を指定し、受託者が適切に信託事務を 行うように監督する仕組みが必要になる。  受託者に信託監督人が必要になるとすると、成年後見制度において後見監 督人が必要になるのと状況があまり変わらなくなってしまうと考えられる。受 託者は信託財産の管理処分に関して多くの義務を負う。ただ、受託者の義務 に関する規定には、任意規定であるものが多い(善管注意義務に関する信託 法29条2項、利益相反行為の禁止に関する31条2項1号、競合行為の禁止に関 する32条2項1号)7。このような場合、信託行為に適切な定めを設けて、受託者 の義務の内容を望ましいものにしなければならない。 5.受益者連続信託 (1)受益者連続信託  受益者連続信託とは、受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得す る旨の定めのある信託のことをいう8。このように委託者が無制限に受益者を 指定することを認めると、委託者の権限が大きくなりすぎ、財産の流通が阻害 される。そこで信託法91条は、存続期間の制限を設け「当該信託がされた時 から30年を経過した時以降に現に存する受益者が当該定めにより受益権を 取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益者が消滅する までの間、その効力を有する」と規定した。  この規定の解釈には争いがあるが、信託が設定されて30年を経過したとき 以降に受益者が受益権を取得した場合には、その受益者が死亡するまで信 託の効力は認められると解することが妥当である9 (2)後継ぎ遺贈型信託  後継ぎ遺贈とは、自分が亡くなったら財産をAに、Aが亡くなったらBに、と いうように数次相続による財産承継のことをいう。現行の民法では無効とされ ている。判例は有効性について明確な判断をしていない(最判昭和58年3月18 日判時1075号115頁)10。後継ぎ遺贈型信託とは、信託する財産を有していた

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委託者が当初の受益者となる信託で、その後、委託者が死亡した時に当初の 受益権は消滅し、次の受益者が新たに受益権を取得するという信託で、民法 では無効となる後継ぎ遺贈を信託において実現するものである。受益者連続 信託の一種で、「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」という場合もある。 (3)後継ぎ遺贈型信託の活用例  例えば、財産管理が困難な高齢配偶者と障害を抱えた子がいる3人家族の 場合、高齢配偶者の生活、介護、施設入所等の費用及び障害のある子の生 活、教育、医療等の費用に関して本人亡き後の財産を長期にわたり管理し、 必要な費用を支払うことが求められる。この場合、委託者自身を第1受益者 として、委託者が亡くなった後は高齢配偶者を第2受益者とし、配偶者が亡く なった後は障害のある子を第3受益者とする後継ぎ遺贈型受益者連続信託を 設定する。受託者は信頼できる親戚か専門家に依頼することになる。信託を 設定する際は、委託者が存命中から効力が発生するように、遺言代用信託に よる設定をすることになる。 6.遺言代用信託 (1)遺言代用信託  遺言代用信託とは、委託者の死亡により受益権等を取得する旨の定めのあ る信託をいう。委託者が財産を信託して、委託者生存中は委託者自身を受益 者とし、委託者死亡後は委託者の配偶者や子などを受益者とすることによっ て、自己の死亡後における財産の分配を信託によって実現するものである11  遺言代用信託を規定する信託法の条文の構造は次のとおりである。信託行 為の定めにより受益者となるべき者として指定された者は、信託行為に別段の 定めがなければ、当然に受益権を取得する(信託法88条1項本文)。ただし、 信託法は信託行為の別段の定めを認めている(信託法88条1項但書)。信託 法88条1項本文における「信託行為の定めにより受益者となるべき者として指 定された者」には、信託法89条1項に規定する受益者指定権等の行使により

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受益者又は変更後の受益者として指定された者を含む(信託法88条1項本文 括弧書)。信託法89条は受益者指定権等について定めている。  遺言代用信託のルールは、信託法89条で規定されている受益者指定権等 の行使についての特則という形で定められている。すなわち、①委託者の死 亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定 めのある信託(信託法90条1項1号)、または、②委託者の死亡の時以後に受 益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託(信託法90条1項2 号)における委託者は、受益者を変更する権利を有することが定められてい る。  また、委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の 定めのある信託においては、委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を 有しない(信託法90条2項)ことが定められている。  遺言代用信託において、信託の受益者が現に存在しないかまたは、委託者 の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託 (信託法90条1項2号)により受益者がその権利を有しないときは、受託者の 信託事務執行の監督に関わる権利(信託法145条2項)を委託者が有すること とする。そして、受託者の受益者に対する通知・報告・承認を委託者に求める こととしている(信託法148条)。 (2)遺言代用信託に類似する制度 ① 死因贈与  遺言代用信託は、死因贈与と類似する機能を有することから、死因贈与と 並行して規定の検討が行われてきた12。死因贈与は遺贈に関する規定がその 方式を除いて準用され(民法554条)、贈与者は、いつでも贈与を撤回するこ とができると解されていることから、遺言代用信託においても委託者が死亡 後受益者の変更権を有し、いつでもこれを行使することができるものとしてい る(信託法89条)13 ②撤回可能生前信託14  アメリカでは、委託者の財産管理や遺言の代用として、委託者が信託を撤

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回・変更する権利を留保する撤回可能生前信託が利用される。委託者はいつ でも信託を変更・撤回できること、委託者が死亡した時には配偶者や子を受 益者に指定することができること等、遺言代用信託と機能的に類似する点が ある。 (3)遺言代用信託の活用例  遺言代用信託は、信託受益権の承継先に高齢、障害、判断能力の低下等に より自ら財産管理ができない親族(配偶者や子など)を指定することにより、 その人の生活、介護、療養のための財産管理の仕組みとして、成年後見制度 と併用したり、成年後見制度の代わりに利用することができる。  遺言代用信託は、信託契約締結により効力が発生する。委託者死亡後の 受益権は、信託契約に別段の定めがない限り、委託者が死亡するまでは受益 者としての権利及び義務は一切有しない。委託者の生存中は、委託者自らが 受益者として信託契約の効力を発生させたうえで、委託者が死亡した時に、 指定した者(特定の相続人や第三者)に、信託の受益権を承継させる仕組み である。 7.民事信託の問題点―東京地裁平成30年9月12日判決15を手掛かりに  民事信託を適用すると、民法では対応しきれない点を補うことができる。ま た、遺言と比べるとより自分の意思を強く反映できるものとして注目される。 その反面、制度の特殊性から権利関係が複雑になり、紛争に発展してしまう 可能性が出てくる。ここでは、民事信託で後継ぎ遺贈型の受益者連続信託を 活用した後で紛争に発展した事案を取り上げる。 (1)事実の概要16  A(平成27年2月18日死亡)の長男である原告Xが、次男である被告Yに対 し、Aが亡くなる13日前にした信託契約(以下「本件信託契約」という)が意 思無能力又は公序良俗違反により無効である等の主張に基づき、本件信託 契約に基づいて行われた不動産1~16(以下「本件不動産」という)の所有権

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移転登記及び信託登記の各抹消登記手続等の請求をする事案である。  Aの相続人は、長男X、次女B、次男Yの3名である。  Aは、平成27年2月1日及び同月5日に、本件不動産と本権不動産ではない別 の不動産(売却済み不動産)を有しており、平成27年2月1日に、Bとの間で、A の全財産の3分の2に相当する財産についての死因贈与契約を締結した。  その後、Aは、平成27年2月5日、Yとの間で、Aを委託者、Yを受託者として、 本件信託契約を締結した。  Yは、本件信託契約にのっとって、平成27年3月10日、A所有不動産につい て、同年2月5日に信託を原因とし、受託者をYとする所有権移転登記及び信託 登記を終了した。  その後、Aは死亡し、XはYに対し、平成28年1月23日、本件死因贈与または 本件信託による譲渡について遺留分減殺請求権を行使した。  なお、本件信託契約の内容は、次のとおりである。 ① 委託者 A。委託者の権利は、Aの死亡により消滅する。 ② 受託者 Y。Yが死亡等により受託者の任務を果たすことができない場 合、Yの長男を新受託者とする。 ③ 信託の目的 Aの死亡後も、その財産を受託者が管理・運用することに よって、Yおよびその直系血族がいわゆるA家を継ぎ、お墓・仏壇を守っ ていってほしいとのAの意思を反映した財産管理を継続すること(なお、 信託契約書に、Aは祭祀を承継するYにおいて、その子孫を中心として管 理、運用することにより、末永くA家が繁栄していくことを望む旨が記載 されている)。 ④ 信託財産 A所有不動産及び300万円(本件信託金銭)。 ⑤ 受託者の権限 受託者は、本件信託金銭を用い、信託不動産に関する 公租公課・修繕費その他信託不動産の維持管理に必要な一切の費用の 支払いのために使い、本件信託金銭を、受益者の身上監護のために使う ことができる。 ⑥ 受益者 当初受益者をA、A死亡後の受益者については、第一順位の受

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益者をX(受益権割合6分の1)、B(受益権割合6分の1)、Y(受益権割 合6分の4)、第2順位の受益者をYの子ら(受益割合は均等)とする。 ⑦ 受益者連続 受益権を有する者が死亡した場合には、その者の有する 受益権は消滅し、次順位の者が新たな受益権を取得する。 ⑧ 受益者の意思決定 信託法105条の規定にかかわらずBが行う。 ⑨ 受益者の権利 信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産より発生 する経済的利益を受けることができる。 ⑩ 受益権の取得請求 受益者が複数となった場合は、受益者の1人は他の 受益者に対して受益権持分の取得を請求できる(取得する受益権の価 格は、最新の固定資産税評価額をもって計算した額とする)。 (2)判旨  本判決の争点の中で、信託に関する主な点を取り上げる。  ①本件信託時点及び本件死因贈与におけるAの意思能力の有無について、 Aが意思能力を欠く常況にあったとは認められないとした。理由は、遺言につ いて信託銀行の担当者の説明を聞くなど自発的な検討を行い、意識障害など の事情も見当たらないと判断したからである。  ②本件信託は公序良俗に反して無効か、に対しては、対象不動産を信託財 産とした部分は無効とした。理由は、経済的利益の分配が想定されない対象 不動産を信託財産とした部分は、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利 用したものであって公序良俗に反すると判断したからである。  ③本件信託が有効である場合の遺留分減殺の対象は信託財産か受益権 かについては、受益権が対象と判断した。理由は、信託契約による信託財産 の移転は形式的な所有権移転に過ぎないからとしている。 (3)若干の考察  本件は、遺言代用信託(信託法90条)、受益者連続型(信託法91条)併用 の生前信託の事案において、信託と遺留分に関して重要な論点が争われた裁 判例である。  信託と遺留分の関係に関しては、信託法の審議過程において、遺言信託や

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受益者連続型信託(信託法91条)に対して遺留分減殺請求の対象となる可能 性があることが確認された。その際、遺留分制度は、相続法の公序であり、そ れを回避できないことが確認されていた17。また、遺言代用信託に関しては、 委託者が設定した遺言代用信託において、委託者の相続が発生した場合、 遺言代用信託の受益者又は受託者と遺留分権利者との間で遺留分侵害の問 題が生じる可能性がある。遺言代用信託は死因贈与と類似の機能を有するた め、死因贈与と同様に民法の遺留分制度に従うとされる18。ただ、遺留分減殺 請求の対象が何か、遺留分侵害の算出方法などの具体的な内容は解釈に委 ねられていた。 ① 信託に対する遺留分減殺請求権の行使  遺言代用信託や受益者連続型信託のような生前信託に対する遺留分減殺 請求権の行使に対しては、何が遺留分減殺請求権の対象となるかについて、 学説は次のように分かれている19。まず、信託による委託者から受託者への 財産移転(信託財産説)とすると、減殺の対象となる侵害行為の意思表示の 相手方は受託者となり、遺留分額・遺留分侵害額等の算定においては、当初 の信託財産の額が計算の基礎となる。信託による受益者への受益権の付与 (受益権説)とすると、減殺の対象となる侵害行為の意思表示の相手方は受 益者となり、遺留分額・遺留分侵害額等の算定においては、受益権額が計算 の基礎となる。  本判決では、生前信託における遺留分侵害行為及び減殺請求の対象の問 題に対して、受託者への財産移転は信託目的達成のための形式的な移転にす ぎず、実質的に権利として移転されるのは受益権であることを理由として、信 託による「贈与」(民法1031条)とされるのは、受託者への信託財産の移転で はなく、受益者への受益権の付与であるととらえる受益権説に立つことを明ら かにした。 ② 減殺の順序について  本判決では、減殺の順序に関し、本件生前信託を死因贈与と類似するもの ととらえるという見解を打ち出した。本件は、遺言代用信託(信託法90条)、

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